神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~

夜月紅輝

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第9章 道化師は堕ちる

第205話 道化の魔王

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 壁の瓦礫が音を立てて崩れ落ちる。その音はやけに響き渡り、同時に膝を崩れ落ちさせる者もいた。

 床には滴で濡れたような跡が点々と密集しており、今も絶えず流れ落ちている。そんな様子を見たレグリアは笑いが堪えきれないといった様子であった。

「く、くくく、やりましたね。ついにと言ったところでしょうか。これでようやく私の願いは果たされますね。それに上手く抗い続けた私のにももう勝てる気力など残っていないでしょうし」

 レグリアはそう言うと右手で指をパチンと鳴らす。すると、黒い布で顔を隠し、全身を黒い法衣で覆った複数人が一斉に空間から現れた。

 その人物達はクラウンを中心に均等に並び始めると手を組んで何かを詠唱し始めた。そんな堂々と始めた詠唱にもかかわらず、クラウンは止めようとしなかった――――――否、止める気力もなかった。

 クラウンは自分自身でしてしまったことの重大さに全意識が向いていたのだ。そして、もう取り戻せることもない絆に強い罪悪感を感じている。

 とめどなく溢れる涙はクラウン自身にすら制御できない。それほどまでに大きな存在を自らの手で討ち滅ぼした。

 それをどんな言葉で自分を擁護すればいい? そんなことはなから出来るはずもないし、出来たとしてもする気もない。

 雪姫達は裏切ってなどなかった。むしろずっと抗っていた。それでもその体の縛りから解放できず自分を攻撃した。

 そのことを自分は裏切ったと感じた。信じてくれないと感じた。見捨てたと感じた。しかし、その全てが違った。

 何も真実を知らないのにただ「裏切られたから」と思い込んで、雪姫を傷つけてしまって、響を傷つけてしまったいた。

「嘘だ.........」

 これが悪い夢ならば冷めて欲しい。どうして、どうしてこうなってしまうんだ。自分の身勝手な憎しみが勘違いのままずっと傷つけていたなんてどう償えばいい。

『それにあの時の立場と全く逆も体験したしな、オレよ?』

「!」

 突如として脳内に響き渡る声。その声はここに来る前に夢に見たもう一人の自分だ。そして、そいつは自分がしたことに対して笑っている様子であった。

『言っておくが、これは自業自得だぜ。俺は前から『仲間は信用するな』と言っていたんだ。にもかかわらず、お前は仲間を作りすっかり絆されちまってるじゃねぇか。言っておくがこれは全てお前の行動が招いたことなんだぜ?』

「俺の―――――行動.......」

 クラウンはその言葉に思わず過去にしてきた行動が走馬灯のように頭の中に流れてく。そして、思い出すたびにその目から生気が抜けていっている。

 そんなクラウンにそいつは言葉を続けていく。

『ああ、そうだ。見捨てられているのもかかわらず仲間を信用し続けたことも、一度仲間を信用して失敗しているにも関わらずもう一度信用したのも、我を優先せず仲間のために動いたのも全ての過程がこの結果をもたらした』

「違う.......そんなことは――――――」

『どこが違うって言いきれるんだ? 現に結果が全てを物語っている。最初から仲間を信用せず利用だけしていれば、たとえ同じような状況になったとしても仲間を見捨ててお前の望むままに行動できたはずだ。そんな場面は幾度となくあった。しかし、それを選択しなかったのは全てお前なんだ。その事実から目を逸らそうというのなら、オレは別に構わないわぜ。ただその状態でお前の精神がどれだけ持つかは、もはや時間の問題だがな』

 そいつの言葉にクラウンは何も言い返せなかった。これまでの限りない選択をし続けて、結果こうなることを招いたのは確かに自分だ。その事実から目を逸らしてはいけない。

 ただどうしてかそいつの言い方はどこか笑っているような感じがした。いや、気のせいかもしれない。もう自分の心が保ててないのかもしれない。

『全く滑稽だな。いつものお前ならオレに『黙れ』の一言でも言いそうなのによ。仲良しごっこを続けているうちにすっかり弱くなっちまったな。肉体も、特に精神も」

「そんなことはない.......はずだ。俺はあいつらがいたから頑張れたところもあった―――――――」

『その発言の時点で弱さが溢れ出てるぜ。お前が最初に見たかにつけたのはあの魔族の女でもクソ犬でもない。オレのはずだろ? なぜ信用しない?』

「それはお前が信用しきれないからで........」

『前にも言ったがオレはお前で、お前はオレなんだ。その事実は揺るがないし、オレはお前なんだから本来信用する、しない依然の話なんだ。信用して当たり前なんだ。オレはお前なんだからな。それにオレに任せてくれれば今の現状は打破できるかもしれねぇぜ』

 そいつは突如として怪しい提案をクラウンへと投げかけた。それに対し、クラウンはすぐにその選択肢を切り離すことが出来なかった。

 もしかしたら、そいつのことすら本当は見誤っているかもしれないと思い始めたからだ。

 その判断ミスによって雪姫や響を傷つけてしまったことがクラウンの足におもりのようについていて離れることはない。

 それが今のクラウンに猛毒の一撃となって今も苦しみを与え続けている。だからこそ、その言葉が本当なら信用してみる価値はある。

 クラウンは苦しそうな顔で唇を噛みしめると両手の拳を強く握り、言葉を告げた。

「.......わかった。お前の言葉を信用する」

『なら、一時的に体をオレに譲渡するわけになるがいいか?』

「.......構わない」

『そうかよ。まあ、信用してくれて助かるぜ。だから、せめて言わせてくれ――――――バァ~~~~~~カ!』

「なっ!」

 その瞬間、クラウンの体から禍々しく黒いオーラの魔力が溢れ出るとともにクラウンの両手は突然自身の首を絞め始めた。

 その力は強く息が出来ない。それに本当に自分の体ではなくなったみたいに力が入る感覚もなければ、動かせる感覚もしない。

 そんなクラウンの様子にそいつは笑い狂う。

『ははははは! こいつは本物のバカだな! 俺は言ったぜ! 『仲間を信用するな』と! まあ、気づくはずもねぇけどな!』

「だ、騙したのか――――――」

『騙す? 人聞きのわりぃこと言うなよ。お前がオレの真意に気付かず、オレの言葉に勝手に騙されただけだぜ? いいか? お前のオレを信用するという行動がこの結果を招いたんだ! もう少し用心して言葉や行動を選択しなきゃな!」

 黒い魔力はとめどなく溢れ出るとクラウンの体に纏わりついていく。その光景にクラウンは静かに涙している目で見ることしかできなかった。

「どうして、どうして.......俺はただ普通に皆ともとの世界に帰るために頑張っていたはずなのに.......どうしてこうなるんだ――――――』

『どうしてだろうな? 全く世の中はどうにもこうにもよくわからなく動いているもんだ。だが、どれだけ環境が変わろうとも、どれだけ文明が発達しようとも変わらない不変の真理がある。過去のお前なら即答だったろうが、今のお前にわかるかな?」

『かはっ!」

 クラウンは両手が首から離れると床に肘をつけて思わず四つん這いの姿勢になった。そして、せき込みながら苦しく呼吸を繰り返す。

 すると、そんなクラウンの様子を見たレグリアが笑いながら告げる。

「苦しいですか? それが君が仲間達に与えてきた苦しみの一端かもしれませんよ? ところで一つクイズをしましょう。簡単なクイズです。強き者が弱き者を支配することを何というでしょうか? もしくは弱い者を食べ物にする強い者の縮図を何というでしょうか?」

 クラウンは未だせき込みながらもレグリアを見る。涙で霞んだためレグリアの姿をハッキリと捉えることは出来なかったが、その姿はなぜか夢で見たオレそいつと姿が重なった。

 すると、外と内で同時に声が聞こえてくる。

「『答えは―――――――弱肉強食(ですよ/だ)」」

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!』

 するとその時、クラウンの足元にクラウンを中心にして魔法陣が浮かび上がる。そして、その魔法陣の頂点にはそれぞれ詠唱していた黒づくめの恰好をした人物が立っており、一斉に魔法を解き放っていく。

 その瞬間、クラウンは雷の檻に閉じ込められたかのように無数の紫電がクラウンを包み込んでいく。その度に黒い魔力が反応してクラウンに凶悪な装甲を身に着けていく。

 その場はまさに悪魔召喚の儀をやっているかの如く禍々しい空気と息も詰まるような圧縮された威圧感に満たされていた。

「が、がが、があああああああ!』

 クラウンの体は左腕、右腕と凶悪な黒い手甲がつけられていくと両足にも同様なのがつけられていく。そして、やがてそれは腰回り胴体と纏わりついていき、暗黒騎士のような鎧に全身が満たされた。

 またクラウンの顔には目から頬にかけて血涙したかのような赤いラインが入っている。そして、特徴的なのはこめかみから前にかけて生えている二本の角。

 それはまるで――――――魔族のようであった。

「気分はどうですかな? 言っておりませんでしたが、この儀式には代償が伴いましてね。君の場合は悲しみの感情が消え去りました。まあ、もっとも今の君には必要ないですが」

「ああ、必要ないな。なんせオレの気分は最高だからな」

 クラウンはゆっくりと立ち上がると近くに落ちている刀を右手に持った。そして、左手を握ったり開いたりして感覚を確かめていく。

「く、くく、くははははは! ついに! ついに完成したのですね! 人族から魔族を作り出す! それも召喚した勇者から! はははははははは!」

「笑い過ぎだ。といっても、オレはついにこの体を乗っ取れたわけだから、確かに笑いは堪えきれんかもな。そうだ、オレはさながら何の魔王だ?」

「そんな事言わなくても自分でお気づきでしょう?」

「くくく、違いねぇ」

 クラウンは白目が黒く、黒い瞳孔が黄色くなった瞳で自らの左手を眺める。すると、その左手に黒い魔力を集めて一つの仮面を作り出した。

 その仮面は半分が白、もう半分が黒で目と口は三日月形を上に向けたような醜い笑いを浮かべている仮面であった。

「この世界はつまらない。だから、俺がこの世界を笑いで包んでやろう。誰もが幸せに、平等に、死するその時まで脳裏に刻みつくような――――――絶望の笑いを」

 そう告げながらクラウンは仮面をつけた。そして、仮面の奥から見える黄色い瞳孔で見つめる先は穴が開いた壁から見える荒野からやってくるであろう人物達。

「さあ、この道化の魔王が全てを笑いに染めてあげてやろう!」

 仮面の奥でニヤついた笑みを浮かべた。
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