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第8章 道化師は移ろう

第176話 魔幻の地獄 ティデリストア#2

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 リリスは前方からやってくる二足歩行の植物に対して素早く接近していくと振るわれた蔦を紙一重で避けていく。

 そして、作り出した隙に素早く蹴り込んで両断していく。さらに纏わせた炎とともに消滅させていく。

 別の場所ではベルが糸を括り付けた短剣を一体の魔物に突き刺すと周囲を巻き込むように回転させていく。

 それによって、多くの魔物を一か所の集めると<雷咆>によって一斉に殲滅させる。

 その他の場所でも、エキドナ、朱里、雪姫、リルリアーゼと次々に襲いかかってくる魔物を駆逐していく。

「ふぅー、だいぶ感覚が掴めてきたわね」

「男性の体でここまで動きが変わるとはね。ある程度の強さがあるから余計に実感するんでしょうね。少しズルいと思ってしま受けれど」

「だからこそ、獣人族と竜人族は強い人の惹かれるのだと思うです。この理由なら納得です」

 魔物の討伐がある程度終了した所で、男へと体が作り変わったリリス達が通常との差異を比較して会話していた。

 そんな三人に対して、なんともやるせない目を向ける二人の人物がいる。それがクラウンとカムイだ。

 クラウンとカムイはリリス達とは反対に女になったので実に不便な思いをしている......というわけでもないが、それ以上にリリス達に何もさせてもらえずに今まで眺めているだけであった。

 もちろん、何回か戦闘に参加しようとしたこともあった。だが、大体決まって同じことを言われる。たとえば、ここで言ってみるとすると.......

「リリス、動きがわかったならそろそろ俺達も参加していいだろ?」

「何言ってんのよ? たとえわかったとしても、今は女であるあんた達に出る幕はないわ。たまには素直に守られなさい」

 と、言われるのはこんな具合であるので何もさせてもらえない。

 確かに、守られるというのは実に楽で、そのために頑張っているリリス達に頼もしさを感じることもある。

 しかし、もともとは男の体であったのだ。そして、体は変化してもその思考だけは変わらない。なので、現在退屈感が著しい。

 するとその時、退屈しのぎに気クラウンはあることを思い出した。そして、それは現在こちらに向かっている魔物に対して有効的であると感じた。

「橘、お前の銃を一つ貸せ」

「え? うん」

 朱里はその言葉に思わず驚きながらもクラウンに一丁の魔法銃を渡していく。するとすぐに、その銃を朱里へと向けた。

「か、海堂君? 何を.......」

「もうなんとなく察してるだろ? ただこのことを知らない雪姫に教えてやろうと思っただけだ」

「ちょ、待っ―――――――」

 朱里が言葉を言い終わる前に一発の銃声が響いた。その光景を見ていた雪姫は思わず唖然。目を見開いてん前に思考回路が止まっている。

 額を撃ち抜かれた朱里は反動で頭を大きく動かしながら仰け反っていく。しかし、そのまま倒れていくことはせずに足を一歩後ろに下げて踏みとどまった。

 そんな朱里にクラウンは銃を放り投げるとノールックで空いている手で銃を掴んだ。そして、気持ち悪く体勢を戻していくとクラウンに聞いた。

「敵は?」

「後方から残り十秒で俺達のもとへと到着する。数は三十以上。敵の種類は多様。いけるか?」

「十分、殲滅ゥ!」

 朱里はクラウンを通り過ぎると向かって来る魔物の群れに対して身一つで突っ込んで両手の二丁銃を乱射し始めた。

 その光景に雪姫は二度目の唖然。ショック度合いで言えば、なぜか後者の方が高かったりする。そして、油を刺し忘れた機械のようにぎこちなく首を動かしていくとクラウンに尋ねた。

「じ、仁.......あれは?」

「あれはバーサーカー橘と言ってな。お前に会う前に編み出した必殺モードだ。ただ見た目があんなのだから本人は使いたがらないがな」

「じゃあ、なぜ使わせたの?」

「あれはいざとなった時のあいつの隠し玉だ。だが、あいつ一人に判断を委ねると最後まで渋る可能性がある。だから、お前に見せた。お前が判断して使用要請を出せば、恐らくあいつは断れないだろうからな」

「うわ、悪魔。見た目にがもはや女盗賊にしか見えないから余計にそう思えてしまうわね」

「ですが、カッコいいです!」

「ミス・ベルに同意します。罵って欲しいです。ハアハア.......」

「......イケる」

「助けろ、カムイ」

「お前さんはどうしてこういう時に助けを求めるんだ。俺にもさすがに無理だ」

 朱里がよそで魔物と戦っている中、クラウン達は実に通常運転であった。むしろ、この人数でいるからかもしれないが。

 ともあれ、朱里が意図せずの羞恥心を抱えて帰って来るまでクラウン達は他愛もない会話を続けていた。

 それから、魔物を倒し続け歩いて行くことしばらく、クラウン達は進んだ先にあった階段を下りると巨大な魔法陣がある場所を見つけた。

 その場所には魔法陣があるだけで他にはなにもない。ということは、この魔法陣を経由してからではないと進めないということだろう。

 クラウンはふと周りを見る。思わず声をかけようとしたが、仲間達の様子を見る限りその必要はないようだ。

 すると、足元にあった魔法陣は淡く輝きだす。そして、その輝きは次第に周囲を包み込み、クラウン達を白き光で覆っていく。

***************************************************************************
「......ここは?」

「どうやら分断されたようだな」

「そうみたいね」

 クラウンが視界を開くと先ほどと似たような草原のような場所であった。そして、現在この場にいるのはリルリアーゼとエキドナだ。

 しかも、エキドナの恰好は男の恰好ではなくなっている。つまりは元の姿で、どうやらここではあの姿は適応されないようだ。

 クラウンは自身の手を握ったり開いたりして感触を確かめる。感覚は問題ない。だるさのようなものもないし、力もしっかりと発揮できる。

 するとその時、隣から残念そうな声が聞こえてきた。

「あら、もう戻っちゃったの? あの姿ならもう少し旦那様の役に立てると思ったのに......」

「リルも同じです。今思えば、男性モードをプログラミングしてなれば良かったです」

「エキドナ、お前は十分にやってくれた。だから、ここは任せろ。体がなまりそうだ」

「ふふっ、旦那様にそう言ってもらえるならそういうことにするわ。それに結局私の心は女であるわけだし、やっぱ女なら女の魅力で勝負しないとね」

 そう言うとエキドナは勢いよくコートを脱ぎ捨てる。そして、露わになるは際どい民族衣装のような服。

 さすがエキドナクオリティだ。どんなところでも体をエロく見せることには余念がないらしい。そんなエキドナにクラウンは思わずため息を吐く。

 ちなみに、リルリアーゼが「二人にガン無視されるのもアリですね」と言っていたりするが、それすらも二人はスルーしている。

「そういえば、結局先ほどのあの姿は俺たちパーティに男が多ければ多いほど不利なステージという解釈で良かったんだよな?」

「そうなるわね。でも、私達の場合は有利に進んだ。それだけのことよ。まあ、このパーティがおかしいといえば、おかしいのだけどね」

「それはマスターにハーレム王の資質があるということでは?」

「その通りかもね。良いこと言うわね」

「いえいえ、ミス・エキドナには敵いません」

「おい、俺の預かり知らぬところで不名誉な称号をつけるんじゃねぇ」

 クラウンは少しだけ運の悪さを憎んだ。まさかメンツがこのようになるとは。どちらも自分の手には負えないある種の化け物である。そんな化け物にせめてリリスがいれば押し付けられただろうが。

「マスター、敵が接近中です」

「わかっている」

 クラウンは前方からこちらに向かって来る一匹の熊に対して刀を抜いた。今更、このメンツに対して熊一匹とは.......だが、当然罠の可能性もある。

 なので、それに対処できるだけの注意を払いつつ、いつも通り。そして、クラウンがその熊よりも素早く接近してその頭に刀を振り下ろす。

「!」

 だが、その振り下ろした刀は熊の頭数センチというところで突然時が止まったかのように微動だにしなかった。

 そのことにクラウンは驚きながらも、まだ想定内。一旦距離を取ろうと

「ぐっ」

「旦那様!?」

「マスター!?」

 クラウンは確かに後ろへ飛ぼうとした。その思考は確かに存在していた。だが、進んだ方向は真逆の前。

 そのことにさすがのクラウンも一瞬思考が止まった。そして、接近し過ぎたこともあり、迫った勢いが熊の重い右手と相まって強烈な一撃がクラウンの顔面を襲った。

 それから、その勢いのまま頭は時計回りに回転していき、地面へと思いっきり叩きつけられる。

「殺す」

 エキドナは怒りを滲ませた顔をすると勢いよく前方に跳躍した。そして、熊を殴る―――――と見せかけて地面を思いっきり殴り割った。

 それは牽制の意味あり、また確かめる意味でもあり。そして、割れた地面から勢いよく真上に跳ぶ石のつぶてに熊が注意を向けている間にクラウンを回収。

 さらにそのまま熊を通り抜けると背後へと回し蹴りをした。だが、その攻撃は熊に当たる直前で突然壁のようなものに防がれた。

「やはり何かあるようね」

 エキドナはそれの確かめを終えると熊から離れようと跳躍した。

「嘘......かっ!」

 だが、その方向はむしろ熊に向かっていく方向であり、石のつぶてを防ぎ切った熊が鋭い爪を立てながら引っ掻くように振るった。

 それに対し、エキドナは腕を部分竜化させて盾にするように曲げた肘を向ける――――――ことは出来なかった。

 なぜなら、防御姿勢を取ろうとした瞬間、腕が石のように動かなくなったからだ。そしてそのまま、爪の攻撃がエキドナを襲う。

 しかし、その攻撃事態は部分竜化によって大したダメージにはならなかったが、それでも地面へと思いっきり叩きつけられていく。

 エキドナは転がりながらも、なんとかクラウンを防ぎきるとすぐに放して体勢を立て直した。

「助かった」

「お礼なんて後でたっぷりと貰うわ。けど、それよりも......私達に不可解な現象に対して早く答えを見つけないとね」
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