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第10章 決戦
第212話 開戦と地獄
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――――――時が満ちた。
大勢の群が隊列を組みながら広大とも言える荒野に並び、その荒野の先に見える一つの城を眺めている。その城の一か所は何かの戦闘が行われたかのような穴が開いており、その穴のすぐ近くには一人の男が立っていた。
その男は全身を黒い鎧で纏い、その鎧には魔族特有の紋章が入った赤いマントがつけられている。さらに、その男は顔を隠すように仮面をつけ、その仮面は荒野に広がる軍勢に対して嘲笑っているかのようであった。
その姿を見た響は静かな面持ちであった。緊張するでもなく、臆するでもなく。ただありのままを受け入れるように何の感情の揺らぎもなく。
遠くから姿を眺めていることしかできないが、なぜだか目が合っているような感覚がする。そして、その人物にどこか親近感のようなものを感じた。
ふざけた話だ。これから殺し合うというのに相手に情を湧くなど。それはメリットもなければ、ただの足かせでしかない。
響はもはや感情のない瞳を向けたまま、左手で腰にある鞘へと触れた。もう後がない。進むしかない。
「いい表情をするようになったじゃない」
「エルザ様.......」
響はふと隣からかけられた声に反応する。そのエルザと呼ばれた女性は帝国グランシェルの女王であり、この群を指揮する最高責任者である。
エルザは闘技場からしばらく見ていなかった響を久々に見て思わず舌を巻いた。それは良い意味と悪い意味の両方で。
「もう今更ですけど、本当にこんな所まで来て良かったのですか?」
「本当に今更な質問ね。現にここにこうして立っていることが正解じゃない。それに私がいなくたって帝国は夫が回すし、あなたの国はもうスティナしか王位継承権を持つ人がいないんでしょう? 血筋的な意味でね」
「深いことはわかりませんが、恐らくそうだと思います」
「だとしたら、王族不在で国を回そうだなんてそんなふざけた話はないわ。それにこういうのは私の方があの子よりは上手だしね」
エルザは腰に手を当てながら自信ありげに胸を張る。そのことに響は思わず苦笑いした。だが、もう止めるような言葉を言うことはなかった。
「ようやく人を殺す覚悟を持ったようね」
「殺す.......まあ、もう何人か手にかけてますしね。これが希望の道であるなら進むしかないですよ。今更そんなことで悩むのはもう止めました」
「.......」
響は勇敢というよりもどこか影があるような表情でエルザの言葉に返答していく。その言葉にエルザは言葉には出さなかったが、「面白みが無くなった」と内心で思った。
「それで、そろそろ準備はいいかしら? この軍はあなた達異世界勇者が筆頭となって道を切り開いていき、その道を進撃していくということになってるわ。手加減は不要よ。出来る限り多くの敵を蹴散らせて、あなたは向かうべき場所に向かって行きなさい」
「わかりました」
そう言うとエルザは響のそばから離れ、軍の後ろの方へと歩いて行く。その姿を尻目に見ながら、視線を前方に広がる敵軍へと向けていく。
響はその敵軍を見て違和感を感じていた。数は他の国にかけあって集めた自分達連合軍と似たような数である。違いがあるとすれば、突出して大きい魔族や魔物に乗った魔族がいたり、その後方に不自然な山のようなものがあったり......あれは違うのか?
とはいえ、普通は他の国のそれぞれの意見が混じった連合軍よりも一つの種族で統括された魔族軍の方が士気は圧倒的に高いはずである。
にもかかわらず、見ている限りだとそのような士気の高まりは感じられず、あまりにも静かである。まるでこれから人形と相手をするみたいに。
覇気がないのだ。自分達連合軍よりも圧倒的に。その静けさが響に僅かな不安を抱かせた。するとここで、後方からエルザの声が響き渡る。
「諸君! よく聞け! この戦いは勝利する! そう勝利するのだ! なぜなら私達の軍には魔王討伐のために天から遣わされた者達がいる! それが勇者達だ! 彼らが先陣を切って戦いに出向く以上、勝利は揺るがない! 敗北など決してない! 故に、無駄死にをするな! 勇者達がいるのだ! その者達に絶対的な信頼を授け、殺される前に殺せ! できる限り多くの命がまた帰って来れるよう願っている! それがは行くぞ!――――――我らが世界の勝利のために!」
「「「「「我らが世界の勝利のために!」」」」」
「進めええええぇぇぇぇ!」
「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」
その言葉に響達接近戦を得意とする部隊が魔族軍に向かって向かっていく。するとすぐに、あらかじめ詠唱を済ませていた後方の魔術師部隊が広範囲魔法を放っていく。
勇者の進撃に合わせて進撃し始めた魔族の軍に天から落ちる巨大な雷、天を焦がす巨大な火柱、天へと昇っていく巨大な竜巻、天から降り注ぐ巨大な氷塊、大地を飲み込む巨大な地面の大波が魔族軍を容赦なく殲滅していく。
しかし、それでもその攻撃から逃れた魔族軍は周りの状況も気にする様子なく走り迫ってくる。すると、響は引き抜いてた聖剣を頭上へと掲げ、魔族軍に向かって振り下ろした。突撃の合図だ。
響の行動に後方にいた聖騎士や兵士は左手に持った盾と右手に持った剣を同時に前方に突き出しながら、タックルするように進んでいく。
そして、響が魔族軍に切り込みを入れて道を開けた数秒後に多くの兵士達が魔族へと突き出した剣を刺しにいった。
それによって前方にいた魔族の多くはその一撃にやられ、地面に倒れていく。しかし、魔族が全員人族と同じような体系をしているわけではない。
魔族もまた大きな「魔族」という種でありながら、その魔族にもいろいろな種族が存在している。それによって個体差は異なり、人族と同じように接近戦が得意な種族、遠距離戦が得意な種族、多彩な道具を使う種族といろいろあるが、その中でも特に厄介な種族が二つある。
誰かが叫んだ。
「まずい巨人だー!」
巨人と呼ばれる魔族は他の魔族や兵士に比べて頭二つ、三つほど飛びぬけていた。それは大きさという面に関して。
大きさ―――――つまり身長が大きいというのは戦いにおいては大きなアドバンテージがある。身長の違いはリーチの長さに直結し、同時にその体を支えるために筋肉量に関しても大きくかかわってくる。
言わずもがな、身長が大きければ、それに合わせ腕も長くなり、武器を持てばさらに当たる範囲は広くなる。
そして、力も当然強くなる。この世界の平均的な男性の身長のサイズが175センチほどだが、それがそのまま2、3メートル大きくなったわけじゃない。
その種族自体の平均身長が2、3メートルなわけであって、身長が大きくてもガリガリというわけではないのだ。
例えるならばボブサップをさらに二回りぐらい大きくしたぐらいであろうか。そんな筋肉隆々で何倍もの巨体で繰り出される一撃は――――――
「「「「ああああああ!」」」」
「グギャアアアア!」
――――――容易に人を粉々にしていく。
その全身緑でアメリカン・コミックの超人ハルクを彷彿とさせるような巨人のこん棒の一撃は人の体を紙か何か出来ているようにひしゃげた。
その巨人の攻撃の時の武器がこん棒であったからまだ原型が残っているが、それが刃物であれば上半身、下半身と両断されていることは間違いないだろう。とはいえ、攻撃に当たればどちらも変わらず等しい死が与えられていくのだが。
その巨人がたまたまこん棒を使っているだけであって、他の巨人も全員こん棒を使っているとは限らず当然刃物を扱者もいる。
さらに、その巨人は魔族軍として集められているので鎧を着ている。圧倒的な攻撃力で持って、簡単には通用しない防御力も兼ね備えている。
その巨人は兵士達から見れば最強の矛と最強とは言えなくともある程度の攻撃を防ぐ盾を持っている時点で恐ろしく脅威であろう。
そしてもう一体のたっかいな種族はと言うと―――――
「魔物使いだー!」
また誰かが叫んだ。その魔物使いと呼ばれる種族はまさしく名前の通りで魔物を使役して戦うのだ。
その種族は平均して小学一年生のように身長が小さい。それは先ほどの巨人に比べると圧倒的なデメリットを背負っていることになるが、それを埋めるのが彼らが使役する魔物である。
その魔物は使役する者によってさまざまだ。故にまとまりがなく、その魔物ごとに倒し方が異なってくる場合があるので非常に厄介だ。
加えて、彼から乗るような魔物は総じて大きい。最低3メートルなんて大きさは当たり前で大きければ10メートルほどの魔物も使役している。
つまり、その魔物に対して圧倒的に小さい彼らは的になりにくいということだ。的になりにくいととは、いつまで経っても指揮官がそばにいるということであり、魔物特有のパターンにも似た攻撃をしてこないということだ。
故に、人よりも厄介な攻撃が多いくせにどの攻撃をしかけてくるか予測が追いつかないということだ。加えて、大きいためにその魔物を倒すためには最低で数人がかりで距離を取って戦わなければいけない。
しかし、ここは戦場だ。多くの軍が突撃して密集している。それはつまり――――――
「まずいブレスが来るぞ!」
「離れろ! どけって!」
「邪魔だ! 死にたくない―――――」
「ガアアアアアア!」
「「「ああああああ!」」」
――――――魔物にとっては格好の餌食であるということだ。
周囲には普通の魔族がひしめき合うとともに巨人と魔物使いが敵味方関係なく攻撃をしていく。そこはまさに地獄。無惨な死を遂げた死屍累々の地獄であった。
「誰か、誰か!」
「もう嫌だ! 死にたくない!」
「グギャアアアアア!」
「「あああああああ!」」
「次々と死んでいく。無駄死にとか考えてる場合じゃない!」
「もうこんな所にはいられない! 俺は逃げる!」
「ガアアアアア!」
「「あああああああ!」」
この草一つ生えていない荒野が阿鼻叫喚の声と死にゆく両軍の兵士の死体の血で染められていく。
耳障りな声が頭の中にこびりつくかのように響き渡る。血塗られた地面がこの世界が地獄と化していることを演出していく。
一人の兵士が逃げていく。また一人と逃げていく。しかし、始まった戦は決着がつくまで止まらない。
ある兵士が巨人に体を鷲掴みにされた。そして、頭を丸のみ出来るほど大きな口を開けて、巨人が兵士の頭に齧り付こうとする。
「誰か―――――助けてくれ――――――」
その瞬間、兵士の目の前に影が通った。すると、巨人の頭はスッとズレていき、頭と首から下が分離した。
巨人の手から落ちた兵士は倒れ行く巨人を横目に見ながら、その影の正体を見た。
その勇敢な後ろ姿はまさに希望の象徴。この戦場を果敢に走り抜ける勇気ある者――――
「待っててすぐに終わらせるから」
聖剣についた血を振り払う響の姿であった。
大勢の群が隊列を組みながら広大とも言える荒野に並び、その荒野の先に見える一つの城を眺めている。その城の一か所は何かの戦闘が行われたかのような穴が開いており、その穴のすぐ近くには一人の男が立っていた。
その男は全身を黒い鎧で纏い、その鎧には魔族特有の紋章が入った赤いマントがつけられている。さらに、その男は顔を隠すように仮面をつけ、その仮面は荒野に広がる軍勢に対して嘲笑っているかのようであった。
その姿を見た響は静かな面持ちであった。緊張するでもなく、臆するでもなく。ただありのままを受け入れるように何の感情の揺らぎもなく。
遠くから姿を眺めていることしかできないが、なぜだか目が合っているような感覚がする。そして、その人物にどこか親近感のようなものを感じた。
ふざけた話だ。これから殺し合うというのに相手に情を湧くなど。それはメリットもなければ、ただの足かせでしかない。
響はもはや感情のない瞳を向けたまま、左手で腰にある鞘へと触れた。もう後がない。進むしかない。
「いい表情をするようになったじゃない」
「エルザ様.......」
響はふと隣からかけられた声に反応する。そのエルザと呼ばれた女性は帝国グランシェルの女王であり、この群を指揮する最高責任者である。
エルザは闘技場からしばらく見ていなかった響を久々に見て思わず舌を巻いた。それは良い意味と悪い意味の両方で。
「もう今更ですけど、本当にこんな所まで来て良かったのですか?」
「本当に今更な質問ね。現にここにこうして立っていることが正解じゃない。それに私がいなくたって帝国は夫が回すし、あなたの国はもうスティナしか王位継承権を持つ人がいないんでしょう? 血筋的な意味でね」
「深いことはわかりませんが、恐らくそうだと思います」
「だとしたら、王族不在で国を回そうだなんてそんなふざけた話はないわ。それにこういうのは私の方があの子よりは上手だしね」
エルザは腰に手を当てながら自信ありげに胸を張る。そのことに響は思わず苦笑いした。だが、もう止めるような言葉を言うことはなかった。
「ようやく人を殺す覚悟を持ったようね」
「殺す.......まあ、もう何人か手にかけてますしね。これが希望の道であるなら進むしかないですよ。今更そんなことで悩むのはもう止めました」
「.......」
響は勇敢というよりもどこか影があるような表情でエルザの言葉に返答していく。その言葉にエルザは言葉には出さなかったが、「面白みが無くなった」と内心で思った。
「それで、そろそろ準備はいいかしら? この軍はあなた達異世界勇者が筆頭となって道を切り開いていき、その道を進撃していくということになってるわ。手加減は不要よ。出来る限り多くの敵を蹴散らせて、あなたは向かうべき場所に向かって行きなさい」
「わかりました」
そう言うとエルザは響のそばから離れ、軍の後ろの方へと歩いて行く。その姿を尻目に見ながら、視線を前方に広がる敵軍へと向けていく。
響はその敵軍を見て違和感を感じていた。数は他の国にかけあって集めた自分達連合軍と似たような数である。違いがあるとすれば、突出して大きい魔族や魔物に乗った魔族がいたり、その後方に不自然な山のようなものがあったり......あれは違うのか?
とはいえ、普通は他の国のそれぞれの意見が混じった連合軍よりも一つの種族で統括された魔族軍の方が士気は圧倒的に高いはずである。
にもかかわらず、見ている限りだとそのような士気の高まりは感じられず、あまりにも静かである。まるでこれから人形と相手をするみたいに。
覇気がないのだ。自分達連合軍よりも圧倒的に。その静けさが響に僅かな不安を抱かせた。するとここで、後方からエルザの声が響き渡る。
「諸君! よく聞け! この戦いは勝利する! そう勝利するのだ! なぜなら私達の軍には魔王討伐のために天から遣わされた者達がいる! それが勇者達だ! 彼らが先陣を切って戦いに出向く以上、勝利は揺るがない! 敗北など決してない! 故に、無駄死にをするな! 勇者達がいるのだ! その者達に絶対的な信頼を授け、殺される前に殺せ! できる限り多くの命がまた帰って来れるよう願っている! それがは行くぞ!――――――我らが世界の勝利のために!」
「「「「「我らが世界の勝利のために!」」」」」
「進めええええぇぇぇぇ!」
「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」
その言葉に響達接近戦を得意とする部隊が魔族軍に向かって向かっていく。するとすぐに、あらかじめ詠唱を済ませていた後方の魔術師部隊が広範囲魔法を放っていく。
勇者の進撃に合わせて進撃し始めた魔族の軍に天から落ちる巨大な雷、天を焦がす巨大な火柱、天へと昇っていく巨大な竜巻、天から降り注ぐ巨大な氷塊、大地を飲み込む巨大な地面の大波が魔族軍を容赦なく殲滅していく。
しかし、それでもその攻撃から逃れた魔族軍は周りの状況も気にする様子なく走り迫ってくる。すると、響は引き抜いてた聖剣を頭上へと掲げ、魔族軍に向かって振り下ろした。突撃の合図だ。
響の行動に後方にいた聖騎士や兵士は左手に持った盾と右手に持った剣を同時に前方に突き出しながら、タックルするように進んでいく。
そして、響が魔族軍に切り込みを入れて道を開けた数秒後に多くの兵士達が魔族へと突き出した剣を刺しにいった。
それによって前方にいた魔族の多くはその一撃にやられ、地面に倒れていく。しかし、魔族が全員人族と同じような体系をしているわけではない。
魔族もまた大きな「魔族」という種でありながら、その魔族にもいろいろな種族が存在している。それによって個体差は異なり、人族と同じように接近戦が得意な種族、遠距離戦が得意な種族、多彩な道具を使う種族といろいろあるが、その中でも特に厄介な種族が二つある。
誰かが叫んだ。
「まずい巨人だー!」
巨人と呼ばれる魔族は他の魔族や兵士に比べて頭二つ、三つほど飛びぬけていた。それは大きさという面に関して。
大きさ―――――つまり身長が大きいというのは戦いにおいては大きなアドバンテージがある。身長の違いはリーチの長さに直結し、同時にその体を支えるために筋肉量に関しても大きくかかわってくる。
言わずもがな、身長が大きければ、それに合わせ腕も長くなり、武器を持てばさらに当たる範囲は広くなる。
そして、力も当然強くなる。この世界の平均的な男性の身長のサイズが175センチほどだが、それがそのまま2、3メートル大きくなったわけじゃない。
その種族自体の平均身長が2、3メートルなわけであって、身長が大きくてもガリガリというわけではないのだ。
例えるならばボブサップをさらに二回りぐらい大きくしたぐらいであろうか。そんな筋肉隆々で何倍もの巨体で繰り出される一撃は――――――
「「「「ああああああ!」」」」
「グギャアアアア!」
――――――容易に人を粉々にしていく。
その全身緑でアメリカン・コミックの超人ハルクを彷彿とさせるような巨人のこん棒の一撃は人の体を紙か何か出来ているようにひしゃげた。
その巨人の攻撃の時の武器がこん棒であったからまだ原型が残っているが、それが刃物であれば上半身、下半身と両断されていることは間違いないだろう。とはいえ、攻撃に当たればどちらも変わらず等しい死が与えられていくのだが。
その巨人がたまたまこん棒を使っているだけであって、他の巨人も全員こん棒を使っているとは限らず当然刃物を扱者もいる。
さらに、その巨人は魔族軍として集められているので鎧を着ている。圧倒的な攻撃力で持って、簡単には通用しない防御力も兼ね備えている。
その巨人は兵士達から見れば最強の矛と最強とは言えなくともある程度の攻撃を防ぐ盾を持っている時点で恐ろしく脅威であろう。
そしてもう一体のたっかいな種族はと言うと―――――
「魔物使いだー!」
また誰かが叫んだ。その魔物使いと呼ばれる種族はまさしく名前の通りで魔物を使役して戦うのだ。
その種族は平均して小学一年生のように身長が小さい。それは先ほどの巨人に比べると圧倒的なデメリットを背負っていることになるが、それを埋めるのが彼らが使役する魔物である。
その魔物は使役する者によってさまざまだ。故にまとまりがなく、その魔物ごとに倒し方が異なってくる場合があるので非常に厄介だ。
加えて、彼から乗るような魔物は総じて大きい。最低3メートルなんて大きさは当たり前で大きければ10メートルほどの魔物も使役している。
つまり、その魔物に対して圧倒的に小さい彼らは的になりにくいということだ。的になりにくいととは、いつまで経っても指揮官がそばにいるということであり、魔物特有のパターンにも似た攻撃をしてこないということだ。
故に、人よりも厄介な攻撃が多いくせにどの攻撃をしかけてくるか予測が追いつかないということだ。加えて、大きいためにその魔物を倒すためには最低で数人がかりで距離を取って戦わなければいけない。
しかし、ここは戦場だ。多くの軍が突撃して密集している。それはつまり――――――
「まずいブレスが来るぞ!」
「離れろ! どけって!」
「邪魔だ! 死にたくない―――――」
「ガアアアアアア!」
「「「ああああああ!」」」
――――――魔物にとっては格好の餌食であるということだ。
周囲には普通の魔族がひしめき合うとともに巨人と魔物使いが敵味方関係なく攻撃をしていく。そこはまさに地獄。無惨な死を遂げた死屍累々の地獄であった。
「誰か、誰か!」
「もう嫌だ! 死にたくない!」
「グギャアアアアア!」
「「あああああああ!」」
「次々と死んでいく。無駄死にとか考えてる場合じゃない!」
「もうこんな所にはいられない! 俺は逃げる!」
「ガアアアアア!」
「「あああああああ!」」
この草一つ生えていない荒野が阿鼻叫喚の声と死にゆく両軍の兵士の死体の血で染められていく。
耳障りな声が頭の中にこびりつくかのように響き渡る。血塗られた地面がこの世界が地獄と化していることを演出していく。
一人の兵士が逃げていく。また一人と逃げていく。しかし、始まった戦は決着がつくまで止まらない。
ある兵士が巨人に体を鷲掴みにされた。そして、頭を丸のみ出来るほど大きな口を開けて、巨人が兵士の頭に齧り付こうとする。
「誰か―――――助けてくれ――――――」
その瞬間、兵士の目の前に影が通った。すると、巨人の頭はスッとズレていき、頭と首から下が分離した。
巨人の手から落ちた兵士は倒れ行く巨人を横目に見ながら、その影の正体を見た。
その勇敢な後ろ姿はまさに希望の象徴。この戦場を果敢に走り抜ける勇気ある者――――
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