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第7章 道化師は攻略する

第144話 言いたいことはハッキリと

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 商業国ハザドールを出発してから丸一日と少し、クラウン達は未だ上空を飛んでいた。

 快適な空の旅はもうしばらくといったところで、全員は各々の自分の過ごしやすいように過ごしていた。

 そして、クラウンはエキドナの頭の上に座りながら、他愛もない会話を続けている。

「それじゃあ、エルフと対照的に肉しか食べなかったということか?」

「まあ、大まかに言えばそうなるけど、肉食動物にあるよくある話で草食動物の胃にある草とかも一緒に食べていから、全く取っていなかったというわけではないわね。もっとも、それは昔の話だけど」

「昔というと?」

「私達が竜人になる前の話。言うなれば、ただの竜よ。だからまあ、その話をしたけれど、逸話みたいなもので実際にどうだったかはわからないけれど」

「まあ、おれの世界でも似たような話はある。だから、あながち間違ってもなさそうだな。真実はなんにせよ」

「どちらにしても、私達には関係ないことね。それで話が変わるけど、あと少しで着きそうよ。ほら、見て」

 エキドナが首を向ける先には海にポツリと浮かぶ島が見えてきた。その島は一つの大きさ火山があり、現在も活発に活動しているのか僅かに煙が流れている。

 鬼ヶ島という割にはそれほど鬼要素のある島の感じではない。恐らく、鬼族が住んでいるから名ずけられたのだろう。そんなことをふと考えているとエキドナはクラウンに話しかけてくる。

「ねぇ、旦那様、とてもお腹がすいたわ。やっぱり丸一日竜化しながら、最速で飛ぶのはものすごく燃費するみたい」

「後でどれだけでも食え。功労者には当然の報いだ。ねだっても誰も文句は言わないだろう」

「だったら、旦那様が食べさせてくれるのもありなのかしら? あ、でも、もしかしたら私が食べられる側に回ってしまうかもね」

「お前、それが言いたかっただけだな?」

「あら、バレちゃったかしら」

 エキドナは楽しそうな声でそう言うとその感情のまま笑っていく。そんな相変わらずのエキドナにクラウンは呆れたため息を吐きつつも、笑みには優しさがあった。

 そして、それから数十分後、クラウン達は鬼ヶ島へと到着した。

 その鬼ヶ島を最初に見てクラウン、朱里、雪姫が思った感想は「なんだか江戸みたいな感じだ」であった。

 目の前に広がるのは木で出来た民家がほとんど高さも同じで、キレイに並んでいる光景であった。

 衣装もさながらで、和服を着た多くの男や女が大通りを歩いている。ただ、活気というのは他の国に比べるとあまりなく、顔色も良くないような印象を受ける。

「懐かしい......」

 だが、そんな光景であってもカムイは見慣れていた景色を目の前にして、思わず言葉が漏れる。やはり故郷に戻れば、そのような気持ちになるのだろうか。

 その反応を見て雪姫と朱里は少しだけ暗い顔を見せた。恐らく、もとの世界へ戻りたいという抑えていた気持ちが溢れ出てきたのだろう。

 そんな二人を横目に見ていたクラウンはため息を吐くと二人に告げる。

「お前達の考えていることは大体わかるが......そんなもの今考えてどうする。後ろ向きになるだけだ。どうせ考えるだったら戻ることだけ考えればいい。俺からはそれだけだ」

「!......そうだね。ありがとう、仁」

「確かに、気持ちが弱気になっていたかも。ありがとう」

「......」

 クラウンはその言葉に照れくさくなったのか頭をかきながら「行くぞ」とだけ告げて歩き出す。そのクラウンの行動に全員が歩き始める。

 するとここで、カムイはクラウン達に告げた。

「わりぃ、俺は先に確かめたいことがある。だから、戻ってくるまでここら辺で好きに歩き回っていてくれ」

 そう言い終わるとカムイはクラウンへとニコっとした笑みを向けた。だが、その笑みからは懐かしさで喜んでいるというよりは哀愁を含んでいるような感じであった。

 そして、クラウンはその笑みに視線で「好きにしろ」とだけ送っていく。それはカムイの行動理由がなんとなく分かったからだ。予想するに、亡き友の話を他の人から詳しく聞きに行ったのだろう。

 そしてここで、クラウン達は集まる時間を決めて、一度各々行きたいところへ向かい始めた。だが、その際は必ず二人以上で、朱里と雪姫はペアとしてもう一人つけるという形にした。

 それはレグリアが言った言葉を警戒しての行動だ。レグリアがこの国に行くよう遠回しにでも勧めた以上は何かしらある可能性が高いからだ。

 とはいえ、本来なら神の使徒の強さを考えれば、別れて行動する方が危ないとも思える。だが、そこまで警戒してしまえばキリがなくなるので、最低でもこれぐらいにしておいたというのが結論である。

 そして、朱里と雪姫はエキドナと、ベルはロキを連れて歩き始めた。それから、残る二人は......

「あんたと同じ方向とはね」

「嫌味な言い方に聞こえるが?」

「そんなまさか。私がそう思うわけないじゃない。むしろ、その逆と言っていいわね」

「......随分と直接的な言い方をするようになったな」

 クラウンとリリスは人混みを避けた少し細めの通りを通っていく。とはいっても、普通に人の通りはあり、大通りに比べれば少ないといった程度である。

 そして、クラウンはリリスの言葉に対して照れるというよりは、驚きの方が勝っている顔をしていた。それはもちろん、リリスの言葉に含む告白とも思える言い方からだ。

 確かに、ここ最近のリリスはなにかと好意のようなものを伝えてきた。だが、それは遠回しと言うべきか、オブラートに包まれていると言うべかともかくここまで直接的な言い方はしなかった。

 そう考えるとリリスの変化はかなり大きくなっているような気がする。前までのリリスであれば、そのような相手に好意を伝えるような言葉を言うのに照れているような感じであった。

 もっと言えば、照れ隠しでワーキャー言うぐらいだろうか。少なくとも、そこまでにはツンデレというのが存在していた。だが、今はどうだろう。照れがなくなり、あるのはデレである。

 まあ、そこまでイチャイチャを求めたようなしつこさはなく、むしろまるで挨拶をするようなサラッとした感じであるが。だからこそ、クラウンは戸惑う。「こいつは本当にあのリリスなのか」と。

「お前も変わったみたいだな」

「急に何よ? 私は別に何も変わってないわ......まあ、全く変わってないと言えば嘘になるけど、それでもあんたに言われるほどじゃないわよ」

「前まで照れていて言うのも困っていたお前が今やそんなにサラッと言えるようになるとは思わなかっただけだ。だったら、エキドナから仕込まれた淫語も動揺しなくなったりしたのか?」

「そ、それとこれとは話が別よ! ただまあ、慣れって言うのは怖いものよね。初めのうちは聞いていて自分のことのように恥ずかしかったのに、今や平然と同じ言葉を言えてしまうのはね......」

「お前にも苦労があったんだな」

 クラウンが優しい笑みを浮かべる一方で、リリスは隠していた気持ちがあった。それはクラウンに対してどうして直接的な好意の伝え方をしているのかということ。

 確かに、これまではリリスは言うことに対する恥ずかしさは存在していた。そして、クラウンに対して強気でいるのはその照れ隠しであった。

 だが、旅を続けていくうちにクラウンという存在は自分が思っているほど、強く大きな存在ではなく、むしろ弱くて身近にある存在だと気づいた。

 それは戦闘力に対する話ではなく、精神的な話だ。クラウンの心が強く見えていたのは、クラウンが自分に対して心を開かなかったから。

 つまりは信用していなかったから。利害で協力している相手に手の内を見せないように、クラウンも弱さを見せなかっただけの話だ。

 だが、ここ最近のクラウンはどんどんと遠くにいた存在から身近な存在へと変化している。それは過大評価していたということもあるが、遠い存在であると勝手に認識していただけであった。

 特に変化が大きかったのはエルフの森で朱里と話したこととハザドールで雪姫と話したことだ。あの時にクラウンという存在は守られる存在でもあると再認識した。

 だが、それだけであったなら、リリスはきっとこのような言い方をしなかっただろう。なら、なぜそのような言い方をさせるようになったのか。

 それはラズリとの戦闘である。

 ラズリとの戦闘でクラウンは瀕死の状態になった。そして、一時的にではあるが失明もしていた。それらが意味するのは、クラウンはいついなくなってもおかしくないということだ。

 もともと神に敵対するという時点で、そういう覚悟もどこかにあったのだろう。だが、クラウンがそこまでの怪我を負わないと思っていたのは、ずっと近くにいてくれると思ったのは信用しているが故のことだ。

 しかし、信用しすぎるというわけではないが、大きな信用に対してもたらされた事実はあまりにも大きすぎた。だから、クラウンが失明した時、リリスの心は半壊した。

 もしクラウンがあのまま息を引き取るようなことがあれば、リリスの心は完全に壊れ、下手すればその時のクラウン以上の復讐の化け物になっていた可能性だってある。

 故に、信用していても最悪の想定はしておくべきだとリリスは考えた。その結果、クラウンが近くにいる時は言いたい気持ちはハッキリと告げることにした。

 リリスは一つの息を吸って吐く。そして、クラウンに顔を向けて告げる。

「クラウン、先に言っておくわ。私はあんたのことがす......」

 リリスはそこまで言っておいて口をすぼめたまま固まった。さすがに言いたいことはハッキリとであっても、まだ言えないことはあるらしい。

 リリスの顔は真っ赤に染まっていき、思わずうつむいた。そして、照れ隠しに隣にいるクラウンにその状態のままポンッと拳を当てていく。

 クラウンはその言葉からの行動に思わず「どうしたこいつ?」といった顔をしていたが、さすがにそこまで言葉を聞けば大体のことは察する。本当にそうであるかはどうかとして。

 なので、クラウンは黙ったままリリスの頭に手を置いた。それだけでリリスには十分とばかりに。そのクラウンの行動にリリスは顔をうつむかせたままニヤけそうな口元を抑えるのに必死であった。

 その時、一人の青年がクラウン達の後ろから声をかけた。その声に振り返ると青年は青い職人服のような恰好をしていた。

「あの、その刀見せてもらってもいいですか?」
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