上 下
245 / 303
第3章 道化師は嘆く

第59話 重力の遊戯場 マチスカチス#4

しおりを挟む
 クラウンは扉を開けると大きな空間に出た。しかし、そこには特に目に付くものは見当たらない。ただ周りが、岩で覆われているのみ。そのことに不自然すら感じている。しかし、クラウンだけはただ一点、正面のみを向いていた。なぜなら、そこから巨大な気配が感じるからだ。しかも、この空間の全面から。

「なによここ、何もないじゃない」

「ですが、嫌な予感がするです」

「そうね、この肌がピりつく感じは何と言えばいいのかしら?」

「ここで淫語を使ってたとえを言わないとは相当なものということかの」

 全員も何かを感じ取ったのか各々に感想を口にする。そして、クラウンが見つめる先を同じく見た。するとその時、ガガガガガと全部の壁が激しく揺れ出した。それからやがて、正面の壁が崩れ始めて巨大すぎるゴーレムが現れた。

 そして、そのゴーレムは大きすぎるが故に頭を天井に擦りつけながらもクラウン達に向かって歩いていく。そのせいで天井は崩れ始めた。にもかかわらず、ゴーレムはお構いなしと次第に歩行スピードを上げていく。

「クラウン、ここに留まるのはまずいわよ!」

「あれを倒すには時間がかかるです」

「その間に私達は生き埋めになってしまうわね」

「......走るぞ」

 クラウンはせっかく苦労してここまでやってきたのにすぐさま引き返すことになって、思わず苦虫を嚙み潰したような顔をする。しかし、死ぬとなれば、背に腹は変えられない。クラウンは重い足を無理やり引き吊りながら走り出した。

 そして、扉の先を抜けるとなぜか知っている空間とは違っていた。その空間に来た時はそれぞれのペアが通ってきたような3つの道があった。だが、今はない。あるのはトンネルのような大きさの一本道。まるでこういうことをさせるかのように。

 しかし、迷っている暇は全くない。今も後ろからはあのゴーレムが迫って来ていて、それに伴って神殿の瓦礫が崩れ落ちている。

 クラウン達はトンネルに突入すると一気に体グッと重くなった。動けないほどではないが、これが来た時みたいに長ければ、かなり体力が持ってかれる。しかも、加えて魔力が使えなくなった。先ほどまでは使えていたのだが、このトンネルに入るとまた制限された。そのことにクラウンは再びイラ立ちの顔をする。

「!」

 すると、トンネルの壁から巨大な刃が振り子のように降られてきた。そのことに全員、思わず目を見開く。体が動きにくい状態でこれはかなり危ない。だが、そこは伊達に神殺しを誓った少年とその少年についていく仲間達ではない。それぐらいならまだ余裕で避けていく。

「エキドナ君、<竜化>は使えんのかの?」

「先ほどからやっているわ。でも、それでも出来ない。ということは、魔力による体内での魔法でも発動できないということね」

「つまりは本来の力で逃げ切れってことか......チッ、面倒だな!ロキ、頼めるか?」

「ウォン(任せろ)!」

 ロキはこの中では体の耐久値が低いリリスとベルを裾を咥えて背中に乗せる。そして、負荷がより増えたにも関わらず依然として変わらぬ速さを保ち続けている。そのことにリリスとベルは思わず悲しそうな顔をする。すると、ロキが声をかける。

「ウォン、ウォン!」

「え、何て?」

「『気にするな』と言っているんだ。これはお前らのことを思っての行動だ。それに合理的な判断な結果でもある。だから、そんな顔をするな。ロキに失礼だ」

「そうね......頼むわよ、ロキちゃん!」

「お願いするです、ロキ様」

「ウォン」

 ロキは元気よく返事する。すると、今度は連続で巨大な刃が振り下ろされた。しかも、全てがバラバラ。タイミングを見計らっていかなければならない。しかし、それを考えるにはあまりにも時間がない。となれば、タイミングを見つけ次第、腹をくくって突入するしかない。

 そして、勢いよく通り抜けていく。すると次は、四方八方から通り道を制限するように棒状のブロックが跳び出してきた。しかも、その跳び出すタイミングは明らかにぶつけようとするタイミングだ。避けるなら、出てきた個所から予測するしかない。

 クラウン達はクラウンを筆頭にブロックを通り抜けていく。するとある時を境にそのブロックの形状が変化した。クラウン達の思考を読み取るように軌道を変えてくる。

 そのことに思わず沸点を超えたクラウンはそのブロックを思いっきり殴った。その時、そのブロックは破壊できた。その事実はクラウンに驚きを与えた。なぜなら、ロキと共に走り抜けた時の壁は破壊できなかったから。それ故にこのブロックも破壊できないと思い込んでいた。

 そのことにクラウンはイラ立ちすら感じた。自分自身の浅はかさに。自分がもう少し早く気づけていれば、その少しでまだ余裕が持てていたはずだからだ。やはり弱い自分は嫌いだ。力ばかり追い求めていたが、思わぬところで自分の浅はかさが露見した。

 するとその時、左肩に手が置かれる。その手はエキドナのものであった。そして、エキドナはクラウンに言葉をかける。

「それでいいのよ。それが普通。それを隠そうとすれば、辛いのは旦那様よ。時には心の鬱憤を吐き出すことも重要よ。まだ子供なんだから、私に言ってもいいのよ?」

「随分と母親のような言い方をするんだな」

「それはそうよ。ですもの」

「......お前には聞くことがありそうだな」

「大丈夫よ。そう思わなくても、こちらから話そうと思っていたから」

 エキドナは言い終わるとクラウンの邪魔をしないように距離を置いた。その言葉にクラウンは思うところがありながらも、先ほどよりも冷静に判断することが出来た。

**********************************************
「よう、調子はどうだい?」

「んまあー、ぼちぼちってところだな。上手く仕上げられるものもあれば、仕上げられないものもあるって感じだ」

「同感だな」

 二人のドワーフはクラウン達が突入して以降、変わらぬ日々を過ごしていた。ただ、少し違うとすれば、炭鉱に誰も行っていないということぐらいか。

「それで炭鉱まで魔物が現れるようになったって本当か?」

「ああ、そうなんだよ。しかも、俺達を襲う訳でもなく一目散に神殿を出ていきやがる。これは何かあるんじゃねぇかってことで、今回の発掘作業はやめたんだ......ん?」

「どうした?」

「感じないか?この揺れ。ほら、段々大きくなってる」

「本当だ!」

 二人のドワーフは慌てて外に飛び出すと周りの人々の反応を見た。すると、同じような反応を示している人が全員だ。そしてやがて、二人は跳ね上げられるような揺れを感じた。もうこれは異常としか思えない。その時、神殿が突如として崩れ始めた。

 そのことに外に出ている全員が呆然とした表情をした。そして、そのままの表情で神殿を見つめていると神殿の入り口からクラウン達が出てきた。クラウン達が入ったことを知っているドワーフはこんなにも早く出て来ることにも驚いた。「神殿の攻略に失敗したのか?」と思ったが、この揺れの時点でそれは違うだろう。

 だが、それ以上に驚く事案が次に起きた。それは神殿を破壊するように出てきた巨大なゴーレム。大きさ的に30メートルぐらいはあるだろう。その光景には思わず叫びを上げずにはいられない。

「「「「「えええええええ!!!」」」」」

 そんなドワーフ達の様子を知る由もなくクラウン達はこの国を抜けて砂漠まで駆け抜けていった。そして、砂漠に来るとロキと<竜化>したエキドナに、クラウンが糸で作り出した綱の両端を持たせた。

 クラウンはその綱を引っ張るように命じると自分はタイミングを計って、一気に加速してゴーレムの方向かっていく。それから、ゴーレムの足が綱に引っかかったの確認するとその足を一気に蹴り込んだ。その蹴りはゴーレムの体勢を崩して、砂漠へと叩きつけた。

「やったわね、これで畳みかければ終わりよ」

「......いや待て、気配を巨大な気配を2つ感じる」

「気配はあのゴーレムだけではないです?」

「違う。これは確かな気配だ......来るぞ」

 クラウンがそう言った瞬間、砂漠の地が揺れ始めた。そして、丁度ゴーレムの下あたりから砂漠が山のように隆起していく。

「ガア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ン"ン"!!!」

「なによ......あれ?」

「まるで巨大なアンキロサウルスのような姿じゃの」

「あの装甲はダメージが与えにくそうです」

兵長とベルが言ったようにまさに恐竜と言ったいでたちで、頭や背中は厚い鎧のような皮膚に覆われていて、尻尾の先にはハンマーのような球体がついている。その姿を見たエキドナは思わず呟く。

「まるでこの国の昔話に出てきそうな魔物ね」

「「昔話......」」

 クラウンと兵長はエキドナの言葉を聞いて思わずその単語を呟き、頭の中で反芻させた。それはこの国に来る途中で一人のドワーフが話したことだ。あれは確か......

『この砂漠はな、大昔は緑溢れる......とまではいかないが、多くの場所にオアシスが残っていたらしいんだ。だが、ある日突然この砂漠に変わったらしい。まあ、この話は本に記されていた伝承を思い出していったに過ぎないがな』

 クラウンは思わず眉をぴくつかせた。それはものの見事にフラグを回収したからだ。その話を聞いていなかったら、現れなかったかと言われるとそれはどうかはわからない。それでも、面倒ごとが増えたことには変わりないのだ。

 しかも、その魔物とゴーレムが潰しあってくれれば、楽でいいのだが、なぜか二体ともこちらを標的として向かってきている。その事実にクラウン以外も「面倒だ」という顔が隠せないでいる。

「俺がゴーレムを相手する。お前らはあのデカブツを殺れ」

「あんた、一人でゴーレムを相手にする気?それはさすがに無茶よ」

「あんなのはただデカいだけだ。あれぐらい一人で殺れなければ、この先は死が待っているだろう」

「はあ......あんたを言いくるめようとしても無駄ね。それは前からわかっていたことよね」

「主様なら大丈夫です」

「それに心配なら、私達がサッサと片付ければいい話だしね」

「なら、ちょいと張り切ってみるかの」

「ウォン(怪我すんなよ)」

 クラウンは仲間達の言葉を聞くとほんの僅か口角を上げた。そして、両手にヨーヨーを持ち、構える。二体の魔物は依然として砂漠で地響き鳴らし、砂塵を巻き上げながら向かって来る。

「お前ら......殺せ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな
ファンタジー
 ティアラ・クリムゾンは伯爵家の令嬢であり、シンクレア王国の筆頭聖女である。  そして、王太子殿下の婚約者でもあった。  だが王太子は公爵令嬢と浮気をした挙句、ティアラのことを偽聖女と冤罪を突きつけ、婚約破棄を宣言する。 「聖女の地位も婚約者も全て差し上げます。ごきげんよう」  父親にも蔑ろにされていたティアラは、そのまま王宮から飛び出して家にも帰らず冒険者を目指すことにする。  

序盤で殺される悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう〜主人公がキレてるけど気にしません

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役貴族に転生した俺。 貴族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な公爵家の令息。 序盤で王国から追放されてしまうざまぁ対象。 だがどうやら前世でプレイしていたスキルが引き継がれているようで、最強な件。 そんで王国の為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインは渡さないぞ!?」 「俺は別に構わないぞ? 王国の為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「すまないが、俺には勝てないぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング40位入り。1300スター、3800フォロワーを達成!

処理中です...