248 / 303
第3章 道化師は嘆く
第56話 重力の遊技場 マチスカチス#1
しおりを挟む
クラウン達は案内役のドワーフと離れてから順調に探索を進めていた。というか、逆に言えば、それほど何もなかった。砂漠の神殿というわけかわからないが、この神殿ではやたらゴーレム系の魔物が多い。もちろん、他にもいるが総じてレベルは高くない。
「だから、それはあんたが強すぎるからでしょうが」
「そんなになってまで力を追い続ける......カッコいいです」
「ふふっ、惚れ直しちゃうわ。私のリビドーも高まってきちゃう」
「ジジイ、なんとかしろ」
「フォフォフォ、無茶言わんでくれ」
クラウンは若干一名の舐め回されるような視線を耐えるようにロキの毛並みを触っていた。やはり、この毛並みが一番落ち着く。だから、ベル、自分の尻尾を差し出してくるな。
そして、10階層に辿り着くと体が急にどっと重く感じた。気のせいかと思ったが、周りの仲間も同じように感じているのか手を握ったり、開いたりして感触を確かめていた。
クラウンは刀を抜いてその場で軽く振ってみる。この感じの重さは2キロぐらい増えた感じであろうか。大した問題はないが、いつも通りに振ってしまうと的確に敵を仕留められないだろう。これは少しだけ意識を向けた方がいいか。
それから、進んでいくと一斉に魔物が現れた。だが、レベルがわかっている以上、いくら多くとも脅威にはなり得ない。そして、クラウンが歩きだそうとするとそれを制止するようにリリスが前に出た。
「いちいちあんなのを相手にするのは、面倒でしょ?だから、ここは私に任せて」
すると、リリスは大きく息を吐くとそれから思いっきり吸った。
「~~~~~~♪」
リリスはその吸った空気を全て吐き出すように美声を前方へと響かせた。すると、前方にいる魔物達は次第にバランスを崩していき、やがて総じて地面に倒れた。見た感じでは、どこかから血が出ているというわけでもなく、ただ眠っているようにも見える。
「今のは?」
「私はサキュバスよ?サキュバスは淫魔とも言われるけど、夢魔とも言われるの。故に相手を眠らせることが出来るのよ。きっとあの魔物は夢の中で盛っているだろうね」
「そんなことができるの!?ねぇ、こんどそれを私にかけてくれないかしら。旦那様が相手してくれなくて悶々とした日々を過ごしているのよ」
「それは自分でどうにかしなさい」
「私も――――――――」
「ベル、あんたはどうにか染まらないで」
リリスは相変わらず対処に困るエキドナに辟易としたため息を吐きているとふと視線に気づいた。その視線を探ってみるとそれはクラウンから向けられたものであった。しかし、数秒だけリリスの方を見ただけで、何も言わず振り返った。そのことにリリスは怪訝な顔を浮かべた。
そして、クラウン達が進んでいくと目の前に大きく開けた空間が現れた。その空間には長方形のブロックが横に回転していたり、縦に回転したり、十字の形をしたものが斜めになりながら上下していたりしていた。しかも、それは全て宙に浮いていた。下は暗く底が見えない。
しかし、たとえ底が無かろうとクラウンには関係ない。なぜなら、クラウンは空中を歩ける人族なのだから。なので、クラウンが<天翔>を発動させようとした瞬間、外に出した魔力が霧散した。その事実にクラウンは静かに目を見開く。そして、そのことを確かめるためにリリスの話しかけた。
「......リリス、適当に魔法を放ってくれ」
「え?いいけど」
リリスは前方へと腕を伸ばして火の玉を放った。すると、その火の玉は数センチいかずに霧散した。そのことに驚いたリリスはもう一度火力を高めて放つが、結果は同じ。
「なるほど、どうやらこの空間では魔法は使えないと思った方が良いようじゃの。それがどこまで続くかは定かではないが」
「みたいだな。だが、リリスが確かめている間、俺もあることがわかった。この空間では魔法は使えないが、それは体外へと出る魔法に限った話だ。俺の<天翔>は足元を魔力で覆う必要があるため出来なかったが、<身体能力強化>は体内で増長されるため使えることが出来た」
「ということは、この先の戦いは接近戦主体になるってことです?」
「そういうことになるな」
その話を聞いたリリスは思わず暗い顔をした。それはこの場において自分が足手まといになってしまうことに。するとその時、右肩に手が置かれた。リリスは思わずその方向を見るとそれはクラウンの手であった。
クラウンは無言のままタイミングを計って回転する長方形に飛んだ。リリスはどんどんと進んでいくクラウンを見ながら、先ほどの行為に呆気に取られていた。それは本来のクラウンからしたらまず取らないはずの行動。その「気にするな」というような行動はリリスの鼓動を急速に上げた。
心なしか触れられた右肩があたたかく感じる。顔はちゃんと熱い。状況が状況だけに浮かれるのは不味いのだが、嬉しいのだから仕方ない。リリスは一度深呼吸して後に続いてく。
それから、アスレチックともいえるブロックを次々と超えていく。しかし、そのペースは段々と落ちていく。
「......このブロックを超えるたびに重力が強くなって来てやがる」
「おそらくはこの重さはプラス13キロぐらいかの」
そう言ってクラウンと兵長は後方を見る。それは残りの3人が遅れているからだ。重さ的には全員大した問題ではないのだが、普段慣れていな重さで長時間の負荷が加えられ続ければ、当然体力は削られてくる。
ここにいればいるほど、自分も含め状態は悪くなってくる一方。そこでクラウンはその3人に糸を飛ばした。そして胴体に絡みつかせると一気に引いていく。
「ごめんなさい、上手く体が動かなくって」
「ごめなさいです」
「わかっている。後少しだ」
「この糸は旦那様の魔法ね。ふふふっ、この糸なら縛りプレイとかできそうね」
「お前だけは置いていけばよかったな」
「ここでの放置プレイはさすがに嫌よ」
クラウンはもう何度目かのため息を吐くと進んでいく。そして、最後のブロックにやってくると全員が膝をブロックにつけた。それはここだけ重さが異常なのだ。さながら3Gぐらいかかっている感じだ。しかも、相当重い。
クラウンはチラッと周りを見る。リリスとベルは完全に固まっていて動く気配がない。その他はかろうじて動けるぐらいだ。まだまともに動けるのは自分ぐらいか。
「!」
その瞬間、上方からヒュ―――――――――と音を立てながらこのブロックの上に何かが降ってきた。それは片手に盾、もう片方に槍を持ったケンタウロスであった。しかも、このケンタウロスは重さを感じてないのか興奮したように両前足を上げる。
すると、そのケンタウロスはクラウン達に向かって一気に駆けていった。それに対抗するようにクラウンも飛び出すが、明らかに進んでいない。いや、進む速さがとても遅い。
「くっ!」
クラウンは突き出された槍を刀で逸らしながら、足を踏ん張る。すると、ケンタウロスは盾を思いっきり突き出してきた。それに対し、クラウンは咄嗟に左手を突き出して防ぐ。しかし、その重力下でのシールドプッシュは容易にクラウンの左腕を破壊した。
「うぜえ、離れろ」
「ガアッ!」
クラウンは左腕をすぐに回復させるとともに刀の柄を口に咥えた。そして、右手をケンタウロスの胴体に向けると<極震>による衝撃波を放った。すると、空気という質量弾によってケンタウロスは数メートル吹き飛ばされる。
「旦那様だけに無理はさせないわ。それにここで動かなければ、竜人族の名が廃る!」
エキドナは気合を入れて走り出すとケンタウロスの正面に向かった。すると当然、ケンタウロスは動きが鈍いエキドナを攻めてくる。しかし、エキドナはそのことをむしろ望んでいたように右腕を振り上げると部分竜化で右腕だけ竜の腕にした。
「誰が旦那様を攻撃していいと言ったの?」
「グファッ!」
エキドナは殺気だった目を向けるとその腕を思いっきり振るった。ケンタウロスはその攻撃をガードしようと盾を突き出すが、重力が乗った拳はその盾をひしゃげながらケンタウロスを吹き飛ばす。
「儂もなにもしないわけにはいかないの!」
「ウォン(引き裂いてやる)!」
すると、吹き飛ばされたケンタウロスに合わせるように兵長とロキが重たい体を引き吊りながら走った。そして、両側から挟み込むように同時に切り込んだ。
「ねぇ、クラウン。私をあのケンタウロスまで投げてくれない?」
「私もです」
「なぜだ?」
「あんたの役に立てないのが癪だからよ!」
「主様の役に立てないのが癪です!」
「......そうか。なら、仕留めせみせろ」
クラウンはリリスとベルの体を抱えるとその服を掴んでリリスを上方へ、ベルを前方へ思いっきり投げた。すると、ベルは死に体となっているケンタウロスの胸元へと袖から取り出した短剣を突き刺していく。
「ガアアアアアア!!!」
その痛みにケンタウロスは吠えた。しかしすぐに、自分のもとを離れたベルを蹴り込もうと両前足を上げた。だが、そこにリリスが降ってくる。リリスは右足を大きく前に伸ばしながらケンタウロスの胸元へと踵を叩きつけた。そこは丁度短剣がある位置だ。
その短剣はケンタウロスの胸元を深く抉り、心臓に届いたのかケンタウロスは横に倒れたまま動かなくなった。そして、その体は粒子状に消えていく。
討伐を確認するとクラウンはリリスとベルを抱えてすぐにこの空間を抜け出した。すると、重力が元に戻ったのかとても呼吸が楽になった。しかし、未だ魔法を使える気配がない。
「お前ら、行けるか?」
「はあはあ、スーハ―.....大丈夫よ」
「私も問題ないわ」
リリスとベルの体力が回復したのを確認するとクラウン達は先へと進んでいく。そしてしばらくすると、小さな空間に現れた。その空間には先がなく行き止まり。しかし、床には魔法陣がある。おそらくはここに乗って進んでいくのだろう。
『この先、3つの道がある。運が良ければ、簡単に進んでいくことが出来るであろう』
目の前に壁にそんな言葉が浮かび上がった。その文字を見た瞬間、全員がクラウンを見た。「運が良ければ」という部分に反応してのことだろう。クラウンはそのことに眉をピくつかせながらも我慢した。そして、クラウン達はその魔法陣に入るとすぐに全身が光に包まれる。
**********************************************
「ここはどこかしら?」
「それから主様達の姿がないです」
光が消えた先にはいただの一本道で背後は行き止まり。それからこの場には。リリスとベルしかいない。察するにあの魔法陣によって分断されたということだろう。無事に会いたければこの道を抜けていくしかない。
「相変わらず魔法が使えないわね」
「でも、重力はいつも通りです」
リリスとベルは状況を把握するとすぐに気持ちを切り替えて歩き出した。そして、現れた場所から数メートル離れた位置に来た瞬間、背後からガコンと何か音がした。二人は振り返るとその後ろの道の天井から斜めの坂のブロックが降りてきた。そして、その穴から道を塞ぐような鉄球が.......
「「.......」」
リリスとベルは無言で焦ったような表情をしながら走り出した。
「だから、それはあんたが強すぎるからでしょうが」
「そんなになってまで力を追い続ける......カッコいいです」
「ふふっ、惚れ直しちゃうわ。私のリビドーも高まってきちゃう」
「ジジイ、なんとかしろ」
「フォフォフォ、無茶言わんでくれ」
クラウンは若干一名の舐め回されるような視線を耐えるようにロキの毛並みを触っていた。やはり、この毛並みが一番落ち着く。だから、ベル、自分の尻尾を差し出してくるな。
そして、10階層に辿り着くと体が急にどっと重く感じた。気のせいかと思ったが、周りの仲間も同じように感じているのか手を握ったり、開いたりして感触を確かめていた。
クラウンは刀を抜いてその場で軽く振ってみる。この感じの重さは2キロぐらい増えた感じであろうか。大した問題はないが、いつも通りに振ってしまうと的確に敵を仕留められないだろう。これは少しだけ意識を向けた方がいいか。
それから、進んでいくと一斉に魔物が現れた。だが、レベルがわかっている以上、いくら多くとも脅威にはなり得ない。そして、クラウンが歩きだそうとするとそれを制止するようにリリスが前に出た。
「いちいちあんなのを相手にするのは、面倒でしょ?だから、ここは私に任せて」
すると、リリスは大きく息を吐くとそれから思いっきり吸った。
「~~~~~~♪」
リリスはその吸った空気を全て吐き出すように美声を前方へと響かせた。すると、前方にいる魔物達は次第にバランスを崩していき、やがて総じて地面に倒れた。見た感じでは、どこかから血が出ているというわけでもなく、ただ眠っているようにも見える。
「今のは?」
「私はサキュバスよ?サキュバスは淫魔とも言われるけど、夢魔とも言われるの。故に相手を眠らせることが出来るのよ。きっとあの魔物は夢の中で盛っているだろうね」
「そんなことができるの!?ねぇ、こんどそれを私にかけてくれないかしら。旦那様が相手してくれなくて悶々とした日々を過ごしているのよ」
「それは自分でどうにかしなさい」
「私も――――――――」
「ベル、あんたはどうにか染まらないで」
リリスは相変わらず対処に困るエキドナに辟易としたため息を吐きているとふと視線に気づいた。その視線を探ってみるとそれはクラウンから向けられたものであった。しかし、数秒だけリリスの方を見ただけで、何も言わず振り返った。そのことにリリスは怪訝な顔を浮かべた。
そして、クラウン達が進んでいくと目の前に大きく開けた空間が現れた。その空間には長方形のブロックが横に回転していたり、縦に回転したり、十字の形をしたものが斜めになりながら上下していたりしていた。しかも、それは全て宙に浮いていた。下は暗く底が見えない。
しかし、たとえ底が無かろうとクラウンには関係ない。なぜなら、クラウンは空中を歩ける人族なのだから。なので、クラウンが<天翔>を発動させようとした瞬間、外に出した魔力が霧散した。その事実にクラウンは静かに目を見開く。そして、そのことを確かめるためにリリスの話しかけた。
「......リリス、適当に魔法を放ってくれ」
「え?いいけど」
リリスは前方へと腕を伸ばして火の玉を放った。すると、その火の玉は数センチいかずに霧散した。そのことに驚いたリリスはもう一度火力を高めて放つが、結果は同じ。
「なるほど、どうやらこの空間では魔法は使えないと思った方が良いようじゃの。それがどこまで続くかは定かではないが」
「みたいだな。だが、リリスが確かめている間、俺もあることがわかった。この空間では魔法は使えないが、それは体外へと出る魔法に限った話だ。俺の<天翔>は足元を魔力で覆う必要があるため出来なかったが、<身体能力強化>は体内で増長されるため使えることが出来た」
「ということは、この先の戦いは接近戦主体になるってことです?」
「そういうことになるな」
その話を聞いたリリスは思わず暗い顔をした。それはこの場において自分が足手まといになってしまうことに。するとその時、右肩に手が置かれた。リリスは思わずその方向を見るとそれはクラウンの手であった。
クラウンは無言のままタイミングを計って回転する長方形に飛んだ。リリスはどんどんと進んでいくクラウンを見ながら、先ほどの行為に呆気に取られていた。それは本来のクラウンからしたらまず取らないはずの行動。その「気にするな」というような行動はリリスの鼓動を急速に上げた。
心なしか触れられた右肩があたたかく感じる。顔はちゃんと熱い。状況が状況だけに浮かれるのは不味いのだが、嬉しいのだから仕方ない。リリスは一度深呼吸して後に続いてく。
それから、アスレチックともいえるブロックを次々と超えていく。しかし、そのペースは段々と落ちていく。
「......このブロックを超えるたびに重力が強くなって来てやがる」
「おそらくはこの重さはプラス13キロぐらいかの」
そう言ってクラウンと兵長は後方を見る。それは残りの3人が遅れているからだ。重さ的には全員大した問題ではないのだが、普段慣れていな重さで長時間の負荷が加えられ続ければ、当然体力は削られてくる。
ここにいればいるほど、自分も含め状態は悪くなってくる一方。そこでクラウンはその3人に糸を飛ばした。そして胴体に絡みつかせると一気に引いていく。
「ごめんなさい、上手く体が動かなくって」
「ごめなさいです」
「わかっている。後少しだ」
「この糸は旦那様の魔法ね。ふふふっ、この糸なら縛りプレイとかできそうね」
「お前だけは置いていけばよかったな」
「ここでの放置プレイはさすがに嫌よ」
クラウンはもう何度目かのため息を吐くと進んでいく。そして、最後のブロックにやってくると全員が膝をブロックにつけた。それはここだけ重さが異常なのだ。さながら3Gぐらいかかっている感じだ。しかも、相当重い。
クラウンはチラッと周りを見る。リリスとベルは完全に固まっていて動く気配がない。その他はかろうじて動けるぐらいだ。まだまともに動けるのは自分ぐらいか。
「!」
その瞬間、上方からヒュ―――――――――と音を立てながらこのブロックの上に何かが降ってきた。それは片手に盾、もう片方に槍を持ったケンタウロスであった。しかも、このケンタウロスは重さを感じてないのか興奮したように両前足を上げる。
すると、そのケンタウロスはクラウン達に向かって一気に駆けていった。それに対抗するようにクラウンも飛び出すが、明らかに進んでいない。いや、進む速さがとても遅い。
「くっ!」
クラウンは突き出された槍を刀で逸らしながら、足を踏ん張る。すると、ケンタウロスは盾を思いっきり突き出してきた。それに対し、クラウンは咄嗟に左手を突き出して防ぐ。しかし、その重力下でのシールドプッシュは容易にクラウンの左腕を破壊した。
「うぜえ、離れろ」
「ガアッ!」
クラウンは左腕をすぐに回復させるとともに刀の柄を口に咥えた。そして、右手をケンタウロスの胴体に向けると<極震>による衝撃波を放った。すると、空気という質量弾によってケンタウロスは数メートル吹き飛ばされる。
「旦那様だけに無理はさせないわ。それにここで動かなければ、竜人族の名が廃る!」
エキドナは気合を入れて走り出すとケンタウロスの正面に向かった。すると当然、ケンタウロスは動きが鈍いエキドナを攻めてくる。しかし、エキドナはそのことをむしろ望んでいたように右腕を振り上げると部分竜化で右腕だけ竜の腕にした。
「誰が旦那様を攻撃していいと言ったの?」
「グファッ!」
エキドナは殺気だった目を向けるとその腕を思いっきり振るった。ケンタウロスはその攻撃をガードしようと盾を突き出すが、重力が乗った拳はその盾をひしゃげながらケンタウロスを吹き飛ばす。
「儂もなにもしないわけにはいかないの!」
「ウォン(引き裂いてやる)!」
すると、吹き飛ばされたケンタウロスに合わせるように兵長とロキが重たい体を引き吊りながら走った。そして、両側から挟み込むように同時に切り込んだ。
「ねぇ、クラウン。私をあのケンタウロスまで投げてくれない?」
「私もです」
「なぜだ?」
「あんたの役に立てないのが癪だからよ!」
「主様の役に立てないのが癪です!」
「......そうか。なら、仕留めせみせろ」
クラウンはリリスとベルの体を抱えるとその服を掴んでリリスを上方へ、ベルを前方へ思いっきり投げた。すると、ベルは死に体となっているケンタウロスの胸元へと袖から取り出した短剣を突き刺していく。
「ガアアアアアア!!!」
その痛みにケンタウロスは吠えた。しかしすぐに、自分のもとを離れたベルを蹴り込もうと両前足を上げた。だが、そこにリリスが降ってくる。リリスは右足を大きく前に伸ばしながらケンタウロスの胸元へと踵を叩きつけた。そこは丁度短剣がある位置だ。
その短剣はケンタウロスの胸元を深く抉り、心臓に届いたのかケンタウロスは横に倒れたまま動かなくなった。そして、その体は粒子状に消えていく。
討伐を確認するとクラウンはリリスとベルを抱えてすぐにこの空間を抜け出した。すると、重力が元に戻ったのかとても呼吸が楽になった。しかし、未だ魔法を使える気配がない。
「お前ら、行けるか?」
「はあはあ、スーハ―.....大丈夫よ」
「私も問題ないわ」
リリスとベルの体力が回復したのを確認するとクラウン達は先へと進んでいく。そしてしばらくすると、小さな空間に現れた。その空間には先がなく行き止まり。しかし、床には魔法陣がある。おそらくはここに乗って進んでいくのだろう。
『この先、3つの道がある。運が良ければ、簡単に進んでいくことが出来るであろう』
目の前に壁にそんな言葉が浮かび上がった。その文字を見た瞬間、全員がクラウンを見た。「運が良ければ」という部分に反応してのことだろう。クラウンはそのことに眉をピくつかせながらも我慢した。そして、クラウン達はその魔法陣に入るとすぐに全身が光に包まれる。
**********************************************
「ここはどこかしら?」
「それから主様達の姿がないです」
光が消えた先にはいただの一本道で背後は行き止まり。それからこの場には。リリスとベルしかいない。察するにあの魔法陣によって分断されたということだろう。無事に会いたければこの道を抜けていくしかない。
「相変わらず魔法が使えないわね」
「でも、重力はいつも通りです」
リリスとベルは状況を把握するとすぐに気持ちを切り替えて歩き出した。そして、現れた場所から数メートル離れた位置に来た瞬間、背後からガコンと何か音がした。二人は振り返るとその後ろの道の天井から斜めの坂のブロックが降りてきた。そして、その穴から道を塞ぐような鉄球が.......
「「.......」」
リリスとベルは無言で焦ったような表情をしながら走り出した。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる