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第8章 道化師は移ろう
第171話 滅びの記憶#3
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「はあはあはあ......」
呼吸が早くなり、息が乱れる。心肺機能がまだ幼いせいか胸が苦しくなって呼吸が辛くなり、それに合わせるように動かしていた脚も段々と速度を落としていく。
そして、全体的な走力は劣っていき、やがて走ることもままならなくなった。
リリスはそれでもなんとか木に手を付けて前へ前へと進んでいく。後ろの遠くから聞こえるはたくさんの爆発音。
一向に止む気配もなければ、むしろその過激さは増しているようにすら感じられる。
地響きがこちらまで続いているかのように周囲の木々は騒がしく葉を擦らせた音を立てていく。
脚が重い。腕が重い。呼吸が辛い。肺が痛い。頭は酸欠で上手く回転しているようにも思えないし、未だこれが現実だとも思えない。
これはどこか悪い夢でまだ自分は目覚めてないだけだと思いたい。そうでなければ、同胞が、母親が殺されたなど認められるはずもない。
しかし、だいぶ離れたはずなのに臭う焦げくさい臭いはこれが現実であるかのように訴えかけてくる。爆発音は本物であるかのように叫んでくる。
認めたくない。認めるはずがない。だが、これが夢でないならば何と言うのだろうか。あまりにも唐突で理不尽な現実だ。
理不尽に絶望して笑う気力すらない。父親が生かしてくれた命ももうすぐにどうかなってしまうすら思ってしまう。
「いたぞ! そこだ!」
背後から声が聞こえた。少しだけ振り返ると十人ほどの兵士が自分に向かって鋭い殺気を放ちながら襲いかかってくる。
リリスは重たい脚を動かして走った。たとえ自分が脚が上手く動いてなくて先ほどよりも遅い速さだとしても、ただ足掻くように腕を振って走り続けた。
先ほどまでは同じように殺されると思っていたのに、醜くも生に執着している。やっぱり、死にたくない。生きたい。生きたい!
振り返らずとも着実に足音が近づいて来ているのがわかる。背後から伝わる威圧感が増していることがわかる。
それでも走った。とにかく走った。何かが、誰かが助けてくれることを信じて。
その時、リリスはふとリゼリアのことが脳裏を過る。どうしていなくなってしまったのか。どこへ行ってしまったのか。
聞きたいことは色々ある。だが、今はそれよりも助けてくれてそばにいて欲しい。
そして、その想いを涙と言葉にして一気に吐き出した。
「帰って来てよ! リゼリアさん!」
「――――――遅れてごめんね。おまたせ、リリスちゃん」
その瞬間、リリスの耳音に何かが囁かれると同時に自分より大きな何かがすぐ横を通り過ぎていく。
そして、すぐに背後から追ってきた兵士の多くのうめき声が聞こえてきた。すると、リリスは少しずつ速度を落としていき、背後を振り返る。
そこには兵士を踏んづけたリゼリアの姿があった。そのリゼリアは全身に擦過傷のようなものがあり、服はボロボロでところどころ破けていた。
それだけでリリスは大体のことを察した。しかし、今はそれ以上に―――――
「リゼリアさん!」
「ごめんね、助けに来るのが遅くなってしまって」
リリスは先ほどの脚の重みはどこへやらといった感じにリゼリアへと抱きついていく。そんなリリスをリゼリアは優しく抱きしめながら、そっと慈愛の笑みで頭を撫でていく。
ただその時、リゼリアの瞳に慈愛以外も含まれていたことにリリスが気づくことはなかった。
そして、リゼリアはリリスがある程度落ち着きを取り戻したのを確認すると両肩に手を置いた。それから、真っ直ぐな瞳をリリスに合わせると告げる。
「リリスちゃん、よく聞いて。今ここを襲ってきている人達から逃げることが出来たサキュバスをある場所で一時的に保護しているの。だから、リリスちゃんも一緒についてきて」
リゼリアは少しだけ早口で言葉を伝えるとリリスの手を持って引っ張り歩こうとする。だが、リゼリアの思った通りリリスはすぐに動かなかった。
そして、その理由もリリスの一言ですぐにわかる。
「待って、父さんがまだ......」
「......」
リゼリアは何も答えられなかった。それはリリスがどこかしらわかっていながらも、まだ希望を残した状態でその言葉を言っているのが酷く悲しく思ったからだ。
リゼリアは知っている。まだ逃げ遅れたサキュバスを探している最中に瀕死のリリスの父親にあったことを。
その周りには十数人と兵士の死体が転がっていた。それはつまり、もともと戦闘には向かないサキュバスという種族が娘を生き残らせるために必死に抗った証明でもあった。
だからこそ、その父親が酷く悔しそうな顔をして泣いていたのを知っている。そして、リリスを助けるように言われたことも。
故に、リゼリアはリリスに言ってやれる言葉が見つからなかった。その代わりに、リゼリアはリリスに体を合わせてしゃがむと力いっぱい抱きしめた。
そして、その状態で片手を地面へとつける。すると、その地面からは魔法陣が現れ、二人を包むように眩い光が覆っていく。
それからやがて、光が収まった時には二人の姿がなかった。
「チッ......遅かったネ」
その数秒後、黒い法衣を来た猫背の男がその言葉を吐き捨てた。
***************************************************************************
――――――それから、十年の時が過ぎた。
リリスは湖を眺めながらただ頭を空っぽにしながら眺めている。
この十年でだいぶ暮らしは前のように戻ってきた。前回よりも人も少なく、村の規模は小さいがそれでも全員があの時のことを忘れようと必死に補いながら生きている。
これでも前向きな思考を持って前に進んだ方である。最初の数年間は仲間意識というの想いがだいぶ足を引っ張っていて苦労したものだ。
ちなみに、今の村がある場所はリゼリアが見つけ出してきてくれた場所だ。
リリスが湖は村から少し離れた場所にあり、そこら辺も前の村とだいぶ似ている。
まあ、似ているというより似せたのだが。ここは数ある候補地の一つでしかなく、最終的に決めたのはリリスであった。
リリスはあの時の記憶をしっかりと覚えている。目に焼き付いて、脳裏から離れない光景でもう全て現実だと理解している。
ただそれでも、ここを選んだのはあの時の記憶を忘れないようにするためだ。
本来なら、きっと誰しもが忘れた方が良い記憶だと思うかもしれない。しかし、あの村はかつて両親と仲睦まじく暮らした場所だ。
忘れるということはその過ごした記憶を否定する......ような気がしてしまうのだ。出来るならば都合のいい場面だけを取り出して思い出として残したい。
だが、脳に、記憶にこびりついてしまったものは両親を思い出すだけで、強制的に連想させられて思い出される。
しかも、それがメインで。それでも忘れたくなかったリリスは受け入れることにしたのだ。
受け入れて前に進む。もちろん、最初は並大抵の覚悟じゃ無理だった。思い出すたびに泣きじゃくり、恐怖で震え、半分ヤケになる。
だが、今の体はその両親によって愛されて過程があって存在しているのだ。その感謝を忘れないためにもなかったことは出来ない。
そして、同時に自分の体を作ったもう一人の母が――――――
「またここにいたのね。ふふっ、相変わらず好きね」
「ここま前の湖より良く月が反射してきれいなのよ。それに月光花もあるし。それよりどうしたの?」
リゼリアはリリスの後ろからヒョコっと現れると自然と話しかけてくる。それにリリスは湖を見ながら返答しながらも、振り返って聞いた。
現在は夜。どこのサキュバスも本領発揮の時間だ。といっても、それはあくまで今出かけているサキュバスに限った話だが。
夜の月は魔国大陸を覆う分厚い雲の隙間から顔を出し、真下の湖へと反射させていく。そして、出来たほのかな光に月光花が反応して淡い光を放っていく。
すると、リリスの隣にリゼリアが座った。そして、わずかにリリスと距離を詰めると話しかけていく。
「他の国で好きな人できたからそっちいくね」
「へ~そうなん......え? 今なんて言ったの? 好きな人?」
リゼリアの突然すぎるカミングアウトにリリスは困惑。そして、焦ったように問いかける。
「ふふっ、冗談よ......半分」
「え!? どっち!? どっちのことなの!?」
その含みのある言い方と笑みにリリスは増々困惑。リゼリアはサキュバスでないはずだが......でも、容赦なく淫語を使うしなぁ。
そんなリリスの反応を楽しみながらリゼリアは告げた。
「半分冗談は好きな人が出来たこと。けど、半分本気なのは他の国へ行くこと」
「......何しに行くの?」
リリスはリゼリアが陰でコソコソと何かを企んでいたことを知っていた。しかし、それをあえて知ろうとはしなかった。それはリゼリアを信用していたから。
とはいえ、突然「他の国へ行く」と言われれば思わず聞いてみたくなるものだ。しかし、リゼリアはその質問にハッキリとは答えなかった。
「とっても重要なことをしに行くの。それも長期的になるからいつここに戻って来るかわからないわ。といっても、まだ先の話度けどね」
「そう......なんだ」
リリスはだんだんと言葉が尻すぼみになっていく。これから一人であの家に住むことが寂しく感じるからだ。
すると、リゼリアは腰にあるポーチから一枚の紙を渡した。その紙には複雑な紋様をした魔法陣が描かれている。
「これは?」
「私がいない時に何か起こった時の保険よ。あるに越したことないと思たからね」
「そう」
リリスはそう言われて思わずその時のことを思い出す。確かに、あの時は丁度リゼリアがいないタイミングだった。
ということは、またリゼリアがいなくなったタイミングで同じようなことが起こるかもしれない。
当然、そんなことは起こって欲しくないし、願うはずもない。むしろ、起こらないと断言する気概だ。
とはいえ、リゼリアの言った通り起こらないという可能性もゼロではない。なら、もし、万が一あった時のために保険として持っておくのは良いだろう。
そんなことを思いながらリリスがその紙に描かれた魔法陣を眺めていると突然リゼリアからあることを言われた。
「そうね、リリス。冒険する気ない?」
呼吸が早くなり、息が乱れる。心肺機能がまだ幼いせいか胸が苦しくなって呼吸が辛くなり、それに合わせるように動かしていた脚も段々と速度を落としていく。
そして、全体的な走力は劣っていき、やがて走ることもままならなくなった。
リリスはそれでもなんとか木に手を付けて前へ前へと進んでいく。後ろの遠くから聞こえるはたくさんの爆発音。
一向に止む気配もなければ、むしろその過激さは増しているようにすら感じられる。
地響きがこちらまで続いているかのように周囲の木々は騒がしく葉を擦らせた音を立てていく。
脚が重い。腕が重い。呼吸が辛い。肺が痛い。頭は酸欠で上手く回転しているようにも思えないし、未だこれが現実だとも思えない。
これはどこか悪い夢でまだ自分は目覚めてないだけだと思いたい。そうでなければ、同胞が、母親が殺されたなど認められるはずもない。
しかし、だいぶ離れたはずなのに臭う焦げくさい臭いはこれが現実であるかのように訴えかけてくる。爆発音は本物であるかのように叫んでくる。
認めたくない。認めるはずがない。だが、これが夢でないならば何と言うのだろうか。あまりにも唐突で理不尽な現実だ。
理不尽に絶望して笑う気力すらない。父親が生かしてくれた命ももうすぐにどうかなってしまうすら思ってしまう。
「いたぞ! そこだ!」
背後から声が聞こえた。少しだけ振り返ると十人ほどの兵士が自分に向かって鋭い殺気を放ちながら襲いかかってくる。
リリスは重たい脚を動かして走った。たとえ自分が脚が上手く動いてなくて先ほどよりも遅い速さだとしても、ただ足掻くように腕を振って走り続けた。
先ほどまでは同じように殺されると思っていたのに、醜くも生に執着している。やっぱり、死にたくない。生きたい。生きたい!
振り返らずとも着実に足音が近づいて来ているのがわかる。背後から伝わる威圧感が増していることがわかる。
それでも走った。とにかく走った。何かが、誰かが助けてくれることを信じて。
その時、リリスはふとリゼリアのことが脳裏を過る。どうしていなくなってしまったのか。どこへ行ってしまったのか。
聞きたいことは色々ある。だが、今はそれよりも助けてくれてそばにいて欲しい。
そして、その想いを涙と言葉にして一気に吐き出した。
「帰って来てよ! リゼリアさん!」
「――――――遅れてごめんね。おまたせ、リリスちゃん」
その瞬間、リリスの耳音に何かが囁かれると同時に自分より大きな何かがすぐ横を通り過ぎていく。
そして、すぐに背後から追ってきた兵士の多くのうめき声が聞こえてきた。すると、リリスは少しずつ速度を落としていき、背後を振り返る。
そこには兵士を踏んづけたリゼリアの姿があった。そのリゼリアは全身に擦過傷のようなものがあり、服はボロボロでところどころ破けていた。
それだけでリリスは大体のことを察した。しかし、今はそれ以上に―――――
「リゼリアさん!」
「ごめんね、助けに来るのが遅くなってしまって」
リリスは先ほどの脚の重みはどこへやらといった感じにリゼリアへと抱きついていく。そんなリリスをリゼリアは優しく抱きしめながら、そっと慈愛の笑みで頭を撫でていく。
ただその時、リゼリアの瞳に慈愛以外も含まれていたことにリリスが気づくことはなかった。
そして、リゼリアはリリスがある程度落ち着きを取り戻したのを確認すると両肩に手を置いた。それから、真っ直ぐな瞳をリリスに合わせると告げる。
「リリスちゃん、よく聞いて。今ここを襲ってきている人達から逃げることが出来たサキュバスをある場所で一時的に保護しているの。だから、リリスちゃんも一緒についてきて」
リゼリアは少しだけ早口で言葉を伝えるとリリスの手を持って引っ張り歩こうとする。だが、リゼリアの思った通りリリスはすぐに動かなかった。
そして、その理由もリリスの一言ですぐにわかる。
「待って、父さんがまだ......」
「......」
リゼリアは何も答えられなかった。それはリリスがどこかしらわかっていながらも、まだ希望を残した状態でその言葉を言っているのが酷く悲しく思ったからだ。
リゼリアは知っている。まだ逃げ遅れたサキュバスを探している最中に瀕死のリリスの父親にあったことを。
その周りには十数人と兵士の死体が転がっていた。それはつまり、もともと戦闘には向かないサキュバスという種族が娘を生き残らせるために必死に抗った証明でもあった。
だからこそ、その父親が酷く悔しそうな顔をして泣いていたのを知っている。そして、リリスを助けるように言われたことも。
故に、リゼリアはリリスに言ってやれる言葉が見つからなかった。その代わりに、リゼリアはリリスに体を合わせてしゃがむと力いっぱい抱きしめた。
そして、その状態で片手を地面へとつける。すると、その地面からは魔法陣が現れ、二人を包むように眩い光が覆っていく。
それからやがて、光が収まった時には二人の姿がなかった。
「チッ......遅かったネ」
その数秒後、黒い法衣を来た猫背の男がその言葉を吐き捨てた。
***************************************************************************
――――――それから、十年の時が過ぎた。
リリスは湖を眺めながらただ頭を空っぽにしながら眺めている。
この十年でだいぶ暮らしは前のように戻ってきた。前回よりも人も少なく、村の規模は小さいがそれでも全員があの時のことを忘れようと必死に補いながら生きている。
これでも前向きな思考を持って前に進んだ方である。最初の数年間は仲間意識というの想いがだいぶ足を引っ張っていて苦労したものだ。
ちなみに、今の村がある場所はリゼリアが見つけ出してきてくれた場所だ。
リリスが湖は村から少し離れた場所にあり、そこら辺も前の村とだいぶ似ている。
まあ、似ているというより似せたのだが。ここは数ある候補地の一つでしかなく、最終的に決めたのはリリスであった。
リリスはあの時の記憶をしっかりと覚えている。目に焼き付いて、脳裏から離れない光景でもう全て現実だと理解している。
ただそれでも、ここを選んだのはあの時の記憶を忘れないようにするためだ。
本来なら、きっと誰しもが忘れた方が良い記憶だと思うかもしれない。しかし、あの村はかつて両親と仲睦まじく暮らした場所だ。
忘れるということはその過ごした記憶を否定する......ような気がしてしまうのだ。出来るならば都合のいい場面だけを取り出して思い出として残したい。
だが、脳に、記憶にこびりついてしまったものは両親を思い出すだけで、強制的に連想させられて思い出される。
しかも、それがメインで。それでも忘れたくなかったリリスは受け入れることにしたのだ。
受け入れて前に進む。もちろん、最初は並大抵の覚悟じゃ無理だった。思い出すたびに泣きじゃくり、恐怖で震え、半分ヤケになる。
だが、今の体はその両親によって愛されて過程があって存在しているのだ。その感謝を忘れないためにもなかったことは出来ない。
そして、同時に自分の体を作ったもう一人の母が――――――
「またここにいたのね。ふふっ、相変わらず好きね」
「ここま前の湖より良く月が反射してきれいなのよ。それに月光花もあるし。それよりどうしたの?」
リゼリアはリリスの後ろからヒョコっと現れると自然と話しかけてくる。それにリリスは湖を見ながら返答しながらも、振り返って聞いた。
現在は夜。どこのサキュバスも本領発揮の時間だ。といっても、それはあくまで今出かけているサキュバスに限った話だが。
夜の月は魔国大陸を覆う分厚い雲の隙間から顔を出し、真下の湖へと反射させていく。そして、出来たほのかな光に月光花が反応して淡い光を放っていく。
すると、リリスの隣にリゼリアが座った。そして、わずかにリリスと距離を詰めると話しかけていく。
「他の国で好きな人できたからそっちいくね」
「へ~そうなん......え? 今なんて言ったの? 好きな人?」
リゼリアの突然すぎるカミングアウトにリリスは困惑。そして、焦ったように問いかける。
「ふふっ、冗談よ......半分」
「え!? どっち!? どっちのことなの!?」
その含みのある言い方と笑みにリリスは増々困惑。リゼリアはサキュバスでないはずだが......でも、容赦なく淫語を使うしなぁ。
そんなリリスの反応を楽しみながらリゼリアは告げた。
「半分冗談は好きな人が出来たこと。けど、半分本気なのは他の国へ行くこと」
「......何しに行くの?」
リリスはリゼリアが陰でコソコソと何かを企んでいたことを知っていた。しかし、それをあえて知ろうとはしなかった。それはリゼリアを信用していたから。
とはいえ、突然「他の国へ行く」と言われれば思わず聞いてみたくなるものだ。しかし、リゼリアはその質問にハッキリとは答えなかった。
「とっても重要なことをしに行くの。それも長期的になるからいつここに戻って来るかわからないわ。といっても、まだ先の話度けどね」
「そう......なんだ」
リリスはだんだんと言葉が尻すぼみになっていく。これから一人であの家に住むことが寂しく感じるからだ。
すると、リゼリアは腰にあるポーチから一枚の紙を渡した。その紙には複雑な紋様をした魔法陣が描かれている。
「これは?」
「私がいない時に何か起こった時の保険よ。あるに越したことないと思たからね」
「そう」
リリスはそう言われて思わずその時のことを思い出す。確かに、あの時は丁度リゼリアがいないタイミングだった。
ということは、またリゼリアがいなくなったタイミングで同じようなことが起こるかもしれない。
当然、そんなことは起こって欲しくないし、願うはずもない。むしろ、起こらないと断言する気概だ。
とはいえ、リゼリアの言った通り起こらないという可能性もゼロではない。なら、もし、万が一あった時のために保険として持っておくのは良いだろう。
そんなことを思いながらリリスがその紙に描かれた魔法陣を眺めていると突然リゼリアからあることを言われた。
「そうね、リリス。冒険する気ない?」
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