上 下
152 / 303
第7章 道化師は攻略する

第152話 兵器の屋敷 ウェポノイド#1

しおりを挟む
「カムイ兄さん、これが兄さんが持っていた名刀『氷絶』。なんとか直せたよ。まあ、これもドワーフとの交易が回復したおかげなんだけどね」

「いや、たとえそうだったとしても、ここまで直すことは出来なかっただろう。それに、俺の手にもしっかり馴染む感じはカルマにしか再現出来ないだろうな」

「そう言ってくれるならそう思うことにするよ。僕も兄さんの刀がカムイ兄さんに渡せたことが嬉しく感じる」

 カムイはカルマから受け取った刀をまじまじと見つめる。その刀身はカムイの持つ「炎滅」の白き刀身とは違い、ややライトブルーの刀身をしていた。

 そしてさらに、その刀身からは若干の冷気を感じる。まるで氷の魔法が付与されているみたいに。

 カムイはその刀身を黒に近い青色の鞘に収めると一旦開けた場所へと移動していく。その後ろをカルマと興味本位のクラウン達が続いていった。

 それから、カムイがクラウン達から距離を取って左腰に携えている二つの刀を引き抜いた。右手には「炎滅」、左手には「氷絶」と持って。

 カムイはそれぞれの刀の性質を見比べるようにそれぞれ交互に振るっていく。

 右手で振るわれた「炎滅」からは空気を燃やし尽くすような熱量を有した炎が地面を燃やすように抉っていき、左手で振るわれた「氷絶」からは肌を刺すような冷気を放ちながら地面に氷の山を作り上げる。

 その氷に炎の斬撃を当てれば氷は溶けていき、逆に炎に氷を当てれば炎は消えていく。

「マジか、一度放った炎が消えないから『炎滅』って言うのに『氷絶』だとその炎が消えるぞ」

「まあ、本来その『炎滅』と『氷絶』は表裏一体だからね。『氷絶』も一度放った氷が溶けないからそういう名前なんだけど、実際にそうなったら使う人によればすぐに死の土地に変化してしまうからね。そうならないための保険って感じだよ。だから、その刀が代々受け継がれた時はそれぞれ違う人物に渡したそうだよ。それも良心的な人にね」

「なるほどな、確かにこれで暴れ回ったらこの世界はたちまち炎と氷の世界だ。良心的という意味もうなづける。だが、だったら俺に渡しても良かったのか?」

 カムイは炎をまとう白き刀と白い冷気を放つライトブルーの刀を持ちながら、後ろにいるカルマへと尋ねた。すると、カルマは問題なさそうな表情でカムイに答えていく。

「大丈夫、カムイ兄さんなら信じれるから。それに、それは兄さんの意思が宿っている気がするんだ。そして、その意志を受け継げるのはカムイ兄さんだけだと思うから。だから、どうか兄さんの無念を解放してください」

「そんなかしこまらなくてもいいぞ。そんなことは当たり前だからな」

 カムイは自信に溢れたような顔でニコッと笑顔を作る。その笑みにカルマも思わず笑ってしまう。

 その光景を見ていたリリスは思わず呟いた。

「いい感じに収まったわね。それと朱里は表情が緩みすぎよ」

「へ!? そ、そんなつもりはあれー?」

 朱里はリリスに指摘されたことに驚きつつも自身の頬に触れていく。すると、頬は随分と高くまで上がっていて口元はにこやか。これはこれはなんとも恥ずかしい。

 そんな二人をクラウンは横目に見ながら告げていく。

「これで準備は整った。時間をあまりかけている暇はない。神殿の攻略に向かうぞ」

 ***********************************************

「ここが神殿......なのか?」

「まあ、そうなるな。師匠もそう言ってたし」

 現実、クラウン達は神殿の目の前に来ていた。カムイの刀が出来上がるまでの一日の間に神殿へ行くことは伝えてあるので、各々準備は万全である。

 そして、いざ神殿に来てみるとこれまでとは一風変わっていてその見た目は神社そのものだった。

 これまでの神殿は全て石で作られたような感じであったので酷く違いがダイレクトに伝わってくる。

 この神殿を見る限りやはりこの神殿を作った人物は同じ世界の人物ということになる。それが誰であるか目星はあるもののまだ仲間には伝えてない。

 すると、この神殿を見た朱里と雪姫はそれぞれ言葉を呟いていく。

「な、なんというか......いや、一言で言えば和風だよね」

「うん、随分と親しみを感じるけど......仁達が攻略してきた神殿はこうじゃなかったんでしょ?」

「そうなるな。俺もこの神殿を見るのは初めてだ。予想するに俺たちよりもはるか前の同じ世界の誰かが作った感じだろう......それよりも、お前らも本当に来るつもりか?」

 クラウンは後ろを振り返るとその二人に聞いた。その声は少し高圧的で遠回しに「ついてくるな」と言っているような感じであった。

 それはクラウンがこの神殿は危険であると思っているのと同時にまだ何も解決していない二人を死なせないためでもある。

 単純に足でまといを減らすためでもあるし、それによって仲間の危険に陥るリスクを減らすためでもあるので、その言葉を聞いていたリリス達からすれば複雑な気持ちであることが伝わってきた。

 だが、ここで「ついてくるな」とハッキリ言わなくなったのは良い傾向なのだろうか。そもそもここまで連れてくる時点で考え方が少し甘くなっているような気がするが。

 クラウンの言葉を聞いた二人は一度顔を合わせるとアイコンタクトで互いの気持ちを伝え合う。そして何かを一致させたのか示し合わせたようにうなづくとクラウンに告げる。

「足でまといになるかもしれないけど、今の仁に出来ることは少ないかもしれないけど、私はまだ仁との約束を守りたい。だから、どうか私も行かせて」

「朱里も同じ気持ちだよ。それにいざとなったら海堂君からもらったこの銃と......あれでなんとか乗り切るから」

「はあ、なんとなくわかっていたが、やはりそう答えてくるか。仕方ない、俺はお前らをもう助けるつもりはないからな」

 クラウンはそう告げると神殿の入口へと向かっていく。その言葉になんともシンパシーを感じたリリス。

 その本人は頭を傾げて不思議に思っているが、他のベル、エキドナ、カムイはリリスを生暖かい目で見つめていた。

 入口を抜けるとそのまま今まで通りの神殿で――――ではなかった。てっきり外装だけの姿だと思えば、その内部も和風の作りであった。

 目の前に広がるのは木の床のような地面に両端にズラーッと並ぶふすまの扉の廊下。天井も木が組み合わさって縦に少し長い。

 本物の木が使われているのかほのかに周囲から木の匂いが漂ってくる。ちょっと古めお屋敷みたいな感じだ。

 すると、前方から人型の何かが歩いてくる。それは兜をかぶって全身に甲冑を身に着けている人であった。

 その人物の顔は白いひげを生やした赤いお面のようなものをつけていて見ることができない。だが、まるで武士さながらに両手で握った刀の先を真上へと向けながら上段に構えている。

 そして、わずかに上下に開いて出ていた右足を地面に思いっきり踏み込んだ。その瞬間、周囲にドシンッ! と大きく音を鳴らしながら地面を揺らした。

 また同時に――――その武士の姿は目の前から消えていた。

「全員、衝撃に備えろ!」

 クラウンは背後にいる全員にそう呼びかけると自身は一気に前へと前進。左手で鞘を持ち、親指で鍔を持ちあげると右手で一気に抜刀、シュッと短い音を立てながら横なぎに振るった。

 すると、クラウンが刀を振るうと同時に武士が現れ、その武士が振り下ろした刀とクラウンが横に振った刀が交じり合い甲高い金属音と火花、それからぶつかり合った時の衝撃が周囲へと駆け巡っていく。

 その衝撃はクラウンの背後にいたリリスたちも襲っていき、耐えかねた朱里と雪姫はロキによって吹き飛ばされるのを防いでもらった。

 一方、クラウンは鍔迫り合いをしている武士に対して苦虫を噛んでいた。それは甲冑の隙間や全身を覆うような衣服の隙間から見えるわずかな中身。

 やはりというべきか、カムイの言っていることが正しいというべきかその武士は機械じみた、つまりはロボットのような感じであった。

 そして、その武士は自身の重さを生かすように刀を押してくる。それに対し、クラウンは〈剛脚〉で思いっきり腹部に膝蹴りする。それから、一瞬できたわずかな隙間に膝蹴りした足をもう一度ねじ込んで蹴り飛ばした。

 その武士は空中でうまく体勢を立て直しながら、刀を地面に突き立て飛ばされる勢いを殺していく。そして、すぐさま反撃に出向くがその前にはすでにクラウンが眼前へと接近していて頭を斬り飛ばした。

 クラウンは斬った首の切断面へとすぐに視線を移す。するとそこには、たくさんの配線コードのようなものがあった。ロボットであることには変わりないらしい。

「エキドナ、この世界のゴーレムについて聞きたい。通常ゴーレムというのはどういうものなんだ?」

「そうね......多方は土人形かしら。ボテっとして上半身が大きく、下半身が小さい感じ。他に違うとなれば材質ぐらいじゃないかしら。だから、正直そのゴーレムは初めて見るわよ」

「そうか。まあ、もとより情報が少ないからそこは仕方ないかもしれないな」

 クラウンは刀をさやに収めると吹き飛ばした頭の方へと歩いていく。リリス達も首から下のゴーレムが気になったのか見に集まり始めた。

 そして、ゴーレムの頭にたどり着くとその頭についているお面へと手を伸ばし、引き剥がした。

 すると、その頭には人らしき顔が。もっと言えば、なぜかその頭の首の断面にはコードが繋がるような部分が見当たらなかった。

 簡単に言えばマネキンの頭にロボットの胴体をくっつけている感じだろうか。

 何故このようなデザインかは分からないが薄気味悪いことこの上ない。

 これも神の使徒の思惑なのか。はたまた全く別の意図で作られたのか。

 ともかく、それは考えながら先に進もうとクラウンが全員に声をかけようとしたその時、ロボット武士はけたたましい警告音を発し――――両側のふすまから一気に二丁のサブマシンガンが飛び出してきた。

 その銃機は生き物のように動いてクラウン達を射程に収めると一気に銃撃を開始した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...