上 下
149 / 303
第7章 道化師は攻略する

第155話 破壊のリルリアーゼ

しおりを挟む
 クラウン達がその道を抜けるとそこは広い空間であった。体育館よりも一回り小さいというぐらいであったが、クラウン達の人数を合わせても十分に動ける大きさだ。ただ、エキドナが竜化すれば少し窮屈になるだろうが。

 入ってすぐ見えて来たのは大きな台座にいる―――――一人の少女らしきもの。その少女は美しい緑色のロングの髪に胸も出るところは出ているが全体的にはスラッとした印象を与えるような体躯をしている。

 またその女性は頭にボクシングのヘッドギアにも似た機械装置をつけていて、両手にも腕の細さにに使わないほど巨大な手の装置を肘辺りまでつけている。

 それから、そのヘッドギアも手の装置もそれぞれの後ろにコードのようなものが伸びていて、それが台座へと繋がっている。

 他にもまるでライダースーツのようなデザインの服で腹の中心には円形状の枠がデザインされていた。また服のその背中辺りからもコードが伸びているといった感じで特徴をあげるとキリがない。

 その少女は動かない。クラウン達がこの部屋に来たというにもかかわらず、他の守護者とは違う行動を見せている。

 そのことがクラウンには不気味に感じた。むしろ、いつもの調子で部屋に入った時には臨戦態勢の方がやりやすいというものだ。

「動かないわね」

「壊れているです?」

「いや、一定の条件を満たすと動くって感じじゃねぇか? 一先ずあれがヤバイと言うのは確かだ」

「エキドナ、何か知っているのか?」

 リリス、ベル、カムイがその少女を見て感想を各々口にする。すると、クラウンはふと無言のまま黙っているエキドナに気付いた。

 エキドナの顔は「どうしてこんなものがここに......」とでも言いたそうな唖然とした表情をしている。情報屋のエキドナのことだ。何かを知っているのかもしれない。

 すると、クラウンの言葉を聞いたエキドナがその少女を見続けたまま言葉を告げていく。

「あれは恐らく『破壊のリルリアーゼ』......神代兵器の一つよ」

「神代兵器って嘘でしょ!? あれは超古代文明で存在しているかも怪しいって―――――」

「だが、確か前にお前は言ったはずだ。リゼリアからの言葉で『神代兵器も集めろ』ってな。リゼリアの言葉からすればあってもおかしくはずない。俺達はお前の母の正体を知っているんだからな」

「......」

 クラウンの言葉にリリスは思わず押し黙る。それはクラウンの言っていることが正しかったからだ。襲撃の後リリスはクラウンにリゼリアからの指令を言った。その時に確かに「神代兵器も集めろ」とを伝えたはずだ。

 ということは、今この神殿を守護しているのは神代兵器ということになる。

 神代兵器は神の使徒と同等さを誇るぐらいのイカれた代物だ。伊達に「神代」とつかないぐらいに。ただ、それがどれくらいのものかは実際には知らない。リリスもエキドナも知っているのは文献程度であるからだ。

 一方で、クラウンはその少女を見て思わず顎に手を当てて考える。今更だが、超古代文明の別称にも神代「兵器」とついていることに気付いた。

 確か、あの時言ったリリスの言葉から神代兵器はこの世界で三つあったはずだ。それらの兵器全てを同一人物が作ったとは思わないが可能性はなくはない。

 もっと言えばこの神殿を作った人物とも同一人物かもしれないと考えられる。だが、それを証明できる根拠は何もなくただの憶測にすぎない。

 ただ、胸の中に宿る確信的なものはずっと燻ぶり続けている。やはり情報が足りないということなのだろうか。

 ともかく、たとえ相手が神に準ずるものだろうと関係ない。

 ――――斬って殺すのみ。

 クラウンは動いてない今がチャンスとばかりに意識を深く落としていく。再び世界が白と黒だけの世界に切り替わり、踏み込んで宙に舞った砂埃さえもゆっくりと流れていく。

 クラウンは腰を少し落とすと左手で鞘を持ったまま親指で鍔を押し上げる。そして、右手で柄を持つとさらに深く息を吸って吐く。

 視界の端々を切り捨てて目の前にいるリルリアーゼへと意識を深く深く集中させていく。それから、ゆっくりと前のめりに倒れていくように体重をかけ――――――地面を蹴り込んだ。

 周囲が高速で流れていく。それだけ自分が速い速度で走っているということなのだろうか。足をつけて舞い上がろうとする砂埃さえも置き去りにして、クラウンはただ真っ直ぐ進んでいく。

 そして、リルリアーゼを間合いに入れると一気に抜刀。

「一刀流居合、狼の型―――――そうてん――――――」

 クラウンはリルリアーゼの首元目掛けて刀を振り抜こうとした。だが、その前に気付いてしまった。リルリアーゼの口元が僅かに微笑していることに。

 そして、閉ざされていた翡翠色の両目がゆっくりと開き――――――確かに目が合った。

 その瞬間、リルリアーゼの右手からビームサーベルのような高熱振動刃が飛び出していき、それを横なぎに振るっていく。

 その振った速さは未だクラウンの世界がスローであるにもかかわらず、クラウンが腕を振る速度と変わらなかった。

 つまりはリルリアーゼの攻撃速度はクラウンの<超集中>でようやく同等ぐらいであるということ。それはラズリの攻撃速度と同じということだ。

 リルリアーゼの右腕から伸びた高熱振動刃は横に長く伸びていくと端の壁を抉りながら進んでいく。しかも、どこまでも長く続いているのか動かしていても刃先が見えてくることはない。

 ということは、その刃はこのまま自分が避けてしまえば仲間達は斬られたことも理解できずに死んでいくということ。

 だが、その攻撃をクラウン自体もまともに受けるわけにはいかない。

 未だ白黒の世界の中、クラウンへと迫りくる凶悪な刃は障害物全てを切り裂いていく。その刃に対して、クラウンは踏み込んでいた足の膝を思いっきり曲げた。

 そしてその流れでもう片方の脚の膝も曲げていき、地面と平行辺りになるまで体勢を変形させていく。

 また振り抜こうとしていた右腕を左手から飛ばした糸で強制的に止め、逆に引き戻していく。

 クラウンの眼前にその刃がスレスレで通っていこうとする。その時、クラウンは刀を思いっきりその体勢のまま横に振った。

 それによって、高熱振動刃を出していた右腕は上へと弾かれていき、壁を横真っ直ぐに斬っていた刃は斜め上へと進行方向を変えていく。

 その動きは迫りつつあった仲間を避けていくように動いていき、やがて天井を中心近くまで抉って止まった。その隙にクラウンはバク転で体勢を立て直しながら距離を取っていく。

 その二人の攻防は時間にして一秒と少し程度。その間に何があったかを理解できる人物は誰もいなかった。

 いわば気づいたらクラウンが目の前に戻っていて、リルリアーゼは動き出しているという状況だ。

「ねぇ、クラウンは何をしたの? というか、いつの間にあれは動いているの?」

「はあはあはあ......俺が動いている最中にだ。あれは俺の行動についてきやがった」

 クラウンは荒く呼吸しながら額にかいた汗を顎から滴り落とす。だが、臨戦態勢だけは解除せず、右手に持った刀を上段に構えて左手で標的を定めるようにかかげている。

 クラウンが使う<超集中>は酷く消耗するのだ。それは全神経を敏感にさせて周りのありとあらゆる情報を瞬時に取捨選択して理解していくから。

 だから、クラウンの見る世界は必要ない色彩は排除して白と黒だけが残り、僅かな動きも逃さないようにゆっくりと動いて見える。

 故に、体力の消耗は激しい。この<超集中>は冷静で心を落ち着けた時にしか出来ないので小出し小出しで使うのはそれなりにきついのだが、それ以上に長時間使う方がきついのである。

 現状、クラウンが最大で使える時間は五秒ほど。ただそこまで使えば一時的に電池が切れかけたロボットみたいに鈍った動きしか出来なくなるが。

「現状、確認。視界、良好。感度、上々。周囲確認、敵は複数。マスターの命によりこの神殿に入りし敵の排除を実行します」

 リルリアーゼはロボットのような機械的な確認動作をしていく。しかし、その声は良く知っているような機械音のような声でなく、もっと人に近いような声だった。

 すると、リルリアーゼはは人のように一つ息を吐いて上げた肩をストンと落としていく。そして、髪色に似た翡翠色の瞳でクラウン達を見て告げた。

「これからあなた達を排除します。これはであるからです。異論は認めません」

「なんだこいつは? 急に流暢になりやがったぞ?」

「なんだか人みたいだね......」

「朱里ちゃんと全く同じ気持ちだよ.......」

「それはマスターが私をそういう風に作り上げたからです」

「「!」」

 リルリアーゼの様子を見て思わず呟いた朱里と雪姫の言葉にリルリアーゼは割り込むように言葉を告げた。その声はやはり柔らかな年齢も近そうな女性の声でそれがなんだか不気味でもあったが。

 そんな様子にリルリアーゼは人のように少ししょんぼりとさせた顔をする。まるで朱里と雪姫の少し怯えたような態度に悲しく感じたかのように。

 すると、そんなリルリアーゼにクラウンが尋ねた。

「お前はマスターに作られたと言っていたがそいつは誰だ?」

「それはお答えできません。それに予測できる質問にも答えておきますと私を作り出したマスターと今私に命令に下しているマスターは同一人物ではございません」

「そうか......なら、ここにある宝珠はどこだ?」

「一番安全な場所に隠してあります。それがどこであるかはわかりますよね?」

 リルリアーゼはまるで人のようにイタズラっぽい笑みを浮かべて逆に聞き返した。その質問の答えをクラウンは理解した。つまりはあの円形状の枠は蓋のようになっていて内部に隠してあるという感じだろう。

 だが、それを聞いたとして奪って逃げるということは難しそうだ。

 すると、リルリアーゼは両手を大きく広げると目を閉じた。そして、告げる。

「それでは皆さん、―――――自爆プログラム起動」

「「「「「!!!」」」」」

 その言葉に全員が思わず耳を疑った。こんな地下空間でそれもどこまで下に来たかもわからない神殿内部で自爆? 正気の沙汰じゃない。

 だが、相手はそもそも人ではない。ならば、理解しても無駄なのかもしれない。

 リルリアーゼがそう言った瞬間、リルリアーゼは神々しい光に満たされた。そして、誰にでも「明らかに高エネルギーを蓄えているだろう」とわかる高熱波を放ち始めた。

 そして、次第にリルリアーゼはその姿が霞んでいくほど眩い光に包まれていく。

「走れ!」

 クラウンは刀を元に戻すと全力で走り始める。その後を仲間達も続いて走り始める。

「残り三十秒、さてどこまで逃げ切れるでしょうか」

 リルリアーゼは笑いながらそう言った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...