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第7章 道化師は攻略する
第162話 価値観
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「それじゃあ、行ってくる」
「カムイ兄さんも気を付けて。健闘を願ってるよ」
カムイはカルマとの挨拶を済ませると多くの同胞に見送られながら竜化したエキドナの背中に乗り込んだ。
そして、エキドナは大きく翼をはためかせると少しずつ地上から離れていった。それからやがてカムイの同胞たちの姿が小さくなり、点サイズになるまで高く飛翔した。
そうして再び始まった風の旅。エキドナの背中はエキドナの魔法で作り出した特殊な防風エリアとなっているため、エキドナの飛行によって吹き飛ばされる心配はない。
そんな背中の上でロキは竜特有の高めの体温から伝わるじんわりとした熱に体を横向けにしながら寝ており、そんなロキを枕にするようにベルと雪姫と朱里も眠りに落ちている。
恐らくたった数日ではあったけれど、雪姫と朱里の二人には鬼族での濃密な体験が体に現れてきたのだろう。つまりはやっとリラックスできているということだ。
まあ、それが本来の通常の人の姿なのであろうがあいにくここには異常な者達しかいないので、なんとなくその雪姫と朱里に共感を与えているのはリリスぐらいである。ちなみに、ベルが眠っているのはロキのモフモフが気持ちいいからである。
その二人を優しい目で眺めていたリリスはふと周りを見渡していく。すると、カムイは二本の大事な刀を手元に置きながら流れる空を眺めていて、クラウンはロキ枕が使われているせいか腕を枕にして寝そべっている。
リリスは立ち上がるとクラウンの近くに歩いて行く。そして、顔の近くにやってくるとその場で腰を下ろした。
すると、目を閉じたままクラウンが聞いてくる。
「どうした?」
「起きてんのね......イタズラの一つも出来やしないじゃない」
リリスはため息を吐きながら面白くなさそうな顔をする。それに対し、クラウンは変わらぬ声で答えた。
「そう簡単にされてたまるかそれにお前には未遂だが前科があるからな」
「うっ.......」
それはバリエルートに向かう道中の街でのこと。リゼリアに嵌められたクラウンはリリス、ベル、エキドナと部屋を共にした。
そんなある日、クラウンよりも先に起きたリリスがクラウンにいたずらをしていたのだ。そして、挙句の果てに興奮しスイッチがほぼ入りかけていた。
その状態で行われようとした行動をクラウンは未然に防いだが、それ以降「リリスは危ない」という認識が出来て警戒したりしていたのだ。
すると、リリスはクラウンの言葉に地味なダメージを負いつつも思わず噛みついていく。
「何よ、それじゃあ、私に何かされるのは嫌なの?」
「嫌というかな......時と場合があるという話だ。そして、今はそんな場合じゃないだろ?」
「まあ、そうだけど.......」
リリスは言葉ではわかっていながらもどこか不満があるような顔をしている。それはもう少し好意的な態度も見せてくれてもいいんじゃないかということ。
確かに、クラウンは変わっただろう。しかし、クラウンが自分達や他の人達にわかりやすいような態度は見せたことがない。それはハグであったり、キスであったり。
まあ、後者は言い過ぎかもしれないがやはり思い返してもクラウンが好意を見せたことはない。今のクラウンはただ優しいだけだ。
仲間のために人のために動く姿、考える姿。それは好意的に見えるだろう。だが、実際のところそれだけであればそれはただの優しさに過ぎないのだ。
それにクラウンは常にどこか一線を引いた立ち位置にいるような気がするのは気のせいだろうか。どこか自分の、自分達の好意に対して臆しているような気がするのは気のせいだろうか。
変な言い方だが今のクラウンからは良いところしか見られない。多少言動の荒さを目立つものの前に比べれば比でもない。
それがなんだか不思議に感じるのだ。本来全く疑うはずもないことのはずなのに、どうしてかその相手がクラウンだと疑ってしまう。
そして、思ってしまう。クラウンの最終地点と自分の望む最終地点は違うんじゃないかと。その気持ちだって気の迷いかもしれないことはある。
今回のことだってカムイの故郷に関しては酷くシンパシーを感じたものだ。違いがあるとすればカムイのところは生き残っていて、自分のところの仲間はもう......
ともかく、クラウンの行動は一人いつの間にか消えてしまいそうで――――――
「まさか......!?」
リリスは自分が思った言葉に引っ掛かりを感じた。そして、その言葉の意味を理解してしまった。もしかしたら、未だにクラウンはこんなバカなことを考えているかもしれない。
そのことを確かめようとする前に一つ深呼吸する。この言葉を聞くにはなぜだか勇気が必要な気がする。それが本当かどうかは別にして。
「ねぇ、クラウン。一つ聞いていいかしら?」
「.......なんだ?」
「死ぬ気?」
「......」
クラウンはその言葉に応えなかった。だんまりを決め込んだまま眠るかのように寝息を立てていく。
リリスはその言葉が肯定だと思った。そのせいかクラウンを酷く悲しい目で見つめてしまう。そして、静かに立ち上がるとエキドナの頭の方へと向かって行く。
リリスがエキドナの防風圏から出ると頭の左側にある赤髪のサイドテールが激しく風にたなびいていく。服も激しく揺らしていき、服が勢いよく風に叩きつけられた時の音がする。
そんな少しでも踏み外そうものなら飛ばされかねないエキドナの首をリリスは歩いて行く。そして、エキドナの頭の上に立つと三角座りをした。
エキドナからはリリスの様子が見えないが頭に来たことはわかっているのでリリスに声をかけていく。
「どうしたの? リリスちゃん」
「どうされましたか? ミス・リリス」
「リル......あんたそんなところにいたのね」
リリスがそう言った右側の方にはエキドナと並行して飛んでいるリルリアーゼの姿があった。
そのリルリアーゼはハンググライダーのような三角上の翼を背中につけて頭以外を一直線になるように体を折りたたんでいる。さらにその翼からはジェットエンジンのような赤色の炎が激しく空気を燃やしている。
エキドナの背中で姿が見えないと思っていればまさか空で飛んでいるとは......もはや何でもありなのだろうか。
リリスはそんなリルの姿を見て少しだけ呆れたせいかその少し分だけの心の余裕が生まれた。そして、エキドナに問いかけられた質問に答えていく。
「.......さっきね、クラウンと少しだけ話したの。そして、クラウンと会話している時にクラウンはハッキリとした行為を見せていないと思ったのよ」
「私達のために動いたり、仲間のために動いてくれてるわよ?」
「わかってる。凄くわかってるの。でも、その行動ってただ優しいだけなんじゃないかと思えてきたのよ」
エキドナはその言葉に神妙な面持ちをして聞いた。そして、少しだけ目を細めると「続けて」とリリスの言葉を促していく。
「確かに、私の考えが間違ってるとも言えるわ。でも、そう思った私は思わずクラウンに聞いたの―――――『死ぬ気?』って。その言葉にクラウンは答えてくれることはなかった」
リリスは淡々と言葉を続けていく。その言葉に興味を持ったリルリアーゼはエキドナの顔に近づいていくとリリスに聞いていく。
「ミス・リリスにはその考えについて過去にマスターについて思い当たる節があるのですか?」
「あるわよ。クラウンは私と出会ってまだ間もない頃に告げた言葉があるのよ。それが『神と戦った時点で朽ちるつもりだった』という言葉。私はその言葉を思い出した瞬間、思ってしまったのよ――――――」
「旦那様の自分の命に対する価値観がとてつもなく低いというかしら?」
「.......そういうことになるわね」
エキドナの言葉にリリスは静かにうなづいた。その言葉は文字通りの意味であるからだ。
クラウンは最初は神への復讐のためにその身の全てを捧げようとしていた。つまりはその時点から自分の命をどうでもいいものと思っていたということだ。
そのことをどこか悲しく感じたリリスはその考えを捨てさせようと目的を終えたら自分のやりたいことに付き合うように強要した。
そして、旅を続けベルと兵長に出会い、エキドナに出会い、兵長との死別を経てリゼリアに出会い、カムイと出会い、朱里と雪姫にも出会った。
それまでの旅はどれもこれも濃密な旅であった。そして、兵長の死別の時にはクラウンと心を通わせたと思った。だが、それはたった今さっき思っていただけとわかってしまった。
クラウンのその自身の命に対する価値観も変わってしまっていると持っていた。しかし、何一つ変わっていなかった。
これにはクラウンに悲哀の目を思わず送ってしまったし、どこか裏切られたような気持にもなった。
それが全て勝手な被害妄想だということは理解している。だが、一度そう思ってしまうとどこまでが一緒でどこからが違うのかが気になって来てしまう。
クラウンが自分と自分達と時を過ごしたのは全て無駄であったのかとさえ思えてきてしまう。するとその時、リリスの顔面にモフっとした感触が伝わってきた。
リリスは思わず俯いていた顔を上げると目の前には先だけ白い黄金の尻尾があった。そして、その横にはそのモフモフを抱えたベルの姿が。
「落ち着いたです? 少し冷えるので風はカットしたです」
そう言われてリリスは辺りを見渡す。すると、エキドナの防風圏のような結界が張られていた。なるほど、ベルが能力を真似て使用したようだ。これなら先ほど感じていた風も全く感じない。
リリスは「ありがと」と告げるとあぐらをかいてその上にベルを座らせて尻尾をさわさわしていく。
「落ち着いたようね」
「ベルのおかげでね。一体いつからと思ってるけど」
「リリス様が動き出した時です。足音に反応したです」
「それじゃあ、さっきの会話も聞いてたの?」
「はいです」
リリスはこうもハッキリ言われてなんだが恥ずかしい気分になってきた。とはいえ、聞かれても本人ではないので大きな問題ではないのだが。
すると、ベルは先ほどのエキドナの言葉に返答していく。
「確かに、主様は命の価値が低いと思うです」
「やっぱりそうなのね―――――」
「ただ、それは昔の主様と比べると大きく高くなっていると思うです」
ベルはその言葉を自信満々に言い切った。それにリリスは思わず反応する。
「どういうこと?」
「主様はもともと復讐のために命を使い果たすつもりでしたです。それはそれが自身の全てであったからだと思うです。しかし、今の主様はその気持ちよりもある気持ちの方が大きくなっていると思うです。エキドナ様はわかるです?」
「ええ、わかるわよ」
エキドナは目を細めると優し気な笑みを浮かべる。その一方で、二人だけで会話しているような気がして釈然としないリリスと一からさっぱしのリルリアーゼは頭を傾げていく。
「何を言っているのよ?」
「「つまり(旦那様/主様)は.......仲間のために命を使い果たそうとしている(のよ/です)」」
「!」
リリスはその言葉に思わず驚きつつも、笑みを浮かべてどこか自分もそうであって欲しいと願っていた。なので、その言葉はお腹の奥底へとストンと自然に落ちていくように納得した。
そして、リリスは「この話はおしまい」と唐突に切るとエキドナに告げた。
「ねえ、魔王城に行く前に少し寄って欲しい場所があるのだけどいいかしら? 他の連中にも私から伝えておくから」
「そうね。ちなみに、どこかしら?」
「私の―――――故郷よ」
「カムイ兄さんも気を付けて。健闘を願ってるよ」
カムイはカルマとの挨拶を済ませると多くの同胞に見送られながら竜化したエキドナの背中に乗り込んだ。
そして、エキドナは大きく翼をはためかせると少しずつ地上から離れていった。それからやがてカムイの同胞たちの姿が小さくなり、点サイズになるまで高く飛翔した。
そうして再び始まった風の旅。エキドナの背中はエキドナの魔法で作り出した特殊な防風エリアとなっているため、エキドナの飛行によって吹き飛ばされる心配はない。
そんな背中の上でロキは竜特有の高めの体温から伝わるじんわりとした熱に体を横向けにしながら寝ており、そんなロキを枕にするようにベルと雪姫と朱里も眠りに落ちている。
恐らくたった数日ではあったけれど、雪姫と朱里の二人には鬼族での濃密な体験が体に現れてきたのだろう。つまりはやっとリラックスできているということだ。
まあ、それが本来の通常の人の姿なのであろうがあいにくここには異常な者達しかいないので、なんとなくその雪姫と朱里に共感を与えているのはリリスぐらいである。ちなみに、ベルが眠っているのはロキのモフモフが気持ちいいからである。
その二人を優しい目で眺めていたリリスはふと周りを見渡していく。すると、カムイは二本の大事な刀を手元に置きながら流れる空を眺めていて、クラウンはロキ枕が使われているせいか腕を枕にして寝そべっている。
リリスは立ち上がるとクラウンの近くに歩いて行く。そして、顔の近くにやってくるとその場で腰を下ろした。
すると、目を閉じたままクラウンが聞いてくる。
「どうした?」
「起きてんのね......イタズラの一つも出来やしないじゃない」
リリスはため息を吐きながら面白くなさそうな顔をする。それに対し、クラウンは変わらぬ声で答えた。
「そう簡単にされてたまるかそれにお前には未遂だが前科があるからな」
「うっ.......」
それはバリエルートに向かう道中の街でのこと。リゼリアに嵌められたクラウンはリリス、ベル、エキドナと部屋を共にした。
そんなある日、クラウンよりも先に起きたリリスがクラウンにいたずらをしていたのだ。そして、挙句の果てに興奮しスイッチがほぼ入りかけていた。
その状態で行われようとした行動をクラウンは未然に防いだが、それ以降「リリスは危ない」という認識が出来て警戒したりしていたのだ。
すると、リリスはクラウンの言葉に地味なダメージを負いつつも思わず噛みついていく。
「何よ、それじゃあ、私に何かされるのは嫌なの?」
「嫌というかな......時と場合があるという話だ。そして、今はそんな場合じゃないだろ?」
「まあ、そうだけど.......」
リリスは言葉ではわかっていながらもどこか不満があるような顔をしている。それはもう少し好意的な態度も見せてくれてもいいんじゃないかということ。
確かに、クラウンは変わっただろう。しかし、クラウンが自分達や他の人達にわかりやすいような態度は見せたことがない。それはハグであったり、キスであったり。
まあ、後者は言い過ぎかもしれないがやはり思い返してもクラウンが好意を見せたことはない。今のクラウンはただ優しいだけだ。
仲間のために人のために動く姿、考える姿。それは好意的に見えるだろう。だが、実際のところそれだけであればそれはただの優しさに過ぎないのだ。
それにクラウンは常にどこか一線を引いた立ち位置にいるような気がするのは気のせいだろうか。どこか自分の、自分達の好意に対して臆しているような気がするのは気のせいだろうか。
変な言い方だが今のクラウンからは良いところしか見られない。多少言動の荒さを目立つものの前に比べれば比でもない。
それがなんだか不思議に感じるのだ。本来全く疑うはずもないことのはずなのに、どうしてかその相手がクラウンだと疑ってしまう。
そして、思ってしまう。クラウンの最終地点と自分の望む最終地点は違うんじゃないかと。その気持ちだって気の迷いかもしれないことはある。
今回のことだってカムイの故郷に関しては酷くシンパシーを感じたものだ。違いがあるとすればカムイのところは生き残っていて、自分のところの仲間はもう......
ともかく、クラウンの行動は一人いつの間にか消えてしまいそうで――――――
「まさか......!?」
リリスは自分が思った言葉に引っ掛かりを感じた。そして、その言葉の意味を理解してしまった。もしかしたら、未だにクラウンはこんなバカなことを考えているかもしれない。
そのことを確かめようとする前に一つ深呼吸する。この言葉を聞くにはなぜだか勇気が必要な気がする。それが本当かどうかは別にして。
「ねぇ、クラウン。一つ聞いていいかしら?」
「.......なんだ?」
「死ぬ気?」
「......」
クラウンはその言葉に応えなかった。だんまりを決め込んだまま眠るかのように寝息を立てていく。
リリスはその言葉が肯定だと思った。そのせいかクラウンを酷く悲しい目で見つめてしまう。そして、静かに立ち上がるとエキドナの頭の方へと向かって行く。
リリスがエキドナの防風圏から出ると頭の左側にある赤髪のサイドテールが激しく風にたなびいていく。服も激しく揺らしていき、服が勢いよく風に叩きつけられた時の音がする。
そんな少しでも踏み外そうものなら飛ばされかねないエキドナの首をリリスは歩いて行く。そして、エキドナの頭の上に立つと三角座りをした。
エキドナからはリリスの様子が見えないが頭に来たことはわかっているのでリリスに声をかけていく。
「どうしたの? リリスちゃん」
「どうされましたか? ミス・リリス」
「リル......あんたそんなところにいたのね」
リリスがそう言った右側の方にはエキドナと並行して飛んでいるリルリアーゼの姿があった。
そのリルリアーゼはハンググライダーのような三角上の翼を背中につけて頭以外を一直線になるように体を折りたたんでいる。さらにその翼からはジェットエンジンのような赤色の炎が激しく空気を燃やしている。
エキドナの背中で姿が見えないと思っていればまさか空で飛んでいるとは......もはや何でもありなのだろうか。
リリスはそんなリルの姿を見て少しだけ呆れたせいかその少し分だけの心の余裕が生まれた。そして、エキドナに問いかけられた質問に答えていく。
「.......さっきね、クラウンと少しだけ話したの。そして、クラウンと会話している時にクラウンはハッキリとした行為を見せていないと思ったのよ」
「私達のために動いたり、仲間のために動いてくれてるわよ?」
「わかってる。凄くわかってるの。でも、その行動ってただ優しいだけなんじゃないかと思えてきたのよ」
エキドナはその言葉に神妙な面持ちをして聞いた。そして、少しだけ目を細めると「続けて」とリリスの言葉を促していく。
「確かに、私の考えが間違ってるとも言えるわ。でも、そう思った私は思わずクラウンに聞いたの―――――『死ぬ気?』って。その言葉にクラウンは答えてくれることはなかった」
リリスは淡々と言葉を続けていく。その言葉に興味を持ったリルリアーゼはエキドナの顔に近づいていくとリリスに聞いていく。
「ミス・リリスにはその考えについて過去にマスターについて思い当たる節があるのですか?」
「あるわよ。クラウンは私と出会ってまだ間もない頃に告げた言葉があるのよ。それが『神と戦った時点で朽ちるつもりだった』という言葉。私はその言葉を思い出した瞬間、思ってしまったのよ――――――」
「旦那様の自分の命に対する価値観がとてつもなく低いというかしら?」
「.......そういうことになるわね」
エキドナの言葉にリリスは静かにうなづいた。その言葉は文字通りの意味であるからだ。
クラウンは最初は神への復讐のためにその身の全てを捧げようとしていた。つまりはその時点から自分の命をどうでもいいものと思っていたということだ。
そのことをどこか悲しく感じたリリスはその考えを捨てさせようと目的を終えたら自分のやりたいことに付き合うように強要した。
そして、旅を続けベルと兵長に出会い、エキドナに出会い、兵長との死別を経てリゼリアに出会い、カムイと出会い、朱里と雪姫にも出会った。
それまでの旅はどれもこれも濃密な旅であった。そして、兵長の死別の時にはクラウンと心を通わせたと思った。だが、それはたった今さっき思っていただけとわかってしまった。
クラウンのその自身の命に対する価値観も変わってしまっていると持っていた。しかし、何一つ変わっていなかった。
これにはクラウンに悲哀の目を思わず送ってしまったし、どこか裏切られたような気持にもなった。
それが全て勝手な被害妄想だということは理解している。だが、一度そう思ってしまうとどこまでが一緒でどこからが違うのかが気になって来てしまう。
クラウンが自分と自分達と時を過ごしたのは全て無駄であったのかとさえ思えてきてしまう。するとその時、リリスの顔面にモフっとした感触が伝わってきた。
リリスは思わず俯いていた顔を上げると目の前には先だけ白い黄金の尻尾があった。そして、その横にはそのモフモフを抱えたベルの姿が。
「落ち着いたです? 少し冷えるので風はカットしたです」
そう言われてリリスは辺りを見渡す。すると、エキドナの防風圏のような結界が張られていた。なるほど、ベルが能力を真似て使用したようだ。これなら先ほど感じていた風も全く感じない。
リリスは「ありがと」と告げるとあぐらをかいてその上にベルを座らせて尻尾をさわさわしていく。
「落ち着いたようね」
「ベルのおかげでね。一体いつからと思ってるけど」
「リリス様が動き出した時です。足音に反応したです」
「それじゃあ、さっきの会話も聞いてたの?」
「はいです」
リリスはこうもハッキリ言われてなんだが恥ずかしい気分になってきた。とはいえ、聞かれても本人ではないので大きな問題ではないのだが。
すると、ベルは先ほどのエキドナの言葉に返答していく。
「確かに、主様は命の価値が低いと思うです」
「やっぱりそうなのね―――――」
「ただ、それは昔の主様と比べると大きく高くなっていると思うです」
ベルはその言葉を自信満々に言い切った。それにリリスは思わず反応する。
「どういうこと?」
「主様はもともと復讐のために命を使い果たすつもりでしたです。それはそれが自身の全てであったからだと思うです。しかし、今の主様はその気持ちよりもある気持ちの方が大きくなっていると思うです。エキドナ様はわかるです?」
「ええ、わかるわよ」
エキドナは目を細めると優し気な笑みを浮かべる。その一方で、二人だけで会話しているような気がして釈然としないリリスと一からさっぱしのリルリアーゼは頭を傾げていく。
「何を言っているのよ?」
「「つまり(旦那様/主様)は.......仲間のために命を使い果たそうとしている(のよ/です)」」
「!」
リリスはその言葉に思わず驚きつつも、笑みを浮かべてどこか自分もそうであって欲しいと願っていた。なので、その言葉はお腹の奥底へとストンと自然に落ちていくように納得した。
そして、リリスは「この話はおしまい」と唐突に切るとエキドナに告げた。
「ねえ、魔王城に行く前に少し寄って欲しい場所があるのだけどいいかしら? 他の連中にも私から伝えておくから」
「そうね。ちなみに、どこかしら?」
「私の―――――故郷よ」
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