神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~

夜月紅輝

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第8章 道化師は移ろう

第177話 魔幻の地獄 ティデリストア#3

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「どういうことだ? さっきから攻撃が全部勝手に避けやがる」

「問題はそれだけじゃないです。魔法攻撃すら避ける行動もなしに勝ってに避けていくです。これでは倒しようがないです」

 クラウン達が熊の魔物と相対している時、カムイ、ベル、朱里の三人もゴリラの魔物と戦っていた。そして、クラウン達と同じ症状が起きており、カムイの左頬の傷からして一発殴られたことがわかる。

 故に、カムイ達は非常に苦戦している。魔物のレベルは大した問題ではない。なのに、自分達の攻撃がまともに通っていないからだ。

 カムイとベルは互いに何かを考えながら何度か攻撃を仕掛けていく。しかし、そのどれもゴリラに届き得る攻撃ではなく――――――

「くっ!」

「んっ!」

 カムイは遠距離から炎の斬撃と氷の斬撃を放っていく。しかし、ゴリラの魔物は一直線に進んでくるだけで避けようとしない。なぜなら代わりにその斬撃の方から避けていくから。

 そして、接近したゴリラの魔物は大きく右腕を振りかぶるとそのまま殴りつける。その攻撃はカムイの腹部へと突き刺さり、遠くへ吹っ飛んでいく。

 さらに方向転換したゴリラはベルへと近づいていくとベルに左腕を振るうことで薙ぎ払っていく。

 当然、カムイもベルもただで攻撃を受けたわけではない。カムイは防御を、ベルは避けようと意識を向けた。

 だが、結果はその真逆。カムイは隙をさらしていくように両腕を広げ、ベルはゴリラの方へと跳躍した。

 そんな二人が戦闘している中、ただ一人動かない朱里はその光景に、自分の行動にデジャヴを感じていた。

 朱里も最初のうちは戦闘に参加していた。もっと言えば、接近してきたゴリラに一番目に攻撃したのが朱里だ。

 だが、朱里の職業柄で百発百中とも言えるその腕から繰り出された魔法弾はゴリラの中心へと飛んでいったにもかかわらず、不自然に両サイドに逸れていく。

 カムイとベルに出来る限り役に立とうと行動したのに結果は先ほどの通りだ。そのため、朱里は罪悪感を抱いて上手く動けないでいる。

 また動けない理由はもう一つある。それがカムイとベルを見ているたびに感じているデジャヴだ。

 自分の思考では確実に当てられたと思っていた。だが、結果は当たらなかった。自分は距離を取ろうとした。だが、結果は前に近づいた。

 思考と行動がかみ合っていない。自分が思っている行動とは全く別の行動をする。これはまるで.......

「あの時と同じ.......」

 朱里は静かに戦慄していた。それは過去に自分がクラウンにしたことと同じだからであるから。

 感覚的には前回よりも軽い。しかし、それが問題じゃない。問題は今の状況によって封じ込めていた記憶が勝手に思い出されるということ。

 せっかくクラウンと仲直りとはまだ行かないけど、それでもマシな関係性にはなれた。それによって、少しずつ取り除かれていた罪悪感。

 しかし今は、この似たような感覚のせいで忘れもしないあの時の記憶が鮮明と蘇ってくる。

 自分が思っていた言葉と全く違う言葉を吐く自分。必死に止めようと抗っても止まらない自分。そう......これはあの時と同じだ。

 トラウマのような罪悪感が心を汚染していく。それは酷く息苦しい。そして、これは自分だけではない、もし雪姫がいるところも同じようなことが起こっていたらと思うと.......

「っ.......」

「朱里?」

「朱里様?」

 朱里は銃を落とすと両手で胸の服を鷲掴み、ゆっくりと膝から崩れ落ちていく。その顔はとても苦しそうで、あまり動いていないのにカムイやベルより大量の汗を地面に滴るほどかいていく。

 蘇ってくる過去の愚かな自分。それが主張してくるように何度も何度も愚かな行為の時の映像をリピートして、頭痛を引き起こしていく。

 そんな朱里に気付いたカムイとベルだったが、その二人よりも早く気づき、走り出したのがゴリラの魔物であった。

 すぐにトップスピードになって駆けていくゴリラにカムイとベルは追いかけようとする。だが、先ほどまで自由に動けていた体が、急に石像になったように動かない。

「朱里、逃げろ!」

 カムイは咄嗟に声だけを飛ばした。だが、不自然に動かなくなった体の状態に歯噛みが絶えることはない。

「ウホオオオオオオオォォォォ!」

 ゴリラは興奮したように雄叫びを上げていく。そして、地面を揺らしていくようなナックルウォーキングならぬナックルランニングで朱里に急接近する。

 しかし、朱里はすぐにその場から離れることは出来なかった。だんだんと増していく頭痛に頭を抱えている。だが、なんとか落とした一丁の銃を右手で手繰るとゴリラの魔物へと向ける。

 震えた腕で照準はブレブレ。でも、とりあえず撃てば当たるという距離にはゴリラがいる。問題は当たればどうかであるが。

「来ないで!」

――――――バァンッ!

 朱里には当たるかどうかはどうでも良かった。ただこの頭痛に対して収まるまでの時間稼ぎが出来ればそれで良かった。

 すると、朱里の放った風の弾丸はゴリラの魔物へと迫っていくとなぜか避けずにそのままゴリラの心臓を貫いた。

 そして、そのまま走った勢いで朱里に覆いかぶさるように突っ込んでいく。それに対し、前方を見ていなかった朱里は巻き込まれ、ゴリラの死体の下敷きになった。

 そんな光景を見ていたカムイとベルは思わず固まった。それは当然、どうして朱里だけが攻撃できたのかということ。

「んん......重い.......あれ?」

 朱里はゴリラの体重で動けないでいた。だが、辛うじて動かせる両手で動かそうとしていく。しかし、最初は動かなかったにもかかわらず、愚痴を吐いた瞬間に嘘みたいに軽くなってヒョイっと自分の体の上から死体をどけていく。

 その時、ふと頭痛が消えていたことに気付いた。「早く、収まれ収まれ」と願っていたことが叶ったのか。

 いや、どこか違和感がある。自分の攻撃が通ったことと言い、頭痛が願うほど酷くなったことと言い、ゴリラへと攻撃出来たことと言い。

 するとその瞬間、朱里の頭が閃いた。一つの答えらしき仮説を打ち立てたのだ。そして、未だサッパリと言った顔のカムイとベルに告げていく。

「朱里、この現象がわかったかもしれない」

***************************************************************
 同時刻、クラウン達の方でも動きがあった。

「リル、あの熊じゃなく――――――森に砲撃しろ」

「了解です、マスター」

 クラウンの指示にリルリアーゼは両腕を大砲のような筒状に変えるとそれぞれの腕に光のエネルギーを収束し始めた。

 だが、リルリアーゼは光を収束だけさせておいて一向に砲撃する気配がない。そのことに本人自身も困惑している様子であったが、クラウンただ一人何かを思考するようにあごに手を当てていた。

「ガアアアアアァァァァ!」

「旦那様、来るわよ!」

「ああ、そうだな」

 鋭い牙を剥き出しに迫りくる熊にエキドナは咄嗟にクラウンへと声をかける。だが、クラウンは全く避けようとしないどころかゆっくりと刀を構える。

「ガアアアア!」

「じゃあな、

 クラウンはそう告げると熊に向かって刀を横に振るった。すると、その刀は熊の前で止まることなくスッと頭を切り落としていく。

 そして、熊はクラウンを通り過ぎながら頭と胴体を別々にして吹き飛んでいく。そのことにエキドナとリルリアーゼは思わず唖然とした表情をした。

「旦那様、今のは―――――――」

「言葉で説明するより体感した方が理解も助かるだろう」

 そう言ってクラウンが進むべき方向へと目を向けるとさらに二体の熊がこちらへと向かって来る。その熊に対して、クラウンは刀を向けながら指示をする。

「二人とも、自分の思考を信用するな。もしくは考えるな。今の俺達は思考に嘘をつかれている」

「「!」」

 その言葉に何かを察したエキドナとベルは二人ともすぐには戦闘の構えをしなかった。そして、それぞれ別々の方法で答えと辿り着く。

「思考演算を停止」

「殴らない!」

 接近して今にも襲いかかる熊にリルリアーゼは熊を殺すという思考そのものを切り捨て攻撃を仕掛ける。逆に、エキドナはクラウンと同じ方法であえて言葉にしてその言葉を思考に満たした。

 すると、二人の攻撃は先ほどまで苦戦していたのが嘘のように簡単に攻撃が通り、瞬殺していく。そして、全てに気付いたエキドナはクラウンに聞いた。

「旦那様、これってもしかして――――――思考と行動が真逆になってる?」

「ああ、恐らくそれで間違いない。もう少し正確に言うならば自身の行動に対する思考と行動もしくは現象が反対になるという感じだがな。それはエキドナが最後に俺に言った言葉で気づいた」

 クラウンはエキドナの言葉に同意するように答えていく。どうやら上手く伝わってくれたらしい。

「なるほど。では、マスターが最初の熊に対して言った言葉はそのためだったのですね」

「そういうことだ。頭の中で思うだけじゃ、どこかにほころびがあると思ったからな。だから、あえて言葉にして攻撃の瞬間だけでも一時的に熊に対する攻撃意識......思考を逸らしたんだ。言葉として言うだけじゃ体に影響はないからな」

「そうなのね。てっきり、私と旦那様は同じかと思っていたけど違かったのね。ちなみに、私の場合はあえて思考で真逆のことを考えて反対の行動をさせたという感じかしら。それにしても、『思考は嘘をついている』とは上手く言ったものね」

 エキドナは今までずっと謎だった現象に答えが出るとどっとため息を吐いた。あのままでは倒されることはなくてもジリ貧は必須であった。

 それにあの熊は神殿で発生した魔物だ。ということは、本来の魔物とは違う生態をしているとなれば飢えで苦しむのはこっちだけ。

 なので、原因と対策がわかったことはとても喜ばしい。これでいざとなれば無駄な戦闘は避けられる。

 とはいえ.......

「これって慣れるまで時間かかりそうよね]

「まあ、そこは仕方ない。言葉にして思考を満たすか、そもそも思考自体を捨てるかその二択しかないし、俺達には実質前者しか選択肢がないようなものだ。先ほどは考えないようにしたが、やはり思考を捨てるなんて考えられないしな」

「そうなるとリルの出番ですよ! マスターはリルを馬車馬、雌ブタのように扱ってください!」

「くっ、こいつに頼らざるを得ないとは屈辱だ」

「その言葉、ごちそうさまです」

「ふふっ、M属性もアリかもね」

 クラウンはいつもの調子に戻り始めた二人にため息を吐きながらも前へと歩き始めた。
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