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第2章道化師は進む
第40話 戸惑い
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「あいつら、あんな目に合ったっていうのに随分と働くな」
「それは違う。どちらかと言うとあんな目に合ったからじゃよ。もとの住みやすい生活にいち早く戻すために働いておるのじゃ。そうすれば心のゆとりが何よりできるからの」
城下町で復興作業をしている人達に対してのクラウンの言葉に、兵長も同じ光景を見ながら答える。そして、未だなにやら物思いにふけっているクラウンに対して言葉を続ける。
「クラウン君、まだあの時の二人の行動について考えておるのか?あれは『信用』故の心配じゃよ。あまり考えるのはリリスとベルが可哀そうなのじゃが」
「......『信用』な」
クラウンはその言葉をボソッと答えると言葉を続ける。
「やはりわからんな。なぜあいつらが俺に対して『信用』などするのか。俺は自分自身でも狂っているとわかっている。そんな奴に『信用』なんてしないし、するはずもない。なのにあいつらは.......どうかしてる」
「まあまあ、そう言ってくれるな。それはクラウン君が気づかぬ良いところに二人は気づいておるのかもしれん。でなければ、あんな行動もするはずないであろう?」
「.......」
兵長はクラウンにそう語りかけるが、それに関してクラウンはなにも答えることはなかった......いや、鋭い目つきをしながら兵長に言葉を告げる。
「お前は元勇者なのだろ?なら、あの時のことを忘れたわけではあるまい。それを知らないで言っているのだとしたら、お前はただの愚者だ。だが、お前が知っていて言っているのだとしたら......お前にその言葉を言う資格はない」
「.......」
「俺がお前を殺さないのは、お前にはまだ吐くべきことを聞いていないからだ。それに今のお前に八つ当たりした所で俺の心が晴れることないからな」
その言葉を聞くと兵長は悲しい目を向けた。だが、それでも言い返すことは出来なかった。忘れもしないあの事件。今だからこそわかる、クラウンはやっていないと。だが、それに気づくのは明らかに遅すぎた。だから、今こうしている。
それに、その事実を今のクラウンに言おうとしてもおそらく届くことはない。『信用』がないから。だから、このことはまだ伝えないでおこう。きっと伝わる日が来るはずだから。
クラウンは機嫌が悪そうにその部屋を出ていく。兵長は自分の不甲斐なさにため息を吐きながらも、そんなクラウンを見送った。
**********************************************
クラウンは気分を変えようと外に出るとふと人だかりがある場所を見つけた。そこには男の獣人達がなにやらこぞって一列に並んでいる。そして、その近くにはリリスとベル、そしてロキがいる。「あいつらも働いているのか」と思って近づいてみるとどうやらそうでもないようで......
「あんた達、私に踏んでもらえないと働けないなんて随分な変態さんみたいね。いいわよ、嫌いじゃないわ。好きでもないけどね」
「どうかお願いします!.......あ、あぁ、おほぉ――――――!」
「三角筋、上腕二頭筋は悪くないです。ですが、大胸筋の張りが足りないです。それから僧帽筋のあたりも主様に比べれば大したことがないです。やはり、戦闘しない人達はこんなもんなんです?あ、でもあの人は下腿三頭筋は悪くないです」
「な、何だろう......あの少女、こっちを舐めるように見て来るんだけど」
「Zzzzzzzz......」
なんだか関わるのも嫌になってくるほどのカオスな状況。一人は女王様スイッチが入ってるし、一人はなにやら筋肉の名称を言いながら、獣人の筋肉を評価しているし。リリスの所はさらに酷く、獣人達が恥ずかしげもなくM宣言からの踏まれたい場所を指名。それにリリスが罵りながら応じるという......もう一度言おう。これはカオスな状況だ。その近くにいるロキが寝れていることに感心するぐらい。
クラウンはその場を見なかったことにしようとして退こうとすると先にリリスに気づかれてしまった。
「あら、クラウンじゃない。どうしたのよ?こっちに来なさいって」
「む、主様!......やはり、主様は肉体美といっても過言ではないほど、整っているです。やはりあの筋肉が人をダメにする筋肉ということです」
「クゥン?」
クラウンは思わず頭を抱えた。この二人の変態性に関して。これを度々見るようになるのかと思うとなんだか頭が痛くなってくる。
本来なら関わりたくはなかったんだが、あいつらに気づかれた以上もう逃げても無駄であろう。リリス達の周りにいる獣人達からもなんとも言えない視線が浴びせられる始末。ロキの反応が唯一の癒し。.......というか、獣人ども、それに油売っていることを早く気づけ。
クラウンは「仕方ない」といった様子でため息を吐きながら近づいていくと一応リリスに聞いた。
「お前ら、何をしている?」
「何って見ればわかるじゃない。踏んであげてるのよ、この変態畜生どもに対してね。それにこの人達、反応が実に良くて私の嗜虐心を煽るのよ。だから、思わず昂っちゃって。......あ、でも、私から始めたわけじゃないのよ?たまたま足を踏んづけちゃって、それでね」
「微塵も理解する気はないが、それから始まった時点で結局お前のせいじゃねぇか」
「違うわよ、そいつがたまたまMだっただけで......あ、私の踏みつけ気持ちいいらしいけどやってみる?」
「あほか、お前は」
「う~ん、やっぱダメね。あんた相手だと何だかいつもの調子で行きづらいわ。どちらかと言うと甘えたくなる感じというか......ってあれ?甘えたいとか急に何言ってんの私!?」
クラウンがリリスの豪胆という域を通り越したような発言にある意味感心しているとリリスが急に素に戻った。どうやらあの女王様モードは一種のバーサクと同じみたいだ。自分が先ほどまでどれだけのことを言っていたか気づていない。というか、先に気づくべきところはそこではない。
それにあの言葉はおそらく勝手に本音が漏れてしまったというところだろう。俺と会話したことでその発動規定値まで下がり、自分がどれだけおかしなことを言っているか気づいたというところだろう。今のリリスは先ほどの恍惚とした笑みとは打って変わって穴があったら入りたそうな顔をしている。
「そうなるならそのスイッチが入らないようにしろよ」という気持ちが前面に出たため息が漏れるともう一人の方を見る。もう一人の小さい狐はなにやらこちらを見てブツブツと呟いている。
「なんだ?エロ狐」
「やはり主様の筋肉は無駄がないです。それがいいです。シンプルにこの大殿筋のしまりがよく、それにエロ線とと呼ばれる腹斜筋がまさしくエロいです」
ベルはクラウンのお尻や服をめくりながら、その筋肉に対して目を輝かせながら説明する。そして、ベルの横にいるリリスは興味無さそうにしながらも、チラチラとそのめくれた服から見える肉体に耳を赤くしながら見ている。
クラウンは思わず大きなため息を吐き、服を掴んでいるベルの手を払った。
「お前......どこでそんな言葉を覚えたんだ?」
「昔、たくさんの本を読んでいた時に医学の本も読んでたです。それを思い出したです。あの時、興味はなかったですが、読んでいてよかったです。まさかこんな世界があるとは知らなかったです......」
「ある訳ねぇだろ。それはお前の勝手な妄想のなかでの世界だ。それに人を勝手に巻き込むな」
クラウンは疲れるといった雰囲気を出しながらも座るとこのストレスを払拭するかの如くロキのモフモフに手を突っ込む。そして、触りながらリリスに話しかけた。
「リリス、次はどこが一番近いんだ?」
「え?......ああそれね、ごほん。それは霊山と砂漠で2つあって、どちらも同じ距離よ。ただ、私的には先に砂漠に言った方が良いと思うわ。霊山の方はその次の神殿にも近いけど、砂漠の方はそこから次の神殿まで遠すぎるから。少し時間かかっても砂漠の方を先に行くべきだと思うわ」
「それはどのくらいかわかるか?」
「さあね、分からないわ。ただ、遠いという事だけはわかっている。早く復讐したいって気持ちもわからなくはないけど、急ぐ必要はないんじゃない?」
「別に急ぐつもりは無い。焦った行動は身を亡ぼすからな」
クラウンはその時、ラガットとの戦いを思い出した。獣王や兵長からそいつがどういう人物か知っている。あいつが元獣人であるという事も。
あいつは異常な身体能力をしていた。何度か首を撥ねたと思ったが、それは異常なまでの反応速度で避けられ、反撃までのモーションが早すぎた。だがら、不甲斐ないことにほんの少し苦戦を強いられた。
俺があいつに勝ったのは覚悟の差でもあるが、あいつが元獣人であったことも関係している。あいつはあの教皇とは違い明確な感情の起伏があった。それは元が獣人であったことの名残であろう。だからこそ、あいつの強い感情から先を読むことが出来た。
だが、またあのような下っ端と戦うとは限らない。まだ教皇が生きている可能性も否定できないし、規格外の強敵と戦う可能性だってある。それは常に覚悟はしているが.......今のままでは勝率は低いだろう。まだまだ、力が必要だ。
するとその時、両側からリリスとベルが寄り添うように寄り掛かってきた。クラウンは突然のことに僅かに目を開かせていると二人は言う。
「心配しなくていいわ。あんたならきっと叶えられるから。この私が保証するわ」
「主様は強いです。それはこの世界の誰よりも。ですから、自信を持って下さい。主様は凄い人です」
「......」
二人の言葉は嘘などなかった。それは人を「信用」出来ず、常に疑うクラウンだからこそわかること。だからこそ、クラウンは反応に戸惑い、返す言葉が思い浮かばなかった。......クソ、ベルが増えてからここ最近こんな調子だ。俺らしくもない。だが、こいつらは本気なのか?本気でなければこんなことは言わないのか?
この二人の言葉が本気かどうかはわからない。だが、少なくとも嘘ではない。だからこそ調子が狂う。俺は俺自身を信用しながら、同時に信用していない。リリスとベルを信用する以前の問題だ。......おそらく俺の中には2つの感情がある。1つは狂気。もう1つはまだ穢れていな部分だったりするのだろう。あの時見た夢から分析すればだが。
しかし、その相いれないであろう2つの感情が同意したこともある。それは神殺し。
「当たり前だ。俺は道化師だからな」
クラウンがそう言い返すと二人は嬉しそうな表情をする。するとロキも座り直すとクラウンの頭に顎を乗せた。
そんなクラウン達を見ていた獣人の男達は思わず悔しそうな顔をする。そのハーレム状況に。狐の少女も含まれていようが関係ない。あの男は男の敵。判決は有罪、ただ1つ。その時、一人の獣人が声を張り上げた。
「やるぞ、お前らああああ!」
「「「「「おおおおおおお!」」」」」
シリアスさんをぶちのめすような男達の叫びはなんとも言えない虚しさがあった。そして、襲いかかった獣人達は一人残らず蹴秒で地面の上で伸びた。
「それは違う。どちらかと言うとあんな目に合ったからじゃよ。もとの住みやすい生活にいち早く戻すために働いておるのじゃ。そうすれば心のゆとりが何よりできるからの」
城下町で復興作業をしている人達に対してのクラウンの言葉に、兵長も同じ光景を見ながら答える。そして、未だなにやら物思いにふけっているクラウンに対して言葉を続ける。
「クラウン君、まだあの時の二人の行動について考えておるのか?あれは『信用』故の心配じゃよ。あまり考えるのはリリスとベルが可哀そうなのじゃが」
「......『信用』な」
クラウンはその言葉をボソッと答えると言葉を続ける。
「やはりわからんな。なぜあいつらが俺に対して『信用』などするのか。俺は自分自身でも狂っているとわかっている。そんな奴に『信用』なんてしないし、するはずもない。なのにあいつらは.......どうかしてる」
「まあまあ、そう言ってくれるな。それはクラウン君が気づかぬ良いところに二人は気づいておるのかもしれん。でなければ、あんな行動もするはずないであろう?」
「.......」
兵長はクラウンにそう語りかけるが、それに関してクラウンはなにも答えることはなかった......いや、鋭い目つきをしながら兵長に言葉を告げる。
「お前は元勇者なのだろ?なら、あの時のことを忘れたわけではあるまい。それを知らないで言っているのだとしたら、お前はただの愚者だ。だが、お前が知っていて言っているのだとしたら......お前にその言葉を言う資格はない」
「.......」
「俺がお前を殺さないのは、お前にはまだ吐くべきことを聞いていないからだ。それに今のお前に八つ当たりした所で俺の心が晴れることないからな」
その言葉を聞くと兵長は悲しい目を向けた。だが、それでも言い返すことは出来なかった。忘れもしないあの事件。今だからこそわかる、クラウンはやっていないと。だが、それに気づくのは明らかに遅すぎた。だから、今こうしている。
それに、その事実を今のクラウンに言おうとしてもおそらく届くことはない。『信用』がないから。だから、このことはまだ伝えないでおこう。きっと伝わる日が来るはずだから。
クラウンは機嫌が悪そうにその部屋を出ていく。兵長は自分の不甲斐なさにため息を吐きながらも、そんなクラウンを見送った。
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クラウンは気分を変えようと外に出るとふと人だかりがある場所を見つけた。そこには男の獣人達がなにやらこぞって一列に並んでいる。そして、その近くにはリリスとベル、そしてロキがいる。「あいつらも働いているのか」と思って近づいてみるとどうやらそうでもないようで......
「あんた達、私に踏んでもらえないと働けないなんて随分な変態さんみたいね。いいわよ、嫌いじゃないわ。好きでもないけどね」
「どうかお願いします!.......あ、あぁ、おほぉ――――――!」
「三角筋、上腕二頭筋は悪くないです。ですが、大胸筋の張りが足りないです。それから僧帽筋のあたりも主様に比べれば大したことがないです。やはり、戦闘しない人達はこんなもんなんです?あ、でもあの人は下腿三頭筋は悪くないです」
「な、何だろう......あの少女、こっちを舐めるように見て来るんだけど」
「Zzzzzzzz......」
なんだか関わるのも嫌になってくるほどのカオスな状況。一人は女王様スイッチが入ってるし、一人はなにやら筋肉の名称を言いながら、獣人の筋肉を評価しているし。リリスの所はさらに酷く、獣人達が恥ずかしげもなくM宣言からの踏まれたい場所を指名。それにリリスが罵りながら応じるという......もう一度言おう。これはカオスな状況だ。その近くにいるロキが寝れていることに感心するぐらい。
クラウンはその場を見なかったことにしようとして退こうとすると先にリリスに気づかれてしまった。
「あら、クラウンじゃない。どうしたのよ?こっちに来なさいって」
「む、主様!......やはり、主様は肉体美といっても過言ではないほど、整っているです。やはりあの筋肉が人をダメにする筋肉ということです」
「クゥン?」
クラウンは思わず頭を抱えた。この二人の変態性に関して。これを度々見るようになるのかと思うとなんだか頭が痛くなってくる。
本来なら関わりたくはなかったんだが、あいつらに気づかれた以上もう逃げても無駄であろう。リリス達の周りにいる獣人達からもなんとも言えない視線が浴びせられる始末。ロキの反応が唯一の癒し。.......というか、獣人ども、それに油売っていることを早く気づけ。
クラウンは「仕方ない」といった様子でため息を吐きながら近づいていくと一応リリスに聞いた。
「お前ら、何をしている?」
「何って見ればわかるじゃない。踏んであげてるのよ、この変態畜生どもに対してね。それにこの人達、反応が実に良くて私の嗜虐心を煽るのよ。だから、思わず昂っちゃって。......あ、でも、私から始めたわけじゃないのよ?たまたま足を踏んづけちゃって、それでね」
「微塵も理解する気はないが、それから始まった時点で結局お前のせいじゃねぇか」
「違うわよ、そいつがたまたまMだっただけで......あ、私の踏みつけ気持ちいいらしいけどやってみる?」
「あほか、お前は」
「う~ん、やっぱダメね。あんた相手だと何だかいつもの調子で行きづらいわ。どちらかと言うと甘えたくなる感じというか......ってあれ?甘えたいとか急に何言ってんの私!?」
クラウンがリリスの豪胆という域を通り越したような発言にある意味感心しているとリリスが急に素に戻った。どうやらあの女王様モードは一種のバーサクと同じみたいだ。自分が先ほどまでどれだけのことを言っていたか気づていない。というか、先に気づくべきところはそこではない。
それにあの言葉はおそらく勝手に本音が漏れてしまったというところだろう。俺と会話したことでその発動規定値まで下がり、自分がどれだけおかしなことを言っているか気づいたというところだろう。今のリリスは先ほどの恍惚とした笑みとは打って変わって穴があったら入りたそうな顔をしている。
「そうなるならそのスイッチが入らないようにしろよ」という気持ちが前面に出たため息が漏れるともう一人の方を見る。もう一人の小さい狐はなにやらこちらを見てブツブツと呟いている。
「なんだ?エロ狐」
「やはり主様の筋肉は無駄がないです。それがいいです。シンプルにこの大殿筋のしまりがよく、それにエロ線とと呼ばれる腹斜筋がまさしくエロいです」
ベルはクラウンのお尻や服をめくりながら、その筋肉に対して目を輝かせながら説明する。そして、ベルの横にいるリリスは興味無さそうにしながらも、チラチラとそのめくれた服から見える肉体に耳を赤くしながら見ている。
クラウンは思わず大きなため息を吐き、服を掴んでいるベルの手を払った。
「お前......どこでそんな言葉を覚えたんだ?」
「昔、たくさんの本を読んでいた時に医学の本も読んでたです。それを思い出したです。あの時、興味はなかったですが、読んでいてよかったです。まさかこんな世界があるとは知らなかったです......」
「ある訳ねぇだろ。それはお前の勝手な妄想のなかでの世界だ。それに人を勝手に巻き込むな」
クラウンは疲れるといった雰囲気を出しながらも座るとこのストレスを払拭するかの如くロキのモフモフに手を突っ込む。そして、触りながらリリスに話しかけた。
「リリス、次はどこが一番近いんだ?」
「え?......ああそれね、ごほん。それは霊山と砂漠で2つあって、どちらも同じ距離よ。ただ、私的には先に砂漠に言った方が良いと思うわ。霊山の方はその次の神殿にも近いけど、砂漠の方はそこから次の神殿まで遠すぎるから。少し時間かかっても砂漠の方を先に行くべきだと思うわ」
「それはどのくらいかわかるか?」
「さあね、分からないわ。ただ、遠いという事だけはわかっている。早く復讐したいって気持ちもわからなくはないけど、急ぐ必要はないんじゃない?」
「別に急ぐつもりは無い。焦った行動は身を亡ぼすからな」
クラウンはその時、ラガットとの戦いを思い出した。獣王や兵長からそいつがどういう人物か知っている。あいつが元獣人であるという事も。
あいつは異常な身体能力をしていた。何度か首を撥ねたと思ったが、それは異常なまでの反応速度で避けられ、反撃までのモーションが早すぎた。だがら、不甲斐ないことにほんの少し苦戦を強いられた。
俺があいつに勝ったのは覚悟の差でもあるが、あいつが元獣人であったことも関係している。あいつはあの教皇とは違い明確な感情の起伏があった。それは元が獣人であったことの名残であろう。だからこそ、あいつの強い感情から先を読むことが出来た。
だが、またあのような下っ端と戦うとは限らない。まだ教皇が生きている可能性も否定できないし、規格外の強敵と戦う可能性だってある。それは常に覚悟はしているが.......今のままでは勝率は低いだろう。まだまだ、力が必要だ。
するとその時、両側からリリスとベルが寄り添うように寄り掛かってきた。クラウンは突然のことに僅かに目を開かせていると二人は言う。
「心配しなくていいわ。あんたならきっと叶えられるから。この私が保証するわ」
「主様は強いです。それはこの世界の誰よりも。ですから、自信を持って下さい。主様は凄い人です」
「......」
二人の言葉は嘘などなかった。それは人を「信用」出来ず、常に疑うクラウンだからこそわかること。だからこそ、クラウンは反応に戸惑い、返す言葉が思い浮かばなかった。......クソ、ベルが増えてからここ最近こんな調子だ。俺らしくもない。だが、こいつらは本気なのか?本気でなければこんなことは言わないのか?
この二人の言葉が本気かどうかはわからない。だが、少なくとも嘘ではない。だからこそ調子が狂う。俺は俺自身を信用しながら、同時に信用していない。リリスとベルを信用する以前の問題だ。......おそらく俺の中には2つの感情がある。1つは狂気。もう1つはまだ穢れていな部分だったりするのだろう。あの時見た夢から分析すればだが。
しかし、その相いれないであろう2つの感情が同意したこともある。それは神殺し。
「当たり前だ。俺は道化師だからな」
クラウンがそう言い返すと二人は嬉しそうな表情をする。するとロキも座り直すとクラウンの頭に顎を乗せた。
そんなクラウン達を見ていた獣人の男達は思わず悔しそうな顔をする。そのハーレム状況に。狐の少女も含まれていようが関係ない。あの男は男の敵。判決は有罪、ただ1つ。その時、一人の獣人が声を張り上げた。
「やるぞ、お前らああああ!」
「「「「「おおおおおおお!」」」」」
シリアスさんをぶちのめすような男達の叫びはなんとも言えない虚しさがあった。そして、襲いかかった獣人達は一人残らず蹴秒で地面の上で伸びた。
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