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第4章 道化師は知る

第80話 プライドの問題

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「全員、避けたら今すぐこの場から離れろ!」

 クラウンがそう叫ぶと同時に、カムイが刀を横なぎに払ってできた巨大な斬撃はクラウンへと一直線に向かった。その斬撃は速かったが、クラウンが避けるには問題ない速さだった。しかし、その斬撃はクラウンを通り過ぎると多くの木々をなぎ倒しながら進んでいく。そして、斬撃が消えた頃にはクラウンの背後には広大な開けた土地が出来上がった。

「俺達が戦うには狭かったからな。これで戦いやすくなっただろ」

「英雄というのは、あながち間違いでもないようだな」

「この斬撃だけで評価してくれるのは嬉しいが......お前さん、まさかビビったわけじゃないよな」

「まさか」

「!」

 クラウンは<瞬脚>を使って、一瞬にしてカムイに近づくと一気に切りにかかった。カムイは突然目の前に現れたクラウンに驚きながらも、すぐさま反応して刀で受け止める。すると、クラウンはすぐに前蹴りで攻撃しようとするが、それは簡単に避けられる。

 次に仕掛けたのはカムイだった。カムイはクラウンに袈裟切りに振るとすぐさま下から上へと切り上げる。それをクラウンはギリギリで躱していくと刀を一気に突き刺していく。だが、その突きは避けられるが、それはあくまで視線を誘導するため。狙うはカムイの軸足である右脚。

「俺は真っ当な剣士じゃないんでな。悪く思うなよ」

「がはっ!」

 クラウンは左手を引くとその動きに合わせて、カムイの右脚が持ってかれた。それによって一時的に死に体になったカムイに回し蹴りを胴体にぶち込んだ。それによって、カムイは吹き飛ばされるが、ただでは転ばないとばかりに炎の魔法を放った。

火炎纏蛇かえんまといへび!」

「!」

 カムイが放った炎は次第に形を変形していき、一匹の蛇を作り出した。その蛇はクラウンに向かって大きく口を開けながら近づいて来る。その蛇に向かってクラウンは切りかかるとその蛇は二つに分かれ、さらに二体の蛇となってクラウンを襲った。

 クラウンはさらに切っていくが、体積を小さくしながらもネズミ算的に増えた蛇がクラウンに纏わりつき、その身を焼いていく。幸い火傷耐性があるので、すぐさま深刻なダメージを負うわけではないが、それでも長期的戦いはもうできなくなり、短期決戦を余儀なくされた。

「ははは、マジかいお前さん。確かにその魔法の威力は弱いが、それでももう少し堪えるはずだが?」

「なら、良かったな。効かない奴もいるってことを知れて」

「全くだ。俺の英雄という肩書もまだ井の中の蛙だったようだ。少しは誇りを持っていたんだが、自信を失っちまうぜ。だから――――――――――」

「!」

「―――――――頑張らせてもらうぜ」

 カムイはクラウンに急接近すると一気に刀を振るった。その刀はクラウンが防御として構えた刀を弾き飛ばし、胴体をさらけ出させた。そこに滑らかに体を動かして刀を構えると振り下ろしていく。その攻撃に対し、クラウンは左手で鞘を引き抜くとカムイの刀の腹をはたき弾く。

「螺旋炎」

「くらうか!」

「ぐふぉ!」

 カムイは刀が弾かれるとすぐに柄から左手を離し、その手をクラウンへと向けた。そして、その手のひらから放たれた、まさに螺旋状に渦巻いた炎がクラウンを襲った。だが、クラウンはその左手首を左手で掴んで軌道を逸らすと胴体に蹴り込んで吹き飛ばす。

 しかし、カムイは足を踏ん張らせて勢いを殺すと右手に持った刀を下から上へと振るった。クラウンはその攻撃を鞘で横に弾くとすぐに刀身の向きを変えて横なぎに振るった。だが、それはカムイが後ろに下がることで避けられる。

 すると、カムイが刀を構えて一気に突いた。それをクラウンは半身で避けると下から上へと刀を振り上げる。その攻撃に対し、カムイは刀の柄の頭で刀の腹を横に叩いて、弾いた。そして、そのまま流れるように左手で鞘を引き抜くとそのまま横に振るった。

「ぐっ!......なめんなあああ!」

「がっ!......なめてねえええ!」

 クラウンはその鞘を横っ腹にもろに受けながらも、左手に持った鞘をカムイの顔面に向かって振るう。しかし、それはカムイによって刀で弾かれるが、がら空きなった中心に向かって思いっきり右足を振り上げて、カムイの顎を撃ち抜いた。

 そして、クラウンは追撃とばかりに刀を突き刺すが、それはカムイによって鞘と刀を咄嗟にクロスした防御で防がれる。すると、カムイは体勢を元に戻すと右手に持っている刀を逆手に持ち替えて、斜め下から斜め上にかけて振るった。その攻撃はクラウンが後ろに下がることで避けられる。

「その動き、我流が強いが案外洗練されてるな。動きに迷いがなく、隙が無い。それに刀だけしか使わないなんて、甘っちょろい考え方もしてないようだ。剣士とて使える物は何でも使う......といっても、あくまでそういう流派の話になるんだがな」

「それじゃあ、お前の流派では鞘を使っての二刀流まがいのようなこともしているのか?」

「まあな。あくまで不意をつくって感じだがな......知りたいか?」

「ああ、知りたい」

「随分と欲望に直球なことで。だがまあ、嫌いじゃないな。それで提案だ。もうお前さんが白であることはわかってんだがな、俺の個人的な理由でもう少しだけ付き合ってくれないか?今度は鞘を捨てて、刀一本で。お前さんならこの意味がわかるだろ?」

「わかっている」

 カムイが言っていることは、単純にクラウンとの戦闘に勝ちたいこと。つまりはプライド。仮にも鬼族の英雄と呼ばれる身である。並みの人では持ちえない誇りがある。故にたとえ負けるとしても、言い訳を残すような結末にしたくないのだ。それは同じ化け物最強になるために力をつけているクラウンも同じこと。だから、戦いの続行を了承したのだ。

 そして、カムイが鞘を捨てると動きを合わせるようにクラウンも鞘を捨てた。それから、カムイが刀をクラウンに向けて正面に向けるとクラウンはカムイに向かって上段に構えた。

 しばらくの静寂流れる。まるで呼吸音すら邪魔であるかのようにこの場には音が発生しない。だが、二人とも様子を見合っているかのように全く動く様子がない。鋭い眼光で互いを睨みつけているのみ。するとその時、風が吹いた。そして、一枚の木の葉が地面へと落ちる。それを戦いの合図とばかりに二人は一気に動き出す。

 そこから広がるは音は刀と刀が交わった時の音と吐息のみ。もうその場から動くことは不要とばかりに互いに猛烈な勢いで刀を振るっていく。その太刀筋は時間が過ぎて行く度に一つ、また一つと数を増やしていき、それによって斬撃が発生し、周囲の木々を切り刻んでいく。

「「おらああああああ!」」

 二人が気合一発入れた瞬間、互いの刀は弾かれた。そして、次に動き出したのはクラウンで左手で標準を合わせると右手に持った刀を一気に突き出した。その攻撃をカムイは刀で受け流しながら滑らしていき、その勢いのまま横に振るった。

 クラウンはそれを鼻先数センチで避けると刀を袈裟切りに振るった。だが、それは簡単に避けられる。しかし、その動きを読んでいたかのように、左手で刀の柄の頭に触れるとそのまま突くように押した。だが、その突きはカムイが無理やり手首を捻って、その突きの軌道上に刀を構えることで防いだ。

「やっぱり、強いな。お前さんは」

「お前もだ」

「なら、互いに決着をつけねぇか?お前さんの服もだいぶ焼き焦げてしまてる」

「誰のせいだ」

「ははは、俺だな、間違いなく。だから、次の一撃で終わりにするんだ」

「いいだろう」

 クラウンとカムイはその場から距離を取ると互いに鞘を拾って、刀を戻した。そして、カムイはそれを腰に差し、クラウンはそれを左手に持つとゆっくりと構える。クラウンは刀を左手で軽く構えると柄に触れるか触れないかぐらいで右手を構えた。また、カムイはシンプルに刀がある腰へと右手を寄せて構えている。

「お前さん、それは獣牙流の構えじゃねねか。あの人嫌いの国にどうやって教えてもらったんだ?」

「俺の仲間だ。ここにはいないがな」

「なるほど。会えれば是非手合わせしてもらいたかったぜ......それじゃあ、行くぞ」

 カムイがそう言うと再び静寂が訪れる。まるで二人の威圧によって草木が怯えたように音を立てなくなる。すると、その戦いを遠くから眺めていたベルが不意にくしゃみをした。すると、クラウンとカムイはそれを合図にしたように動き出す。

「一刀流虎の型―――――――――――」

「天元鬼人流――――――――」

 二人の威圧がぶつかり合い、突発的な風が舞う。

虎怒羅こどら

「閃炎の太刀」

 クラウンのオーラによって作り出された、見た者を畏怖させるような虎がカムイに咆哮を浴びせながらそのを振るった。また同時に、カムイのオーラによって作り出された切り裂かんとばかり鬼武者が炎を纏わせた刀を振るう。

 そして、二人の刀が交じり合う。その瞬間、その場に爆炎のような熱波が広がった。二人がいるのその場だけどんどんと温度が上昇していく。涼しかったこの森は、一瞬にして灼熱の大地へと変わった。

「......」

「......」

 二人は刀を振るったまま互いに後ろ向きに立っていた。そこからすぐに動き出すことはなく、ゆっくりと互いに刀をしまっていく。

「勝負は......」

「......引き分けだな」

 二人が顔だけ振り返ってそう言うと互いの胴体から勢いよく血が噴き出した。それによって、二人とも思わず膝をつく。しかし、クラウンは<超回復>ですぐに傷口を修復していくが、カムイはそのまま前のめりに倒れ込んだ。その瞬間、クラウンが纏っていた炎は沈下していく。

 そんな二人の戦いを見ていたリリス達はカムイの傍に近寄って体を仰向けに直し、上体を支えるとエキドナが砂漠の国で採取した果実を素手で絞っていく。そして、その果汁をカムイの口に含ませて飲ましていくとカムイの顔色は次第に良くなってきた。

「マジか......死んだと思ったんだけだな」

「勝手に死ぬな。お前は死ぬには惜しい奴だ。俺についてこい」

「俺にも目的があるんだけど?」

「そんなものは全員そうだ。お前ごとき1人増えた所で問題ない」

「......そうかい。まあ、俺も一人じゃ限界感じていたし、それもありかな」

「決まりだな」

 そう言うとクラウンはカムイに手を差し伸べて、引っ張り上げた。
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