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間章 勇者の覚悟
第207話 違和感
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響が戻ってきた数日のこと。それまでは何もなかった。何も起こらなかった。当然嫌なことが起きて欲しいわけではないが、これといって朗報とも言えることさえ聞くこともなかった。
何か気がかりなことがあるとすれば、ガルドの姿があの酒場での出来事以来会っていないということだが、ガルドもガルドなりの事情があるのだろうと思って響が深く心配することはなかった。
そんなある日、一つの朗報が舞い降りた。
「響! 響はいるか!?」
「どうした?」
ガルドの言葉を聞いて再会した朝の修練帰りで自室へと戻っている途中、大声で慌てふためくクラスメイトの声を聞いた。
その声を不思議に思った響は額にかく汗をタオルで拭いながら、声がする背後へと振り向いた。すると、廊下の角からキキ―ッ! と急ブレーキをかけながら一人の男子が現れる。
「はあはあ―――――響、帰って.......はあはあ―――――見たんだ、確かに......」
「落ち着けって。一体何があったんだ? 誰かが襲われたのか?」
「違う、帰って来たんだ」
「え?」
「お前と一緒に魔族討伐へと向かった仲間の数人が!」
「ほんとか.......!」
響はその言葉に思わず声を弾ませる。当然だ、目の前で消えたクラスメイトが戻ってくるのだから。
自分が守れなかったことに罪悪感を湧かないわけではないが、それでももう一度再会できるとなると喜びは計り知れない。
響はその男子と一緒に急いで南口の門へと向かっていく。どんな状態かわからない。でも、ただ無事であって欲しい。その一心で全力で駆け抜けた。
そして、門に辿り着いて見た仲間の姿は――――――
「光坂、先に戻ってたのか」
「よう、ただいま」
「怖かったよー」
「あれこそ死んだと思ったね」
良く知る男子二人、女子二人の四人組であった。その四人は目立った外傷はなく、やや薄汚れた格好をしているが、その明るめな声からしても大したことはなかった様子だ。
その姿に響は思わず胸を高まらせた。そして、その高まる衝動のままに男子二人へとそれぞれの首に腕を回すように抱きついていく。
そのことに思わず驚く二人であったが、響の泣いた顔を見ると自身もようやく安心出来る場所に戻ってきたような気がして思わず涙ぐむ。
その光景を見た二人の女子も互いに身を委ねるように安心して泣き始めた。
その姿はとても感動的な光景に誰からも映った。だからこそ、悲劇であった。この後に続く出来事が、避けられない運命が待ち受けていることに。
その後、その四人が筆頭になってか数日おきながらも次々に消えていったクラスメイトが帰ってきたのだ。
一人、また一人と見覚えのある顔ぶれが現れていく。それは響の心に希望の光が灯っていくようで、とても暖かく力強い気持ちにもなっていった。
帰ってくるクラスメイトの傷の具合は様々だ。無傷という人も居れば、魔物に襲われて片腕を失ったという人もいる。
その事に関しては確かに悲しくなったが、それ以上に生きててくれたことで胸いっぱいになっていたので、深くは気にならなかった。
そんなある日、ようやく親友の一人が帰ってきたという情報が耳に入った。
その情報はすぐさま他のクラスメイトにも伝達され、全員で南門の方へと向かっていった。
そして帰ってきたのは―――――
「よう、響。なんとか戻ってきたぜ」
「弥人......!」
響はその声に嬉しそうな笑みを浮かべるが、視界に入る違和感を無視することは出来なかった。
「弥人、その傷は――――――」
「ああ、これか。これは仲間を庇った時にな。お前には迷惑かけちまうと思ったが、俺は後悔してない」
「......そうか」
響はそれだけしか答えられなかった。何も言葉が思いつかなかった。親友の左腕と右脚の欠損という一番酷い傷を見ながらも。
その事に響は歯噛みした。その傷を見たからといって傷を治すことも出来ないし、自分の役職ではすぐにやれることも無い。
しかし、かける言葉ぐらいはあったはず。だが、それすらも思いつかなかった。
そんな響に対して、弥人は肩を担いでもらっているクラスメイトに一声かけると響の前まで連れてってもらう。
そして、嬉しいと悲しいの矛盾した感情が混ざりあったような複雑な顔をしている響に弥人は告げる。
「なーに、そんな深刻そうな顔してんだよ。そんなんじゃ、誰がお前についていくってんだ? 俺の事を思ってるのはありがたいが、お前は俺を心配する以上にやることがあるだろ」
「だからといって、弥人を蔑ろにはできないだろ!」
響は弥人が自身のことをどうでもよく感じていると思って思わず声を張り上げる。その事に弥人は苦笑いのため息を吐いた。
「はあ......お前は良い奴だな。そのことにはとても感謝してるし嬉しい。だがな、お前が進むべき道に俺たちの帰る場所が待っている。なら、俺の事ばかり気にしてないで前に進め。俺はお前が思っているよりも頑丈だし、そう簡単に折れねぇよ」
「......わかった」
響は一言答えるだけだった。言葉では納得の意を示していても、表情では納得していない様子であった。
弥人はそんな響に「しょうがない。妙に頑固なところがあるからなー」とため息を吐きつつも、明るい声で響の背中を押して行った。
***********************************************
――――――それから数日が経った。
響はいつもの調子を取り戻し、朝の修練へと励んでいる。やはり消えたクラスメイトが帰ってきたのが響の精神的支えに繋がったのかポジティブな考えをするようにもなった。
そのクラスメイトもまたいつもの通りに修練している。この世界に来てから活動的になったのか動いている方が気持ちも楽になるらしいとのことだ。
それに加え、まだ目的を果たした訳では無いので、そのためにも修練は欠かせなくなっている。
そのことに響は思わず嬉しくなった。まだ帰ってきてないクラスメイトもいるが、それでも今いるメンバーで一丸となって前に進んでいるような気がして。
しかし、響は気づいていなかった。消えたクラスメイトの大半が抱いている別の動機のことに。
――――――ドゴオオオオオォォォォンッ!!
「なんだ!?」
響は突然鳴り響く爆発音に思わず驚いた。また魔族の襲撃かと思われたが、咄嗟に修練場を見渡したがその影は見当たらない。
その代わりにその爆煙を撒き散らしている場所の近くに一人の女子生徒がいた。
「ははは、凄い! 凄いよ! こんなに強くなるだなんて!」
その女子生徒は両腕を大きく広げると高らかに笑っていく。その姿に他のクラスメイトは若干引き気味であったが、それを気にする様子はなかった。
すると、またもや立て続けに爆音が鳴り響く。その音がする方へと振り向くと男子生徒や女子生徒が同じように笑っている。その笑いは常軌を逸したようにも見えなくなかった。
「ははは、これでもう誰も失わない! これでもう負けない!」
「もう消えない! 皆で一緒に帰れる!」
その言葉は魔族に襲撃されたバリエルートの件について言っているようだと響は感じた。
だが同時に違和感も感じていた。それは大声で叫ぶそのクラスメイトは同じ戦闘部隊であっても、あまり戦闘向きな性格をしていない人達であるからだ。
要するに役職は戦闘向きであるのに性格が災いして動けない彼らはその引っ込み思案というべきか、自信がなく消極的であるために弱気であるということだ。
故に、あのようなことを思っていたとしても爆発音を響かせるような魔法を使ったり、大声であのような思いを叫ぶことはおかしいのだ。
響はその違和感の正体を知るために近くにいるクラスメイトの男子に声をかける。
「なあ、あんなこと叫ぶ奴らじゃなかったよな?」
「ああ、そうだな。俺はあいつらの一人と一緒に帰ってきたけど、少なくとも帰って来るまであんなことは言わなかったなー。まあ、こういう安心できる場所に帰ってきて爆発したんじゃないか?」
「爆発?」
「なんというか、ああいうひっそりとしている奴ほど身の内にストレスをため込んでいるというか。そのストレスの許容限界を超えたためにあんな感じになってるんじゃねぇか? ほら、温厚な奴ほど怒ると怖いとかそんな感じだろ?」
「な、なるほど.......」
その言葉の意味はなんとなく理解できたような出来てないような。ということは、今の行動は彼らなりのストレス発散行為ということなのだろうか。だとすると、少しばかりおっかないので控えて欲しいが。
すると、その男子は「あ、そういえば」と言って響に向かって言葉を告げた。
「実はなんだけど、あいつらには怪しい噂があるんだよ」
「噂?」
響はその言葉が気になり自然と耳を傾けていく。
「それがよ、あいつらは誰かに力を授けられたんじゃないかってことだ。当然、お前が思っているような聖騎士や魔術師、スティナちゃんとはかかわりがない。というか、そもそも急に強くなった気がしないか? あんな威力の爆発、勇者であるお前のような感じだぜ?」
そう言われて響は思わずその爆発が起こった方を見渡した。実際に爆発を見たわけじゃないので、正確なところはわからないが、それでも確かに大量の爆煙が今もなお天へと上り続けている。
しかし、ハッキリしない以上仲間を疑うのもどうかというところだ。
「それで、その力を授けたというやつは誰なんだ?」
響は告げられた言葉に対して気になる点を拾い上げた。すると、その質問に対してその男子は難しい顔をし始める。
そのことに響は少しだけ目を細めるとその男子は告げる。
「それがな......あいつらが言う限りだとその人物は――――――教皇様らしいんだよ」
「.......は?」
響は思わず声が漏れてしまった。だがそう思うのも当然だろう。なぜなら、教皇は既に仁によって殺されていて、埋葬するところまでしっかり見届けた。
確かに、仁が教皇を殺して自分にいろいろと言った後、すぐに聖騎士が突入して教皇の遺体を回収していたが、しっかりと教皇の死は確認した。
「どういうことだ.......?」
響は静かに呟く。すると、男子生徒も呟く。
「何かの見間違いだろうけど、全員が同じ人物を言っているのはおかしいんだよな」
その言葉は響の平穏であった心の水面に小さな波紋を広げていった。
何か気がかりなことがあるとすれば、ガルドの姿があの酒場での出来事以来会っていないということだが、ガルドもガルドなりの事情があるのだろうと思って響が深く心配することはなかった。
そんなある日、一つの朗報が舞い降りた。
「響! 響はいるか!?」
「どうした?」
ガルドの言葉を聞いて再会した朝の修練帰りで自室へと戻っている途中、大声で慌てふためくクラスメイトの声を聞いた。
その声を不思議に思った響は額にかく汗をタオルで拭いながら、声がする背後へと振り向いた。すると、廊下の角からキキ―ッ! と急ブレーキをかけながら一人の男子が現れる。
「はあはあ―――――響、帰って.......はあはあ―――――見たんだ、確かに......」
「落ち着けって。一体何があったんだ? 誰かが襲われたのか?」
「違う、帰って来たんだ」
「え?」
「お前と一緒に魔族討伐へと向かった仲間の数人が!」
「ほんとか.......!」
響はその言葉に思わず声を弾ませる。当然だ、目の前で消えたクラスメイトが戻ってくるのだから。
自分が守れなかったことに罪悪感を湧かないわけではないが、それでももう一度再会できるとなると喜びは計り知れない。
響はその男子と一緒に急いで南口の門へと向かっていく。どんな状態かわからない。でも、ただ無事であって欲しい。その一心で全力で駆け抜けた。
そして、門に辿り着いて見た仲間の姿は――――――
「光坂、先に戻ってたのか」
「よう、ただいま」
「怖かったよー」
「あれこそ死んだと思ったね」
良く知る男子二人、女子二人の四人組であった。その四人は目立った外傷はなく、やや薄汚れた格好をしているが、その明るめな声からしても大したことはなかった様子だ。
その姿に響は思わず胸を高まらせた。そして、その高まる衝動のままに男子二人へとそれぞれの首に腕を回すように抱きついていく。
そのことに思わず驚く二人であったが、響の泣いた顔を見ると自身もようやく安心出来る場所に戻ってきたような気がして思わず涙ぐむ。
その光景を見た二人の女子も互いに身を委ねるように安心して泣き始めた。
その姿はとても感動的な光景に誰からも映った。だからこそ、悲劇であった。この後に続く出来事が、避けられない運命が待ち受けていることに。
その後、その四人が筆頭になってか数日おきながらも次々に消えていったクラスメイトが帰ってきたのだ。
一人、また一人と見覚えのある顔ぶれが現れていく。それは響の心に希望の光が灯っていくようで、とても暖かく力強い気持ちにもなっていった。
帰ってくるクラスメイトの傷の具合は様々だ。無傷という人も居れば、魔物に襲われて片腕を失ったという人もいる。
その事に関しては確かに悲しくなったが、それ以上に生きててくれたことで胸いっぱいになっていたので、深くは気にならなかった。
そんなある日、ようやく親友の一人が帰ってきたという情報が耳に入った。
その情報はすぐさま他のクラスメイトにも伝達され、全員で南門の方へと向かっていった。
そして帰ってきたのは―――――
「よう、響。なんとか戻ってきたぜ」
「弥人......!」
響はその声に嬉しそうな笑みを浮かべるが、視界に入る違和感を無視することは出来なかった。
「弥人、その傷は――――――」
「ああ、これか。これは仲間を庇った時にな。お前には迷惑かけちまうと思ったが、俺は後悔してない」
「......そうか」
響はそれだけしか答えられなかった。何も言葉が思いつかなかった。親友の左腕と右脚の欠損という一番酷い傷を見ながらも。
その事に響は歯噛みした。その傷を見たからといって傷を治すことも出来ないし、自分の役職ではすぐにやれることも無い。
しかし、かける言葉ぐらいはあったはず。だが、それすらも思いつかなかった。
そんな響に対して、弥人は肩を担いでもらっているクラスメイトに一声かけると響の前まで連れてってもらう。
そして、嬉しいと悲しいの矛盾した感情が混ざりあったような複雑な顔をしている響に弥人は告げる。
「なーに、そんな深刻そうな顔してんだよ。そんなんじゃ、誰がお前についていくってんだ? 俺の事を思ってるのはありがたいが、お前は俺を心配する以上にやることがあるだろ」
「だからといって、弥人を蔑ろにはできないだろ!」
響は弥人が自身のことをどうでもよく感じていると思って思わず声を張り上げる。その事に弥人は苦笑いのため息を吐いた。
「はあ......お前は良い奴だな。そのことにはとても感謝してるし嬉しい。だがな、お前が進むべき道に俺たちの帰る場所が待っている。なら、俺の事ばかり気にしてないで前に進め。俺はお前が思っているよりも頑丈だし、そう簡単に折れねぇよ」
「......わかった」
響は一言答えるだけだった。言葉では納得の意を示していても、表情では納得していない様子であった。
弥人はそんな響に「しょうがない。妙に頑固なところがあるからなー」とため息を吐きつつも、明るい声で響の背中を押して行った。
***********************************************
――――――それから数日が経った。
響はいつもの調子を取り戻し、朝の修練へと励んでいる。やはり消えたクラスメイトが帰ってきたのが響の精神的支えに繋がったのかポジティブな考えをするようにもなった。
そのクラスメイトもまたいつもの通りに修練している。この世界に来てから活動的になったのか動いている方が気持ちも楽になるらしいとのことだ。
それに加え、まだ目的を果たした訳では無いので、そのためにも修練は欠かせなくなっている。
そのことに響は思わず嬉しくなった。まだ帰ってきてないクラスメイトもいるが、それでも今いるメンバーで一丸となって前に進んでいるような気がして。
しかし、響は気づいていなかった。消えたクラスメイトの大半が抱いている別の動機のことに。
――――――ドゴオオオオオォォォォンッ!!
「なんだ!?」
響は突然鳴り響く爆発音に思わず驚いた。また魔族の襲撃かと思われたが、咄嗟に修練場を見渡したがその影は見当たらない。
その代わりにその爆煙を撒き散らしている場所の近くに一人の女子生徒がいた。
「ははは、凄い! 凄いよ! こんなに強くなるだなんて!」
その女子生徒は両腕を大きく広げると高らかに笑っていく。その姿に他のクラスメイトは若干引き気味であったが、それを気にする様子はなかった。
すると、またもや立て続けに爆音が鳴り響く。その音がする方へと振り向くと男子生徒や女子生徒が同じように笑っている。その笑いは常軌を逸したようにも見えなくなかった。
「ははは、これでもう誰も失わない! これでもう負けない!」
「もう消えない! 皆で一緒に帰れる!」
その言葉は魔族に襲撃されたバリエルートの件について言っているようだと響は感じた。
だが同時に違和感も感じていた。それは大声で叫ぶそのクラスメイトは同じ戦闘部隊であっても、あまり戦闘向きな性格をしていない人達であるからだ。
要するに役職は戦闘向きであるのに性格が災いして動けない彼らはその引っ込み思案というべきか、自信がなく消極的であるために弱気であるということだ。
故に、あのようなことを思っていたとしても爆発音を響かせるような魔法を使ったり、大声であのような思いを叫ぶことはおかしいのだ。
響はその違和感の正体を知るために近くにいるクラスメイトの男子に声をかける。
「なあ、あんなこと叫ぶ奴らじゃなかったよな?」
「ああ、そうだな。俺はあいつらの一人と一緒に帰ってきたけど、少なくとも帰って来るまであんなことは言わなかったなー。まあ、こういう安心できる場所に帰ってきて爆発したんじゃないか?」
「爆発?」
「なんというか、ああいうひっそりとしている奴ほど身の内にストレスをため込んでいるというか。そのストレスの許容限界を超えたためにあんな感じになってるんじゃねぇか? ほら、温厚な奴ほど怒ると怖いとかそんな感じだろ?」
「な、なるほど.......」
その言葉の意味はなんとなく理解できたような出来てないような。ということは、今の行動は彼らなりのストレス発散行為ということなのだろうか。だとすると、少しばかりおっかないので控えて欲しいが。
すると、その男子は「あ、そういえば」と言って響に向かって言葉を告げた。
「実はなんだけど、あいつらには怪しい噂があるんだよ」
「噂?」
響はその言葉が気になり自然と耳を傾けていく。
「それがよ、あいつらは誰かに力を授けられたんじゃないかってことだ。当然、お前が思っているような聖騎士や魔術師、スティナちゃんとはかかわりがない。というか、そもそも急に強くなった気がしないか? あんな威力の爆発、勇者であるお前のような感じだぜ?」
そう言われて響は思わずその爆発が起こった方を見渡した。実際に爆発を見たわけじゃないので、正確なところはわからないが、それでも確かに大量の爆煙が今もなお天へと上り続けている。
しかし、ハッキリしない以上仲間を疑うのもどうかというところだ。
「それで、その力を授けたというやつは誰なんだ?」
響は告げられた言葉に対して気になる点を拾い上げた。すると、その質問に対してその男子は難しい顔をし始める。
そのことに響は少しだけ目を細めるとその男子は告げる。
「それがな......あいつらが言う限りだとその人物は――――――教皇様らしいんだよ」
「.......は?」
響は思わず声が漏れてしまった。だがそう思うのも当然だろう。なぜなら、教皇は既に仁によって殺されていて、埋葬するところまでしっかり見届けた。
確かに、仁が教皇を殺して自分にいろいろと言った後、すぐに聖騎士が突入して教皇の遺体を回収していたが、しっかりと教皇の死は確認した。
「どういうことだ.......?」
響は静かに呟く。すると、男子生徒も呟く。
「何かの見間違いだろうけど、全員が同じ人物を言っているのはおかしいんだよな」
その言葉は響の平穏であった心の水面に小さな波紋を広げていった。
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