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第10章 決戦
第216話 神を殺そうとする男と魔王を殺そうとする男#1
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現在、荒野とも呼べなくなったこの戦場において二人の男が立っていた。
一人は背後に大勢の味方の視線を集めながら聖剣を片手に持った勇者である響と全身を黒く禍々しい鎧に身を包み嘲笑うかのような仮面をつけた黒い刀を持つ魔王であるクラウン。
当然響はこの時、魔王がクラウンこと【海堂 仁】であることは知らず、クラウンは仁の意識を持たない全く別の何かであるため気にすることもない。
「どうだ? オレの余興は楽しんでくれたか?」
「ふざけるな! どうして同じ仲間なのにこんな酷いことが出来るんだ!」
響はこれまでの目にしてきた数々を思い出し、激情のままに言葉を吐き出した。しかし、クラウンはその様子すら楽しんでいるかのように告げる。
「はっ、仲間? この世界に本当に仲間なんて呼べる奴はいねぇよ。信じても裏切られ、信じても見捨てられ、挙句の果てには殺されかける」
「.......!」
「そんな状況の中でどうやって仲間を信じていけばいいってんだ? 教えてくれよ、なぁ!」
クラウンは響に真正面から向かっていく。その初速は響が想定していたよりも数倍速く、響がクラウンの存在を認識したころにはすでに眼前へと迫っていた。
そして、その近距離から繰り出される殺意の刃は響の首を刈り取ろうと急速に接近していく。しかし、響は間一髪のところで聖剣を間に滑り込ませて攻撃を防いだ。
それから、咄嗟に距離を取ろうとする響であったが、その時にはすでに背後へと回り込まれていた。すぐに背後へと振り向くが鋭く重たい回し蹴りが響の脇腹を捉え、吹き飛ばしていく。
響は地面にあえて転がることで威力を軽減させていくと体勢を立て直しながらも、左手で蹴られた脇腹を押さえた。
すると、クラウンは響に向かって告げる。
「まさかとは思うけどさ、お前が従えた仲間が全員お前を信用してくれてると思ってるのか? お前は何を基準に相手を信用したんだ? 何を基準に信用されてると思ってるんだ?」
「.......」
「まさか多少仲良くなったぐらいで信用されてるし、するのか? だとしたら、お前の行動は全くもって滑稽だ。そして、そういう奴は大抵簡単に裏切られんだよ」
「.......こんなことをするお前に何がわかるってんだ!」
響は地面を力強く蹴っていくと魔王に向かって袈裟切りに聖剣を振るう。しかし、クラウンはその聖剣を弾くと空いた胴体へと蹴りを入れていく。
その攻撃を響は一歩横にずれて半身に避けると仮面を狙うように上段蹴りをしていく。だが、その蹴りはクラウンの左腕一本で止められる。
そして、クラウンは響へと刀を思いっきり振り下ろす。その瞬間、地面は爆発音ともに大きく砂煙を立ち昇らせた。
その砂煙から響はバックステップで距離を取っていく。さらに、その状態から光の斬撃を放った。
「なら、聞くがよぉ。逆にお前は何を知ってんだぁ?」
「.......!」
響は思わず戦慄した。上から目線するように顔を上げた状態から見える僅かな黄色い瞳孔。その目で見られた瞬間、言葉が物理的な威力を伴ったかのように響を一時的に硬直させた。
その硬直が今の戦いにおいては危険であった。
クラウンは超級巨人の体すら消滅させた光の斬撃を刀を振るっただけで蹴散らしていく。
そして、響の一瞬の硬直が解ける前にがら空きの腹部に左拳を叩き込んでいく。
「ぐふぉっ!」
肺の空気が強制的に排出された響は痛みに悶えながら物凄い速さで吹き飛ばされていく。すると、クラウンはすぐに追撃を開始する。
地面を素早く蹴りながらどんどんと吹き飛ばされていく響へと距離を詰めていく。しかし、響は根性で聖剣を地面に刺し込んでブレーキをかけていくと正面から迫っていくクラウンへと咄嗟に剣を動かしていった。
「僕にはまだ答えはわからないけどな! お前がしてきたことがどれだけダメなことぐらいはわかるつもりだああああ!」
「ぐっ.......!」
響の聖剣は最短最速の距離で横なぎに振るわれると響が止まったことでタイミングが狂ったクラウンにカウンターを決めていく。
その聖剣はクラウンの脇腹をやや深めに斬り込んでいき、クラウンはバランスを崩した勢いで地面を転がっていく。
しかしすぐに、体勢を立て直すと響へと直進していく。
「どうせ仲間に裏切られるんだったらなぁ! 最初から利用するに限るんだよぉ! だから、俺はあいつらの肉体を一つ残らず利用してやっただけに過ぎねぇんだ! お前は仲間を裏切ったことがねぇとでもいうつもりかあああああ!」
「それは―――――――くっ!」
クラウンは進行中に斬撃を放つと響はその斬撃を避けていく。その軌道に合わせてクラウンは左手を伸ばし――――――引いた。
その瞬間、響はバランスを崩し、顔面からクラウンの膝蹴りの一撃を受けていく。その勢いで響は鼻から鮮血を流しながらその場でひっくり返っていく。
その隙を逃さないクラウンは通り過ぎてもなお地面を深く踏み込んで無理やり方向転換させると胴体へと刀を突き刺そうとする。
響は聖剣でその突きを受け止めながら軌道を変えていく。だが、完全に軌道を逸らすことは出来ず脇腹斬り裂いていった。
しかし、そのままでは響は終わらなかった。痛みを堪えながら無理やり体を横にねじっていくと着地。そこから聖剣を横なぎに振るっていく。
突きの状態であったクラウンはすぐに動くことが出来ず、黒の鎧を斬り裂かれながら薄く肌を斬られていった。
だが、クラウンはそんな状態でもニヤッと笑う。
「心当たりがあるんじゃねぇかよ! クソ勇者あああああ!」
「ぐふっ!」
クラウンは斬られたことなどお構いなしに右腕を戻していくとそのままねじりながら左拳のフックを響の顔面へと決めていく。
さらにがら空きの胴体に鋭い蹴りも入れていく。その攻撃によって響の体はくの字に曲がっていき、地面を転がっていった。
「まだまだあああああ!」
クラウンは刀を両手で持つと大きく頭上に掲げていく。そしてそこから、真下の地面に向かって叩きつけていく。
すると、その刀から発生した斬撃は大地を切り裂きながら、粉塵と地面の瓦礫をまき散らして響へと突き進んでいく。
目前へと迫る斬撃に聖剣に支えにして立ち上がると咄嗟に横っ飛びする。すると、その斬撃は大きく魔族兵や兵士を巻き込みながら消えていった。
地面に巨大な斬り込みが現れる。響が超級巨人に放った光の斬撃による一撃とはまた違い、武術の達人が竹を斬った切断面のようにキレイに地面は裁断されていた。
それでいて斬り込んだ深さは底が見えないほど深い。もしあの斬撃を受け止めていれば、下手すれば聖剣ごと両断されていたかもしれない。
それだけの切れ味と威力を持った一撃に響は思わず息を飲む。思わぬ形で魔王と戦うことになってしまったが、自分が想定していたよりも何倍も魔王は強い。ならば、出し惜しみはしない方が良いのか.......。
「おいおい、何呆けてやがんだ? クソ勇者。まさかこれにビビったわけじゃねぇだろうな? オレはまだ力の半分も出してねぇが?」
「ビビってなんかはない。もうそんな感情はとっくに捨てたんだ。僕は僕の目的のためにお前を討つ。それに正直安心したんだ」
「安心だと?」
響は地に伏した体をゆっくりと起こしていく。そして、聖剣をクラウンに向けてすぐに何が起こっても対処できるようにしていく。
それから、その顔には余裕とも捉えられる笑みが浮かんでいた。そのことにクラウンは僅かに仮面の奥から見える目を細める。
「ああ、僕は正直一つだけ懸念があったんだ。魔族がどんなにこの世界で悪く思われようとも、僕はその魔族がどれだけ悪い存在なのかははっきりわからない。言伝で言われても僕の世界とこの世界じゃ感覚が違ったからあまりわからなかった」
「何が言いたい?」
「単純なことだよ―――――――お前がただの純粋悪であるから殺すことに躊躇いが必要ないってことだ!」
響はその瞬間、体中から白く神聖な魔力を溢れ出していく。神々しいとも言えるその魔力はゆらゆらと響の髪を逆立たせながら揺らしていく。
その響の変化にクラウンは警戒しながらも、仮面の奥で言葉の意味に笑った。
「純粋悪だぁ? この世界に悪はねぇんだよ。人と人のケンカも、人と魔物の小競り合いも、人族と魔族の戦争もお前達の正義と俺達の正義がぶつかっているにすぎない。お前らはただお前らの正義から外れたもの悪と言っているだけだ。オレはオレの正義のためにてめぇらを殺してぇんだ。そこを履き違えんじゃねぇぞ、クソ勇者ぁ!」
クラウンは左手で標準を合わせ、右手に持った刀を刃先を響に向けて上段に構えていく。
「仲間を道具のようにしかお前が正義を語るな。お前がその言葉を使う権利はない」
「信用し、裏切られ、殺されかけそれでいて何を信じろと? オレの言葉の意味を一番理解ししてるのはお前じゃねぇのか?」
「.......どういうことだ?」
「嫌でもすぐにわかる」
響の体が増々神々しくなっていく。その光に合わせ響の体にも変化が起こり始めた。それは手や首筋かた頬のあたりにかけて緑色の紋章のようなものが浮かび上がったからだ。
加えて、響の茶色がかった黒髪がどんどん真っ白に変わっていき、響の背後には後光が刺しているかのような光の翼が生え始めた。
その変化にクラウンは思わず目を見開く。
「これは僕が僕の全てを守るために記憶を代償にして得た力――――――神格化だ。お前は強いだからこそ出し惜しみなく使わせてもらう」
響は足を少し大きめに上下に開いていくと聖剣をクラウンに向ける。すると、クラウンはその響の姿を見て小刻みに震えだした。
そして、大きく笑いだす。
「がはははは! マジか! 笑わせることが役目のこのオレがまさか笑わせられるとはな!」
「何がおかしい?」
「こっちのことだ。気にするな。だがまあ、まさかここまでハマリ役とは思わなかったな。ここでお前を殺せば神殺しでもあるってことだからなぁ!」
クラウンは響に突撃する。そして、左手を刀の柄に添える。
響はクラウンに向かって突撃する。そして、聖剣を上段に構える。
「これで決める!」
「楽しくなりそうだなぁ!」
二人は勢いよく刃を交わらせる。その衝撃は周囲の兵士達の動きを止め、吹き飛ばしていくほどであった。
一人は背後に大勢の味方の視線を集めながら聖剣を片手に持った勇者である響と全身を黒く禍々しい鎧に身を包み嘲笑うかのような仮面をつけた黒い刀を持つ魔王であるクラウン。
当然響はこの時、魔王がクラウンこと【海堂 仁】であることは知らず、クラウンは仁の意識を持たない全く別の何かであるため気にすることもない。
「どうだ? オレの余興は楽しんでくれたか?」
「ふざけるな! どうして同じ仲間なのにこんな酷いことが出来るんだ!」
響はこれまでの目にしてきた数々を思い出し、激情のままに言葉を吐き出した。しかし、クラウンはその様子すら楽しんでいるかのように告げる。
「はっ、仲間? この世界に本当に仲間なんて呼べる奴はいねぇよ。信じても裏切られ、信じても見捨てられ、挙句の果てには殺されかける」
「.......!」
「そんな状況の中でどうやって仲間を信じていけばいいってんだ? 教えてくれよ、なぁ!」
クラウンは響に真正面から向かっていく。その初速は響が想定していたよりも数倍速く、響がクラウンの存在を認識したころにはすでに眼前へと迫っていた。
そして、その近距離から繰り出される殺意の刃は響の首を刈り取ろうと急速に接近していく。しかし、響は間一髪のところで聖剣を間に滑り込ませて攻撃を防いだ。
それから、咄嗟に距離を取ろうとする響であったが、その時にはすでに背後へと回り込まれていた。すぐに背後へと振り向くが鋭く重たい回し蹴りが響の脇腹を捉え、吹き飛ばしていく。
響は地面にあえて転がることで威力を軽減させていくと体勢を立て直しながらも、左手で蹴られた脇腹を押さえた。
すると、クラウンは響に向かって告げる。
「まさかとは思うけどさ、お前が従えた仲間が全員お前を信用してくれてると思ってるのか? お前は何を基準に相手を信用したんだ? 何を基準に信用されてると思ってるんだ?」
「.......」
「まさか多少仲良くなったぐらいで信用されてるし、するのか? だとしたら、お前の行動は全くもって滑稽だ。そして、そういう奴は大抵簡単に裏切られんだよ」
「.......こんなことをするお前に何がわかるってんだ!」
響は地面を力強く蹴っていくと魔王に向かって袈裟切りに聖剣を振るう。しかし、クラウンはその聖剣を弾くと空いた胴体へと蹴りを入れていく。
その攻撃を響は一歩横にずれて半身に避けると仮面を狙うように上段蹴りをしていく。だが、その蹴りはクラウンの左腕一本で止められる。
そして、クラウンは響へと刀を思いっきり振り下ろす。その瞬間、地面は爆発音ともに大きく砂煙を立ち昇らせた。
その砂煙から響はバックステップで距離を取っていく。さらに、その状態から光の斬撃を放った。
「なら、聞くがよぉ。逆にお前は何を知ってんだぁ?」
「.......!」
響は思わず戦慄した。上から目線するように顔を上げた状態から見える僅かな黄色い瞳孔。その目で見られた瞬間、言葉が物理的な威力を伴ったかのように響を一時的に硬直させた。
その硬直が今の戦いにおいては危険であった。
クラウンは超級巨人の体すら消滅させた光の斬撃を刀を振るっただけで蹴散らしていく。
そして、響の一瞬の硬直が解ける前にがら空きの腹部に左拳を叩き込んでいく。
「ぐふぉっ!」
肺の空気が強制的に排出された響は痛みに悶えながら物凄い速さで吹き飛ばされていく。すると、クラウンはすぐに追撃を開始する。
地面を素早く蹴りながらどんどんと吹き飛ばされていく響へと距離を詰めていく。しかし、響は根性で聖剣を地面に刺し込んでブレーキをかけていくと正面から迫っていくクラウンへと咄嗟に剣を動かしていった。
「僕にはまだ答えはわからないけどな! お前がしてきたことがどれだけダメなことぐらいはわかるつもりだああああ!」
「ぐっ.......!」
響の聖剣は最短最速の距離で横なぎに振るわれると響が止まったことでタイミングが狂ったクラウンにカウンターを決めていく。
その聖剣はクラウンの脇腹をやや深めに斬り込んでいき、クラウンはバランスを崩した勢いで地面を転がっていく。
しかしすぐに、体勢を立て直すと響へと直進していく。
「どうせ仲間に裏切られるんだったらなぁ! 最初から利用するに限るんだよぉ! だから、俺はあいつらの肉体を一つ残らず利用してやっただけに過ぎねぇんだ! お前は仲間を裏切ったことがねぇとでもいうつもりかあああああ!」
「それは―――――――くっ!」
クラウンは進行中に斬撃を放つと響はその斬撃を避けていく。その軌道に合わせてクラウンは左手を伸ばし――――――引いた。
その瞬間、響はバランスを崩し、顔面からクラウンの膝蹴りの一撃を受けていく。その勢いで響は鼻から鮮血を流しながらその場でひっくり返っていく。
その隙を逃さないクラウンは通り過ぎてもなお地面を深く踏み込んで無理やり方向転換させると胴体へと刀を突き刺そうとする。
響は聖剣でその突きを受け止めながら軌道を変えていく。だが、完全に軌道を逸らすことは出来ず脇腹斬り裂いていった。
しかし、そのままでは響は終わらなかった。痛みを堪えながら無理やり体を横にねじっていくと着地。そこから聖剣を横なぎに振るっていく。
突きの状態であったクラウンはすぐに動くことが出来ず、黒の鎧を斬り裂かれながら薄く肌を斬られていった。
だが、クラウンはそんな状態でもニヤッと笑う。
「心当たりがあるんじゃねぇかよ! クソ勇者あああああ!」
「ぐふっ!」
クラウンは斬られたことなどお構いなしに右腕を戻していくとそのままねじりながら左拳のフックを響の顔面へと決めていく。
さらにがら空きの胴体に鋭い蹴りも入れていく。その攻撃によって響の体はくの字に曲がっていき、地面を転がっていった。
「まだまだあああああ!」
クラウンは刀を両手で持つと大きく頭上に掲げていく。そしてそこから、真下の地面に向かって叩きつけていく。
すると、その刀から発生した斬撃は大地を切り裂きながら、粉塵と地面の瓦礫をまき散らして響へと突き進んでいく。
目前へと迫る斬撃に聖剣に支えにして立ち上がると咄嗟に横っ飛びする。すると、その斬撃は大きく魔族兵や兵士を巻き込みながら消えていった。
地面に巨大な斬り込みが現れる。響が超級巨人に放った光の斬撃による一撃とはまた違い、武術の達人が竹を斬った切断面のようにキレイに地面は裁断されていた。
それでいて斬り込んだ深さは底が見えないほど深い。もしあの斬撃を受け止めていれば、下手すれば聖剣ごと両断されていたかもしれない。
それだけの切れ味と威力を持った一撃に響は思わず息を飲む。思わぬ形で魔王と戦うことになってしまったが、自分が想定していたよりも何倍も魔王は強い。ならば、出し惜しみはしない方が良いのか.......。
「おいおい、何呆けてやがんだ? クソ勇者。まさかこれにビビったわけじゃねぇだろうな? オレはまだ力の半分も出してねぇが?」
「ビビってなんかはない。もうそんな感情はとっくに捨てたんだ。僕は僕の目的のためにお前を討つ。それに正直安心したんだ」
「安心だと?」
響は地に伏した体をゆっくりと起こしていく。そして、聖剣をクラウンに向けてすぐに何が起こっても対処できるようにしていく。
それから、その顔には余裕とも捉えられる笑みが浮かんでいた。そのことにクラウンは僅かに仮面の奥から見える目を細める。
「ああ、僕は正直一つだけ懸念があったんだ。魔族がどんなにこの世界で悪く思われようとも、僕はその魔族がどれだけ悪い存在なのかははっきりわからない。言伝で言われても僕の世界とこの世界じゃ感覚が違ったからあまりわからなかった」
「何が言いたい?」
「単純なことだよ―――――――お前がただの純粋悪であるから殺すことに躊躇いが必要ないってことだ!」
響はその瞬間、体中から白く神聖な魔力を溢れ出していく。神々しいとも言えるその魔力はゆらゆらと響の髪を逆立たせながら揺らしていく。
その響の変化にクラウンは警戒しながらも、仮面の奥で言葉の意味に笑った。
「純粋悪だぁ? この世界に悪はねぇんだよ。人と人のケンカも、人と魔物の小競り合いも、人族と魔族の戦争もお前達の正義と俺達の正義がぶつかっているにすぎない。お前らはただお前らの正義から外れたもの悪と言っているだけだ。オレはオレの正義のためにてめぇらを殺してぇんだ。そこを履き違えんじゃねぇぞ、クソ勇者ぁ!」
クラウンは左手で標準を合わせ、右手に持った刀を刃先を響に向けて上段に構えていく。
「仲間を道具のようにしかお前が正義を語るな。お前がその言葉を使う権利はない」
「信用し、裏切られ、殺されかけそれでいて何を信じろと? オレの言葉の意味を一番理解ししてるのはお前じゃねぇのか?」
「.......どういうことだ?」
「嫌でもすぐにわかる」
響の体が増々神々しくなっていく。その光に合わせ響の体にも変化が起こり始めた。それは手や首筋かた頬のあたりにかけて緑色の紋章のようなものが浮かび上がったからだ。
加えて、響の茶色がかった黒髪がどんどん真っ白に変わっていき、響の背後には後光が刺しているかのような光の翼が生え始めた。
その変化にクラウンは思わず目を見開く。
「これは僕が僕の全てを守るために記憶を代償にして得た力――――――神格化だ。お前は強いだからこそ出し惜しみなく使わせてもらう」
響は足を少し大きめに上下に開いていくと聖剣をクラウンに向ける。すると、クラウンはその響の姿を見て小刻みに震えだした。
そして、大きく笑いだす。
「がはははは! マジか! 笑わせることが役目のこのオレがまさか笑わせられるとはな!」
「何がおかしい?」
「こっちのことだ。気にするな。だがまあ、まさかここまでハマリ役とは思わなかったな。ここでお前を殺せば神殺しでもあるってことだからなぁ!」
クラウンは響に突撃する。そして、左手を刀の柄に添える。
響はクラウンに向かって突撃する。そして、聖剣を上段に構える。
「これで決める!」
「楽しくなりそうだなぁ!」
二人は勢いよく刃を交わらせる。その衝撃は周囲の兵士達の動きを止め、吹き飛ばしていくほどであった。
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