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第8章 道化師は移ろう

第175話 魔幻の地獄 ティデリストア#1

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「こちらでリル」

「ただの岩じゃないの」

 ミニリルリアーゼことミニリルはクラウン達を神殿まで案内していくとある場所で止まった。その場所は目の前に大きな岩があり、その他には何もない。

 なので、リリスはミニリルに思わずツッコむが、ミニリルは依然としてその岩を指を向けながら高速で動かしている羽で漂っている。

 となると、本当にここに神殿があるということになる。それによって考えられることは一つ。

「リル、この岩を動かせ」

「了解です、マスター」

 クラウンが指示るするとリルリアーゼはミニリルを戻すとその岩を両手で掴んだ。そして、力任せにその岩を横にずらしていく。

 地面を擦る音を響かせながら現れたのは地下へと続いていく階段。その階段の先は明かりがなく、どうなっているかわからない。

 だが、進まない選択肢は無い。なので、クラウンが先頭に次々とその階段を下りていく。

「暗くて何も見えないね」

「わぁっ! ごめんなさい!」

「ふふっ、大丈夫よ。肩を貸してあげるから支えにしてゆっくりと下りてきなさい」

 唯一暗い空間に対して耐性のない朱里と雪姫がびくびくしながら下りていく。二人は神殿に入るのは二回目とはいえ、一度目で実質死にかけたのだ。

 今回でもそのような体験をするのではないかと考えるのは無理ないことである。ただ同時に、周りから感じる多大なる安心感もあるので前回以上には心の動揺は少ないが。

「明りが見えて来たようだな」

 カムイが呟いた階段の先には空間の光が階段まで入り込んできて明るく照らしている。ということは、逆に言えばここからが本番というわけだ。その心意気は全員が同じなのか目が鋭く変わっていく。

 そして、クラウン達が階段を下りきって入った空間は草原のような場所だ。

 地面は草原に覆われていて、周囲にはまばらに木々は生えている。しかし、魔国大陸の木のようではなく、普通の真っ直ぐとした木だ。

 それから、その周囲にある木々は森という印象はあまり受けず、どちらかというと林に近い感じか。

「ねえ、早速現れたわよ」

 リリスが指差す方には文字が彫られた石碑が。つまりは条件攻略だ。そして、それにはただ短くこう書かれていた。

『言葉や行動は不純。それはまた思考も然り。だが同時にそれは真理でもあり、これを果たしたものに道は開かれん』

「なんというか.......いつにも増して内容がわかりずらいという印象を受けるのだけど.......」

「私も同じよ。これまでは何だかんだでこの先にどのようなことが起こるのか予想出来たもの」

「なら、この石碑にある『言葉』『行動』『思考』がこの神殿に深くかかわっていると認識してもいいだろう。それに――――――」

 クラウンはその石碑の横に立と何もない場所に手を触れさせる。その瞬間、クラウンの触れた場所が背景をそのままにゴムのように柔らかく変形していった。どうやら透明に近い膜があるようだ。

「この神殿だけやたら手が込んである感じだ。鬼ヶ島からの流れといい、あまりいい雰囲気は感じないが......気を引き締めていくぞ」

 クラウンは手をその膜に触れたまま背後へ振り返る。そして、言葉を告げた後の全員の反応を見る。

 一人一人がしっかりとした覚悟を持っていた。クラウンの懸念であった朱里と雪姫もどうやら杞憂のような顔つきだ。

 それが確認できるとクラウンは透明な膜を押しながら歩き始める。すると、ある程度まで伸び切った膜は途端にクラウンの腕を包み込むように通り抜けた。

 そして、クラウンが進むたびに若干の抵抗を受けながら、全身をその膜のうちへと突入させていく。

 その瞬間、すぐさまロキとリルリアーゼ以外の全員に反応が起こった。

 それはクラウンとカムイが急速に体に感じるだるさと共に、反対にリリス達女性陣は

「おい、大丈夫か......」

 クラウンは体に起こっている感覚に若干のいら立ちを感じながらも、すぐに全員へと声をかけた。だが、その声はすぐに尻すぼみになっていく。

 そして、その反応に気付いたリリス達もクラウンとカムイを見て思わず唖然とした顔になる。

 それは当然だ。なぜならクラウンとカムイの男性陣は「女」になっていて、リリス達女性陣は「男」になっているのだから。

 クラウンの黒髪は肩甲骨辺りまで伸び、がっしりとしていた肩幅も女性らしい体形になっている。またカムイも髪が首まで伸びて、腕も脚も以前より細くなっており男装麗人的雰囲気だ。

 そして、リリス達はというと........

「イケメンと美少年がこんなにいるなんて、逆ハー状態ですね」

 リルリアーゼの言葉に誰もツッコむ人はいなかった。現に全く言い返すことが出来ないほどその通りであるからだ。

 リリス、朱里と髪が長かった二人は短くなってサッパリと髪型になり、逆に雪姫は髪が伸びている。

 また小さいベルと最年長のエキドナは漫画や乙女ゲーに出てきそうなショタ美少年とただのイケメンになっている。

 すると、この状況に未だ全員が困惑状態の中でエキドナがこの現象に対しての考察をし始めた。

「もしかしたら、これは初見殺しというやつかもしれないわね」

「初見殺しだと?」

「ええ、恐らくはね。今この場の空間は男女を逆転させる空間。そして、大抵の冒険者や探索者というのは主に男性がメインとなって構成される場合が多いの。簡単に言えば、私達の逆ね。だから、そういう人たちにとってここは地獄。普段の力の半分しか出せない.......と思われるからね」

「確かにそうだな。俺の刀を振ってもおもてぇだけだし。触れないことはないがコンマで違ってくるのはかなり危険だ」

「その代わりに私達のパーティは幸い女性の方が多い。恐らく、あの石碑で書かれていたことから推測するにこれだけじゃないと思われるけど.......ともかく、今は私達に頼られなさい」

 エキドナは意見に結論をつけるとイケてるフェイスをフルに使った笑みを浮かべた。その笑みは普通の女性が見たら卒倒必須の笑みであった。

 そして、エキドナの言葉に反応した人物は他にもいた。

「そうね。普段突っ走ってるあんたは今回お休み。今度は私達が頑張る番よ」

「そうだね! 出来ることは少ないかもだけど、やってやるぞー!」

「仁には少しでも負担を減らしたいしね。もちろん、カムイさんにもだけど」

「やるです」

 リリス、朱里、雪姫、ベルが次々に言葉を揃えていく。一人一人がクラウンにお返しできることが嬉しいようだ。

 とはいえ、その反応を見ていたクラウンとカムイは喜ぶに喜べなかった。それは決してリリス達の意見が癇に障ったとかではない。

 言うなればそれ以上の問題だ。それが何かというと.......

「お前ら、悪いことは言わない。コートでも着てろ」

 クラウンが出来る限り視界に入れないように言ったことにリリス達は不思議がるが、すぐに自身を見て気づいた。

 それは格好だ。どうやら肉体の変化が起こっても、服装に変化は訪れなかったらしく、特に酷いのはセンスティブな恰好なエキドナとミニスカートのリリスと朱里。

 その恰好で先ほどまでカッコイイ考察をしていたエキドナ、そして気合の入った言葉を言っていたリリスと朱里。

 だいぶ印象は変わってくる。ちなみに、雪姫は神官のような服装で、ベルは巫女服なのでギリギリセーフだ。

 リリスは指輪からコートを取り出すと焦ったように全員に渡しながらいそいそと身を包む。これで見えないので、クラウン達が地味にダメージを負うことはない。

「!」

 ようやくひと段落付いたところで、クラウンとカムイが前方からやってくる気配に気づいた。

「「「「ウオオオオォォォォン!」」」」

 やってきたのは四体の真っ黒なオオカミ。しかもかなりの速さで迫ってくる。その四体に対し、咄嗟に身構えたクラウンとカムイであったが、すぐにリリス達へと止められた。

「ここは私達に任せて」

 そう言うとリリス、エキドナ、ベルがその四体に対して身構えると迎え撃つように一気に跳躍した。

「「「え?」」」

 リリス達が動き始めた瞬間、すぐに三人は思わず声が漏れた。それは普通の跳躍のはずが軽く地面にヒビを入れており、気が付けばすぐそばにオオカミが迫っている。

 三人は咄嗟に攻撃するとオオカミ四体の中で攻撃を受けた三体は爆散した。しかも、リリス達はその勢いを止められず、地面に突っ込み地響きを鳴らしていく。

「光鎖」

「風弾」

 残りの一体には雪姫が魔法で迫りくるオオカミのすぐ下から光で出来た鎖を出現させ、その鎖はオオカミの足に絡みついていく。

 すると、その鎖は動きを封じるどころか全ての足を絞め折り、足を折られたオオカミに近づく風弾は着弾した瞬間、これまた爆散した。これには朱里と雪姫も思わず唖然とした表情をする。

「ウォン」

「そうですね。どうやらミス・リリス達に起きた肉体変化は筋力、魔力ともに通常の二倍近く強化されているところでしょうか」

「ウォンウォン」

「はい、そうですね。そうなると、当然ながらマスター達の方も変化が起こっていると思っていいでしょう。それは恐らく通常の二分の一近くでしょうね」

 蚊帳の外状態だったロキとリルリアーゼが先ほどのリリス達の戦闘風景を見ながらいつの間にやら考察していた。

 そのことに「どうしてお前がロキの言葉がわかるんだ」と思わなくないクラウンだが、一先ずそこは保留。それよりも、現状で自分があまり役に立たないことの方に若干のいら立ちを感じていた。

 だが同時に、「自分はこれまでしっかりと仲間に頼ったことはあっただろうか」とも思った。

 なんだかんだで自分はただ一人最前線で動き続け、誰かよりも先に行動していた。それが仲間を信用していないということではないが、それでもそれが当たり前だと思っていたから行動していた。

 しかし、今はどうだ。今の自分が先に行動しても足を引っ張るだけだ。それは自分の肉体変化やリリス達の様子から見てもわかることだ。

 なら、少しは頼るということもしていいのではないか? 

 別に誰かが強制しているわけでもないし、自分で強いてるわけでもない。しかし、今がこうである以上、全幅の信頼を置くという意味で任せてもいいのではないだろうか?

 自分はきっと今も完全に信用しきれていない。過去が後ろ髪を引いて、自分を逃そうとしてくれない。

 だが、これはそんな今の自分にとっていい機会だと思う。もしかしたら、答えの何かが見つかるかもしれない。

「お前ら少しはセーブしろ」

「わ、わかってるわよ!」

 この神殿でクラウンただ一人が別の目的を追加した。
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