76 / 303
第10章 決戦
第228話 信じる勇気#1
しおりを挟む
「待ちわびたぞ、リリス。随分と遅かったみてぇだな」
「気安く私の名前を呼ばないでくれる? 確かにクラウンと呼んだけれど決してあんたのことじゃないわ。私はパートナーはもっと返事は寡黙よ」
「ははは、そりゃあ手厳しいことだな。だが、お前がオレに勝てると思うなよ?」
「言ってくれるじゃない。なら、とっとと始めようかしら」
リリスはクラウンとの舌戦を終えると一気に古代サキュバスへと変身した。その瞬間、リリスの体に合った黒いシミは消えてもとの美しい肌に変わっていく。そして、一気に羽ばたきながらクラウンに突撃していく。
すると、クラウンは右手を広げるとその手の黒い刀を作り出した。それから、迎え撃つかのように走り出す。
二人が移動し始めて一秒も経たないうちに衝突音が空間に響き渡っていく。リリスの蹴りとクラウンの刀が打ち合った音だ。
衝撃音とともに発生した風は仁の居る鉄格子を勢いよく通り抜けていくが、仁はうつむいたまま戦いの光景に見向きもしていない。
リリスはそのことを気にかけながらも、一先ず目の前にいる敵に意識を集中した。さすがに最初から舐めてかかれる相手ではない。
リリスとクラウンは一度離れると再び脚甲と刀をぶつけ合う。その互いの力は拮抗しているかのように見えた。だが、次第にクラウンの刀が押されていく。
「オレが力負けだと.......!?」
「知ってるかしら? 腕の力よりも脚の力の方が何倍も強いのよ」
リリスはそのままクラウンの刀を弾くとすぐに引き戻し、蹴りつける。クラウンはそれを軌道を予測して避け斬りつけるが、その前にリリスの次の蹴りが迫っていた。
一撃、三撃、五撃とリリスが一秒間に蹴り上げる回数が増えていった。そして、最終的にシュシュシュシュッと風を斬る音とともに幾重もの蹴りの残像が見えるほどになっていた。
クラウンはその攻撃に防ぐの精一杯。そのことにイラ立ちが隠せないようであった。しかし、すぐに表情をニヤッとさせる。
それはリリスの攻撃が数秒過ぎたあたりに起きた。段々とリリスの蹴りの勢いが減って来たのだ。今のリリスはまだスタミナが尽きたとは程遠い表情をしている。ということは、何か別の要因で起きたということ。
リリスは一度止めようと最後の一撃を強めに蹴り、クラウンに距離を取らせた。そしてその間に、リリスは自分の脚に起きた違和感を確かめる。すると、そこには蹴り上げていた右脚にくるぶしから膝にかけて白い糸がいくつも絡まるように巻き付き、地面に固定されていた。
「てめぇも良く知るパートナーの魔法だ。むやみに蹴ってくれて実に助かったぜ!」
クラウンはリリスがその場から動けないこと内に一気に突撃した。刀を構える姿勢は刺突の構え。それをさらに上段まで上げる。
向かって来るクラウンに対し、リリスは存外冷静な顔をしていた。まるでそれぐらいの殺気なら慣れてしまっているみたいに。
リリスは右脚が地面に平行に固定されていることを確認するとクラウンの刺突に合わせて、右脚を軸に体を捻りながら回し蹴りした。
しかし、クラウンもその行動は予測済み。リリスの蹴りを紙一重避けながら、無防備な側面から刀を一気に突き出す。
そんな危機的状態でもリリスはまだ冷静だった。それどころか笑みさえ浮かべていた。ようやくクラウンを自分の力で救えることに喜んでいるみたいに。
リリスは避けられた脚をそのまま体ごと捻っていく。そして、固定された右脚には炎を纏わせて糸を焼き千切り、体の回転の勢いで蹴り上げた左脚で刀を弾いた。
さらにそれによって無謀になったクラウンに横向きの超重力を当てて吹き飛ばしていく。その光景を見ながら上手く着地すると背後にいる仁へと振り向かず声をかける。
「ねぇ、クラウン。私、強くなったでしょ?」
「.......」
「でもね、この力は私一人で引き出したものじゃないの。仲間達にも引き出してもらったのも当然そうなんだけど、それ以上にこれはあんたがくれた力なのよ?」
仁は思わずその言葉にピクッと反応する。依然として俯いた顔であるが、ようやくここに来たリリスへの初めての言葉を告げた。
「僕は.......君に何か与えられるほど強くない」
「そんなことないわ。現にこうして私が―――――――」
「僕はずっと恐れていただけだ!」
仁は弱弱しさをさらけ出すように大声を張った。その言葉をリリスは黙って聞き入れる。その二人に次の言葉が紡がれることはなかった。なぜなら、その前にクラウンが復活したからだ。
「あーあー、そういやすっかり忘れてたな。この空間での力の使い方を」
クラウンは首をゴキゴキと鳴らしていくと平然と立ち上がった。そして、憎たらしい笑みを浮かべながらリリスへと告げていく。
「ここはオレの空間だった。なら、はなから力負けなんてするはずねぇじゃねぇか。それをオレよりもお前が先に気付いていたなんてなー。まあ、その姿の時点で答えを告げているか」
「―――――――!」
リリスはその言葉に思わず歯噛みした。最初こそ気づかれていないことが好都合だったのにこんなにも早く気づかれてしまうとは。
だが、もはや気づくのは時間の問題だった。遅かれ早かれ気づいていたのは確かだ。ただその時間が早すぎたのは痛いが。
そうなるともうここからは自分のイメージの補填勝負となる。とにかく、明確な勝つビジョンを考えないと―――――――
「リリス、もういい。もうここから逃げろ。リリスじゃ勝てない」
「!」
仁の口から吐き出された言葉にリリスは思わず後ろを振り向く。そして、背後の鉄格子にいる仁の顔は―――――泣いていた。
まるでこれから起きうる結末を知っているかのように。あんなに弱気な仁はリリスにとって初めてだった.......いや、それすらも目を背けていたことなのかもしれない。
リリスはそっと目を瞑ると良い笑顔で告げた。
「いーや」
「――――――え?」
リリスの言葉に思わず仁は呆けた表情をしてしまう。そんな仁の表情を「いいもん見た」とでもいうかのような口元を緩めた表情でリリスはクラウンへと構えた。
「さあ、かかってきなさい!」
「減らず口を!」
「リリス!」
仁の言葉も虚しく鉄格子の外では二人の戦いが始まってしまった―――――――否、一方的な攻撃が始まってしまった。
クラウンが消えると本来なら動いているはずのリリスは全く動きを見せなかった。それはクラウンが背後に回った時も。
がら空きの背後をリリスは思いっきり蹴り飛ばされるとそれよりも早くクラウンが先回りする。そして、頭上に掲げた刀を思いっきり振り下ろす。
ドゴオオオオオンッ!という強烈な爆発音とともに精神空間でありながら、砂煙のようなものが立ち込める。
その砂煙からリリスが後方に下がりながら飛び出てくる。そのことに仁は思わず安堵の息を吐くが、すぐに気づいた。傷つけることも禁忌とされるような顔に血が流れていることに。
どうやら額を切ってしまったようだ。その血がリリスの顔を血濡れに染めていく。それを見た瞬間、仁の心は激しく締め付けられた。それでも体は動こうとしない。
するとその時、リリスは立ち上がりながら仁に告げる。
「ねぇ、クラウン。どうせ道化ならさ。もっと私を笑わせてよ。もっと仲間を笑わせてよ」
「ははは、笑って殺してやるよ!」
「あんたじゃないっつーの」
リリスは正面から向かって来る気配に目を凝らし、自身の羽を微振動させた。そして、クラウンが自身の側面に現れた時、その場から咄嗟に距離を取る。しかし、まだ動き出しが遅いようで振り降ろされた刀で腕をかすってしまったが。
それでもクラウンを一時的に動揺させることが出来た。このわずかな時間が仁の心の変化に必要だとリリスは信じている。
「不器用でもいい。不格好でもいい。そんな不慣れな仁を笑っちゃうかもしれないけどさ。それが道化師じゃない?」
クラウンは再び高速で動くとリリスを中心軸に<流爪>を放っていく。四方八方から五本の尾を引く鋭い斬撃が飛び交う。
「おらよおおおおおおお!」
「くっ!」
リリスは咄嗟に上空へと羽ばたいていく。するとその時、真上からクラウンが刀を振り下ろしながら落下してきた。
リリスは咄嗟に避けるが右の羽がクラウンによって切断されてた。そして、落下していくクラウンはリリスの背中に糸を張りつけると力任せに振り回し地面に叩きつける。その瞬間、盛大な衝撃音が周囲を駆け巡り、砂煙がリリスを隠した。
そんな砂煙の中、リリスは地面に手をつきながら立ち上がろうとし、同時に変わらずに仁を鼓舞する言葉を送っていく。
「クラウン.......あんたは強いわ。私が知っている中で誰よりも強い。私が強いのはね.......あんたが強くいてくれるからよ。私はあんたの隣で並びたい。歩きたい。だから、強くなれるのよ。いつまでも、どこまでも」
「戯言だなぁ」
刀を担ぎながらクラウンが着地した。そして、リリスの言葉を吐きながら嘲笑い毒を吐く。そんなクラウンに構うことなくリリスは言葉を続ける。
「クラウン、今のあんたの姿.......とっても好きよ。いくらでも頑張れる。いくらでも期待できる。もし.......もし、今のあんたがその姿で弱いと思っているなら大間違いよ」
リリスは四つん這いまで何とか起き上がる。美しかった肌には切り傷、擦り傷が見え、唇を切ったのか血が流れている。そして、その血は止まることなく地面に滴る。
「今のあんたは姿が前に戻ってもあんたのままよ。私が知っている強いクラウンのまま。このニセモノも言ってたじゃない――――――『オレの空間』だって」
「黙ってろ、クソ女」
「うぐっ!」
リリスはクラウンに横っ腹を蹴られ、大きく吹き飛び地面を転がっていく。それでも、リリスはめげずに地面に手をつけ立ち上がろうとする。
手をつけ体を起こし、膝を立て四つん這いになる。そして、気合で立ち膝になると足を立てて立ち上がる。
そして、リリスは右手で左腕を押さえながらも、まるで心配をかけさせないような笑顔で鉄格子の中にいる仁へと告げた。
「クラウン――――――信じてるわ」
「気安く私の名前を呼ばないでくれる? 確かにクラウンと呼んだけれど決してあんたのことじゃないわ。私はパートナーはもっと返事は寡黙よ」
「ははは、そりゃあ手厳しいことだな。だが、お前がオレに勝てると思うなよ?」
「言ってくれるじゃない。なら、とっとと始めようかしら」
リリスはクラウンとの舌戦を終えると一気に古代サキュバスへと変身した。その瞬間、リリスの体に合った黒いシミは消えてもとの美しい肌に変わっていく。そして、一気に羽ばたきながらクラウンに突撃していく。
すると、クラウンは右手を広げるとその手の黒い刀を作り出した。それから、迎え撃つかのように走り出す。
二人が移動し始めて一秒も経たないうちに衝突音が空間に響き渡っていく。リリスの蹴りとクラウンの刀が打ち合った音だ。
衝撃音とともに発生した風は仁の居る鉄格子を勢いよく通り抜けていくが、仁はうつむいたまま戦いの光景に見向きもしていない。
リリスはそのことを気にかけながらも、一先ず目の前にいる敵に意識を集中した。さすがに最初から舐めてかかれる相手ではない。
リリスとクラウンは一度離れると再び脚甲と刀をぶつけ合う。その互いの力は拮抗しているかのように見えた。だが、次第にクラウンの刀が押されていく。
「オレが力負けだと.......!?」
「知ってるかしら? 腕の力よりも脚の力の方が何倍も強いのよ」
リリスはそのままクラウンの刀を弾くとすぐに引き戻し、蹴りつける。クラウンはそれを軌道を予測して避け斬りつけるが、その前にリリスの次の蹴りが迫っていた。
一撃、三撃、五撃とリリスが一秒間に蹴り上げる回数が増えていった。そして、最終的にシュシュシュシュッと風を斬る音とともに幾重もの蹴りの残像が見えるほどになっていた。
クラウンはその攻撃に防ぐの精一杯。そのことにイラ立ちが隠せないようであった。しかし、すぐに表情をニヤッとさせる。
それはリリスの攻撃が数秒過ぎたあたりに起きた。段々とリリスの蹴りの勢いが減って来たのだ。今のリリスはまだスタミナが尽きたとは程遠い表情をしている。ということは、何か別の要因で起きたということ。
リリスは一度止めようと最後の一撃を強めに蹴り、クラウンに距離を取らせた。そしてその間に、リリスは自分の脚に起きた違和感を確かめる。すると、そこには蹴り上げていた右脚にくるぶしから膝にかけて白い糸がいくつも絡まるように巻き付き、地面に固定されていた。
「てめぇも良く知るパートナーの魔法だ。むやみに蹴ってくれて実に助かったぜ!」
クラウンはリリスがその場から動けないこと内に一気に突撃した。刀を構える姿勢は刺突の構え。それをさらに上段まで上げる。
向かって来るクラウンに対し、リリスは存外冷静な顔をしていた。まるでそれぐらいの殺気なら慣れてしまっているみたいに。
リリスは右脚が地面に平行に固定されていることを確認するとクラウンの刺突に合わせて、右脚を軸に体を捻りながら回し蹴りした。
しかし、クラウンもその行動は予測済み。リリスの蹴りを紙一重避けながら、無防備な側面から刀を一気に突き出す。
そんな危機的状態でもリリスはまだ冷静だった。それどころか笑みさえ浮かべていた。ようやくクラウンを自分の力で救えることに喜んでいるみたいに。
リリスは避けられた脚をそのまま体ごと捻っていく。そして、固定された右脚には炎を纏わせて糸を焼き千切り、体の回転の勢いで蹴り上げた左脚で刀を弾いた。
さらにそれによって無謀になったクラウンに横向きの超重力を当てて吹き飛ばしていく。その光景を見ながら上手く着地すると背後にいる仁へと振り向かず声をかける。
「ねぇ、クラウン。私、強くなったでしょ?」
「.......」
「でもね、この力は私一人で引き出したものじゃないの。仲間達にも引き出してもらったのも当然そうなんだけど、それ以上にこれはあんたがくれた力なのよ?」
仁は思わずその言葉にピクッと反応する。依然として俯いた顔であるが、ようやくここに来たリリスへの初めての言葉を告げた。
「僕は.......君に何か与えられるほど強くない」
「そんなことないわ。現にこうして私が―――――――」
「僕はずっと恐れていただけだ!」
仁は弱弱しさをさらけ出すように大声を張った。その言葉をリリスは黙って聞き入れる。その二人に次の言葉が紡がれることはなかった。なぜなら、その前にクラウンが復活したからだ。
「あーあー、そういやすっかり忘れてたな。この空間での力の使い方を」
クラウンは首をゴキゴキと鳴らしていくと平然と立ち上がった。そして、憎たらしい笑みを浮かべながらリリスへと告げていく。
「ここはオレの空間だった。なら、はなから力負けなんてするはずねぇじゃねぇか。それをオレよりもお前が先に気付いていたなんてなー。まあ、その姿の時点で答えを告げているか」
「―――――――!」
リリスはその言葉に思わず歯噛みした。最初こそ気づかれていないことが好都合だったのにこんなにも早く気づかれてしまうとは。
だが、もはや気づくのは時間の問題だった。遅かれ早かれ気づいていたのは確かだ。ただその時間が早すぎたのは痛いが。
そうなるともうここからは自分のイメージの補填勝負となる。とにかく、明確な勝つビジョンを考えないと―――――――
「リリス、もういい。もうここから逃げろ。リリスじゃ勝てない」
「!」
仁の口から吐き出された言葉にリリスは思わず後ろを振り向く。そして、背後の鉄格子にいる仁の顔は―――――泣いていた。
まるでこれから起きうる結末を知っているかのように。あんなに弱気な仁はリリスにとって初めてだった.......いや、それすらも目を背けていたことなのかもしれない。
リリスはそっと目を瞑ると良い笑顔で告げた。
「いーや」
「――――――え?」
リリスの言葉に思わず仁は呆けた表情をしてしまう。そんな仁の表情を「いいもん見た」とでもいうかのような口元を緩めた表情でリリスはクラウンへと構えた。
「さあ、かかってきなさい!」
「減らず口を!」
「リリス!」
仁の言葉も虚しく鉄格子の外では二人の戦いが始まってしまった―――――――否、一方的な攻撃が始まってしまった。
クラウンが消えると本来なら動いているはずのリリスは全く動きを見せなかった。それはクラウンが背後に回った時も。
がら空きの背後をリリスは思いっきり蹴り飛ばされるとそれよりも早くクラウンが先回りする。そして、頭上に掲げた刀を思いっきり振り下ろす。
ドゴオオオオオンッ!という強烈な爆発音とともに精神空間でありながら、砂煙のようなものが立ち込める。
その砂煙からリリスが後方に下がりながら飛び出てくる。そのことに仁は思わず安堵の息を吐くが、すぐに気づいた。傷つけることも禁忌とされるような顔に血が流れていることに。
どうやら額を切ってしまったようだ。その血がリリスの顔を血濡れに染めていく。それを見た瞬間、仁の心は激しく締め付けられた。それでも体は動こうとしない。
するとその時、リリスは立ち上がりながら仁に告げる。
「ねぇ、クラウン。どうせ道化ならさ。もっと私を笑わせてよ。もっと仲間を笑わせてよ」
「ははは、笑って殺してやるよ!」
「あんたじゃないっつーの」
リリスは正面から向かって来る気配に目を凝らし、自身の羽を微振動させた。そして、クラウンが自身の側面に現れた時、その場から咄嗟に距離を取る。しかし、まだ動き出しが遅いようで振り降ろされた刀で腕をかすってしまったが。
それでもクラウンを一時的に動揺させることが出来た。このわずかな時間が仁の心の変化に必要だとリリスは信じている。
「不器用でもいい。不格好でもいい。そんな不慣れな仁を笑っちゃうかもしれないけどさ。それが道化師じゃない?」
クラウンは再び高速で動くとリリスを中心軸に<流爪>を放っていく。四方八方から五本の尾を引く鋭い斬撃が飛び交う。
「おらよおおおおおおお!」
「くっ!」
リリスは咄嗟に上空へと羽ばたいていく。するとその時、真上からクラウンが刀を振り下ろしながら落下してきた。
リリスは咄嗟に避けるが右の羽がクラウンによって切断されてた。そして、落下していくクラウンはリリスの背中に糸を張りつけると力任せに振り回し地面に叩きつける。その瞬間、盛大な衝撃音が周囲を駆け巡り、砂煙がリリスを隠した。
そんな砂煙の中、リリスは地面に手をつきながら立ち上がろうとし、同時に変わらずに仁を鼓舞する言葉を送っていく。
「クラウン.......あんたは強いわ。私が知っている中で誰よりも強い。私が強いのはね.......あんたが強くいてくれるからよ。私はあんたの隣で並びたい。歩きたい。だから、強くなれるのよ。いつまでも、どこまでも」
「戯言だなぁ」
刀を担ぎながらクラウンが着地した。そして、リリスの言葉を吐きながら嘲笑い毒を吐く。そんなクラウンに構うことなくリリスは言葉を続ける。
「クラウン、今のあんたの姿.......とっても好きよ。いくらでも頑張れる。いくらでも期待できる。もし.......もし、今のあんたがその姿で弱いと思っているなら大間違いよ」
リリスは四つん這いまで何とか起き上がる。美しかった肌には切り傷、擦り傷が見え、唇を切ったのか血が流れている。そして、その血は止まることなく地面に滴る。
「今のあんたは姿が前に戻ってもあんたのままよ。私が知っている強いクラウンのまま。このニセモノも言ってたじゃない――――――『オレの空間』だって」
「黙ってろ、クソ女」
「うぐっ!」
リリスはクラウンに横っ腹を蹴られ、大きく吹き飛び地面を転がっていく。それでも、リリスはめげずに地面に手をつけ立ち上がろうとする。
手をつけ体を起こし、膝を立て四つん這いになる。そして、気合で立ち膝になると足を立てて立ち上がる。
そして、リリスは右手で左腕を押さえながらも、まるで心配をかけさせないような笑顔で鉄格子の中にいる仁へと告げた。
「クラウン――――――信じてるわ」
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる