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第10章 決戦
第217話 神を殺そうとする男と魔王を殺そうとする男#2
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――――――ガギンッ!
二つの刃が勢いよく衝突し、鈍い金属を響かせていく。互いに鍔迫り合いになった武器を押し込みながら目の前に見える顔を睨んでいく。
重苦しい環境と共にただならぬ圧力が周囲へと放たれていき、その圧力に負けた兵士たちはどんどんと意識を失ってその場に倒れていった。
そんな空気は突如として急速に動き出す。
その互いに押し合う鍔迫り合いは響がクラウンを弾き飛ばすことによって始まった。力負けしたクラウンは後方に下がりながら体勢を立て直そうとするが、その前に響が距離を詰めていく。
響が聖剣を横に振り抜くとクラウンはその剣を受け流そうとする。だが、受け流すことは出来ず、むしろ刀を弾かれてしまい、がら空きになった胴体に勢いの乗った跳び蹴りが刺さっていく。
「ぐほぉっ!」
体が強制的にくの字へと曲げられていき、その状態のまま高速で地面の上を飛んでいく。すると、響は半神となった力を活かして先回りしていくと聖剣を上段に構えた。
そして、タイミングよく両断するかの如く振るっていく。しかし、咄嗟に振り向いたクラウンが刀を横に向けることでで聖剣を受け止めた。
そのたった一撃だけで周囲に突風のような風が発生していく。ギギギギッと刀と剣が擦り合ってオレンジ色の火花を散らす中、動いたのは響であった。
響はクラウンの刀を押し込むようにして弾くとすぐに剣を引き戻し、右手だけで持って突き出した。その攻撃をクラウンは半身で避けると刀を思いっきり振り下ろそうとする。
しかし、響はその行動を予測していたのか左手でクラウンの右手首を掴むと剣を戻しながら、右脚で上段蹴りをしていく。だが、その攻撃はクラウンが左腕を立てにしたことで防がれた。
互いの強い眼差しが火花を散らすように衝突していく。発生した風が黒い髪と白い髪を勢いよく揺らしていく。
「あああああああ!」
「くっ.......!」
響は唐突に雄叫びを挙げると右脚を体重を乗せるようにしながら押し込んでいく。その力にクラウンの左腕は徐々に押し込まれていく。
そして、耐えきれなくなったクラウンは後方へ離脱した。すると、響は足を振りきった方向へと一回転すると下から上に剣を振り上げていく。
放ったのは巨大な光の斬撃。地面を粉砕、消滅させながらクラウンへと向かっていく。その攻撃をクラウンは咄嗟に地面へと糸を伸ばすと自身の体を引っ張らせた。
「おらあああああ!」
「くっ!」
強制的に横っ飛びするような感じで斬撃を避けていくが、避けた先にはすでに響が迫っていた。そして、響は勢いの乗った膝蹴りでクラウンの顔面を狙う。
クラウンは腕をクロスさせることでガード。しかし、空中に体が浮いていたので衝撃を緩和することが出来ずに勢いよく吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
響はその光景を見ながらすぐに行動しなかった。それは先ほどのクラウンの行動に違和感を感じたからだ。
その違和感とは―――――――
「お前、今の糸は何の魔法なんだ?」
響は思わず質問した。敵に魔法のタネを教えるほど魔王はバカじゃないと思いつつも、その糸に関して尋ねたくなる気持ちが抑えられなかったのだ。
その気持ちは仕方ないことだ。響が戦っているのはあくまで魔王だ。その魔王がクラウンであるということは知る由もない。
故に、響は少し困惑気味であった。どうして魔王がその魔法を使えるのかと。その魔法を使えるのは仁だけであって、仁は特殊な役職である「糸繰士」という役職で得た魔法なのだ。
その魔法と酷似した魔法を魔王が使っている。ということは、魔王が仁であるとでも言いたいのだろうか。
いや、それはあり得ない。人族と魔族は相いれない。仁が魔族と関わるなんてありえないはず.......だ。
響は考えの答えに対する歯切れが悪かった。それはバリエルートの件を思い出していたからだ。
あの時、魔族は仁を守るように戦いに割って入ったようにも見えなくなかった。それに、仁の近くにいたの女の子は魔族であって―――――――
だが、違う。違うはずだ。なぜなら、魔王との決定的な違いがある。それは――――――角だ。見る限り魔王は角生えている。それだけで決定的に違うはずだ。
響は「魔王が何らかの形で似たような魔法を使うようになったのだろうと思う」とすぐに目の前の戦闘に意識を集中させた。
すると、クラウンはヒビの入った醜い笑みを浮かべたような仮面を見せつけるようにして笑い始めた。
「くくく、追撃をしてこねぇなんて随分と余裕じゃねぇか。クソ勇者。オレをいつでも殺せるから追撃して来なかったのか? それとも情でも湧いちまったか?」
「お前みたいな非道な奴に湧く情などない」
「ははははは、だとよ! オレぇ! 言われちまったなぁ!」
クラウンは立ち上がると両手を広げながら高笑い。何がおかしいのかわからない響は舐められているような気分になり思わず腹が立った。
だから、響は右手に持った聖剣を向ける。そして、鋭い目つきを向けながら言った。
「お前は僕には勝てない。この力がある限り、僕は負けない」
「ははは、それ死亡フラグって言うんだろ? 知ってるぜ。それにお前の力は禁忌の力と見た。その力が何の代償もなく使えるはずはないよな?」
「......」
「図星か。くくく、ふははははは! その代償はなんだ? 大切な存在の死か? それとも死の恐怖か? 感情か? もしくは――――――記憶か?」
「.......」
「だんまりか。ということは、それらのどれかなんだろうなぁ。なら次はその代償をすでに払って使えるのか? それとも現在も代償支払っているのか?」
「――――――――れ」
「あ? なんか言ったか? まあいい。神の力と言ったよな? ということは、その力がたかだか代償をすでに支払って使えるとは思えねぇ。それだとその力を解かない限り無限に使えることになっちまうからな。ということは、今も払ってんのか――――――代償を」
「黙れって言ってんだろおおおおお!」
響は地面を踏み割るほど勢いよく蹴るとクラウンへと直進していく。そして、周囲が歪むほどの高速移動の中で、響は聖剣を両手で上段に構える。
クラウンの前まで近づくと響は思いっきり聖剣を振り下ろした。その攻撃をクラウンはあえて受け止めるように刀を横に構えた。
瞬間、刃が鋭い金属音を響かせて衝突する。その衝撃で周囲に突風が吹き荒れ、クラウンが踏んでいる地面は大きくひび割れていく。
その状態の中、クラウンは仮面の奥の黄色い瞳孔を響に向けながら言った。
「図星じゃねぇか。ははは、ははははは! 何を支払ってんのか知らねぇが、そりゃあそうだろうな! そんな異常の力が代償を支払わずして使えるはずがねぇもんな!」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れええええええ!」
響は激昂しながらそう言うが、実際のところクラウンの言う通りであった。
現在、響が<神格化>を使うにあたって支払っているのは記憶。その記憶は使い続けるたびに古い記憶からどんどんと消えていっている。
使うにあたって最初に消えたのは幼い頃の両親の記憶、そして幼稚園の記憶、次には小学校で仁と初めて会った記憶、それから一緒に遊んだ記憶。
響が仁と積み重ねてきた大切な記憶が一秒一秒立つたびに消えていっている。仁と過ごした時間は膨大で、別に名前や性格、趣味などを忘れるわけではない。
しかし、昔の記憶を消されるということはこれまで共有してきた思い出を思い出せなくなる、否、なかったことにされてしまうのだ。
初めて出会った時のことも、一緒に虫取りや川遊びをしたことも、一緒に怒られたときのことも、他愛のない会話に至るまで全てを。
その苦痛を響が完全に受け止めているはずがなかった。戦っている最中も刻一刻と消えていく記憶に目を背けていただけなのだ。
意識してしまうと忘れないようにしようとしてしまって戦いどころではないから。だから、出来れば相手する魔王が強くないことを願った。
だが、ニセモノの教皇が「魔王殺し」を強調するぐらいだ。そう簡単にはいかないとは思っていた。だからこそ、今の今まで考えなかったようにしていたのに。
「お前は......お前はどれだけ人をコケにすれば気が済むんだ!」
「それがお前らがした選択だろう? お前らこそ、コケにした人物のことを忘れわけじゃないよな?」
その声は酷く低かった。そして、とても冷たかった。全身に冷気を浴びせられたかのように酷く説得力のある言葉で、まるで自分と魔王にどこか関わりがあるような感じであった。
そのことに響は困惑する。だが、その思考にと捕らわれ過ぎてはいけない。今は戦闘中なのだ。少しでも油断すれば殺されるのはこっちだ。
クラウンは響の聖剣を押し上げて弾くとすぐに横なぎに振るった。響は咄嗟に空中に魔法陣を作り出し、蹴ることで避けようとするが、腹部を少しだけ鎧ごと斬られてしまった。
しかし、響は痛みに堪えながら右手に剣を下から上に切り上げる。その攻撃はクラウンが後ろに下がることで避けられるが、響はすぐに振り上げた聖剣を両手で持って振り下ろした。
その攻撃も避けられるが振り下ろした衝撃で放たれた斬撃はクラウンの眼前へと差し迫る。
クラウンは咄嗟に斬撃を放って相殺。その衝撃で地面が爆発し、周囲に粉塵が立ち昇った。これによって視界は不良に。
そんな状況でも響は敵の位置がわかっているかのように躊躇いなく飛び込むとそのまま飛び蹴り。クラウンに左腕で受け止められるのがわかるとすぐに距離を取る。
すると、今度はクラウンが刃先を響に向けて風切り音を立てながら鋭く突いた。それを半身で避けると右手に持った剣を振り下ろす。
クラウンは軌道を読んで左手で響の右手首を掴んで攻撃を防ぐ。しかし、それは響が誘導させた防ぎ方。クラウンの右腕は未だ伸ばしっぱなしで正面はがら空き。
「そこだああああ!」
響は気合の左ストレートをクラウンの顔面に叩き込んだ。その瞬間、クラウンのひび割れていた仮面はさらにそのヒビを大きくさせ――――――割れた。
そして、その仮面の下から現れた顔は―――――――
「.......仁?」
「よお、久しぶりだな」
響が想像だにしない人物は醜く口元を歪めた。
二つの刃が勢いよく衝突し、鈍い金属を響かせていく。互いに鍔迫り合いになった武器を押し込みながら目の前に見える顔を睨んでいく。
重苦しい環境と共にただならぬ圧力が周囲へと放たれていき、その圧力に負けた兵士たちはどんどんと意識を失ってその場に倒れていった。
そんな空気は突如として急速に動き出す。
その互いに押し合う鍔迫り合いは響がクラウンを弾き飛ばすことによって始まった。力負けしたクラウンは後方に下がりながら体勢を立て直そうとするが、その前に響が距離を詰めていく。
響が聖剣を横に振り抜くとクラウンはその剣を受け流そうとする。だが、受け流すことは出来ず、むしろ刀を弾かれてしまい、がら空きになった胴体に勢いの乗った跳び蹴りが刺さっていく。
「ぐほぉっ!」
体が強制的にくの字へと曲げられていき、その状態のまま高速で地面の上を飛んでいく。すると、響は半神となった力を活かして先回りしていくと聖剣を上段に構えた。
そして、タイミングよく両断するかの如く振るっていく。しかし、咄嗟に振り向いたクラウンが刀を横に向けることでで聖剣を受け止めた。
そのたった一撃だけで周囲に突風のような風が発生していく。ギギギギッと刀と剣が擦り合ってオレンジ色の火花を散らす中、動いたのは響であった。
響はクラウンの刀を押し込むようにして弾くとすぐに剣を引き戻し、右手だけで持って突き出した。その攻撃をクラウンは半身で避けると刀を思いっきり振り下ろそうとする。
しかし、響はその行動を予測していたのか左手でクラウンの右手首を掴むと剣を戻しながら、右脚で上段蹴りをしていく。だが、その攻撃はクラウンが左腕を立てにしたことで防がれた。
互いの強い眼差しが火花を散らすように衝突していく。発生した風が黒い髪と白い髪を勢いよく揺らしていく。
「あああああああ!」
「くっ.......!」
響は唐突に雄叫びを挙げると右脚を体重を乗せるようにしながら押し込んでいく。その力にクラウンの左腕は徐々に押し込まれていく。
そして、耐えきれなくなったクラウンは後方へ離脱した。すると、響は足を振りきった方向へと一回転すると下から上に剣を振り上げていく。
放ったのは巨大な光の斬撃。地面を粉砕、消滅させながらクラウンへと向かっていく。その攻撃をクラウンは咄嗟に地面へと糸を伸ばすと自身の体を引っ張らせた。
「おらあああああ!」
「くっ!」
強制的に横っ飛びするような感じで斬撃を避けていくが、避けた先にはすでに響が迫っていた。そして、響は勢いの乗った膝蹴りでクラウンの顔面を狙う。
クラウンは腕をクロスさせることでガード。しかし、空中に体が浮いていたので衝撃を緩和することが出来ずに勢いよく吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
響はその光景を見ながらすぐに行動しなかった。それは先ほどのクラウンの行動に違和感を感じたからだ。
その違和感とは―――――――
「お前、今の糸は何の魔法なんだ?」
響は思わず質問した。敵に魔法のタネを教えるほど魔王はバカじゃないと思いつつも、その糸に関して尋ねたくなる気持ちが抑えられなかったのだ。
その気持ちは仕方ないことだ。響が戦っているのはあくまで魔王だ。その魔王がクラウンであるということは知る由もない。
故に、響は少し困惑気味であった。どうして魔王がその魔法を使えるのかと。その魔法を使えるのは仁だけであって、仁は特殊な役職である「糸繰士」という役職で得た魔法なのだ。
その魔法と酷似した魔法を魔王が使っている。ということは、魔王が仁であるとでも言いたいのだろうか。
いや、それはあり得ない。人族と魔族は相いれない。仁が魔族と関わるなんてありえないはず.......だ。
響は考えの答えに対する歯切れが悪かった。それはバリエルートの件を思い出していたからだ。
あの時、魔族は仁を守るように戦いに割って入ったようにも見えなくなかった。それに、仁の近くにいたの女の子は魔族であって―――――――
だが、違う。違うはずだ。なぜなら、魔王との決定的な違いがある。それは――――――角だ。見る限り魔王は角生えている。それだけで決定的に違うはずだ。
響は「魔王が何らかの形で似たような魔法を使うようになったのだろうと思う」とすぐに目の前の戦闘に意識を集中させた。
すると、クラウンはヒビの入った醜い笑みを浮かべたような仮面を見せつけるようにして笑い始めた。
「くくく、追撃をしてこねぇなんて随分と余裕じゃねぇか。クソ勇者。オレをいつでも殺せるから追撃して来なかったのか? それとも情でも湧いちまったか?」
「お前みたいな非道な奴に湧く情などない」
「ははははは、だとよ! オレぇ! 言われちまったなぁ!」
クラウンは立ち上がると両手を広げながら高笑い。何がおかしいのかわからない響は舐められているような気分になり思わず腹が立った。
だから、響は右手に持った聖剣を向ける。そして、鋭い目つきを向けながら言った。
「お前は僕には勝てない。この力がある限り、僕は負けない」
「ははは、それ死亡フラグって言うんだろ? 知ってるぜ。それにお前の力は禁忌の力と見た。その力が何の代償もなく使えるはずはないよな?」
「......」
「図星か。くくく、ふははははは! その代償はなんだ? 大切な存在の死か? それとも死の恐怖か? 感情か? もしくは――――――記憶か?」
「.......」
「だんまりか。ということは、それらのどれかなんだろうなぁ。なら次はその代償をすでに払って使えるのか? それとも現在も代償支払っているのか?」
「――――――――れ」
「あ? なんか言ったか? まあいい。神の力と言ったよな? ということは、その力がたかだか代償をすでに支払って使えるとは思えねぇ。それだとその力を解かない限り無限に使えることになっちまうからな。ということは、今も払ってんのか――――――代償を」
「黙れって言ってんだろおおおおお!」
響は地面を踏み割るほど勢いよく蹴るとクラウンへと直進していく。そして、周囲が歪むほどの高速移動の中で、響は聖剣を両手で上段に構える。
クラウンの前まで近づくと響は思いっきり聖剣を振り下ろした。その攻撃をクラウンはあえて受け止めるように刀を横に構えた。
瞬間、刃が鋭い金属音を響かせて衝突する。その衝撃で周囲に突風が吹き荒れ、クラウンが踏んでいる地面は大きくひび割れていく。
その状態の中、クラウンは仮面の奥の黄色い瞳孔を響に向けながら言った。
「図星じゃねぇか。ははは、ははははは! 何を支払ってんのか知らねぇが、そりゃあそうだろうな! そんな異常の力が代償を支払わずして使えるはずがねぇもんな!」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れええええええ!」
響は激昂しながらそう言うが、実際のところクラウンの言う通りであった。
現在、響が<神格化>を使うにあたって支払っているのは記憶。その記憶は使い続けるたびに古い記憶からどんどんと消えていっている。
使うにあたって最初に消えたのは幼い頃の両親の記憶、そして幼稚園の記憶、次には小学校で仁と初めて会った記憶、それから一緒に遊んだ記憶。
響が仁と積み重ねてきた大切な記憶が一秒一秒立つたびに消えていっている。仁と過ごした時間は膨大で、別に名前や性格、趣味などを忘れるわけではない。
しかし、昔の記憶を消されるということはこれまで共有してきた思い出を思い出せなくなる、否、なかったことにされてしまうのだ。
初めて出会った時のことも、一緒に虫取りや川遊びをしたことも、一緒に怒られたときのことも、他愛のない会話に至るまで全てを。
その苦痛を響が完全に受け止めているはずがなかった。戦っている最中も刻一刻と消えていく記憶に目を背けていただけなのだ。
意識してしまうと忘れないようにしようとしてしまって戦いどころではないから。だから、出来れば相手する魔王が強くないことを願った。
だが、ニセモノの教皇が「魔王殺し」を強調するぐらいだ。そう簡単にはいかないとは思っていた。だからこそ、今の今まで考えなかったようにしていたのに。
「お前は......お前はどれだけ人をコケにすれば気が済むんだ!」
「それがお前らがした選択だろう? お前らこそ、コケにした人物のことを忘れわけじゃないよな?」
その声は酷く低かった。そして、とても冷たかった。全身に冷気を浴びせられたかのように酷く説得力のある言葉で、まるで自分と魔王にどこか関わりがあるような感じであった。
そのことに響は困惑する。だが、その思考にと捕らわれ過ぎてはいけない。今は戦闘中なのだ。少しでも油断すれば殺されるのはこっちだ。
クラウンは響の聖剣を押し上げて弾くとすぐに横なぎに振るった。響は咄嗟に空中に魔法陣を作り出し、蹴ることで避けようとするが、腹部を少しだけ鎧ごと斬られてしまった。
しかし、響は痛みに堪えながら右手に剣を下から上に切り上げる。その攻撃はクラウンが後ろに下がることで避けられるが、響はすぐに振り上げた聖剣を両手で持って振り下ろした。
その攻撃も避けられるが振り下ろした衝撃で放たれた斬撃はクラウンの眼前へと差し迫る。
クラウンは咄嗟に斬撃を放って相殺。その衝撃で地面が爆発し、周囲に粉塵が立ち昇った。これによって視界は不良に。
そんな状況でも響は敵の位置がわかっているかのように躊躇いなく飛び込むとそのまま飛び蹴り。クラウンに左腕で受け止められるのがわかるとすぐに距離を取る。
すると、今度はクラウンが刃先を響に向けて風切り音を立てながら鋭く突いた。それを半身で避けると右手に持った剣を振り下ろす。
クラウンは軌道を読んで左手で響の右手首を掴んで攻撃を防ぐ。しかし、それは響が誘導させた防ぎ方。クラウンの右腕は未だ伸ばしっぱなしで正面はがら空き。
「そこだああああ!」
響は気合の左ストレートをクラウンの顔面に叩き込んだ。その瞬間、クラウンのひび割れていた仮面はさらにそのヒビを大きくさせ――――――割れた。
そして、その仮面の下から現れた顔は―――――――
「.......仁?」
「よお、久しぶりだな」
響が想像だにしない人物は醜く口元を歪めた。
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