神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~

夜月紅輝

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第5章 道化師は憎む

第109話 女子会

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『どうしたの?......海堂君?』

 自分の声だ。震えたように言う自分の声。

『違う......これは違うんだ。俺じゃない』

 大教会の神の像の前では重たく、冷たい空気が漂っていた。そして、そこには教皇と海堂君、それから一人の男性。

 知っている。

 自分は見てしまったあまりの光景に思わず口を覆う。それは海堂君が一人の床で横になっている男性を抱えていたこと。そして、その男性の左胸には短剣が刺さっている。

 それも知っている。

 そのことに自分は咄嗟に聞いた。それから、返ってきたのは海堂君の動揺と悲痛が混じった声であった。

 そして、その言葉を聞いてもすぐに言葉が出てこなかったことを知っている。それがおそらくいけなかったことも。

 すると、教皇が言った。

『こ、これは海堂様が突然に......あまりの行動に私も動けなくて......ただ

『え、嘘......』

『違う! 俺はやっていない! 信じてくれ!』

 自分は海堂君の必死な抗議の声を聞きながらも、教皇の言葉を一瞬鵜呑みにしたことを知っている。

 その時、自分は自分の体が一瞬硬直するような感覚に襲われたことも。そして、すぐに体が楽になることも。

 全てを知っている。

 自分は咄嗟に声をかけようとした。だが、出た言葉は真逆の言葉であったことも。

『殺したんだ......どうして殺したの?』

『!......だから、殺してないって言ってるだろ!』

『殺した人は大抵そう言うんだよ。それで、どうして殺したの?』

『......っ!』

 全てを覚えている。

 自分は言った、フォローも慰めも何もない無慈悲な追及を。もちろん、自分が意図したわけではないとしても。

 だが、言ったことを覚えている。そして、見ていた―――――――――海堂君の姿を。

 目の前に見えている海堂君は酷く怯えたような目をしていた。まるで捨てられた子犬のように。

 その目からは不審、恐怖、怒り、などの様々な負の感情が伝わってくるようだった。なのに、自分の声は酷く穏やかで――――――冷たかった。

 ああ、忘れるはずもない。

『答えられないんだね。それはそうだよね。だって、殺したんだもの。その事実を変えることは出来ないんだよね』

『だ、だから......ちが......』

『何が違うの? 私は知っているよ? その短剣は海堂君が持っていたものだって』

『そ、それは......』

 海堂君は思わず押し黙る。そして、悔しそうに唇を噛み、男性を抱えている手を強く握った。そんな仁の姿を自分は冷ややかな目で見つめていた。

 そして、自分は海堂君へと告げる。

『皆にも教えてあげなくちゃね』

 忘れるはずもない始まりの地獄。これがどれほど海堂君にとって、生き地獄だったか知る由もない。

**********************************************
「はっ!......はあはあはあ.....」

「あら? お目覚めかしら? 随分と苦しそうな表情をしていたけど大丈夫?」

「え? あ、はい......大丈夫です。あの......何か変なことを言ってませんでしたか?」

「いや、何も言ってないわよ?」

 朱里はふと目を覚ました時には目の前に広がる空には夜空の星々が。そして、感じる空気は夢の時とは違い軽く、温かい。

 そんな空気を朱里は肺へと思いっきり空気を送り込み、吐いていく。あの夢の時とは呼吸が楽で空気が美味しい。

 すると、隣にずっといたのかリリスが気さくに声をかけてきた。なので、不自然にならないように返答していく。

 朱里はここで僅かに手が震えていることに気付いた。やっぱり、そうか......あの夢はただの夢ではなかったんだ。

 夢ではあることにはかわりない。だが、過去のあの出来事をなぞるような夢であった。現実味を帯び過ぎていて、でも嘘くさくなくて、あのままの出来事に言動。

 やっぱり、自分はあの時のことを悔やんでいるらしい。どうしてそんなことを言ったのかわからない。しかし、言ったことには変わりない。

 朱里は思わず拳に力が入る。そして、唇を噛み、眉間にしわが寄る。悔しさが滲み出てくる。自分が、自分があんなことを言わなければ、こんな結果にはならなかった。

 こんな夢を見たのはきっと仁に会ったからであろう。そう考えるのが普通で、そう考えるのが当然だ。

 すると、朱里の背中に温かい何かが乗せられた。そして、その何かは隣から伸びていた。

 それが手であると気づいた時には、リリスが声をかけてきた。

「落ち着いて。とりあえずもう一度深呼吸してみなさい。そして、周りをよく見るのよ。今は暗いことを考えていて視野が狭くなってるの。そういう時は、自主的に意識して周りを見なさい。そうすれば、少なくとも深く考え過ぎることはないわ」

「......分かりました」

 朱里は言われた通りに深く呼吸をした。それを2,3回繰り返す。そして、意識するように周りを見渡した。

 すると、目の前に広がるは、木々の隙間から刺す優しい月の光。その光とともに多数のオーブのようなものが空気中に漂う。それは昼間にはなかった光景だ。

 その二つの光によって、エルフの集落は明るすぎることもなく、暗すぎることもなく体に染み込むような明るさ。

 その中をエルフの人々は外で食事をしながら楽しんでいる。そんな光景は朱里にとってとても新鮮であった。

「ほら、今は考えなかったでしょ?」

「はい、考えませんでした......」

 朱里は少しだけ胸をなでおろす。一先ず考え過ぎによって固まっていた肩の力は抜けた。これでだいぶ気分は楽になった。

 するとその時、朱里のお腹の虫が恥ずかしそうに鳴った。その瞬間、朱里の頬は一気に赤みを帯びていく。

 そんな朱里の様子を見て、リリスは思わず笑みをこぼした。

「ふふっ、お腹が空いたわね。私も後少しで鳴りかけていたのよ。時間もいい具合だから、夕食にしましょう?」

「あ、でも、海堂君が......」

「クラウンはカムイにでも任せとけば何とかなるわよ。それよりも、私は朱里と話して見たかったのよ。特にもとの世界のことをね。クラウンは聞かせてくれないから......ほら、行くわよ!」

「あ、え、待って―――――――」

 リリスは立ち上がると朱里の手を掴んだ。そして、無理やり引っ張らせて立ち上がらせる。それからそのまま、リリスは集落の中心地まで歩いて行った。その後ろをロキはついて行く。

**********************************************
「それでは第3回ドキッ女子だけの食事会を始めるわよ!」

 エキドナは酒瓶を持って景気よく宣言した。

 現在、リリス達は大きめの丸机をリリス、エキドナ、ベル、朱里の四人で囲っている。

 位置的に言えば、朱里の右側にリリス、左側にベル、正面にエキドナだ。それから、ロキがリリスと朱里の間で横になっている。

 すると、リリスがエキドナの宣言に突っ込んだ。

「それって女子会って言うんじゃ......」

「細かいことを気にするのは野暮です。それよりも、早く食べるです」

「ウォン」

「まあまあ、待ってちょうだい。まだ緊張している子がいるみたいだから」

 そうエキドナが言う視線の先には朱里が緊張した面持ちで座っていた。それは自分がなんだか場違いのような気がして。

 だが、リリス達に限っては違うようなので、なんだかそれが余計に緊張を増幅させる。自分は敵だと思われてるはずではないのだろうか。

 敵ならば、自分が眠っている時に何かしたはず。しかし、特に何かされたような形跡も、感じもしない。なら、少なくともこの人達には敵意はないと思っていいのだろう。

 となれば、この人達にお願いを聞いてもらえるかもしれない。もちろん、可能性の範囲ではあるが。

「ふぅー、大丈夫です。食事を楽しみましょう」

「ふふっ、なら、次からは砕けた感じで話して大丈夫よ。そっちの方が私達も楽だから。ちなみに、ベルちゃんは語尾がです調だから気にしなくていいわ」

「ですです!」

「わかり......わかった」

「それじゃあ、飲むわよ! 盛大にね」

「いや、ほどほどよ」

 それから、本格的な女子会が始まった。しばらくは色々なことを話した。

 リリスは上手い料理の作り方だったり、ベルは獣王国の文化だったり絵だったり、エキドナはいろんな旅をした経験談だったり、朱里はもとの世界がどんな感じであったかを話したり。

 それはそれは明るい食事であった。朱里自身も久々に食事を楽しんでいた。しっかりと舌で味を感じていた。

 そして、女子会もたけなわといったところで、リリスがついに切り込んだ。

「それじゃあ、朱里。少し言いたいことがあるのだけど、いいかしら?」

「うん、いいけど......」

「私のこと本当に覚えてないのよね?」

 リリスは真面目な表情で朱里に聞いた。だが、朱里には全くとはいかないが、あまり身に覚えがなかった。

 すると、その反応を見たリリスは指輪からあるものを取り出す。そして、それを目元へと掲げた。

「!」

 その瞬間、朱里は目を見開いた。それはあの襲撃の夜に見た目元に仮面をつけた女性の姿であったからだ。

 今思えば、確かにその人物がいたことを失念していた。ただ、その時はその女性を闇人の誰かだと思っていて......でも、違った。

 その時、同時に朱里は思い出した。クラウン達と衝突した時に聖騎士が言った言葉を。ということは、リリスかエキドナかどちらかが魔族ということになる。

 魔族は自分達の敵。

 朱里は咄嗟にガタッと席から立ち上がった。そして、警戒するように距離を取ろうとする。するとその時、仮面を外したリリスは言った。

「ごめんなさい。私は魔族。あの時はあなた達とクラウンの関係をよく知らなくて、勝手なことをしていたわ。そうすれば、再会の時ももう少し穏便にいけたかもしれないわね」

「......!」

 朱里は思わず動揺した。それは親切にしていたリリスが魔族であることを告げたこともあるし、あの時について謝ったことにもだ。

 魔族は残忍で、狡猾だということを教皇から聞いていた。しかし、少なくとも接したリリスからの印象からはそうは感じなかった。

 それに頭を下げているリリスからも何かを企んでいるような悪意は感じられない。ただ、自分がそう感じているだけかもしれないが。

 だが、一先ず敵意は感じられない。そう判断した朱里は席に座り直した。

「どうして急にそれを?」

「私が個人的に言った方がいいと判断しただけよ。あの時はクラウンとの関係も深くなかったから......協力関係として動いていただけ」

 リリスはそう告げると再び朱里に目線を合わせた。そして、聞いた。

「それで図々しいお願いとわかってるけど、朱里とクラウンとの間に何があったか教えてくれない?」
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