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第7章 道化師は攻略する
第161話 決意の別れ
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クラウン達が焦土に残る瓦礫を清掃し始めてから五時間。お昼を過ぎて少しぐらいで焦土は劇的ビフォーアフター遂げていた。
黒い灰と瓦礫まみれであった地面は驚くほどにキレイな黄土色の地面を見せていて、グレンの墓がポツンと存在するぐらいで何もないだだっ広い場所となった。
その光景を横並びに見ていたカムイとクラウンは二人で他愛もない会話をしていく。
「ふぅー、やれば何とかなるもんだな。本当に手伝ってくれて助かるぜ」
「それもこれもお前の人徳があってのものだろう。途中からは街の人々が勝手に手伝い始めたしな」
カムイはその言葉を聞いて腕を組む。
「人徳か......スラム生まれのスラム育ちの俺にあるとは思えないがな」
「そういうのは生まれた場所や環境にほとんど関係しないって言うだろ。つまりは心のありようってことだ。それがこの結果を生み出したんだ。十分に誇っていいことだと思うがな」
「達観してるなー。俺がお前ぐらいの年齢の時はまだアホ面してたと思うぜ?」
カムイは頭の後ろに手を組み直すとクラウンにニカッとした笑みを向ける。
「それはそれで問題だろ」
「だろうな。それじゃあ、クラウンはもう心のありようにケジメはついたってことでいいのか? さっきの言い方的に」
カムイがそう聞くとクラウンはその言葉に押し黙った。なぜなら、それを答える前にまだ未解決な部分があるからだ。
それは自分の心に潜んでいるだろう可能性が残っているからだ。それが言えるのはリルリアーゼと戦いでハッキリと見た右腕に纏われた凶悪な籠手だ。
それはラズリ戦の時にも見たものでそれを作り出したのは自分の体から発生した黒い靄である。そして、その靄は戦闘中のリルリアーゼが「破壊の共鳴」と言った言葉に反応した。
......わかってる。あれはもう一人の自分であることぐらい。自分がロキに出会う前に覚醒魔力を得る際に会った一番最初の味方だった人物だ。
自分は半分その自分に意識を預けて復讐のままに、力を欲するままに魔物を潰していった。だが、そいつはロキと出会って薄れていき、リリスと出会ってあまり顔を見せなくなった。
その時は自分の心がもともと殺戮に目覚めていたせいもあってかあまり変わらなかったが、それでも誰彼構わず攻撃しようとしよう意識はかなり減ったのは確かだ。
そして一度なりを潜めた。だが、再び出てくる時があった。それは自分がラズリに敗北した際にジジイを失ったことだ。
あのジジイは数十年前の響だ。あの言葉は最初こそ疑ったが失った時にはもうその言葉が本物だということは何となくわかった。
だから、後悔した。そして、自分の弱さを責めるように、殺したラズリを恨むように怒りで意識を支配した。
その時だった。もう一人の自分はその心の乱れに出来た隙間を狙って完全支配へと乗り出してきた。そして――――――半分支配された。
心は乱れまくっていた。自分の心ともう一つの自分の心がせめぎ合い、争い合いどちらが主導権を握るのかと暴れまくっていた。
それを沈めてくれたのがリリスであった。
あの時受けたビンタは何よりも痛かったことは今でも覚えている。そして、それによって今の自分に戻った俺はそれ以上堕ちることなく進むべき道に一歩踏み出すことが出来た。
しかし、それからまた姿を見せなくなったそいつによる異変は唐突に現れた。それがあのラズリとの闘いの時に初めて見せた漆黒の籠手であった。
だが、それは一度失明したことによってハッキリとはわからなかった。ただ確かに聞いた言葉は「憎め」と言う一言のみ。
そして今回の「破壊の共鳴」という言葉。リルリアーゼにその言葉を聞いてみたが、それはレグリアの仕込んだ弾によってレジストされたらしい。
つまりは聞かれては不味い内容ということだ。特に自分には。
それにリルリアーゼは「一人だけ生け捕りにして後は排除する」とも言っていた。排除、つまりは殺すということ。
そして、予想するにその生け捕りというのは自分のことかもしれない。
レグリアが言った「魔王の因子」、腕に纏った凶悪な籠手、リルリアーゼが言った「破壊の共鳴」。
もう一人の自分の存在が関係しているのかどうかはわからないが、少なくともそれら三つは関係していると思われる。
それらから推測されることは―――――――レグリアの狙いが自分かもしれないということだ。
可能性はなくはない。だが、確証は少ない。自分がカムイに会うということを少なくとも知った前提で動かなければいけないからだ。
自分がカムイと出会う前にはカムイはすでに妹探しを始めていた。そして、カムイと出会ったのはあれほどまでに広大だった森の中。
まさかそう言う筋書きになるように誘導したとでも言うのだろうか。だが、そう考えなければここに来るどころかカムイと出会う運命までなくなることになる。
ということは―――――レグリアは未来が見えるのか?
そう考えた方が落ち着く自分がいる。どこか確信にも似た憶測だと思えてくる。
だが、見落としてはいけないのはそれがレグリアじゃなかった場合。リゼリアが取り込んだ色欲の使徒を除くと残り六体。
その六体のうちの誰かが未来を見てそう言う筋書きにしたのか、もしくは―――――神だ。神ならばもはや理由づけることすらおこがましだろう。
もしくは限りなくゼロに近いが大穴のリゼリアか。リゼリア本人が未来予知の能力があると言っていた。だが、ここまでしてハメるメリットが見つからない。
実は生き残りの女神ではなく、色欲の使徒だとしたら納得もするが......自分の目がそうではないと判断した。なら、除外してもいいだろう。
そして、その二つでどちらがしっくりくるかと思えば当然後者だ。
レグリアは神の指示のもと動いていて今現在の自分達に至っている。まるでマリオネットのようだ。そして、これから行く先も予め作られた筋書き通りの場所なのだろう。
どこまでいっても、何をしても後手・後手・後手。本当に遊ばれているようで酷く腹が立つ。だが、その他に選択肢はないし、今更カムイを見捨てるわけにはいかないだろう。
それに一つだけその筋書きをぶっ壊せる方法があるとすれば......それは敵を殺すことだけだ。
ラズリと戦った時はまさにそう言う感じだったのだろう。まだラズリには役目があるから助けに来た。恐らくそうだろう。
まあ、結局のところは今は大人しくあいつらの口車に乗っていく外ないということだ。
そんなことを考えていたその時、カムイは慌てたような声を出した。それはクラウンは酷く長考していた様子であったからだ。
「わ、わりぃ。そんなに考え込むことだとは思わなかった。ほら? 最近のお前は見違えるぐらいに変わっているしな?」
「考えていたのは別のことだ。気にしなくていい。それにまだ一番付き合いが短いカムイそう言われるのだとしたら、あいつらの思ってることも透けて見えてくるようだな」
「もしかしたら......いや、もしかしなくてもお前が思っている以上のことかもしれないぞ? それに変わったのはきっとお前さんだけじゃないと思うぜ」
そう言うとカムイは残りの仲間達へ視線を向けていく。それに合わせてクラウン達も見ていくと年齢の近い鬼族達と楽しく話している様子であった。ロキは子供達と追いかけっこをしている。リルリアーゼは.......ここでは明言しないでおこう。
カムイとクラウンはスッと見て見ぬふりをした。するとその時、クラウン達の後方の遠くから声がかけられる。
「おーい、出来たぞー!」
「だそうだぞ? カムイ」
「まさか一日で作ってくれるとかあのおっちゃんぶっ倒れないか?」
二人の視線の先には巨大な荷車の上に巨大な片方だけキレイな断面をした石が運ばれてくる。その石はリリスが重力でグレンの墓の横へと置いていく。その位置は丁度人の形を模したものだけ埋めた場所であった。
そして、その巨大石の断面にはこう書かれてあった。
『安らかに眠れ。同胞たちよ』
カムイはグレンと同胞の墓が視界に収まるギリギリに立つと決意の瞳で両手を合掌させる。その行動に合わせるようにクラウン達も瓦礫撤去を手伝ってくれたカムイの同胞たちも合掌する。
そして両手を下げるとカムイは後ろに向いて再び頭を下げる。
「ありがとうな。行く前にそんなことまでしてくれて」
「礼は余計だ。俺達は俺達の好きなように行動に移したまでのことだ。それにさっきも言ったろ。『俺達はまだ何も成し遂げていない』ってな。だから、お前はとにかく前だけを見ろ妹バカ」
クラウンがそう言うと頭を上げたカムイが嬉しそうに言った。
「はは、最高の誉め言葉だな。それは」
そして、全員は街の方へと歩き始める。その最後尾を歩いていたカムイはふとグレンの墓の方へと視線を向けた。
「なんか見られてる感じがするな」と思いつつもカムイはグレンに別れを告げていく。
「グレン、助けに行けなくて済まなかったな。逆にお前の刀で助けられちまったぜ」
カムイは一度グレンの愛刀「氷絶」へと視線を向ける。言った言葉に憂いは感じられなかった。
「だがよ、見ててくれ。お前が認めたライバルはこんな事じゃ止まらないし、また妹愛全開にして見せつけにやってくるからよ。それにもっともっと強くなってお前に『もう敵わねぇ』と言わせてやるから。それまでのしばしの別れだ。また会おうな」
カムイは帰る方向へ移動しようとするとその言葉に返答するように後方から強い風が吹いていく。後方からグレンと同胞の墓に置かれた花の花びらが一斉に舞っていく。
赤、ピンク、黄、紫など色鮮やかな花びらがカムイの横を通り過ぎていく。その花びらにカムイは驚きつつも思いを噛みしめるように一度目を閉じた。
背後に気のせいか熱を感じる。その熱は体の中に染み込んで心をじんわりと温めていくようだ。勝手に全身をその熱が駆け巡っていく。
一言で言えば懐かしいと言うべきか。後ろにいつもの見知った顔が溢れていてにこやかに笑っているような、そして後押しをしてくれているようなそんな感じ。
そして、振り返るとそこには太陽の光で反射して少し白く見える二つの墓が存在していた。
そんな墓を見てカムイは笑顔で一言だけ告げる。
「そんなに励ましの風送っちゃ花びら散ってしまうぞ?......それじゃあ、行ってきます」
カムイはそう言うと振り返らずに仲間の後を追った。その後ろを二つの石はその姿が見えなくなるまで輝き続けていた。
黒い灰と瓦礫まみれであった地面は驚くほどにキレイな黄土色の地面を見せていて、グレンの墓がポツンと存在するぐらいで何もないだだっ広い場所となった。
その光景を横並びに見ていたカムイとクラウンは二人で他愛もない会話をしていく。
「ふぅー、やれば何とかなるもんだな。本当に手伝ってくれて助かるぜ」
「それもこれもお前の人徳があってのものだろう。途中からは街の人々が勝手に手伝い始めたしな」
カムイはその言葉を聞いて腕を組む。
「人徳か......スラム生まれのスラム育ちの俺にあるとは思えないがな」
「そういうのは生まれた場所や環境にほとんど関係しないって言うだろ。つまりは心のありようってことだ。それがこの結果を生み出したんだ。十分に誇っていいことだと思うがな」
「達観してるなー。俺がお前ぐらいの年齢の時はまだアホ面してたと思うぜ?」
カムイは頭の後ろに手を組み直すとクラウンにニカッとした笑みを向ける。
「それはそれで問題だろ」
「だろうな。それじゃあ、クラウンはもう心のありようにケジメはついたってことでいいのか? さっきの言い方的に」
カムイがそう聞くとクラウンはその言葉に押し黙った。なぜなら、それを答える前にまだ未解決な部分があるからだ。
それは自分の心に潜んでいるだろう可能性が残っているからだ。それが言えるのはリルリアーゼと戦いでハッキリと見た右腕に纏われた凶悪な籠手だ。
それはラズリ戦の時にも見たものでそれを作り出したのは自分の体から発生した黒い靄である。そして、その靄は戦闘中のリルリアーゼが「破壊の共鳴」と言った言葉に反応した。
......わかってる。あれはもう一人の自分であることぐらい。自分がロキに出会う前に覚醒魔力を得る際に会った一番最初の味方だった人物だ。
自分は半分その自分に意識を預けて復讐のままに、力を欲するままに魔物を潰していった。だが、そいつはロキと出会って薄れていき、リリスと出会ってあまり顔を見せなくなった。
その時は自分の心がもともと殺戮に目覚めていたせいもあってかあまり変わらなかったが、それでも誰彼構わず攻撃しようとしよう意識はかなり減ったのは確かだ。
そして一度なりを潜めた。だが、再び出てくる時があった。それは自分がラズリに敗北した際にジジイを失ったことだ。
あのジジイは数十年前の響だ。あの言葉は最初こそ疑ったが失った時にはもうその言葉が本物だということは何となくわかった。
だから、後悔した。そして、自分の弱さを責めるように、殺したラズリを恨むように怒りで意識を支配した。
その時だった。もう一人の自分はその心の乱れに出来た隙間を狙って完全支配へと乗り出してきた。そして――――――半分支配された。
心は乱れまくっていた。自分の心ともう一つの自分の心がせめぎ合い、争い合いどちらが主導権を握るのかと暴れまくっていた。
それを沈めてくれたのがリリスであった。
あの時受けたビンタは何よりも痛かったことは今でも覚えている。そして、それによって今の自分に戻った俺はそれ以上堕ちることなく進むべき道に一歩踏み出すことが出来た。
しかし、それからまた姿を見せなくなったそいつによる異変は唐突に現れた。それがあのラズリとの闘いの時に初めて見せた漆黒の籠手であった。
だが、それは一度失明したことによってハッキリとはわからなかった。ただ確かに聞いた言葉は「憎め」と言う一言のみ。
そして今回の「破壊の共鳴」という言葉。リルリアーゼにその言葉を聞いてみたが、それはレグリアの仕込んだ弾によってレジストされたらしい。
つまりは聞かれては不味い内容ということだ。特に自分には。
それにリルリアーゼは「一人だけ生け捕りにして後は排除する」とも言っていた。排除、つまりは殺すということ。
そして、予想するにその生け捕りというのは自分のことかもしれない。
レグリアが言った「魔王の因子」、腕に纏った凶悪な籠手、リルリアーゼが言った「破壊の共鳴」。
もう一人の自分の存在が関係しているのかどうかはわからないが、少なくともそれら三つは関係していると思われる。
それらから推測されることは―――――――レグリアの狙いが自分かもしれないということだ。
可能性はなくはない。だが、確証は少ない。自分がカムイに会うということを少なくとも知った前提で動かなければいけないからだ。
自分がカムイと出会う前にはカムイはすでに妹探しを始めていた。そして、カムイと出会ったのはあれほどまでに広大だった森の中。
まさかそう言う筋書きになるように誘導したとでも言うのだろうか。だが、そう考えなければここに来るどころかカムイと出会う運命までなくなることになる。
ということは―――――レグリアは未来が見えるのか?
そう考えた方が落ち着く自分がいる。どこか確信にも似た憶測だと思えてくる。
だが、見落としてはいけないのはそれがレグリアじゃなかった場合。リゼリアが取り込んだ色欲の使徒を除くと残り六体。
その六体のうちの誰かが未来を見てそう言う筋書きにしたのか、もしくは―――――神だ。神ならばもはや理由づけることすらおこがましだろう。
もしくは限りなくゼロに近いが大穴のリゼリアか。リゼリア本人が未来予知の能力があると言っていた。だが、ここまでしてハメるメリットが見つからない。
実は生き残りの女神ではなく、色欲の使徒だとしたら納得もするが......自分の目がそうではないと判断した。なら、除外してもいいだろう。
そして、その二つでどちらがしっくりくるかと思えば当然後者だ。
レグリアは神の指示のもと動いていて今現在の自分達に至っている。まるでマリオネットのようだ。そして、これから行く先も予め作られた筋書き通りの場所なのだろう。
どこまでいっても、何をしても後手・後手・後手。本当に遊ばれているようで酷く腹が立つ。だが、その他に選択肢はないし、今更カムイを見捨てるわけにはいかないだろう。
それに一つだけその筋書きをぶっ壊せる方法があるとすれば......それは敵を殺すことだけだ。
ラズリと戦った時はまさにそう言う感じだったのだろう。まだラズリには役目があるから助けに来た。恐らくそうだろう。
まあ、結局のところは今は大人しくあいつらの口車に乗っていく外ないということだ。
そんなことを考えていたその時、カムイは慌てたような声を出した。それはクラウンは酷く長考していた様子であったからだ。
「わ、わりぃ。そんなに考え込むことだとは思わなかった。ほら? 最近のお前は見違えるぐらいに変わっているしな?」
「考えていたのは別のことだ。気にしなくていい。それにまだ一番付き合いが短いカムイそう言われるのだとしたら、あいつらの思ってることも透けて見えてくるようだな」
「もしかしたら......いや、もしかしなくてもお前が思っている以上のことかもしれないぞ? それに変わったのはきっとお前さんだけじゃないと思うぜ」
そう言うとカムイは残りの仲間達へ視線を向けていく。それに合わせてクラウン達も見ていくと年齢の近い鬼族達と楽しく話している様子であった。ロキは子供達と追いかけっこをしている。リルリアーゼは.......ここでは明言しないでおこう。
カムイとクラウンはスッと見て見ぬふりをした。するとその時、クラウン達の後方の遠くから声がかけられる。
「おーい、出来たぞー!」
「だそうだぞ? カムイ」
「まさか一日で作ってくれるとかあのおっちゃんぶっ倒れないか?」
二人の視線の先には巨大な荷車の上に巨大な片方だけキレイな断面をした石が運ばれてくる。その石はリリスが重力でグレンの墓の横へと置いていく。その位置は丁度人の形を模したものだけ埋めた場所であった。
そして、その巨大石の断面にはこう書かれてあった。
『安らかに眠れ。同胞たちよ』
カムイはグレンと同胞の墓が視界に収まるギリギリに立つと決意の瞳で両手を合掌させる。その行動に合わせるようにクラウン達も瓦礫撤去を手伝ってくれたカムイの同胞たちも合掌する。
そして両手を下げるとカムイは後ろに向いて再び頭を下げる。
「ありがとうな。行く前にそんなことまでしてくれて」
「礼は余計だ。俺達は俺達の好きなように行動に移したまでのことだ。それにさっきも言ったろ。『俺達はまだ何も成し遂げていない』ってな。だから、お前はとにかく前だけを見ろ妹バカ」
クラウンがそう言うと頭を上げたカムイが嬉しそうに言った。
「はは、最高の誉め言葉だな。それは」
そして、全員は街の方へと歩き始める。その最後尾を歩いていたカムイはふとグレンの墓の方へと視線を向けた。
「なんか見られてる感じがするな」と思いつつもカムイはグレンに別れを告げていく。
「グレン、助けに行けなくて済まなかったな。逆にお前の刀で助けられちまったぜ」
カムイは一度グレンの愛刀「氷絶」へと視線を向ける。言った言葉に憂いは感じられなかった。
「だがよ、見ててくれ。お前が認めたライバルはこんな事じゃ止まらないし、また妹愛全開にして見せつけにやってくるからよ。それにもっともっと強くなってお前に『もう敵わねぇ』と言わせてやるから。それまでのしばしの別れだ。また会おうな」
カムイは帰る方向へ移動しようとするとその言葉に返答するように後方から強い風が吹いていく。後方からグレンと同胞の墓に置かれた花の花びらが一斉に舞っていく。
赤、ピンク、黄、紫など色鮮やかな花びらがカムイの横を通り過ぎていく。その花びらにカムイは驚きつつも思いを噛みしめるように一度目を閉じた。
背後に気のせいか熱を感じる。その熱は体の中に染み込んで心をじんわりと温めていくようだ。勝手に全身をその熱が駆け巡っていく。
一言で言えば懐かしいと言うべきか。後ろにいつもの見知った顔が溢れていてにこやかに笑っているような、そして後押しをしてくれているようなそんな感じ。
そして、振り返るとそこには太陽の光で反射して少し白く見える二つの墓が存在していた。
そんな墓を見てカムイは笑顔で一言だけ告げる。
「そんなに励ましの風送っちゃ花びら散ってしまうぞ?......それじゃあ、行ってきます」
カムイはそう言うと振り返らずに仲間の後を追った。その後ろを二つの石はその姿が見えなくなるまで輝き続けていた。
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