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間章 勇者の絶望
第93話 ガルドの計らい
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スティナ、雪姫、朱里の3人が処刑のあった日の朝に思わぬ遭遇をしていた一方で、響の方にも動きがあった。
響のその日の朝は毎回目覚めが悪かった。目元には隈が出来、僅かに体のだるさが残る。
普段は思い出さなくなった処刑の光景もその日限りは違う。自分の意志に関係なく体が勝手に思い出す。
「行かなきゃ.......」
響はベッドから降りると窓へと歩いていく。そして、カーテンを思いっきり開ける。
陰鬱な空気もこの部屋の薄暗さが原因だ。しかし、窓から刺す朝日を浴びても気分が晴れることはなかった。
分かっている、こうしても気分が晴れないことは。ただこれで気分が晴れるのなら、それが一番であっただけ。
響は光を背にして歩き出す。そして、クローゼットから身軽な服を取り出すとそれに着替えていく。
着替え終わるとタオルと木剣を持って扉へと移動していく。向かう場所は修練場だ。その場所はこの世界に来た時からほぼ毎日行っている。
最初は皆のために、自分が勇者であるから先導して行けるようにと頑張るために行っていた。
しかし、いつからだろうか、行くことが義務だと感じてしまったのは。
自分に休んでいる時間はないと思うようになったのは。スティナは「休むことも大事」と諭してくれた。
しかし、いまいちそんな気分には慣れない。今もずっと心が満たされることはない。
響は若干の寝不足のせいか少しだけ覚束ない足取りで部屋から出る。そして、廊下の窓から刺す陽の光を避けるように歩いていく。
もう自分は勇者と言えるのだろうか。勇気も自信もまるで持ち合わせていない自分が。強くいれたのは友の存在があったから。
いつまで経ってもうだうだしているのは良くないけど、そう思ってしまう。
「随分と精が出るな」
「......ガルドさん?」
その時、響の後ろから声がかけられる。響はふらついた足取りで後ろに振り返ると腕を組んでハツラツとした顔のガルドの姿があった。
その姿を見ると響はすぐに仮面を取り付ける。今の弱った姿は見せられない。ガルドには迷惑をかけられない。
「おはようごさいます、ガルドさん。こんな朝早くに珍しいですね」
「昨日は非番でな、久々に友と遅くまで飲んでいたんだ。そしたら、いつの間にか朝日を迎えちまってな。そうなると、兵士としての癖か眠気が湧いてこないんだよ。だから、せめて巡回でもしてようかと思った矢先にお前に会ったんだ」
「そうだったんですね......」
響はガルドから出た「友」という言葉に思わずとっかかりを感じてしまった。
ガルドは処刑の日はいなかったので、今日が何の日かを知らないと思われる。だから、今のは意図せず出した言葉なのだろう。
しかし、響にとってはタイムリーな話題だ。なので、思わず外れかけた仮面を見せぬように足早に去ろうとする。
「それでは、僕は今から修練場に向かうのでこの辺で」
そして、響はガルドに軽くおじぎするとすぐに後ろに振り返り歩き出す。しかし、その行動はガルドの言葉によって防がれた。
「そうか。それじゃあ、たまには俺が相手してやるよ。最も今のお前じゃあ、俺なんて相手にならんとはうがな」
「......ありがとうございます。助かります」
―――――――――修練場
広く整地された土地にやや強い風が吹く。すると、その風は地面の砂埃をそっと巻き上げていく。
照り付ける太陽の日差しが修練場へと降り注ぐ中、響とガルドは立っていた。
二人は互いに木剣を構えていて、いつでも動けるように足を肩幅に広げながら、間合いを測っていく。
最初に動き出したのは、響であった。響はあえて大きく木剣を振り上げると一気に振り下ろす。
それをガルドは受け止めると滑らせていく。そして、空いている脇腹へと遠心力を活かした回し蹴りをした。
しかし、響はその攻撃をバク転で避け、後ろへと距離を取って行く。
次に動いたのはガルドであった。ガルドは風を切るように一歩一歩を踏み込んでいくと響に直進する。そして、腕を大きく引きながら、足を思いっきり踏み込む。
それから、一気に木剣を突き出した。すると、その突きは響の顔のすぐそばを通り抜けていく。その突きの勢いで僅かに響の髪先が宙に舞う。
「邪念が多すぎだ。集中しろ」
「......はい」
響は思わず動けなかった。それはガルドの言葉通りの意味で。だからこそ、思わず暗い顔で俯く。
すると、ガルドは木剣を下げ、左手を響の肩へと置いた。その手は大きくゴツゴツとしていて、歴戦の重みがあるようだった。
「響、お前の剣にはブレがある。前に教えたよな『剣は心を映し出す』と。先ほどの一撃で俺にはわかる。今のお前には無心になれない何かがあると。そんな状態でやってもケガするだけだ。そのような調子で修練するぐらいなら、今日はやめた方がいい」
「.......いいえ、やります。今の僕には休んでいる時間はないので。少し時間をもらえませんか?」
「.......わかった」
響の言葉にガルドは深いことを尋ねなかった。ただ響の揺らぐ顔を見て、「自分が悩んで決めるのならその方がいい」と判断したからだ。
そして、ガルドは様子を見るように距離を取る。
「すー......ふぅー......」
響は目を閉じるとゆっくりと深呼吸を始めた。
目を閉じると見えるのは、もとの世界で仁と楽しく話していた日々、召喚された後も魔法のことで話し合ったり、魔物を殺すことを経験したりそんな光景。
だが、すぐにその光景は、写真を火で燃やすかのように消えていく。
そして、強調するように映像が流れてくる。
それは一生見ることはなかったであろう仁の絶望に染まった顔に、生きて戻ってきた時の殺意の籠った瞳。
そして、幼馴染の倉科に手を上げるほどの無慈悲な心。
『僕は失望したよ。仁がそんな奴だったなんて』
『響、信じてくれ!俺は本当に何もしてないんだ!』
『大概やった奴はそういうだろ。罪を被りたくないからってそれはない』
『だから、違うって―――――――――――』
『もううんざりだ。その言葉は聞き飽きた。お前は僕の友達なんかじゃない。二度と思うこともない』
響は思わず歯を噛みしめる。心なしか肌に感じる空気も冷たい。これは自分が仁に対して言った辛辣な言葉。
これが自分の口から出た言葉だとは自分でも信じたくないことだ。だが、言ったことは事実。それは自分自身が一番に分かっている。
思わず剣を握る拳に力が入る。自分に対しての怒りが手を伝って剣をブレさせる。
しかし、この怒りをコントロールして、冷静に沈めないといつまで経っても剣を持つことは出来ない。たとえ持ってても、相手の攻撃ですぐに剣は弾かれる。
響はもう一度深呼吸する。感じる冷たい空気をゆっくりと肺の中に送り込む。
響は自分が今すべきこと、これからすべきことを考えていく。
自分が今やるべきことは強くなること。これからやるべきことは仁と和解して、魔王を倒しもとの世界に帰ること。
すると、自然と体温が引いていくような気がして、思考がクリアになっていく。
「心が落ち着いたみたいだな。剣がブレてない」
「時間がかかってすいません。もう一度手合わせお願いします」
「いいぞ。これは油断ならないな」
ガルドは響の目を見ると僅かに口角を上げる。そして、木剣を構えた。その動きに呼応するように響も剣を構えた。
その空間に吹いていた風は次第に弱くなり、照り付ける太陽の日差しでさらに気温が上昇していく。
その場で立っているだけで僅かに汗をかいてくるほどだ。しかし、二人とも涼しい顔で向かい合っていた。
「行きます」
「来い」
響は一気に駆けだした。目にも止まらぬ速さでガルドへと急接近していく。
そして、間合いに入ると左から右にかけて剣を横に振るった。その瞬間、左手を離しながら。その攻撃に対し、ガルドは剣を盾のように構えて受け止める。
すると、響は左手を潜り込ませ、ガルドの右手首を掴む。そして、手前に引き寄せながら、前蹴りをしてそのまま吹き飛ばす。
ガルドは地面に着くと転がりながら威力を軽減していく。それから、すぐに体勢を立て直して、立ち上がると下から上へと振り上げて斬撃を飛ばした。
響はガルドへと向かいながら、空気を切り裂き進んでくる斬撃を弾いていく。すると、ガルドも迎え撃つように砂埃を立てながら迫っていく。
そして、そこからは小細工なしの剣戟が始まった。木と木が当たる僅かに甲高い音が鳴り響く。
上から、下から、右から、左から、正面から互いに一撃を与えようと木剣を振るう。
それから変化があったのは、少ししてからであった。それはもともとの能力差で少しずつガルドが防戦一方へと追い込まれていったのだ。
現状は技術の差で僅かに余裕を持って、響が振るう木剣を受け流していく。しかし、それも時間の問題。
響がさらに攻め手を増やして来れば、さすがに対処が難しくなってくる。そして、その状態での一撃はかなり堪える可能性がある。そう判断したガルドは先にブーストをかけた。
ガルドは響の力を利用しての木剣を弾くと自身が持つ木剣から左手を離す。そして、空いた響の胴体へと左掌底を入れていく。
しかし、その攻撃を響は右腕で防ぐ。それから、左手に持った木剣をガルドの右手を狙って、風を切るように鋭く突いた。
すると、その剣はガルドの木剣を弾き飛ばし、そのまますぐにガルドの首筋で寸止めする。
「これで勝負ありです」
「参った......成長したな」
「ありがとうございます」
ガルドは右手を力強く響の肩へと乗せると喜ばしく笑った。その笑みに釣られるように響も笑う。
ガルドはもしかしたら、自分の状態に気づいていたからあえて修練相手になってくれたのかもしれない。まあ、後は単純に体を動かしたかったというのもありそうだけど。
すると、ガルドが肩に置いた右手をそのまま響の首に回した。そして、告げる。
「なあ、動いたことだし腹減ってないか?」
「減ってますけど」
「だったら、食いに行かないか?今の時間だったら、丁度開店し始めた所もあるし、俺の行きつけも開いているはずだ。行くぞ」
「え!?」
響の戸惑いをそのままに、ガルドは響を連れて歩き出す。日差しの強さはより増したように、二人に照り付けた。
響のその日の朝は毎回目覚めが悪かった。目元には隈が出来、僅かに体のだるさが残る。
普段は思い出さなくなった処刑の光景もその日限りは違う。自分の意志に関係なく体が勝手に思い出す。
「行かなきゃ.......」
響はベッドから降りると窓へと歩いていく。そして、カーテンを思いっきり開ける。
陰鬱な空気もこの部屋の薄暗さが原因だ。しかし、窓から刺す朝日を浴びても気分が晴れることはなかった。
分かっている、こうしても気分が晴れないことは。ただこれで気分が晴れるのなら、それが一番であっただけ。
響は光を背にして歩き出す。そして、クローゼットから身軽な服を取り出すとそれに着替えていく。
着替え終わるとタオルと木剣を持って扉へと移動していく。向かう場所は修練場だ。その場所はこの世界に来た時からほぼ毎日行っている。
最初は皆のために、自分が勇者であるから先導して行けるようにと頑張るために行っていた。
しかし、いつからだろうか、行くことが義務だと感じてしまったのは。
自分に休んでいる時間はないと思うようになったのは。スティナは「休むことも大事」と諭してくれた。
しかし、いまいちそんな気分には慣れない。今もずっと心が満たされることはない。
響は若干の寝不足のせいか少しだけ覚束ない足取りで部屋から出る。そして、廊下の窓から刺す陽の光を避けるように歩いていく。
もう自分は勇者と言えるのだろうか。勇気も自信もまるで持ち合わせていない自分が。強くいれたのは友の存在があったから。
いつまで経ってもうだうだしているのは良くないけど、そう思ってしまう。
「随分と精が出るな」
「......ガルドさん?」
その時、響の後ろから声がかけられる。響はふらついた足取りで後ろに振り返ると腕を組んでハツラツとした顔のガルドの姿があった。
その姿を見ると響はすぐに仮面を取り付ける。今の弱った姿は見せられない。ガルドには迷惑をかけられない。
「おはようごさいます、ガルドさん。こんな朝早くに珍しいですね」
「昨日は非番でな、久々に友と遅くまで飲んでいたんだ。そしたら、いつの間にか朝日を迎えちまってな。そうなると、兵士としての癖か眠気が湧いてこないんだよ。だから、せめて巡回でもしてようかと思った矢先にお前に会ったんだ」
「そうだったんですね......」
響はガルドから出た「友」という言葉に思わずとっかかりを感じてしまった。
ガルドは処刑の日はいなかったので、今日が何の日かを知らないと思われる。だから、今のは意図せず出した言葉なのだろう。
しかし、響にとってはタイムリーな話題だ。なので、思わず外れかけた仮面を見せぬように足早に去ろうとする。
「それでは、僕は今から修練場に向かうのでこの辺で」
そして、響はガルドに軽くおじぎするとすぐに後ろに振り返り歩き出す。しかし、その行動はガルドの言葉によって防がれた。
「そうか。それじゃあ、たまには俺が相手してやるよ。最も今のお前じゃあ、俺なんて相手にならんとはうがな」
「......ありがとうございます。助かります」
―――――――――修練場
広く整地された土地にやや強い風が吹く。すると、その風は地面の砂埃をそっと巻き上げていく。
照り付ける太陽の日差しが修練場へと降り注ぐ中、響とガルドは立っていた。
二人は互いに木剣を構えていて、いつでも動けるように足を肩幅に広げながら、間合いを測っていく。
最初に動き出したのは、響であった。響はあえて大きく木剣を振り上げると一気に振り下ろす。
それをガルドは受け止めると滑らせていく。そして、空いている脇腹へと遠心力を活かした回し蹴りをした。
しかし、響はその攻撃をバク転で避け、後ろへと距離を取って行く。
次に動いたのはガルドであった。ガルドは風を切るように一歩一歩を踏み込んでいくと響に直進する。そして、腕を大きく引きながら、足を思いっきり踏み込む。
それから、一気に木剣を突き出した。すると、その突きは響の顔のすぐそばを通り抜けていく。その突きの勢いで僅かに響の髪先が宙に舞う。
「邪念が多すぎだ。集中しろ」
「......はい」
響は思わず動けなかった。それはガルドの言葉通りの意味で。だからこそ、思わず暗い顔で俯く。
すると、ガルドは木剣を下げ、左手を響の肩へと置いた。その手は大きくゴツゴツとしていて、歴戦の重みがあるようだった。
「響、お前の剣にはブレがある。前に教えたよな『剣は心を映し出す』と。先ほどの一撃で俺にはわかる。今のお前には無心になれない何かがあると。そんな状態でやってもケガするだけだ。そのような調子で修練するぐらいなら、今日はやめた方がいい」
「.......いいえ、やります。今の僕には休んでいる時間はないので。少し時間をもらえませんか?」
「.......わかった」
響の言葉にガルドは深いことを尋ねなかった。ただ響の揺らぐ顔を見て、「自分が悩んで決めるのならその方がいい」と判断したからだ。
そして、ガルドは様子を見るように距離を取る。
「すー......ふぅー......」
響は目を閉じるとゆっくりと深呼吸を始めた。
目を閉じると見えるのは、もとの世界で仁と楽しく話していた日々、召喚された後も魔法のことで話し合ったり、魔物を殺すことを経験したりそんな光景。
だが、すぐにその光景は、写真を火で燃やすかのように消えていく。
そして、強調するように映像が流れてくる。
それは一生見ることはなかったであろう仁の絶望に染まった顔に、生きて戻ってきた時の殺意の籠った瞳。
そして、幼馴染の倉科に手を上げるほどの無慈悲な心。
『僕は失望したよ。仁がそんな奴だったなんて』
『響、信じてくれ!俺は本当に何もしてないんだ!』
『大概やった奴はそういうだろ。罪を被りたくないからってそれはない』
『だから、違うって―――――――――――』
『もううんざりだ。その言葉は聞き飽きた。お前は僕の友達なんかじゃない。二度と思うこともない』
響は思わず歯を噛みしめる。心なしか肌に感じる空気も冷たい。これは自分が仁に対して言った辛辣な言葉。
これが自分の口から出た言葉だとは自分でも信じたくないことだ。だが、言ったことは事実。それは自分自身が一番に分かっている。
思わず剣を握る拳に力が入る。自分に対しての怒りが手を伝って剣をブレさせる。
しかし、この怒りをコントロールして、冷静に沈めないといつまで経っても剣を持つことは出来ない。たとえ持ってても、相手の攻撃ですぐに剣は弾かれる。
響はもう一度深呼吸する。感じる冷たい空気をゆっくりと肺の中に送り込む。
響は自分が今すべきこと、これからすべきことを考えていく。
自分が今やるべきことは強くなること。これからやるべきことは仁と和解して、魔王を倒しもとの世界に帰ること。
すると、自然と体温が引いていくような気がして、思考がクリアになっていく。
「心が落ち着いたみたいだな。剣がブレてない」
「時間がかかってすいません。もう一度手合わせお願いします」
「いいぞ。これは油断ならないな」
ガルドは響の目を見ると僅かに口角を上げる。そして、木剣を構えた。その動きに呼応するように響も剣を構えた。
その空間に吹いていた風は次第に弱くなり、照り付ける太陽の日差しでさらに気温が上昇していく。
その場で立っているだけで僅かに汗をかいてくるほどだ。しかし、二人とも涼しい顔で向かい合っていた。
「行きます」
「来い」
響は一気に駆けだした。目にも止まらぬ速さでガルドへと急接近していく。
そして、間合いに入ると左から右にかけて剣を横に振るった。その瞬間、左手を離しながら。その攻撃に対し、ガルドは剣を盾のように構えて受け止める。
すると、響は左手を潜り込ませ、ガルドの右手首を掴む。そして、手前に引き寄せながら、前蹴りをしてそのまま吹き飛ばす。
ガルドは地面に着くと転がりながら威力を軽減していく。それから、すぐに体勢を立て直して、立ち上がると下から上へと振り上げて斬撃を飛ばした。
響はガルドへと向かいながら、空気を切り裂き進んでくる斬撃を弾いていく。すると、ガルドも迎え撃つように砂埃を立てながら迫っていく。
そして、そこからは小細工なしの剣戟が始まった。木と木が当たる僅かに甲高い音が鳴り響く。
上から、下から、右から、左から、正面から互いに一撃を与えようと木剣を振るう。
それから変化があったのは、少ししてからであった。それはもともとの能力差で少しずつガルドが防戦一方へと追い込まれていったのだ。
現状は技術の差で僅かに余裕を持って、響が振るう木剣を受け流していく。しかし、それも時間の問題。
響がさらに攻め手を増やして来れば、さすがに対処が難しくなってくる。そして、その状態での一撃はかなり堪える可能性がある。そう判断したガルドは先にブーストをかけた。
ガルドは響の力を利用しての木剣を弾くと自身が持つ木剣から左手を離す。そして、空いた響の胴体へと左掌底を入れていく。
しかし、その攻撃を響は右腕で防ぐ。それから、左手に持った木剣をガルドの右手を狙って、風を切るように鋭く突いた。
すると、その剣はガルドの木剣を弾き飛ばし、そのまますぐにガルドの首筋で寸止めする。
「これで勝負ありです」
「参った......成長したな」
「ありがとうございます」
ガルドは右手を力強く響の肩へと乗せると喜ばしく笑った。その笑みに釣られるように響も笑う。
ガルドはもしかしたら、自分の状態に気づいていたからあえて修練相手になってくれたのかもしれない。まあ、後は単純に体を動かしたかったというのもありそうだけど。
すると、ガルドが肩に置いた右手をそのまま響の首に回した。そして、告げる。
「なあ、動いたことだし腹減ってないか?」
「減ってますけど」
「だったら、食いに行かないか?今の時間だったら、丁度開店し始めた所もあるし、俺の行きつけも開いているはずだ。行くぞ」
「え!?」
響の戸惑いをそのままに、ガルドは響を連れて歩き出す。日差しの強さはより増したように、二人に照り付けた。
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