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第7章 道化師は攻略する
第148話 聞いてくれないか?
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「悪いな、カッコ悪いところ見せて」
「気にしなくていいですよ。私はそっちの方が近寄りらしくていいですから。あんまり遠いように感じなくて」
「ん?どういう意味だ?」
「いいえ、それこそお気になさらず。こっちの話なんで」
カムイは朱里の言葉が気になって思わず聞いてみると朱里はなにやら顔を赤くして逸らす始末。さすがに変なことを言ってないよなと思いたい。
だが、時折考えずに思いつくままに話していることがあるので案外信用が無かったりする。
朱里は一度咳払いしてこの気まずい雰囲気を誤魔化していく。勢いでやってしまったがどうやらカムイに深くは突っ込まれずに安心しているようだ。
あんな突然の行動、穴があったら入って発狂しているところだ。もう少し付け加えるなら、ゴロゴロと恥ずかしさでのたうち回っている感じであろうか。
「にしも、案外こう近くに支えがあるっていうのは安心するもんだな。いつも、支えになろうとしようとしていた立場の人間だったからさ。こんな気持ちになるなって思ったよりも新鮮かもしれん。初めてだ」
「初めてですか......」
朱里はその言葉に再び顔を赤くする。先ほど流したはずの熱が再び感じきた。
「邪に言葉を捉えるな!」と自分を一喝するためのビンタでもしてやりたいところだが、目の前にカムイがいるので自制。なんとももどかしい時間である。
けど、カムイがそう言ってくれるのは素直に嬉しいものだ。少しでもカムイの役に立てたなら今の朱里としては十分な話だ。
「カムイさんは思っているよりも頑張り過ぎなんですよ。そして、朱里が言えたことじゃないですけど、背負い込み過ぎなんです......朱里、カムイさんの過去をエキドナさんから聞きました。とはいえ、海堂君と旅をするようなキッカケって感じなんですけど」
「そっか......まあ、別に知られても俺は怒りはしねぇよ。俺と朱里は仲間だ。仲間には出来る限り隠し事はしたくないからな。それで、聞いてみてどう思う?」
カムイは少しだけその質問をずるいと感じだ。その流れからの聞き方はまるで同情を誘っているからのようだったからだ。
自分は別に同情して欲しいわけではない。まあ、相手の言葉からそういう言葉を聞いたのだとしたら、素直に嬉しいところだがそれでも自分はどこか違う言葉を求めているような気がするのだ。
そう例えば――――――――
「カムイさん、私もその苦しみを背負わせてもらってもいいですか?」
「!」
カムイはその言葉に思わず目を見開く。それはさすがに思ってもいなかった言葉であったからだ。
カムイ自身は朱里から言われる言葉をなんとなく予想していた。例えば「違う場所にいたんですから、仕方ないですよ」とか「カムイさんの寂しい気持ちがわかります」とか。
だが、その言葉はさすがに予想外だ。同情どころかそれすらも通り越して自分の苦しみを背負うと言われればそれはもう――――――笑うしかないだろう。
「ははははは!」
「ちょ、朱里は真面目ですよ! どうして笑うんですか!」
「いやー、すまんすまん。俺が思っていた以上のとんでもない回答を聞いたからさ。びっくりを通り越して思わず笑えてきてしまってな。それで、どうしてそう思うんだ?」
「なんというか......きっとそんな単純な話じゃないんですけど、一人で背負った辛いことも二人で背負ったら少しは楽になるかなと思ったぐらいで......」
「確かに単純なはないじゃないな。でも、俺はその考えは結構好きだ」
カムイはこの国に来て初めてしっかりと心から笑っているような笑顔を見せた。その明るさは朱里を容赦なく魅了していく。思わず眺めてしまっているのはわかっているのだが、自身でも止められない。
顔が、体が急速に熱を帯びていく。「外ってこれほどまでに暑かったっけ?」と。もちろん、自分の感じていることを誤魔化したいだけである。
曇りがかっていた空は次第に晴れていき、墓に刺し込んでいた光は二人を照らしながら、周囲へとどこまでも広がっていく。
周りの景色は決して美しいとは言えない焦土であるが、それでもどこかに希望を見せてくれているような雰囲気が支配していた。
すると、カムイは後ろへと半分体を振り返らせるとその墓の手を触れていく。それかれ、朱里に告げた。
「少しだけ、俺の思い出を聞いてくれないか?」
「思い出ですか? 是非!」
「そんなにがっつくことか? まあ、いいか。なら、あの時からだな――――――」
カムイはそう言って過去を語り始めた。
**********************************************
カムイの過去はスラム街にいた幼少期までさかのぼる。その時、カムイは10歳、妹のルナは7歳であった。
カムイとルナには両親がおらずカムイが物心つく頃には父親はどこかに消えて、ルナが物心を覚えた時には母親は病に倒れた。
なので、生きるためには基本的に自給自足。しかし、幼過ぎるカムイ達には仕事につくことや農業を手伝ってお金を稼ぐということが出来なかった。
そのため、カムイは明日食う飯を探して様々なことをした。そのほとんどが盗みで、時折ガラクタを繋ぎ合わせ武器にして金を持っていそうな人を気絶させたりもした。
そして、それらを奪ってきた食べ物やお金で闇ルートから仕入れたちょっとした高価な食べ物を自分の分を減らして、妹が腹いっぱいのなるぐらい食べさせていた。
そんなに日々が三年もの間続いたある日、運命の出会いがあった。
カムイはいつも通りに盗みを働いていた。そして、その盗みは三年もあれば上達するもの。それに信用できる仲間を作って、そこでリーダーをしながらがっぽがっぽと食べ物を盗んでいった。
そんなカムイ達の悪名はかなりのところまで広がっていてその子供達を捕まえるために、その街の警察のような組織が動いたのだが、スラム街という地の利とカムイの天性の剣術で何度も逃げ延びた。
だが、その日は違った。仲間の一人がヘマをして触れてはいけないスラム街のボス組織に触れてしまったのだ。
その力も規模も統率力もカムイ達子供で作ったなんちゃって組織とはわけが違う。なので、仲間が次々と掴まり、そしてカムイを捕まえるためにルナも連れ去られた。
当然、妹愛の強すぎるカムイはそのことに激昂。無茶とわかっていながらも一人で組織へとケンカを売りに行った。
だが、助けに行こうとしているカムイの剣術がいくら上手くてもそれは所詮にわか剣術。基礎の「き」の字もなければ完全なるオリジナル流儀。
そしてスラム街をしめる組織ななだけに当然用心棒的存在はいるものだ。カムイはその存在と戦い、手も足も出ず敗北した。
だが、カムイは仲間思いでもある男だ。だから、その組織のリーダーに強気で言い放った。
「俺はどうなってもいい! だが、仲間と妹は解放しろ!」
すると、その言葉を聞いたリーダーの男は取引を持ち掛けてきた。つまりは自分の部下になれ、そうすれば助けてやろうというやつだ。
だが、ここはスラム街。そして、カムイは知っていた。その言葉が都合のいい言葉でしかなく、たとえ自分が下ったとしても知らぬ間に仲間とルナは奴隷として売られているだろうと。
しかし、カムイには選択肢がなかった。だから、その言葉に従おうとしたその時――――――組織者しか知らない場所へと一人の老人がやって来た。
その人物はやがてカムイに天元鬼人流を教える師匠となる人物であった。
そして、その老人は警戒の足取りでカムイの下へと近づいていく。だが当然、そんなわけの分からない老人を放っておくほど優しい人間はここにはいない。
なので、老人一人に対して大勢の屈強な男達が襲いかかる。だが、老人が支えにしていた杖を掲げられると誰一人としてその場から金縛りにあったかのように動かなくなり、動き出したと思えば声もなく地面に倒れていく。
そのことに他の男達は動揺。しかし、リーダーに命令されれば従うままに突っ込んでいくが結果は同じ。
その場において老人がしたことをわかる者はいなかった―――――たった一人を除いて。
カムイはその剣術に魅了された。速すぎて仕込み杖であろう刀身は見えない。だが、それを振るったであろう銀線の僅かな残像は見える。
そしてそのことに気付いた老人はカムイに近づいて来ると「弟子になるか?」と聞いてきた。なので、カムイは即答した。もちろん、その目的は仲間とルナのためである。
それから、カムイはスラム街ということなので、カムイと同じく救出されたルナや仲間達とともに住み込みで働きながら学ぶ門下生になった。
そして、その道場の同じ門下生となる人物がいた。それが後に大親友となるグレンであった。
カムイはスラム街のやんちゃさからその道場で一番強いグレンに戦いを挑んだ。だが、周りにいる誰もがカムイの同情の目を向ける。それはすでにグレンの強さを知っているからだ。
そして、グレンの方もカムイに嫌そうな顔をしていた。それは単純にスラム街出身というのが嫌い......ではなく、師匠に見込まれてここに入門したことについて。
なので、グレンはカムイをボコボコにして身の程を知らせようと思ってその戦いを了承した。
師匠が審判を務めるという公式試の異例の試合にグレンとカムイは興奮した。なぜなら、これで勝った方が師匠公認の一番強い人となるからだ。
そして、二人の戦いは始まり―――――――一時間経っても決着がつかなかった。その際、どちらも息を荒くして地面に膝をつけるが、互いに傷一つついていない。
そのことに両者とも驚いたが、相手の力量を称賛し合うように木刀を胴巻きへと収めていく。そして、互いに握手を交わすと互いをライバルだと認定した。
それから、二人は剣を交え続けた。師匠の教えが終われば一日何時間と夜が更けて深夜へと突入しようとも。
互いに手加減なしの本気の勝負。カムイが僅かな差で勝つこともあれば、次の日はグレンが勝つときもある。そして引き分けなんかは一か月続いたことだってあった。
戦い続けていつの間にか朝を迎えていてルナに二人して怒られていたことはいい思い出であったりする。
だが、二人は止まらなかった。一日、一週間、一か月、一年、季節が春、夏、秋、冬、とどれだけ巡って行こうと二人の身長が変わって行こうともはや日課となっていたその戦いは止まることはなかった。
だが、そんな二人もあの時だけは一時的に休戦を結んだ。
それは海上を荒らしまくっているクラーケンが現れた時だ。そのクラーケンは漁に出る船を次々に襲い、海の近くの多くの家々に水害をもたらした。
そのクラーケンに対して、戦いに討って出たのが師匠とカムイ、グレンを含む門下生。それから、多くの武士とともにクラーケンに死闘を繰り広げた。それが後に英雄と呼ばれるカムイの出来事であった。
だが、その戦いは多くの爪痕を残した。多大なダメージを負った師匠が亡くなったことである。
その時にカムイは師匠から「世界を見てこい」と言われた。だが、カムイはルナのこともあったし、単純にまだ実力不足であるとも思っていたせいかかなり渋っていた。
その後押しをしたのがルナとグレンであった。その二人は「何も心配いらない」といってカムイは大海原へと送り出した。
それがカムイの初めての旅であり、同時に後悔の旅であった。
「気にしなくていいですよ。私はそっちの方が近寄りらしくていいですから。あんまり遠いように感じなくて」
「ん?どういう意味だ?」
「いいえ、それこそお気になさらず。こっちの話なんで」
カムイは朱里の言葉が気になって思わず聞いてみると朱里はなにやら顔を赤くして逸らす始末。さすがに変なことを言ってないよなと思いたい。
だが、時折考えずに思いつくままに話していることがあるので案外信用が無かったりする。
朱里は一度咳払いしてこの気まずい雰囲気を誤魔化していく。勢いでやってしまったがどうやらカムイに深くは突っ込まれずに安心しているようだ。
あんな突然の行動、穴があったら入って発狂しているところだ。もう少し付け加えるなら、ゴロゴロと恥ずかしさでのたうち回っている感じであろうか。
「にしも、案外こう近くに支えがあるっていうのは安心するもんだな。いつも、支えになろうとしようとしていた立場の人間だったからさ。こんな気持ちになるなって思ったよりも新鮮かもしれん。初めてだ」
「初めてですか......」
朱里はその言葉に再び顔を赤くする。先ほど流したはずの熱が再び感じきた。
「邪に言葉を捉えるな!」と自分を一喝するためのビンタでもしてやりたいところだが、目の前にカムイがいるので自制。なんとももどかしい時間である。
けど、カムイがそう言ってくれるのは素直に嬉しいものだ。少しでもカムイの役に立てたなら今の朱里としては十分な話だ。
「カムイさんは思っているよりも頑張り過ぎなんですよ。そして、朱里が言えたことじゃないですけど、背負い込み過ぎなんです......朱里、カムイさんの過去をエキドナさんから聞きました。とはいえ、海堂君と旅をするようなキッカケって感じなんですけど」
「そっか......まあ、別に知られても俺は怒りはしねぇよ。俺と朱里は仲間だ。仲間には出来る限り隠し事はしたくないからな。それで、聞いてみてどう思う?」
カムイは少しだけその質問をずるいと感じだ。その流れからの聞き方はまるで同情を誘っているからのようだったからだ。
自分は別に同情して欲しいわけではない。まあ、相手の言葉からそういう言葉を聞いたのだとしたら、素直に嬉しいところだがそれでも自分はどこか違う言葉を求めているような気がするのだ。
そう例えば――――――――
「カムイさん、私もその苦しみを背負わせてもらってもいいですか?」
「!」
カムイはその言葉に思わず目を見開く。それはさすがに思ってもいなかった言葉であったからだ。
カムイ自身は朱里から言われる言葉をなんとなく予想していた。例えば「違う場所にいたんですから、仕方ないですよ」とか「カムイさんの寂しい気持ちがわかります」とか。
だが、その言葉はさすがに予想外だ。同情どころかそれすらも通り越して自分の苦しみを背負うと言われればそれはもう――――――笑うしかないだろう。
「ははははは!」
「ちょ、朱里は真面目ですよ! どうして笑うんですか!」
「いやー、すまんすまん。俺が思っていた以上のとんでもない回答を聞いたからさ。びっくりを通り越して思わず笑えてきてしまってな。それで、どうしてそう思うんだ?」
「なんというか......きっとそんな単純な話じゃないんですけど、一人で背負った辛いことも二人で背負ったら少しは楽になるかなと思ったぐらいで......」
「確かに単純なはないじゃないな。でも、俺はその考えは結構好きだ」
カムイはこの国に来て初めてしっかりと心から笑っているような笑顔を見せた。その明るさは朱里を容赦なく魅了していく。思わず眺めてしまっているのはわかっているのだが、自身でも止められない。
顔が、体が急速に熱を帯びていく。「外ってこれほどまでに暑かったっけ?」と。もちろん、自分の感じていることを誤魔化したいだけである。
曇りがかっていた空は次第に晴れていき、墓に刺し込んでいた光は二人を照らしながら、周囲へとどこまでも広がっていく。
周りの景色は決して美しいとは言えない焦土であるが、それでもどこかに希望を見せてくれているような雰囲気が支配していた。
すると、カムイは後ろへと半分体を振り返らせるとその墓の手を触れていく。それかれ、朱里に告げた。
「少しだけ、俺の思い出を聞いてくれないか?」
「思い出ですか? 是非!」
「そんなにがっつくことか? まあ、いいか。なら、あの時からだな――――――」
カムイはそう言って過去を語り始めた。
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カムイの過去はスラム街にいた幼少期までさかのぼる。その時、カムイは10歳、妹のルナは7歳であった。
カムイとルナには両親がおらずカムイが物心つく頃には父親はどこかに消えて、ルナが物心を覚えた時には母親は病に倒れた。
なので、生きるためには基本的に自給自足。しかし、幼過ぎるカムイ達には仕事につくことや農業を手伝ってお金を稼ぐということが出来なかった。
そのため、カムイは明日食う飯を探して様々なことをした。そのほとんどが盗みで、時折ガラクタを繋ぎ合わせ武器にして金を持っていそうな人を気絶させたりもした。
そして、それらを奪ってきた食べ物やお金で闇ルートから仕入れたちょっとした高価な食べ物を自分の分を減らして、妹が腹いっぱいのなるぐらい食べさせていた。
そんなに日々が三年もの間続いたある日、運命の出会いがあった。
カムイはいつも通りに盗みを働いていた。そして、その盗みは三年もあれば上達するもの。それに信用できる仲間を作って、そこでリーダーをしながらがっぽがっぽと食べ物を盗んでいった。
そんなカムイ達の悪名はかなりのところまで広がっていてその子供達を捕まえるために、その街の警察のような組織が動いたのだが、スラム街という地の利とカムイの天性の剣術で何度も逃げ延びた。
だが、その日は違った。仲間の一人がヘマをして触れてはいけないスラム街のボス組織に触れてしまったのだ。
その力も規模も統率力もカムイ達子供で作ったなんちゃって組織とはわけが違う。なので、仲間が次々と掴まり、そしてカムイを捕まえるためにルナも連れ去られた。
当然、妹愛の強すぎるカムイはそのことに激昂。無茶とわかっていながらも一人で組織へとケンカを売りに行った。
だが、助けに行こうとしているカムイの剣術がいくら上手くてもそれは所詮にわか剣術。基礎の「き」の字もなければ完全なるオリジナル流儀。
そしてスラム街をしめる組織ななだけに当然用心棒的存在はいるものだ。カムイはその存在と戦い、手も足も出ず敗北した。
だが、カムイは仲間思いでもある男だ。だから、その組織のリーダーに強気で言い放った。
「俺はどうなってもいい! だが、仲間と妹は解放しろ!」
すると、その言葉を聞いたリーダーの男は取引を持ち掛けてきた。つまりは自分の部下になれ、そうすれば助けてやろうというやつだ。
だが、ここはスラム街。そして、カムイは知っていた。その言葉が都合のいい言葉でしかなく、たとえ自分が下ったとしても知らぬ間に仲間とルナは奴隷として売られているだろうと。
しかし、カムイには選択肢がなかった。だから、その言葉に従おうとしたその時――――――組織者しか知らない場所へと一人の老人がやって来た。
その人物はやがてカムイに天元鬼人流を教える師匠となる人物であった。
そして、その老人は警戒の足取りでカムイの下へと近づいていく。だが当然、そんなわけの分からない老人を放っておくほど優しい人間はここにはいない。
なので、老人一人に対して大勢の屈強な男達が襲いかかる。だが、老人が支えにしていた杖を掲げられると誰一人としてその場から金縛りにあったかのように動かなくなり、動き出したと思えば声もなく地面に倒れていく。
そのことに他の男達は動揺。しかし、リーダーに命令されれば従うままに突っ込んでいくが結果は同じ。
その場において老人がしたことをわかる者はいなかった―――――たった一人を除いて。
カムイはその剣術に魅了された。速すぎて仕込み杖であろう刀身は見えない。だが、それを振るったであろう銀線の僅かな残像は見える。
そしてそのことに気付いた老人はカムイに近づいて来ると「弟子になるか?」と聞いてきた。なので、カムイは即答した。もちろん、その目的は仲間とルナのためである。
それから、カムイはスラム街ということなので、カムイと同じく救出されたルナや仲間達とともに住み込みで働きながら学ぶ門下生になった。
そして、その道場の同じ門下生となる人物がいた。それが後に大親友となるグレンであった。
カムイはスラム街のやんちゃさからその道場で一番強いグレンに戦いを挑んだ。だが、周りにいる誰もがカムイの同情の目を向ける。それはすでにグレンの強さを知っているからだ。
そして、グレンの方もカムイに嫌そうな顔をしていた。それは単純にスラム街出身というのが嫌い......ではなく、師匠に見込まれてここに入門したことについて。
なので、グレンはカムイをボコボコにして身の程を知らせようと思ってその戦いを了承した。
師匠が審判を務めるという公式試の異例の試合にグレンとカムイは興奮した。なぜなら、これで勝った方が師匠公認の一番強い人となるからだ。
そして、二人の戦いは始まり―――――――一時間経っても決着がつかなかった。その際、どちらも息を荒くして地面に膝をつけるが、互いに傷一つついていない。
そのことに両者とも驚いたが、相手の力量を称賛し合うように木刀を胴巻きへと収めていく。そして、互いに握手を交わすと互いをライバルだと認定した。
それから、二人は剣を交え続けた。師匠の教えが終われば一日何時間と夜が更けて深夜へと突入しようとも。
互いに手加減なしの本気の勝負。カムイが僅かな差で勝つこともあれば、次の日はグレンが勝つときもある。そして引き分けなんかは一か月続いたことだってあった。
戦い続けていつの間にか朝を迎えていてルナに二人して怒られていたことはいい思い出であったりする。
だが、二人は止まらなかった。一日、一週間、一か月、一年、季節が春、夏、秋、冬、とどれだけ巡って行こうと二人の身長が変わって行こうともはや日課となっていたその戦いは止まることはなかった。
だが、そんな二人もあの時だけは一時的に休戦を結んだ。
それは海上を荒らしまくっているクラーケンが現れた時だ。そのクラーケンは漁に出る船を次々に襲い、海の近くの多くの家々に水害をもたらした。
そのクラーケンに対して、戦いに討って出たのが師匠とカムイ、グレンを含む門下生。それから、多くの武士とともにクラーケンに死闘を繰り広げた。それが後に英雄と呼ばれるカムイの出来事であった。
だが、その戦いは多くの爪痕を残した。多大なダメージを負った師匠が亡くなったことである。
その時にカムイは師匠から「世界を見てこい」と言われた。だが、カムイはルナのこともあったし、単純にまだ実力不足であるとも思っていたせいかかなり渋っていた。
その後押しをしたのがルナとグレンであった。その二人は「何も心配いらない」といってカムイは大海原へと送り出した。
それがカムイの初めての旅であり、同時に後悔の旅であった。
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