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第4章 道化師は知る
第74話 偽りの母
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「リリス、そいつは?」
「私の母であるリゼリア・エリザベートよ」
「初めまして、リリスがお世話になってるわ。それにこれからも末永くよろしくお願いすることになると思うわ」
「か、母さん!?何を急に言ってるの!?」
「それじゃあ、違うって?」
「え......あ、その、それは、まあ、そのね?そんな具合で......」
リゼリアの言葉でリリスは思わずもじもじしたような態度になる。そんなリリスの様子をリゼリアは喜ばしく見ているとふとある人物と目が合った。それはエキドナであった。その二人は目が合った途端、何か同じ波長を感じ取ったかのように笑い始める。
「やっと来ましたか、リゼリアさん。待たせるのもハードなんですよ?この緊張感は少しは(お金を)弾んでもらわないと納得しませんよ」
「ふふっ、分かったわ。でも、ちゃんと肝は据わらせとかなきゃいけないわよ?」
「わかってますよ」
クラウンはリックが敬語になって話したことで、リゼリアとリックの大体の関係性を察した。だからこそ、リックが面倒なことをしてくれたことに思わずため息を吐いた。
「おい、上司を待ってるなら、わざわざあんなゲームをすることはなかっただろ?そうすれば、俺はお前に不信感を抱く必要はなかった」
「ははは、そう思うよね。でも、これがリゼリアさんから出された命令なんだよ。正直、僕だっていやだったよ。むやみに命のやり取りなんてしたくない。けど、これがここでの縦の社会ってやつさ。それに、このゲームがお得意さんに必要だって、リゼリアさんに言われたしね」
「......そうか」
クラウンはリックの言葉に頷きながら、リックと入れ替わりに座るリゼリアを見ていた。そして、クラウンの据わっていたソファにリリス達も座っていく。そのことにリリスはやや緊張した面持ちであった。
「リゼリアと呼ばせてもらう。それで聞きたいことは山ほどあるが、まずはなぜあのゲームが俺に必要だと?」
「ふふっ、やはりこの距離感から眺めているのが面白いわね......あ、失礼こちらの話よ。それで、どうしてあのゲームがクラウン君に必要かとってことね。それは簡単な話よ。この先の戦いは視覚を頼りすぎると死ぬからよ」
「それは目では捉えられない敵が現れるということか?」
「その人物にはもう会ってるんじゃないかしら」
「「「「!!!」」」」
リゼリアの知っているかような口調に全員が驚くと同時に、激しい憎悪のオーラがこの場を包み込んだ。そのせいで、周りにいた用心棒達は総じて呼吸がしづらそうに荒く息を吸って吐く。これに先ほどまで飄々としていたリックの顔にさえ冷汗が流れた。
しかし、その中でリゼリアただ一人は優しい笑みで4人を見ていた。
「はいはい、落ち着きなさい。それが故にあなた達には、特にクラウン君にはその技術を教えておきたかったからよ。あまり時間もないようだしね」
「え?母さん、それはどうゆう――――――――――」
「リリス、聡明なあなたならもうこの言葉でわかるはずでしょ?だから、私に時間を回させて。これから1つ1つ話すことはとても大切なことだから」
リゼリアがそう言うとリリスは思わず押し黙った。そして、リックが机に置いた紅茶をリゼリアが一口飲むとゆっくりと話し始めた。
「まず、私がクラウン君、ベルちゃん、エキドナちゃんを知っているのは、私の予知魔法のおかげよ。それで、近く未来なら映像のように、遠い未来なら断片的な映像として見ることが出来るの。それで、あなた達の存在を知ったのよ......まあ、もっとももっと昔から知っていたけれどね」
「どういう意味だ?」
「それを説明するより、一言で済む方法があるわ。話の続きを聞きたいのなら、私を殺さないことをオススメするわ」
クラウン達はリゼリアの言っている言葉がまるで分らなかった。しかし、それはリゼリアが次に言った言葉で全てが一変することになる。
「私は色欲の肉体を奪った元神の一人よ」
「......なん......だとおおおおお!」
クラウンは思いっきり机を叩き割りながら、立ち上がり激情のままに叫んだ。同時にリリス達を除くここの場にいる全ての者に無差別の殺気という名の刃を喉元へと突きつけた。そのおどろおどろしい黒いオーラを纏わせたクラウンに、恐怖に慣れているはずの用心棒達が泡を吹いて倒れ、リックは舌を少し噛んで無理やり耐える。
そして、そんな表情をリリス達は悲しい表情で見ていた。その怒りの根源が何かわかっているからこそ、クラウンのやり場のない怒りと言うのが心に伝わってくる。そして、いつでも理性無き怪物となり得てしまうことに不安がった。
それから、リゼリアもクラウンの怒りを真っ直ぐに受け止めていた。真剣な目でクラウンを見ながらもどこか殺されるのではないかと恐怖していた。それに、これはある種の賭けであった。ここで真実を言って、殺されてしまうようならそれで最後。しかし、こうしなければいけないというのもあった。
これまで幾度と繰り返した過去では全てが遅すぎたのだ。クラウンの怒りを恐れて、自分の身を案じて結果全てが失敗に終わった。それに、もうここにいられる時間もない。だからこそ、このタイミングで言うのは賭けであった。
「クラウン、今は耐えて。母さんから全てを聞きましょう」
「リリス、お前はなぜそんなに冷静でいられるんだ!」
「冷静じゃないわよ。私だって、母さんがあの男と同じ存在だったことを知って悲しいし、裏切られたような感覚で怒りも覚えた。けど、たとえそこで私が母さんを失っても、もう私は一人じゃない。そうでしょ?クラウン?」
リリスはそう言いながら立ち上がるとクラウンの手を掴んだ。そして、優しく握りしめる。その行動の影響でかクラウンから怒りが霧散していくかのように、手の震えが段々と小さくなってやがて止まった。そんな自分の変化にクラウン自身が驚いているとリリスは優しく笑いかける。
「ほらね?あんたも一人じゃない。私はクラウンがそばに言てくれるから、冷静にいられる。安心して頼ることが出来る。私達がなすべき目的のためにここは母さんの話を聞こう」
「......悪い。怒りで自分を見失っていた」
「大丈夫よ。でも、これは借りかしらね?」
「はあ......全く図太い奴め」
クラウンはため息を吐きながらも、その表情は穏やかになっていた。その影響で周囲に散らばっていた殺気に刃も消えた。リリスのお手柄である。しかし、本人はクラウンと心を通わせられたことに満足げの様子であるが。
「確かに冷静に考えてみれば、神の使いであるお前が神を殺すことを俺に依頼するはずないしな。それにお前は中々に訳アリのようだ」
「ふぅー、落ち着いてくれて助かったわ。殺されてもおかしくない状況だったもの。ありがとうリリス、助けてくれて」
「これぐらいはどうってことないわよ。クラウンのことは私達がどうにかするもの」
リリスは自慢げに胸を叩きながらリゼリアに言うとリゼリアは表情を綻ばせた。そして、クラウンとリリスがソファに座り直すと再び話し始める。
「まず前提として抑えて欲しいのは、私は神ではあるけど、神の仲間ではないの。むしろ、神をどうにかしたいと思っていると捉えてくれるとありがたいわ」
「お前は結局神ではあるのか」
「そうね、そうなるわ。私はもともと慈愛を司る神の1人。けど、今は色欲の神の使いの肉体を奪ってここに現存しているの」
色欲......つまりは、怠惰のラズリと同様の存在がいたということ。となると、他にも何体かいるということになる。その数は恐らく5体。その根拠は「怠惰」と「色欲」という言葉にある。この2つから察するに、人間が持つ大罪を表している可能性が高い。
「お前を除くと残りは憤怒、怠惰、傲慢、強欲、暴食、嫉妬の6体か」
「察しが良くて助かるわ。まあ、後は神が自ら厳選した人間ぐらいかしら。あなた達もあったことがあるんじゃない?」
「そこまで知ってるのか。だがまあ、今はいい。それにそんな存在は俺達には相手にならない。それよりもその神の使いだ。奴らは人間なのか?」
「人間じゃないわよ。神が感情のままに作り出した7体の人形。それも化け物の強さでね。気を付けて、その神の使いはそれぞれ大罪の名にちなんだ能力を持っているから」
「だが、お前はその内の1人である色欲を倒したのだろ?」
「それは運がよかっただけよ。私は神王が殺され、神の座が奪われた後に仲間達に逃がされたのよ。この世界の運命を託されてね」
リゼリアは思わず暗い表情を浮かべた。その時の記憶を思い出したのか歯を食いしばっているような感じでもあった。そして、その感情を耐えるように言葉を吐き出す。
「でもね、神はもともとこの世界に住む人々に干渉しないように出来ていてね。自分の魔力が勝手に霧散していくようになってるの。そして、それは今も変わらない」
「それじゃあ、もしかしてさっき言ってた『時間が無い』ってそういうことです?」
「その通りよ。神の肉体は魔力のみで出来ていて、この世界に降りればあっという間に体が消えていくの。だから、生き延びるため、果たす使命のためとはいえ、この世界は私にとって地獄と変わりなかったわ」
「なるほどね。それで、追撃者としてやってきたのが色欲で、その色欲を倒して肉体を奪って、魔力の霧散を抑えたということかしら?」
エキドナがそう聞くとリゼリアは無言でうなづいた。その事になんとも言えない表情をするのが、リリスだ。リリスはリゼリアを母として敬愛していて、村を滅ぼし神の使いを憎んでいた。だが、ここでリゼリアが元は神であったことが判明した。
元だから今は違う。そう割り切れればいいのだが、リゼリアとの思い出が沢山ある分、やはり裏切られたような感じがして簡単には割り切れない。それに、そう遠くないうちに死ぬと言われると一層気分は複雑であった。すると、そんなリリスにリゼリアは声をかける。
「リリス、辛いかもしれないけど、私をどう捉えるかはあなた自身が決めなさい。私はその決定に全てを委ねるつもりよ」
「......」
リリスはその言葉を聞いてより困惑な表情を浮かべた。知ったこと、知っていること、考えなければいけないこと。それらが複雑に絡み合ってどこから解けばいいのかがわからない。故に、ひたすら答えも出ないままこんがらがり続ける。
「......!」
その時、リリスの手の上に熱を帯びた何かが重ねられた。それは大きく、ごつごつしていながらも、力強さを感じさせるような優しい手。リリスは思わずその手を辿って見てみるとその手はクラウンの者であった。そのことにリリスは驚きながらも、心の強張りという名の氷がその手によって溶けていくように感じた。
自分もクラウンを頼ると言いながらまだまだ抱え込みがちのようだ。そして、そんな風に無意識に考えてしまっている自分にクラウンは気づいてくれた。それはもはや互いを補う夫婦のようで......シャキッとしなさい、私!
リリスは気持ちに踏ん切りをつける意味とにやけそうな口元を隠す意味で、思いっきり自分の頬を叩いた。そして、リゼリアへと質問した。
「母さん、この世界の真実を教えて」
「ええ、わかったわ」
リゼリアはリリスの燃え滾る瞳を嬉しく感じた。
「私の母であるリゼリア・エリザベートよ」
「初めまして、リリスがお世話になってるわ。それにこれからも末永くよろしくお願いすることになると思うわ」
「か、母さん!?何を急に言ってるの!?」
「それじゃあ、違うって?」
「え......あ、その、それは、まあ、そのね?そんな具合で......」
リゼリアの言葉でリリスは思わずもじもじしたような態度になる。そんなリリスの様子をリゼリアは喜ばしく見ているとふとある人物と目が合った。それはエキドナであった。その二人は目が合った途端、何か同じ波長を感じ取ったかのように笑い始める。
「やっと来ましたか、リゼリアさん。待たせるのもハードなんですよ?この緊張感は少しは(お金を)弾んでもらわないと納得しませんよ」
「ふふっ、分かったわ。でも、ちゃんと肝は据わらせとかなきゃいけないわよ?」
「わかってますよ」
クラウンはリックが敬語になって話したことで、リゼリアとリックの大体の関係性を察した。だからこそ、リックが面倒なことをしてくれたことに思わずため息を吐いた。
「おい、上司を待ってるなら、わざわざあんなゲームをすることはなかっただろ?そうすれば、俺はお前に不信感を抱く必要はなかった」
「ははは、そう思うよね。でも、これがリゼリアさんから出された命令なんだよ。正直、僕だっていやだったよ。むやみに命のやり取りなんてしたくない。けど、これがここでの縦の社会ってやつさ。それに、このゲームがお得意さんに必要だって、リゼリアさんに言われたしね」
「......そうか」
クラウンはリックの言葉に頷きながら、リックと入れ替わりに座るリゼリアを見ていた。そして、クラウンの据わっていたソファにリリス達も座っていく。そのことにリリスはやや緊張した面持ちであった。
「リゼリアと呼ばせてもらう。それで聞きたいことは山ほどあるが、まずはなぜあのゲームが俺に必要だと?」
「ふふっ、やはりこの距離感から眺めているのが面白いわね......あ、失礼こちらの話よ。それで、どうしてあのゲームがクラウン君に必要かとってことね。それは簡単な話よ。この先の戦いは視覚を頼りすぎると死ぬからよ」
「それは目では捉えられない敵が現れるということか?」
「その人物にはもう会ってるんじゃないかしら」
「「「「!!!」」」」
リゼリアの知っているかような口調に全員が驚くと同時に、激しい憎悪のオーラがこの場を包み込んだ。そのせいで、周りにいた用心棒達は総じて呼吸がしづらそうに荒く息を吸って吐く。これに先ほどまで飄々としていたリックの顔にさえ冷汗が流れた。
しかし、その中でリゼリアただ一人は優しい笑みで4人を見ていた。
「はいはい、落ち着きなさい。それが故にあなた達には、特にクラウン君にはその技術を教えておきたかったからよ。あまり時間もないようだしね」
「え?母さん、それはどうゆう――――――――――」
「リリス、聡明なあなたならもうこの言葉でわかるはずでしょ?だから、私に時間を回させて。これから1つ1つ話すことはとても大切なことだから」
リゼリアがそう言うとリリスは思わず押し黙った。そして、リックが机に置いた紅茶をリゼリアが一口飲むとゆっくりと話し始めた。
「まず、私がクラウン君、ベルちゃん、エキドナちゃんを知っているのは、私の予知魔法のおかげよ。それで、近く未来なら映像のように、遠い未来なら断片的な映像として見ることが出来るの。それで、あなた達の存在を知ったのよ......まあ、もっとももっと昔から知っていたけれどね」
「どういう意味だ?」
「それを説明するより、一言で済む方法があるわ。話の続きを聞きたいのなら、私を殺さないことをオススメするわ」
クラウン達はリゼリアの言っている言葉がまるで分らなかった。しかし、それはリゼリアが次に言った言葉で全てが一変することになる。
「私は色欲の肉体を奪った元神の一人よ」
「......なん......だとおおおおお!」
クラウンは思いっきり机を叩き割りながら、立ち上がり激情のままに叫んだ。同時にリリス達を除くここの場にいる全ての者に無差別の殺気という名の刃を喉元へと突きつけた。そのおどろおどろしい黒いオーラを纏わせたクラウンに、恐怖に慣れているはずの用心棒達が泡を吹いて倒れ、リックは舌を少し噛んで無理やり耐える。
そして、そんな表情をリリス達は悲しい表情で見ていた。その怒りの根源が何かわかっているからこそ、クラウンのやり場のない怒りと言うのが心に伝わってくる。そして、いつでも理性無き怪物となり得てしまうことに不安がった。
それから、リゼリアもクラウンの怒りを真っ直ぐに受け止めていた。真剣な目でクラウンを見ながらもどこか殺されるのではないかと恐怖していた。それに、これはある種の賭けであった。ここで真実を言って、殺されてしまうようならそれで最後。しかし、こうしなければいけないというのもあった。
これまで幾度と繰り返した過去では全てが遅すぎたのだ。クラウンの怒りを恐れて、自分の身を案じて結果全てが失敗に終わった。それに、もうここにいられる時間もない。だからこそ、このタイミングで言うのは賭けであった。
「クラウン、今は耐えて。母さんから全てを聞きましょう」
「リリス、お前はなぜそんなに冷静でいられるんだ!」
「冷静じゃないわよ。私だって、母さんがあの男と同じ存在だったことを知って悲しいし、裏切られたような感覚で怒りも覚えた。けど、たとえそこで私が母さんを失っても、もう私は一人じゃない。そうでしょ?クラウン?」
リリスはそう言いながら立ち上がるとクラウンの手を掴んだ。そして、優しく握りしめる。その行動の影響でかクラウンから怒りが霧散していくかのように、手の震えが段々と小さくなってやがて止まった。そんな自分の変化にクラウン自身が驚いているとリリスは優しく笑いかける。
「ほらね?あんたも一人じゃない。私はクラウンがそばに言てくれるから、冷静にいられる。安心して頼ることが出来る。私達がなすべき目的のためにここは母さんの話を聞こう」
「......悪い。怒りで自分を見失っていた」
「大丈夫よ。でも、これは借りかしらね?」
「はあ......全く図太い奴め」
クラウンはため息を吐きながらも、その表情は穏やかになっていた。その影響で周囲に散らばっていた殺気に刃も消えた。リリスのお手柄である。しかし、本人はクラウンと心を通わせられたことに満足げの様子であるが。
「確かに冷静に考えてみれば、神の使いであるお前が神を殺すことを俺に依頼するはずないしな。それにお前は中々に訳アリのようだ」
「ふぅー、落ち着いてくれて助かったわ。殺されてもおかしくない状況だったもの。ありがとうリリス、助けてくれて」
「これぐらいはどうってことないわよ。クラウンのことは私達がどうにかするもの」
リリスは自慢げに胸を叩きながらリゼリアに言うとリゼリアは表情を綻ばせた。そして、クラウンとリリスがソファに座り直すと再び話し始める。
「まず前提として抑えて欲しいのは、私は神ではあるけど、神の仲間ではないの。むしろ、神をどうにかしたいと思っていると捉えてくれるとありがたいわ」
「お前は結局神ではあるのか」
「そうね、そうなるわ。私はもともと慈愛を司る神の1人。けど、今は色欲の神の使いの肉体を奪ってここに現存しているの」
色欲......つまりは、怠惰のラズリと同様の存在がいたということ。となると、他にも何体かいるということになる。その数は恐らく5体。その根拠は「怠惰」と「色欲」という言葉にある。この2つから察するに、人間が持つ大罪を表している可能性が高い。
「お前を除くと残りは憤怒、怠惰、傲慢、強欲、暴食、嫉妬の6体か」
「察しが良くて助かるわ。まあ、後は神が自ら厳選した人間ぐらいかしら。あなた達もあったことがあるんじゃない?」
「そこまで知ってるのか。だがまあ、今はいい。それにそんな存在は俺達には相手にならない。それよりもその神の使いだ。奴らは人間なのか?」
「人間じゃないわよ。神が感情のままに作り出した7体の人形。それも化け物の強さでね。気を付けて、その神の使いはそれぞれ大罪の名にちなんだ能力を持っているから」
「だが、お前はその内の1人である色欲を倒したのだろ?」
「それは運がよかっただけよ。私は神王が殺され、神の座が奪われた後に仲間達に逃がされたのよ。この世界の運命を託されてね」
リゼリアは思わず暗い表情を浮かべた。その時の記憶を思い出したのか歯を食いしばっているような感じでもあった。そして、その感情を耐えるように言葉を吐き出す。
「でもね、神はもともとこの世界に住む人々に干渉しないように出来ていてね。自分の魔力が勝手に霧散していくようになってるの。そして、それは今も変わらない」
「それじゃあ、もしかしてさっき言ってた『時間が無い』ってそういうことです?」
「その通りよ。神の肉体は魔力のみで出来ていて、この世界に降りればあっという間に体が消えていくの。だから、生き延びるため、果たす使命のためとはいえ、この世界は私にとって地獄と変わりなかったわ」
「なるほどね。それで、追撃者としてやってきたのが色欲で、その色欲を倒して肉体を奪って、魔力の霧散を抑えたということかしら?」
エキドナがそう聞くとリゼリアは無言でうなづいた。その事になんとも言えない表情をするのが、リリスだ。リリスはリゼリアを母として敬愛していて、村を滅ぼし神の使いを憎んでいた。だが、ここでリゼリアが元は神であったことが判明した。
元だから今は違う。そう割り切れればいいのだが、リゼリアとの思い出が沢山ある分、やはり裏切られたような感じがして簡単には割り切れない。それに、そう遠くないうちに死ぬと言われると一層気分は複雑であった。すると、そんなリリスにリゼリアは声をかける。
「リリス、辛いかもしれないけど、私をどう捉えるかはあなた自身が決めなさい。私はその決定に全てを委ねるつもりよ」
「......」
リリスはその言葉を聞いてより困惑な表情を浮かべた。知ったこと、知っていること、考えなければいけないこと。それらが複雑に絡み合ってどこから解けばいいのかがわからない。故に、ひたすら答えも出ないままこんがらがり続ける。
「......!」
その時、リリスの手の上に熱を帯びた何かが重ねられた。それは大きく、ごつごつしていながらも、力強さを感じさせるような優しい手。リリスは思わずその手を辿って見てみるとその手はクラウンの者であった。そのことにリリスは驚きながらも、心の強張りという名の氷がその手によって溶けていくように感じた。
自分もクラウンを頼ると言いながらまだまだ抱え込みがちのようだ。そして、そんな風に無意識に考えてしまっている自分にクラウンは気づいてくれた。それはもはや互いを補う夫婦のようで......シャキッとしなさい、私!
リリスは気持ちに踏ん切りをつける意味とにやけそうな口元を隠す意味で、思いっきり自分の頬を叩いた。そして、リゼリアへと質問した。
「母さん、この世界の真実を教えて」
「ええ、わかったわ」
リゼリアはリリスの燃え滾る瞳を嬉しく感じた。
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