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第6章 道化師は惑う
第142話 もう一人の私
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「――――ということだ。後はエキドナの任せる。悪いな、先に約束したのに放り投げる形になってしまった」
「事情が事情だもの。それは仕方ないとして受け入れてるわ。私だって似たような身だもの。その気持ちはとてもわかる」
「だからこそ、ここの判断はお前に任せる。俺はその意見を止めやしないし、ありのままを受け入れる。勝手だとはわかっているが、その判断をできる限り早く出して欲しい」
「......そうね」
現在、クラウンはカムイとの話がついてから、エキドナの所へとやって来ていた。
その目的は先ほどの会話から分かるようにエキドナへと約束をしたことだ。それはこの国の問題が解決すれば、次に向かうのはエキドナの故郷である竜人族の国へと行くつもりであった。
だが、予想外のことが起きた。それはカムイの妹が神の使いに人質として捕まっているということだ。そして、その事態はレグリアの企みからすれば一刻を争う可能性だってある。
実際にはエキドナとは正式な約束はしていない。ただ、クラウンがエキドナの気を遣って竜人族の国へ向かうことを決めたに過ぎない。
とはいえ、そのように言ったことは確かだ。吐いた唾は呑み込めない。だから、しっかりと言わなければならなかった。自分とエキドナの目的は違うのだから。
すると、それを聞いたエキドナは黙って考え始めた。そんな様子をクラウンはエキドナと机を挟んで対面に座りながら、じっと静かに見つめていた。
エキドナは机の上にある紅茶を一口飲む。そして、何かを吹っ切ったようにエキドナは息を一つ吐くとクラウンに告げる。
「そうね......なら、私は引き続いて旦那様のところへとついて行かせてもらうわ」
「いいのか? お前の目的は達成されているが完全じゃない。それに、お前の息子の方も危険な状態にあるはずだ」
「それについては一つだけ方法があるのよ。エルフの森にいた時には、聖樹の果実を見つけて喜びで半分気が動転していたせいで忘れていたけどね。ただ、息子が目覚める姿を見ることは出来ないけど」
「......」
クラウンはその言葉を聞いて「そうか」とすぐに受け入れそうになったが、すぐにその言葉を引っ込めた。そして、紅茶を一口飲みながら思考を整理していく。
その結果、クラウンの口から出た言葉は否定的な文言であった。
「いや、考え直せ。俺がわかって言うようなことじゃないが、その息子が目覚めた時に一番安心を実感するのはお前がそばにいた時だ。逆に言えば、安全に目覚めたとしても心にダメージを負う可能性だってある。そんなのはその息子にとって一人ぼっちでいるのと変わらない」
クラウンは暗い顔をして、顔を俯きながら言葉を並べていく。その言葉の重みが、この場の雰囲気すら重くしていくようだ。
自分が森で目覚めた時は誰もいなかった。確かに、憎しみや怒りは存在していた。けど、それが全てじゃない。
人恋しさというわけではないと思うが、それでもいつも隣りにいた存在がいないというのは、胸にぽっかり穴が空いたようでなんとなく違和感を感じるのだ。
それを紛らわすのは酷く手間がかかる。
長い時間をかけて忘れていくか、別のやるべきことに意識を向けてその存在を無視することかの二つ。ちなみに、クラウンがやったのは後者である。
「そういう感情はな、一度持つと酷く拗れるんだ。忘れていてもその存在がなくなったわけじゃない。それは徐々に大きく広がっていく。だから、時間は寄り添えるならばできる限りそうした方がいい......という俺の勝手な意見だ」
「......」
エキドナは暗い表情を浮かべているクラウンに対して、穏やかな笑みを、そしてどこか母性に溢れたような顔をしていた。
それは今の意見がクラウン自身のことを指して言っているように聞こえたからだ。
もちろん、自分のことを例に言っていたのでそうなのだが、その前も後も自身が抱えている複雑な気持ちを吐露したようなものだと感じた。
だからこそ、そばにいてあげたくなる。
その気持ちは息子に対する気持ちと似ているが、非なるもの。その「非」の部分は確かに胸の中で熱ぼったく、燻り続けている。熱は熱く、体を少しずつ焦がしていくような感じ。
エキドナは思わず立ち上がる。そして、クラウンの傍によると何事かというような表情のクラウンにそっと抱きついていく。
その優しさが、言葉が、声が、全てが愛おしい。けど、それを今は上手く言葉にできない。だから、行動で示した。ただそれだけのこと。
「ありがとうね......」
エキドナはクラウンの背中を引き寄せるように強く抱きしめる。そして、僅かに肩を震わせていく。胸の中に溜まっていた熱が目から涙となって流れ出ていったのだ。
ずっと一人だった。息子のために探していた時はずっと一人だった。
勢い任せで薬を求めて世界中を飛び回り、見つけた薬ではどうにもならないことを知って何度も落ち込み、そして傷心のまま気合いだけで動き続ける。
クラウンの言葉は実は自身にもずっと当てはまっていたのかもしれない。だから、余計に胸に染みるのだ。心に直接語りかけてくるように伝わってくるのだ。
一人は寂しい。一人は怖い。誰にも気持ちをわかってもらえず、誰にも気持ちを共有できない。
楽しく会話することも、励まし合うことも、助け合うことも何一つだってない。
エキドナは情報屋としての仕事をしていた。だが、その職業も実際には寂しい仕事の一つだ。
情報屋の仕事は情報を売ること。時に流れる情報は自分のものの可能性だってある。だから、基本的に情報屋は馴れ合わない。人を信用して、余計なことを言わないようにするために。
だから、その仕事をしていたとしても仲間を作ることはなかった。他の冒険者で仲間を作ろうとしても、危険すぎる場所に行くことが多かったのでずっと気が引けていた。
けど、最後までそうじゃなかった。それはクラウン達が現れたこと。あれがどんなに嬉しかったことかきっと誰にもわからない。
なので、打算的でもなんでもいいから近づいた。近づいてきたのは好都合で、これを逃す手はないととにかく捕まえにいった。
その選択の正解だと気づくのは何度目であろうか。その度に喜びが増えていく。
だから、クラウンに告げる。
「旦那様、一つだけお願いがあるんだけどいいかしら?」
***********************************************
「ギシャアアアア!」
「これが飛竜か。俺の世界では伝書鳩ポジションだな」
「旦那様の所にも似たようなのがあるのね。まあ、飛竜に関しては私達の種族ぐらいしか使わないのだけど」
クラウン達は城の裏手側にいる。そして、目の前には二メートルほどの大きな翼を生やした竜が立っていた。
これはエキドナが竜人族に伝わる特別な魔法陣で呼び出したもので、クラウンの言った通り手紙を届けたり、荷物を運んだりに使われる(竜人族限定)。
そして、エキドナはその飛竜の腕についているカバンへと手紙と聖樹の果汁を入れていく。
それから、もう一つクラウンに作ってもらったものを入れようとするのだが、その前にもう一度目に焼き付けておく。
「ふふっ、やはり何度見ても可愛らしくて、抱きしめたくなるわね。これが旦那様の作ったものだと思うと余計に嬉しく感じちゃうわ。あ、ちなみに今の『感じちゃう』の意味は――――」
「それ以上は言わせねぇ。だが、気に入ってくれたなら何よりだ」
エキドナは手に持っているものはクラウンお手製のエキドナ人形だ。フォルムもそのままに愛着の湧くような少しリアリティを落とした、優しめなデザインにしてある。
これはクラウンの地味な特技である裁縫で一時間程で作ったものだ。もちろん、雑には作られておらず、むしろかなり丁寧に作られている。
そんなにエキドナ人形を眺めるエキドナにクラウンは尋ねる。
「それにしても、本当にこの選択肢でいいのか?」
「いいのよ。私が決めた。それにこれから大変になるかもしれないって時に私だけいないのも変だと思うし、申し訳ないと思ってしまうわ。だから、これでいいの」
「......」
「まあ、旦那様の言いたいことはとてもわかるわ。だからこそ、せめてもの人形ってところかしら。そんな心配そうな顔をしなくてもいいわよ。竜人族は子供も強いから」
「別にお前がそれでいいなら、俺はもうこれ以上は何も言わない。ただ、会えた時はしっかりと気持ちを伝えてやれ」
「旦那様......」
クラウンはそう告げるとエキドナに背を向けてこの場を去っていく。そんな後ろ姿をエキドナは熱のこもった視線で見届けてしまう。
もうこんな気持ちは何度目か。飽きることの無いその気持ちはまるで底なし沼にはまっていくような......いや、それほどドロドロとした感情ではないか。
ただ、純粋に愛に溢れているとでも言うべきか。きっとその言葉か今の気持ちを最も端的に表していると思われる。
エキドナはもう一度自身の人形へと目を向ける。愛らしい顔である。あの極悪人のような目付きをするクラウンが作ったとは思えない人形だ。
いや、逆に考えればこれを作れるほど心が穏やかになっていったというわけか。きっとそうに違いないし、そう信じている。
「それじゃあ、行ってらっしゃい。もう一人の私」
エキドナは人形の額に軽くキスをした。そして、その人形をカバンの中へと入れる。すると、飛竜は一吠えして空へと飛び立っていった。
その飛竜が空の彼方まで、見えなくなるまで眺める。その時、髪を撫でていくような優しい風か吹く。雲の隙間から見える太陽は暖かさを運んでくる。
周りにある豊かな木がザワザワと音を鳴らしていき、その音に目を閉じて少しだけ耳をすませる。
もうここまで来たのだ。後悔しない選択肢を、させない選択肢を。
「それじゃあ、こっちの私も頑張らなくちゃね」
そう呟きながら、エキドナはクルっと半回転。見える先にはクラウンの後ろ姿が。
そして、エキドナは少女のように走り出した。
「事情が事情だもの。それは仕方ないとして受け入れてるわ。私だって似たような身だもの。その気持ちはとてもわかる」
「だからこそ、ここの判断はお前に任せる。俺はその意見を止めやしないし、ありのままを受け入れる。勝手だとはわかっているが、その判断をできる限り早く出して欲しい」
「......そうね」
現在、クラウンはカムイとの話がついてから、エキドナの所へとやって来ていた。
その目的は先ほどの会話から分かるようにエキドナへと約束をしたことだ。それはこの国の問題が解決すれば、次に向かうのはエキドナの故郷である竜人族の国へと行くつもりであった。
だが、予想外のことが起きた。それはカムイの妹が神の使いに人質として捕まっているということだ。そして、その事態はレグリアの企みからすれば一刻を争う可能性だってある。
実際にはエキドナとは正式な約束はしていない。ただ、クラウンがエキドナの気を遣って竜人族の国へ向かうことを決めたに過ぎない。
とはいえ、そのように言ったことは確かだ。吐いた唾は呑み込めない。だから、しっかりと言わなければならなかった。自分とエキドナの目的は違うのだから。
すると、それを聞いたエキドナは黙って考え始めた。そんな様子をクラウンはエキドナと机を挟んで対面に座りながら、じっと静かに見つめていた。
エキドナは机の上にある紅茶を一口飲む。そして、何かを吹っ切ったようにエキドナは息を一つ吐くとクラウンに告げる。
「そうね......なら、私は引き続いて旦那様のところへとついて行かせてもらうわ」
「いいのか? お前の目的は達成されているが完全じゃない。それに、お前の息子の方も危険な状態にあるはずだ」
「それについては一つだけ方法があるのよ。エルフの森にいた時には、聖樹の果実を見つけて喜びで半分気が動転していたせいで忘れていたけどね。ただ、息子が目覚める姿を見ることは出来ないけど」
「......」
クラウンはその言葉を聞いて「そうか」とすぐに受け入れそうになったが、すぐにその言葉を引っ込めた。そして、紅茶を一口飲みながら思考を整理していく。
その結果、クラウンの口から出た言葉は否定的な文言であった。
「いや、考え直せ。俺がわかって言うようなことじゃないが、その息子が目覚めた時に一番安心を実感するのはお前がそばにいた時だ。逆に言えば、安全に目覚めたとしても心にダメージを負う可能性だってある。そんなのはその息子にとって一人ぼっちでいるのと変わらない」
クラウンは暗い顔をして、顔を俯きながら言葉を並べていく。その言葉の重みが、この場の雰囲気すら重くしていくようだ。
自分が森で目覚めた時は誰もいなかった。確かに、憎しみや怒りは存在していた。けど、それが全てじゃない。
人恋しさというわけではないと思うが、それでもいつも隣りにいた存在がいないというのは、胸にぽっかり穴が空いたようでなんとなく違和感を感じるのだ。
それを紛らわすのは酷く手間がかかる。
長い時間をかけて忘れていくか、別のやるべきことに意識を向けてその存在を無視することかの二つ。ちなみに、クラウンがやったのは後者である。
「そういう感情はな、一度持つと酷く拗れるんだ。忘れていてもその存在がなくなったわけじゃない。それは徐々に大きく広がっていく。だから、時間は寄り添えるならばできる限りそうした方がいい......という俺の勝手な意見だ」
「......」
エキドナは暗い表情を浮かべているクラウンに対して、穏やかな笑みを、そしてどこか母性に溢れたような顔をしていた。
それは今の意見がクラウン自身のことを指して言っているように聞こえたからだ。
もちろん、自分のことを例に言っていたのでそうなのだが、その前も後も自身が抱えている複雑な気持ちを吐露したようなものだと感じた。
だからこそ、そばにいてあげたくなる。
その気持ちは息子に対する気持ちと似ているが、非なるもの。その「非」の部分は確かに胸の中で熱ぼったく、燻り続けている。熱は熱く、体を少しずつ焦がしていくような感じ。
エキドナは思わず立ち上がる。そして、クラウンの傍によると何事かというような表情のクラウンにそっと抱きついていく。
その優しさが、言葉が、声が、全てが愛おしい。けど、それを今は上手く言葉にできない。だから、行動で示した。ただそれだけのこと。
「ありがとうね......」
エキドナはクラウンの背中を引き寄せるように強く抱きしめる。そして、僅かに肩を震わせていく。胸の中に溜まっていた熱が目から涙となって流れ出ていったのだ。
ずっと一人だった。息子のために探していた時はずっと一人だった。
勢い任せで薬を求めて世界中を飛び回り、見つけた薬ではどうにもならないことを知って何度も落ち込み、そして傷心のまま気合いだけで動き続ける。
クラウンの言葉は実は自身にもずっと当てはまっていたのかもしれない。だから、余計に胸に染みるのだ。心に直接語りかけてくるように伝わってくるのだ。
一人は寂しい。一人は怖い。誰にも気持ちをわかってもらえず、誰にも気持ちを共有できない。
楽しく会話することも、励まし合うことも、助け合うことも何一つだってない。
エキドナは情報屋としての仕事をしていた。だが、その職業も実際には寂しい仕事の一つだ。
情報屋の仕事は情報を売ること。時に流れる情報は自分のものの可能性だってある。だから、基本的に情報屋は馴れ合わない。人を信用して、余計なことを言わないようにするために。
だから、その仕事をしていたとしても仲間を作ることはなかった。他の冒険者で仲間を作ろうとしても、危険すぎる場所に行くことが多かったのでずっと気が引けていた。
けど、最後までそうじゃなかった。それはクラウン達が現れたこと。あれがどんなに嬉しかったことかきっと誰にもわからない。
なので、打算的でもなんでもいいから近づいた。近づいてきたのは好都合で、これを逃す手はないととにかく捕まえにいった。
その選択の正解だと気づくのは何度目であろうか。その度に喜びが増えていく。
だから、クラウンに告げる。
「旦那様、一つだけお願いがあるんだけどいいかしら?」
***********************************************
「ギシャアアアア!」
「これが飛竜か。俺の世界では伝書鳩ポジションだな」
「旦那様の所にも似たようなのがあるのね。まあ、飛竜に関しては私達の種族ぐらいしか使わないのだけど」
クラウン達は城の裏手側にいる。そして、目の前には二メートルほどの大きな翼を生やした竜が立っていた。
これはエキドナが竜人族に伝わる特別な魔法陣で呼び出したもので、クラウンの言った通り手紙を届けたり、荷物を運んだりに使われる(竜人族限定)。
そして、エキドナはその飛竜の腕についているカバンへと手紙と聖樹の果汁を入れていく。
それから、もう一つクラウンに作ってもらったものを入れようとするのだが、その前にもう一度目に焼き付けておく。
「ふふっ、やはり何度見ても可愛らしくて、抱きしめたくなるわね。これが旦那様の作ったものだと思うと余計に嬉しく感じちゃうわ。あ、ちなみに今の『感じちゃう』の意味は――――」
「それ以上は言わせねぇ。だが、気に入ってくれたなら何よりだ」
エキドナは手に持っているものはクラウンお手製のエキドナ人形だ。フォルムもそのままに愛着の湧くような少しリアリティを落とした、優しめなデザインにしてある。
これはクラウンの地味な特技である裁縫で一時間程で作ったものだ。もちろん、雑には作られておらず、むしろかなり丁寧に作られている。
そんなにエキドナ人形を眺めるエキドナにクラウンは尋ねる。
「それにしても、本当にこの選択肢でいいのか?」
「いいのよ。私が決めた。それにこれから大変になるかもしれないって時に私だけいないのも変だと思うし、申し訳ないと思ってしまうわ。だから、これでいいの」
「......」
「まあ、旦那様の言いたいことはとてもわかるわ。だからこそ、せめてもの人形ってところかしら。そんな心配そうな顔をしなくてもいいわよ。竜人族は子供も強いから」
「別にお前がそれでいいなら、俺はもうこれ以上は何も言わない。ただ、会えた時はしっかりと気持ちを伝えてやれ」
「旦那様......」
クラウンはそう告げるとエキドナに背を向けてこの場を去っていく。そんな後ろ姿をエキドナは熱のこもった視線で見届けてしまう。
もうこんな気持ちは何度目か。飽きることの無いその気持ちはまるで底なし沼にはまっていくような......いや、それほどドロドロとした感情ではないか。
ただ、純粋に愛に溢れているとでも言うべきか。きっとその言葉か今の気持ちを最も端的に表していると思われる。
エキドナはもう一度自身の人形へと目を向ける。愛らしい顔である。あの極悪人のような目付きをするクラウンが作ったとは思えない人形だ。
いや、逆に考えればこれを作れるほど心が穏やかになっていったというわけか。きっとそうに違いないし、そう信じている。
「それじゃあ、行ってらっしゃい。もう一人の私」
エキドナは人形の額に軽くキスをした。そして、その人形をカバンの中へと入れる。すると、飛竜は一吠えして空へと飛び立っていった。
その飛竜が空の彼方まで、見えなくなるまで眺める。その時、髪を撫でていくような優しい風か吹く。雲の隙間から見える太陽は暖かさを運んでくる。
周りにある豊かな木がザワザワと音を鳴らしていき、その音に目を閉じて少しだけ耳をすませる。
もうここまで来たのだ。後悔しない選択肢を、させない選択肢を。
「それじゃあ、こっちの私も頑張らなくちゃね」
そう呟きながら、エキドナはクルっと半回転。見える先にはクラウンの後ろ姿が。
そして、エキドナは少女のように走り出した。
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