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第3章 道化師は嘆く

第62話 類は友を呼ぶ

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クラウンはゴーレムを倒し終えると一先ず地上へと降り立った。するとそこに、リリス達がやってくる。クラウンもリリス達も総じてボロボロではあったが、誰一人そのことを気にするものはいなかった。とにかく今は、終わって良かったという気持ちの方が強かったのかもしれない。

「お疲れ様ってところね。それにしても、あんなでかいのを本当に一人で殺っちゃうなんてね。神の使いのこともあったけど、あんたに勝てる奴なんているのかしら?」

「さあな。だが、この力で済むほど俺が殺したい相手は弱くはないはずだ。なんせ神だからな」

「神......」

 クラウンの言葉を聞いたエキドナは思わずその単語を呟いた。それは過去に蘇る記憶に該当しそうな事柄があったからだ。だが、このことを言うのは後にすべきだ。戦いが終わったばかりで言うべき話ではない。

 その時、ロキがある方向を向いて一吠えした。その方向は砂漠が広がる大地の方......場所。

「なにこれ......」

「奇麗です」

「ふふふっ、戦いの後の褒美ってところかしら」

「そうかもしれんの」

 クラウンが見た砂漠には緑が広がり始めていた。そして、ある場所では砂漠から水が湧きだし始めている。そのことにクラウン達は感嘆の声を上げた。しかも、その緑から急速に木が生え伸び始めていた。さらに、実もつけて。

 クラウンはその木へと近づいていく。そして、その実をもいでみると一齧りする。その瞬間、体に電流のようなものが流れると同時に急速に気力も体力も回復し始めた。その光景を見ていたリリス達は思わず驚いた表情をしながらも、同じように食べ始めた。

「ん!あっま~~~~~♡」

「これは病みつきになるです」

「ふふっ、お酒と合いそうね」

 リリス達女性陣はその美味しさに思わず頬を緩ませる。そして、次第にその頬を赤く染め、身をよじらせていく。その様子にクラウンは何か嫌な予感がした。なにかとてつもなく面倒ごとが始まるようなそんな予感が。その予感に従って、クラウンは後ろに下がって少しずつ距離を取ろうとするが、その前に手首を掴まれる。

「ちょっと~、どこにいくっていうのよ~」

「はあはあはあ......ヒック、主様、どうかその筋肉を触らせて欲しいです。特に腹斜筋辺りを」

「はあ~♡いいわ、この甘み。たまらず下腹部が熱くなってきちゃったわ。ねぇ、旦那様?どうか私のここ、冷ましてくれないかしら?まあ、もっと熱くなってきちゃうと思うけど。ああ、想像しただけで―――――――」

「この症状が酔いだとしたら、お前は強いはずだろ。便乗するな」

「あら、バレちゃったわ。んもう、このまま気づかない振りしたっていいじゃない」

「それだとお前の思い通りだろうが」

 クラウンはエキドナの言葉に呆れながらも纏わりついているリリスとベルの方に顔を向けた。その顔と目は完全に理性が飛んでいる。しかも、掴んできた手は無駄に強い。すると、リリスはクラウンに抱きつくように体を寄せる。

「もう、あんたってほんと強情よね~。もう少し素直になってくれれば、こっちももっと強気でいけるのに......踏んであげるわ感謝しなさいとか」

「そっちか」

「主様はお優しいです。ですから、どうかそのままでいてください。それと触るです」

「触るな、エロ狐」

 クラウンは思わず頭が痛くなるような感覚になった。だが、不思議とイラ立ちは起こらなかった。もうこんな姿に慣れてしまったのもあるかもしれない。まあ、後はめげずに自分に向き合おうとしてくれたというか。いや、それは考えすぎかもしれないな。

「お前ら、さっさと行くぞ」

 クラウンはリリスとベルを引き離すと砂漠の国に向かって歩き始めた。そんな冷たい態度にリリスとベルは頬を膨らませながらも、その表情に怒った様子はなかった。そして、その後ろを追って歩いていく。

「ふふっ、良い雰囲気ね」

「それまであの二人が頑張ってきたというところじゃな」

「ウォン(良い光景)」

「私も混ざれるかしら?」

「とりあえず、その言葉遣いを直したらどうかの?」

「それだと私のアイデンティティがなくなってしまうわ」

 「そんなアイデンティティは捨ててしまえ」と思わず声に出そうになったが、兵長はグッとその言葉を飲み込んだ。そして、兵長、エキドナ、ロキはその三人の後を追って歩き始める。

 クラウン達が砂漠の国に戻るといろいろと驚くことがあった。まず一つ目は壊れたはずの神殿がなぜかもとに戻っていたこと。それから、今現在たくさんのドワーフに囲まれていること。そして、そのドワーフに胴上げをさせかけられていること。

「離れろ」

 クラウンはそのドワーフを手荒く蹴散らしていくが、そのドワーフの興奮は冷めやらない。鼻息を荒くした状態ですぐさまクラウン達のもとへ近づいていく。

「すごいぞ、なんだあれは!?」

「昔話に出てくるオアシスじゃないか!」

「それにあの4つ足のデカブツも!ありゃ、宝の山だぜ!お前ら、あの魔物を一つ残さず解体するぞ!」

「「「「「おおおおおおおお!!!」」」」」

 ドワーフの一部はクラウン達からその詳細を聞き出そうとし、残りのドワーフはアンキロサウルスの亡骸へとダッシュしていった。そのドワーフをクラウンはもう一度うざったそうに蹴散らすと<隠形>で姿を隠しながら逃げていった。

**********************************************
「やっと来たか」

「ふふっ、こんな時間に呼びだすなんて......あの子達にバレても知らないわよ」

 クラウンがエキドナを呼び出したのは夜が更けて、誰もが寝静まる時間帯。そんな夜に男女が一つの部屋に集まってすることと言えば一つ。

「なにムードを作り出そうとしてんだ。お前にそんな目的はない」

「そうなの?でも、まだわからないわよね」

 クラウンは実に面倒そうにため息を吐くとそれにいちいち反応することは止めて本題に入ることにした。それはエキドナの真の目的。自分が疑り深い質だからわかる。あの目は何か目的を果たそうとしている目だ。そして、その目の正体を確かめるためにエキドナを呼び出したのだ。

「お前は俺の駒となった。そして、お前自身も俺の駒であるということを認めている。なら、お前の目的を話せ。お前は俺達から何を探っている?」

「ふふっ、まさかそこまでお見通しだとは。でもまあ、きっとあの時から気づいている様子であったし、時間の問題だったかもしれないわね。それにしても、気づくのが早すぎるんじゃないかしら?」

「俺は人をそう簡単に信じるほどお人好しでもなければ、バカでもないからな。で、お前の目的をさっさと話せ。時間がかかる話なら尚更な」

「わかったわ。まあ、少し長いかもね」

 そう言ってエキドナが話始めたのはこうであった。

 エキドナは数十年前まで竜人族が住む里にいて、そこから出ることもなかった。竜人族は閉鎖的というわけではないが、それでも他の種族と関わること自体滅多にない。それは自国で全て循環できるという理由があったためだ。

 そのため、その頃はエキドナは夫と息子と仲睦まじく暮らしていたという。だが、悲劇というものは突然振りっかかってくる。それは月が夜空の天辺で輝いていたある日、一人の男が巨大な漆黒の竜を連れて現れた。

 当然、竜人族の感覚がその男が現れたことを逃すことはない。そんな夜更けに現れ、見知らぬ竜を連れている男に初めから友好的な態度を示すほど、竜人族は親切ではない。いや、親切にしなくてもいいほど、その男と竜は敵意を剥き出しにしていた。

『お前ら、俺のものになれ。特に女はな』

 その男は声高らかにそう言い切った。だが、竜人族は全てを力で決める。たとえ相手が自分より強かったとしても。それに、そんな言葉に乗るほど誇りを失ってはいない。そして、言った言葉は全員、ノーであった。

 すると、その男は「俺のものにならないものは死ね」というとその竜を解き放った。しかし、相手はたかだか竜1匹。それに対して、こちらは大人全員が竜になれて、その数は数百倍。明らかに負けるわけがないレベルだ。

 だが、その竜1匹に多くの同胞が倒れた。それは相手が固く、強すぎたためだ。竜の爪であっても、息吹であっても傷一つつかない鱗。加えて、竜人族の<竜化>した竜鱗をたやすく切り裂き、貫通させる力。最後に多くの同胞を死に追いやった死の息吹。

 そして、男は興味無さそうに去るとその竜は天高く昇って消えていった。だが、その男と竜がいなくなったからと言ってこの里に絶望が去ったわけではない。むしろそれは始まりに過ぎなかった。

 その絶望の原因はあの黒竜が置き土産とばかりに残していった瘴気。その影響は黒竜がいなくなった後でも、多くの竜人族を襲った。黒竜の死の息吹を直接受けたわけではないので、すぐに死ぬという訳ではなかったが、それでも多くの竜人族を動けなくさせた。

 そして、エキドナもその瘴気に当てられたが、幸い症状は浅く、竜人族の自己治癒力で治すことは出来た。だが、死の息吹を直に受けたエキドナの夫は死に、抵抗力が弱かった息子は生きているが、意識を戻すことはなかった。

 そんな息子の光景を見てエキドナは悲しみと憎しみに同時に襲われた。どうして突然こんなことが起きたのか。どうして夫を失い、息子が動かなくなってしまうのか。つい数時間前まで和気あいあいとしていた家は閑古鳥が鳴くほどに静かなものとなっていた。

 そして、エキドナは決意した。あの男と竜はもちろん殺したい。しかし、まずは倒れた息子と同胞たちのまたもとの元気な姿を見るために、この症状を治せる薬を探そうと。そのために何年、何十年といろいろな国を回った。同時に情報が集まりやすいように、情報屋としても動くようになった。

 だが、それは未だ見つからない。竜人族のタフさならまだ持つかもしれないし、他の症状が軽かった仲間達が看病してくれている。しかし、そう時間をかけれるものでもないし、もうかなりの時間が経っているので最悪な可能性になっているかもしれない。

 そんな希望と絶望の狭間の中でエキドナは苦しみ続けながらも、情報屋としての仕事と本来の得るべき情報を探すために辿り着いたのが、砂漠の国。そして、ドワーフが好きな酒と民族衣装で警戒心を緩ませながら、情報を探っていた所で出会ったのがクラウンであった。

「私は旦那様を一目見た時にどこか確信を持ったのよ。私が求める答えがここにあるってね」

「だが、俺は薬もなければ、そんな男と竜の存在も知らない」

「わかってるわよ。ただ私が勝手に期待しただけ。でも、あの時の旦那様が言った『神』という単語には少し感じるものがあるわ。それはあの男がまるで神のようだったもの」

「......何?」

 クラウンは思わず前のめりでその言葉に興味を示した。そして、「わかることを全て吐け」とでも言うような瞳でエキドナを見つめる。すると、エキドナはやや残念そうにその言葉に答えた。

「ただそのぐらい威圧感がすごかったというだけよ。ただそれだけ」

「......そうか。まあ、それだけ聞けただけでもいい。それで?お前はそれを話した上でも、俺に対する呼び方は変えないのか?」

「ふふっ、それは竜の血がそうさせるもの。本能には誰も抗えないわ。それに息子はまだ小さいの。だから、その息子に強い父親という存在は必要なのよ。ということで――――――――」

 エキドナはおもむろに服を脱ぎだすと下着姿になった。そして、恥じらいもなく、艶のある表情をしながら片手を下腹部へと触らせる。先ほどシリアスはどこへやら。一気に甘い雰囲気へと変わった。

「一発いかが?」

「死ね、セクハラ駄竜が」
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