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第4章 道化師は知る

第76話 渡される武器

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「それは......なんでそんなものがお前のところにある?」

「これは色欲が持っていたものよ。それを私なりにアレンジしたのがこの二丁の銃。この大きさだとマグナムというのかしら?」

クラウンはその銃を手に取るとそれをまじまじと眺める。本来の銃の詳しい形状は分からないが、それでも分かることはこれには弾を詰める所がない。つまりは、あの時に教皇が持っていた銃と同じ魔力の塊を弾丸として射出するということ。

「これを俺達に渡すのか?だが、お前のことなら俺達の素性ぐらいは知っているだろ。なら、俺達に銃を使えるものがいないことも分かるはずだ」

「ええ、分かっているわよ。それは、あなた達に渡すものではあるけど、使

「じゃあ、誰なんだ?俺はまた仲間を増やすとでも言うのか?」

「まあ、それは微妙なラインかしら。とにかく、これはあなた達が持っておいて欲しいものには違いないわ。だから、どうか受け取ってくれないかしら?」

リゼリアは膝を揃えると恭しく頭を下げた。クラウンはそんなリゼリアを一瞥しながら、再び銃へと目を移した。この銃が使えるものは、先程言った通りこの場にはいない。しかし、記憶を探れば1人だけ該当する人物がいるが、そいつとは分かり合えるはずもない。

「ねえ、母さん。これってどう使うの?私、こんな形状の武器初めて見たから全然分からない。見た感じトンファーに近いのかしら?」

「違うぞ。これはその穴の空いた先から弾を視認できない速さで射出する武器だ。部類としては飛び道具に入る。クロスボウの上位互換のようなものだ」

「そうなのかです。でも、これには弾をセットする場所がないです」

「それは魔力を弾として変換するからな。リロード......弾の射出制限もなく、自身の魔力がある限り永遠に打つことが出来る。俺達の天敵とも言える武器だ」

「魔力の弾ね......これが、実物の弾であったなら、弾の詰め替え時に隙を突くことも出来るのに」

クラウンはエキドナの推察力に思わず舌を巻いた。限られた情報の中で、実物の銃と魔力型の銃との戦闘においての違いを見抜くことに。これが、情報屋として動いてきたエキドナ本来の実力というところか。さすがである。

「クラウン君のは半分正解と言ったところかしら。確かに、魔力の塊を弾にして撃つことは間違いないのだけど、その銃の持つ能力はそれだけじゃないわ」

「他の武器に変形でもするのか?」

「そんな大層なことはドワーフにしか出来ないわよ。私がしたのは付与だけ。色欲がとんでもない魔法を持っていたからね」

「何よそれは?」

「言霊魔法よ」

その言葉を聞いたクラウンを除くリリス達は思わずキョトンとした顔を見せた。しかし、クラウンだけはその魔法の存在を知っていた。それはまだ裏切られる前の話、暇つぶしに読んでいた魔法大全集に「言葉遣い」という魔法があるのを見たことがあったのだ。

その「言葉遣い」は自分が発言したこの世に存在するものの言葉なら、なんでも実体として引き寄せることが可能なのだ。とはいえ、それには容量制限やら言葉制限といろいろ規制もきびしかったが。

しかし、クラウンがその魔法大全集で見た中で、その魔法ほどチートすぎる魔法は無かった。そして、今回の「言霊魔法」は分解すれば「言葉」の「たましい」の魔法だ。となれば、能力は似通っていてもおかしくないし、色欲は神の使いの1人だ、能力がさらに高い可能性も低くない。

そう考えるとその色欲を倒したリゼリアは、本当に元神であったことに確信を抱いた。まあ、つまり言いたいことは、リゼリアが渡したこの銃はぶっ壊れた品であるということだ。

「クラウン君はもう気づいたようね。この魔法は、自身が言葉にしたことをそのまま魔法で放てるというもの。でも、ごめんなさい。私が色欲と同化した時に、その大半の能力は失われてしまったの。今できるとしたら、全属性の魔法を放てることと念じた言葉を数十秒だけ発動させることぐらいよ」

「意味わからんぐらいの性能だな。それだけあれば十分だろう」

「ふふっ、そう言ってくれると助かるわ」

クラウンはそう言うとその銃をリリスへと渡した。すると、リリスはクラウンの行動の意味が分かっているかのように、その銃を受け取ると指輪へと閉まっていく。

そして、クラウン達は立ち上がると扉の方へと向かった。それから、扉を開け出ていこうとした時、リゼリアはリリスの名を呼んだ。

「リリス、少しこちらに来てくれる?」

「ん?どうしたの母さん?」

リリスは優しい笑みを浮かべるリゼリアへと近づいていくと突如リゼリアがリリスを優しく抱きしめた。そのことにリリスが驚いているとリゼリアはそっとリリスに耳打ちする。

「リリス、あなたとお別れすることがとても寂しいわ」

「大丈夫よ。私達は必ず目的を果たしに行ってくるから」

「ええ、もちろん信じてるわ。だから、これが最後のお願い」

リゼリアはより強くリリスを抱きしめた。それはリリスが少し痛いと感じるぐらいに。それほど大切な何かを手放したくないように。そして、言葉に出した。

「リリス、どうか私のことは忘れて。それがあなたのためになるの」

「......え?」

リリスはその言葉に思わず放心状態になる。そんなリリスを複雑な表情で見るリゼリアは、リリスの肩を掴みそっと離すとその手に3つの模様が描かれた石を渡した。それから、未だ放心状態のリリスの背中を押しながら、扉の外へと追い出した。

「それじゃあ、クラウン君。、それから皆さん、リリスのことをどうかよろしくお願いします」

リゼリアは丁寧に頭を下げる。その姿を見たクラウン達は「当然だ」という表情をしながら階段を上がっていく。しかし、ただ1人寂しくて、悲しくて、よく分からない気持ちを抱えたリリスが、閉まりゆく扉の隙間から見えたリゼリアを見ていた。

どうしてだろうか?リリスにとって、その光景が永遠の別れにも等しいほどに感じるのは。おそらく、いやきっと、リゼリアの言った言葉が原因だ。なぜか嫌な予感がしてたまらない。しかし、リゼリアが強いことはリリスがよく知っていた。だからこそ、複雑な気持ちを抱いて仕方がない。

「母さん......」

リリスが手を伸ばすが、その扉は無情に閉まり、辺りを静寂な暗闇が支配した。まるで大切な何かを失ったかのような喪失感に、胸が締め付けられる。リゼリアの言った言葉が分からない。どうして忘れる必要があるのか。リゼリアのことだからきっと意味があるのだろうとは思う。

 いや、もしかしたら「時間がない」という言葉に対して言っていたりしたのだろうか。だとした、それに関しては話を聞いている間に覚悟していた。けど、たとえ覚悟したとしてもそれは辛さに耐えるものであって、思い出を消すことではない。というより、出来はしない。

 リリスはそう思いながらも、きっと別の意味があると信じて、その意味を探りながらクラウン達の後を追った。

 クラウン達がその階段を上がり、最上階の扉を開けるとそのは酒場にとなっていた。その場にいる客はクラウン達を怪訝そうに見つめる中、マスターは服のポケットから何かを取り出すとクラウンに向かって投げた。

 クラウンがそれを受け取って見てみると部屋の鍵であった。数は1つ。それが分かるとクラウンは思わずマスターに睨みつけるように見た。すると、マスターは無言でサムズアップするとそのまま二階へと上がるようにジェスチャーする。

「ごめんなさい、クラウン。これはきっと母さんの仕業よ。まあ、何というか私の母さんだから許してくれないかしら?」

「まあ、色欲の肉体を取り込んだ時点で人格が影響された可能性もあるしな。それぐらいは全然構わない。だがな......」

 クラウンはそう言いながら振り返る。それはなぜか興奮しているベルとエキドナの姿だ。その原因と理由はもはや言わずもがなというところだろう。ベルはまだ対処できるとしても、エキドナに関しては糸でグルグル巻きにして吊るしてやろうか。割と本気でそう考えている。

 クラウンは頭を抱えながらも、とにかくその指定された部屋へと向かった。その間、他に空いている部屋を探してみたが、どこも満室のようだ。さすがに私的理由で部屋を奪うのはダメだろう。というか、そ
んな面倒ごとは自分から起こしたくはない。

 そして、自室へと辿り着いて、部屋を開けてみるとそこにあったのは、机、椅子、そしてクイーンサイズのベット1つ。それを見た瞬間、クラウンは思わず眉をピクつかせ、リリスはクラウンの肩を掴み謝るようなため息を吐き、ベルは目を輝かせ、エキドナは激しく歓喜した。

「エキドナ、変な真似はするなよ」

「変とは何のことかしら?具体的に教えてもらえると――――――――」

「その時点でアウトよ。諦めなさい」

「主様、王は裸にバスローブを着て寝る聞いているです。ですが、ここにバスローブはないです。なので、裸で寝るです!」

「それはいい提案ね!獣王の習わしに従いましょうよ!」

「お前ら反省してろ」

 クラウンはめんどくさそうにそう言うと二人をグルグル巻きにしてその場に放置した。だが、これはベルには効果がありがちだが、エキドナには逆効果のようだ。そのことにもうため息しか吐けないクラウン。

「とりあえず、いつもの調子に戻ってきたんじゃないかしら?」

 クラウンが疲れたようにベットに座るとリリスが唐突にそう言い始めた。そのことにクラウンは少し思考してから言葉を告げた。

「そうかもな。もしかしたら、こいつらは俺の調子を戻すためにこんなことを言ったのかもな」

「残念ながらただの素よ。ベルも段々とエキドナに染まり始めて困りものだわ」

 リリスは簀巻きにされたベルを抱きかかえると自身の膝の上へと頭を乗せた。そして、縄を解くと優しく頭を撫でていく。そのせいかベルの尻尾はフワリフワリと揺れる。その尻尾を見て、クラウンは思わず衝動的にそのモフモフの毛並みに触れる。

 まるで悪意が抑えられたような気がした。気のせいだろうか。それでも、そう思うことがあったなら効果はあったかもしれない。

「何、どうしたの?ロキちゃんがいなくて寂しいのかしら?」

「主様~、くすぐったいです~」

「.....ほんの気まぐれだ」

 クラウンはそう言いながら窓から見える月夜を眺めた。
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