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第6章 道化師は惑う
第135話 気配の極地
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「あ"あ"あ"あ"あ"!」
クラウンは両目を手で覆うと思わず悶え苦しむような声を上げた。その悲痛の叫びは王の間へと響いていくように声を反射させていく。
ジュクジュクとした激痛は終わることなく、両目が焼けるように熱い。いや、実際に焼けているのだろう。その痛みによって拭うように手をおさえつける。
だが、その痛みはいつまで経っても終わることも、慣れることも無く、苦しみは続いていく。それによってバランスが取れなくなったクラウンはフラフラと千鳥足になる。
最後の見たのは光。そして、今見えるのは途方もない闇。何も、何も見えない。咄嗟に浮かぶ光景は雪姫が斬られて抱えているところ。
しかし、それはあくまで思い浮かぶというだけのもので、闇しか見えなくなった世界に記憶の思い出を貼り付けているだけに過ぎない。
見えないのだ、今の状況も、今の立ち位置も、この世界の光景も。
なぜなら、失明したから。
そんなクラウンの様子にラズリはほくそ笑む。そして、告げた。
「どう? なんにも見えないネ。それがお前らっちがこれから見る絶望の果てネ。もっとも、お前っちにはもう世界の終焉は見えないけどネ」
「ぐううう......あああああ!」
「人族の体は貧弱ネ。いや、もとよりそんな攻撃を食らってしまう方が問題ネ。けど、その痛がっている姿は実に滑稽、さっきの殺される感覚は何かの間違いだったネ。」
「あああああ!」
「はあ、いつま痛みに苦しんでるネ。あの時の人族は腕と脚をそれぞれ一つずつ飛ばされてるのに、随分と余裕な笑みをしていたネ。まるで自分の仇は味方が取ってくれるみたいな顔だったネ。だから、俺っちは一番危険だと思ったお前を殺そうと思ったからこうしたのに、とんだ杞憂だったみたいなネ」
ラズリは少しだけやる気を失ったような態度をすると右足を一歩後ろへと下げた。そして、両腕を軽く構えると再び告げた。
「お前は俺っちに勝てない。そして、ここで死ぬのが定めね」
「ぐはっ!」
――――その瞬間、ラズリはクラウンに近づくと右足を一気に前に突き出した。その蹴りはクラウンの腹部に深く刺さり、そのまま飛ばしていく。
クラウンは体がくの字になるように曲がり、口から血を吹き出した。その血は雨のような水滴に変わり、空中を僅かに漂う。
「神速」
「がはっ! ぐほぉっ!」
ラズリは魔力を脚部に高めると深く腰を落としていく。そして、苦悶の表情をしながら、一気に飛び出した。すると、ラズリの体は先に蹴り飛ばしたはずのクラウンを追い越していく。
そして、足を棒のように張ってブレーキを無理やり掛けていくと後ろへと体重をかけるように左手で裏拳をかます。
その拳はクラウンの側頭部へ直撃し、その場で逆さまになるように一回転した。そこへ、ラズリは回してきた右足で蹴りを入れていく。
それによって、クラウンは体を蹴られた箇所へと曲げ、再び吹き飛んでいく。
しかし、クラウンもただではやられないとばかりに無理やり体を回転させ、刀を床に刺して勢いを殺していく。その時のクラウンは目を閉じて、周囲の気配に意識を向けていた。
「残念はずれネ」
「かはっ!」
クラウンは後ろに強い気配を感じるとそこへ刀を横なぎに振るった。しかし、クラウンの攻撃は何もない空を斬ったのみ。すると直後に、背後からラズリの声が。
クラウンは再び刀を横なぎに振るうが、その攻撃が届く前にクラウンはラズリの蹴りを顔面で捉えてしまった。そして、吹き飛ばされ壁に割る勢いで叩きつけられた。
そこへさらに、ラズリの拳がクラウンの胴体に叩きつけられ、壁にめり込むように押し込まれる。その影響でクラウンの衝突で出来たヒビはさらに大きく、深く広がっていく。
ラズリはクラウンの腕を掴むと中央へと投げ飛ばした。それから、投げ飛ばされたクラウンは大の字になってそのまま動かなくなる。
とはいえ、まだ胸が上下しているので息はあるようだが。そんなクラウンにラズリは言葉を告げながら、歩み寄っていく。
「まだ生きてるとは関心ネ。これなら、ようやく屈辱を晴らすためのなぶり殺しが出来そうネ。言っておくけど、これはまだ序の口ネ」
ラズリは僅かに口角を上げた薄い笑みを浮かべる。その時の目はまるで道の石を見ているように何も温度を感じなかった。
その一方で、クラウンはラズリの言葉が耳に入っていなかった。自身に〈超回復〉をして傷を回復させようとするが、全く魔法が使える様子はない。恐らくラズリの他の魔法の特性なのだろう。
その事にクラウンは思わず歯噛みする。だが、すぐに思考を切りかえ、一つのことを思い出す。それはカムイに特訓してもらった気配の使い方であった。
クラウンは一つ深呼吸をすると深く、より深く周囲の気配を読み取ることだけを感じ取っていく。何がいて、どこにいて、何をしているのかを。
生命エネルギーを感じていく。無機物にあるエネルギーを体の中へと染み込ませていくように。また、自分の体を大気へと溶かしていくように。
全てと一体になるように。
今は何も見えない。言葉通りの闇だ。だとするならば、ラズリを捉えるためには何が必要か。音を聞いて感じることも、匂いを嗅いで感じることもある。
しかし、それ以上に常に使い続け、頼りにしてきた感覚がクラウンには存在していた。
それが「気配を感じる」ということ。
だが、このままでは前よりもひどい結果になることは明らかであり、間違いなく死ぬ可能性の方が高い。なら、それ以上に高める必要がある。
それが「気配を読む」ということ。
相手の中にある魔力というエネルギーを感じて、その相手がどのくらいの力量で、強さであるかを確かめていく。
そのためにはもっと、もっと深く意識を落とすことが必要。それこそ、自分の本質と見つめ合うように。
その時、クラウンは闇の中に白く輝きのある一点を見つけた。それはもちろん、意識の中での話だが、しかしその光は眩しさを感じるほどに強い輝きを放っていた。
そして、その輝きは突然に白い棒のようなものを生み出して、横に伸びていく。その棒はしばらく伸びていくと様々な位置から枝分かれに動いていく。
時にはゴツゴツした丸いものを作ったり、ただ一直線に伸びていったり、粗い四角い形状のものを作ったりと。
その白い輝く線は自分を中心としてどこまでも広がっていく。そして、やがて複雑なものまで作り出した。
それは―――――人の姿であった。
しかも一人じゃない。寄りかかっている人が二人、そして立っている人が一人。その人数は今この場にいる人の数を表しているようであった。
そうそれはまるで――――黒い画用紙に白い芯の鉛筆で絵を描いているみたいに。黒と白だけで表されているが、輪郭だけを白い線で表しているみたいに。
その白い線で何がどこにあるかが分かる。その白い線でどのような空間であるかを教えてくれている。
クラウンは直感で理解した。これが気配を読み取った先にある世界なのだと。
モノクロよりもひどい世界。物体であるものは全て黒く見え、その物体の輪郭だけが白いという世界。しかし、その世界は記憶に残っている空間と見事に一致している。
言うなれば、目を閉じているのに外の光景が見えているような形であろうか。しかも、その見えている範囲は三百六十度。全方位が見えているため、死角は存在しない。
その事が分かるとクラウンは僅かに笑った。「死角がない」とはまさにカムイがこの気配を読んだ世界に関して言っていた言葉であるからだ。
確かに見える。全てがわかる。色はないが、細かい動きも全て読み取れる。それこそ、自分のラズリに対する恐怖も可視化している。
そして同時に気づいた。
それは先ほどまで持っていなかった感情があること、それから突然ラズリの動きが速くなったこと。その二つは密に関係していて、それによって自分はラズリの姿を見失った。
わかったのだ、ラズリが自分に対してどんな魔法をかけていたのか。そして、その魔法は実に単純で、僅かな効力でしかなかったことに。
クラウンは刀を強く握ると全身へと駆け巡る痛みに堪えながら、体勢をうつ伏せへと変えていく。そして、腕で踏ん張りながら、立とうと動き始める。
そのことにラズリは思わず舌を巻いた。
「まだ動ける気力があったとは......相変わらず人族というのは妙なところでしぶといネ。けど、まあもっとなぶれるわけだし、俺っちにはむしろこう――――」
「減らず口を叩くのもそこまでだ」
クラウンは床に膝をつけるとそこから片方の脚だけ素早く前に出した。そして、片足だけ跪くような体勢になると少し呼吸を整えて、もう片方の脚も上げていった。
そしてそこからは、気合いで重たい上体を上げていく。
「俺はもうお前の攻撃を見切った。むしろ、なぶられるのはお前の方だ」
「何を言っているネ、そんなボロ雑巾のような状態で。言うならば、もう少しその血だらけの顔を拭って言った方が説得力は高いネ」
「うるせぇ、そんなことをする暇があるなら、もっと周囲へと意識を向けさせる」
「何言ってるかわからないネ。それに実際そんな体で何ができるって言うネ。もう立っているだけでもやっとなはず――――」
「御託はいい。その言葉こそ俺に勝てなかった時の言い訳をしているようにも聞こえるがな。ただ、最後に言わせてもらうなら――――」
クラウンは右手に持った刀の先をラズリへと向け、上段に構える。そして、左手はラズリを標的にするようにしっかりと向けられている。
足は少し広めに上下に広げ、力強く立ち尽くす。まるでどこからでもかかってこいと言わんばかりに。
すると、クラウンの気配は急速に密度を濃くしていく。そして、その黒い魔力のオーラはクラウンの背後に巨大な鎌を持った死神を作り出した。
しかも、そのオーラは床を覆うように広がっていき、床の小石ほどの瓦礫はカタカタと、少し大きめの瓦礫にはガタガタと揺らして物理的な影響力を及ぼしていく。
窓はミシミシと押し付けられ、壊れていくかのように曲がっていき、やがてバリンッと全ての窓が割れていく。
その事にラズリは思わず戦慄した。それはあの時の戦った人族の老人と同じような感じであったからだ。
そして、閉じているはずのクラウンの目からはしっかりと視線を感じている。
その時、クラウンは告げた。ラズリを恐怖させたあの人族の老人の一言を。
「人を舐めるなよ、愚物が!」
クラウンは両目を手で覆うと思わず悶え苦しむような声を上げた。その悲痛の叫びは王の間へと響いていくように声を反射させていく。
ジュクジュクとした激痛は終わることなく、両目が焼けるように熱い。いや、実際に焼けているのだろう。その痛みによって拭うように手をおさえつける。
だが、その痛みはいつまで経っても終わることも、慣れることも無く、苦しみは続いていく。それによってバランスが取れなくなったクラウンはフラフラと千鳥足になる。
最後の見たのは光。そして、今見えるのは途方もない闇。何も、何も見えない。咄嗟に浮かぶ光景は雪姫が斬られて抱えているところ。
しかし、それはあくまで思い浮かぶというだけのもので、闇しか見えなくなった世界に記憶の思い出を貼り付けているだけに過ぎない。
見えないのだ、今の状況も、今の立ち位置も、この世界の光景も。
なぜなら、失明したから。
そんなクラウンの様子にラズリはほくそ笑む。そして、告げた。
「どう? なんにも見えないネ。それがお前らっちがこれから見る絶望の果てネ。もっとも、お前っちにはもう世界の終焉は見えないけどネ」
「ぐううう......あああああ!」
「人族の体は貧弱ネ。いや、もとよりそんな攻撃を食らってしまう方が問題ネ。けど、その痛がっている姿は実に滑稽、さっきの殺される感覚は何かの間違いだったネ。」
「あああああ!」
「はあ、いつま痛みに苦しんでるネ。あの時の人族は腕と脚をそれぞれ一つずつ飛ばされてるのに、随分と余裕な笑みをしていたネ。まるで自分の仇は味方が取ってくれるみたいな顔だったネ。だから、俺っちは一番危険だと思ったお前を殺そうと思ったからこうしたのに、とんだ杞憂だったみたいなネ」
ラズリは少しだけやる気を失ったような態度をすると右足を一歩後ろへと下げた。そして、両腕を軽く構えると再び告げた。
「お前は俺っちに勝てない。そして、ここで死ぬのが定めね」
「ぐはっ!」
――――その瞬間、ラズリはクラウンに近づくと右足を一気に前に突き出した。その蹴りはクラウンの腹部に深く刺さり、そのまま飛ばしていく。
クラウンは体がくの字になるように曲がり、口から血を吹き出した。その血は雨のような水滴に変わり、空中を僅かに漂う。
「神速」
「がはっ! ぐほぉっ!」
ラズリは魔力を脚部に高めると深く腰を落としていく。そして、苦悶の表情をしながら、一気に飛び出した。すると、ラズリの体は先に蹴り飛ばしたはずのクラウンを追い越していく。
そして、足を棒のように張ってブレーキを無理やり掛けていくと後ろへと体重をかけるように左手で裏拳をかます。
その拳はクラウンの側頭部へ直撃し、その場で逆さまになるように一回転した。そこへ、ラズリは回してきた右足で蹴りを入れていく。
それによって、クラウンは体を蹴られた箇所へと曲げ、再び吹き飛んでいく。
しかし、クラウンもただではやられないとばかりに無理やり体を回転させ、刀を床に刺して勢いを殺していく。その時のクラウンは目を閉じて、周囲の気配に意識を向けていた。
「残念はずれネ」
「かはっ!」
クラウンは後ろに強い気配を感じるとそこへ刀を横なぎに振るった。しかし、クラウンの攻撃は何もない空を斬ったのみ。すると直後に、背後からラズリの声が。
クラウンは再び刀を横なぎに振るうが、その攻撃が届く前にクラウンはラズリの蹴りを顔面で捉えてしまった。そして、吹き飛ばされ壁に割る勢いで叩きつけられた。
そこへさらに、ラズリの拳がクラウンの胴体に叩きつけられ、壁にめり込むように押し込まれる。その影響でクラウンの衝突で出来たヒビはさらに大きく、深く広がっていく。
ラズリはクラウンの腕を掴むと中央へと投げ飛ばした。それから、投げ飛ばされたクラウンは大の字になってそのまま動かなくなる。
とはいえ、まだ胸が上下しているので息はあるようだが。そんなクラウンにラズリは言葉を告げながら、歩み寄っていく。
「まだ生きてるとは関心ネ。これなら、ようやく屈辱を晴らすためのなぶり殺しが出来そうネ。言っておくけど、これはまだ序の口ネ」
ラズリは僅かに口角を上げた薄い笑みを浮かべる。その時の目はまるで道の石を見ているように何も温度を感じなかった。
その一方で、クラウンはラズリの言葉が耳に入っていなかった。自身に〈超回復〉をして傷を回復させようとするが、全く魔法が使える様子はない。恐らくラズリの他の魔法の特性なのだろう。
その事にクラウンは思わず歯噛みする。だが、すぐに思考を切りかえ、一つのことを思い出す。それはカムイに特訓してもらった気配の使い方であった。
クラウンは一つ深呼吸をすると深く、より深く周囲の気配を読み取ることだけを感じ取っていく。何がいて、どこにいて、何をしているのかを。
生命エネルギーを感じていく。無機物にあるエネルギーを体の中へと染み込ませていくように。また、自分の体を大気へと溶かしていくように。
全てと一体になるように。
今は何も見えない。言葉通りの闇だ。だとするならば、ラズリを捉えるためには何が必要か。音を聞いて感じることも、匂いを嗅いで感じることもある。
しかし、それ以上に常に使い続け、頼りにしてきた感覚がクラウンには存在していた。
それが「気配を感じる」ということ。
だが、このままでは前よりもひどい結果になることは明らかであり、間違いなく死ぬ可能性の方が高い。なら、それ以上に高める必要がある。
それが「気配を読む」ということ。
相手の中にある魔力というエネルギーを感じて、その相手がどのくらいの力量で、強さであるかを確かめていく。
そのためにはもっと、もっと深く意識を落とすことが必要。それこそ、自分の本質と見つめ合うように。
その時、クラウンは闇の中に白く輝きのある一点を見つけた。それはもちろん、意識の中での話だが、しかしその光は眩しさを感じるほどに強い輝きを放っていた。
そして、その輝きは突然に白い棒のようなものを生み出して、横に伸びていく。その棒はしばらく伸びていくと様々な位置から枝分かれに動いていく。
時にはゴツゴツした丸いものを作ったり、ただ一直線に伸びていったり、粗い四角い形状のものを作ったりと。
その白い輝く線は自分を中心としてどこまでも広がっていく。そして、やがて複雑なものまで作り出した。
それは―――――人の姿であった。
しかも一人じゃない。寄りかかっている人が二人、そして立っている人が一人。その人数は今この場にいる人の数を表しているようであった。
そうそれはまるで――――黒い画用紙に白い芯の鉛筆で絵を描いているみたいに。黒と白だけで表されているが、輪郭だけを白い線で表しているみたいに。
その白い線で何がどこにあるかが分かる。その白い線でどのような空間であるかを教えてくれている。
クラウンは直感で理解した。これが気配を読み取った先にある世界なのだと。
モノクロよりもひどい世界。物体であるものは全て黒く見え、その物体の輪郭だけが白いという世界。しかし、その世界は記憶に残っている空間と見事に一致している。
言うなれば、目を閉じているのに外の光景が見えているような形であろうか。しかも、その見えている範囲は三百六十度。全方位が見えているため、死角は存在しない。
その事が分かるとクラウンは僅かに笑った。「死角がない」とはまさにカムイがこの気配を読んだ世界に関して言っていた言葉であるからだ。
確かに見える。全てがわかる。色はないが、細かい動きも全て読み取れる。それこそ、自分のラズリに対する恐怖も可視化している。
そして同時に気づいた。
それは先ほどまで持っていなかった感情があること、それから突然ラズリの動きが速くなったこと。その二つは密に関係していて、それによって自分はラズリの姿を見失った。
わかったのだ、ラズリが自分に対してどんな魔法をかけていたのか。そして、その魔法は実に単純で、僅かな効力でしかなかったことに。
クラウンは刀を強く握ると全身へと駆け巡る痛みに堪えながら、体勢をうつ伏せへと変えていく。そして、腕で踏ん張りながら、立とうと動き始める。
そのことにラズリは思わず舌を巻いた。
「まだ動ける気力があったとは......相変わらず人族というのは妙なところでしぶといネ。けど、まあもっとなぶれるわけだし、俺っちにはむしろこう――――」
「減らず口を叩くのもそこまでだ」
クラウンは床に膝をつけるとそこから片方の脚だけ素早く前に出した。そして、片足だけ跪くような体勢になると少し呼吸を整えて、もう片方の脚も上げていった。
そしてそこからは、気合いで重たい上体を上げていく。
「俺はもうお前の攻撃を見切った。むしろ、なぶられるのはお前の方だ」
「何を言っているネ、そんなボロ雑巾のような状態で。言うならば、もう少しその血だらけの顔を拭って言った方が説得力は高いネ」
「うるせぇ、そんなことをする暇があるなら、もっと周囲へと意識を向けさせる」
「何言ってるかわからないネ。それに実際そんな体で何ができるって言うネ。もう立っているだけでもやっとなはず――――」
「御託はいい。その言葉こそ俺に勝てなかった時の言い訳をしているようにも聞こえるがな。ただ、最後に言わせてもらうなら――――」
クラウンは右手に持った刀の先をラズリへと向け、上段に構える。そして、左手はラズリを標的にするようにしっかりと向けられている。
足は少し広めに上下に広げ、力強く立ち尽くす。まるでどこからでもかかってこいと言わんばかりに。
すると、クラウンの気配は急速に密度を濃くしていく。そして、その黒い魔力のオーラはクラウンの背後に巨大な鎌を持った死神を作り出した。
しかも、そのオーラは床を覆うように広がっていき、床の小石ほどの瓦礫はカタカタと、少し大きめの瓦礫にはガタガタと揺らして物理的な影響力を及ぼしていく。
窓はミシミシと押し付けられ、壊れていくかのように曲がっていき、やがてバリンッと全ての窓が割れていく。
その事にラズリは思わず戦慄した。それはあの時の戦った人族の老人と同じような感じであったからだ。
そして、閉じているはずのクラウンの目からはしっかりと視線を感じている。
その時、クラウンは告げた。ラズリを恐怖させたあの人族の老人の一言を。
「人を舐めるなよ、愚物が!」
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