神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~

夜月紅輝

文字の大きさ
上 下
233 / 303
第4章 道化師は知る

第71話  再会

しおりを挟む
「まずここが『白き鳥が高らかに鳴く時』って場所」

「なるほど、鳩時計のことを指していたのか。そして確かに、この位置に時計があるとは思えないな」

 クラウンがエキドナに案内されてやってきた場所は西側にある教会の一つの時計。クラウン達は東側の入り口から入ってきたため、当然気づくはずもない。加えて、この教会にある時計が鳩時計であるなんてことはさらに気づかない。それはもちろん、エキドナがいなければの話だが。

 やはりあの時、エキドナを連れてくるという判断は正しかったようだ。まあ、変態性に目を瞑らないといけないのは何とも言えない話だが。クラウンはそう思いながらも、思わず睨んだように目を細めながらその境界を見据えている。思い出すは二つの記憶。聖王国で戦った人形と兵長を殺したあの男。

 するとその時、クラウンの肩に手が置かれた。それはもちろん、エキドナの手である。エキドナは何も言うことはなく、ただ慈愛の籠った笑みを浮かべながらクラウンを見るだけ。そのことに、クラウンは思わず驚きの表情を浮かべたが、すぐに怒りを霧散させ笑みで返した。

 すると、教会にあった時計がある時刻を指したところで、その時計から音を立てながら鳩が出てきたり、戻ったりと繰り返し始めた。そんな光景を見ているとエキドナがふと東側にあるとある家を指す。その方向を見るとその家から一人の女性が、太陽のマークのような看板を外へと出してくる。

「あれが『東に太陽が昇る』って意味。ふふっ、そんな不満そうな顔しないの。この世界を知らない旦那様には仕方ないことだもの」

「!」

 クラウンはそのエキドナの言葉に思わず警戒の姿勢を見せた。それは、まだリリスにしか知っていない秘密の情報。故に、仲間といえどそういう態度は取らざるを得ない。だが、エキドナはそんなクラウンの様子を気にすることなく、話を進める。というか、そうしないと危険な状況になってしまうからだ。

「私は情報屋よ?それに情報屋でなくても、相手を信用するためにはまず相手の簡単な素性、性格、思想とかは知っておくでしょ?だから、申し訳ないけど、旦那様のわかる範囲で調べさせてもらったのよ。そして、その......ごめんなさい。詳しい原因まではわからないけど、この秘密は確かに先に知るべき情報だとは思わなかったわ。だからせめて、知ったことは伝えたかったの」

「そうか......まあ、そうだな。その言い分は間違っていない......なら、それを知ってどう思う?」

 クラウンはエキドナの言葉を聞くとエキドナの予想とは違い威圧を向けることはなかった。そして、警戒を解くと不意にそんなことを聞いてきた。それに対し、エキドナはクラウンの情報を頭の中に鮮明に思い出すと言葉を紡ぐ。

「そうね......もし、私もあんな状況になれば、間違いなく同じような態度になるでしょうね。信じているが故にそうなってしまう。恐怖してしまう。裏切られたと感じてしまう」

「......」

「私が知っているのは、旦那様が聖王国の法のもとに裁かれたという情報とその際に旦那様の仲間が助けてくれなかったということだけ。だから、いつか私にも聞かせて。その辛さを一緒に背負って行く覚悟は決めてあるから」

「法のもとに裁かれたか......あんなものじゃないがな。それにしても、お前がそんなことを言うとはな。青天の霹靂というところだ」

「私だって真面目な時はあるわよ。そうじゃないと竜人として誇りが失われてしまうわ。それとは別なんだけど、私が旦那様の果たすべき目的を手伝う代わりに、私の果たすべき目的も手伝ってくれると嬉しいわ」

「情報屋は信用で動く。だがまた、利害の一致で動くってか?」

「そういうことよ」

 クラウンはエキドナに不敵にも似た笑みを浮かべるとそう言った。その笑みでエキドナはクラウンにまた信頼を深めると次の暗号が示す場所へと向かった。

「次は『大地より吹き出るしぶき』であったな」

「それは北側にある噴水を意味しているわね」

 エキドナはそう言いながら歩いていくと時計塔の近くにある噴水へとやって来た。その噴水には多くの人達が安らぎを求めてやって来ている様子で、噴水のふちで座りながら談笑しているカップルが多く見られる。もちろん、冒険者の姿もあるが、この街はあまり冒険者が住みやすい場所ではないようだ。

「時間ね」

 エキドナはポーチから懐中時計を取り出すと時間を見た。そして、静かにそう呟くと時計塔を見る。時刻は丁度12時となり、鐘の音が響き渡る。すると、噴水にいた人達は全員がその時計塔の方へ姿勢を向けると膝を地面につけ、両手を合わせ祈り始めた。

「これは?」

「旦那様は知らない方がいいと思うけど.......まあ、知りたいのなら教えてあげるわ。簡単に言えば、創造主への忠誠のようなものよ。聖王国の信仰は意外と広い範囲で布教されているのよ」

「そういうことか」

 クラウンはその言葉の意味を正確に理解した。創造主、つまりは神トウマに対する信仰。それはクラウンが一番に殺したい相手の名。エキドナが思わず口を重たくして言ったのはそういうことらしい。だが、クラウンはそれを深く捉えることは止めた。この憎悪を向ける相手が間違っているからだ。八つ当たりなど強者はしない。

 すると、エキドナは時計塔の、鐘の方へとおもむろに指を向けた。するとその時、空に昇っていた太陽の光が鐘へと反射し、その光がクラウン達の背後にある建物の扉へと当たった。その時、全ての暗号を理解したクラウンは確認のためにエキドナを見る。

「ここか?」

「そうらしいわね」

「なぜこんな回りくどいやり方をするんだ?場所に向かわせるだけなら、こんなことをしなくても済んだはずだ」

「そうね、私も毎回そう思うわ。でも、これは相手の信用を測ると同時に、簡単な力量を測っているのよ。この言葉の意味、地形の把握、建物の所在、他にもいろいろあるけど、情報を渡す相手が渡すに相応しいかを確認するためとか」

「そういうことか」

「それに、こんな情報だけの暗号がわからないようでは、情報屋には向いていないし、その人は渡した情報を上手く利益につなげられない。まあ、結局のところは信用に値しないってところかしら?......まあ、それは仕方ないと思うわ。情報を扱う情報屋がその情報に惑わされたら本末転倒だもの」

「なるほどな」

クラウンはエキドナからの言葉を聞くと理解するように頷いた。言葉の表現としては浅いかもしれないが、とにかく情報屋としていろいろあるのだろう。だが、それをクラウン達が考える必要は無い。専門外というのもあるし、それを生業として生きているわけではないからだ。

クラウンはその光が当たる扉を開けると中には1人の男が立っていた。その男は特に祈るといった行為もせずに、食器を拭いているとクラウン達をチラッと見て、無言で関係者以外立ち入り禁止の扉を開けると元の位置へと戻っていった。

要するに、この扉の先を進めということだろう。クラウンはエキドナに目線を向け頷き合うとその扉の先へ歩いていく。すると、その場所は食料庫に繋がっているらしく、その場所には地下への入口であろう蓋があった。

そして、クラウンがその蓋の取っ手を持って開けるとその蓋の下にある階段へと降りていった。その階段は薄暗く、明かりもない。しかし、クラウン達はその道を躊躇せずに突き進んでいく。すると、遠くの方で複数の気配を感じた。そして、その気配がする扉を開ける。

「やあ、待ちくたびれたよ。お得意さん?」

「回りくどい暗号のせいだ」

「嫌だなー、あれはほんのイタズラ心だよ。他に他意はない。でも、その様子だと楽しんでくれたようで何よりだ。しかし、出来れば1人で解いて欲しかったなー」

クラウンが扉を開くとリックが開口一番にそんなことを言った。「イタズラ心にしては随分と面倒なことをしてくれる」とクラウンは思わざるを得ない。だが、ここまで寄越したということは、渡したい情報があるということ。それが何なんのかは分からないが、直接会うぐらいだ。おそらく重要な内容なのだろう。

「それで、伝えたい内容があるんだろ?それはなんだ?」

「まあまあ、落ち着きなって。そんな焦っても仕方ないし、ここは1つ僕の暇つぶしに付き合ってよ」

「さすがにそんなことに付き合う義理はない。」

「ははは、そう言うと思ったよ。それにしても随分と丸くなったね......いや、一部は物凄く鋭利になったけど何かあった?」

「......」

クラウンは相変わらずの勘の良さに思わず眉間のシワを寄せる。この鋭さはどこから来るものなのか。おそらくはこの仕事で培われた勘だと思うが、あまり詮索されるのは厄介だ。

そして、クラウンがリックに本題を促そうとするとそれを遮るようにリックが話しかけてきた。

「僕の煽りにもキレなくなった。その心の変化はもしかしなくても、あの時にいた少女のことだよね?いやー、羨ましいな。僕はそういう人がいないんだ。ねえ、誰か居ないかな?」

「いい加減にしろ」

クラウンのその一言でこの場は一気にピリついた雰囲気へと変貌した。だが、リックはその中でもニコニコとした表情を浮かべながらクラウンを見る。そして、マウントを取るように声をかけた。

「『キレないな』って言った瞬間にキレないでよ。それに今は僕が上だ。それはちゃんと理解してるよね?してなかったら、悲しいなー」

「してる。その上で言ってるんだ」

「ははははは、やっぱり大物だね。その気概にはさすがに恐れ入るよ」

「何が言いたい?」

クラウンはイラ立ちながらそう言った。さすがにリックの行動がウザいところまで来た。だが、そこまで引っ張るような奴ではないことぐらいは分かる。故に、何を考えているのかが読めない。あまりにも時間を稼ぐような行動。時間が経てばわかるということなのか。

「僕は暇を潰したいのさ」

「はあ......何をすればいい?」

「お!理解が早くて助かるよ。やっぱり、見込んだかいがあったってもんだね」

そう言うとリックはにこやかな笑みを浮かべて答えた。

「ゲームをしよう」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

処理中です...