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第7章 道化師は攻略する

第158話 VSリルリアーゼ#2

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 リルリアーゼは翡翠色の瞳を真紅に染めていく。そして、両腕からは中央がくぼんだ円形状のリングが浮き出てきて表面にセットさせた。

 すると、そのくぼみの部分に高エネルギーの収束させた光で輪を作っていく。それは高速で回転し始めてその回転による風で周囲の砂埃を巻き上げていった。

 リルリアーゼの変化で目立った場所はそこだけであった。逆に言えば、他の部分があまりにも変わりない。そのことがクラウン達に不気味さを感じさせていく。

「リルはどうやらあなた達の存在を見くびっていたようです。そのつもりは微塵もなかったのですが......きっとこれを予想外と言うんでしょうね」

「何が言いたい?」

「いえ、ただリルは人間の可能性について驚いていただけです。他意はありませんよ? きっと人間の自己進化というのはこういう窮地に立たされた時に起こるものだと感じましたね。なので――――――」

 リルリアーゼは淡々と言葉を連ねていく。その言葉にクラウン達は理解に苦しんだ。人に近すぎる機械故の制御の利かなくなった状態なのか、はたまた全く別の何かであるか。

 クラウン達はその言葉の間も感覚を鋭く尖らせていた。額には汗をかいていき、肩も僅かに揺らして口呼吸をする。

 そんな緊張感の包まれた空間がこの場を支配する。どちらが先に仕掛ければその時点で殺るか殺られるかを決めるまでの戦いが始まる。

 するとその時、リルリアーゼは突然しゃがみ始めた。そして、両腕を地面につけるとその状態からお尻を大きく上げていく。

 いわゆるクラウチングスタートだ。その恰好はまさしくこちらへと攻撃を仕掛けてくる合図に他ならない。

 そして、クラウン達が予想した通りリルリアーゼは告げた。

、行きます」

 その一言だけ発した直後、リルリアーゼは地面を蹴ってクラウン達に接近していった。さらに蹴った瞬間、爆発を起こしてそれの爆風を推進力にして高加速していく。

 そして、ある地点までやってくると大きく真上に向かって跳んでいく。上空からクラウン達の姿を捉えると両手でそれぞれ拳を作っていく。

「全員、思いっきり距離を取れ!」

 いち早く最悪の予感をしたクラウンは全員に咄嗟に告げていく。その言葉に全員がうなづくとすぐさま距離を取っていく。

 そのクラウンの声から数秒後――――――クラウン達がもといた場所に轟音を響かせる大爆発が起こった。そしてその場所には大きく抉れてできたクレーターが出来ていた。

 当然、それを造ったのはリルリアーゼだ。リルリアーゼは空中へ大きく跳んだ後、背中にロケットエンジンさながらの火炎を噴き出して重力とともに加速。

 それから両腕の光のリングを眩く発光させると一気に地面に叩きつけたのだ。それによって起きた大爆発は周囲の瓦礫ともども全てを巻き込んで消滅させた。

「砲撃に備えろ!」

 クラウンは刀を中段に構えると自身はリルリアーゼに向かって行くように走り出す。するとすぐに、前方の黒い煙から数十もの細い光線が飛び出してきた。

 それをクラウンは刀を構えて受け流しながら進んでいく。その時、当然前方の煙が払われた。そして、煙がなくなったことで見えるようになったクレーターの中心に両腕を広げたリルリアーゼの姿が。

 どうやら煙を払ったのはリルリアーゼらしい。だが、それはクラウン達にとっては好都合。なので、クラウンは<瞬脚>を使ってこのまま加速して接近する。

 だが、リルリアーゼは右手をクラウンに向けるとその指先から無数の銃弾を放っていく。もう一方の腕では他全員を牽制していく。

「リーダーを潰せば終わりです」

 クラウンは<天翔>で空中を蹴りながらそれの合間合間を<気配察知>で軌道を見ながら縫って進むように避けていく。

「終わるかよ!」

 クラウンはリルリアーゼは間合いまで入れると一気に剣を振り下ろした。だが、それはクラウンに射撃していた腕で受け止められる。

 しかし、ここで止まるクラウンではない。前蹴りでリルリアーゼの腹部を蹴飛ばすと同時に左手で右腕を掴む。

 するとその腕から一斉に銃口が飛び出し向けられるがすれ違うように腕を引いて避け、開いた脇腹へと斬り込んでいく。

「リルの腕をお忘れですか?」

「チッ!」

 クラウンは右腕を素早く振るって殺意の宿った刃で斬ったがそれはリルリアーゼの肩か湧き出た二本の腕で軌道をさらされた。

 すると、クラウンは深追いも出来たのだがここでやめて距離を取ることにした。そのクラウンにリルリアーゼはチャンスとばかりに攻撃を仕掛けようと三本の腕を向ける。

「!」

 その瞬間、その腕は。自信で意図的に動かしたわけじゃなく、腕が急に重くなって勝手に。

 その仕業はリリスの重力操作によるもので、それとほぼ同時に両端から二本の光の波動が迫ってくる。その波動はそれぞれロキとエキドナから向けられたものだった。

 その二つ砂埃を巻き上げながら地面を焦がす熱量で見事にリルリアーゼに直撃。そして、両腕を破壊することに成功した。

 さらに畳みかけるようにベル、カムイ、が斬撃を放ち、朱里が二つの雷弾を、雪姫が杖から収束させた高圧の水の砲撃を放っていく。

 それらに対し、リルリアーゼは感情のない真紅の瞳で見つめているだけ―――――かと思われた次の瞬間、失ったはずの両腕は千切れた個所から生えそろい、リリスの重力に負けないように支えを用意しながらそれぞれの腕で砲撃の構えを取ったのだ。

「腕が再生した!? そうかお前が自爆で生きているのはそういうことか」

「そうです。ですが、分かってどうしますか?」

 そして攻撃を仕掛けている五人に向けて砲撃、さらに両肩から伸びた小砲がロキとエキドナを攻撃して、またクラウンに対してはリルリアーゼの頭だけが回転し、口から砲撃を放っていく。

 クラウン達はそれらを避けていく、単発の砲撃だけなら何ともない。それにそれは逆にこちからすればチャンスである。

 その砲撃を避けた時にリルリアーゼの隙は絶好のチャンスだ。その隙をクラウンとカムイが接近していく。

「おらああああ!」

 クラウンは蹴り出して向かった勢いをそのままにリルリアーゼの胴体へと殺意の刃を突き刺していく。だが、それをリルリアーゼが半身で避けていくと反対側からカムイが迫ってきた。

「氷山!」

 カムイは左手の「氷絶」を振るうとその刀の軌道に合わせて地面から氷の山が出現した。その山はリルリアーゼの右腕を捕えて氷漬けにしていく。

 すると、リルリアーゼがカムイに向かってカムイに向けて左腕を向けた。だが直後に、その腕はクラウンによって下から上へと振り上げられて斬り飛ばされる。同時にカムイが右手の「炎滅」で炎を纏わせた刃で右腕を切り落としていく。

「まだ終わりませんよ」

 リルリアーゼがバックステップすると背後から無数の手が飛び出してきた。その手一つ一つが殺意を持ってクラウン達に襲いかかる―――――

「!」

 ―――――前にその腕全てが停止した。そのことにリルリアーゼは僅かばかりに目を見開く。すると、周囲から次々に声が聞こえた。

「止めたわよ!」

「わかった―――――反射板!」

「了解――――――風弾連射モード!」

 リリスが声をかけると雪姫がそれらの腕を囲うように特殊な結界を作り出す。その結界が完全に囲われる前に朱里が魔法銃を連射して射出速度の速い風弾をしこたまぶち込んでいく。

 そして、その風弾は囲われた結界内で跳弾を繰り返しながら全ての腕を切り落としていく。

「無駄なことです」

「無駄化どうかは俺達が決めることだ―――――ロキ!」

「ウォン!」

 クラウンが一呼びすると朱里と雪姫を降ろした状態のロキがリルリアーゼの背後へと立っていた。全身の毛を逆立たせ、鋭い目つきで喉を唸らせながら、地面を抉る勢いで走り出した。

 そして、リルリアーゼに接近するまでにトップスピードまで加速するとそのままタックル。リルリアーゼは体を大きく逸らしながらクラウンとカムイの間を通り抜けていく。

「次は私の番かしら? 今度はしっかりと当てるわよ」

 リルリアーゼが飛んでいく方向には竜化(闘)の状態のエキドナが拳を大きく振りかぶって待ち構えていた。

 それに対し、リルリアーゼは両腕を復活させて防ごうと動き出すがそれよりも早くに自身の体が加速してエキドナに向かっていった。

 その原因がすぐに分かったリルリアーゼはとある方向を見る。すると、その方向の先にはリリスがいてあっかんべーといった表情をしている。

 リルリアーゼが目線をエキドナに戻した次の瞬間、鈍い重音とともにリルリアーゼはエキドナの拳に張り付くようにして進行方向とは真反対の方へと殴り飛ばされた。

 だが、このままリルリアーゼがやらっれぱなしではなかった。急速に両腕を再生させると無理やり体を半分捻らせて背後へと構えているカムイへ大砲となった左腕を向ける。

 そして、高速充填させた光を放射状に放っていく。その光線は地面を抉りながらカムイを襲い、その遥かかなたまで光線は通り過ぎていった。

 その直後、通り過ぎて出来た抉れた地面からなぞっていくように連鎖爆発が起こっていく。

 だがすぐに、その声は聞こえた。

「確かに破壊力抜群だな。まともに受ければひとたまりもねぇ。全くあめぇな俺も。いや、ここはグレンが助けてくれてるってことか」

「!」

 リルリアーゼが迫っている方向には爆発による黒い煙が立ち込めている。その中から直撃したはずの男の声がしたと同時に煙からいくつもの細い光の筋が放射状に襲ってきた。

 リルリアーゼは体をさらに反転させて両腕で弾丸を放ってその光線を爆破させていく。そして、吹き飛ばされた勢いのまま煙を抜けると鏡のような氷を五つ揃えたカムイの姿があった。

「それじゃあ、行くぜ――――――炎天華」

 カムイはリルリアーゼに接近すると右手の「炎滅」を下から上へt振り上げていく。すると、その炎から大きな火柱が立ち、華のような形を作り出しながら多大なる熱量の炎で上空へと押し上げていく。

「ああ、終わらせる」

 上空に立つクラウンは向かってくるリルリアーゼを下に見ながらカムイの言葉に返事する。そして、前のめりに倒れ込んでいくと真下に向かって空中を蹴った。

 左手を標的に定め、右手を大きく引いていく。風で髪の毛が逆立ち、自身の体で風を斬っていくような音が聞こえてくる。

 だんだんと近づいて来るリルリアーゼ。近づくたびに目つきをさらに鋭くさせていく。視界はすぐさま白黒の世界へと塗り替えられる。

 その時、向かって来るリルリアーゼは告げた。

「リルが起動した破壊プログラムはただのですよ。目の色は演出です。全てはこの状況を作り出すため。リルの真の目的はです」

「何わけのわからねぇ――――――」

 ――――――ドクン

 心臓が跳ねるような音がした。

 ――――――ドクンドクン

 さらに数を重ねてくる。すると、クラウンの体から黒い靄のようなものが湧き出てきた。それがいつしかラズリ戦で見た時のそれだ。

 その靄はクラウンの右腕に絡みつくと凶悪な黒い籠手となった。同時にその腕が僅かに振動を始める。

 自分はリルリアーゼに刃を向けようとしているのにその腕はリルリアーゼへの攻撃を逸らそうとしている。

『凶気度が 5 上がりました。現在の凶気度レベル 90 』

「あああああああ!」

 だが、クラウンは制御が効かなくなる前に一気に腕を突き出した。

「あら、残念」

 リルリアーゼのその言葉を最後に胸へと刀が刺さり、クラウンの加速と自重でリルリアーゼは地面へと真っ逆さまに落ちていく。

 そして、大きく空いたクレーターにさらに小さなクレーターを造るようにしてクラウンはリルリアーゼを地面へと叩きつけた。その瞬間、地面を揺らすほどの衝撃が周囲を駆け巡った。
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