98 / 303
間章 勇者の覚悟
第206話 響の俯く心
しおりを挟む
――――――クラウンが魔王となり、レグリアの計画が始動段階になる二週間ほど前、時は響がクラウンと衝突後に起きた転移爆発後まで遡る。
その時の響はまるで何も見ていない、聞いていなかったような様子でただ茫然としていた。ひとえに思い出したくないだけかもしれないが、彼の状態を一言で表すならやはり心ここにあらずといった感じになるであろう。
そんな響は転移爆発後、ただ報告のために一人で城へと戻った。そこでスティナや戦闘向きではないために居残りをしていた残りのクラスメイトに全てを話した。
その時に響を傷つける者はいなかった。しかし、それぞれが複雑な葛藤を抱いていたことはよく分かる表情をしていた。
そんな姿を見て響がかける言葉当然なく、ただ幽霊のように気配もなくその場をすぐに立ち去っていった。しかし、その姿をスティナだけはしっかりと捉えていた。
そして翌日、響は初めて欠かさなかった修練を休んだ。昨日に起きたことをそう簡単に忘れるはずもなく、忘れていいものでもない。
ただひたすら自室のベッドの上で寝転がっていた。その瞳にはあまり生気を感じられずぼんやりとしている。
どうしようもない自己嫌悪に陥りながら、ただ眠れずに昨日のことを今まさに目の前に起こっているかのように思い出していた。
それで思い描くはあの時はどんな選択肢があったのかということ。当然転移爆発などあまりにも突発的なことでその時に予測は不可能と言っていい。
なら、その前は? それよりももっと前は? 仁に会ったことでやや冷静さを欠いてしまっていたかもしれない。その時にあった選択肢を見落としていたかもしれない。
そう考えるのは無理じゃない。今も冷静に考えれば言葉一つだってもっと別の言い方が見つかったりする。
しかし、結局のところ「後の祭り」なのだ。もう取り返すことも出来なし、戻れるわけでもない。
あの時に「覚醒魔力」という固有魔法を欲したが、何も得られることはなかった。ということは、あの時に悲しみが全てではなかったということだ。
.......分かっている、あの時にきっと無意識に生きていることに安堵してしまったのだろう。確かに悲しみもあっただろうが、それも同時に含まれていたのだろう。
「はあ.......」
響は深いため息をついた。その顔は一睡も出来てないためもあり、ずっと堂々巡りの考えに答えを見つけようとしていたこともありでだいぶ酷い隈が出来ていた。
一日で三日ほど食事もとらずに引きこもっていたほどのやつれ方で、それほどまでにあの時のことが精神に響いていたのだろう。
仲間のことを想うと辿り着く先は全部同じ。全員がしっかりと生きているかということだけ。しかし、この世界のことはきっとまだ齧った程度のことしか知らないので不安ばかりが募る。
誰かに会う気力もない。会ってしまったら自分を必死に守っている精神力さえも持っていかれてしまいそうになるから。
それに話すことも何もないだろう。起きたことは全て話した。それでいて後は何を話せばいい? 仲間を守れなかったのに仲間の心配をする姿は実におかしく映ってしまうだろう。
そんな半分ヤケになった精神と自分を守ろうとする精神がせめぎ合い、今にも爆発しそうになったその時、突然ドアがノックされた。
「響、大丈夫か?」
その声はガルドであった。響は思わず驚いて起き上がると跳ね上がった心臓を落ち着かせて答えた。
「はい、大丈夫ですよ。問題ありません」
響はとても丁寧に答えた。その声に淀みなど一切感じられないまるでプログラムされたロボットが流暢に離したかのようで―――――
「いつも通りじゃなさそうだな」
一瞬で見抜かれた。そのことに響はまたもや思わず目を見開いた。
正直、今の段階で響がもっとも会いたくなかったのがガルドであった。それは初めての魔族討伐という実戦で大失敗をしてしまったからだ。
ただ単に魔族を逃してしまっただったら全然良かった。それどころか仲間や一緒に来た聖騎士数人の全てを失って戻ってきたのだ。
帰ってきた昨日のうちにガルドがいなかったのですぐに報告できなかったし、いたとしてもこれほどまでの失敗に対してガルドからの失望を恐れて報告できなかっただろう。
そんな響の精神状態を知ってか知らずかガルドはドア越しで提案してくる。
「今日は非番なんだ。たまには朝っぱらから飲み行くのも悪くない。ついてこい」
「.......」
響はその言葉に何も答えなかった。しかし、響の中で何かを考えるとスッと立ち上がり、ドアノブへと手をかけていく。
「よお、あんまし眠れなかったようだな。なら、今日は暴れまくってぐっすり寝るぞ」
ガルドは部屋から出てきた響にゴツゴツとした太い腕を回していくと肩を組みながら上機嫌に歩いて行く。
そのことが響には意外だった。てっきりガルドのことだから既に情報を聞いていて、それに対する何かを言ってくると思っていた。それだけ任務には厳しい人であったから。
しかし、それに一切触れることもなく、上機嫌に戦闘から離れた全く別のそれこそどうでもいいと思える内容を話してくる。
恐らく気を遣ってくれているのだろう。そんな不器用な優しさが響のひび割れた心にはとてもよく沁みた。
それから、響はガルド行きつけの路地裏にある店にやって来ていた。ガルドの友人であるミストが経営する「騎士の隠れ家」だ。
その店の前には「クローズ」と表記された札がドアにかけてあったのだが、ガルドは構わず無視してドアを壊し気味に勢いよく開けていく。
ドアベルが激しく金属音を響かせていく。その音にテーブル席のソファに頭に新聞をかけて寝ている人物はむくりと起き上がる。
「誰だ? 不法侵入だぞ――――――って一人しかいねぇか」
「違うな。今回は二人だ」
店主であるミストは新聞を手に持つと入り口に立つガルドと響を見つめた。すると、「これは珍しいお客だな」とだけ呟くとカウンターの方へと歩いて行く。それに合わせガルドもカウンターにつくと響も席に着く。
「それで今日はどうする? 何もかも忘れられるどぎつい酒かポロポロと言葉が勝手に漏れていく魔法の酒か。もしくは――――――少しだけ自信が持てる酒か」
「そんなの一つに決まってるだろ? こいつのために来たんだ。自信が取り戻せるやつだ」
「了解」
ミストは背後にある棚から一つの酒をチョイスすると酒瓶のコルクを外していく。キュポンッと良い音が鳴るとそれグラスとジョッキに注いでいく。
そして、それを響とガルドの前にそれぞれ置いていく。白ワインにも似た淡い黄色っぽい色をする飲み物だ。炭酸ではないらしい。すると、ジョッキを持ったガルドが響へと嬉しそうに告げる。
「せっかくの酒だ。お前の世界じゃ違法らしいが、この世界じゃ立派に成人している。ここでお前を取り締まるやつは誰もいない。思いっきり飲め」
「.......分かりました」
響とガルドはグラスとジョッキを軽く小突き合わせると一気に飲んだ。そして、喉に襲いかかる不思議な感覚に響は思わず驚く。
「――――――甘い」
「そりゃあ、そうだ。なんせそれはただの果実水だからな」
「え?」
響はその言葉に困惑する。そして、飲み干したグラスとガルドの顔を交互に見合わせる。そんな響に対し、ガルドとミストは楽しそうに笑っている。
「時に響、どうしてそれをお酒だと思った?」
「それは――――――ガルドさんがミストさんとお酒の種類について話していたので」
「確かに話したな。だが、俺は『酒』とは一言も言ってねぇぞ?」
「それはそうですけど.......それにそのボトルだって――――――」
「ボトルに入っているものが全て酒とは限らないだろ? 先入観にとらわれ過ぎだ」
ガルドはそう言うとジョッキに口をつけていく。そんなガルドの様子を見ながらも、響は未だ困惑が拭えずにいた。
すると、ガルドは告げる。
「見えてるものがな、全てじゃないんだよ」
「―――――――え?」
「確かに起きてしまったことはありのままの事実だ。それは変わらない。だけどな、見ていないところでも自分とは関係ない人が動き回っているように、飛ばされたお前の仲間もきっとどこかで動いている」
「.......」
「どこにいるかわからないから捜索のしようもない。それに他の国にもかけあってみるが、どうなるかはわからない。しかしな、先ほどお前が見た目と先入観でボトルに入ったものを酒と思ったように、その転移爆発も実はたいしたことがないかもしれない」
「でもそれは―――――――」
「自分を守るための考えって思ってんだろ? わかってるさ。でも、まずは自分が自分を守れなくて誰が守れるってんだ」
「........」
「必要な自己犠牲はある。しかし、それは命を張る時だ。今のように命も張れずに精神を消耗させている時に使うべきじゃない。本当に必要な時に張れなくなる。だからな、まずは自分を守るんだ。そうすれば、必然的に自信を取り戻していき、影響力の大きいお前のことだ、お前が信じれば今残されている仲間もきっと信じて進んでくれるはずさ」
「簡単にはいきませんよ.......」
「そりゃあ、簡単に行くと思うな。どこの世の中にももっとも積み上げるのが難しくて、もっとも壊すのが簡単なのが『信用』ってやつだ。簡単に行く方がおかしい」
「........」
「ともかくだ、お前はお前が信じたいことを信じろ。仲間が無事と思うなら無事と信じろ。生きていると思うなら生きてると信じろ。お前は勇者という辛い役目を背負っている。だからこその希望の象徴でもあるんだ。そのためには俺が一肌でも二肌でも脱いでやるさ」
「.......ありがとうございます」
響はその言葉に思わず嬉しそうな笑みを浮かべると自分の気持ちを整理するために一足先に店を出ていった。
そんな響の後ろ姿を見ながらガルドは思わずぼやく。
「あんな言葉で良かったのか? こういうのは正直苦手だし、後半なんて聞こえ方によってはただ勇者の役目を押し付けているようにも聞こえなくないんだが」
「あんなもんでいいだろ。さっきも見たろ? あの子の嬉しそうな笑みを。俺が思うにお前はあの子の憧れなんだ。恐らくこの世界に来てからのな」
「別に憧れるようなことをしてないがな」
ガルドはジョッキの中身を飲み干すとそれをミストに渡した。すると、ミストはそのジョッキに果実水を注いでいくとガルドに渡していく。
「そんなもんさ。別にお前が気張る必要はない。あの子がお前の背中を追っているのなら好きに走らせてやればいい。あの子は頭が良いからな。勝手にどうやって近づけるか考え始めるってもんさ」
「なるほどな」
ガルドはミストの言葉を聞きながらジョッキに口をつけようとすると不意にドアベルが鳴った。その音に二人は響が忘れ物でもしたのかと思い入り口を見ると全身をコートで纏い深くフードを被った男が現れた。
「誰だい? あいにく貸し切りだが」
「不審な奴だな。捕らえるか?」
そんな二人の警戒する態度にその男は歯を見せるように醜い笑みを浮かべた。
その時の響はまるで何も見ていない、聞いていなかったような様子でただ茫然としていた。ひとえに思い出したくないだけかもしれないが、彼の状態を一言で表すならやはり心ここにあらずといった感じになるであろう。
そんな響は転移爆発後、ただ報告のために一人で城へと戻った。そこでスティナや戦闘向きではないために居残りをしていた残りのクラスメイトに全てを話した。
その時に響を傷つける者はいなかった。しかし、それぞれが複雑な葛藤を抱いていたことはよく分かる表情をしていた。
そんな姿を見て響がかける言葉当然なく、ただ幽霊のように気配もなくその場をすぐに立ち去っていった。しかし、その姿をスティナだけはしっかりと捉えていた。
そして翌日、響は初めて欠かさなかった修練を休んだ。昨日に起きたことをそう簡単に忘れるはずもなく、忘れていいものでもない。
ただひたすら自室のベッドの上で寝転がっていた。その瞳にはあまり生気を感じられずぼんやりとしている。
どうしようもない自己嫌悪に陥りながら、ただ眠れずに昨日のことを今まさに目の前に起こっているかのように思い出していた。
それで思い描くはあの時はどんな選択肢があったのかということ。当然転移爆発などあまりにも突発的なことでその時に予測は不可能と言っていい。
なら、その前は? それよりももっと前は? 仁に会ったことでやや冷静さを欠いてしまっていたかもしれない。その時にあった選択肢を見落としていたかもしれない。
そう考えるのは無理じゃない。今も冷静に考えれば言葉一つだってもっと別の言い方が見つかったりする。
しかし、結局のところ「後の祭り」なのだ。もう取り返すことも出来なし、戻れるわけでもない。
あの時に「覚醒魔力」という固有魔法を欲したが、何も得られることはなかった。ということは、あの時に悲しみが全てではなかったということだ。
.......分かっている、あの時にきっと無意識に生きていることに安堵してしまったのだろう。確かに悲しみもあっただろうが、それも同時に含まれていたのだろう。
「はあ.......」
響は深いため息をついた。その顔は一睡も出来てないためもあり、ずっと堂々巡りの考えに答えを見つけようとしていたこともありでだいぶ酷い隈が出来ていた。
一日で三日ほど食事もとらずに引きこもっていたほどのやつれ方で、それほどまでにあの時のことが精神に響いていたのだろう。
仲間のことを想うと辿り着く先は全部同じ。全員がしっかりと生きているかということだけ。しかし、この世界のことはきっとまだ齧った程度のことしか知らないので不安ばかりが募る。
誰かに会う気力もない。会ってしまったら自分を必死に守っている精神力さえも持っていかれてしまいそうになるから。
それに話すことも何もないだろう。起きたことは全て話した。それでいて後は何を話せばいい? 仲間を守れなかったのに仲間の心配をする姿は実におかしく映ってしまうだろう。
そんな半分ヤケになった精神と自分を守ろうとする精神がせめぎ合い、今にも爆発しそうになったその時、突然ドアがノックされた。
「響、大丈夫か?」
その声はガルドであった。響は思わず驚いて起き上がると跳ね上がった心臓を落ち着かせて答えた。
「はい、大丈夫ですよ。問題ありません」
響はとても丁寧に答えた。その声に淀みなど一切感じられないまるでプログラムされたロボットが流暢に離したかのようで―――――
「いつも通りじゃなさそうだな」
一瞬で見抜かれた。そのことに響はまたもや思わず目を見開いた。
正直、今の段階で響がもっとも会いたくなかったのがガルドであった。それは初めての魔族討伐という実戦で大失敗をしてしまったからだ。
ただ単に魔族を逃してしまっただったら全然良かった。それどころか仲間や一緒に来た聖騎士数人の全てを失って戻ってきたのだ。
帰ってきた昨日のうちにガルドがいなかったのですぐに報告できなかったし、いたとしてもこれほどまでの失敗に対してガルドからの失望を恐れて報告できなかっただろう。
そんな響の精神状態を知ってか知らずかガルドはドア越しで提案してくる。
「今日は非番なんだ。たまには朝っぱらから飲み行くのも悪くない。ついてこい」
「.......」
響はその言葉に何も答えなかった。しかし、響の中で何かを考えるとスッと立ち上がり、ドアノブへと手をかけていく。
「よお、あんまし眠れなかったようだな。なら、今日は暴れまくってぐっすり寝るぞ」
ガルドは部屋から出てきた響にゴツゴツとした太い腕を回していくと肩を組みながら上機嫌に歩いて行く。
そのことが響には意外だった。てっきりガルドのことだから既に情報を聞いていて、それに対する何かを言ってくると思っていた。それだけ任務には厳しい人であったから。
しかし、それに一切触れることもなく、上機嫌に戦闘から離れた全く別のそれこそどうでもいいと思える内容を話してくる。
恐らく気を遣ってくれているのだろう。そんな不器用な優しさが響のひび割れた心にはとてもよく沁みた。
それから、響はガルド行きつけの路地裏にある店にやって来ていた。ガルドの友人であるミストが経営する「騎士の隠れ家」だ。
その店の前には「クローズ」と表記された札がドアにかけてあったのだが、ガルドは構わず無視してドアを壊し気味に勢いよく開けていく。
ドアベルが激しく金属音を響かせていく。その音にテーブル席のソファに頭に新聞をかけて寝ている人物はむくりと起き上がる。
「誰だ? 不法侵入だぞ――――――って一人しかいねぇか」
「違うな。今回は二人だ」
店主であるミストは新聞を手に持つと入り口に立つガルドと響を見つめた。すると、「これは珍しいお客だな」とだけ呟くとカウンターの方へと歩いて行く。それに合わせガルドもカウンターにつくと響も席に着く。
「それで今日はどうする? 何もかも忘れられるどぎつい酒かポロポロと言葉が勝手に漏れていく魔法の酒か。もしくは――――――少しだけ自信が持てる酒か」
「そんなの一つに決まってるだろ? こいつのために来たんだ。自信が取り戻せるやつだ」
「了解」
ミストは背後にある棚から一つの酒をチョイスすると酒瓶のコルクを外していく。キュポンッと良い音が鳴るとそれグラスとジョッキに注いでいく。
そして、それを響とガルドの前にそれぞれ置いていく。白ワインにも似た淡い黄色っぽい色をする飲み物だ。炭酸ではないらしい。すると、ジョッキを持ったガルドが響へと嬉しそうに告げる。
「せっかくの酒だ。お前の世界じゃ違法らしいが、この世界じゃ立派に成人している。ここでお前を取り締まるやつは誰もいない。思いっきり飲め」
「.......分かりました」
響とガルドはグラスとジョッキを軽く小突き合わせると一気に飲んだ。そして、喉に襲いかかる不思議な感覚に響は思わず驚く。
「――――――甘い」
「そりゃあ、そうだ。なんせそれはただの果実水だからな」
「え?」
響はその言葉に困惑する。そして、飲み干したグラスとガルドの顔を交互に見合わせる。そんな響に対し、ガルドとミストは楽しそうに笑っている。
「時に響、どうしてそれをお酒だと思った?」
「それは――――――ガルドさんがミストさんとお酒の種類について話していたので」
「確かに話したな。だが、俺は『酒』とは一言も言ってねぇぞ?」
「それはそうですけど.......それにそのボトルだって――――――」
「ボトルに入っているものが全て酒とは限らないだろ? 先入観にとらわれ過ぎだ」
ガルドはそう言うとジョッキに口をつけていく。そんなガルドの様子を見ながらも、響は未だ困惑が拭えずにいた。
すると、ガルドは告げる。
「見えてるものがな、全てじゃないんだよ」
「―――――――え?」
「確かに起きてしまったことはありのままの事実だ。それは変わらない。だけどな、見ていないところでも自分とは関係ない人が動き回っているように、飛ばされたお前の仲間もきっとどこかで動いている」
「.......」
「どこにいるかわからないから捜索のしようもない。それに他の国にもかけあってみるが、どうなるかはわからない。しかしな、先ほどお前が見た目と先入観でボトルに入ったものを酒と思ったように、その転移爆発も実はたいしたことがないかもしれない」
「でもそれは―――――――」
「自分を守るための考えって思ってんだろ? わかってるさ。でも、まずは自分が自分を守れなくて誰が守れるってんだ」
「........」
「必要な自己犠牲はある。しかし、それは命を張る時だ。今のように命も張れずに精神を消耗させている時に使うべきじゃない。本当に必要な時に張れなくなる。だからな、まずは自分を守るんだ。そうすれば、必然的に自信を取り戻していき、影響力の大きいお前のことだ、お前が信じれば今残されている仲間もきっと信じて進んでくれるはずさ」
「簡単にはいきませんよ.......」
「そりゃあ、簡単に行くと思うな。どこの世の中にももっとも積み上げるのが難しくて、もっとも壊すのが簡単なのが『信用』ってやつだ。簡単に行く方がおかしい」
「........」
「ともかくだ、お前はお前が信じたいことを信じろ。仲間が無事と思うなら無事と信じろ。生きていると思うなら生きてると信じろ。お前は勇者という辛い役目を背負っている。だからこその希望の象徴でもあるんだ。そのためには俺が一肌でも二肌でも脱いでやるさ」
「.......ありがとうございます」
響はその言葉に思わず嬉しそうな笑みを浮かべると自分の気持ちを整理するために一足先に店を出ていった。
そんな響の後ろ姿を見ながらガルドは思わずぼやく。
「あんな言葉で良かったのか? こういうのは正直苦手だし、後半なんて聞こえ方によってはただ勇者の役目を押し付けているようにも聞こえなくないんだが」
「あんなもんでいいだろ。さっきも見たろ? あの子の嬉しそうな笑みを。俺が思うにお前はあの子の憧れなんだ。恐らくこの世界に来てからのな」
「別に憧れるようなことをしてないがな」
ガルドはジョッキの中身を飲み干すとそれをミストに渡した。すると、ミストはそのジョッキに果実水を注いでいくとガルドに渡していく。
「そんなもんさ。別にお前が気張る必要はない。あの子がお前の背中を追っているのなら好きに走らせてやればいい。あの子は頭が良いからな。勝手にどうやって近づけるか考え始めるってもんさ」
「なるほどな」
ガルドはミストの言葉を聞きながらジョッキに口をつけようとすると不意にドアベルが鳴った。その音に二人は響が忘れ物でもしたのかと思い入り口を見ると全身をコートで纏い深くフードを被った男が現れた。
「誰だい? あいにく貸し切りだが」
「不審な奴だな。捕らえるか?」
そんな二人の警戒する態度にその男は歯を見せるように醜い笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる