神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~

夜月紅輝

文字の大きさ
上 下
62 / 303
第11章 道化師は狩る

第242話 告げた想い

しおりを挟む
「何の用だ? もう俺はお前には用はないんだが」

「そうは言っても、私には用があるのよ。わからないとは言わせないわよ」

 翌日、再びクラウンを呼び出すとエキドナと二人だけの対談が始まった。互いに向き合ってソファに座り、その周りには誰一人としていない。

 この状況はエキドナ自身が望んで作り出した状況であり、その他の者は一時外へで時間を潰してもらっている。

 この状況になることをクラウンはなんとなく予感していた。しかし、想定よりもかなり早いことであったので、シルヴィーに呼び出された当初は驚きが隠せないでいた。

 そして、一発目からこんな口調なのは言った手前、引くに引けない態度になっているからである。加えて、クラウン自身もエキドナの来る来ないに関しては考えがブレブレであったりする。

 つまり、ここでのエキドナの返答次第で今後の動き方を少し考えなさなければいけない。その返答がどうであれそうと決まればそう動くつもりだ。

「そうだな。俺がお前に告げたことだろうな。しかし、俺の考えは変わらないぞ」

「私も考えを変えるつもりはないわ」

「それはついていくという意味でか?」

「ええ、そうなるわね。そもそもそれに対する返答って随分と前に何度かしたような気がしているような気がしているけど?」

「あの時はあの時だ。時間が経てば人の考えなど幾重にも変わる。まさしく俺がいい例だと思うがな」

「そうね。前に似たようなことを言った時には許可してくれたけど、今はこうなっているものね。それについて理由をずっと考えていたけど、私は随分と近場のものを見落としてみたいね。灯台下暗しって言うのかしら」

「何が言いたい?」

 クラウンはエキドナの含みのある言い方に率直に尋ねていく。すると、エキドナはいつものような似たような笑みで答えていく。

「簡単よ。ここまで来て私を切り離そうだなんてこと前の旦那様なら絶対に言わなかったわ。ずっと必要としてくれていたから。そして、それは今も変わらない。そうよね?」

「.......」

「私には確かに守るべきものが多い。でもね、昨日シルヴィーと話してみて実感したのよ。私の見えないところでも私が望む通りにしっかりと成長してくれていると。それも私の手が要らないぐらい」

「なら、そいつらを見捨てるのか?」

「それは言い方が酷いわよ。それにそう言えば私が引き下がると思ったら大間違いよ。竜人族の女は強い男には執着するものだからね」

 エキドナは鋭い目つきでクラウンを見る。その目はまるで獲物を狙っている捕食者ハンターのように感じた。そのことにクラウンは内心笑った。

「あの子たちは現在私の手を必要としていない。ならば、今私の手を必要としている人のために手を貸そうと思ったの。道理と思わない?」

「それはあくまで俺の意見を無視しての話だろ。俺は必要としていない」

「残念ながらそうするとあなたの道はその先から進まなくなるわよ」

「何?」

 エキドナは机に置いてある紅茶を少しだけ飲むとすぐにクラウンに告げた。

「シルヴィーから聞いた話なんだけど、旦那様が向おうとしているあの空に浮かぶ島の周辺には結界が張られているらしいのよ。それも大規模な」

「お前が知らないってことはお前がこの国を出ていった後の話か。それでその結界はどういったやつなんだ?」

「竜の竜による竜に対しての結界――――――判別式竜用結界ドラグネクレシアと竜王様は呼んでいたらしいわ。要するにあの島までは竜しか行けないということよ」

「なんだと.......」

「けど、絶対に他の種族が入れないわけではない。私達が通常の人型状態で入ろうとしても防がれ、竜の姿になれば入れる。ならば、背中に人を乗せた場合はどうなるのかと考えたのよ。恐らく他の種族の力も借りることを考えたのでしょうね。そして、結果から言えば入れたわ」

 エキドナの説明を聞くとクラウンは思わず背もたれに寄り掛かりため息を吐いた。

「なんとなく言いたいことがわかった。つまり、その意味でお前は自分の存在が必要だと言っているのだな?」

「何言ってるの? そんなのあくまでサブの話題よ。そんな姑息な手なんか使わないわよ」

「何?」

 クラウンはその言葉に思わず前のめりの姿勢に変えていく。てっきり自分の必要性の話題を提示するための話かと思っていればそうではないという。なら、エキドナの本題は一体なんなのか。

 すると、エキドナはクラウンの疑問に対して話始める。

「やはりこういう話になってしまうのね.......前々から言っているけど、私は旦那様を支える一人でありたいの。現在もこうして迷惑をかけているのも百も承知で心の底から旦那様に寄り添いたいと思っているの」

「.......」

「私は恵まれているわ。シルヴィーやエギル、竜王様、妃様や国の人々が私を助けてくれる。でも、本当に助けを必要としている人は私じゃない。私の目の前にいる人。どこまでも強くなろうと足掻いて、どこまでも目的のために考えて、どこまでも仲間思いで、どこまでもどこまでも私の愛おしい人なの」

「まただな。また買いかぶっている」

「私だけが買いかぶるなら良いじゃない。それだけ過大評価しても手を伸ばして手に入れたいものってことなんだから.......私は自分が後悔しない道を選びたい。この国のことは竜王様に任せて、エギルのことはシルヴィーに任せたわ。それだけ私が背負ってきたものを一時的に捨ててまでの選んだ道なの。覚悟を決めた道なの。そう簡単に引き下がれると思わないで」

「つまり俺がどれだけ言おうと勝手についてくるということか?」

「極論はそうなるわね。こんな優良物件を逃す手はないじゃない。本当の私って涙もろくて執着深いのかもしれないわね」

「はあ、これ以上は疲れるだけだな。お前に魅入られた時点で俺は詰んでいたということか」

「理解が早くて助かるわ」

 エキドナは嬉しそうにニコッと笑みを浮かべると紅茶を一口飲んでいく。その光景を見ながら疲れたように背もたれに寄り掛かるクラウンであったが、その表情は柔らかった。

 正直、エキドナがこういう姿勢で言い負かしてくれたことにはありがたいと思っている。いわゆる引くに引けなくなった自分に引き際を作ってくれたのだ。

 当然本人が気づいていることではないが、それでもクラウンはエキドナがそう言う姿勢でいてくれたことには少なからずの感謝の気持ちはあった。

 それからしばらく、エキドナと他愛もない会話をしているとリリス達が帰って来る。リリス達は二人の様子を見るとすぐに口角を上げていく。

 ベルとロキはまさしくペットのようにクラウンを押し倒しながらくっついていき、シルヴィーはエキドナの隣に座るとエギルをエキドナの膝上に乗せて「良かったなの」と嬉しそうに告げていく。

 エキドナは瞳を軽く潤ませながらエギルとシルヴィーの頭をそっと優しく撫でていく。その撫でに二人とも気持ちよさそうに目を細める。

 そして、リリス達が買ってきた食材で昼食を済ませると巨大なクッションと化したロキに寄り掛かって寝るエギルの傍らで大人の作戦会議が始まった。

 そこでクラウンは改めてエキドナに空に浮かぶ島までの行き方について話させた。これで情報が全員に行き渡ると話し合いは始まる。

「ということは、私達が行くためには少なからず竜人族であるエキドナの力は必須であるということね。でも、それだけなら別にエキドナさえいてくれれば問題ないんじゃない?」

「実は問題があるなの。竜になると一度にたくさんの人を乗せられたりしてるけど、あの結界だと二人までが限度らしいなの」

「それは前に先行隊がその島に向かって行ったということです?」

「うん。けど、三十名近くいた先行隊で戻ってきたのは数名で、その数名も毒でやられてしまったなの」

「毒?」

 クラウンはその言葉にエキドナを見る。すると、エキドナも同じことを考えていたのか一回深く頷くとシルヴィーに聞いた。

「ねえ、その毒ってまさか―――――――」

「うん、私達を襲った黒竜の毒なの。あの島にある神殿は黒竜の巣穴みたいなの」

「―――――――!」

「エキドナ、抑えろ」

 シルヴィーの言葉にエキドナは思わず殺意の念をまき散らそうとした。なぜなら、その黒竜こそがエキドナから大切な夫を奪い、息子のエギルまでも奪おうとした張本竜であるから。

 しかし、クラウンはすぐに言葉をかけてエキドナを冷静にさせる。そして、チラッとエギルの方を見た。なんとか起こさずに済んだようだ。

「エキドナ、怒る気持ちはわかる。だが、抑えろ。お前がここで怒ったところで事態は解決しないし、息子に怒りっぽい母親って印象付けるのも悪いだろ?」

「.......そうね。確かに、今のは思わず冷静さをかいてしまったわ。でもまさか、どこかへ消えたと思っていた黒竜がすぐ近くにいたなんて.......よく襲われなかったものだわ」

「ほんとなの。そして、それは恐らくあの黒竜を操っていた人物がいないからなの。先行隊からもそのような会話をしていないし」

「あの男が.......」

 エキドナはふと過去の記憶を思い出した。黒竜に乗った黒い法衣を着た男。それはこれまでにあったラズリやレグリアと一緒でその人物達をクラウンはこう言っていた。

『神の使徒』

 エキドナのふと出た言葉が水面に波紋が出来たかのように静かに周囲に広がっていく。それだけ一瞬この場がとてつもなく冷たくなった。

 そして、エキドナは思わずほくそ笑む。それは自分にもリリスやベルと全く変わらない別の目的があったとわかったから。

「ねえ、旦那様。私、今ここで諦めていた最大の目的を告げてもいいかしら?」

「それはお前の過去に関する内容のことか?」

「ええ、その通りよ。ずっと息子や国の皆を助けるために奔走していたけど、ずっと燻ぶっていた目的はしっかりとあったみたいなの」

「話してみろ。今なら、誰もお前の意見を止めないぞ」

 「わかったわ」と言うとエキドナは鋭い目つきで全員に向かって告げた。

「私、黒竜を殺して、あの男も殺したい」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的
ファンタジー
魔法仕掛けの古い豪邸に残された6歳の少女「ノア」 そこに次々と召喚される男の人、女の人。ところが、誰もかれもがノアをそっちのけで言い争うばかり。 もしかしたら怒られるかもと、絶望するノア。 でも、最後に喚ばれた人は、他の人たちとはちょっぴり違う人でした。 魔法も知らず、力もちでもない、シャチクとかいう人。 その人は、言い争いをたったの一言で鎮めたり、いじわるな領主から沢山のお土産をもらってきたりと大活躍。 どうしてそうなるのかノアには不思議でたまりません。 でも、それは、次々起こる不思議で幸せな出来事の始まりに過ぎなかったのでした。 ※ プロローグの女の子が幸せになる話です ※ 『小説家になろう』様にも「召還社畜と魔法の豪邸 ~召喚されたおかげでデスマーチから逃れたので家主の少女とのんびり暮らす予定です~」というタイトルで投稿しています。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...