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第9章 道化師は堕ちる

第202話 教皇の正体

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「話は以上だ。それからはどうしてか生きていたという感じだ.......もういいだろ」

 仁は過去を語り終えると投げやりな態度を見せた。それだけ過去を話したことが精神的に来ているのかもしれない。

 そんな様子を全員が感じ取ったのか誰もがクラウンにかける言葉を見つからないでいた。見つかるはずもなかった。

 全員それぞれが抱えている辛い過去においても誰一人として「裏切られた」という感覚はなかったからだ。

 突然襲い来る理不尽になすすべなく後悔しながら、それをどうにかしようとしながら今を過ごしている。

 しかし、クラウンの場合は少し異なる。それぞれに持っていたそれでも信じれるものが何もなかったのだ。ある時を境に、唐突に。

 それでいて叫んだ言葉には耳を傾けてはくれない。その一方で、着実に進んでくる理不尽。逃げ場もない、助けもいないそんな状況で変わってしまうのはある意味必然かもしれない。

「俺の体調は戻った。もういくぞ、思っているよりも話し過ぎた」

「.......ええ、そうね。思わずクラウンの過去を聞いてしまったけど、まだ目的も何も果たしていないのよね」

「行くです。敵はすぐ近くです」

 クラウンは立ち上がるとこの空間のさらに奥へと進んでいく。そのどこか哀愁漂う後ろ姿を見つめながら、リリス達も後ろを追って歩いて行く。

 進んだ先には鉄の扉があった。そして、その扉の中心にはバルブのような取っ手が。普通に引いても動かなかったので、それを回しながら動かしていく。

 扉を少し開けると隙間から内部の様子を伺う。周囲に気配はない――――――何一つ。それが逆にクラウンの不安を煽った。

 だが、いないなら進むしかない。だいぶ離れているだろうにもかかわらず、真上の方から強い気配を感じる。それが恐らくレグリアだろう。

 仁は途中途中で念のため物陰に隠れつつ、手の合図だけでリリス達を誘導していった。しかし、一階、二階、三階、と続いても気持ち悪いほどに気配を感じない。

 魔王城も立派な城だ。にもかかわらず、こんな広さに気配を一つも感じないことは嫌な予感を連想させることしかなかった。

 この内部で感じる魔力は二つ。一つはレグリアだとすれば、もう一つは魔王というところだろうか。もしくは、兵士の魔力すら感じないこの場では魔王もいないと考えると残るはカムイの妹ぐらい。

 とにもかくにも、それは行ってみればわかることだ。そのための用心をしておこう。

「ベル、少しだけ頼みたいことがある」

「はいです」

 クラウンは突然ベルを近くに呼び出すとベルにしか聞こえない声で頼みごとを告げていく。しかし、その内容はベルからすれば頼み事でもなんでもなく、ただの逃げの保険でしかなかった。

「主様、それは.......」

「最悪の場合が来た時だ。きっとこれで最後になるかもしれないが.......もしもの時は――――――お前らを信じている」

 クラウンは少しだけ悲しみとそれを隠すほどの強気な目で見つめ、ベルの不安を拭うように軽く頭を撫でていく。

 そんなどこか死期を悟った人のような顔をしたクラウンの表情にベルはかける言葉が見つからなかった。

 れからも人一人の姿も見ないまま最上階へと上がっていく。そしてやがて、クラウン達は魔王がいるであろう巨大な扉の前へと辿り着くとその扉を蹴飛ばして入っていく。

 すると、そんな彼らを見てすぐにしゃべった人物は―――――――

「おやおや、やっと来たようだね。全く待ちくたびれちゃったじゃないか」

 子供のような小さな容姿で手を後ろに組みながら、悠然とした態度を取る神の使徒レグリアはやや呆れたに言葉を告げた。

 その様子に少しだけイラッとするクラウンであったが、それ以上に気になる存在があった。それは......

「ひっ!」

 よくイメージする魔王とは似ても似つかないガリガリの角の生えた魔族がレグリアの近くにいた。

 着こんでいる衣服はさぞかし立派なものだが、それに見合う体形ではない。それに魔族であることには変わりないが、それ以上に問題なのは性格だろう。

 背もたれの左右の角に黄金の髑髏どくろの付けた椅子に座る魔王であろう褐色の青年は明らかにクラウン達の存在に怯えていた。

 見るだけで震えていることがわかり、椅子の上で存在感が縮こまっていくことがよく伝わってくる。まるでお飾りのようだ。

「うん、お飾りだよ。本当の魔王ではない」

「!」

 仁の考えを読み取ったかのようにレグリアは言葉を告げてくる。そのことに思わずレグリアを見るとバカにするように笑っていた。

 しかし、仁は冷静に対処していく。

「人質は生きてるんだろうな?」

「生きてるよ。でも、残念だな~。非常に残念だ。まだ少し足りないなんて」

 レグリアはよく分からない言葉を吐きながら、右手を空間に突っ込んでいく。すると、右手の肘から下は揺らいだ空間の中に消え、右手が出てきた時はカムイの妹であるルナも一緒に出てきた。

 クラウンはすぐにルナの気配を探る。気配はだいぶ小さいが生きている。しかし、それも時間の問題かもしれない。

 するとその時、レグリアはルナの襟を掴むとそのままクラウン達に向かって放り投げた。それをカムイが一目散に動きキャッチする。

「雪姫、頼む」

「わかりました」

 カムイは咄嗟に雪姫に声をかけると雪姫はルナへと治療を開始していく。その光景を尻目に見ながら、クラウンは聞いた。

「なんの真似だ?」

「うすうす気づいてるだろ? 僕の本当の目的が他にあるということぐらい。でも、本来ならこんなリスクをしてまでも来る必要はまるでなかった。にもかかわらず、ここへやって来た。それは実に僕の好都合なことであり、同時に残念なことであるんだ」

「何を言っている?」

「君は仲間を作り過ぎたと言っているんだ。それがどれだけ君を苦しめているかわかっているのかい?」

「お前が俺の何を知っている!」

 クラウンは殺気を溢れ出させた。その禍々しい空気は周囲を凍り付かせるように寒気を感じさせていく。

 だが、レグリアは涼しい顔をしていて、魔王であろう青年は今にも気絶しそうな勢いで顔を青白くさせている。

 すると、レグリアは突然青年の方へと顔を向けると「遅かれ早かれ使うから問題ないよね」と呟いた。その言葉が聞こえていたのか青年は恐怖に顔を歪めていく。

 その瞬間、突然レグリアの右半身が霞がかった。そして同時に、青年の視界はまるで世界が回転していくように見える光景を最後に意識を閉ざした。

 その光景を見ていたクラウン達は思わず絶句した。青年は殺されたのだ――――――レグリアの手によって。何の抵抗もなく――――――一撃で。

 どういう意図で殺したのかはわからない。ただその狂気の行動はクラウンの怒りを超えさせた。

「ここで終わらせる!」

 クラウンを右足を力強く踏み込んでいくと前方に跳躍していく。そして、左手で鞘を押さえると右手を柄に構え、居合切りの構えを見せた。

 高速で移動して歪む周囲の中、レグリアだけを捉えたクラウンは舌から上へと一気に切り上げた。しかし、レグリアにスッと半身で避けられる。

 そこへさらに追撃とばかりに右手に持った殺意の黒刀を横なぎにるっていく。しかし、それも後ろに下がることで避けられた。

 それでも攻撃を止めるクラウンではない。右方向へと体を捻った勢いを利用して、爪を立てた左手をレグリアを引っ掻くように振るったのだ。

 すると、<流爪>によって五本の刺すような斬撃が白く半透明な尾を引いて飛んでいく。

「やはり君の素質は素晴らしいね」

 レグリアは余裕の笑みを浮かべると右腕だけを自身の身長以上の長さと丸太のような太さに変えると斬撃を殴って打ち消した。

「消えろ」

「今の君じゃ無理だね」

 レグリアが斬撃を打ち消した刹那、気配を殺して背後に回り込んだクラウンは地面に叩きつけるように刀を真下に振るった。

 しかし、その刀はレグリアの背中から突如生えてきた二本の腕によって白刃取りされて受け止められる。攻撃が通らないことがわかるとすぐに腰辺りを蹴飛ばして距離を取った。

 そして、クラウンは今のレグリアの行動を見て確信した。いや、もっと前から確信はあったが、それがようやく本物になったという感じだ。

「お前―――――――俺が殺したはずの教皇だな?」

「おや、気づかれずに済むと思ったんだけど」

 レグリアはとても嬉しそうに告げた。まるで気づいてくれたことが嬉しかった子供のような無邪気さであった。

「そう、僕は教皇だよ。まあ、君には一度大ヒントを見せたし、分からないはずがないだろうけどね」

「お前がラズリを回収しようとした時だろう? 良く知っている。上手く俺だけしか見えないようにしていたしな」

「他にも確信に至るところは合ったのではないか? ほら、たとえば僕の背中から生えている二本の腕であったりさ」

「.......まあな」

 仁は思わずレグリアを睨んだ。それはまるで自分が先ほど過去を話したことを知っているかのようなタイミングの良さであったからだ。

 するとその時、レグリアに向かって雪姫の声が響き渡る。

「あなたが教皇様だってふざけるのもいい加減にして! 教皇様はあなたのような残忍な人じゃない!」

「そ、そうだよ! 朱里達は良く知っているよ! 教皇様がどれだけ良くしてたか!」

 雪姫に続いて朱里も便乗して言葉を続けていく。その言葉にレグリアはまるで心底を面白いかのようにお腹を抱えて笑い始めた。

「ははは、ははははは! バカだ! バカがいるよ! のうのうと生きて、何も知らないで、自分の見たこと全てが真実だと思っている愚か者が二人もいるよ!」

「な、何がおかしいの!」

 朱里はレグリアの突然の態度に苦言を呈した。すると、レグリアはなんとか笑いを堪えた様子で告げていく。

「おかしいに決まっているじゃないか。起きたことには全て理由があるんだ。突然おかしなことが起こるなんてあるわけないじゃないか」

「.......?」

 レグリアは意味深な言葉を告げるとその体積を大きくしていく。左肩が急激に膨れると次は右脚、次は右腕、左脚と順々に大きくなっていく。

 そして、一度全身が気持ち悪く風船のように膨らむと今度は急激に縮んで、先ほどの少年のような体躯から成人男性の体躯に変わり、頬には年季の入ったしわが刻まれていく。

「嘘.......」

 雪姫の呟きは静かに響き渡る。

「さあ、これでネタバレはおしまいかな.......ごほん、おしまいですね。さあ、狂乱の宴の最終準備を始めましょうか」

 レグリア―――――否、教皇は気持ち悪く悍ましい笑みを浮かべた。
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