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第5章 道化師は憎む
第108話 リリスの企み
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「待ってください! 私は本当に突然ここに現れただけなんです! だから、別に危害を加えるつもりは無いんです! 大人しくし.....ます......から.....」
「......」
クラウンは突然の来訪者である朱里と目を合わせた。合わせてしまった。
その瞬間、クラウンから殺気から漏れ出てくる。それも勝手に。それは仕方ない、響との戦闘から一日しか経っていないのだから。
そして、クラウン自身は響達と決別した。大体どうやってここに至ったのかは想像がつくが、そんなことは今は関係ない。
「......っ!」
クラウンは酷く歯を食いしばり、拳を強く握りしめる。そして、必死に感情に起伏を押さえながら、朱里に対して背を向け、歩き出す。
すると、そんなクラウンに朱里が声をかける。
「待って、海堂君! 私の話を聞いて! 私は本当にただここに辿値ついただけなの! お願い助けて!」
「助けて......だと?」
クラウンはその言葉を聞いた瞬間、立ち止まる。そして、拳はより力強く握ったせいで流血し、額には青筋が走る。
森はざわめき、草花は怯える。この場の雰囲気がクラウンの殺気と共に息苦しくなり、寒気さえ感じる。
そして、クラウンは朱里の方へとゆっくりと振り返ると告げた。
「どの口がそんな言葉を吐いてんだ? 俺の今があるのは元はと言えば、まずお前が俺を見捨てたからだろうが! お前はあの時を惨状を見て、俺が殺したと決めつけた! だから、お前らを憎む俺がいるんだろうが! それでどの面下げて、俺に助けろだと!? ふざけるな!」
「......っ!」
「皮肉なものだが、あの時のお前がいたから、俺はあいつらに出会えている。どっちが良かったなんて今はわからない。だが、それでも今の俺を形作ったのはお前らの裏切りも含まっている。今更どうこう出来ると思うなよ?」
「でも、私は......」
「お前らの顔を見ると殺したくなる。死にたくなかったら、俺に顔を合わせるな。俺も合わせる気はない」
クラウンはそう言うと背後を向け、少し森の外れへと歩き出した。
その姿を見て朱里は膝から崩れ落ちる。そして、希望を失ったかのような表情をしながら、四つん這いになるように地面に手を付けた。
あの時の自分の行いが招いた結果がこれだというのなら、一体どれだけ悔やめばいいのだろうか。朱里にはその気持ちが計り知れなかった。
ただ、それを感じる間もないほど朱里の目の前には暗闇が広がっていた。光など微塵も見えることはない。
そんな朱里の様子に周りにいたエルフ達も困惑の表情を浮かべる。もともとは敵だと思って、だが人族であったため連れて来れば、クラウンがその人物と実に険悪な空気を発生させた。
クラウンと何らかの関係があることはわかったが、そこに下手に触れるのは危険なような気がする。
すると、そんなエルフ達にリリスが近づいて来る。そして、リリスは「後は任せて」とそのエルフ達に言うと朱里の前に立った。
それから、そっと手を差し伸べる。
「立てるかしら?」
「す、すみません」
「謝らなくていいわ。別に今は何もしてないしね。私の名前はリリス。あんたは?」
「わ、私は【橘 朱里】です」
「そう、なら朱里でいいわね。ほら、立ちなさい。乙女がいつまでも地面を眺めてないの」
リリスは無理やり朱里の手を取ると引っ張り立たせる。そして、周囲にいるベルとエキドナにアイコンタクトで「クラウンのケアは任せた」と伝える。
すると、二人は無言で頷き、クラウンが歩いて行った場所へと向かって行く。
また、リリスはカムイを一瞥するとエルフへと顔の向きを変えず、視線だけを変えた。それは「エルフの意識を逸らして欲しい」という意図だ。
その意図を理解したカムイはリリスにサムズアップする。そして、そのエルフ達へと陽気な感じで声をかけていく。
それから、リリスは朱里の手を引きながら、ある場所へと向かって行く。
「あ、あのどこに向かってるんですか?」
「そんな緊張しなくていいわよ。別に朱里に何かしようってわけじゃないから.....といっても、クラウンがああ言った手前信じてもらえるかはわからないけどね」
「......」
リリスは慣れた感じで朱里に明るく言った。その表情に朱里は思わず困惑の表情を浮かべている。
なぜなら、朱里から見たリリスの表情はまるで敵意を見せていないからだ。あのクラウンがあのような機嫌であったため、その仲間達も似たような感じだと思っていた。
それに響とクラウンが戦いに入った時も、邪魔しようとした弥人の動きを止めたため、よりそう思っていた。
だが、言ってしまえば拍子抜け。だからこそ、リリスの様子に対して、何と言えばいいかわからなかった。
そんな朱里の気持ちを察しているリリスは空いている手を口元へとつける。そして、指笛を吹いた。その瞬間、リリスのもとへとロキが走ってくる。
「ウォン!」
「きゃあ!?」
「こらこら、ロキ。初めての人だからって、興奮しないの。仲良くしようアピールもほどほどにね。あ! こら! ロキはスリスリの圧が強いんだから、私にするよりも手加減しなさい!」
「クゥ~ン」
「......ぷ、ふふっ、ははは」
近づいてきたロキは朱里の顔へと自身のモフモフの毛並みを擦り付ける。そのプッシュが強すぎて、朱里は思わずよろけてしまっている。
だが、そんなことを気にすることもなく朱里は明るく笑い始めた。その様子にリリスとロキは優しい顔になる。
だが、すぐに朱里は表情を戻した。自分の置かれている立場を理解したから。だから、咄嗟に謝罪の言葉が出る。
「す、すみません」
「はあ、別に悪いこともしてないのに謝るのはなんの美徳にもならないわよ。してないことは、はっきりとしてないって言わないと余計に拗らせるわよ。自分も相手も。だから、後悔しないよりは言ったの方が良いのよ。自分のためにも、相手のためにもね」
「そう......ですね」
「まだ、緊張しているみたいね」
リリスは朱里をサキュバスの特性でもって見てみる。すると、朱里の周囲にはピンク色の靄と黒色の靄が8:2ほどの割合で存在していた。
つまりは8割心を開いてくれていて、2割を警戒、緊張しているということだ。まあ、黒い靄には基本的に相手の自分に対する負の感情が現れるので、そればかりが理由ではないだろうが。
「それにしても、少し心を開き過ぎやしないか?」と内心で思ってしまう。
心を開いてくれているということは、言い換えれば「信用」しているという意味になるので、普通はここまで簡単に信用するものなのかと感じてしまう。
だが、それはあくまでクラウンを基準にしたものなので、ほぼほぼ参考にはならない。だから、案外こんなものなのかもしれない。
そして、リリスが連れてきたのは先ほどクラウンがいた木陰だ。その場所は日当たりと風当たりが絶妙なバランスで存在しており、とても気持ちが良いのだ。
リリス達はその場所に辿り着くとまずロキがその木陰で横になる。それから、リリスがロキを枕にするように横になる。
「ほら、あんたも来なさい」
「気持ちは嬉しいですけど.....」
「いいから。人の好意は素直に受け取るものよ。それにロキが来てくれないと悲しむから」
「クゥ~ン」
「......はあ、わかりました」
朱里は思わず肩の力が抜けてしまう。やはり拍子抜けという感じが抜けないからだ。もちろん、何かを探っての行動の可能性もある。
しかし、それに対してはあまりにも企みを抱いているような感じがしないのだ。なので、朱里はリリスの言葉通り素直に好意を受け取って、ロキを枕にして横になる。
温かなフワフワな感触が後頭部から伝わってくる。その熱が緊張という名の氷を溶かしていくようで、とても気持ちが良い。
それに柔らかな木漏れ日と心地よい風が顔の横をゆっくりと通り抜けていく。その絶妙な気持ち良さがどんどんと眠気を誘っていく。
「気持ちいいでしょ?」
「はい、とても気持ちが良いです。まともな睡眠が取れていないので......」
「なら、今ここで取っておきなさい。睡眠は戦いのための食事と同等の良質な糧よ。それを欠いてはいざという時に力を発揮できないわ」
「そう......です......ね......」
朱里は目をとろんとさせ、段々と瞼が重たくなっていく。そして、リリスが気づいた時には心地よい寝息を立てて眠っている。
その顔は実に幸せそうで、クラウンと会話した時に見せた顔とは段違いだ。しかし、それでいいのだ。それこそ良質な睡眠というもの。
「ふぅー、やっと寝たわね。全く隈が酷いのよ。同じ乙女としてもズボラすぎるわ」
「ウォン」
「わかってるわよ、何が原因くらいは。十中八九、いやほぼ100%クラウンに関することだものね。それぐらいの察しはあの戦いを見ればわかる」
リリスはふとその時の記憶を思い出し、ため息を吐いた。それはリリス達が許容できる悪意を超えてしまっているため。
前まではリリス達が何とかすることでクラウンの悪意は抑えられた、だが、勇者に会ったことで悪意の本流と言うべきものが顔を覗かせた。
クラウンから取り除いたと思っていた悪意は取り除けていなかった。ただ、そう思わせてなりを潜めていただけ。
しかし、それを今どうすることも出来ない。現状、クラウン自身が無意識で何とか抑えてくれているだけで、何がキッカケで溢れ出るかもわからない。
そのままでいいかと問われれば、もちろん良くないが、今はベルとエキドナに少しでもマシな状態に戻してもらえるよう願うだけ。
そしてまた、クラウンを良くするにはクラウンの過去に迫る必要がある。そのためにはクラウンとより長く接してきた人が必要だった。
本当のところは「雪姫」という人物が良かった。その人物がクラウンに対して、一番に思いの籠った感情を見せていたから。
しかし、いないのなら仕方ない。この朱里という人物もクラウンの過去には何やら関係が深いようだし。
「それじゃあ、しばらくグッスリとしていてね。その睡眠がとっても大切なカギを握るかもだから」
そう言うとリリスは朱里の額へとそっと手を伸ばしていく。そして、その額に手を付けると魔法を発動させる。
「おやすみ。少し苦しいけど、良質な睡眠を」
「......」
クラウンは突然の来訪者である朱里と目を合わせた。合わせてしまった。
その瞬間、クラウンから殺気から漏れ出てくる。それも勝手に。それは仕方ない、響との戦闘から一日しか経っていないのだから。
そして、クラウン自身は響達と決別した。大体どうやってここに至ったのかは想像がつくが、そんなことは今は関係ない。
「......っ!」
クラウンは酷く歯を食いしばり、拳を強く握りしめる。そして、必死に感情に起伏を押さえながら、朱里に対して背を向け、歩き出す。
すると、そんなクラウンに朱里が声をかける。
「待って、海堂君! 私の話を聞いて! 私は本当にただここに辿値ついただけなの! お願い助けて!」
「助けて......だと?」
クラウンはその言葉を聞いた瞬間、立ち止まる。そして、拳はより力強く握ったせいで流血し、額には青筋が走る。
森はざわめき、草花は怯える。この場の雰囲気がクラウンの殺気と共に息苦しくなり、寒気さえ感じる。
そして、クラウンは朱里の方へとゆっくりと振り返ると告げた。
「どの口がそんな言葉を吐いてんだ? 俺の今があるのは元はと言えば、まずお前が俺を見捨てたからだろうが! お前はあの時を惨状を見て、俺が殺したと決めつけた! だから、お前らを憎む俺がいるんだろうが! それでどの面下げて、俺に助けろだと!? ふざけるな!」
「......っ!」
「皮肉なものだが、あの時のお前がいたから、俺はあいつらに出会えている。どっちが良かったなんて今はわからない。だが、それでも今の俺を形作ったのはお前らの裏切りも含まっている。今更どうこう出来ると思うなよ?」
「でも、私は......」
「お前らの顔を見ると殺したくなる。死にたくなかったら、俺に顔を合わせるな。俺も合わせる気はない」
クラウンはそう言うと背後を向け、少し森の外れへと歩き出した。
その姿を見て朱里は膝から崩れ落ちる。そして、希望を失ったかのような表情をしながら、四つん這いになるように地面に手を付けた。
あの時の自分の行いが招いた結果がこれだというのなら、一体どれだけ悔やめばいいのだろうか。朱里にはその気持ちが計り知れなかった。
ただ、それを感じる間もないほど朱里の目の前には暗闇が広がっていた。光など微塵も見えることはない。
そんな朱里の様子に周りにいたエルフ達も困惑の表情を浮かべる。もともとは敵だと思って、だが人族であったため連れて来れば、クラウンがその人物と実に険悪な空気を発生させた。
クラウンと何らかの関係があることはわかったが、そこに下手に触れるのは危険なような気がする。
すると、そんなエルフ達にリリスが近づいて来る。そして、リリスは「後は任せて」とそのエルフ達に言うと朱里の前に立った。
それから、そっと手を差し伸べる。
「立てるかしら?」
「す、すみません」
「謝らなくていいわ。別に今は何もしてないしね。私の名前はリリス。あんたは?」
「わ、私は【橘 朱里】です」
「そう、なら朱里でいいわね。ほら、立ちなさい。乙女がいつまでも地面を眺めてないの」
リリスは無理やり朱里の手を取ると引っ張り立たせる。そして、周囲にいるベルとエキドナにアイコンタクトで「クラウンのケアは任せた」と伝える。
すると、二人は無言で頷き、クラウンが歩いて行った場所へと向かって行く。
また、リリスはカムイを一瞥するとエルフへと顔の向きを変えず、視線だけを変えた。それは「エルフの意識を逸らして欲しい」という意図だ。
その意図を理解したカムイはリリスにサムズアップする。そして、そのエルフ達へと陽気な感じで声をかけていく。
それから、リリスは朱里の手を引きながら、ある場所へと向かって行く。
「あ、あのどこに向かってるんですか?」
「そんな緊張しなくていいわよ。別に朱里に何かしようってわけじゃないから.....といっても、クラウンがああ言った手前信じてもらえるかはわからないけどね」
「......」
リリスは慣れた感じで朱里に明るく言った。その表情に朱里は思わず困惑の表情を浮かべている。
なぜなら、朱里から見たリリスの表情はまるで敵意を見せていないからだ。あのクラウンがあのような機嫌であったため、その仲間達も似たような感じだと思っていた。
それに響とクラウンが戦いに入った時も、邪魔しようとした弥人の動きを止めたため、よりそう思っていた。
だが、言ってしまえば拍子抜け。だからこそ、リリスの様子に対して、何と言えばいいかわからなかった。
そんな朱里の気持ちを察しているリリスは空いている手を口元へとつける。そして、指笛を吹いた。その瞬間、リリスのもとへとロキが走ってくる。
「ウォン!」
「きゃあ!?」
「こらこら、ロキ。初めての人だからって、興奮しないの。仲良くしようアピールもほどほどにね。あ! こら! ロキはスリスリの圧が強いんだから、私にするよりも手加減しなさい!」
「クゥ~ン」
「......ぷ、ふふっ、ははは」
近づいてきたロキは朱里の顔へと自身のモフモフの毛並みを擦り付ける。そのプッシュが強すぎて、朱里は思わずよろけてしまっている。
だが、そんなことを気にすることもなく朱里は明るく笑い始めた。その様子にリリスとロキは優しい顔になる。
だが、すぐに朱里は表情を戻した。自分の置かれている立場を理解したから。だから、咄嗟に謝罪の言葉が出る。
「す、すみません」
「はあ、別に悪いこともしてないのに謝るのはなんの美徳にもならないわよ。してないことは、はっきりとしてないって言わないと余計に拗らせるわよ。自分も相手も。だから、後悔しないよりは言ったの方が良いのよ。自分のためにも、相手のためにもね」
「そう......ですね」
「まだ、緊張しているみたいね」
リリスは朱里をサキュバスの特性でもって見てみる。すると、朱里の周囲にはピンク色の靄と黒色の靄が8:2ほどの割合で存在していた。
つまりは8割心を開いてくれていて、2割を警戒、緊張しているということだ。まあ、黒い靄には基本的に相手の自分に対する負の感情が現れるので、そればかりが理由ではないだろうが。
「それにしても、少し心を開き過ぎやしないか?」と内心で思ってしまう。
心を開いてくれているということは、言い換えれば「信用」しているという意味になるので、普通はここまで簡単に信用するものなのかと感じてしまう。
だが、それはあくまでクラウンを基準にしたものなので、ほぼほぼ参考にはならない。だから、案外こんなものなのかもしれない。
そして、リリスが連れてきたのは先ほどクラウンがいた木陰だ。その場所は日当たりと風当たりが絶妙なバランスで存在しており、とても気持ちが良いのだ。
リリス達はその場所に辿り着くとまずロキがその木陰で横になる。それから、リリスがロキを枕にするように横になる。
「ほら、あんたも来なさい」
「気持ちは嬉しいですけど.....」
「いいから。人の好意は素直に受け取るものよ。それにロキが来てくれないと悲しむから」
「クゥ~ン」
「......はあ、わかりました」
朱里は思わず肩の力が抜けてしまう。やはり拍子抜けという感じが抜けないからだ。もちろん、何かを探っての行動の可能性もある。
しかし、それに対してはあまりにも企みを抱いているような感じがしないのだ。なので、朱里はリリスの言葉通り素直に好意を受け取って、ロキを枕にして横になる。
温かなフワフワな感触が後頭部から伝わってくる。その熱が緊張という名の氷を溶かしていくようで、とても気持ちが良い。
それに柔らかな木漏れ日と心地よい風が顔の横をゆっくりと通り抜けていく。その絶妙な気持ち良さがどんどんと眠気を誘っていく。
「気持ちいいでしょ?」
「はい、とても気持ちが良いです。まともな睡眠が取れていないので......」
「なら、今ここで取っておきなさい。睡眠は戦いのための食事と同等の良質な糧よ。それを欠いてはいざという時に力を発揮できないわ」
「そう......です......ね......」
朱里は目をとろんとさせ、段々と瞼が重たくなっていく。そして、リリスが気づいた時には心地よい寝息を立てて眠っている。
その顔は実に幸せそうで、クラウンと会話した時に見せた顔とは段違いだ。しかし、それでいいのだ。それこそ良質な睡眠というもの。
「ふぅー、やっと寝たわね。全く隈が酷いのよ。同じ乙女としてもズボラすぎるわ」
「ウォン」
「わかってるわよ、何が原因くらいは。十中八九、いやほぼ100%クラウンに関することだものね。それぐらいの察しはあの戦いを見ればわかる」
リリスはふとその時の記憶を思い出し、ため息を吐いた。それはリリス達が許容できる悪意を超えてしまっているため。
前まではリリス達が何とかすることでクラウンの悪意は抑えられた、だが、勇者に会ったことで悪意の本流と言うべきものが顔を覗かせた。
クラウンから取り除いたと思っていた悪意は取り除けていなかった。ただ、そう思わせてなりを潜めていただけ。
しかし、それを今どうすることも出来ない。現状、クラウン自身が無意識で何とか抑えてくれているだけで、何がキッカケで溢れ出るかもわからない。
そのままでいいかと問われれば、もちろん良くないが、今はベルとエキドナに少しでもマシな状態に戻してもらえるよう願うだけ。
そしてまた、クラウンを良くするにはクラウンの過去に迫る必要がある。そのためにはクラウンとより長く接してきた人が必要だった。
本当のところは「雪姫」という人物が良かった。その人物がクラウンに対して、一番に思いの籠った感情を見せていたから。
しかし、いないのなら仕方ない。この朱里という人物もクラウンの過去には何やら関係が深いようだし。
「それじゃあ、しばらくグッスリとしていてね。その睡眠がとっても大切なカギを握るかもだから」
そう言うとリリスは朱里の額へとそっと手を伸ばしていく。そして、その額に手を付けると魔法を発動させる。
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