神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~

夜月紅輝

文字の大きさ
上 下
155 / 303
第7章 道化師は攻略する

第149話 弱くてもいい

しおりを挟む
 カムイはひとしきり話し終えると一度大きく息を吐いた。思い出話であるからか思ったよりも話したいことを一気に話してしまった。

 それもさすがに引く相手もぐらい。一体どのくらい長く話していたのだろうか。少なからず、「なげぇな」と思ってもいいレベルの可能性が高い。

 そんなわけでカムイは申し訳なさそうに朱里の方を見てみる。しかし、朱里は目を閉じながらその話を優し装笑みを浮かべながら聞いていた。

 ただ自分が聞きたかったから聞いただけ。そんなことが伝わってくる表情。その表情はカムイがよく母親に話している時の母親の表情そのもののようにも感じた。

 だから、思わず言葉が漏れそうになる。しかし、すぐに口を閉じる。弱っているせいかすぐに今頼れる朱里に甘えそうになる。

 だが、そんなことはしてはいけない......いや、してはいけないじゃない。したくないんだ。

 朱里は自分に対して「苦しみを背負ってもいいですか?」と聞いてきた。その言葉は純粋に嬉しかったし、何もなければ甘えたくもなった。

 しかし、朱里はすでにクラウンとの過去を重く背負っている。それこそ自分の同情では足りないぐらいに。

 なので、背負わせたくない。これ以上、苦しめたくない。たとえ背負うことを朱里自身が許可したとしても。

「俺はこう考えるとまだまだ力不足なんだな......この国のために何一つ出来ていなければ、大事な妹さえ取り戻すことも出来ない。俺は弱い......」

 まただ。またずるい言い方をした。否定を誘っている。過去の思い出にふれてセンチメンタルな状態で誰かにこの気持ちをわかってもらおうとして、自分の言葉を否定してもらいたがっている。

 「もう十分にがんばってるよ」「たくさんの助けてもらった」と温かい言葉を聞くことを求めてしまっている。

 なんて弱い奴なのだろうか。どれだけ気丈に振舞っていようとしても、結局現実から目を逸らそうとしているようなものじゃないか。

 そう考えるとクラウンの方がよっぽど強い。ずっとずっと過去に向き合おうとしていた。

 もちろん、どこかで間違っていたこともあるだろう。だが、クラウンはそれを受け入れた上で前を向こうと真実をしろうと抗っている。

 なのに、自分はどうだろうか。抗うことに弱気になって誰かに助けを求めてばかりで自分から行動する意思をあまり見せていない。

 見せられないというものあるかもしれない。しかし、それでも出来ることはたくさんあったはずだ。考えられることはもっともっとあったはずだ。

「なるほど......」

 カムイは思わず呟いた。それはクラウンと話したことを思い出したからだ。

 自分がどうしてそこまでクラウンの後押しをするような言い方をしていたのか喉に刺さった小骨程度だがずっと気になっていたのだ。

 しかし、その答えはわからなかった。ただ、自分が世話を焼いて好きにやっているだけじゃないかと思った。

 だが、違った。一言で言えば憧れていたのだ。その立ち向かう姿勢に。

 クラウンはたとえ一人になったとしても自分の目的や自分の感情に向き合おうとしていた。そんな姿に自分は憧れていた。

 言わば理想の自分とでも言うべきだろうか。何があってもどんなことを感じても強く居続けようとする姿勢、そして抗い続ける気迫。

 きっと自分が本当に求めていたものをクラウンが持っていた。だから、そんなクラウンに後押しするような言葉を言い続けた。そうしなければ、クラウン理想の自分が壊れてしまうから。

 だが、それは今考えればただの逃げであったというだけであった。自分で考えることを放棄して、クラウンが、クラウン達が助けてくれるということにすがったということ。

 それが悪いわけじゃないということはわかっている。頼って頼られてそんなのが理想であることも。

 ただ、自分は自分でできることを考えなかった。出来ることならたくさんあったはず。たとえば、一度でもいいからこの島に戻ってくるということぐらい。

 自分は妹のルナが連れ去られてからずっと本土の方で探し続けた。そっちの方がいる可能性が高いという判断からであった。

 だが、考えてみればそれで得られた成果は何もない。言ってしまえばそのことに関する情報も。

 だったら、一度でも島の方へと戻るべきであった。そこには確実に情報があり、被害があった場所なのだから。

 しかし、戻ることはしなかった。それをしなかったのは単純で現実から目を背けたかったからだ。

 島に戻れば自分の思い出とは見る影もない場所が被害をそのままにして残っている。まるで思い出が全て夢であったかのように壊されてしまう。

 だから、行かなかった。言い方を変えれば逃げたのだ。自分は。

「弱い......どうして弱いんだ......」

 カムイは爪を立てるようにして両手で顔に触れる。この薄っぺらで楽観的で何もできない自分を引き剥がしてやりたい。

 先ほどまでの温かった気持ちが冷え込んでいくようにまた暗い思考が頭の中を支配していく。視界が狭くなる。空気が淀んでいく。

 カムイは地面に手を付ける。立てた爪をそのままにしてススで黒く汚れた地面を抉るようにして握っていく。

 涙がこぼれ落ちていく。黒い地面がその涙を吸ってさらに黒く色づいていく。無力、弱者、憶病、ニセモノと次々に自分に対する蔑称のような言葉が思い浮かんでくる。

「確かに弱いですね......」

「!」

 カムイは目の前から聞こえてきた言葉に思わず目を見開く。そして、その言った張本人へと顔を向けていく。

 するとそこには、なぜか慈愛に溢れたような朱里の姿があった。その顔は見ているだけで温かさが伝わってくるようでどこか不思議な感じがした。

 だからこそ、動揺した。この表情であの言葉を言ったのかと。言葉と表情が全く釣り合っていないと。

 しかし、それはカムイからの視点なだけであって、朱里からすればその言葉は正しいと思える言葉であった。

「弱くていいじゃないですか。どうして弱いのがダメなんですか?」

「それは何も護れなかったからで......」

「確かにカムイさんは護れなかったことがあるでしょう。でも、護れたこともある。そうは思いませんか?」

「......」

「少なくとも私はカムイさんに心を護ってもらい、救ってもらいました。だから、決して『無力』じゃないんです。そして、カムイさんは私が魔物に襲われてピンチの時に助けてもらいました。だから、決して『弱者』じゃないです。さらに、カムイさんは妹さんを助けるためにすぐに行動しました。だから、決して『憶病』じゃないんです。最後に、カムイさんはカムイさんです。どんなに自分を否定しようとも私は今もありのままのカムイさんだと思います。だから、決して『ニセモノ』じゃないんです」

 カムイは思わず唖然とした表情になった。その言葉一つ一つは自分が自分に対して言った言葉だ。しかし、その全てが一つ一つ朱里の言葉によって消滅させられていった。

 その度に視界が明るくなっていく。景色がやたらと色鮮やかに鮮明な光景として目に映っていく。

 変わり果てた焦土の真ん中ではあるが、なぜか今この場だけは全く違うようなものに見えていた。極端に例えるならば花畑のような。

 顔が勝手に流れてくる涙で溢れ、そして体とともに勝手に熱くなっていく。胸に宿る異常なほどの熱量は一体なんだろうか。

「弱いことがいけないんじゃないんですよ。弱くてもいい。そこからどうするのか。私はカムイさんからそういう風に言葉を受け取りましたよ」

「......どうしてそんなに俺のことを?」

 カムイはわからなかった。自分はただ朱里が弱気になっていたから助けただけのこと。なのに、朱里はまるでそのお返しとばかりに寄り添ってくれている。

 もしかして、自分に対して恩を返そうとしているのだろうか。いや、もしかしてなんかじゃなく、きっとそうなのだろう。朱里は優しい子であるから。

 すると、朱里はやや顔を赤らめながらも元気いっぱいにハッキリと口にした。

「そんなの決まってるじゃないですか。好きだからですよ」

「!」

「そ、そんなに驚いた表情をしないでください! きっかけはただの一目ぼれですよ。まあ、弱っていた時に助けてもらったから余計に深く刺さったというのもありますが......ごほん、とにかく朱里がカムイさんを助けるのはカムイさんが朱里を助けることを当たり前にしているように、朱里にとっても当たり前なんです」

「......」

「なのに、弱くてもいいというのか?」

「私がカムイさんを励ましたところでカムイさんは自分を責めるでしょう。朱里とカムイさんは本質が似ているような感じがしますからなんとなくわかるんです。だから、きっとこっちの方が良いと思っただけです。それに『強くあろう』と思うのもいいですが、『強くなろう』という言葉も前向きで良いと思いませんか? だから、今は弱くてもいいんです。強くなっていけばいいんです」

「......そうだな」

 カムイは胸の中に渦巻いていた重たい気持ちが抜けていくのを感じると思わず笑みがこぼれていく。そして、涙をそのままに笑顔で返す。

 すると、朱里はカムイに向かってある言葉を告げた。

「時にカムイさん、たくましくて勇敢な種族をご存知ですか?」

 そう言って朱里はカムイに手のひらを手に取るとその手にある一文字の感じを書いていく。それはいつかエルフの森にいた時に朱里がカムイから教えてもらった言葉であった。

 その字を見た瞬間、カムイは目を閉じる。そして、涙を拭うとその書かれた字を飲み込むように口に手を押し当てた。

 それから、ゆっくりと立ち上がる。それに合わせて朱里も立ち上がっていく。

「ああ、知ってるぜ。『鬼』だろ?」

「はい、大正解です!」

 カムイのいい顔に朱里は満面の笑みで返していく。

 風が吹いて二人の髪や服を僅かに揺らしていく。その風は二人を囲うようにして舞っていき、墓に置かれてあった花束の花びらをいくつか乗せて二人の周りを飛んでいく。

 そして、その花びらはそのまま回り続けながら天へと見えなくなるまで飛んでいく。それはさながらグレンが安心して天へと昇っていくようにとカムイは見えた。

「時間かけて悪かったな。そろそろ戻るか」

「そうですね。そうしましょう」

 そして、二人は歩き出す。その後ろ姿を太陽で照らされた墓石が見守っていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...