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第8章 道化師は移ろう

第165話 侵入経路

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「皆様、初めまして。リリスの友達のセレンと言います。いくつかある家はまだ全て空き家なので自由にお使いください」

 セレンは床に手を付けると向かい合って座っているクラウン達に深々とお辞儀をする。ここは広めのお座敷なので全員が床に座っている状態だ。

 すると、セレンのその様子にエキドナはサラッと告げる。

「そんなにかしこまらなくてもいいわよ。砕けたしゃべり方の方が同い年みたい感じで気が楽だと思うわよ」

「そう言うことでしたら、そうさせてもらいます」

 セレンはそう言うとクラウン達を見回し始めた。いや、厳密にはカムイとクラウンをだが。その二人はその視線の意図がさっぱしと様子だが、リリスは気づいたように顔を赤らめる。

 そして、「出来れば面倒ごとはやめて」というリリスの願いも虚しく、セレンは容赦なくぶっこんでいく。

「ところで.......リリスの夫はどちらで?」

「リリスの―――――」

「夫――――」

「です?」

 カムイ、エキドナ、ベルは一つの言葉を三人で繋げて発言していく。そして、その言葉に三人が同時に目線を合わせるとクラウンへと一斉に視線を投げかけた。

 その一方で、クラウンは出来る限り視線を合わせないようにしながら、リリスへとアイコンタクトを取っていく。

(この場は避けるぞ)

(ええ、わかってるわ)

「あらあら、見つめ合って相思相愛みたいね」

「「!!」」

 だが、目ざといセレンはその二人の一秒にも満たないアイコンタクトを見逃さなかった。そして、赤ん坊のメロウをあやしながら告げていく。

「ごめんね~、リリスはサキュバスとしては不出来だからすることも出来てないでしょ?」

「なっ!......にを言っているのかわからないわよ、セレン?」

「ふふっ、つまりピ――――――――のことでしょ? 残念ながら誰もやれてあげていないのよ。本番はともかくそれぐらいはしてあげる気は私はあるんだけれどね」

「ちょっ、エキドナ―――――――」

「ピ―――――とはあれですね? 男性のピ――――――を女性が口で咥えてしごく疑似セ――――」

「言わせないわよ!?」

「そうよ。他にもプレイはいくつかあるのだけど、それが一番オーソドックスかもね。リルちゃんも人に近いから出来ると思うわよ」

「何言ってんの!?」

「いいセンスね。でも、リリスのスイッチが入った時を考えると足で行う手段が一番かもしれないわよ」

「ふふっ、残念ながら旦那様はそっちタイプじゃないのよ。むしろ、バックから獣の如く動く方が近いかも」

「なるほど、フェロモンで覚醒した時の旦那と近いかもね」

「もうやめて! 『夫』発言とあまりなセンスティブな内容で雪姫のライフはゼロよ!」

「おい、誰か止めろ」

「「「「「ムリムリ」」」」」

 自己紹介から開始して五分も経たずにこの場はカオスな空気に包まれた。だが、誰もこの空気を止められるものはいない。

 本来のサキュバスというのをまざまざと見せつけてきたセレンと、歩く十八禁モザイクことエキドナの会話など誰もかかわりたくないのだ。

 加えて、セレンとエキドナは互いの性癖を吐露したおかげか互いに戦友と認め合うように握手する始末。世にも恐ろしい凶悪なタッグが誕生してしまったものだ。

 その誕生の裏ではリリスが羞恥心に耐えきれずに悶えているし、クラウンとカムイは遠い目でどこかを眺めているし、ベルとリルリアーゼは興味津々に聞いているし、雪姫は情報に脳処理が追いつかずにショートしてるし、朱里は雪姫を助けるという口実で恥ずかしさを耐えているし。

 もとより誰も助けに行ける状況ではなかった。ただこんな中ではロキは丸くなって気持ちよさそうに寝ている。

「ともあれ、この話は後にして」

 どうやらまだ続ける気のようだ。そのことにベル、リルリアーゼ、ロキ以外は「すぐさま脱出しよう」と心に誓った。

「あなた達は魔王城に向かっているのよね? その話はリリスから少しだけ聞かせてもらったわ。それでまず言えることなんだけど、魔王所の外側にある結界には絶対に触れないことよ」

 セレンは先ほどの少しうっとりしたような顔から真面目な顔に切り替えるとリリスから聞いた情報に対して新たな情報を付け加えた。

 急に真面目な話になったことにクラウン達は急いで姿勢を直すとその話に参加していく。

「触れたらどうなるんだ?」

「あれは一種の警報装置のようなもので魔王城から一斉に鍛え上げられた兵が出てくるの。リリスから聞いたあなた達の様子だと戦うことに対して心配はしてないけど、人質がいるのでしょう? だとしたら、無駄な時間は避けるべきだと思うの」

 セレンの言葉にクラウンはうなづきつつも、あごに手を当てて思考を巡らしていく。そして、思いついたことから質問していく。

「なるほど、一理あるな。だがだとしたら、少なからずあれは全方位に結界が張られているはずだ。それにリルからの情報だと俺達の侵入も出来ないが、相手だ話からも出来ないはずだぞ? それにすぐに思いつく手段は地中からだが、穴を掘って侵入しろと?」

「一つ一つ説明していくとまず結界は全方位だけど半円じゃなくてなのよ。つまり魔王城を囲むように地中まで結界が張ってあるの。だから、地中から行くという手段はある方法以外無理。それとあの結界は便利なことに味方と認定した者は自由に出入りできるのよ」

「正面とかは開いてないの? 少なからず、すでに勇者がこの世界に召喚されたという情報は聞いているはずだし」

「確かに玄関口の方は結界が意図的に外されてるけど、どう考えても罠だし、すぐに感知されるわ。まあ、空間に干渉してるわけじゃないから、転移とかするなら別だろうけど......そんな夢みたいな魔法はないし」

 セレンは顔をしているが、その一方で、リリスはクラウンへと明るい顔を向ける。

 それは「転移」という言葉に反応したからだ。現在、リリス達は残り二つの転移石を持っている。つまりそれを使えば容易に侵入できるんじゃないかと思ったのだ。

 だが、そのリリスに対してクラウンは静かに頭を横に振った。

「無理だ。あれはあくまで一度訪れた場所に転移できるというだけだ。そして、その場所の風景を頭の中で想像できなければ移動することは出来ない」

「そう......」

「リリス様、落ち込むことないです。私も一度考えたことです。ですので、一緒です」

「ありがと、ベル。なら、他に侵入経路を探さないとね」

 リリスは頭をリセットするように一度息を吐くと腕を組んで頭の中を整理していく。そして、過去に聞いた魔王城のことを少しでも思い出そうとする。

 するとその時、一台のロボットが腕を真っ直ぐキレイに伸ばして「一つ朗報が」と告げてきた。

「先ほど偵察に向かわせた私の分身体が戻ってくるようです」

 リルリアーゼがそう告げるとこの家の窓からおとぎ話の妖精のようなサイズにミニリルリアーゼ(※以降ミニリルと呼称)が残像が見えるほど高速に羽ばたく羽音を鳴らしながら、丁度セレンとリリス、クラウン達の中心で滞空した。

 そしてミニリルはビシッと敬礼をしながら子供のような甲高い声で説明していく。

「たった今魔王城の調査が終わったリル。そこでわかったことは少なくとも、魔王城周辺から侵入する経路はないということでリル。もちろん、地中と上空の両面からも調べたリルがどこにも見当たらなかったリル」

 ミニリルは目から空中に見てきた映像を投影するとそれを見せつけながらクラウン達に説明していく。

「しかし、周辺調査の範囲を広げた所、一か所だけ魔王城に通ずる場所を見つけたリル」

「その場所は?」

「魔王城周辺にある神殿―――――【魔幻の地獄 ティデリストア】でリル」

「「「「「!!!」」」」」

 ミニリルの言葉にクラウン以外の全員が思わず目を見開いた。それは当然魔王城への侵入経路が神殿からだとは思わなかったからだ。

 もとより時間が切迫している今、魔王城侵入のためにはわざわざ体力も精神力も時間も削られる神殿に向かわなければいけないとは。

 まさに神のイタズラ......いや、クラウン達の場合では神の罠という言い方をした方が正しいのかもしれない。

 ただそのことを一人予想していた男がいた。その男クラウンはあの異質な神の使徒レグリアならやりかねないと想定していたのだ。

 とはいえ、想定していたといって防げる方法があったわけではない。ただ想定だけして実際聞いた時のメンタルダメージを押さえただけに過ぎない。

 言うなれば今のクラウンもだいぶ苦しい顔をしている。わかっていながら何もできないことにかなりの憤りを感じている。

「ちなみに、これは確定な情報ではありませんリルが、調べたところによるとその神殿は恐らく魔王城の脱出路のような使われ方をしていたと思われるリル。ただなぜわざわざ神殿と連結させたのかは答えが出ないリルが」

「奴らのことだそんな無駄なことに思考を割く必要はない。ただまあ、かなり面倒なことになったのは否めないな」

「仕方ねぇさ。それが一番の近道だったら行くしかねぇ。今の俺達なら余裕だろ?」

 クラウンの言葉に一番ダメージを負っているであろうカムイが割り切った様子で話していく。その言葉に「カムイがそう決めたなら」と全員が暗い思考を断ち切っていくように前を向く。

 すると、そんなクラウン達にセレンが言葉を告げていく。

「今日はもうお休みになられた方が良いと思うわ。なんだかお疲れの様子だしね」

「ありがたくそうさせてもらう」

 そして、この場は一時解散になった。だが、ただ一人リリスだけはセレンに呼び止められる。その様子にリリスは思わず尋ねる。

「どうしたの? セレン」

「一つ謝らなければいけないことがあるの」

「謝る?」

「ええ、それは先ほど私が言った『転移』って言葉。リリスはその言葉について不思議に思ったでしょ?」

 「そう言われると確かに」とリリスは頭を傾げながら反応していく。そもそもリリスすら今は亡き兵長から転移石のことを聞かなければ知らなかったのだ。

 なのに平凡に暮らしていたはずのセレンが知っていたことは確かにおかしい。すると、セレンはそれに対する庫田を告げていく。

「実は私がきっと戻ってくるであろうリリスのために勝手に家を建て直してしまったのよ。あまりに古かったからいつ倒壊してもおかしくなかったしね。その時にリゼリアさんの手記を見てしまったの。それで―――――」

「そう言うことならいいわよ。私のためにしてくれたなら怒らないわよ」

 リリスはセレンの言葉を遮ってサラッと言ってのける。そのことに「怒るかな」と思っていたセレンは拍子抜けの表情をした。

 だが、そのことについてリリスがそう言うならもう謝罪の言葉は述べないことにした。それがきっと正しい選択だから。

「でも、勝手に捨てたりとかはしてないから一度見に戻ることをオススメするわよ」

「わかった」

 そう言ってリリスは「お休み」と告げて部屋を出ていこうとする。そして、セレンが見送りに行ったその時、家を出る前にリリスが尋ねた。

「そういえば、セレンの旦那さんの帰りが遅いけどいいの?」

「え、ええ、大丈夫よ。ここまで遅いと他の村まで行ってるんじゃないかしら? よくあることだから心配しなくてもいいわよ」

「そう、わかったわ」

 リリスはそれ聞いて家を出ていく。ただ一つ、セレンの違和感のある反応を気にしながら。
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