139 / 303
第8章 道化師は移ろう
第165話 侵入経路
しおりを挟む
「皆様、初めまして。リリスの友達のセレンと言います。いくつかある家はまだ全て空き家なので自由にお使いください」
セレンは床に手を付けると向かい合って座っているクラウン達に深々とお辞儀をする。ここは広めのお座敷なので全員が床に座っている状態だ。
すると、セレンのその様子にエキドナはサラッと告げる。
「そんなにかしこまらなくてもいいわよ。砕けたしゃべり方の方が同い年みたい感じで気が楽だと思うわよ」
「そう言うことでしたら、そうさせてもらいます」
セレンはそう言うとクラウン達を見回し始めた。いや、厳密にはカムイとクラウンをだが。その二人はその視線の意図がさっぱしと様子だが、リリスは気づいたように顔を赤らめる。
そして、「出来れば面倒ごとはやめて」というリリスの願いも虚しく、セレンは容赦なくぶっこんでいく。
「ところで.......リリスの夫はどちらで?」
「リリスの―――――」
「夫――――」
「です?」
カムイ、エキドナ、ベルは一つの言葉を三人で繋げて発言していく。そして、その言葉に三人が同時に目線を合わせるとクラウンへと一斉に視線を投げかけた。
その一方で、クラウンは出来る限り視線を合わせないようにしながら、リリスへとアイコンタクトを取っていく。
(この場は避けるぞ)
(ええ、わかってるわ)
「あらあら、見つめ合って相思相愛みたいね」
「「!!」」
だが、目ざといセレンはその二人の一秒にも満たないアイコンタクトを見逃さなかった。そして、赤ん坊のメロウをあやしながら告げていく。
「ごめんね~、リリスはサキュバスとしては不出来だからすることも出来てないでしょ?」
「なっ!......にを言っているのかわからないわよ、セレン?」
「ふふっ、つまりピ――――――――のことでしょ? 残念ながら誰もやれてあげていないのよ。本番はともかくそれぐらいはしてあげる気は私はあるんだけれどね」
「ちょっ、エキドナ―――――――」
「ピ―――――とはあれですね? 男性のピ――――――を女性が口で咥えてしごく疑似セ――――」
「言わせないわよ!?」
「そうよ。他にもプレイはいくつかあるのだけど、それが一番オーソドックスかもね。リルちゃんも人に近いから出来ると思うわよ」
「何言ってんの!?」
「いいセンスね。でも、リリスのスイッチが入った時を考えると足で行う手段が一番かもしれないわよ」
「ふふっ、残念ながら旦那様はそっちタイプじゃないのよ。むしろ、バックから獣の如く動く方が近いかも」
「なるほど、フェロモンで覚醒した時の旦那と近いかもね」
「もうやめて! 『夫』発言とあまりなセンスティブな内容で雪姫のライフはゼロよ!」
「おい、誰か止めろ」
「「「「「ムリムリ」」」」」
自己紹介から開始して五分も経たずにこの場はカオスな空気に包まれた。だが、誰もこの空気を止められるものはいない。
本来のサキュバスというのをまざまざと見せつけてきたセレンと、歩く十八禁モザイクことエキドナの会話など誰もかかわりたくないのだ。
加えて、セレンとエキドナは互いの性癖を吐露したおかげか互いに戦友と認め合うように握手する始末。世にも恐ろしい凶悪なタッグが誕生してしまったものだ。
その誕生の裏ではリリスが羞恥心に耐えきれずに悶えているし、クラウンとカムイは遠い目でどこかを眺めているし、ベルとリルリアーゼは興味津々に聞いているし、雪姫は情報に脳処理が追いつかずにショートしてるし、朱里は雪姫を助けるという口実で恥ずかしさを耐えているし。
もとより誰も助けに行ける状況ではなかった。ただこんな中ではロキは丸くなって気持ちよさそうに寝ている。
「ともあれ、この話は後にして」
どうやらまだ続ける気のようだ。そのことにベル、リルリアーゼ、ロキ以外は「すぐさま脱出しよう」と心に誓った。
「あなた達は魔王城に向かっているのよね? その話はリリスから少しだけ聞かせてもらったわ。それでまず言えることなんだけど、魔王所の外側にある結界には絶対に触れないことよ」
セレンは先ほどの少しうっとりしたような顔から真面目な顔に切り替えるとリリスから聞いた情報に対して新たな情報を付け加えた。
急に真面目な話になったことにクラウン達は急いで姿勢を直すとその話に参加していく。
「触れたらどうなるんだ?」
「あれは一種の警報装置のようなもので魔王城から一斉に鍛え上げられた兵が出てくるの。リリスから聞いたあなた達の様子だと戦うことに対して心配はしてないけど、人質がいるのでしょう? だとしたら、無駄な時間は避けるべきだと思うの」
セレンの言葉にクラウンはうなづきつつも、あごに手を当てて思考を巡らしていく。そして、思いついたことから質問していく。
「なるほど、一理あるな。だがだとしたら、少なからずあれは全方位に結界が張られているはずだ。それにリルからの情報だと俺達の侵入も出来ないが、相手だ話からも出来ないはずだぞ? それにすぐに思いつく手段は地中からだが、穴を掘って侵入しろと?」
「一つ一つ説明していくとまず結界は全方位だけど半円じゃなくて球体なのよ。つまり魔王城を囲むように地中まで結界が張ってあるの。だから、地中から行くという手段はある方法以外無理。それとあの結界は便利なことに味方と認定した者は自由に出入りできるのよ」
「正面とかは開いてないの? 少なからず、すでに勇者がこの世界に召喚されたという情報は聞いているはずだし」
「確かに玄関口の方は結界が意図的に外されてるけど、どう考えても罠だし、すぐに感知されるわ。まあ、空間に干渉してるわけじゃないから、転移とかするなら別だろうけど......そんな夢みたいな魔法はないし」
セレンは厄介そうな顔をしているが、その一方で、リリスはクラウンへと明るい顔を向ける。
それは「転移」という言葉に反応したからだ。現在、リリス達は残り二つの転移石を持っている。つまりそれを使えば容易に侵入できるんじゃないかと思ったのだ。
だが、そのリリスに対してクラウンは静かに頭を横に振った。
「無理だ。あれはあくまで一度訪れた場所に転移できるというだけだ。そして、その場所の風景を頭の中で想像できなければ移動することは出来ない」
「そう......」
「リリス様、落ち込むことないです。私も一度考えたことです。ですので、一緒です」
「ありがと、ベル。なら、他に侵入経路を探さないとね」
リリスは頭をリセットするように一度息を吐くと腕を組んで頭の中を整理していく。そして、過去に聞いた魔王城のことを少しでも思い出そうとする。
するとその時、一台のロボットが腕を真っ直ぐキレイに伸ばして「一つ朗報が」と告げてきた。
「先ほど偵察に向かわせた私の分身体が戻ってくるようです」
リルリアーゼがそう告げるとこの家の窓からおとぎ話の妖精のようなサイズにミニリルリアーゼ(※以降ミニリルと呼称)が残像が見えるほど高速に羽ばたく羽音を鳴らしながら、丁度セレンとリリス、クラウン達の中心で滞空した。
そしてミニリルはビシッと敬礼をしながら子供のような甲高い声で説明していく。
「たった今魔王城の調査が終わったリル。そこでわかったことは少なくとも、魔王城周辺から侵入する経路はないということでリル。もちろん、地中と上空の両面からも調べたリルがどこにも見当たらなかったリル」
ミニリルは目から空中に見てきた映像を投影するとそれを見せつけながらクラウン達に説明していく。
「しかし、周辺調査の範囲を広げた所、一か所だけ魔王城に通ずる場所を見つけたリル」
「その場所は?」
「魔王城周辺にある神殿―――――【魔幻の地獄 ティデリストア】でリル」
「「「「「!!!」」」」」
ミニリルの言葉にクラウン以外の全員が思わず目を見開いた。それは当然魔王城への侵入経路が神殿からだとは思わなかったからだ。
もとより時間が切迫している今、魔王城侵入のためにはわざわざ体力も精神力も時間も削られる神殿に向かわなければいけないとは。
まさに神のイタズラ......いや、クラウン達の場合では神の罠という言い方をした方が正しいのかもしれない。
ただそのことを一人予想していた男がいた。その男クラウンはあの異質な神の使徒レグリアならやりかねないと想定していたのだ。
とはいえ、想定していたといって防げる方法があったわけではない。ただ想定だけして実際聞いた時のメンタルダメージを押さえただけに過ぎない。
言うなれば今のクラウンもだいぶ苦しい顔をしている。わかっていながら何もできないことにかなりの憤りを感じている。
「ちなみに、これは確定な情報ではありませんリルが、調べたところによるとその神殿は恐らく魔王城の脱出路のような使われ方をしていたと思われるリル。ただなぜわざわざ神殿と連結させたのかは答えが出ないリルが」
「奴らのことだそんな無駄なことに思考を割く必要はない。ただまあ、かなり面倒なことになったのは否めないな」
「仕方ねぇさ。それが一番の近道だったら行くしかねぇ。今の俺達なら余裕だろ?」
クラウンの言葉に一番ダメージを負っているであろうカムイが割り切った様子で話していく。その言葉に「カムイがそう決めたなら」と全員が暗い思考を断ち切っていくように前を向く。
すると、そんなクラウン達にセレンが言葉を告げていく。
「今日はもうお休みになられた方が良いと思うわ。なんだかお疲れの様子だしね」
「ありがたくそうさせてもらう」
そして、この場は一時解散になった。だが、ただ一人リリスだけはセレンに呼び止められる。その様子にリリスは思わず尋ねる。
「どうしたの? セレン」
「一つ謝らなければいけないことがあるの」
「謝る?」
「ええ、それは先ほど私が言った『転移』って言葉。リリスはその言葉について不思議に思ったでしょ?」
「そう言われると確かに」とリリスは頭を傾げながら反応していく。そもそもリリスすら今は亡き兵長から転移石のことを聞かなければ知らなかったのだ。
なのに平凡に暮らしていたはずのセレンが知っていたことは確かにおかしい。すると、セレンはそれに対する庫田を告げていく。
「実は私がきっと戻ってくるであろうリリスのために勝手に家を建て直してしまったのよ。あまりに古かったからいつ倒壊してもおかしくなかったしね。その時にリゼリアさんの手記を見てしまったの。それで―――――」
「そう言うことならいいわよ。私のためにしてくれたなら怒らないわよ」
リリスはセレンの言葉を遮ってサラッと言ってのける。そのことに「怒るかな」と思っていたセレンは拍子抜けの表情をした。
だが、そのことについてリリスがそう言うならもう謝罪の言葉は述べないことにした。それがきっと正しい選択だから。
「でも、勝手に捨てたりとかはしてないから一度見に戻ることを強くオススメするわよ」
「わかった」
そう言ってリリスは「お休み」と告げて部屋を出ていこうとする。そして、セレンが見送りに行ったその時、家を出る前にリリスが尋ねた。
「そういえば、セレンの旦那さんの帰りが遅いけどいいの?」
「え、ええ、大丈夫よ。ここまで遅いと他の村まで行ってるんじゃないかしら? よくあることだから心配しなくてもいいわよ」
「そう、わかったわ」
リリスはそれ聞いて家を出ていく。ただ一つ、セレンの違和感のある反応を気にしながら。
セレンは床に手を付けると向かい合って座っているクラウン達に深々とお辞儀をする。ここは広めのお座敷なので全員が床に座っている状態だ。
すると、セレンのその様子にエキドナはサラッと告げる。
「そんなにかしこまらなくてもいいわよ。砕けたしゃべり方の方が同い年みたい感じで気が楽だと思うわよ」
「そう言うことでしたら、そうさせてもらいます」
セレンはそう言うとクラウン達を見回し始めた。いや、厳密にはカムイとクラウンをだが。その二人はその視線の意図がさっぱしと様子だが、リリスは気づいたように顔を赤らめる。
そして、「出来れば面倒ごとはやめて」というリリスの願いも虚しく、セレンは容赦なくぶっこんでいく。
「ところで.......リリスの夫はどちらで?」
「リリスの―――――」
「夫――――」
「です?」
カムイ、エキドナ、ベルは一つの言葉を三人で繋げて発言していく。そして、その言葉に三人が同時に目線を合わせるとクラウンへと一斉に視線を投げかけた。
その一方で、クラウンは出来る限り視線を合わせないようにしながら、リリスへとアイコンタクトを取っていく。
(この場は避けるぞ)
(ええ、わかってるわ)
「あらあら、見つめ合って相思相愛みたいね」
「「!!」」
だが、目ざといセレンはその二人の一秒にも満たないアイコンタクトを見逃さなかった。そして、赤ん坊のメロウをあやしながら告げていく。
「ごめんね~、リリスはサキュバスとしては不出来だからすることも出来てないでしょ?」
「なっ!......にを言っているのかわからないわよ、セレン?」
「ふふっ、つまりピ――――――――のことでしょ? 残念ながら誰もやれてあげていないのよ。本番はともかくそれぐらいはしてあげる気は私はあるんだけれどね」
「ちょっ、エキドナ―――――――」
「ピ―――――とはあれですね? 男性のピ――――――を女性が口で咥えてしごく疑似セ――――」
「言わせないわよ!?」
「そうよ。他にもプレイはいくつかあるのだけど、それが一番オーソドックスかもね。リルちゃんも人に近いから出来ると思うわよ」
「何言ってんの!?」
「いいセンスね。でも、リリスのスイッチが入った時を考えると足で行う手段が一番かもしれないわよ」
「ふふっ、残念ながら旦那様はそっちタイプじゃないのよ。むしろ、バックから獣の如く動く方が近いかも」
「なるほど、フェロモンで覚醒した時の旦那と近いかもね」
「もうやめて! 『夫』発言とあまりなセンスティブな内容で雪姫のライフはゼロよ!」
「おい、誰か止めろ」
「「「「「ムリムリ」」」」」
自己紹介から開始して五分も経たずにこの場はカオスな空気に包まれた。だが、誰もこの空気を止められるものはいない。
本来のサキュバスというのをまざまざと見せつけてきたセレンと、歩く十八禁モザイクことエキドナの会話など誰もかかわりたくないのだ。
加えて、セレンとエキドナは互いの性癖を吐露したおかげか互いに戦友と認め合うように握手する始末。世にも恐ろしい凶悪なタッグが誕生してしまったものだ。
その誕生の裏ではリリスが羞恥心に耐えきれずに悶えているし、クラウンとカムイは遠い目でどこかを眺めているし、ベルとリルリアーゼは興味津々に聞いているし、雪姫は情報に脳処理が追いつかずにショートしてるし、朱里は雪姫を助けるという口実で恥ずかしさを耐えているし。
もとより誰も助けに行ける状況ではなかった。ただこんな中ではロキは丸くなって気持ちよさそうに寝ている。
「ともあれ、この話は後にして」
どうやらまだ続ける気のようだ。そのことにベル、リルリアーゼ、ロキ以外は「すぐさま脱出しよう」と心に誓った。
「あなた達は魔王城に向かっているのよね? その話はリリスから少しだけ聞かせてもらったわ。それでまず言えることなんだけど、魔王所の外側にある結界には絶対に触れないことよ」
セレンは先ほどの少しうっとりしたような顔から真面目な顔に切り替えるとリリスから聞いた情報に対して新たな情報を付け加えた。
急に真面目な話になったことにクラウン達は急いで姿勢を直すとその話に参加していく。
「触れたらどうなるんだ?」
「あれは一種の警報装置のようなもので魔王城から一斉に鍛え上げられた兵が出てくるの。リリスから聞いたあなた達の様子だと戦うことに対して心配はしてないけど、人質がいるのでしょう? だとしたら、無駄な時間は避けるべきだと思うの」
セレンの言葉にクラウンはうなづきつつも、あごに手を当てて思考を巡らしていく。そして、思いついたことから質問していく。
「なるほど、一理あるな。だがだとしたら、少なからずあれは全方位に結界が張られているはずだ。それにリルからの情報だと俺達の侵入も出来ないが、相手だ話からも出来ないはずだぞ? それにすぐに思いつく手段は地中からだが、穴を掘って侵入しろと?」
「一つ一つ説明していくとまず結界は全方位だけど半円じゃなくて球体なのよ。つまり魔王城を囲むように地中まで結界が張ってあるの。だから、地中から行くという手段はある方法以外無理。それとあの結界は便利なことに味方と認定した者は自由に出入りできるのよ」
「正面とかは開いてないの? 少なからず、すでに勇者がこの世界に召喚されたという情報は聞いているはずだし」
「確かに玄関口の方は結界が意図的に外されてるけど、どう考えても罠だし、すぐに感知されるわ。まあ、空間に干渉してるわけじゃないから、転移とかするなら別だろうけど......そんな夢みたいな魔法はないし」
セレンは厄介そうな顔をしているが、その一方で、リリスはクラウンへと明るい顔を向ける。
それは「転移」という言葉に反応したからだ。現在、リリス達は残り二つの転移石を持っている。つまりそれを使えば容易に侵入できるんじゃないかと思ったのだ。
だが、そのリリスに対してクラウンは静かに頭を横に振った。
「無理だ。あれはあくまで一度訪れた場所に転移できるというだけだ。そして、その場所の風景を頭の中で想像できなければ移動することは出来ない」
「そう......」
「リリス様、落ち込むことないです。私も一度考えたことです。ですので、一緒です」
「ありがと、ベル。なら、他に侵入経路を探さないとね」
リリスは頭をリセットするように一度息を吐くと腕を組んで頭の中を整理していく。そして、過去に聞いた魔王城のことを少しでも思い出そうとする。
するとその時、一台のロボットが腕を真っ直ぐキレイに伸ばして「一つ朗報が」と告げてきた。
「先ほど偵察に向かわせた私の分身体が戻ってくるようです」
リルリアーゼがそう告げるとこの家の窓からおとぎ話の妖精のようなサイズにミニリルリアーゼ(※以降ミニリルと呼称)が残像が見えるほど高速に羽ばたく羽音を鳴らしながら、丁度セレンとリリス、クラウン達の中心で滞空した。
そしてミニリルはビシッと敬礼をしながら子供のような甲高い声で説明していく。
「たった今魔王城の調査が終わったリル。そこでわかったことは少なくとも、魔王城周辺から侵入する経路はないということでリル。もちろん、地中と上空の両面からも調べたリルがどこにも見当たらなかったリル」
ミニリルは目から空中に見てきた映像を投影するとそれを見せつけながらクラウン達に説明していく。
「しかし、周辺調査の範囲を広げた所、一か所だけ魔王城に通ずる場所を見つけたリル」
「その場所は?」
「魔王城周辺にある神殿―――――【魔幻の地獄 ティデリストア】でリル」
「「「「「!!!」」」」」
ミニリルの言葉にクラウン以外の全員が思わず目を見開いた。それは当然魔王城への侵入経路が神殿からだとは思わなかったからだ。
もとより時間が切迫している今、魔王城侵入のためにはわざわざ体力も精神力も時間も削られる神殿に向かわなければいけないとは。
まさに神のイタズラ......いや、クラウン達の場合では神の罠という言い方をした方が正しいのかもしれない。
ただそのことを一人予想していた男がいた。その男クラウンはあの異質な神の使徒レグリアならやりかねないと想定していたのだ。
とはいえ、想定していたといって防げる方法があったわけではない。ただ想定だけして実際聞いた時のメンタルダメージを押さえただけに過ぎない。
言うなれば今のクラウンもだいぶ苦しい顔をしている。わかっていながら何もできないことにかなりの憤りを感じている。
「ちなみに、これは確定な情報ではありませんリルが、調べたところによるとその神殿は恐らく魔王城の脱出路のような使われ方をしていたと思われるリル。ただなぜわざわざ神殿と連結させたのかは答えが出ないリルが」
「奴らのことだそんな無駄なことに思考を割く必要はない。ただまあ、かなり面倒なことになったのは否めないな」
「仕方ねぇさ。それが一番の近道だったら行くしかねぇ。今の俺達なら余裕だろ?」
クラウンの言葉に一番ダメージを負っているであろうカムイが割り切った様子で話していく。その言葉に「カムイがそう決めたなら」と全員が暗い思考を断ち切っていくように前を向く。
すると、そんなクラウン達にセレンが言葉を告げていく。
「今日はもうお休みになられた方が良いと思うわ。なんだかお疲れの様子だしね」
「ありがたくそうさせてもらう」
そして、この場は一時解散になった。だが、ただ一人リリスだけはセレンに呼び止められる。その様子にリリスは思わず尋ねる。
「どうしたの? セレン」
「一つ謝らなければいけないことがあるの」
「謝る?」
「ええ、それは先ほど私が言った『転移』って言葉。リリスはその言葉について不思議に思ったでしょ?」
「そう言われると確かに」とリリスは頭を傾げながら反応していく。そもそもリリスすら今は亡き兵長から転移石のことを聞かなければ知らなかったのだ。
なのに平凡に暮らしていたはずのセレンが知っていたことは確かにおかしい。すると、セレンはそれに対する庫田を告げていく。
「実は私がきっと戻ってくるであろうリリスのために勝手に家を建て直してしまったのよ。あまりに古かったからいつ倒壊してもおかしくなかったしね。その時にリゼリアさんの手記を見てしまったの。それで―――――」
「そう言うことならいいわよ。私のためにしてくれたなら怒らないわよ」
リリスはセレンの言葉を遮ってサラッと言ってのける。そのことに「怒るかな」と思っていたセレンは拍子抜けの表情をした。
だが、そのことについてリリスがそう言うならもう謝罪の言葉は述べないことにした。それがきっと正しい選択だから。
「でも、勝手に捨てたりとかはしてないから一度見に戻ることを強くオススメするわよ」
「わかった」
そう言ってリリスは「お休み」と告げて部屋を出ていこうとする。そして、セレンが見送りに行ったその時、家を出る前にリリスが尋ねた。
「そういえば、セレンの旦那さんの帰りが遅いけどいいの?」
「え、ええ、大丈夫よ。ここまで遅いと他の村まで行ってるんじゃないかしら? よくあることだから心配しなくてもいいわよ」
「そう、わかったわ」
リリスはそれ聞いて家を出ていく。ただ一つ、セレンの違和感のある反応を気にしながら。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー
紫電のチュウニー
ファンタジー
第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)
転生前も、転生後も 俺は不幸だった。
生まれる前は弱視。
生まれ変わり後は盲目。
そんな人生をメルザは救ってくれた。
あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。
あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。
苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。
オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる