上 下
264 / 303
第2章道化師は進む

第40話 戸惑い

しおりを挟む
「あいつら、あんな目に合ったっていうのに随分と働くな」

「それは違う。どちらかと言うとあんな目に合ったからじゃよ。もとの住みやすい生活にいち早く戻すために働いておるのじゃ。そうすれば心のゆとりが何よりできるからの」

 城下町で復興作業をしている人達に対してのクラウンの言葉に、兵長も同じ光景を見ながら答える。そして、未だなにやら物思いにふけっているクラウンに対して言葉を続ける。

「クラウン君、まだあの時の二人の行動について考えておるのか?あれは『信用』故の心配じゃよ。あまり考えるのはリリスとベルが可哀そうなのじゃが」

「......『信用』な」

 クラウンはその言葉をボソッと答えると言葉を続ける。

「やはりわからんな。なぜあいつらが俺に対して『信用』などするのか。俺は自分自身でも狂っているとわかっている。そんな奴に『信用』なんてしないし、するはずもない。なのにあいつらは.......どうかしてる」

「まあまあ、そう言ってくれるな。それはクラウン君が気づかぬ良いところに二人は気づいておるのかもしれん。でなければ、あんな行動もするはずないであろう?」

「.......」

 兵長はクラウンにそう語りかけるが、それに関してクラウンはなにも答えることはなかった......いや、鋭い目つきをしながら兵長に言葉を告げる。

「お前は元勇者なのだろ?なら、あの時のことを忘れたわけではあるまい。それを知らないで言っているのだとしたら、お前はただの愚者だ。だが、お前が知っていて言っているのだとしたら......お前にその言葉を言う資格はない」

「.......」

「俺がお前を殺さないのは、お前にはまだ吐くべきことを聞いていないからだ。それに今のお前に八つ当たりした所で俺の心が晴れることないからな」

 その言葉を聞くと兵長は悲しい目を向けた。だが、それでも言い返すことは出来なかった。忘れもしないあの事件。今だからこそわかる、クラウンはやっていないと。だが、それに気づくのは明らかに遅すぎた。だから、今こうしている。

 それに、その事実を今のクラウンに言おうとしてもおそらく届くことはない。『信用』がないから。だから、このことはまだ伝えないでおこう。きっと伝わる日が来るはずだから。

 クラウンは機嫌が悪そうにその部屋を出ていく。兵長は自分の不甲斐なさにため息を吐きながらも、そんなクラウンを見送った。

**********************************************
 クラウンは気分を変えようと外に出るとふと人だかりがある場所を見つけた。そこには男の獣人達がなにやらこぞって一列に並んでいる。そして、その近くにはリリスとベル、そしてロキがいる。「あいつらも働いているのか」と思って近づいてみるとどうやらそうでもないようで......

「あんた達、私に踏んでもらえないと働けないなんて随分な変態さんみたいね。いいわよ、嫌いじゃないわ。好きでもないけどね」

「どうかお願いします!.......あ、あぁ、おほぉ――――――!」

「三角筋、上腕二頭筋は悪くないです。ですが、大胸筋の張りが足りないです。それから僧帽筋そうぼうきんのあたりも主様に比べれば大したことがないです。やはり、戦闘しない人達はこんなもんなんです?あ、でもあの人は下腿かたい三頭筋は悪くないです」

「な、何だろう......あの少女、こっちを舐めるように見て来るんだけど」

「Zzzzzzzz......」

 なんだか関わるのも嫌になってくるほどのカオスな状況。一人は女王様スイッチが入ってるし、一人はなにやら筋肉の名称を言いながら、獣人の筋肉を評価しているし。リリスの所はさらに酷く、獣人達が恥ずかしげもなくM宣言からの踏まれたい場所を指名。それにリリスが罵りながら応じるという......もう一度言おう。これはカオスな状況だ。その近くにいるロキが寝れていることに感心するぐらい。

 クラウンはその場を見なかったことにしようとして退こうとすると先にリリスに気づかれてしまった。

「あら、クラウンじゃない。どうしたのよ?こっちに来なさいって」

「む、主様!......やはり、主様は肉体美といっても過言ではないほど、整っているです。やはりあの筋肉が人をダメにする筋肉ということです」

「クゥン?」

 クラウンは思わず頭を抱えた。この二人の変態性に関して。これを度々見るようになるのかと思うとなんだか頭が痛くなってくる。

 本来なら関わりたくはなかったんだが、あいつらに気づかれた以上もう逃げても無駄であろう。リリス達の周りにいる獣人達からもなんとも言えない視線が浴びせられる始末。ロキの反応が唯一の癒し。.......というか、獣人ども、それに油売っていることを早く気づけ。

 クラウンは「仕方ない」といった様子でため息を吐きながら近づいていくと一応リリスに聞いた。

「お前ら、何をしている?」

「何って見ればわかるじゃない。踏んであげてるのよ、この変態畜生どもに対してね。それにこの人達、反応が実に良くて私の嗜虐心を煽るのよ。だから、思わず昂っちゃって。......あ、でも、私から始めたわけじゃないのよ?たまたま足を踏んづけちゃって、それでね」

「微塵も理解する気はないが、それから始まった時点で結局お前のせいじゃねぇか」

「違うわよ、そいつがたまたまMだっただけで......あ、私の踏みつけ気持ちいいらしいけどやってみる?」

「あほか、お前は」

「う~ん、やっぱダメね。あんた相手だと何だかいつもの調子で行きづらいわ。どちらかと言うと甘えたくなる感じというか......ってあれ?甘えたいとか急に何言ってんの私!?」

 クラウンがリリスの豪胆という域を通り越したような発言にある意味感心しているとリリスが急に素に戻った。どうやらあの女王様モードは一種のバーサクと同じみたいだ。自分が先ほどまでどれだけのことを言っていたか気づていない。というか、先に気づくべきところはそこではない。

 それにあの言葉はおそらく勝手に本音が漏れてしまったというところだろう。俺と会話したことでその発動規定値まで下がり、自分がどれだけおかしなことを言っているか気づいたというところだろう。今のリリスは先ほどの恍惚とした笑みとは打って変わって穴があったら入りたそうな顔をしている。

 「そうなるならそのスイッチが入らないようにしろよ」という気持ちが前面に出たため息が漏れるともう一人の方を見る。もう一人の小さい狐はなにやらこちらを見てブツブツと呟いている。

「なんだ?エロ狐」

「やはり主様の筋肉は無駄がないです。それがいいです。シンプルにこの大殿筋のしまりがよく、それにエロ線とと呼ばれる腹斜筋がまさしくエロいです」

 ベルはクラウンのお尻や服をめくりながら、その筋肉に対して目を輝かせながら説明する。そして、ベルの横にいるリリスは興味無さそうにしながらも、チラチラとそのめくれた服から見える肉体に耳を赤くしながら見ている。

 クラウンは思わず大きなため息を吐き、服を掴んでいるベルの手を払った。

「お前......どこでそんな言葉を覚えたんだ?」

「昔、たくさんの本を読んでいた時に医学の本も読んでたです。それを思い出したです。あの時、興味はなかったですが、読んでいてよかったです。まさかこんな世界があるとは知らなかったです......」

「ある訳ねぇだろ。それはお前の勝手な妄想のなかでの世界だ。それに人を勝手に巻き込むな」

 クラウンは疲れるといった雰囲気を出しながらも座るとこのストレスを払拭するかの如くロキのモフモフに手を突っ込む。そして、触りながらリリスに話しかけた。

「リリス、次はどこが一番近いんだ?」

「え?......ああそれね、ごほん。それは霊山と砂漠で2つあって、どちらも同じ距離よ。ただ、私的には先に砂漠に言った方が良いと思うわ。霊山の方はその次の神殿にも近いけど、砂漠の方はそこから次の神殿まで遠すぎるから。少し時間かかっても砂漠の方を先に行くべきだと思うわ」

「それはどのくらいかわかるか?」

「さあね、分からないわ。ただ、遠いという事だけはわかっている。早く復讐したいって気持ちもわからなくはないけど、急ぐ必要はないんじゃない?」

「別に急ぐつもりは無い。焦った行動は身を亡ぼすからな」

 クラウンはその時、ラガットとの戦いを思い出した。獣王や兵長からそいつがどういう人物か知っている。あいつが元獣人であるという事も。

 あいつは異常な身体能力をしていた。何度か首を撥ねたと思ったが、それは異常なまでの反応速度で避けられ、反撃までのモーションが早すぎた。だがら、不甲斐ないことにほんの少し苦戦を強いられた。

 俺があいつに勝ったのは覚悟の差でもあるが、あいつが元獣人であったことも関係している。あいつはあの教皇人形モドキとは違い明確な感情の起伏があった。それは元が獣人であったことの名残であろう。だからこそ、あいつの強い感情から先を読むことが出来た。

 だが、またあのような下っ端と戦うとは限らない。まだ教皇が生きている可能性も否定できないし、規格外の強敵と戦う可能性だってある。それは常に覚悟はしているが.......今のままでは勝率は低いだろう。まだまだ、力が必要だ。

 するとその時、両側からリリスとベルが寄り添うように寄り掛かってきた。クラウンは突然のことに僅かに目を開かせていると二人は言う。

「心配しなくていいわ。あんたならきっと叶えられるから。この私が保証するわ」

「主様は強いです。それはこの世界の誰よりも。ですから、自信を持って下さい。主様は凄い人です」

「......」

 二人の言葉は嘘などなかった。それは人を「信用」出来ず、常に疑うクラウンだからこそわかること。だからこそ、クラウンは反応に戸惑い、返す言葉が思い浮かばなかった。......クソ、ベルが増えてからここ最近こんな調子だ。俺らしくもない。だが、こいつらは本気なのか?本気でなければこんなことは言わないのか?

 この二人の言葉が本気かどうかはわからない。だが、少なくとも嘘ではない。だからこそ調子が狂う。俺は俺自身を信用しながら、同時に。リリスとベルを信用する以前の問題だ。......おそらく俺の中には2つの感情がある。1つは狂気。もう1つはまだ穢れていな部分だったりするのだろう。あの時見た夢から分析すればだが。

 しかし、その相いれないであろう2つの感情が同意したこともある。それは神殺し。

「当たり前だ。俺は道化師クラウンだからな」

 クラウンがそう言い返すと二人は嬉しそうな表情をする。するとロキも座り直すとクラウンの頭に顎を乗せた。

 そんなクラウン達を見ていた獣人の男達は思わず悔しそうな顔をする。そのハーレム状況に。狐の少女も含まれていようが関係ない。あの男は男の敵。判決は有罪ギルティ、ただ1つ。その時、一人の獣人が声を張り上げた。

「やるぞ、お前らああああ!」

「「「「「おおおおおおお!」」」」」

 シリアスさんをぶちのめすような男達の叫びはなんとも言えない虚しさがあった。そして、襲いかかった獣人達は一人残らず蹴秒で地面の上で伸びた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...