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第4章 道化師は知る
第75話 運命を憎む者
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「まあ、あなた達ならわかっていると思うけど、あなた達が倒すべき敵は今の世界の神であるトウマ。彼こそが、あなたの運命を狂わせた元凶よ」
「ああ、よく知ってるさ。俺はあいつとは面識があるからな。それにしても、奴は何者だ?神のようだが、そうじゃないような気もした」
「それはそうよ、だって元々は神ではないもの」
「「「「......は?」」」」
その言葉に全員が思わす声を漏らした。自分達が殺そうとしているのは神であるが、そのもともとは神ではない別の存在であった。となると、もともとは一体なんだったのか。まさか、ただの人間であったとでも言うのか。
「ねえ、母さん。その人物は魔族だったの?それだったら、まだ話は見えるんだけど」
この世界の魔族は人族と敵対している。つまりは、人族の信仰する神に対して嫌悪感を抱いている。故に、その神王という人物を殺して神の座に着いたのが魔族だとしたら、動機は薄いがまだ話の上では納得出来る。まあ、そこまでの経緯の推測は難しいのだが。
しかし、リゼリアはその言葉に頭を横に振った。そして、クラウンの方を見て尋ねる。
「クラウン君、あなたなら分かるんじゃないかしら?魔族でもなく、人族でもなく、けど神に対して反逆精神を持ちうる存在を」
「まさか......転移者か!?」
「そうよ。彼は私たちがこの世界の救世主として呼び出した過去の転移者の1人。そして、この世界を作り出した張本人」
クラウンはその言葉を聞くと思わず押し黙った。なぜなら、状況が非常に酷似しているからだ。その転移者は何かがあり、神王を殺すことを決意した。そして、自分自身もまた神殺しを決意している。つまりは、自分が行きつく未来の一つが見えたということ。
「彼は絶望が作り出した本物の化け物。運が悪かったといえばそれだけで完結してしまうけど、きっと救いの手を差し伸べられたはず。しかし、神々はこの世界に干渉しないように定め付けられていたから何もできなかったのよ。けど、今思えばそれが全ての間違いだったのかもね」
「知っていることを全て話せ。奴は何を思って絶望して、お前らを殺そうとしたのか」
「そうね。簡単に言えば、彼も勇者の一人だった。まあ、厳密には巻き込まれたという方が正しいのだけど」
その言い方から察するに勇者として召喚されるのは別人だったのだろう。そして、そいつはその勇者を呼ぶための魔法陣に巻き込まれたというところか。なんともありがちだが、巻き込まれた方はたまったものじゃないだろう。
「そして、問題は彼とその当時の勇者が非常に仲が悪かったということ。酷いくらいに上下関係がハッキリしていたのよ。彼も優秀な魔導士だったけど、まるで道具のような扱いだったわ」
「ねえ待って、勇者ってそういう風に選ばれるの?正直、誠実さとか内面の方が重要視されると思ったのだけど」
「同じ意見です。そのような態度であるならば、いくら外面が良くても奴隷商と何にも変わらないです。それにすぐに化けの皮が剥がれるです」
リリスとベルの意見は真っ当だった。本来、召喚される勇者というのは人に対して誠意を持ってなければならない。そして、それを持っているかは召喚される前に判断され、そこで初めて異世界に渡った時の能力値で勇者として相応しいか判断される。
そしてその中には、そのような人の皮を被った悪意というのは存在している。それこそ、商売道具として奴隷を扱う奴隷商のように。故に、そのような人物は召喚される前に弾かれるはずなのだ。だが、そうではないというのは、考えられる答えの1つとしては、その当時と今とでは形式が変わっているかとかだ。神が変わっている訳であるから。
すると、その答えにリゼリアは暗い顔をした。
「残念ながらね、その判断には抜け道があるのよ。正直、これは盲点だったけどね」
「抜け道?それはどちらのことを言っているのかしら?その判断に不備があったのか、それともその勇者に問題があったのか」
「問題は私達にあったわ。私達の判断というのは基本的に悪意の有無で捉えているのよ。それは勇者として重要な資質であるから。しかし、そこに問題があったのよ......ねえ、あなた達は『裏のない悪意』って言われてわかる?」
「裏のない悪意......」
リリスは思わずその言葉を繰り返すように呟いた。言葉から考えると「裏のない」、つまり企みも何もなく純粋な気持ちとして物事に接しているということ。そして、その状態で持った「悪意」。となると、本人は正しいことをしているつもりであっても、相手や周りからしてみれば悪意としか感じられないということ。一言でいえば、とんでもないはためいわく野郎になるということ。
すると、クラウンもその考えに至ったのかリゼリアに答えを言った。
「そいつと勇者との明確な関係はわからないが、話の流れで言えば最悪だったことはわかる。だが、その勇者は勇者としてこの世界に召喚された。つまりは、その勇者は心の底から自分より下の者を道具としか思っていなかったわけだ。ある種の自己暗示の権化だな」
「自己暗示?それは自分で自分を騙していたということかしら?......なるほど、どのような環境で育ってきたかはわからないけど、それが正しいと思って生きてきたのね。まるで自分を中心に世界が回っているかのように」
「そういうことよ。その勇者は相手や周りにとって悪いことを本気で正しいことだと思っていた。それには裏がない。つまりは、表。誠意を持って行っているということになるわけよ。それが、周りにとってどういう影響を与えているかを無視してね」
「「「「「......」」」」」
「そして、私達はこの世界を統べるもの。本来は別の世界に干渉は出来ないのだけど、唯一干渉できる方法が召喚。でも、それは実際にその人物の言動を見て判断するわけではなく、魂に色を見て判断するというもの。故に見逃したのよ。誠意に隠れた本物の悪意を見逃してね」
「でも、そうだとしたら、怒る相手は筋違いじゃないです?まず怒るべきは勇者のはずです」
ベルの意見は正しいものであった。その勇者がどんなにクソッたれであるならば、そのトウマという男が怒るのは当然その勇者ということになる。なら、そもそも神を恨むというのはあり得ないのではないか。その勇者さえどうにかしてしまえばの話だが。
その意見に関してはリリスもエキドナも同意といった表情をしていた。だが、その中でただ一人違う捉え方をする者もいた。その人物はクラウンであった。そして、クラウンは始まりこそ違えど、ほとんどの境遇は同じであるが故にその気持ちを理解していた。
「お前らはそこまで至っていないからわからないだろうが、やり切れない怒りがあって、敵わない相手がいる時、もしくはどうしようもない状況に立たされた時、人は何に恨むと思う?」
「何って......その相手や状況に関してじゃないの?」
「もっと簡単な話だ。こんな怒りを抱かせた、こんな苦しみを味あわせた、こんな辛さを感じさせた......運命を恨むのさ」
「「「......」」」
クラウンはその時、過去の記憶を思い出した。その記憶は当然あの森で全てを決意した日のこと。その日だけは今も鮮明に思い出す。暗く薄暗い洞窟の中で、理不尽さに、無情さに心を苦しめられながら誓ったことを。
「もちろん、自分を貶めた奴、裏切った奴、そいつらのことに対しても怒りを持つ。だがな、それだけじゃ足りないんだ。怒りを抑えきれないんだ。身勝手な気持ちだが、どうして自分だけがこんな目に、どうして自分だけがこんなにも苦しいんだ、どうして自分だけがこうなるんだ、どうして、どうして......ってな」
クラウンはその言葉を淡々と語っていく。普段みせることない弱さを自分から見せていく。そのことを嬉しく感じるからこそ、クラウンの言っている言葉が余計心苦しく感じた。リリスも恨みや憎しみを抱くことはあった。しかし、その時は一人ではなかった。
ベルもエキドナもまたそうであった。ベルは隔離されていた時に会った女性が、エキドナには同族が、たとえ結果が悲しい運命であってもそれまでを支えてくれている人がいた。しかし、クラウンにはいなかった。
神に嵌められ、本来なら支えてくれるべき仲間に裏切られどん底に突き落とされて光も届かない暗闇の中で、ただ憎いというもとに生み出された感情。運命に恨むのは到底筋違いだとは分かっている。だが、そうするしかなかったのだ。そうしなければ、絶望に押し潰されたままであった。
その中で神殺しを誓ったのは、運命に一矢報いる方法がそれであったためだ。この世界は神が統べている。なら、その世界に人々の運命は神が操っていると言っても過言ではない。だから、神を憎み、恨み、殺すと誓った。
「結局な運命に抗うってのは言葉だけに過ぎないんだ。でも、その中でも自分の身勝手のために目的を果たそうと動く。そして、自分の都合通りにいけば、その反対のことも起きる。その時点で運命に抗えてないんだ。自分の都合通りに全てを進められて、終わらせられてないからな。その言葉はあくまで自分を鼓舞するためのものでしかない」
「だから、クラウンはその運命そのものを破壊しようとしているのね」
「ああ、そうだ。運命は概念だ。だが、身に降りかかる以上それに干渉する手立てがあるはず。この世界では、それが神を殺すことであっただけに過ぎない」
「「「......」」」
「運命は理不尽の権化だ。だからこそ、理不尽には理不尽を。そのためには力が必要だったんだ......話は終わりだ。長話して悪かったな」
「いいわよ。あんたの覚悟の真髄がわかっただけでも嬉しいことよ」
リリスはそう言うとクラウンに優しい笑みを見せた。その笑みを見たクラウンは下手くそな笑みで返す。その笑みはリリスには愛おしく映った。すると、リゼリアが一つ咳払いして話を戻した。
「つまりは、クラウン君が言ってくれたことよ。彼もまた運命に絶望して、その運命を司っていた私達を恨み、殺した。そして、絶望に飲み込まれた彼はそのままこの世界を遊戯のようにして遊び始めた。全ては自分の苦しみを味あわせるため」
「もう元凶はいないのにどうしてかしら?」
「簡単に言えば、狂ってしまったのよ。もう何も見えないぐらいに。ここに関してはクラウン君とは違う点ね」
「......」
その言葉にクラウンは押し黙り、リリスは悲しそうな表情をしながら思わずクラウンを見た。それはクラウンの仮面が剥がれる前に見せた。あの凶器のような表情。あれが狂う前兆だとしたら、まだ油断は出来ない。
「まあ、こんなところよ。誰も絶望した時の彼の話なんて聞きたくないだろうし。話はこれまでにしましょ」
「情報提供、感謝する」
「いいわよ、別に。これはもともと何があっても伝えるべきことだったから。あ、そうそう渡したいものがあったわ」
そう言うとリゼリアは2つの赤いラインが入った銃をクラウンの前に出した。
「ああ、よく知ってるさ。俺はあいつとは面識があるからな。それにしても、奴は何者だ?神のようだが、そうじゃないような気もした」
「それはそうよ、だって元々は神ではないもの」
「「「「......は?」」」」
その言葉に全員が思わす声を漏らした。自分達が殺そうとしているのは神であるが、そのもともとは神ではない別の存在であった。となると、もともとは一体なんだったのか。まさか、ただの人間であったとでも言うのか。
「ねえ、母さん。その人物は魔族だったの?それだったら、まだ話は見えるんだけど」
この世界の魔族は人族と敵対している。つまりは、人族の信仰する神に対して嫌悪感を抱いている。故に、その神王という人物を殺して神の座に着いたのが魔族だとしたら、動機は薄いがまだ話の上では納得出来る。まあ、そこまでの経緯の推測は難しいのだが。
しかし、リゼリアはその言葉に頭を横に振った。そして、クラウンの方を見て尋ねる。
「クラウン君、あなたなら分かるんじゃないかしら?魔族でもなく、人族でもなく、けど神に対して反逆精神を持ちうる存在を」
「まさか......転移者か!?」
「そうよ。彼は私たちがこの世界の救世主として呼び出した過去の転移者の1人。そして、この世界を作り出した張本人」
クラウンはその言葉を聞くと思わず押し黙った。なぜなら、状況が非常に酷似しているからだ。その転移者は何かがあり、神王を殺すことを決意した。そして、自分自身もまた神殺しを決意している。つまりは、自分が行きつく未来の一つが見えたということ。
「彼は絶望が作り出した本物の化け物。運が悪かったといえばそれだけで完結してしまうけど、きっと救いの手を差し伸べられたはず。しかし、神々はこの世界に干渉しないように定め付けられていたから何もできなかったのよ。けど、今思えばそれが全ての間違いだったのかもね」
「知っていることを全て話せ。奴は何を思って絶望して、お前らを殺そうとしたのか」
「そうね。簡単に言えば、彼も勇者の一人だった。まあ、厳密には巻き込まれたという方が正しいのだけど」
その言い方から察するに勇者として召喚されるのは別人だったのだろう。そして、そいつはその勇者を呼ぶための魔法陣に巻き込まれたというところか。なんともありがちだが、巻き込まれた方はたまったものじゃないだろう。
「そして、問題は彼とその当時の勇者が非常に仲が悪かったということ。酷いくらいに上下関係がハッキリしていたのよ。彼も優秀な魔導士だったけど、まるで道具のような扱いだったわ」
「ねえ待って、勇者ってそういう風に選ばれるの?正直、誠実さとか内面の方が重要視されると思ったのだけど」
「同じ意見です。そのような態度であるならば、いくら外面が良くても奴隷商と何にも変わらないです。それにすぐに化けの皮が剥がれるです」
リリスとベルの意見は真っ当だった。本来、召喚される勇者というのは人に対して誠意を持ってなければならない。そして、それを持っているかは召喚される前に判断され、そこで初めて異世界に渡った時の能力値で勇者として相応しいか判断される。
そしてその中には、そのような人の皮を被った悪意というのは存在している。それこそ、商売道具として奴隷を扱う奴隷商のように。故に、そのような人物は召喚される前に弾かれるはずなのだ。だが、そうではないというのは、考えられる答えの1つとしては、その当時と今とでは形式が変わっているかとかだ。神が変わっている訳であるから。
すると、その答えにリゼリアは暗い顔をした。
「残念ながらね、その判断には抜け道があるのよ。正直、これは盲点だったけどね」
「抜け道?それはどちらのことを言っているのかしら?その判断に不備があったのか、それともその勇者に問題があったのか」
「問題は私達にあったわ。私達の判断というのは基本的に悪意の有無で捉えているのよ。それは勇者として重要な資質であるから。しかし、そこに問題があったのよ......ねえ、あなた達は『裏のない悪意』って言われてわかる?」
「裏のない悪意......」
リリスは思わずその言葉を繰り返すように呟いた。言葉から考えると「裏のない」、つまり企みも何もなく純粋な気持ちとして物事に接しているということ。そして、その状態で持った「悪意」。となると、本人は正しいことをしているつもりであっても、相手や周りからしてみれば悪意としか感じられないということ。一言でいえば、とんでもないはためいわく野郎になるということ。
すると、クラウンもその考えに至ったのかリゼリアに答えを言った。
「そいつと勇者との明確な関係はわからないが、話の流れで言えば最悪だったことはわかる。だが、その勇者は勇者としてこの世界に召喚された。つまりは、その勇者は心の底から自分より下の者を道具としか思っていなかったわけだ。ある種の自己暗示の権化だな」
「自己暗示?それは自分で自分を騙していたということかしら?......なるほど、どのような環境で育ってきたかはわからないけど、それが正しいと思って生きてきたのね。まるで自分を中心に世界が回っているかのように」
「そういうことよ。その勇者は相手や周りにとって悪いことを本気で正しいことだと思っていた。それには裏がない。つまりは、表。誠意を持って行っているということになるわけよ。それが、周りにとってどういう影響を与えているかを無視してね」
「「「「「......」」」」」
「そして、私達はこの世界を統べるもの。本来は別の世界に干渉は出来ないのだけど、唯一干渉できる方法が召喚。でも、それは実際にその人物の言動を見て判断するわけではなく、魂に色を見て判断するというもの。故に見逃したのよ。誠意に隠れた本物の悪意を見逃してね」
「でも、そうだとしたら、怒る相手は筋違いじゃないです?まず怒るべきは勇者のはずです」
ベルの意見は正しいものであった。その勇者がどんなにクソッたれであるならば、そのトウマという男が怒るのは当然その勇者ということになる。なら、そもそも神を恨むというのはあり得ないのではないか。その勇者さえどうにかしてしまえばの話だが。
その意見に関してはリリスもエキドナも同意といった表情をしていた。だが、その中でただ一人違う捉え方をする者もいた。その人物はクラウンであった。そして、クラウンは始まりこそ違えど、ほとんどの境遇は同じであるが故にその気持ちを理解していた。
「お前らはそこまで至っていないからわからないだろうが、やり切れない怒りがあって、敵わない相手がいる時、もしくはどうしようもない状況に立たされた時、人は何に恨むと思う?」
「何って......その相手や状況に関してじゃないの?」
「もっと簡単な話だ。こんな怒りを抱かせた、こんな苦しみを味あわせた、こんな辛さを感じさせた......運命を恨むのさ」
「「「......」」」
クラウンはその時、過去の記憶を思い出した。その記憶は当然あの森で全てを決意した日のこと。その日だけは今も鮮明に思い出す。暗く薄暗い洞窟の中で、理不尽さに、無情さに心を苦しめられながら誓ったことを。
「もちろん、自分を貶めた奴、裏切った奴、そいつらのことに対しても怒りを持つ。だがな、それだけじゃ足りないんだ。怒りを抑えきれないんだ。身勝手な気持ちだが、どうして自分だけがこんな目に、どうして自分だけがこんなにも苦しいんだ、どうして自分だけがこうなるんだ、どうして、どうして......ってな」
クラウンはその言葉を淡々と語っていく。普段みせることない弱さを自分から見せていく。そのことを嬉しく感じるからこそ、クラウンの言っている言葉が余計心苦しく感じた。リリスも恨みや憎しみを抱くことはあった。しかし、その時は一人ではなかった。
ベルもエキドナもまたそうであった。ベルは隔離されていた時に会った女性が、エキドナには同族が、たとえ結果が悲しい運命であってもそれまでを支えてくれている人がいた。しかし、クラウンにはいなかった。
神に嵌められ、本来なら支えてくれるべき仲間に裏切られどん底に突き落とされて光も届かない暗闇の中で、ただ憎いというもとに生み出された感情。運命に恨むのは到底筋違いだとは分かっている。だが、そうするしかなかったのだ。そうしなければ、絶望に押し潰されたままであった。
その中で神殺しを誓ったのは、運命に一矢報いる方法がそれであったためだ。この世界は神が統べている。なら、その世界に人々の運命は神が操っていると言っても過言ではない。だから、神を憎み、恨み、殺すと誓った。
「結局な運命に抗うってのは言葉だけに過ぎないんだ。でも、その中でも自分の身勝手のために目的を果たそうと動く。そして、自分の都合通りにいけば、その反対のことも起きる。その時点で運命に抗えてないんだ。自分の都合通りに全てを進められて、終わらせられてないからな。その言葉はあくまで自分を鼓舞するためのものでしかない」
「だから、クラウンはその運命そのものを破壊しようとしているのね」
「ああ、そうだ。運命は概念だ。だが、身に降りかかる以上それに干渉する手立てがあるはず。この世界では、それが神を殺すことであっただけに過ぎない」
「「「......」」」
「運命は理不尽の権化だ。だからこそ、理不尽には理不尽を。そのためには力が必要だったんだ......話は終わりだ。長話して悪かったな」
「いいわよ。あんたの覚悟の真髄がわかっただけでも嬉しいことよ」
リリスはそう言うとクラウンに優しい笑みを見せた。その笑みを見たクラウンは下手くそな笑みで返す。その笑みはリリスには愛おしく映った。すると、リゼリアが一つ咳払いして話を戻した。
「つまりは、クラウン君が言ってくれたことよ。彼もまた運命に絶望して、その運命を司っていた私達を恨み、殺した。そして、絶望に飲み込まれた彼はそのままこの世界を遊戯のようにして遊び始めた。全ては自分の苦しみを味あわせるため」
「もう元凶はいないのにどうしてかしら?」
「簡単に言えば、狂ってしまったのよ。もう何も見えないぐらいに。ここに関してはクラウン君とは違う点ね」
「......」
その言葉にクラウンは押し黙り、リリスは悲しそうな表情をしながら思わずクラウンを見た。それはクラウンの仮面が剥がれる前に見せた。あの凶器のような表情。あれが狂う前兆だとしたら、まだ油断は出来ない。
「まあ、こんなところよ。誰も絶望した時の彼の話なんて聞きたくないだろうし。話はこれまでにしましょ」
「情報提供、感謝する」
「いいわよ、別に。これはもともと何があっても伝えるべきことだったから。あ、そうそう渡したいものがあったわ」
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