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第10章 決戦
第218話 神を殺そうとする男と魔王を殺そうとする男#3
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この戦場はあるタイミングにおいて違った雰囲気を醸し出し始めた。その雰囲気を敏感に感じ取っているのは主に響だけなのだが、その雰囲気は響にとって猛毒であった。
「嘘だ.......」
「嘘じゃねぇよ。忘れちまったのか? オレの顔をよぉ?」
響は殴った左拳を小刻みに震えさせながら、ゆっくりと手元へと戻していく。その間も響はクラウンこと仁の顔から眼を背けられずにいた。
しかし、その行動とは裏腹に思考は納得しかねていた。それはそうだ、響が倒そうとしていた魔王は魔族の王なのだから。決して人が魔に落ちた姿ではない。
それに見た目の変化が著しい。禍々しい気配に、顔に入った赤い涙を流したのようなライン。そして、魔族を象徴するかのような角。
それら全てが仁を否定するもの、特に最後に至ってはそれだけで違うと言い切れるのもだった。にもかからわず、目の前にいるのは見間違えるはずもない仁の姿。
仁が変わってしまった時の印象はあまりないが、見続けた顔の輪郭、目鼻立ちをしっかりと覚えている。面影すらもしっかりと現れるのだ。
「嘘だ......嘘だ.......」
響は目の前に広がる現実を必死に否定しようとしながらも、その場から逃げるように一歩ずつ後ずさった。
その時も両腕は震えていた。無意識にかけがえのない友である仁を殺そうとしていた罪意識に苛まれているのかもしれない。
そんな響を見ながらクラウンはほくそ笑む。
「いい面構えだなぁ。そうさ、オレが【海堂 仁】だ。お前も良く知っている最高の友であり――――――最悪の敵だ」
「......っ!」
「そんな苦しむ必要はない。立場はもとよりハッキリしていただろう? お前はオレを見捨てて、俺はそんなお前らを憎んで。そのステージが一つか二つグレードアップしただけのことじゃねぇか。魔王と勇者という立場でな」
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
響は聖剣を思わず手放しと頭を抱え始め、必死に現実から目を背け始めた。考えてなかった、予想もしていなかった現実に響の精神が摩耗していく。
ずっとずっと幼い頃から横に並び歩み続けた存在が、自分の目の前にまさしく最悪な敵として立ちはだかる。
響は仁にまだ希望を見出していた。バリエルート近くの森で再会した際、仁はその時の響ですらまだ圧倒していた。
そしてその時、仁は殺そうとすれば響を殺すことが出来たのだ。しかし、結果的に仁はそうしなかった。
ということは、まだ仁と元通りまでとはいいかなくてもそれでもまた仲良くなれると思っていた。だが、現実は無情となった現れる。
仲間であろうと非道の行いをしてきた敵は、響が純粋悪だと告げた敵は、<神格化>まで使って殺そうとした敵は―――――――最高の友であった。
「あああああああああ!」
「なんだ? 精神崩壊でも起こしたか?」
響は言葉にならない思いを体から吐き出すように天に向かって吠えた。のどが潰れそうなほどの声量はこの戦場のどこまでもどこまでも響いていき、一時的に戦争を中断させるほどであった。
まさに魂の叫び。ただしこの場合は、響にとって最悪な結果が積み重なって出来た滅びの叫びとも言えようか。
響は全ての想いを吐き出したかのように声を沈ませていくと目は虚ろになり、ふらついて覚束ない足取りをしていく。
もう響の顔から希望という言葉は残っていなかった。魂が抜けたように、この場では最もふさわしくない顔をしている。
そんな響を見ながら、クラウンは何がおかしいのか笑みを浮かべていく。そして、響にゆっくりと歩み寄りながら告げていく。
「どうだ? それが絶望の味だ。一度味わうと甘美になるだろう? この世界を呪わずにはいられなくなる。自分をこういう風にした人を許さずにはいられなくなる。そして、弱い自分を憎まずにはいられなくなる」
「.......」
「それら全ての集合体が今お前の目の前にいる奴だ。絶望の前には決意も信念も誓いも全くもって無意味だ。絶望は等しく無を与える。絶望は等しく希望を奪い取っていく。絶望は等しく死を分け与える。それらが与えられた人物はどうなるか知ってるかぁ?」
「.......」
「絶望に恐怖することを通り越して笑い始めるんだよ。どうしようも出来ない現実を目の前に、どうして自分なのか、どうしてこうなってしまうのか、何が原因だったのか、どこで間違えたのか。そんな後悔を受け入れるようにして、自らの死すらも受け入れていく。それは恐らく最後ぐらい笑って死にたいという人の構造のプログラムなのかもなぁ」
「.......」
クラウンは落ちていた聖剣を拾うと響の目の前に立った。
「しかし、大抵のやつらはそこまでいかない。そこまでに至るのは最大限にストレスを与え、精神を一撃で破壊できるように擦りきらせ、それでいて逃げ道を用意しながら、その逃げ道を取るかの選択権を与える」
「.......」
「オレは酷いもんだった。突然の裏切りにそれも信じて疑わなかった奴らからのな、どれだけ助けを求めても助けてくれる奴は誰もいなかった。あれはストレスが溜まったもんだ。そして、オレの心は擦り減る一方だった」
「.......」
「けど、オレは犯罪者のレッテルを張られながらすぐには殺されなかった。どうせお前らがオレを生かさせたんだろ? オレにまだ抗わせる希望を与えるようにな。オレに脱獄する方法を考えさせたり、一矢報いるよう思案させたかったんだろ?」
「........違う」
「ようやく話す気になったか。だが、違うとは言わせねぇぞ。だったら、なぜオレをすぐ殺そうとしなかった。まさかあれがせめてもの慈悲だと思っているのか? だとしたら、地獄以上の何物でもなかったけどな!」
「違う! 僕は、僕達はそんなことはしていない!」
響は思わずその言葉を否定した。なぜなら、そこは響にとって最後の防衛ラインであったからだ。
これ以上踏み込まれれば、響の精神は壊れ、何が起こるかわからない。それは響自身が無意識に感じ取っていたことであった。
故に、響の意思とは無関係に言葉が出た。勝手に口が否定した。そんな切実な表情の響にクラウンは鋭く冷たい瞳を向ける。
「は、どうだかな。その時に戻れるわけでもねぇし、戻りたいとも思わない。だから、真実はわからない。だが、そこで感じた感情は! 臭いは! 痛みは! 忘れたわけじゃねぇんだ! そのための今だろ?」
「........どういう意味だ」
響は荒れ狂う波のごとき現実が襲ってきたせいで脳が麻痺していた。その結果、逆にある程度のことなら冷静に考えられるようになっていた。
しかし、あくまである程度。戦闘に万全な状態で臨めるわけでもなく、無意識に自分の今まで行ってきた行動や告げた言葉に後悔ししていた。
クラウンは聖剣を足元に刺すと響に嘲笑いながら告げた。
「すっとぼけてんじゃねぇ。今が何をやり合っている最中か忘れたわけじゃねぇよな? 殺しあいだ、殺し合い。俺は魔王でお前は勇者。それはこの世界においても、俺達が良く知っている世界においても敵同士という絶対不変の理のようなもんじゃねぇか。まさかオレの正体がわかったら急に殺せないとでも言うんじゃねぇだろうな」
「僕は.......僕にとって仁は大切な存在だ! 殺せるはずがないだろ!」
その言葉にクラウンは思わずため息を吐いた。そして、響の腹部へと思いっきり蹴り込んでいく。その勢いで響は地面を転がっていく。
「寝言は寝て言え。お前はオレを殺せる理由があるはずだ。お前は許せないはずだろう? 種族が違うとはいえ、仲間である魔族の兵士を道具として使ったことが。それに周辺の国々を襲いまくったことがよぉ!」
「それでも.......それでも僕は........この世界の人間じゃない。この世界でももう誰一人大切な人を失うわけにはいかない」
「あーあー、うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ!!」
クラウンは眉間にしわを寄せ、目じりを釣り上げる。そして、イラ立った声を上げながら、思わず前髪を左手で押し上げる。
「甘いとかの次元じゃねぇな。それはたいそうしっかりと勇者をやってることだ。だがな、ここは夢物語のようなご都合主義は待ってねぇんだ! 現実を見ろ! お前の目の前に立っているのはなんだ! 勇者にとって最強最悪の敵の魔王だ! はなからお前に戦わねぇって選択肢はねぇんだよ!!」
「それでも僕は―――――――」
「言っただろう。お前に選択肢はねぇってな」
「どういうことだ?」
クラウンは刹那の時間で思考すると響に告げていく。
「お前は今、何のために戦っている? お前を殺すかもしれねぇ一人を取るのか。それとも、お前を助けてくれる全員を取るのか」
「それはどういう―――――――!」
響はクラウンの言葉の意味がわかった。そうだ確かに自分は選択しなければいけず、その選択はほぼ一つのようなものであったことに。
それは一緒に戦場までやって来たクラスメイトのことや、未だ聖王国に残るクラスメイト、意識不明のガルド、そして大切な存在となったスティナ。
そして、それらの存在は偽の教皇によって全て人質に取られている。その人質が解放される条件は魔王を殺すこと。
しかし、魔王は大切な仁であった。絶対に比べたくなかった二つことが天秤の皿に乗せられてしまった。
響は選択しなければいけない。大親友とも呼ぶべき存在でありながら極悪に落ちてしまった仁と同じ教室で過ごしてきた狂わされてしまったクラスメイト、それにプラスしてこの世界で出会ったガルドやスティナ。
もはやその天秤の結果はわかりきったものであった。そのことが受け入れられなかっただけで、でももう選ぶときは来てしまった。
響は表情を暗くしながら無言で立ち上がる。その雰囲気は酷く冷たく、殺伐とした空気すら放ち始めた。
そして、響は両手の拳を強く握る。その姿を見たクラウンは地面に刺さった聖剣を抜くと響へと放り投げた。
それを掴んだ響は聖剣を構え――――――鋭い眼光をクラウンに向けた。その瞳は意図的に感情を殺してあるようであった。
それを見たクラウンは盛大に笑う。
「ははははは! そうだ! そうこなくっちゃなぁ! 俺達は宿命の相手だ! 思う存分――――――殺しあおうぜぇ!!!」
「嘘だ.......」
「嘘じゃねぇよ。忘れちまったのか? オレの顔をよぉ?」
響は殴った左拳を小刻みに震えさせながら、ゆっくりと手元へと戻していく。その間も響はクラウンこと仁の顔から眼を背けられずにいた。
しかし、その行動とは裏腹に思考は納得しかねていた。それはそうだ、響が倒そうとしていた魔王は魔族の王なのだから。決して人が魔に落ちた姿ではない。
それに見た目の変化が著しい。禍々しい気配に、顔に入った赤い涙を流したのようなライン。そして、魔族を象徴するかのような角。
それら全てが仁を否定するもの、特に最後に至ってはそれだけで違うと言い切れるのもだった。にもかからわず、目の前にいるのは見間違えるはずもない仁の姿。
仁が変わってしまった時の印象はあまりないが、見続けた顔の輪郭、目鼻立ちをしっかりと覚えている。面影すらもしっかりと現れるのだ。
「嘘だ......嘘だ.......」
響は目の前に広がる現実を必死に否定しようとしながらも、その場から逃げるように一歩ずつ後ずさった。
その時も両腕は震えていた。無意識にかけがえのない友である仁を殺そうとしていた罪意識に苛まれているのかもしれない。
そんな響を見ながらクラウンはほくそ笑む。
「いい面構えだなぁ。そうさ、オレが【海堂 仁】だ。お前も良く知っている最高の友であり――――――最悪の敵だ」
「......っ!」
「そんな苦しむ必要はない。立場はもとよりハッキリしていただろう? お前はオレを見捨てて、俺はそんなお前らを憎んで。そのステージが一つか二つグレードアップしただけのことじゃねぇか。魔王と勇者という立場でな」
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
響は聖剣を思わず手放しと頭を抱え始め、必死に現実から目を背け始めた。考えてなかった、予想もしていなかった現実に響の精神が摩耗していく。
ずっとずっと幼い頃から横に並び歩み続けた存在が、自分の目の前にまさしく最悪な敵として立ちはだかる。
響は仁にまだ希望を見出していた。バリエルート近くの森で再会した際、仁はその時の響ですらまだ圧倒していた。
そしてその時、仁は殺そうとすれば響を殺すことが出来たのだ。しかし、結果的に仁はそうしなかった。
ということは、まだ仁と元通りまでとはいいかなくてもそれでもまた仲良くなれると思っていた。だが、現実は無情となった現れる。
仲間であろうと非道の行いをしてきた敵は、響が純粋悪だと告げた敵は、<神格化>まで使って殺そうとした敵は―――――――最高の友であった。
「あああああああああ!」
「なんだ? 精神崩壊でも起こしたか?」
響は言葉にならない思いを体から吐き出すように天に向かって吠えた。のどが潰れそうなほどの声量はこの戦場のどこまでもどこまでも響いていき、一時的に戦争を中断させるほどであった。
まさに魂の叫び。ただしこの場合は、響にとって最悪な結果が積み重なって出来た滅びの叫びとも言えようか。
響は全ての想いを吐き出したかのように声を沈ませていくと目は虚ろになり、ふらついて覚束ない足取りをしていく。
もう響の顔から希望という言葉は残っていなかった。魂が抜けたように、この場では最もふさわしくない顔をしている。
そんな響を見ながら、クラウンは何がおかしいのか笑みを浮かべていく。そして、響にゆっくりと歩み寄りながら告げていく。
「どうだ? それが絶望の味だ。一度味わうと甘美になるだろう? この世界を呪わずにはいられなくなる。自分をこういう風にした人を許さずにはいられなくなる。そして、弱い自分を憎まずにはいられなくなる」
「.......」
「それら全ての集合体が今お前の目の前にいる奴だ。絶望の前には決意も信念も誓いも全くもって無意味だ。絶望は等しく無を与える。絶望は等しく希望を奪い取っていく。絶望は等しく死を分け与える。それらが与えられた人物はどうなるか知ってるかぁ?」
「.......」
「絶望に恐怖することを通り越して笑い始めるんだよ。どうしようも出来ない現実を目の前に、どうして自分なのか、どうしてこうなってしまうのか、何が原因だったのか、どこで間違えたのか。そんな後悔を受け入れるようにして、自らの死すらも受け入れていく。それは恐らく最後ぐらい笑って死にたいという人の構造のプログラムなのかもなぁ」
「.......」
クラウンは落ちていた聖剣を拾うと響の目の前に立った。
「しかし、大抵のやつらはそこまでいかない。そこまでに至るのは最大限にストレスを与え、精神を一撃で破壊できるように擦りきらせ、それでいて逃げ道を用意しながら、その逃げ道を取るかの選択権を与える」
「.......」
「オレは酷いもんだった。突然の裏切りにそれも信じて疑わなかった奴らからのな、どれだけ助けを求めても助けてくれる奴は誰もいなかった。あれはストレスが溜まったもんだ。そして、オレの心は擦り減る一方だった」
「.......」
「けど、オレは犯罪者のレッテルを張られながらすぐには殺されなかった。どうせお前らがオレを生かさせたんだろ? オレにまだ抗わせる希望を与えるようにな。オレに脱獄する方法を考えさせたり、一矢報いるよう思案させたかったんだろ?」
「........違う」
「ようやく話す気になったか。だが、違うとは言わせねぇぞ。だったら、なぜオレをすぐ殺そうとしなかった。まさかあれがせめてもの慈悲だと思っているのか? だとしたら、地獄以上の何物でもなかったけどな!」
「違う! 僕は、僕達はそんなことはしていない!」
響は思わずその言葉を否定した。なぜなら、そこは響にとって最後の防衛ラインであったからだ。
これ以上踏み込まれれば、響の精神は壊れ、何が起こるかわからない。それは響自身が無意識に感じ取っていたことであった。
故に、響の意思とは無関係に言葉が出た。勝手に口が否定した。そんな切実な表情の響にクラウンは鋭く冷たい瞳を向ける。
「は、どうだかな。その時に戻れるわけでもねぇし、戻りたいとも思わない。だから、真実はわからない。だが、そこで感じた感情は! 臭いは! 痛みは! 忘れたわけじゃねぇんだ! そのための今だろ?」
「........どういう意味だ」
響は荒れ狂う波のごとき現実が襲ってきたせいで脳が麻痺していた。その結果、逆にある程度のことなら冷静に考えられるようになっていた。
しかし、あくまである程度。戦闘に万全な状態で臨めるわけでもなく、無意識に自分の今まで行ってきた行動や告げた言葉に後悔ししていた。
クラウンは聖剣を足元に刺すと響に嘲笑いながら告げた。
「すっとぼけてんじゃねぇ。今が何をやり合っている最中か忘れたわけじゃねぇよな? 殺しあいだ、殺し合い。俺は魔王でお前は勇者。それはこの世界においても、俺達が良く知っている世界においても敵同士という絶対不変の理のようなもんじゃねぇか。まさかオレの正体がわかったら急に殺せないとでも言うんじゃねぇだろうな」
「僕は.......僕にとって仁は大切な存在だ! 殺せるはずがないだろ!」
その言葉にクラウンは思わずため息を吐いた。そして、響の腹部へと思いっきり蹴り込んでいく。その勢いで響は地面を転がっていく。
「寝言は寝て言え。お前はオレを殺せる理由があるはずだ。お前は許せないはずだろう? 種族が違うとはいえ、仲間である魔族の兵士を道具として使ったことが。それに周辺の国々を襲いまくったことがよぉ!」
「それでも.......それでも僕は........この世界の人間じゃない。この世界でももう誰一人大切な人を失うわけにはいかない」
「あーあー、うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ!!」
クラウンは眉間にしわを寄せ、目じりを釣り上げる。そして、イラ立った声を上げながら、思わず前髪を左手で押し上げる。
「甘いとかの次元じゃねぇな。それはたいそうしっかりと勇者をやってることだ。だがな、ここは夢物語のようなご都合主義は待ってねぇんだ! 現実を見ろ! お前の目の前に立っているのはなんだ! 勇者にとって最強最悪の敵の魔王だ! はなからお前に戦わねぇって選択肢はねぇんだよ!!」
「それでも僕は―――――――」
「言っただろう。お前に選択肢はねぇってな」
「どういうことだ?」
クラウンは刹那の時間で思考すると響に告げていく。
「お前は今、何のために戦っている? お前を殺すかもしれねぇ一人を取るのか。それとも、お前を助けてくれる全員を取るのか」
「それはどういう―――――――!」
響はクラウンの言葉の意味がわかった。そうだ確かに自分は選択しなければいけず、その選択はほぼ一つのようなものであったことに。
それは一緒に戦場までやって来たクラスメイトのことや、未だ聖王国に残るクラスメイト、意識不明のガルド、そして大切な存在となったスティナ。
そして、それらの存在は偽の教皇によって全て人質に取られている。その人質が解放される条件は魔王を殺すこと。
しかし、魔王は大切な仁であった。絶対に比べたくなかった二つことが天秤の皿に乗せられてしまった。
響は選択しなければいけない。大親友とも呼ぶべき存在でありながら極悪に落ちてしまった仁と同じ教室で過ごしてきた狂わされてしまったクラスメイト、それにプラスしてこの世界で出会ったガルドやスティナ。
もはやその天秤の結果はわかりきったものであった。そのことが受け入れられなかっただけで、でももう選ぶときは来てしまった。
響は表情を暗くしながら無言で立ち上がる。その雰囲気は酷く冷たく、殺伐とした空気すら放ち始めた。
そして、響は両手の拳を強く握る。その姿を見たクラウンは地面に刺さった聖剣を抜くと響へと放り投げた。
それを掴んだ響は聖剣を構え――――――鋭い眼光をクラウンに向けた。その瞳は意図的に感情を殺してあるようであった。
それを見たクラウンは盛大に笑う。
「ははははは! そうだ! そうこなくっちゃなぁ! 俺達は宿命の相手だ! 思う存分――――――殺しあおうぜぇ!!!」
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