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第3章 道化師は嘆く

第54話 ただの変態ではないみたい

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「ねぇ、だ・ん・な・さ・ま♡少しベットでイチャイチャしてみないかしら?思わずエキサイティングなことに発展してしまうかもしれないけど、きっと楽しいわよ」

「リリス、これがサキュバスというものだ。あくまで俺の世界でのことだがな」

「あんたの世界、インモラルすぎるでしょ。私の同族でもここまでは稀よ。というか、竜人族はお堅い人が多いと聞いていたけど?」

「それは勝手な偏見よ。私のような健全ような同族もいれば、エッチがダメな不健全な同族もいるの。もちろん、これは例えの一つよ」

「例えが酷過ぎるでしょ......それにどこが健全よ!」

 リリスは座っているクラウンに背後から抱きつくように絡みついているエキドナに思わず怒鳴った。しかし、エキドナはどこ吹く風といった様子で微笑むのみ。そして、クラウンにまた淫語を囁く。一方、クラウンはエキドナをまるで空気のように無視していく。

 そのことにリリスは思わずため息を吐いた。クラウンが竜人族であるエキドナを欲しがったのはなんとなくわかる、わかるのだが......なぜこうも変態が集まるのか。いや、ベルはおかしくなってしまったのだけど。

 それにしても「旦那様」とは何か。まだ自分も呼んだことないのに。一応、その呼び名の経緯を聞いているが、そう簡単に納得していいものなのか。まあ、この世界にはハーレムというのも存在するし、強い者は色を好むとも言う。クラウンの場合は現状、変態を好むになってしまうが。まあ、これに関してはそうそうに諦めた方が良いか。

「ふふっ、そう無視されると放置プレイの一環だと思って逆に興奮してきちゃうわ。熱を帯びて来るの特に下腹部辺りが」

「チッ、こいつ無敵か。黙ってろ、色欲竜が」

「なるほど、こうすれば主様は振り向くのですね」

「待たれよ、ベル。あれは学んではいかん。ベルはそのままのベルでいてくれ」

「はあ......混沌が舞い降りたわ」

 エキドナが何かを話すたびに出て来る混沌さん。お呼びでないのにしゃしゃり出てくる。もはやエキドナのマブダチと言っても過言ではないであろう。この混沌さんをぶちのめすのは、クラウンしかいないのだが、そのクラウンもやられ気味。この収拾を誰がつけようというのか。

 するとクラウンは時計を見て時間を確認すると立ち上がった。そして、何か目的が出来たかのように酒場を出ていく。エキドナはそれに興味本位でついていく。そのことにリリスと兵長は安堵した。それぞれ「この場に平穏が訪れる」、「ベルが染まらずに済む」と。

**********************************************
「なぜついてくる?」

「ふふっ、それはまだ旦那様のことを知り得てないからよ。駒として動くなら旦那様のことをより良く知っていた方が良い動きができるでしょ?あ、もちろん、ベットの上でもやりたいことはドンドン言ってみて、四十八手は全て知っているから」

「お前はそっちの流れに持って行かないと気が済まないのか。何を得たらそんなことを覚えるんだ?」

「あら、忘れてないかしら?私は情報屋よ。このくらいの知識は一般的な範囲よ」

「お前のどこが一般的なのか。歩くわいせつ物そのものじゃねぇか」

 クラウンはそう言うとエキドナの服を見る。すると、相変わらずのベリーダンスの衣装。しかも、胸元はパックリと開いていて、下はまるで隠す気があるのかというぐらいのスケスケのスカート。それから周りの男どもの目線を集めて止まないほぼティーバッグといっていいパンツ。

 「こいつには恥じらいの『は』の字も感じられない」と思わずため息を吐いた。別にどの恰好をしていようともこちらが気にすることはないのだが、周りの視線を一緒に感じるのがこの上なくうざったい。しかも.....

「あ、あんなところに太くて大きいのが♡」

「......」

 もちろん、見ている先は通りにあるフランクフルトのような料理を売っている屋台だ。それに対してあの発言。しかも舌なめずりまで添えて。もはやわざとやっているとしか思えない言動。だが、これは自然とやっている言動なのだ。人を疑うことで培われた人の性を見抜くクラウンの観察眼はそれを真と答えた。それが分かって以降、クラウンはスルーという独自スキルを覚え始めた。

「ねぇ、少し食べてもいいかしら?時間をかけさせないわ。それから、旦那様の――――――――――」

「さっさと買って、勝手に食ってろ。俺は待たない」

「もういけず」

 クラウンは冷ややかな目をしながらそう言って、立ち止まったエキドナを置いていって歩き始めた。その塩対応にはさすがのエキドナも不満そうに頬を膨らましたが、クラウンの後についていく。

 そんなエキドナの言動を見ていた男達は柱に前のめりに決めポーズをしながら立ち止まっていたり、ベンチに座って足を組んだり、その場で突然腹筋を鍛え始める者もいた。その男達の全員に共通して言えるのは、股間あたりを隠していること。もうおわかりだろう。そういうことなのだ。

「突然だけれど、どうして仮面をつけているか聞いていいかしら?」

「......やはり気になるか?」

「さすがにそう思うわよ。会った当初は初対面であったから、聞くこともなかったけれど。こうして旦那様の妻になったからには――――――――」

「ねつ造するな。駒だろうが。......だが、言いたいことはわかる。しかし、お前を信用していない以上言えることは一つ。これは戒めだ」

「戒め?」

 エキドナは思わず聞き返した。その仮面をつけていることにはなにかしらの意味があるだろうとは思っていたが、「戒め」とだけ言われてはさすがにわからない。それに、これを聞くことで何かを知れるかもしれないし。

 すると、クラウンはゆっくりと口を開く。

「この仮面は俺の弱さの象徴だ。この仮面がある限り、俺は最強とはなれない」

「弱さね......それは、力のことかしら?それとも――――――」

 エキドナはクラウンの前に立と真っ直ぐ瞳を合わせた。その目は先ほどとは一転して一切の曇りが無かった。そして、おそらく核心である方を言った。

「心かしら?」

「!」

「図星のようね......」

 エキドナはクラウンの一瞬見開いた目を見逃さなかった。そして、そのことに思わず微笑んだ。最初に酒場で会った時はどんなイカれた少年だと思っていた。戦った時のあの殺気は特に。しかし、ふたを開けてみれば、ちゃんと心揺らめいている少年ではないか。

 まあおそらくは、リリスとベルという二人の少女が、この少年の心をそこまでにしていったのだろう。だとしたら、自分が出来ることはあの二人が入りやすいようにもう少し心のスペースを広げてあげることだ。

「別に無理して外せなんてことは言わないわよ。ただ、周りにもちゃんと目を向けてあげて欲しいと思っているの。じゃなきゃ、あの二人が可哀そうよ?」

「......」

「旦那様は一人で生きているわけではない。支えがあって生きているのよ。それがわからないわけではないでしょ?」

「......そうだな、そうかもしれない」

 クラウンはその言葉を聞いて過去のことを思い出した。それはあの森でロキという相棒を得て、リリスという協力者のおかげで聖王国を襲撃出来て、次なる目的地であった獣王国にも行けた。また、ベルと兵長の存在と協力があって獣王国にも入れた。そのことにはちゃんと感謝している。

「旦那様は自分の心の弱さに自信がないだけよ。弱さを隠そうとしているだけ。それは悪いことではないけれど、支えてくれる人がいるなら甘えてもいいんじゃない?それはもう『信用』よ。そうすれば、別に仮面を取ってしまってもいいんじゃないかしら?」

「......考えておく」

 クラウンは何かを掴むように拳を握るとそこから一言も話さず歩き始めた。そして、その空気に合わせるようにエキドナも静かに数歩後ろをついていく。

 そして、クラウンが着いた店は初日に訪れた道具屋である。そこに頼んでいた品を受け取りに来たのだ。

「よう、来たか。ちゃんと例の品は出来てるぜ。素材がとんでもなく固いもんだったから多少は時間がかかってしまったがな」

「構わん。見せてくれ」

 クラウンはそれを受け取ると軽く上下に動かした。すると、手元から伸びた回転する駒のようなものはクラウンの動きに合わせて上下していく。その動きに異常がないことを確認するとクラウンは笑った。

「いい出来だ。これなら、遠くからでもそれなりに攻撃できるだろう。それにこの鉱石は魔法耐性があるんだったよな?」

「そうさな。正確には魔法に対して破壊されにくいといった感じだが。まあ、その認識でも間違っていない。後、追加で頼まれた服を作っておいたぞ?」

「服?」

 クラウンは思わず聞き返した。なぜならそんなものを頼んだ覚えはないからだ。すると、そのドワーフは言葉を付け足す。

「一昨日に赤髪の嬢ちゃんがこの店に訪れたんだよ。それでお前さんと同じように『素材から作ってくれ』と頼んできたんだよ。そんで聞いてみれば、お前さんの仲間だって言うじゃないか。なら、出来上がったついでに渡しちまおうと思ってな」

「なるほど。それでその服というのは?」

 クラウンはそのドワーフから作られた服を手に取った。素材が良いのか柔らかく、触り心地も悪くない。加えて、軽く伸ばしてみるが耐久度もかなりいいし、魔力を当てても魔力耐性もかかなり高い。これはおそらく自分へのお返しのつもりなのだろう。

 するとその時、後方から大声が聞こえた。

「ああ!嘘......せっかく渡そうと思っていたのに......」

 その声の主はリリス。そして、その悲しんだ声にドワーフは「しまった!」というような顔をする。

「そうだったのか!?悪い、そこまで気が回らんかった」

「いいわよ、こっちも言ってないしね」

 リリスは「仕方ない」といったため息を吐きながらもクラウンに近づく。

「それでどう?私はあんたみたいに器用じゃないから作れないけど、これならいいでしょ?」

「そうだな、悪くない。助かる」

「!」

 クラウンは通り過ぎざまにリリスの肩に手を置くとそう言いながら道具屋を後にした。その言葉にリリスは思わず肩を震わせる。それは嬉しさから来るもの。「助かる」その一言で、こんなにも嬉しくなるとは自分はどれだけチョロくなってしまったのか。

「良かったわね。思いはちゃんと伝わってるわよ」

「......そう......みたいね。良いことも言えるのね」

「ふふっ、これぐらいの気持ちならわかるわよ。私にも似たような子がいるから」

 エキドナはそんなリリスに優しく声をかける。リリスはその言葉に同意しながらクラウンの後を追った。エキドナは微笑ましそうにその後をついていく。
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