上 下
143 / 303
第7章 道化師は攻略する

第161話 決意の別れ

しおりを挟む
 クラウン達が焦土に残る瓦礫を清掃し始めてから五時間。お昼を過ぎて少しぐらいで焦土は劇的ビフォーアフター遂げていた。

 黒い灰と瓦礫まみれであった地面は驚くほどにキレイな黄土色の地面を見せていて、グレンの墓がポツンと存在するぐらいで何もないだだっ広い場所となった。

 その光景を横並びに見ていたカムイとクラウンは二人で他愛もない会話をしていく。

「ふぅー、やれば何とかなるもんだな。本当に手伝ってくれて助かるぜ」

「それもこれもお前の人徳があってのものだろう。途中からは街の人々が勝手に手伝い始めたしな」

 カムイはその言葉を聞いて腕を組む。

「人徳か......スラム生まれのスラム育ちの俺にあるとは思えないがな」

「そういうのは生まれた場所や環境にほとんど関係しないって言うだろ。つまりは心のありようってことだ。それがこの結果を生み出したんだ。十分に誇っていいことだと思うがな」

「達観してるなー。俺がお前ぐらいの年齢の時はまだアホ面してたと思うぜ?」

 カムイは頭の後ろに手を組み直すとクラウンにニカッとした笑みを向ける。

「それはそれで問題だろ」

「だろうな。それじゃあ、クラウンはもう心のありようにケジメはついたってことでいいのか? さっきの言い方的に」

 カムイがそう聞くとクラウンはその言葉に押し黙った。なぜなら、それを答える前にまだ未解決な部分があるからだ。

 それは自分の心に潜んでいるだろう可能性が残っているからだ。それが言えるのはリルリアーゼと戦いでハッキリと見た右腕に纏われた凶悪な籠手だ。

 それはラズリ戦の時にも見たものでそれを作り出したのは自分の体から発生した黒い靄である。そして、その靄は戦闘中のリルリアーゼが「破壊の共鳴」と言った言葉に反応した。

 ......わかってる。あれはもう一人の自分であることぐらい。自分がロキに出会う前に覚醒魔力を得る際に会っただった人物だ。

 自分は半分その自分に意識を預けて復讐のままに、力を欲するままに魔物を潰していった。だが、そいつはロキと出会って薄れていき、リリスと出会ってあまり顔を見せなくなった。

 その時は自分の心がもともと殺戮に目覚めていたせいもあってかあまり変わらなかったが、それでも誰彼構わず攻撃しようとしよう意識はかなり減ったのは確かだ。

 そして一度なりを潜めた。だが、再び出てくる時があった。それは自分がラズリに敗北した際にジジイを失ったことだ。

 あのジジイは数十年前の響だ。あの言葉は最初こそ疑ったが失った時にはもうその言葉が本物だということは何となくわかった。

 だから、後悔した。そして、自分の弱さを責めるように、殺したラズリを恨むように怒りで意識を支配した。

 その時だった。もう一人の自分はその心の乱れに出来た隙間を狙って完全支配へと乗り出してきた。そして――――――半分支配された。

 心は乱れまくっていた。自分の心ともう一つの自分の心がせめぎ合い、争い合いどちらが主導権を握るのかと暴れまくっていた。

 それを沈めてくれたのがリリスであった。

 あの時受けたビンタは何よりも痛かったことは今でも覚えている。そして、それによって今の自分正気に戻った俺はそれ以上堕ちることなく進むべき道に一歩踏み出すことが出来た。

 しかし、それからまた姿を見せなくなったそいつによる異変は唐突に現れた。それがあのラズリとの闘いの時に初めて見せた漆黒の籠手であった。

 だが、それは一度失明したことによってハッキリとはわからなかった。ただ確かに聞いた言葉は「憎め」と言う一言のみ。

 そして今回の「破壊の共鳴」という言葉。リルリアーゼにその言葉を聞いてみたが、それはレグリアの仕込んだ弾によってレジストされたらしい。

 つまりは聞かれては不味い内容ということだ。特に自分には。

 それにリルリアーゼは「一人だけ生け捕りにして後は排除する」とも言っていた。排除、つまりは殺すということ。

 そして、予想するにその生け捕りというのは自分のことかもしれない。

 レグリアが言った「魔王の因子」、腕に纏った凶悪な籠手、リルリアーゼが言った「破壊の共鳴」。

 もう一人の自分の存在が関係しているのかどうかはわからないが、少なくともそれら三つは関係していると思われる。

 それらから推測されることは―――――――レグリアの狙いが自分かもしれないということだ。

 可能性はなくはない。だが、確証は少ない。自分がカムイに会うということを少なくとも知った前提で動かなければいけないからだ。

 自分がカムイと出会う前にはカムイはすでに妹探しを始めていた。そして、カムイと出会ったのはあれほどまでに広大だった森の中。

 まさかそう言う筋書きになるように誘導したとでも言うのだろうか。だが、そう考えなければここに来るどころかカムイと出会う運命までなくなることになる。

 ということは―――――レグリアは未来が見えるのか?

 そう考えた方が落ち着く自分がいる。どこか確信にも似た憶測だと思えてくる。

 だが、見落としてはいけないのはそれがレグリアじゃなかった場合。リゼリアが取り込んだ色欲の使徒を除くと残り六体。

 その六体のうちの誰かが未来を見てそう言う筋書きにしたのか、もしくは―――――神だ。神ならばもはや理由づけることすらおこがましだろう。

 もしくは限りなくゼロに近いが大穴のリゼリアか。リゼリア本人が未来予知の能力があると言っていた。だが、ここまでしてハメるメリットが見つからない。

 実は生き残りの女神ではなく、色欲の使徒だとしたら納得もするが......自分の目がそうではないと判断した。なら、除外してもいいだろう。

 そして、その二つでどちらがしっくりくるかと思えば当然後者だ。

 レグリアは神の指示のもと動いていて今現在の自分達に至っている。まるでマリオネットのようだ。そして、これから行く先も予め作られた筋書き通りの場所なのだろう。

 どこまでいっても、何をしても後手・後手・後手。本当に遊ばれているようで酷く腹が立つ。だが、その他に選択肢はないし、今更カムイを見捨てるわけにはいかないだろう。

 それに一つだけその筋書きをぶっ壊せる方法があるとすれば......それは敵を殺すことだけだ。

 ラズリと戦った時はまさにそう言う感じだったのだろう。まだラズリには役目があるから助けに来た。恐らくそうだろう。

 まあ、結局のところは今は大人しくあいつらの口車に乗っていく外ないということだ。

 そんなことを考えていたその時、カムイは慌てたような声を出した。それはクラウンは酷く長考していた様子であったからだ。

「わ、わりぃ。そんなに考え込むことだとは思わなかった。ほら? 最近のお前は見違えるぐらいに変わっているしな?」

「考えていたのは別のことだ。気にしなくていい。それにまだ一番付き合いが短いカムイそう言われるのだとしたら、あいつらの思ってることも透けて見えてくるようだな」

「もしかしたら......いや、もしかしなくてもお前が思っている以上のことかもしれないぞ? それに変わったのはきっとお前さんだけじゃないと思うぜ」

 そう言うとカムイは残りの仲間達へ視線を向けていく。それに合わせてクラウン達も見ていくと年齢の近い鬼族達と楽しく話している様子であった。ロキは子供達と追いかけっこをしている。リルリアーゼは.......ここでは明言しないでおこう。

 カムイとクラウンはスッと見て見ぬふりをした。するとその時、クラウン達の後方の遠くから声がかけられる。

「おーい、出来たぞー!」

「だそうだぞ? カムイ」

「まさか一日で作ってくれるとかあのおっちゃんぶっ倒れないか?」

 二人の視線の先には巨大な荷車の上に巨大な片方だけキレイな断面をした石が運ばれてくる。その石はリリスが重力でグレンの墓の横へと置いていく。その位置は丁度人の形を模したものだけ埋めた場所であった。

 そして、その巨大石の断面にはこう書かれてあった。

『安らかに眠れ。同胞たちよ』

 カムイはグレンと同胞の墓が視界に収まるギリギリに立つと決意の瞳で両手を合掌させる。その行動に合わせるようにクラウン達も瓦礫撤去を手伝ってくれたカムイの同胞たちも合掌する。

 そして両手を下げるとカムイは後ろに向いて再び頭を下げる。

「ありがとうな。行く前にそんなことまでしてくれて」

「礼は余計だ。俺達は俺達の好きなように行動に移したまでのことだ。それにさっきも言ったろ。『俺達はまだ何も成し遂げていない』ってな。だから、お前はとにかく前だけを見ろ妹バカ」

 クラウンがそう言うと頭を上げたカムイが嬉しそうに言った。

「はは、最高の誉め言葉だな。それは」

 そして、全員は街の方へと歩き始める。その最後尾を歩いていたカムイはふとグレンの墓の方へと視線を向けた。

 「なんか見られてる感じがするな」と思いつつもカムイはグレンに別れを告げていく。

「グレン、助けに行けなくて済まなかったな。逆にお前の刀で助けられちまったぜ」

 カムイは一度グレンの愛刀「氷絶」へと視線を向ける。言った言葉に憂いは感じられなかった。

「だがよ、見ててくれ。お前が認めたライバルはこんな事じゃ止まらないし、また妹愛全開にして見せつけにやってくるからよ。それにもっともっと強くなってお前に『もう敵わねぇ』と言わせてやるから。それまでのしばしの別れだ。また会おうな」

 カムイは帰る方向へ移動しようとするとその言葉に返答するように後方から強い風が吹いていく。後方からグレンと同胞の墓に置かれた花の花びらが一斉に舞っていく。

 赤、ピンク、黄、紫など色鮮やかな花びらがカムイの横を通り過ぎていく。その花びらにカムイは驚きつつも思いを噛みしめるように一度目を閉じた。

 背後に気のせいか熱を感じる。その熱は体の中に染み込んで心をじんわりと温めていくようだ。勝手に全身をその熱が駆け巡っていく。

 一言で言えば懐かしいと言うべきか。後ろにいつもの見知った顔が溢れていてにこやかに笑っているような、そして後押しをしてくれているようなそんな感じ。

 そして、振り返るとそこには太陽の光で反射して少し白く見える二つの墓が存在していた。

 そんな墓を見てカムイは笑顔で一言だけ告げる。

「そんなに励ましの風送っちゃ花びら散ってハゲてしまうぞ?......それじゃあ、行ってきます」

 カムイはそう言うと振り返らずに仲間の後を追った。その後ろを二つの石はその姿が見えなくなるまで輝き続けていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼女エルフの自由旅

たまち。
ファンタジー
突然見知らぬ土地にいた私、生駒 縁-イコマ ユカリ- どうやら地球とは違う星にある地は身体に合わず、数日待たずして死んでしまった 自称神が言うにはエルフに生まれ変えてくれるらしいが…… 私の本当の記憶って? ちょっと言ってる意味が分からないんですけど 次々と湧いて出てくる問題をちょっぴり……だいぶ思考回路のズレた幼女エルフが何となく捌いていく ※題名、内容紹介変更しました 《旧題:エルフの虹人はGの価値を求む》 ※文章修正しています。

補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く

burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。 最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。 更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。 「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」 様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは? ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。

処理中です...