251 / 303
第3章 道化師は嘆く
第53話 食えない奴
しおりを挟む
「ふふふふふっ」
「......なぜここにいる?」
「たまたま同じ宿だったらしいのよ。で、あなたがここに入るのを見かけて、夜這いしてみたらどんな反応をするかと思ってね」
「ぶちのめすぞ」
時は深夜を回った頃、クラウンがロキと自室でくつろいでいると一人の女性がやって来た。それはエキドナであった。しかも、訳の分からない理由で。加えて、エキドナはクラウン達が帰った後にも酒を飲んでいただろうにもかかわらず、随分とケロッとしている。これが竜人族なのか。
すると、エキドナは舐めるようにベットで横になっているクラウンを視姦した。その視線にクラウンはまたもや寒気を感じた。こいつのどこに竜人族という要素があるというのか。サキュバスだと言った方がよほどしっくりくる。
「ロキ、なぜ入れた?」
「ウォ―ン」
「なにが『面白そうだった』からだ。お前の好物の肉食うぞ」
「凄いわね。魔物と話せるなんて。あ、もしかしてこっちのプレイの方がいいのかしら?男の人って獣のようにバックからする方が好きだっていう人多いらしいし」
「黙れ、淫魔竜が。流れをそっちに持っていくんじゃねぇ」
「それにしても、あなたは寝る時も仮面を付けてるのね」
「お前が来たからに決まっているだろ......はあ......」
クラウンはため息を吐いて起き上がる。このままエキドナのターンにしていれば、また知らぬ間に淫語を覚えさせられるような気がする。エキドナと話している時はまるで官能小説を読んでいるような気分になる。
「で、本当はなんだ?」
「そうね、そろそろ要件を伝えなくてわね。今日の正午、砂漠の中央にて私と戦ってもらうわ」
「それが二つ目の勝負か。随分と俺向きな内容だな」
「そうなの?でも、あまり竜人族を舐めない方が良いわよ?」
その瞬間、この場はエキドナの威圧感で満たされた。その威圧はもはや物理的な干渉をもってこの部屋をギシギシと軋ませた。また、エキドナの目は瞳孔が収縮して、蛇のように少し縦に伸びていた。冒険者であっても、失神しかねるレベルの威圧を放ちながら、エキドナが言葉を続ける。
「あなたがあの竜殺しを飲んでも平然としている時点で、私はあなたをただの人族とは思ってないわ。なんせあれは人族が飲めば、アルコール度数が高すぎて死んでしまうもの」
「そんなものを飲ませたのか」
「ふふっ、それだけあなたを直感で危険視したのよ。でも、あれでの飲み比べでさすがに負けるとは思わなかったわ。それに、竜人族の威圧を目の当たりにしてその余裕......あなたは一体何者?」
「知っているだろう?俺はクラウンだ」
「!」
クラウンがそう言い放った瞬間、エキドナは身をこわばらせた。それはまるで無抵抗のままナイフを首に突きつけられている感じ。そのことに冷汗すら感じる。しかし、このおかげで同時に確信できた。この男ならおそらくきっと......
もう自分の中ではいろいろと決まったことがあるのだが、それを確かめるためにもやはり戦う事は必要そうだ。そして、その時は半端な覚悟では戦えない。
エキドナは「そうだったわね」と答えると椅子から立ち上がった。そして、扉の方へと歩いていく。同時に一言だけ言って。
「あなたははやり『道化師』なんかじゃないわ。それだけの覚悟を宿した瞳、道化なんて言葉では表しようもない。やはり、あなたは『王』よ」
エキドナが部屋を出ていくとクラウンはベットに寝そべった。そして、先ほどの瞳を思い出していた。あの目は自分と同じ目であった。それはつまり、あの女も復讐を目的をしているということ。それは確かだ。
そう思うと増々欲しくなってくる。竜人族、それは竜へと変身する固有魔法を持った種族。それ即ち、空を高速で飛べるということ。他にも理由はあるが、それがメリットとしては一番大きい。ただ......
「また、変態に目を瞑らないといけないのか......」
クラウンはそのことに頭を抱えた。そして、ロキはそんなクラウンを見て、喜ばしく尻尾を振っていた。
**********************************************
「それでは、準備はいいかしら?」
「ああ、構わん」
太陽が天へと上り、灼熱の日差しと空気が辺りを包む中、砂漠の上に二人の男女が対峙していた。その二人はもちろん、クラウンとエキドナ。そして、その周囲には馬車の中でリリスの作り出した冷気に包まれながら、二人の様子を見守っているリリス達の姿があった。
「それにしても、久しぶりね。体を動かすのって。ベットの上でしかなかったと思うわ」
「お前のそんなカミングアウトはどうでもいい。俺はそのねじ曲がった性根をさらに捻じ曲げて、俺の忠実な駒にする」
「ふふっ、つまりは私を求めるってことね。この体、そんなに魅力的だったかしら」
「......かかってこい」
「ふふふっ、竜人族に先手をあげるなんて......男らしいじゃない!」
クラウンはもう答えるのが面倒になったのか手をこまねいて挑発した。その挑発は竜人族にとって侮辱に当たる。それを知ってか知らずかわからないが、この行動によって戦闘が始まった。
エキドナは砂漠の上という走りづらい場所であるにも関わらず、常人以上の速さで突貫していた。そして、クラウンの目の前に現れると腹部に強靭な腕力をフルに生かして拳を叩きつけた。
「!」
「さすが竜人族というべきの力だな。だが、こんなもんではないんだろ?」
「ごふぉっ!」
エキドナはクラウンに瀕死するぐらいの拳を叩きつけた。だが、その攻撃を受けてケロッとしているクラウンを見て思わず驚く。その一瞬の隙をクラウンに突かれた。
クラウンは右足を思いっきり振り上げてエキドナの体を持ち上げた。そして、死に体のエキドナの頭に掌底を叩きこんだ。その勢いで吹き飛ばされ、熱せられた鉄板のような砂漠に引きずられていく。
しかし、すぐに体勢を立て直すとその場の砂に向かって拳を叩きつけた。
「目くらましか」
その瞬間、周囲を覆い隠すような砂塵が舞った。そのせいでエキドナの姿は見えない。しかし、別に見えなくても気配は感じることが出来る。すると、クラウンは首を右に傾けた。するとその位置に拳が飛び出してくる。それはエキドナのものだ。
「かはっ!」
クラウンはその手首を掴むと一気に引き寄せ砂地に叩きつけた。そして、そのまま持ち上げると前方に投げ飛ばす。
「!」
エキドナが砂塵から姿を消した数秒後に周囲にさらに砂塵が吹き荒れた。それは数にして4つ。これは自然ではまず現れることはない。ということは、エキドナが作り出したものであろう。そして、ここまでの砂塵は風で体が持っていかれそうになり実に動きづらい。
「さすがにうざったいな」と思って、もはや砂塵の結界と化しているこの空間を破壊しようとした時、横から巨大な白い拳が飛び出してきた。クラウンは咄嗟に両腕でガードするが、その衝撃は凄まじく、あの森で戦ったゴリラの魔物と同等かそれ以上で勢いよく吹き飛ばされる。
クラウンは空中で体勢を立て直すと<天翔>で立った。すると、後方から白く太い尻尾が横なぎに迫ってきた。それを真上に飛んで避けるとクラウンのいる位置に向かって眩い極光が放たれた。
「うぜぇ!」
クラウンはそれをギリギリで躱すと周囲に向かって<斬翔>を飛ばして砂塵を蹴散らした。すると、クラウンの眼下には雪のように白く、凛々しく、勇ましい竜がいた。
「それがお前の本当の姿か」
「ふふふっ、そうよ。まあ、あくまでこれは竜人族に伝わる固有魔法だけどね。でも、ここからが私の本来の固有魔法......覚醒魔力【竜闘変化(地)】」
エキドナがそう言うとブラキオサウルスのような首の長い形から良く知る西洋の竜の形へと変化した。そして、巨大な翼をはためかせると空中に飛び出して、クラウンに向かって行った。そして、今度は極光を細かく刻んで何発も放ってきた。
しかし、軌道さえわかってしまえば、クラウンにその攻撃が当たることはない。クラウンは一気に飛び出して、その極光の間を縫いながら間合いを詰めていく。
「空中に立っていられる人族なんて歴史上にいたかしら?.......モードチェンジ(闘)」
「!.......くっ!」
すると、エキドナは今度はまるで人型のような形の竜に変化した。そして、その拳を素早く振りかぶると思いっきり殴りかかった。クラウンはそれをあえて受け止めにかかった。
拳が当たった瞬間、伸ばしていた両腕には激しい痛みが走った。おそらく腕の骨が粉砕した音であろう。しかし、それは<超回復>で元に戻す。だが、それを再び破壊するように拳の勢いは止まらなかった。
クラウンは下半身に力を入れて思いっきり踏ん張る。同時に腕の骨の破壊と再生を繰り返しながら。それからやがて、その拳を完全に受け止めた。これにはエキドナも思わず声が漏れる。
「......嘘」
「これは良いデモンストレーションになるな。いかにして相手を破壊させずに心の底から屈服させるということのな」
「がはっ!」
クラウンは竜の腕の上を走っていくと瞬時に顔面へと近づいた。そして、<極震>を使ってぶん殴った。それの衝撃波によってエキドナの脳は直接揺らされ、バランスが取れず落下していく。そこへとクラウンは容赦なく追撃した。
「ぐふぉっ!」
エキドナの尻尾を掴むと宙に持ち上げ、その腹部に思いっきり跳び蹴りした。その蹴りは深々と刺さり、エキドナは思わずうめき声を漏らす。
クラウンはエキドナの背後に回ると地面に叩きつけるように背中をぶん殴った。その勢いでエキドナは砂地に顔から突っ込んだ。それによって、周囲には砂塵が吹き荒れる。
「どうだ?弱小種族の人族に屈服させられる気持ちは?」
クラウンは空中からゆっくりとエキドナの頭へと降りた。そして、その眉間を踏んず蹴るようにしながら言葉を吐く。すると、エキドナはイラ立ちもせず、笑った。
「ふふっ、新鮮って気持ちかしら。けど、それ以上に私はあなた......いえ、旦那様が気に入ったわ。それこそ本能的に求めるぐらいにね」
「......どういう意味だ?」
クラウンは思わずその言葉の真意を聞き返した。何か不穏な呼び名をつけられたことは後にして。すると、エキドナは竜化姿からもとの姿に戻って立ち上がるとゆっくりとクラウンに近づく。
「竜人族というのはね、獣人族のさらに意識が高い版って言ったところなのよ」
「それはつまり、お前の種族も力で信用するということか?」
「それだけじゃないわ。自由、誇り、地位、居場所全てね。でもまあ、これらは随分と昔の考え方ではあるけれど、その遺伝子は今でも受け継がれているのよ。つまりね、言いたいことは―――――――――」
エキドナはクラウンの右手を掴むと自身の左胸に押し当てた。そして、耳元で囁く。
「強き者が全てを得るということよ。昨日言ったでしょ?情報も、お金も、私自身も好きにできるって。旦那様が私を駒として望むなら、負けた私には拒否権はないわ。そもそも生まれないしね。なんせ竜人族の女性は自分より強い人と子を成したいと思うもの」
「......お前の目的はなんだ?」
「!」
クラウンの言葉を聞いた瞬間、エキドナは思わずクラウンから退いた。それはクラウンがこちらの考えを見透かしたように言ったからだ。
「ごめんなさい。それはまだ話せないわ、お互いにね」
エキドナは申し訳なさそうに言った。だが、その瞳にはどこか決意を宿したような炎が揺らめいていた。
「チッ、食えねぇ奴だ」
クラウンは捨て台詞のように愚痴を吐いた。
「......なぜここにいる?」
「たまたま同じ宿だったらしいのよ。で、あなたがここに入るのを見かけて、夜這いしてみたらどんな反応をするかと思ってね」
「ぶちのめすぞ」
時は深夜を回った頃、クラウンがロキと自室でくつろいでいると一人の女性がやって来た。それはエキドナであった。しかも、訳の分からない理由で。加えて、エキドナはクラウン達が帰った後にも酒を飲んでいただろうにもかかわらず、随分とケロッとしている。これが竜人族なのか。
すると、エキドナは舐めるようにベットで横になっているクラウンを視姦した。その視線にクラウンはまたもや寒気を感じた。こいつのどこに竜人族という要素があるというのか。サキュバスだと言った方がよほどしっくりくる。
「ロキ、なぜ入れた?」
「ウォ―ン」
「なにが『面白そうだった』からだ。お前の好物の肉食うぞ」
「凄いわね。魔物と話せるなんて。あ、もしかしてこっちのプレイの方がいいのかしら?男の人って獣のようにバックからする方が好きだっていう人多いらしいし」
「黙れ、淫魔竜が。流れをそっちに持っていくんじゃねぇ」
「それにしても、あなたは寝る時も仮面を付けてるのね」
「お前が来たからに決まっているだろ......はあ......」
クラウンはため息を吐いて起き上がる。このままエキドナのターンにしていれば、また知らぬ間に淫語を覚えさせられるような気がする。エキドナと話している時はまるで官能小説を読んでいるような気分になる。
「で、本当はなんだ?」
「そうね、そろそろ要件を伝えなくてわね。今日の正午、砂漠の中央にて私と戦ってもらうわ」
「それが二つ目の勝負か。随分と俺向きな内容だな」
「そうなの?でも、あまり竜人族を舐めない方が良いわよ?」
その瞬間、この場はエキドナの威圧感で満たされた。その威圧はもはや物理的な干渉をもってこの部屋をギシギシと軋ませた。また、エキドナの目は瞳孔が収縮して、蛇のように少し縦に伸びていた。冒険者であっても、失神しかねるレベルの威圧を放ちながら、エキドナが言葉を続ける。
「あなたがあの竜殺しを飲んでも平然としている時点で、私はあなたをただの人族とは思ってないわ。なんせあれは人族が飲めば、アルコール度数が高すぎて死んでしまうもの」
「そんなものを飲ませたのか」
「ふふっ、それだけあなたを直感で危険視したのよ。でも、あれでの飲み比べでさすがに負けるとは思わなかったわ。それに、竜人族の威圧を目の当たりにしてその余裕......あなたは一体何者?」
「知っているだろう?俺はクラウンだ」
「!」
クラウンがそう言い放った瞬間、エキドナは身をこわばらせた。それはまるで無抵抗のままナイフを首に突きつけられている感じ。そのことに冷汗すら感じる。しかし、このおかげで同時に確信できた。この男ならおそらくきっと......
もう自分の中ではいろいろと決まったことがあるのだが、それを確かめるためにもやはり戦う事は必要そうだ。そして、その時は半端な覚悟では戦えない。
エキドナは「そうだったわね」と答えると椅子から立ち上がった。そして、扉の方へと歩いていく。同時に一言だけ言って。
「あなたははやり『道化師』なんかじゃないわ。それだけの覚悟を宿した瞳、道化なんて言葉では表しようもない。やはり、あなたは『王』よ」
エキドナが部屋を出ていくとクラウンはベットに寝そべった。そして、先ほどの瞳を思い出していた。あの目は自分と同じ目であった。それはつまり、あの女も復讐を目的をしているということ。それは確かだ。
そう思うと増々欲しくなってくる。竜人族、それは竜へと変身する固有魔法を持った種族。それ即ち、空を高速で飛べるということ。他にも理由はあるが、それがメリットとしては一番大きい。ただ......
「また、変態に目を瞑らないといけないのか......」
クラウンはそのことに頭を抱えた。そして、ロキはそんなクラウンを見て、喜ばしく尻尾を振っていた。
**********************************************
「それでは、準備はいいかしら?」
「ああ、構わん」
太陽が天へと上り、灼熱の日差しと空気が辺りを包む中、砂漠の上に二人の男女が対峙していた。その二人はもちろん、クラウンとエキドナ。そして、その周囲には馬車の中でリリスの作り出した冷気に包まれながら、二人の様子を見守っているリリス達の姿があった。
「それにしても、久しぶりね。体を動かすのって。ベットの上でしかなかったと思うわ」
「お前のそんなカミングアウトはどうでもいい。俺はそのねじ曲がった性根をさらに捻じ曲げて、俺の忠実な駒にする」
「ふふっ、つまりは私を求めるってことね。この体、そんなに魅力的だったかしら」
「......かかってこい」
「ふふふっ、竜人族に先手をあげるなんて......男らしいじゃない!」
クラウンはもう答えるのが面倒になったのか手をこまねいて挑発した。その挑発は竜人族にとって侮辱に当たる。それを知ってか知らずかわからないが、この行動によって戦闘が始まった。
エキドナは砂漠の上という走りづらい場所であるにも関わらず、常人以上の速さで突貫していた。そして、クラウンの目の前に現れると腹部に強靭な腕力をフルに生かして拳を叩きつけた。
「!」
「さすが竜人族というべきの力だな。だが、こんなもんではないんだろ?」
「ごふぉっ!」
エキドナはクラウンに瀕死するぐらいの拳を叩きつけた。だが、その攻撃を受けてケロッとしているクラウンを見て思わず驚く。その一瞬の隙をクラウンに突かれた。
クラウンは右足を思いっきり振り上げてエキドナの体を持ち上げた。そして、死に体のエキドナの頭に掌底を叩きこんだ。その勢いで吹き飛ばされ、熱せられた鉄板のような砂漠に引きずられていく。
しかし、すぐに体勢を立て直すとその場の砂に向かって拳を叩きつけた。
「目くらましか」
その瞬間、周囲を覆い隠すような砂塵が舞った。そのせいでエキドナの姿は見えない。しかし、別に見えなくても気配は感じることが出来る。すると、クラウンは首を右に傾けた。するとその位置に拳が飛び出してくる。それはエキドナのものだ。
「かはっ!」
クラウンはその手首を掴むと一気に引き寄せ砂地に叩きつけた。そして、そのまま持ち上げると前方に投げ飛ばす。
「!」
エキドナが砂塵から姿を消した数秒後に周囲にさらに砂塵が吹き荒れた。それは数にして4つ。これは自然ではまず現れることはない。ということは、エキドナが作り出したものであろう。そして、ここまでの砂塵は風で体が持っていかれそうになり実に動きづらい。
「さすがにうざったいな」と思って、もはや砂塵の結界と化しているこの空間を破壊しようとした時、横から巨大な白い拳が飛び出してきた。クラウンは咄嗟に両腕でガードするが、その衝撃は凄まじく、あの森で戦ったゴリラの魔物と同等かそれ以上で勢いよく吹き飛ばされる。
クラウンは空中で体勢を立て直すと<天翔>で立った。すると、後方から白く太い尻尾が横なぎに迫ってきた。それを真上に飛んで避けるとクラウンのいる位置に向かって眩い極光が放たれた。
「うぜぇ!」
クラウンはそれをギリギリで躱すと周囲に向かって<斬翔>を飛ばして砂塵を蹴散らした。すると、クラウンの眼下には雪のように白く、凛々しく、勇ましい竜がいた。
「それがお前の本当の姿か」
「ふふふっ、そうよ。まあ、あくまでこれは竜人族に伝わる固有魔法だけどね。でも、ここからが私の本来の固有魔法......覚醒魔力【竜闘変化(地)】」
エキドナがそう言うとブラキオサウルスのような首の長い形から良く知る西洋の竜の形へと変化した。そして、巨大な翼をはためかせると空中に飛び出して、クラウンに向かって行った。そして、今度は極光を細かく刻んで何発も放ってきた。
しかし、軌道さえわかってしまえば、クラウンにその攻撃が当たることはない。クラウンは一気に飛び出して、その極光の間を縫いながら間合いを詰めていく。
「空中に立っていられる人族なんて歴史上にいたかしら?.......モードチェンジ(闘)」
「!.......くっ!」
すると、エキドナは今度はまるで人型のような形の竜に変化した。そして、その拳を素早く振りかぶると思いっきり殴りかかった。クラウンはそれをあえて受け止めにかかった。
拳が当たった瞬間、伸ばしていた両腕には激しい痛みが走った。おそらく腕の骨が粉砕した音であろう。しかし、それは<超回復>で元に戻す。だが、それを再び破壊するように拳の勢いは止まらなかった。
クラウンは下半身に力を入れて思いっきり踏ん張る。同時に腕の骨の破壊と再生を繰り返しながら。それからやがて、その拳を完全に受け止めた。これにはエキドナも思わず声が漏れる。
「......嘘」
「これは良いデモンストレーションになるな。いかにして相手を破壊させずに心の底から屈服させるということのな」
「がはっ!」
クラウンは竜の腕の上を走っていくと瞬時に顔面へと近づいた。そして、<極震>を使ってぶん殴った。それの衝撃波によってエキドナの脳は直接揺らされ、バランスが取れず落下していく。そこへとクラウンは容赦なく追撃した。
「ぐふぉっ!」
エキドナの尻尾を掴むと宙に持ち上げ、その腹部に思いっきり跳び蹴りした。その蹴りは深々と刺さり、エキドナは思わずうめき声を漏らす。
クラウンはエキドナの背後に回ると地面に叩きつけるように背中をぶん殴った。その勢いでエキドナは砂地に顔から突っ込んだ。それによって、周囲には砂塵が吹き荒れる。
「どうだ?弱小種族の人族に屈服させられる気持ちは?」
クラウンは空中からゆっくりとエキドナの頭へと降りた。そして、その眉間を踏んず蹴るようにしながら言葉を吐く。すると、エキドナはイラ立ちもせず、笑った。
「ふふっ、新鮮って気持ちかしら。けど、それ以上に私はあなた......いえ、旦那様が気に入ったわ。それこそ本能的に求めるぐらいにね」
「......どういう意味だ?」
クラウンは思わずその言葉の真意を聞き返した。何か不穏な呼び名をつけられたことは後にして。すると、エキドナは竜化姿からもとの姿に戻って立ち上がるとゆっくりとクラウンに近づく。
「竜人族というのはね、獣人族のさらに意識が高い版って言ったところなのよ」
「それはつまり、お前の種族も力で信用するということか?」
「それだけじゃないわ。自由、誇り、地位、居場所全てね。でもまあ、これらは随分と昔の考え方ではあるけれど、その遺伝子は今でも受け継がれているのよ。つまりね、言いたいことは―――――――――」
エキドナはクラウンの右手を掴むと自身の左胸に押し当てた。そして、耳元で囁く。
「強き者が全てを得るということよ。昨日言ったでしょ?情報も、お金も、私自身も好きにできるって。旦那様が私を駒として望むなら、負けた私には拒否権はないわ。そもそも生まれないしね。なんせ竜人族の女性は自分より強い人と子を成したいと思うもの」
「......お前の目的はなんだ?」
「!」
クラウンの言葉を聞いた瞬間、エキドナは思わずクラウンから退いた。それはクラウンがこちらの考えを見透かしたように言ったからだ。
「ごめんなさい。それはまだ話せないわ、お互いにね」
エキドナは申し訳なさそうに言った。だが、その瞳にはどこか決意を宿したような炎が揺らめいていた。
「チッ、食えねぇ奴だ」
クラウンは捨て台詞のように愚痴を吐いた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
万能のアイテム屋さん あらゆる魔物・状況に対するチート級武器防具アイテムが揃う店
和美 一
ファンタジー
コーラル王国王都の外れ、森に踏み入った所にあるその店にはあらゆる武器防具アイテムがあるという。
なんでも斬れる剣、ベヒーモスを一撃でノックアウトする槌、雷を帯びた斧、投げれば爆発を巻き起こす槍、絶対に命中する弓、ドラゴンの火炎も弾く鎧、強固な防護効果のある服、魔法を跳ね返す盾、あらゆる毒を解毒する薬、あらゆる呪いを解呪する札などなど。
どんな魔物やどんな状況にも対応し、お客様のどんな要望にも応えるというその店は今日もひっそりと営業中。
今日もまた悩みを抱えここでしか買えない物を求めてやって来る客が一人。
※基本一話完結のオムニバス形式となります。なろう様にも投稿しております。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ターン制魔法使い
Nara
ファンタジー
長年プレイしてきたお気に入りのファンタジーゲーム。その世界に突然転移してしまった青年。しかし、ゲーム内で支配していた強大な英雄ではなく、彼が転生したのは「奴隷魔法使い」としての姿だった。迷宮主によって統治されるこの世界は、危険なモンスターが潜む迷宮を攻略することが中心となっている。
彼は到着直後、恐ろしい事実を知る。同じように地球から転移してきた者たちは、迷宮に入らなければ悲惨な運命が待っているということだ。転移者は、迷宮から出てから20日以内に再び迷宮に入らなければ、内部のモンスターが彼らを追い求め、命を奪いにくるのだ。そのため、転移者の多くは指名手配犯となり、モンスターや当局に追われる存在になっている。
生き延びるため、主人公は自分が転移者であることを隠し、この過酷な世界の謎を解き明かそうとする。なぜ自分は奴隷魔法使いとしてこの世界に送られたのか? 迷宮を支配する迷宮主の正体とは? そして、迷宮と人命を結びつける邪悪な力の背後に何があるのか? 新たな仲間やかつての敵と共に、主人公は政治的な陰謀や当局の追跡をかわしながら、迷宮を攻略し、帰還の鍵を見つけるために奔走する。しかし、それ以上の運命が彼を待っているかもしれない…。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
酒呑童子 遥かなる転生の果てに
小狐丸
ファンタジー
時は8世紀頃、一人の絶世の美少年がいた。
鍛冶屋の息子として産まれ、母の胎内に十六ヶ月過ごし、産まれた時には髪の毛も歯も生え揃い、四歳の頃には大人の知力と体力を身に付け、その才覚から鬼子と呼ばれ六歳に母から捨てられ各地を流浪した。やがて丹波国と山城国の国境にたどり着き、酒呑童子と呼ばれるようになる。
源頼光と四天王により退治されて後、彼は何度も転生する事になる。それは皮肉にも邪鬼を滅する事を強いられた人生。
そして平成の世にも転生を果たす。
そこから始まる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる