神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~

夜月紅輝

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第10章 決戦

第229話 信じる勇気#2

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 現在場所は荒れに荒れた戦場の中。不自然なほど目立つ結界の中央には魔王とリリスがその身を重ねるようにして固まって動かない。

 そして、その周りでは再び戦闘が続行されていた。時間が動き出したかのように連合軍の兵士と魔族兵が武器を交わらせていく。

 また、そんな中で一際激しい戦闘を行っているところがあった。その人物は周囲を囲む敵に光の斬撃を放っていく。その攻撃を周囲の敵は各々に避けていく。

「そこをどけ。僕には魔王.......仁を殺すという使命がある。これ以上邪魔をするようなら、もう容赦はしないぞ」

「大切な友なんだろ? その友を切り捨ててまでやらなければいけない使命なんてないと思うけどな」

「それはお前が僕の立場になったことがないからさ。そんな気持ちは持ってても意味がないんだ。だから、もうこうするしかないんだ」

「だけどまあ、どのみちさせるわけにはいかないかしら」

「ここで食い止めるです」

「ウォン!」

「マスターを守るのは守護者の務めです」

 響は立ちはだかるカムイ、エキドナ、ベル、ロキ、リルリアーゼに対して思わず歯噛みする。これでも良心を無くしたわけじゃない。仁が繋げた絆を持った仲間がいるなら命は助けるつもりでいた。

 しかし、こうまでして立ちはだかるならもうこちらとしてももう容赦はしない。もうこれ以上、自分の記憶の中にある仁を消されるわけにはいかない。

 するとその時、二人の人物が駆け寄る。その人物は響も良く知る雪姫と朱里だ。その二人は深刻な表情で響に告げる。

「響君、もうこれ以上戦う必要はないんだよ!」

「今、リリスが海堂君奪還のために頑張ってくれている。もう少し、もう少しなんだよ! だから、待って! 私達を信じて!」

「待ちたいさ。仁が救えるのなら、もう一度謝って仲直りできる機会があるならそうしたいさ。でも.......もう無理なんだ。比べる対象があまりにもバカげてる。だから、僕は出来る限り多くの人を救える方を選んだんだ。だって、僕は――――――勇者だから。巻き込まれたくなかったら離れていることだ」

 響の顔は今にも泣きそうな感じであった。その表情にカムイ達も雪姫、朱里も思わず困惑する。殺す理由があることは予想していたが、その理由が響をあんな表情にさせるものだったとは。

 響がここで明確な理由を告げなかったのは、恐らく雪姫や朱里に真実を教えたくなかったからだろう。それを伝えるぐらいなら、自分で抱え込んだ方がいい。いずれ伝えなければいけないとしても、それは後でいい。

 だから、響はカムイ達に刃を向ける。ここで躊躇なんてしてしまったら、両方とも失ってしまう可能性があるから。

「考えは変わらないんだな」

「ああ、変える気はない」

 響は涙を拭うと聖剣を下段に構えた。そして、その状態から一気に下から上へ袈裟切りしていく。すると、その軌道に合わせた巨大な斬撃が放たれる。

 地面を抉り進むそれを全員がバラバラに避けると響はまずカムイへと接近した。その速さはカムイが瞬きをしなくても、気づけば目の前に現れている速さであった。

 カムイは咄嗟に右手の「炎滅」を振り下ろそうとするが、それよりも先に響の剣が迫ってくる。その攻撃を左手の「氷絶」も使ってガードしていくが、空中という足場のないところでの防御はもやは意味を成していなかった。

 振り下ろされたまま勢いでカムイは地面へと叩きつけられ、盛大な砂煙を舞い上がらせる。するとその時、響のもとへと急速に巨大物体が迫ってきた。

 響がその気配の方へと視線を向けると向かってきたのは巨大な拳。しかし、響は冷静な態度で少し鋭い目つきをすると左手を突き出した。

 ――――――――ドンッ!!!

 竜化したエキドナの拳が響を襲う。しかし、その拳は響の左手一本で受け止められた。だがそこで、エキドナの―――――――否、エキドナの攻撃は終わらなかった。

 それはエキドナの突き出した腕を伝って走ってくるベルを乗せたロキの姿。響はエキドナの拳を振り払うとそのロキに向かって<浄白の羽>で純白の羽を飛ばしていく。

 ロキはそれを空中を巧みに蹴りながら避けていき、ロキから離れたベルの服を咥えると縦回転する勢いで響へと投げていく。

 ベルは幾重もの向かい来る羽を空中を蹴りながら、獣人の感覚神経で紙一重で避けていく。そして、袖を軽く振って取り出した短剣を逆手に持ち、右腕を振り下ろす。

 響はその向かってきた右手首を掴むとベルは逆の左手を振り下ろす。だが、それは響が逆手に持ち変えた聖剣で防がれた。

 ベルは咄嗟に離れようと何もない空を蹴ろうとするが、それよりも先に響の左手がベルの丁度胸の中央を捉え、押し込むように弾き飛ばす。

「おらあああああ!」

「......!」

 その時、響の下方から雄叫びと共にカムイが飛んできた。そのカムイは右手の刀を炎で纏わせ、左手の刀には白く見える冷気を纏わせた。

 そして、その刀をクロスさせたまま高速で向かって来る。そのさらに下にはエキドナの姿が。恐らくは竜の力を使って投げ飛ばしたのだろう。

 響はそれが直線移動しか出来ないのがわかるとすぐに移動してやり過ごす。これで終わり――――――と思っていると真上から似た気配が再び急速に迫っていく。

 響は咄嗟に顔を見上げた。すると、同じような体を一直線上にしたカムイの姿が。さらに、その上空には半透明な壁がある。

 響はその壁にどことなく見覚えがあった。そして、「まさか!?」と思わず声に出しながら地面を見ると杖を掲げた雪姫の姿が。どうやら雪姫の<反射板>の仕業らしい。そのことに響は思わず歯噛みする。

 そして、響が再び上を向けた時には避けられない距離までカムイが迫っていた。

「うおおおおおおお!」

「くっ!」

 カムイはクロスさせた刀を咄嗟に縦向きに直すと響に向かって両腕を振り下ろす。その攻撃を響は聖剣を横に向けてガードする。

 響は地面に作り出した魔法陣で何とか踏ん張ろうとするが、竜人族の力と攻撃力を倍にする<反射板>の力に徐々に押し負けていく。

 響の足元の魔法陣にヒビが入る。さらに問題はそれだけじゃない。カムイが使っている刀から炎と冷気が襲ってくるのだ。

 響の左腕は炎によって燃え始め、右腕は凍り付き始める。そのことに響は思わず歯噛みする。

「ああああああああ!」

 しかし、響は背中にある羽を羽ばたかせるとカムイの勢いに対して押し返していく。そして、それをなんども繰り返し、やがて吹き飛ばした。

 その光景を見ながら響は思わず疲れた息を吐く。だがその時、響はまだ気づいてなかった。今にも狙撃をしようとする人物のことを。

「狙撃ポイントX-217、Y-186、Z-133。ターゲットとの誤差0.021。基準値クリア。その他障害物なし。高出力エネルギー砲チャージ――――――――発射」

「―――――――!」

 リルリアーゼは体の上半身全部を使って一つの大砲の筒を作り上げるとその中央に空気中にあるエネルギーを収束、凝縮し始めた。

 大砲に集まりだした肉眼でも見えるほどのエネルギーは収束と共に一つの球体を作り出し、その球体の体積を大きく増やしていく。

 そして、響との距離を確認しながら手順を済ませると紫電を走らせる高エネルギー砲を放った。

 ゴオオオオオオオオと大気を震わせるような音ともに響へと真っ直ぐ向かっていく。それに気づいた響であったが、逃げようとした時には周囲を白い光に包み込まれていた。

――――――ドゴオオオオオォォォォンッ!

 高エネルギー砲が直撃した瞬間、衝撃音と共に黒い煙が発生した。その煙は衝撃波で周囲を隠していくように広がっていく。

 その光景を見た雪姫と朱里は思わず絶句。そして、すぐにリルリアーゼへと駆け寄っていく。

「リルちゃん! あれはさすがにやりすぎだよ!」

「光坂君が!.......どうして.......」

「あれぐらいやらないとダメージが入らないと推測したのです。ですが――――――その情報はどうやら私の演算能力では導き出せなかったようですが」

「「え?」」

 そう言うリルリアーゼは体をもとの姿に戻すと未だ煙に覆われている空中を眺めた。雪姫と朱里は同じようにその空中を眺める。その時、突然煙は強い風で振り払われた。

 黒い煙が円形状に広がり続ける中、その中心には翼を大きく広げた響の姿があった。恐らく翼で身を隠してガードしたのだろう。

 そして、驚くべきはその翼。純白の翼にはどこも焼き焦げ付いた場所なく、どこまでも美しく輝いていた。空中にある紅い月をバックに翼を広げた姿はまさに天使とも言えた。

 すると、雪姫達の近くに竜化中のエキドナ、カムイとベルを乗せたロキが向かってきた。そして、カムイとエキドナは同じく上空の響を見ながら呟く。

「あれは.......反則じゃないかしら?」

「勝てるビジョンが思いつかないです」

「加えて、俺がダメージを与えたと思っていた両腕もキレイさっぱりだ」

 カムイが言ったのは響の両腕。通常、カムイの刀でしか消せることのできない炎と氷はその一切の姿を消していた。つまり、本来なら消せないものを消せるという超常の力を持っているということ。

 すると、響は雪姫達に向かってゆっくりと向かって来る。その行動に咄嗟に警戒する彼女らであったが、響は攻撃意志を見せずに少し離れたところで地面に降り立った。

「これでわかっただろ? 僕と君達の力の差を。だから、出来ればやめて欲しい。先ほどは上手く状況を整理出来ずにいろいろやってたから、あんな言い方や行動をしてしまったけど、出来ればもう戦いたくはない」

「それはなぜかしら?」

「それは――――――」

 響はそこまで言って言葉を告げるのを止めようとした。しかし、その止めることを止めた。そして、告げる。

「それは君達が仁にとって大切な仲間だからさ。僕はもう仁を助けることは出来ない。だからせめて、仁が作ったものぐらいは残したいと思っただけさ」

 響はうつむきがちに言った。その言葉の意味を噛みしめるように拳を作った左手と柄を握っている右手を強く握る。

 その姿は雪姫達から酷く悲しく映った。「やりたくてやっているわけじゃない」という意思がひしひしと伝わってきた。

「なあ、君たちは一体何を信じてるんだ?」

 響は唐突に雪姫達に聞いた。その言葉に一同は思惑困惑する。すると、響は続ける。

「僕はもう.......何を信じて、何を疑えばいいのかわからなくなってきた。何のために覚悟って守りをもち、何のために良心を捨てて殺すのかを。やるべきことはわかっている。でも、なぜか.......なぜか頭の中がずっとぐちゃぐちゃなんだ。ブレるんだ。定まらないんだ。なあ、君たちはなぜ信じれるんだ」

 切実にも聞こえるようなこの場所に不釣り合いで希薄な言葉。その言葉を聞いて答えたのはカムイであった。

「とりあえず、今信じてるのはリリスだろうな。あいつはきっとやってくれる。なんせクラウンを良く知っていて。ずっとそばにいた奴だからな。そんでなぜだっけ? そんなの決まってるだろ――――――仲間だからだ」

「.......! そうか、そんな簡単で良かったんだな」

 そう納得するような姿を見せると響は剣を構える。

「僕の仲間は今人質に取られている。その解放条件が魔王を殺すことなんだ」

「「「「「!!!」」」」」

 響の突然の言葉に雪姫と朱里は思わず言葉を失った。そして同時に納得した。響がどうしてあれほどまでに魔王クラウンを殺すことにこだわったのかを。

「いい言葉を聞けた。至極単純な言葉だけど。きっとそれだけで足り得たことなんだな。他にも信じる理由はもっと単純で良かった。でも、僕の周りには酷いことが起き過ぎた。それこそ、現実を。だから、せめて――――――僕が信じる現実になるように努めるだけだ」

 その言葉は要するに「引かない」ということ。どうあがいても、リリスが本物のクラウンを奪還するまで戦いが続くという意味を暗喩していた。

 そのことに歯噛みする雪姫、朱里以外の一同。そして、強く願った――――――「リリス、急いでくれ」と。
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