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第4章 道化師は知る
第83話 より力をつけるために
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クラウンは仲間達の衝撃的な事実を知ってから数日が経ち、未だ森の中にいた。そして、今はクラウンが目を閉じながら立っており、その正面にカムイが刀を引き抜きながら立っていた。
「いいか、気配を見る技術を習得する前に習得する『気配を読む』ってのは本来は人、動物の生体エネルギーを読み取ることだ。ただ、その生体エネルギーはいろんな生物が持っている。植物や虫、無機物だってそうだ。だが、それまで気配を読んでしまったら、脳は処理を仕切れなくなってすぐにショートしてしまう。だから、読まないし、微弱すぎて読めないというのもある」
「無機物にも気配があるというのは?俺の知り合いが言うには、それを所持した者の意志が宿った時に読むものだと思うんだが」
それはリックがクラウンに告げた言葉。本来なら、無機物の気配を感じることが出来ない。ただ、相手が持っている物は別。それはその所持者の意志が物に伝って宿り気配を感じ取ることが出来るということ。ただ、クラウンが言った「時に」という言葉には、ややクラウン自身の曲解が混じっているが。
「その解釈も間違ってはいない。ただそれは、俺のやろうとしていることの下位互換だ。そして逆に言えば、俺のやることはお前さんが知っていることの上位互換。なぜ教えるかは勝負に負けたからでもあり、お前さんが目指す先ではそれだと足元が不安だろうからだ」
「随分と気前がいいことをするもんだな」
「俺は目的のために頑張ったり、向上心のある奴が好きなんだよ。そして、何よりお前さんの目は力を欲している......『世界を壊す』って言っていたが、それよりも今は殺したい奴がいるんだろ?」
「!」
クラウンは思わず目を見開いた。やはりと言うべきか、そんなにかと言うべきか自分はそんなにもわかりやすいのだろうか。なら、もう少し感情を抑えめで行くべきだろう。どこに何が潜んでいるのかわからないし、これ以上自分の感情で仲間を振り回すわけにはいかない。
「まあ、それは今は置いといて、話を戻すぞ。俺がやる『気配を読む』っていうのは、無機物が本体持つほんの微弱な生体エネルギーを意図的に捉えることだ。だから、俺は『感じる』とは言わずに、『読む』と言っている」
「......そう言う意味で言っていたのか。それで、無機物に生体エネルギーというのは?」
「簡単な話だ。この世界は俺達が住むよりはるか以前から生きている生命体だろ?なら、そこらに転がっている石だって、その生命体の一部と考えるのが普通だ。だから、読むことが出来る。そして、それが出来るようになれば、どんなに速い奴だろうとどんなに気配を隠した奴だろうと捉えることは可能。死角はなくなる」
クラウンは最後の言葉に反応した。どんなに速い奴、どんなに気配を隠した奴、それはまさしくラズリのことだった。クラウンは基本的に<気配察知>は常時発動している。そして、それはラズリとの戦闘の時も当然発動しており、ラズリの攻撃意志はしっかりと感じ取っていた......あの瞬間以外は。
それはラズリによって、首を切られかけた瞬間、兵長が助けてくれなければ死んでいた瞬間、あの時はラズリの一切の気配を感じなかった。あの時、ラズリは僅かにイラ立っていたにもかかわらず。その実感があるからこそ、それで強くなるならば自分は求める。その力を。
「それじゃあ、リックの言っていた言葉はあくまでその微弱なエネルギーの気配に、相手の意志が上乗せしただけということか」
「そういうことだ。だが、普通の人ではそこに着眼点は置かない。だから、そのリックって奴はかなり優秀かもな。俺だって、そのことを師匠から教わったのはかなり後のことだった。それに、俺も低い確率でしか出来ない。だから、そこは俺が完璧に出来てない以上教えることは出来ないが、それまでだったら教えてやれる。まあ、お前さんは筋が良いし、たとえ悪くても根性で何とかしそうだし」
「なら、まずはリックの方法で『気配を読む』習得を始めることからか......仕方ない。始めてくれ」
「それじゃあ、目を閉じてくれ。そして、気配察知は切ってくれよ?」
クラウンは目を閉じる。すると、カムイはクラウンに向けて刀を構えた。そして、その刀に殺気という意志を十全に込めていき、その刀を思いっきり地面へと突き刺した。それから、その刀を置いてカムイは離れていく。
「あの刀が宿した俺の気配を読めるか?」
「ああ、わかる。その場所だけ空気の圧が違うからな」
「なら、今お前さんが感じ取れる限界まで気配を測ろう。そしたら、次のステップだ」
そして、カムイは先ほどの動作を繰り返しながら、だんだんと刀に宿していく気配を小さくしていく。そして、クラウンが読み取れるかどうかといった感じまでになるとカムイは近くに落ちていた石を拾い集めた。
「それじゃあ、今から石をお前に向かって投げていく。それを全て避けろ。それが出来れば、さらに気配を小さくしていき同じことを繰り返していく」
「わかった」
「それじゃあ、行くぞ」
カムイは容赦なく全力で振りかぶって投げていく。それをクラウンは最小の動きで避けていく。だが、全てではなかった。1、2回は体に当たった。つまりはそれが今の現状ということ。その事にクラウンは思わず悔しそうな表情をするが、それ以上の感情は抑え込んだ。
それから、霊山にある神殿に向かうまでの道中でクラウンの修行が始まった。まずは先ほどやったようにカムイの刀で気配を読み取れる限界を調べ、その限界値で石を10回連続で避けれるまで続ける。何十、何百回とカムイが石を投げ、時折鋭く尖った木を投げる。それを毎日繰り返していった。
そして、ある時を境に小石はソフトボールぐらいの大きさに変わり、それは槍のような木に変わっていき、遂にカムイの刀へと変わった。
カムイは刀の背を大きく袈裟切りに切り込んでいく。それをクラウンが半身で避けるとカムイは刀を横なぎに振るった。それをクラウンは後ろに下がることで避けていく。すると、カムイは思いっきり突きにかかる。しかし、それはクラウンに避けられるが、その瞬間、左手で地面に落ちていた石を拾うと投擲した。
「ぐっ!」
それはクラウンの額に直撃して、額を切ったのか血が流れてくる。それによって、クラウンは思わず集中を切らした。そこへとカムイは刀を叩きこんでいく。そこから、クラウンは数発と刀を叩きつけられるが、一度距離を取るともう一度避けていく。
もちろん、この間にもクラウンは目を閉じたままだ。カムイが自身の調整できる限界の気配を込めた刀を、クラウンはそのほとんどを避けていった。だが、カムイが時折繰り出す石や鋭い木には時折対応できないでいる。
「ふぅー、とりあえず休憩だ。俺はお前さんのような体力バカじゃないからさすがに疲れた」
「俺をなんだと思っている。俺でも普通に疲れる」
クラウンとカムイは二人とも荒い呼吸を繰り返した。クラウンは気配をしっかりと読むために脳をフル回転させたせいで軽くボーっといており、カムイは体を激しく動かし続けたせいで単純に疲れていた。なので、重力にまかせるままにドサッと地面に座る。すると、そこにヒョコヒョコとベルがやってくる。
「主様、カムイ様。休憩にどうぞです」
「おう、あんがとな......っとそれは?」
「砂漠の国で取れた果実で作ったお菓子です。リリス様とエキドナ様が暇だったので話し合って、作っていたです」
「あいつら、そんなことをしていたのか。だがまあ、未だ霊山までの樹海にいるのは完全に俺のせいだから文句は言えないか。むしろ、感謝すべきか。ところで、ロキは?」
「ロキは食料調達に行ってるです」
「ロキは優秀だな......ん、うまっ!そして、なんだか知らないが気力も体力も回復してくる!?」
カムイは一口サイズの黄色い正方形のお菓子を食べると思わず自分の体に起こる変化に驚いた。それは体に感じていた、重たくのしかかるような倦怠感がみるみるうちに消えていくからだ。そして、その影響によって荒い呼吸は次第に通常の呼吸に戻っていき、体が楽になる。
カムイはその感覚を自身の手を見つめながら感じていた。そして、思わずベルの方を見た。すると、普段無表情に近いベルが珍しくニコッと笑った。そのことにクラウンは驚く。クラウンがよく見るベルは基本的に無表情か、フェチ狂いで目が逝ってる時ぐらいだからだ。
そしてまた、そんなベルを見て思わず面影を重ねる者がいた。
「ルナ.....ルナー!――――――――あれ?」
「人違いです。私はベルです」
カムイは思わず叫びながら抱きつこうとする。しかし、ベルはその行為をサラリと躱して、クラウンのもとへとお菓子を持っていく。そして、クラウンがお菓子を受け取ったのを確認すると定位置かのように、クラウンのあぐらをかいたお膝元に座った。
「今更だが、ルナというのかお前の妹の名前か?」
「ああ、そうだ。俺のこの世界で、否、全宇宙で一番可愛い妹だ!その美しさはさながら夜空に人々を照らし続ける月のよう!それ故に、俺がルナと名付けた!俺は思ったね、これは奇跡であると!」
「もういい。この数日間でお前の妹談義は聞き飽きた」
「ふざけんな。俺が仲間になった以上、これだけは誰にも拒ませねぇぞ。そして、ベルよ。お願いだ。どうか俺にさっきみたいに笑ってくれ。あの若干冷めたよう目で、『またバカやってるんですね』といった感じの目で微笑してくれ!」
「嫌です」
「ぐぬぬぬ......先ほどの笑みがルナの笑みに見えて仕方ない。そう考えると俺のルナがクラウンの膝の上に座っているように見えて発狂しそうだ。頼むベル、一度でいいから。一生の一度でいいから座ってくれ」
「嫌です」
「お前が異常だとは思っていたが、まさかそこまで妹狂いだとは思ってなかった。出会った瞬間、同人誌のようなことはするなよ?」
「お前が何を言っているかわからないが、ルナは一生清いままだ。そのためなら、俺は血の海でも渡ってみせよう!」
「妹が可哀そうだな」
クラウンは「同人誌」という言葉の意味が伝わっていることに驚いた。まさかこんなどこかも知らない世界で伝わるとは......案外他の言葉でも伝わるのか?
そんなことを思いながらベルを立たせると不意にクラウンはカムイに告げた。
「カムイ、話は変わるが、俺の話を聞いてくれないか?」
「いいか、気配を見る技術を習得する前に習得する『気配を読む』ってのは本来は人、動物の生体エネルギーを読み取ることだ。ただ、その生体エネルギーはいろんな生物が持っている。植物や虫、無機物だってそうだ。だが、それまで気配を読んでしまったら、脳は処理を仕切れなくなってすぐにショートしてしまう。だから、読まないし、微弱すぎて読めないというのもある」
「無機物にも気配があるというのは?俺の知り合いが言うには、それを所持した者の意志が宿った時に読むものだと思うんだが」
それはリックがクラウンに告げた言葉。本来なら、無機物の気配を感じることが出来ない。ただ、相手が持っている物は別。それはその所持者の意志が物に伝って宿り気配を感じ取ることが出来るということ。ただ、クラウンが言った「時に」という言葉には、ややクラウン自身の曲解が混じっているが。
「その解釈も間違ってはいない。ただそれは、俺のやろうとしていることの下位互換だ。そして逆に言えば、俺のやることはお前さんが知っていることの上位互換。なぜ教えるかは勝負に負けたからでもあり、お前さんが目指す先ではそれだと足元が不安だろうからだ」
「随分と気前がいいことをするもんだな」
「俺は目的のために頑張ったり、向上心のある奴が好きなんだよ。そして、何よりお前さんの目は力を欲している......『世界を壊す』って言っていたが、それよりも今は殺したい奴がいるんだろ?」
「!」
クラウンは思わず目を見開いた。やはりと言うべきか、そんなにかと言うべきか自分はそんなにもわかりやすいのだろうか。なら、もう少し感情を抑えめで行くべきだろう。どこに何が潜んでいるのかわからないし、これ以上自分の感情で仲間を振り回すわけにはいかない。
「まあ、それは今は置いといて、話を戻すぞ。俺がやる『気配を読む』っていうのは、無機物が本体持つほんの微弱な生体エネルギーを意図的に捉えることだ。だから、俺は『感じる』とは言わずに、『読む』と言っている」
「......そう言う意味で言っていたのか。それで、無機物に生体エネルギーというのは?」
「簡単な話だ。この世界は俺達が住むよりはるか以前から生きている生命体だろ?なら、そこらに転がっている石だって、その生命体の一部と考えるのが普通だ。だから、読むことが出来る。そして、それが出来るようになれば、どんなに速い奴だろうとどんなに気配を隠した奴だろうと捉えることは可能。死角はなくなる」
クラウンは最後の言葉に反応した。どんなに速い奴、どんなに気配を隠した奴、それはまさしくラズリのことだった。クラウンは基本的に<気配察知>は常時発動している。そして、それはラズリとの戦闘の時も当然発動しており、ラズリの攻撃意志はしっかりと感じ取っていた......あの瞬間以外は。
それはラズリによって、首を切られかけた瞬間、兵長が助けてくれなければ死んでいた瞬間、あの時はラズリの一切の気配を感じなかった。あの時、ラズリは僅かにイラ立っていたにもかかわらず。その実感があるからこそ、それで強くなるならば自分は求める。その力を。
「それじゃあ、リックの言っていた言葉はあくまでその微弱なエネルギーの気配に、相手の意志が上乗せしただけということか」
「そういうことだ。だが、普通の人ではそこに着眼点は置かない。だから、そのリックって奴はかなり優秀かもな。俺だって、そのことを師匠から教わったのはかなり後のことだった。それに、俺も低い確率でしか出来ない。だから、そこは俺が完璧に出来てない以上教えることは出来ないが、それまでだったら教えてやれる。まあ、お前さんは筋が良いし、たとえ悪くても根性で何とかしそうだし」
「なら、まずはリックの方法で『気配を読む』習得を始めることからか......仕方ない。始めてくれ」
「それじゃあ、目を閉じてくれ。そして、気配察知は切ってくれよ?」
クラウンは目を閉じる。すると、カムイはクラウンに向けて刀を構えた。そして、その刀に殺気という意志を十全に込めていき、その刀を思いっきり地面へと突き刺した。それから、その刀を置いてカムイは離れていく。
「あの刀が宿した俺の気配を読めるか?」
「ああ、わかる。その場所だけ空気の圧が違うからな」
「なら、今お前さんが感じ取れる限界まで気配を測ろう。そしたら、次のステップだ」
そして、カムイは先ほどの動作を繰り返しながら、だんだんと刀に宿していく気配を小さくしていく。そして、クラウンが読み取れるかどうかといった感じまでになるとカムイは近くに落ちていた石を拾い集めた。
「それじゃあ、今から石をお前に向かって投げていく。それを全て避けろ。それが出来れば、さらに気配を小さくしていき同じことを繰り返していく」
「わかった」
「それじゃあ、行くぞ」
カムイは容赦なく全力で振りかぶって投げていく。それをクラウンは最小の動きで避けていく。だが、全てではなかった。1、2回は体に当たった。つまりはそれが今の現状ということ。その事にクラウンは思わず悔しそうな表情をするが、それ以上の感情は抑え込んだ。
それから、霊山にある神殿に向かうまでの道中でクラウンの修行が始まった。まずは先ほどやったようにカムイの刀で気配を読み取れる限界を調べ、その限界値で石を10回連続で避けれるまで続ける。何十、何百回とカムイが石を投げ、時折鋭く尖った木を投げる。それを毎日繰り返していった。
そして、ある時を境に小石はソフトボールぐらいの大きさに変わり、それは槍のような木に変わっていき、遂にカムイの刀へと変わった。
カムイは刀の背を大きく袈裟切りに切り込んでいく。それをクラウンが半身で避けるとカムイは刀を横なぎに振るった。それをクラウンは後ろに下がることで避けていく。すると、カムイは思いっきり突きにかかる。しかし、それはクラウンに避けられるが、その瞬間、左手で地面に落ちていた石を拾うと投擲した。
「ぐっ!」
それはクラウンの額に直撃して、額を切ったのか血が流れてくる。それによって、クラウンは思わず集中を切らした。そこへとカムイは刀を叩きこんでいく。そこから、クラウンは数発と刀を叩きつけられるが、一度距離を取るともう一度避けていく。
もちろん、この間にもクラウンは目を閉じたままだ。カムイが自身の調整できる限界の気配を込めた刀を、クラウンはそのほとんどを避けていった。だが、カムイが時折繰り出す石や鋭い木には時折対応できないでいる。
「ふぅー、とりあえず休憩だ。俺はお前さんのような体力バカじゃないからさすがに疲れた」
「俺をなんだと思っている。俺でも普通に疲れる」
クラウンとカムイは二人とも荒い呼吸を繰り返した。クラウンは気配をしっかりと読むために脳をフル回転させたせいで軽くボーっといており、カムイは体を激しく動かし続けたせいで単純に疲れていた。なので、重力にまかせるままにドサッと地面に座る。すると、そこにヒョコヒョコとベルがやってくる。
「主様、カムイ様。休憩にどうぞです」
「おう、あんがとな......っとそれは?」
「砂漠の国で取れた果実で作ったお菓子です。リリス様とエキドナ様が暇だったので話し合って、作っていたです」
「あいつら、そんなことをしていたのか。だがまあ、未だ霊山までの樹海にいるのは完全に俺のせいだから文句は言えないか。むしろ、感謝すべきか。ところで、ロキは?」
「ロキは食料調達に行ってるです」
「ロキは優秀だな......ん、うまっ!そして、なんだか知らないが気力も体力も回復してくる!?」
カムイは一口サイズの黄色い正方形のお菓子を食べると思わず自分の体に起こる変化に驚いた。それは体に感じていた、重たくのしかかるような倦怠感がみるみるうちに消えていくからだ。そして、その影響によって荒い呼吸は次第に通常の呼吸に戻っていき、体が楽になる。
カムイはその感覚を自身の手を見つめながら感じていた。そして、思わずベルの方を見た。すると、普段無表情に近いベルが珍しくニコッと笑った。そのことにクラウンは驚く。クラウンがよく見るベルは基本的に無表情か、フェチ狂いで目が逝ってる時ぐらいだからだ。
そしてまた、そんなベルを見て思わず面影を重ねる者がいた。
「ルナ.....ルナー!――――――――あれ?」
「人違いです。私はベルです」
カムイは思わず叫びながら抱きつこうとする。しかし、ベルはその行為をサラリと躱して、クラウンのもとへとお菓子を持っていく。そして、クラウンがお菓子を受け取ったのを確認すると定位置かのように、クラウンのあぐらをかいたお膝元に座った。
「今更だが、ルナというのかお前の妹の名前か?」
「ああ、そうだ。俺のこの世界で、否、全宇宙で一番可愛い妹だ!その美しさはさながら夜空に人々を照らし続ける月のよう!それ故に、俺がルナと名付けた!俺は思ったね、これは奇跡であると!」
「もういい。この数日間でお前の妹談義は聞き飽きた」
「ふざけんな。俺が仲間になった以上、これだけは誰にも拒ませねぇぞ。そして、ベルよ。お願いだ。どうか俺にさっきみたいに笑ってくれ。あの若干冷めたよう目で、『またバカやってるんですね』といった感じの目で微笑してくれ!」
「嫌です」
「ぐぬぬぬ......先ほどの笑みがルナの笑みに見えて仕方ない。そう考えると俺のルナがクラウンの膝の上に座っているように見えて発狂しそうだ。頼むベル、一度でいいから。一生の一度でいいから座ってくれ」
「嫌です」
「お前が異常だとは思っていたが、まさかそこまで妹狂いだとは思ってなかった。出会った瞬間、同人誌のようなことはするなよ?」
「お前が何を言っているかわからないが、ルナは一生清いままだ。そのためなら、俺は血の海でも渡ってみせよう!」
「妹が可哀そうだな」
クラウンは「同人誌」という言葉の意味が伝わっていることに驚いた。まさかこんなどこかも知らない世界で伝わるとは......案外他の言葉でも伝わるのか?
そんなことを思いながらベルを立たせると不意にクラウンはカムイに告げた。
「カムイ、話は変わるが、俺の話を聞いてくれないか?」
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