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第6章 道化師は惑う
第134話 光を飲み込む闇
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クラウンはすぐそばで起こった光景に目を疑った。理解すら追いつかなかった。だが、確かに分かることは自分を庇って雪姫が斬られたことだ。
「かはっ」
雪姫は口から血を吐き出した。その赤黒い血は雪姫の口もとにから流れ出ると口元を辿って、あごから滴り落ちる。また、斬られた腹部から胸辺りは白かった服が紅く染まっていく。
ジンジンと胸の辺りに鋭い痛みが走り続け、その箇所は炎で当てられているかのように熱く感じていく痛みに雪姫は思わず唇を噛む。
本当なら叫んでもおかしくない痛みだ。だが、それをしなかったのは今の雪姫には死ぬことの恐怖よりも、大切な人を助けられた喜びの方が勝っているのだ。
そして、雪姫は仁の方に顔を向けると優しい笑みで言った。
「良かった......仁が生きていてくれて......」
雪姫は仁の姿を視界いっぱいに捉えると膝から崩れ落ち、床へと倒れていく。その時の倒れた音は空間の隅々まで響いていった。それだけこの空間が静かであったということだ。
雪姫の体からは赤黒い血が広がっていく。床をゆっくりと染めていく。
「ゆ......き......雪姫!」
クラウンは動き出すとすぐさま刀を床に置いて、雪姫を仰向けに抱える。そして、意識を保たせるように肩を揺さぶっていく。すると、かろうじて雪姫の瞳は僅かに動いた。
――――その時、クラウンと雪姫の方へと足音が近づいたと思うとすぐさまラズリが目の前に現れた。そして、その右手には逆手に持った短剣が。
それから、ラズリは告げた。眠たそうな半目であるが、その瞳にある冷えきった感情で。
「俺っち、そんな茶番を待つほどお人好しじゃないネ。そもそも、人でもないけど。それじゃあ、サッサと死ぬネ」
「......」
「――――!」
ラズリは無言のクラウンに短剣を振り下ろそうとするとすぐに止めた。それは、全身を駆け巡るように危険信号を感じたからだ。
つまりは、今攻撃したならば死ぬのはクラウンではなくラズリの方であるということ。それは本能が感じ取った。なので、ラズリは咄嗟に距離を取る。
そして、左手で確かに首が繋がっていることを確認するとクラウンを警戒するように観察し始めた。体に感じた不安の正体を確かめるように。
一方、クラウンと雪姫の方でも動きがあった。
「おい、雪姫! 勝手に死ぬんじゃねぇ! まだ何も終わってないだろ!」
クラウンは自身のぐちゃぐちゃになっている気持ちを感じながら、今までと矛盾するような行動を取っていた。自分でも、もうわけがわからない。
ただ、わかることはここで雪姫を死なせてはならないということだ。
だから、とにかく名前を呼び続け、雪姫の意識を保たせようとする。すると、雪姫は自身の血で真っ赤に染まった手でクラウンの頬をそっと触れる。
そして、これから死ぬということを感じさせないような、嬉しそうな笑みで告げる。
「仁が......私の大切な人が生きてるよ......約束......守れたよ」
「!」
クラウンはその言葉を聞いて驚いた。なぜなら、雪姫がまだ裏切られる前に交わした約束を未だに忠実に守ろうとしていたからだ。
......いや、守ったのだろう。こうしてクラウンがどんな形であれ、生きているということは。
「雪姫が仁を守り、仁が雪姫を支える」確かに約束は果たされた。だが、雪姫はその事をまだ少し引きずっているようで、嬉しい顔から一転して申し訳なさそうな顔をした。
「でも......ごめんね......私......一回しか......守れないみたい」
「雪姫! そんなことはどうでもいい! 俺はお前が約束を果たそうが、果たすまいが関係ない! とにかく勝手に死ぬ覚悟を決めるな! まだ手はある!」
クラウンはそう言うとポーチから果実を取り出した。それは聖樹で収穫した紅い宝石のような果実だ。そして、それを雪姫の口元へと掲げる。
しかし、雪姫はその行動を静止させようと動く。
「ダメ......だよ、仁。それ......は、仁の......大切な......もの」
「今にもこと切れそうな怪我人は黙ってろ。これは俺の勝手だ。それに俺の大切なものだからこそ、使う時は俺が勝手に決める」
そして、クラウンは雪姫の口の中へと手で握って絞った果汁を流し込んでいく。しかし、雪姫にはもうろくに口を動かす余裕もないのか、口の端から漏れていく。
「......仕方ない」
クラウンはそう呟くと顔を上げて、その口の中に残りの果汁を全て流し込む。そして、その果汁を飲み込まずに口の中で溜めるとそのまま雪姫の唇に唇を重ねた。
それから、無理やり口をこじあげると口に含んでいた果汁を雪姫に流し込んでいく。その突然の行動に驚いた雪姫は思わずその果汁をゴクリと飲み込んだ。
「く......あああああ!」
その瞬間、雪姫は体全身が痺れるような感覚に襲われた。だが、先ほどまで血を流しすぎて、寒さを感じていた腹部から胸の辺りは温かさを取り戻していく。
その温かみに安心したのか眠るように気絶した。そんな雪姫の様子をクラウンは見つめ、肺が上下していることを確認すると思わず安堵の息を吐いた。
『――――憎め』
『凶気度が 10 上がりました。現在の凶気度 85 』
その時、クラウンの脳内に言葉が流れ込んだような気がした。そして、その瞬間に自分でもわからないほど怒りと憎悪が湧いてくる。
クラウンの周りからは闇を表しているような黒い魔力が渦をまくように動いていく。そして、その魔力が溢れ出ると周りにあった床の破片などはカタカタと揺れ動き出す。
その渦によって出来た風は王の間の窓をガタガタと押し付けていき、この場の空気は増す増す冷え込んでいく。
すると、クラウンは雪姫を邪魔にならないところの壁へと運んで、寄りかからせると元の位置に戻って刀を拾った。その時も魔力はクラウンを中心に渦巻いていく。
そして、その魔力はクラウンの腕それぞれにまとわりつくと凶悪で黒黒しい肘まである篭手を作り出した。また、その闇の一部はクラウンの体に入り込むと首半分を闇の魔力で包んでいく。
クラウンはラズリに向かって顔を上げると右手に持った刀を突き出して告げる。
「死ね」
その時の顔は左半分が闇の魔力で包まれていて、左目は紅く輝いていた。
――――クラウンは一気に向かっていく。床を確実に踏み込んで、砕けで出来た瓦礫を撒き散らしながら。
そして、すぐさまラズリの正面に現れると刀を素早く横に振るった。その攻撃に対し、ラズリは短剣でしっかりと受け止めた。
だが、その一撃は自身で耐えられる力をゆうに超えていて、簡単に吹き飛ばされ壁へと叩きつけられる。そこへすぐにクラウンは斬撃を放っていく。
その斬撃は床を抉りながらラズリのいる方へと向かっていく。そしてそのまま、王の間の壁に風穴を作るように城の外へと通り抜けていく。
「調子に乗るなネ!」
たが、その斬撃を避けていたラズリはすぐさまクラウンの背後を取り、右手の短剣を突き出した。しかし、その攻撃はすぐさまクラウンに反応された。
クラウンは右腕を折りたたみ、背後に向かって振るう。すると、クラウンの右肘によってラズリの右腕は弾かれる。それから、右脇腹へと体が曲がるような強烈な左足の蹴りの一撃が入った。
しかし、ただでは転ばないとラズリは左手に持った短剣を投げた。だが、それはクラウンの左腕によって防がれる。
「クソ......」
ラズリはダメージを減らすよう上手く着地すると思わず愚痴をこぼした。それは今のクラウンに恐怖がないからだ。
怒りや憎しみに感情を任せて攻撃を仕掛けているような形。その状態ではラズリの魔法は効かないからだ。
なので、やり方を変える。トラウマレベルの記憶は潜在的な感情を呼び起こすことを利用して。
「お前っち、俺っちの攻撃に反応できて嬉しいかネ。けど、それは俺っちがまだお前っちに本気を出していない証拠ネ。思い出すネ、お前っち達が俺っちの動きに手も足も出な買った時のことを。また、同じようになるネ......あの時の人族のように」
「な......んだとおおお!」
「......かかったネ」
クラウンはラズリの言葉にあの時の記憶を思い出した。そして、思わずあの時のラズリの絶対的な強さの恐怖も思い出した。
その事を使用している魔法で感知するとラズリは思わずほくそ笑む。これでもうクラウンが自分の姿を捉えられることは出来なくなったからだ。
そして、ラズリはまっすぐクラウンに走り出していく。その時の速さは先ほどと変わらない。しかし、クラウンは動き出していなかった。まるで敵を見失ったかのような顔をして。
「ぐはっ!」
ラズリはクラウンにお返しとばかりの上段蹴りをクラウンの顔面に当てていく。すると、クラウンは無抵抗のまま壁にクレーターを作りながら激突した。
ここで、ラズリはまたしても同じ速さで走り出す。しかし、クラウンは顔をキョロキョロとさせてラズリの姿を探していた。
「遅いネ」
「くはっ!」
ラズリが笑いながら目の前に現れるとクラウンは驚いた表情をしていた。そんなクラウンのあごを蹴りあげると死に体のクラウンの両肩に、右手の短剣と新たに袖から取り出した左手の短剣を刺していく。
そして、壁に固定すると思いっきり蹴りこんだ。その一撃はクラウンの背後の壁もろともクラウンを外へと吹き飛ばした。
クラウンは瓦礫とともに血を吐きながら空中をただよう。しかし、すぐに吹き飛ばされた位置に糸を飛ばすと一気に引き戻し、その勢いでラズリに蹴りこんでいく。
しかし、その攻撃は簡単に避けられる。だが、不利な位置から復帰することには成功した。
クラウンはそう思うと刀を支えにしながら呼吸を整えていく。そして、〈気配察知〉に意識を集中させた。
するとその時、クラウンの目の前に突如として現れたラズリはニヤついた笑みで告げる。
「お前っちに希望なんてないネ。あるのは絶望のみ。それを死ぬまで味わうネ」
そう言うとラズリは両手の短剣をクラウンに投げた。だが、クラウンはそれを最小限で避けていく。
しかし、ラズリの狙いはその短剣の攻撃ではなかった。むしろその後の攻撃。
ラズリは投げたままの両腕で、互いの手のひらを思いっきり叩き合わせる。すると、その手からは眩い光が放たれた。
そして同時に、多大なる熱量を持って。
「あ"あ"あ"あ"あ"!」
クラウンは目を覆い尽くす白い光景に全てを包み込まれ、焼けるような痛みを感じ――――失明した。
そしてラズリの言葉通り、クラウンの視界には無限の絶望が広がった。
「かはっ」
雪姫は口から血を吐き出した。その赤黒い血は雪姫の口もとにから流れ出ると口元を辿って、あごから滴り落ちる。また、斬られた腹部から胸辺りは白かった服が紅く染まっていく。
ジンジンと胸の辺りに鋭い痛みが走り続け、その箇所は炎で当てられているかのように熱く感じていく痛みに雪姫は思わず唇を噛む。
本当なら叫んでもおかしくない痛みだ。だが、それをしなかったのは今の雪姫には死ぬことの恐怖よりも、大切な人を助けられた喜びの方が勝っているのだ。
そして、雪姫は仁の方に顔を向けると優しい笑みで言った。
「良かった......仁が生きていてくれて......」
雪姫は仁の姿を視界いっぱいに捉えると膝から崩れ落ち、床へと倒れていく。その時の倒れた音は空間の隅々まで響いていった。それだけこの空間が静かであったということだ。
雪姫の体からは赤黒い血が広がっていく。床をゆっくりと染めていく。
「ゆ......き......雪姫!」
クラウンは動き出すとすぐさま刀を床に置いて、雪姫を仰向けに抱える。そして、意識を保たせるように肩を揺さぶっていく。すると、かろうじて雪姫の瞳は僅かに動いた。
――――その時、クラウンと雪姫の方へと足音が近づいたと思うとすぐさまラズリが目の前に現れた。そして、その右手には逆手に持った短剣が。
それから、ラズリは告げた。眠たそうな半目であるが、その瞳にある冷えきった感情で。
「俺っち、そんな茶番を待つほどお人好しじゃないネ。そもそも、人でもないけど。それじゃあ、サッサと死ぬネ」
「......」
「――――!」
ラズリは無言のクラウンに短剣を振り下ろそうとするとすぐに止めた。それは、全身を駆け巡るように危険信号を感じたからだ。
つまりは、今攻撃したならば死ぬのはクラウンではなくラズリの方であるということ。それは本能が感じ取った。なので、ラズリは咄嗟に距離を取る。
そして、左手で確かに首が繋がっていることを確認するとクラウンを警戒するように観察し始めた。体に感じた不安の正体を確かめるように。
一方、クラウンと雪姫の方でも動きがあった。
「おい、雪姫! 勝手に死ぬんじゃねぇ! まだ何も終わってないだろ!」
クラウンは自身のぐちゃぐちゃになっている気持ちを感じながら、今までと矛盾するような行動を取っていた。自分でも、もうわけがわからない。
ただ、わかることはここで雪姫を死なせてはならないということだ。
だから、とにかく名前を呼び続け、雪姫の意識を保たせようとする。すると、雪姫は自身の血で真っ赤に染まった手でクラウンの頬をそっと触れる。
そして、これから死ぬということを感じさせないような、嬉しそうな笑みで告げる。
「仁が......私の大切な人が生きてるよ......約束......守れたよ」
「!」
クラウンはその言葉を聞いて驚いた。なぜなら、雪姫がまだ裏切られる前に交わした約束を未だに忠実に守ろうとしていたからだ。
......いや、守ったのだろう。こうしてクラウンがどんな形であれ、生きているということは。
「雪姫が仁を守り、仁が雪姫を支える」確かに約束は果たされた。だが、雪姫はその事をまだ少し引きずっているようで、嬉しい顔から一転して申し訳なさそうな顔をした。
「でも......ごめんね......私......一回しか......守れないみたい」
「雪姫! そんなことはどうでもいい! 俺はお前が約束を果たそうが、果たすまいが関係ない! とにかく勝手に死ぬ覚悟を決めるな! まだ手はある!」
クラウンはそう言うとポーチから果実を取り出した。それは聖樹で収穫した紅い宝石のような果実だ。そして、それを雪姫の口元へと掲げる。
しかし、雪姫はその行動を静止させようと動く。
「ダメ......だよ、仁。それ......は、仁の......大切な......もの」
「今にもこと切れそうな怪我人は黙ってろ。これは俺の勝手だ。それに俺の大切なものだからこそ、使う時は俺が勝手に決める」
そして、クラウンは雪姫の口の中へと手で握って絞った果汁を流し込んでいく。しかし、雪姫にはもうろくに口を動かす余裕もないのか、口の端から漏れていく。
「......仕方ない」
クラウンはそう呟くと顔を上げて、その口の中に残りの果汁を全て流し込む。そして、その果汁を飲み込まずに口の中で溜めるとそのまま雪姫の唇に唇を重ねた。
それから、無理やり口をこじあげると口に含んでいた果汁を雪姫に流し込んでいく。その突然の行動に驚いた雪姫は思わずその果汁をゴクリと飲み込んだ。
「く......あああああ!」
その瞬間、雪姫は体全身が痺れるような感覚に襲われた。だが、先ほどまで血を流しすぎて、寒さを感じていた腹部から胸の辺りは温かさを取り戻していく。
その温かみに安心したのか眠るように気絶した。そんな雪姫の様子をクラウンは見つめ、肺が上下していることを確認すると思わず安堵の息を吐いた。
『――――憎め』
『凶気度が 10 上がりました。現在の凶気度 85 』
その時、クラウンの脳内に言葉が流れ込んだような気がした。そして、その瞬間に自分でもわからないほど怒りと憎悪が湧いてくる。
クラウンの周りからは闇を表しているような黒い魔力が渦をまくように動いていく。そして、その魔力が溢れ出ると周りにあった床の破片などはカタカタと揺れ動き出す。
その渦によって出来た風は王の間の窓をガタガタと押し付けていき、この場の空気は増す増す冷え込んでいく。
すると、クラウンは雪姫を邪魔にならないところの壁へと運んで、寄りかからせると元の位置に戻って刀を拾った。その時も魔力はクラウンを中心に渦巻いていく。
そして、その魔力はクラウンの腕それぞれにまとわりつくと凶悪で黒黒しい肘まである篭手を作り出した。また、その闇の一部はクラウンの体に入り込むと首半分を闇の魔力で包んでいく。
クラウンはラズリに向かって顔を上げると右手に持った刀を突き出して告げる。
「死ね」
その時の顔は左半分が闇の魔力で包まれていて、左目は紅く輝いていた。
――――クラウンは一気に向かっていく。床を確実に踏み込んで、砕けで出来た瓦礫を撒き散らしながら。
そして、すぐさまラズリの正面に現れると刀を素早く横に振るった。その攻撃に対し、ラズリは短剣でしっかりと受け止めた。
だが、その一撃は自身で耐えられる力をゆうに超えていて、簡単に吹き飛ばされ壁へと叩きつけられる。そこへすぐにクラウンは斬撃を放っていく。
その斬撃は床を抉りながらラズリのいる方へと向かっていく。そしてそのまま、王の間の壁に風穴を作るように城の外へと通り抜けていく。
「調子に乗るなネ!」
たが、その斬撃を避けていたラズリはすぐさまクラウンの背後を取り、右手の短剣を突き出した。しかし、その攻撃はすぐさまクラウンに反応された。
クラウンは右腕を折りたたみ、背後に向かって振るう。すると、クラウンの右肘によってラズリの右腕は弾かれる。それから、右脇腹へと体が曲がるような強烈な左足の蹴りの一撃が入った。
しかし、ただでは転ばないとラズリは左手に持った短剣を投げた。だが、それはクラウンの左腕によって防がれる。
「クソ......」
ラズリはダメージを減らすよう上手く着地すると思わず愚痴をこぼした。それは今のクラウンに恐怖がないからだ。
怒りや憎しみに感情を任せて攻撃を仕掛けているような形。その状態ではラズリの魔法は効かないからだ。
なので、やり方を変える。トラウマレベルの記憶は潜在的な感情を呼び起こすことを利用して。
「お前っち、俺っちの攻撃に反応できて嬉しいかネ。けど、それは俺っちがまだお前っちに本気を出していない証拠ネ。思い出すネ、お前っち達が俺っちの動きに手も足も出な買った時のことを。また、同じようになるネ......あの時の人族のように」
「な......んだとおおお!」
「......かかったネ」
クラウンはラズリの言葉にあの時の記憶を思い出した。そして、思わずあの時のラズリの絶対的な強さの恐怖も思い出した。
その事を使用している魔法で感知するとラズリは思わずほくそ笑む。これでもうクラウンが自分の姿を捉えられることは出来なくなったからだ。
そして、ラズリはまっすぐクラウンに走り出していく。その時の速さは先ほどと変わらない。しかし、クラウンは動き出していなかった。まるで敵を見失ったかのような顔をして。
「ぐはっ!」
ラズリはクラウンにお返しとばかりの上段蹴りをクラウンの顔面に当てていく。すると、クラウンは無抵抗のまま壁にクレーターを作りながら激突した。
ここで、ラズリはまたしても同じ速さで走り出す。しかし、クラウンは顔をキョロキョロとさせてラズリの姿を探していた。
「遅いネ」
「くはっ!」
ラズリが笑いながら目の前に現れるとクラウンは驚いた表情をしていた。そんなクラウンのあごを蹴りあげると死に体のクラウンの両肩に、右手の短剣と新たに袖から取り出した左手の短剣を刺していく。
そして、壁に固定すると思いっきり蹴りこんだ。その一撃はクラウンの背後の壁もろともクラウンを外へと吹き飛ばした。
クラウンは瓦礫とともに血を吐きながら空中をただよう。しかし、すぐに吹き飛ばされた位置に糸を飛ばすと一気に引き戻し、その勢いでラズリに蹴りこんでいく。
しかし、その攻撃は簡単に避けられる。だが、不利な位置から復帰することには成功した。
クラウンはそう思うと刀を支えにしながら呼吸を整えていく。そして、〈気配察知〉に意識を集中させた。
するとその時、クラウンの目の前に突如として現れたラズリはニヤついた笑みで告げる。
「お前っちに希望なんてないネ。あるのは絶望のみ。それを死ぬまで味わうネ」
そう言うとラズリは両手の短剣をクラウンに投げた。だが、クラウンはそれを最小限で避けていく。
しかし、ラズリの狙いはその短剣の攻撃ではなかった。むしろその後の攻撃。
ラズリは投げたままの両腕で、互いの手のひらを思いっきり叩き合わせる。すると、その手からは眩い光が放たれた。
そして同時に、多大なる熱量を持って。
「あ"あ"あ"あ"あ"!」
クラウンは目を覆い尽くす白い光景に全てを包み込まれ、焼けるような痛みを感じ――――失明した。
そしてラズリの言葉通り、クラウンの視界には無限の絶望が広がった。
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