上 下
252 / 303
第3章 道化師は嘆く

第52話 変態はお呼びでない

しおりを挟む
 クラウンは一旦、マスターオススメのお酒を頼んだ。すると、マスターは何かを察したようで「お代は結構。サービスだ」とカクテルのようなものを出してきた。それを受け取って飲んでみると甘みの中に僅かな酸味を感じたが、それが逆に良いアクセントになっていて中々に美味しい。

 クラウンはその酒をあえて時間をかけて飲んだ。なんせその間にもドワーフの飲み比べが行われているからだ。あのタイプの酒豪は一種のプライドを持っている。それは相手がどんなであれフェアな飲み比べをすること。

 つまりは先にどれほど飲んでいて、挑戦者に飲み比べで負けたとしてもそれを言い訳にはしないということだ。なら、酔いつぶれる寸前を狙って挑みに行けば、楽に情報が手に入るということだ。それを狙って待っているのだが......一向に酔いつぶれる気配がしない。むしろ挑戦者が酔いつぶれている。

 クラウンはカクテルをグイッと飲み干した。それはもう時間切れ。挑戦者が全員ぶっ倒れたということ。あの女の胃袋のどこにそれほどの酒が入っていくのか。匂いからもわかるが、アルコール度数はかなり高いだろう。それに見たところそれをストレートで飲んでやがる。

 クラウンは席を立つとその女性のもとへ近づいていく。そして、向かい合うように席に座った。

「ふふふっ、さっきは素っ気ないような態度を取っていたのに、やっぱり私が気になっていたのね。もしかして、こういう大人っぽい雰囲気が好みなのかしら?それともこっち?」

 その女性はそう言うと胸の衣服を少しはだけさせた。まるで誘っているかのようにも見えなくない。この妖しい笑みを浮かべる女性からして酒で酔っていのか、それともわざとやっているのかわからない。しかし、変態耐性が付いたのかこの程度では微動だにしない。

「俺が欲しいのはお前の持っている情報だ。だからこうして挑みに来た。さっさと始めるぞ」

「ふふふっ、せっかちね。でも、それなら二回とも私に勝てば、好きなだけあげちゃうわよ。情報だって、お金だって、この体だって♡」

「情報だけで十分だ。......クソ、めんどくせぇ」

 クラウンは思わず愚痴がこぼれた。どうして自分が出会った女は総じて変態なのか。まあいい、こいつに至っては情報をもらえさえすればいいのだから。

 すると、その女性は椅子の横に置いていたバックから一本の瓶を取り出した。そして、そのラベルには「鬼殺し」ならぬ「竜殺し」という名前がついている。

「これはね、私の国で作られる数少ないお酒なのよ。それをあなたのために特別に開けてあげるわ。竜人族でも酔い潰すこのお酒。あなたに耐えられるかしら?」

「愚問だな、当たり前だろう。......で、始める前に先に確認しておきたい。お前は竜人族なのか?」

「ええそうよ。身も心も誇り高き竜人族。アンダーはダメだけど、トップぐらいなら特別に触らせてあげるわよ?」

「必要ない。早く始めるぞ」

 クラウンはそう言うと一回天井を仰いだ。その時のクラウンの顔はリリス、ベルの時よりも明らかに疲れた顔をしていた。......というか、どこからそんなに淫語が出て来るのか。竜人族の誇りとやらが実に気になるところだ。だが、竜人族は実に欲しい。問題は変態というところか。

 そして、コップにお酒が注がれると互いにそのコップを持って、宙にあげる。

「ふふふっ、それじゃあ、1杯目。乾杯」

 二人はコップを突き合わせると一気に飲み干した。だが、二人はシラフのような顔をしている。

「あら、凄いわね。同族でも一杯飲んだだけで酔い潰れる者もいるというのに」

「この程度か。なら、先に潰れるのはお前だな」

「ふふふっ、男らしいのは好きよ。なら、今度は男を見せてくれる?」

**********************************************
「これで150杯目だ」

「ふふふっ、男を見せてくれるわね。そのせいでかなり火照ってきちゃってるわ。ねぇ、この勝負が終わったら個人的にそのリビドーをハッスルさせてみる気はない?」

「寝言は寝て言え。飲むぞ」

「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」

「......なにこの状況?」

 リリスは思わず知らぬ間に起こっていたとんでもない光景にその言葉しか出てこなかった。リリス達はクラウンがいないことに気付き、探しているとやたらと騒がしい酒場を見つけたのだが、そこにクラウンがいるとは思わなかった。しかも、大勢のドワーフと人族や獣人族を観客にして見知らぬ女性と飲んでいるなど。

 リリスはそのことに思わずため息を吐いた。まだ自分ともそんな感じにとはいかないが、お酒を飲み交わしてもいないのに。それにこの女性はなんという恰好をしているのか。ここにいる人族と獣人族の目当ては8割方、その女性目当てである。目線がエロいし。女性に対する好感度も気持ち悪いぐらいに湧き上がっている。

 それにこの女性はなにを言っているのか?同じサキュバスでもそのようなことを公衆の面前で言う人は少なかった。見た所この人はサキュバスではない。となるとただの変態になるが......

「ふ、ふふっ、やるわね。私、そろそろきついかも」

「なら、さっさと潰れろ。さすがにもうこの味には飽きた」

「なら、今度は私の味でも確かめ......て.......」

「勝者が決まったぞ!!」

「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」

 その女性は言い切る前に机に突っ伏した。そして、そのまま寝息を立て始める。それを見たクラウンは「やっと終わったか」と思わず疲れたため息を吐いた。それはリリス達が来るまでの間にどれほどの淫語がこの場に飛び交ったのか。しかも、ただの言葉であるにも関わらず、体を前のめりにする男達が多数。

「この人は誰です?」

「こいつは竜人族の情報屋で名を【エキドナ】というらしい」

「また悪魔っぽい名前ね。それで勝負に勝てば情報をもらえると?」

「そうだ」

「加えて、私自身もね」

「きゃっ!」

「もう起きたのか......」

 クラウンは思わず頭を抱えた。この淫語製造機がこんなにも早く起きてしまったことに。まあ確かに、酔い潰れると言っていただけで、どれほどで起きるかは言っていない。もしかすると、この女がただ単に早すぎるだけなのかもしれないが。

「これまた美人さんじゃの」

「ふふっ、ありがとう。おじ様」

「無駄のない筋肉をしてるです......」

「ふふふっ、分かるかしら。こう見えてもいつでも殿方に見せれるように引き締めているのよ。それとは別にここの触り心地なんて最高よ?」

「ふ、フワフワです......」

「ベルになんてことしてるのよ!?」

 エキドナが自身の胸にベルの手を押し当てるようにして触らせた。するとその感触になぜか感動したように声を上げるベル。それを見かねたリリスがすぐさまベルを引き離しにかかる。そんな一人の女性によって引き起こされたカオスな空間。

 クラウンは他人のように目を背け、周りの男達は股間を両手で押さえている。

「ふふっ、良い反応ね。ぜひとも食べたくなっちゃうわ。この後、時間あるかしら?そこのクラウンちゃんと一緒にハッスルしない?」

「え?クラウンが?......って違う、それはあり得ないわ。というか、急に何言ってんのそんなことできるわけないじゃない!」

「大丈夫よ、私はバイだから。どっちも美味しくいただけちゃう。いや、彼にはいただかれちゃうのかしら」

「そういう心配をしてるんじゃないわよ。あんた、本当に竜人族なの!?竜人族の誇りはそんなんじゃないはずよね!?」

「ええ、違うわよ。これはどちらかというと私の|性|《さが》というものね。でも、竜人族のしきたりとしては彼にはリーチがかかっているけど」

 そう言うとエキドナはクラウンを見ながら舌なめずりをした。その瞬間、クラウンには言い表しようもない寒気が走った。この女は危険だ。直感がそう告げている。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。

「それじゃあ、早く次の勝負へと移るぞ」

「ふふっ、そんなに焦らないの。やるなら明日よ。......あ、もしかして夜の方が都合が良い話の方だったかしら。なら、いいわよ。私のこのほとばしる熱いパトスを解放して♡」

「......」

「クラウン、そんな目で私を見ないで。私にも対処しきれないのよ」

「その中に私も混ざっていいです?」

「あら、意外ね。もしかして、見た目よりも成人しているのかしら。なら、構わないわよ。一緒に暑い夜を体験しましょ」

「こらやめなさい、ベル!その世界は深淵を覗くことになるわよ!」

「エキドナ、俺の意思は全無視か」

 クラウンはもう休みたかった。これで次に進んでくれれば、さっさと済ませることも出来たが、相手がこうなっている以上は何をやっても無駄だろう。というか、このままでは本気で自分が食われかねん。あの目は森にいた魔物と同じ目だ。相手が相手であるが故に手出しは出来ない。なら、早急にこの場から離れなければ。

「はあ......お前ら、今日は上がるぞ。宿は取ってあるんだろうな?」

「もちろんよ。あんたが単独行動をするのはわかっていたしね。だからベル、行くわよ」

「主様がそういうなら仕方ないです」

 クラウンが席を立ちあがり、歩き始めるとその後にリリス達が続いた。すると、エキドナはクラウン達を見ながら声をかけた。

「そういえば、一つ聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」

「なんだ?」

「『クラウン』ってどっちの意味かしら?」

「どっちって......『道化師』って意味しかないんじゃないの?本人もそう言ってるし」

 リリスはその質問に疑問に思いながらも率直に答えた。すると、その回答を聞いたエキドナは納得するように頷きながらも、わずかばかりな疑問について言った。

「そうなのね。私はてっきり『王』という意味かと思ったわ」

「『王』?そんな意味あったかしら?」

「正確には別の言葉の意味で『王冠』という意味なのだけど、王冠というのは王がつけるものでしょ?だから、『王』なのかしらと思っていたのだけど」

「王か......」

 クラウンはその言葉を静かに頭の中で反芻させた。そして、その響きが気に入ったのか口元をニヤつかせた。

「良い言葉を聞いた。感謝する」

「ふふふっ、それは嬉しいわ。なら、今晩の相手は――――――――――」

「却下だ。そこら辺の男とでも盛ってろ、変態竜が」

 そう言うとクラウン達は出ていった。そんなクラウンを妖しい瞳で見つめながらエキドナは笑う。

「それじゃあ、二回戦目始めるわよー!勝ったら、この体を好きにしてもいいわよ!」

「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」

 男達は数時間後に全員、床に倒れ伏していた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一
ファンタジー
高校生3年F組28人が全員、召喚魔法に捕まった! 放り出されたのは闘技場。武器は一人に一つだけ与えられた特殊スキルがあるのみ!何万人もの観衆が見つめる中、召喚した魔法使いにざまぁし、王都から大脱出! 3年F組は一年から同じメンバーで結束力は固い。中心は陰で「キングとプリンス」と呼ばれる二人の男子と、家業のスーパーを経営する計算高きJK姫野美姫。 逃げた深い森の中で見つけたエルフの廃墟。そこには太古の樹「菩提樹の精霊」が今にも枯れ果てそうになっていた。追いかけてくる魔法使いを退け、のんびりスローライフをするつもりが古代ローマを滅ぼした疫病「天然痘」が異世界でも流行りだした! 原住民「森の民」とともに立ち上がる28人。圧政の帝国を打ち破ることができるのか? ちょっぴり淡い恋愛と友情で切り開く、異世界冒険サバイバル群像劇、ここに開幕! ※カクヨムにも掲載あり

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...