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第8章 道化師は移ろう
第164話 親友の変化
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「リリス.......だよね?」
「セレン......よね?」
リリスからセレンと呼ばれた少女は驚いた様子でリリスを見る。その一方で、リリスもセレンと同様の気持ちで見つめ返す。
互いに「これは夢なのではないか?」と言った表情で未だに目の前にいる人物が本物かどうか確証が持てないでいる。
すると、リリスは腕で手の甲で涙を拭うとセレンの方へと一直線に向かって来る。そして、その顔は睨んだような感じで「ニセモノだったら承知しない」という気持ちがひしひしと伝わってくる。
それに対し、セレンは臆してリリスが近づいていく度に一歩ずつ後ずさりしていく。だが、セレンの後退速度より明らかにリリスの前進速度の方が速い。
なので、リリスはやがてセレンの目の前に立って両肩を力強く掴んだ。それにビクッと体を反応させて抱きかかえている赤ん坊を少し強く抱いた。
「あーあー」
「あいたたたたたた!」
「ちょ、ダメだよ! メロウ!」
その時、セレンの抱えていた赤ん坊メロウがリリスの垂れ下がるサイドテールに反応して、その髪を掴んで引っ張る。
それによって、思わず頭が下げられ痛がるリリスとそれを止めようと必死になるセレン。そして、メロウがリリスの髪を放すとリリスは思わずセレンと目が合った。
その瞬間、二人は笑い合う。もう確かめる必要はなくなった。もとより確かめる必要などなかったのだが、信じられなかっただけ。
とはいえ、完全に信じられたわけじゃない。というのも.......
「セレン、生きていたのね」
リリスは村の全員が襲撃されたと同時に殺されたと思っていたからだ。少なくとも、同胞の死は何度も見てきたし、その中に友達は何人だっていた。
だから、もう生きている人物はいないと思っていたのだ。しかし、両肩を触れて伝わってくる体温は確かに本物である。
リリスが思わず漏らした言葉にセレンは赤ん坊をあやしながら返答していく。
「実はね、襲撃が会った時に私達家族はたまたま遠くへ出かけていたのよ。そして、帰った時には村が見る影もなく炎に包まれていたのを今でも鮮明に思い出せる。けど、生き残ったという皆が他の場所に拠点を移すと言っていたから私もそれに従おうと思ってたんだけどね。両親が嫌な予感がするからって無理やり引き戻されて別の場所へと移動したのよ」
「賢明な判断だったと思うわよ」
「そうかもしれないね。でも、私は生きてることをもちろん嬉しいと思ってるけど、少しだけ後悔してるの。きっといても役には立てなかっただろうけど、私があの場にいたら何かが変わったんじゃないかって」
セレンはその時のことを思い出しているのか思わず暗い顔で下を向く。すると、その表情にメロウは不安な気持ちになったのか泣き始めた。
そのことにハッとしたセレンはメロウを少し揺さぶりながら、優しく言葉をかけてあやしていく。
リリスはその様子を見て少しだけ温かい気持ちになった。あの日、あの襲撃でサキュバスという種族は全滅したと思っていた。
しかし、今目の前にはその血を引く新しい命がある。まだ全てが消えたわけじゃないと力強く言える。そのことがなによりも嬉しかった。
「あんまり深く悩み過ぎない方が賢明よ。それにあんまり赤ちゃんを不安にさせてあげないの」
「ふふっ、そうだね」
「それはそうと、その子って弟? それとも妹?」
リリスは気分を一新させようとセレンに話題を振った。すると、セレンはその質問に一度驚いたような表情を見せると「あ~」とすぐに何かを納得したような顔をする。
そのことに思わずリリスは首を傾げる。
「まあ、リリスは知らなくて当然だよね。この子私の娘なんだ」
「へぇ~、セレンの娘ね。可愛らし......え? 今なんて言ったの?」
リリスは思わず聞き間違い顔と思って聞き直した。しかし、聞かれた本人はニコニコした表情を浮かべていて、リリスの反応を楽しんでいる感じだ。
その顔でリリスはゆっくりと目を見開いていく。とはいえ、まだ信じれていない部分もある。なぜならセレンは自分と同い年だ。つまりは16。
確かに、サキュバスが性欲高めで15歳以上は成人という扱いをしているにしても、それはいくら何でも早すぎじゃなかろうか。
そんなリリスの内心を知ってか知らずかセレンはもう一度はっきりと告げる。
「私のむ・す・め」
「マジで......」
リリスは思いっきり目を見開いた。セレンは自分と同じで好きな人以外と貫通するのは抵抗を持っていたサキュバスとしては珍しいタイプであった。
なので、良く話が合い、親友レベルでずっとかかわってきたのだが、その親友が生きていて尚且つ大人の階段を上っていたという二つの衝撃に思わず足元をふらつかせた。
特に今重要なのは最後だ。一体いつの間にだろうか。すると、そんなリリスの表情から大体のことを察したセレンはリリスへと説明していく。
「実はね、故郷が二度滅ぼされたと聞いた時、私はショックで両親の制止を振り切って一人で人族の世界を彷徨っていたのよ。皆が、大切な人が死んで助けにもいけなくてどうして自分だけが生きているんだろってね」
「......」
「あの時の私はもしかしたら自分を殺して欲しかったのかもしれない。そしてある時、一人の強そうな男装冒険者に出会ったの。私は殺されるために殺す気で襲いかかった。でも、その冒険者は決して戦おうとしなかった。それどころか、敵対する魔族である私に優しくしてくれたのよ」
セレンは当時を振り返ってるのか顔を赤らめて熱ぼったい頬に手を当てていく。
「それがもしかして.......?」
「そう夫よ。今は食料調達に行ってくれているわ。それで、その心意気に惚れた私はその場で押し倒したの」
「その場で!?」
リリスはその言葉に驚きが隠せなかった。昔から積極性がなかったセレンがまさかそんな大胆な行動をするとは。となると、聞きたいことはいろいろある。
「待って、時間帯は?」
「昼間」
「昼間!?」
「ちなみに、場所は割と馬車が通る道沿いよ」
「道沿い!?」
「つまりはピ――――――ね。サキュバスのフェロモンに当てられた時の夫はそれはそれは獣のようだったわ。それに他の人に見られてしまうかもっていう背徳感がヤバかった。今思えば、初めてであれは凄いわね」
「~~~~~!」
リリスはついに言葉を失った。さすがというより、やはり親友もサキュバスなのだなとしみじみと実感させられるエピソードであった。
とはいえ、久々に会った親友が大人の階段を上っていて、ライトな惚気話の方が何倍もマシと思えるエロ話をこんなにも饒舌に語るとは思わなかった。
思わず聞いてしまった自分も自分であるが、それを聞いて予想の斜め上を遥か彼方まで突っ切っていく話をされるとは誰も思わまい。
するとセレンがリリスに向かってにこやかな笑みを浮かべる。
「そういえば、さっき見かけない人達を大勢見かけたけど、あの人達ってリリスの仲間でいいんだよね? 一応、軽く挨拶は済ませたけど」
「ええ、そうね。種族もバラバラで驚いたでしょ?」
「そうね。人族に獣人族、竜人族、鬼族、魔物とゴーレム? の異種族パーティは中々に面白いわ。それにしっかりとリリスのことを見てもらってるようだし」
セレンは親友が大切に扱われていることに嬉しそうな顔をする。その表情にリリスも思わずほっこり。しかし、セレンはそこで止まらなかった。
「それでももっと驚いたことがあるわ」
「驚いたこと?」
「リリスが逆ハー志望だったことよ」
「.......へ?」
「だ・か・ら! リリスはあの二人の男性にあんなことやこんなことをしてもらってるんじゃないの? そして時には女性の数を活かしてしっちゃかめっちゃか。あれって最大何Pかしら?」
「な、ななななな何言ってんの!?」
リリスもこれにはさすがの抗議。よもや親友からそのような言葉を言われるとは思わなかった。なるほど、腐ってもサキュバスということなのか。
そんなリリスの反応にセレンは思わず眉を顰める。
「え、それじゃあ、リリスはまだいたしてないの?」
「してるわけないじゃない!」
「それじゃあ、好きな人も?」
「いない!......わけじゃないけど......」
「なら、なぜしない?」
「そう簡単にしてたまるかぁ!」
リリスは今一番の大声を出した。その声にメロウが泣きだしてセレンがあやしていく。
そんな光景になんだかやりきれない気持ちになったリリス。なんだか自分の知っている純粋な親友が夢物語の人物のような気がしてきた。
「ともあれ、好きな人はしっかりと繋ぎとめておかないとダメよ。恐らくだけのリリスとタイプが合いそうな人族の少年にサキュバスのフェロモンを当ててみたけど反応薄かったし」
「何やってんの? もう一発ぐらい蹴ってもいいよね? ね?」
「サキュバスのDVはあまり好まれないわよ?」
「そういうことを言いたいんじゃないわよ! というか、人の話を聞け!」
リリスは疲れたように息も絶え絶え。戦闘以外でこんなに苦戦させられる相手は母リゼリア以外だと初めてであろう。
そんなリリスの様子を気にすることもなくセレンはリリスに告げていく。
「でも、繋ぎ止めておくというのは本当よ。私から見てもあの少年は自分の心がないみたいにふらついて見えるもの」
リリスはその言葉に思わず顔を暗くさせる。
「だから、早いうちに言葉にしたいことがあるなら伝えた方が良いと思うの。言葉にしづらいなら肉体的接触でもいい。まあ、今のリリスに一つになるよう強要しても無理だろうから、キスやハグでもいい。少なくともそれぐらいはできると見えるから。ただタイミングを逃すと酷いことになるわよ」
「それは肝に銘じておくわ」
リリスはセレンの言葉に静かにそう呟いた。するとその時、俯いたリリスの顔にメロウの小さな手が伸びていく。
そして、その手は確かに頬へと触れるとメロウは嬉しそうな顔をした。その表情にリリスも釣られて笑う。
それから、気合を入れるように自分の顔をはたくと「良し」と言葉を吐き出した。
「頑張ってみるわ。それにメロウも励ましありがとね」
「赤ちゃんは可愛いわよ。心の癒しにも支えにもなる。その分大変なことも多いけどね。でも、リリスは持った方がいいわよ。きっとかわいい子になる」
「ええ、いずれね」
そして、二人は村の方へと歩みを進めた。
「セレン......よね?」
リリスからセレンと呼ばれた少女は驚いた様子でリリスを見る。その一方で、リリスもセレンと同様の気持ちで見つめ返す。
互いに「これは夢なのではないか?」と言った表情で未だに目の前にいる人物が本物かどうか確証が持てないでいる。
すると、リリスは腕で手の甲で涙を拭うとセレンの方へと一直線に向かって来る。そして、その顔は睨んだような感じで「ニセモノだったら承知しない」という気持ちがひしひしと伝わってくる。
それに対し、セレンは臆してリリスが近づいていく度に一歩ずつ後ずさりしていく。だが、セレンの後退速度より明らかにリリスの前進速度の方が速い。
なので、リリスはやがてセレンの目の前に立って両肩を力強く掴んだ。それにビクッと体を反応させて抱きかかえている赤ん坊を少し強く抱いた。
「あーあー」
「あいたたたたたた!」
「ちょ、ダメだよ! メロウ!」
その時、セレンの抱えていた赤ん坊メロウがリリスの垂れ下がるサイドテールに反応して、その髪を掴んで引っ張る。
それによって、思わず頭が下げられ痛がるリリスとそれを止めようと必死になるセレン。そして、メロウがリリスの髪を放すとリリスは思わずセレンと目が合った。
その瞬間、二人は笑い合う。もう確かめる必要はなくなった。もとより確かめる必要などなかったのだが、信じられなかっただけ。
とはいえ、完全に信じられたわけじゃない。というのも.......
「セレン、生きていたのね」
リリスは村の全員が襲撃されたと同時に殺されたと思っていたからだ。少なくとも、同胞の死は何度も見てきたし、その中に友達は何人だっていた。
だから、もう生きている人物はいないと思っていたのだ。しかし、両肩を触れて伝わってくる体温は確かに本物である。
リリスが思わず漏らした言葉にセレンは赤ん坊をあやしながら返答していく。
「実はね、襲撃が会った時に私達家族はたまたま遠くへ出かけていたのよ。そして、帰った時には村が見る影もなく炎に包まれていたのを今でも鮮明に思い出せる。けど、生き残ったという皆が他の場所に拠点を移すと言っていたから私もそれに従おうと思ってたんだけどね。両親が嫌な予感がするからって無理やり引き戻されて別の場所へと移動したのよ」
「賢明な判断だったと思うわよ」
「そうかもしれないね。でも、私は生きてることをもちろん嬉しいと思ってるけど、少しだけ後悔してるの。きっといても役には立てなかっただろうけど、私があの場にいたら何かが変わったんじゃないかって」
セレンはその時のことを思い出しているのか思わず暗い顔で下を向く。すると、その表情にメロウは不安な気持ちになったのか泣き始めた。
そのことにハッとしたセレンはメロウを少し揺さぶりながら、優しく言葉をかけてあやしていく。
リリスはその様子を見て少しだけ温かい気持ちになった。あの日、あの襲撃でサキュバスという種族は全滅したと思っていた。
しかし、今目の前にはその血を引く新しい命がある。まだ全てが消えたわけじゃないと力強く言える。そのことがなによりも嬉しかった。
「あんまり深く悩み過ぎない方が賢明よ。それにあんまり赤ちゃんを不安にさせてあげないの」
「ふふっ、そうだね」
「それはそうと、その子って弟? それとも妹?」
リリスは気分を一新させようとセレンに話題を振った。すると、セレンはその質問に一度驚いたような表情を見せると「あ~」とすぐに何かを納得したような顔をする。
そのことに思わずリリスは首を傾げる。
「まあ、リリスは知らなくて当然だよね。この子私の娘なんだ」
「へぇ~、セレンの娘ね。可愛らし......え? 今なんて言ったの?」
リリスは思わず聞き間違い顔と思って聞き直した。しかし、聞かれた本人はニコニコした表情を浮かべていて、リリスの反応を楽しんでいる感じだ。
その顔でリリスはゆっくりと目を見開いていく。とはいえ、まだ信じれていない部分もある。なぜならセレンは自分と同い年だ。つまりは16。
確かに、サキュバスが性欲高めで15歳以上は成人という扱いをしているにしても、それはいくら何でも早すぎじゃなかろうか。
そんなリリスの内心を知ってか知らずかセレンはもう一度はっきりと告げる。
「私のむ・す・め」
「マジで......」
リリスは思いっきり目を見開いた。セレンは自分と同じで好きな人以外と貫通するのは抵抗を持っていたサキュバスとしては珍しいタイプであった。
なので、良く話が合い、親友レベルでずっとかかわってきたのだが、その親友が生きていて尚且つ大人の階段を上っていたという二つの衝撃に思わず足元をふらつかせた。
特に今重要なのは最後だ。一体いつの間にだろうか。すると、そんなリリスの表情から大体のことを察したセレンはリリスへと説明していく。
「実はね、故郷が二度滅ぼされたと聞いた時、私はショックで両親の制止を振り切って一人で人族の世界を彷徨っていたのよ。皆が、大切な人が死んで助けにもいけなくてどうして自分だけが生きているんだろってね」
「......」
「あの時の私はもしかしたら自分を殺して欲しかったのかもしれない。そしてある時、一人の強そうな男装冒険者に出会ったの。私は殺されるために殺す気で襲いかかった。でも、その冒険者は決して戦おうとしなかった。それどころか、敵対する魔族である私に優しくしてくれたのよ」
セレンは当時を振り返ってるのか顔を赤らめて熱ぼったい頬に手を当てていく。
「それがもしかして.......?」
「そう夫よ。今は食料調達に行ってくれているわ。それで、その心意気に惚れた私はその場で押し倒したの」
「その場で!?」
リリスはその言葉に驚きが隠せなかった。昔から積極性がなかったセレンがまさかそんな大胆な行動をするとは。となると、聞きたいことはいろいろある。
「待って、時間帯は?」
「昼間」
「昼間!?」
「ちなみに、場所は割と馬車が通る道沿いよ」
「道沿い!?」
「つまりはピ――――――ね。サキュバスのフェロモンに当てられた時の夫はそれはそれは獣のようだったわ。それに他の人に見られてしまうかもっていう背徳感がヤバかった。今思えば、初めてであれは凄いわね」
「~~~~~!」
リリスはついに言葉を失った。さすがというより、やはり親友もサキュバスなのだなとしみじみと実感させられるエピソードであった。
とはいえ、久々に会った親友が大人の階段を上っていて、ライトな惚気話の方が何倍もマシと思えるエロ話をこんなにも饒舌に語るとは思わなかった。
思わず聞いてしまった自分も自分であるが、それを聞いて予想の斜め上を遥か彼方まで突っ切っていく話をされるとは誰も思わまい。
するとセレンがリリスに向かってにこやかな笑みを浮かべる。
「そういえば、さっき見かけない人達を大勢見かけたけど、あの人達ってリリスの仲間でいいんだよね? 一応、軽く挨拶は済ませたけど」
「ええ、そうね。種族もバラバラで驚いたでしょ?」
「そうね。人族に獣人族、竜人族、鬼族、魔物とゴーレム? の異種族パーティは中々に面白いわ。それにしっかりとリリスのことを見てもらってるようだし」
セレンは親友が大切に扱われていることに嬉しそうな顔をする。その表情にリリスも思わずほっこり。しかし、セレンはそこで止まらなかった。
「それでももっと驚いたことがあるわ」
「驚いたこと?」
「リリスが逆ハー志望だったことよ」
「.......へ?」
「だ・か・ら! リリスはあの二人の男性にあんなことやこんなことをしてもらってるんじゃないの? そして時には女性の数を活かしてしっちゃかめっちゃか。あれって最大何Pかしら?」
「な、ななななな何言ってんの!?」
リリスもこれにはさすがの抗議。よもや親友からそのような言葉を言われるとは思わなかった。なるほど、腐ってもサキュバスということなのか。
そんなリリスの反応にセレンは思わず眉を顰める。
「え、それじゃあ、リリスはまだいたしてないの?」
「してるわけないじゃない!」
「それじゃあ、好きな人も?」
「いない!......わけじゃないけど......」
「なら、なぜしない?」
「そう簡単にしてたまるかぁ!」
リリスは今一番の大声を出した。その声にメロウが泣きだしてセレンがあやしていく。
そんな光景になんだかやりきれない気持ちになったリリス。なんだか自分の知っている純粋な親友が夢物語の人物のような気がしてきた。
「ともあれ、好きな人はしっかりと繋ぎとめておかないとダメよ。恐らくだけのリリスとタイプが合いそうな人族の少年にサキュバスのフェロモンを当ててみたけど反応薄かったし」
「何やってんの? もう一発ぐらい蹴ってもいいよね? ね?」
「サキュバスのDVはあまり好まれないわよ?」
「そういうことを言いたいんじゃないわよ! というか、人の話を聞け!」
リリスは疲れたように息も絶え絶え。戦闘以外でこんなに苦戦させられる相手は母リゼリア以外だと初めてであろう。
そんなリリスの様子を気にすることもなくセレンはリリスに告げていく。
「でも、繋ぎ止めておくというのは本当よ。私から見てもあの少年は自分の心がないみたいにふらついて見えるもの」
リリスはその言葉に思わず顔を暗くさせる。
「だから、早いうちに言葉にしたいことがあるなら伝えた方が良いと思うの。言葉にしづらいなら肉体的接触でもいい。まあ、今のリリスに一つになるよう強要しても無理だろうから、キスやハグでもいい。少なくともそれぐらいはできると見えるから。ただタイミングを逃すと酷いことになるわよ」
「それは肝に銘じておくわ」
リリスはセレンの言葉に静かにそう呟いた。するとその時、俯いたリリスの顔にメロウの小さな手が伸びていく。
そして、その手は確かに頬へと触れるとメロウは嬉しそうな顔をした。その表情にリリスも釣られて笑う。
それから、気合を入れるように自分の顔をはたくと「良し」と言葉を吐き出した。
「頑張ってみるわ。それにメロウも励ましありがとね」
「赤ちゃんは可愛いわよ。心の癒しにも支えにもなる。その分大変なことも多いけどね。でも、リリスは持った方がいいわよ。きっとかわいい子になる」
「ええ、いずれね」
そして、二人は村の方へと歩みを進めた。
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