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第2章道化師は進む
第35話 煉獄の檻ガランザラス#2
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クラウン達は耐久の試練からさらに30階層降りたところで次なる試練が書かれた石碑を見つけた。それには「生き延びろ。さもなければ進むことはできぬ」と書かれていた。その言葉にベルは疑問の声を上げる。
「『進むことは出来ぬ』とはどういうことです?生き延びなければ、進むことはできないのは当たり前です。ですから、書かれる必要はないです。けど、書かれているということは何か意味があるです?」
「かもしれんの。クラウン君もそう思うじゃろ?」
「いちいち俺に聞くんじゃねぇ。だが、その疑問を持つことは悪いことじゃない。何かあることを想定して動くのは強者の基本だ。それで何もなければそれでいい。あれば困るのは俺達だからな」
そう言いながらクラウンはベルの頭を押さえる。その目的はベルから送られるキラキラとした視線を防ぐため。何がどうなったのかはわからないが、ベルがやたらと熱量を帯びた目でこちらを見てくる。ベルの意見を同意したしたりした時は特に。それに反応してジジイがうぜぇ行動ばかりしてくるので、イライラが募ってくる。
しかし、クラウンはベルの頭を若干頭を鷲掴み気味に触れているのにも関わらず、ベルは嬉しそうにふわふわな尻尾をふわりふわりと大きく振る。
そんなベルの様子を見て「一体何がそんなに嬉しいのか」と頭を悩ませる。リリスとロキもこちらを見て微笑ましそうな表情をしているし......ああ、めんどくせぇ。俺がそんなことを気にする必要はねぇ。
そう思うとクラウンは無言で歩き出す。その後ろについていく3人と一匹。そして、石碑近くの入り口を通るとそこは他の2つの試練とは違い空間は広がっていなくただの道。言うなれば、こまれまで歩んできた道と変わらない。
ただ違う点があるとすれば.......
「ねぇ、こころなしか装備重くない?」
「そうじゃの......確かに剣が重いわい」
リリスは履いている脚甲の足を軽く上げながら、兵長は剣を軽く振りながら感じたことを述べていく。それはリリスと兵長に限ったことではなく全員同じであった。
クラウンは自身の手を開いたり握ったりして確かめるとふとステータスを見た。するとクラウンの目の前に透明な文字盤のようなものが浮かび上がる。そして、それを見た瞬間、思わず目を見開いた。なんとそこに書かれていた数値はこの地に召喚された時と同じステータスであったからだ。
「......なるほど」
それから同時に納得もした。「生き延びろ」とはそういう事かと。今の状態はなんらかの影響で強制的にレベル1にさせられている。そして、予想が正しければ、この場所でレベリングしながら最下層に進んでいくという事だ。
クラウンは刀を抜くと軽く振った。やはり刀を重くなるのはこのせいのようだ。そして、魔力も少ないため多大な魔力を使う<超回復>は使えない。それから<天翔>を含めた他の魔法も。
もとの体に慣れてそっちの方が強い俺達にとってはなかなかに厄介だな。だが、培われた剣筋や技術は変わらないか。まあ、最初は自分の思考と体の動きが間に合わず食い違いそうだがな。
すると何かわかったような顔をしているクラウンにリリスが尋ねる。そして、クラウンは自分が考えたことを伝えると全員から同意が得られた。その時、前方からゴブリンの群れがやってくる。そのゴブリン達にクラウンは突っ込んだ。
「......チッ」
その速さは慣れている速度よりも数十倍遅かった。そして、ゴブリンの振りまわした剣を避けて一気に切りかかるがその速さも遅く、また力も弱いためカバーに入ったゴブリンに受け止められた。その事実にわかっていながらも思わず舌打ちが漏れる。そして、一体のゴブリンの顔面を鷲掴みにすると確実に喉元へ突き刺した。
「クラウン、上に行くわ!」
リリスの声が聞こえた瞬間、クラウンはしゃがみ込み別の一体のゴブリンに足払いをして体勢を崩す。そして、そのゴブリンの顎にリリスの蹴りが入った。本来ならそこで終わりだが、顎を弾いただけ。なので、クラウンはそのゴブリンの首をそこから立ち上がるように切り上げて飛ばす。
「儂らも行くぞ」
「はい」
「ウォン」
兵長は動き出すと一体のゴブリンに切りかかる。その攻撃に対して剣を横にして防御態勢に入った。だが、その剣は叩き折られそのまま切られる。
するともう一体のゴブリンが兵長に向かって切りかかった。その瞬間、<隠形>で隠れていたベルがそのゴブリンの背後から現れ、一気に切りつけた。しかし、その攻撃は致命傷には至らない。そこにロキが現れゴブリンを切り裂いた。
「......そうか」
「また何かわかったの?」
兵長達の戦闘を見ていたクラウンはそっとそう呟いた。それを聞いたリリスは思わず尋ねた。
「これは能力の弱体でそれも一番最初の状態に戻される。いわば、基本ステータスと言うべきか。今の戦闘でレベルは上がったが」
「ってことはさっきの私たち、レベル1の状態ってこと?だとしたら勇者って初期状態で結構強いのね。ロキちゃんはあの森の出身だから最初から強いのはなんとなくわかるけど」
「それだけじゃない。ロキはまだいいとして、あのジジイに限っては酷く癪だがこの試練が終わるまで頼らざるを得ない。今の俺達では役に立たないらしいからな」
クラウンはその言葉通りの睨むような目で兵長を見る。だが、見れれている兵長はクラウンと同じ思考に達したのかどこか誇らしげな表情をする。それを見てクラウンはさらに憎々しげに顔を歪める。一方、リリスはそんな二人のやり取りを見て羨ましそうにも見える顔を浮かべた。
「キャンキャン!」
するとクラウン達の方へ一匹の犬の魔物がやってきた。大きさとしては子犬だ。その子犬はクラウンとリリスに興味があるのか全力で駆けてくる。そんな子犬に対してリリスは可愛さに心臓が打ち抜かれた。そして、思わず迎えるように両手を広げた。
「失せろ」
「......」
その瞬間、クラウンが目の前で切り殺した。そのことにリリスは笑顔のまま固まった。何が起こったか理解できなかった。いや、理解したくなかった。目の前で可愛さ溢れる子犬が殺されるなど。そして、次第に怒りで眉間にしわが寄ってくる。クラウンの行動はわかってた......わかってたからこそ、その行動を止められなかった自分に腹が立つ。
「「「「「!!!」」」」」」
するとクラウン達の足元に魔法陣が浮かび上がった。そして、クラウン達を包み込むように光を放つとその光が消えた時にはなぜかゴブリンの死体が遠くにあった。そのことに全員が思わず目を見開く。
「もう一度やる。お前たちは見てろ」
クラウンは再びゴブリン達に向かうと先ほど子犬はやってきた。この場に先ほどの子犬の死体はない。となるとあの森の神殿にいたリザードマンと同じようなものだろう。
それからその子犬が向かって来るともう一度殺した。すると再び魔法陣が足元に現れる。咄嗟に動いてみるが、その魔法陣も動いて逃れることは不可能。そして、また消えて、気づけば近くにリリス達がいる。そのことでリリスはあの石碑の言葉を理解した。
「なるほど、あの石碑の『先に進めない』って意味はこういう事だったのね。要するに私たちは弱いまま、あの子犬を護りながら最下層へと向かわなければならないってことね」
「チッ、めんどせぇ」
クラウンはリリスの言葉に納得しながらも思わず感じた愚痴を吐いた。そんな感情のクラウンにリリスとベルは同感の目を向ける。
現在、この三人は自分達のことでも精一杯なのだ。それに加え護らなければならないことが増えるなど考えてもいなかった。兵長とロキにカバーに入ってもらうとしても限界はある。しかも.......
クラウン達は歩いていくと再び子犬にあった。そして、気にせず歩いていくと子犬も襲ってくることもなくついてくる。するとしばらくしたところで目の前に再び魔物が現れた。
「キャン!」
「おい、何をする気だ」
その瞬間、子犬がクラウン達を護ろうと目の前に立ち魔物に突っ込んでいく。そして......一撃で殺された。クラウンが止めに行く間もなく、まさに一瞬の出来事であった。その光景に他の3人も呆けた顔をする。それからそんな顔をしたままスタートラインに戻された。
「あのクソ犬があああああ!」
クラウンは思わず叫んだ。その気持ちは全員がわかった。なんせそこそこ歩いた距離を全部チャラにさせられたのだから。とはいえ、あの子犬に八つ当たりをしていれば先に進むことは出来ない。そのためクラウンのストレスが高まっていく。
「ロキ、ゴーよ!」
「ウォン」
「おい、なにしやが......る」
リリスはクラウンに向かってロキを向かわせた。その指示に従ったロキはクラウンにモフモフアタックを仕掛ける。その攻撃にクラウンは避けることが出来ずに沈黙した。そして、やがてロキを撫で始める。そのことにリリスは一先ず安堵の表情を浮かべた。
やはり、今のクラウンに有効なのはまだロキだけらしい。まあ、これは仕方がない。信用は一朝一夕では作れないもの。だから、別に悔しくなんてない。どうせ時間の問題だし、サキュバスに落とせない男なんていないし。だから、ベル?あんたも自分の尻尾を見ながら悲しそうな顔をしないの。ロキちゃんは同じモフモフでは強敵だけど、ベルの尻尾も負けてないわ。
「とりあえず行くぞ。何があってもあのクソ犬を最優先だ。もう戻るわけにはいかない」
そう言ってクラウン達は歩き出した。それからの探索は実に酷いものであった。クラウン達はやっとのことで下に向かう階層を見つけるとそこで奇襲にあった。そこで子犬がクラウン達を庇おうと前に出て死亡。スタートからやり直し。
そして、その階層で2回やり直すと次の階層で落とし穴に子犬だけ嵌り、やり直し。そこはトラップ階層のようで10回は子犬だけが死んでやり直した。
その次の階層は魔物増殖階層。早く通らなければその階層が魔物で溢れかえるというものであった。そこで子犬が無駄に(戦おうと)頑張りを見せて死にまくりスタートに戻される。その間に何度クラウンが発狂して、ロキのモフモフアタックが出動したことか。だが、それでも足りない時にはベルの尻尾が役に立った。ベル本人はそのことには大満足であったらしい。
それからというのもその子犬のトリッキーな動きで死にまくり&やり直しまくりのクラウンのストレス爆発しまくりでそれはそれは大変であった。クラウンの気持ちがわかるのか全員が否定できないところがなんとも言えないところであった。
そして、どれだけ下りたかもわからない階層に来ると不意に力が湧き上がってくるのを感じた。そして、ふと後ろを振り返ると子犬が階段から降りようとせず、上から見下ろすようにこちらを見ている。すると声が響いた。
『試練成功。能力を解除します』
「やっと終わったか......」
「もうやだぁ.......」
「疲れたです......」
「さすがに体に響くの......」
「クウン(お腹空いた)......」
全員が全員、疲れた顔をしながらその場で立ち止まった。もう何が何だか覚えていない。覚えだす気もないが。そして、そこで充分に休憩すると再び歩き出す。
「『進むことは出来ぬ』とはどういうことです?生き延びなければ、進むことはできないのは当たり前です。ですから、書かれる必要はないです。けど、書かれているということは何か意味があるです?」
「かもしれんの。クラウン君もそう思うじゃろ?」
「いちいち俺に聞くんじゃねぇ。だが、その疑問を持つことは悪いことじゃない。何かあることを想定して動くのは強者の基本だ。それで何もなければそれでいい。あれば困るのは俺達だからな」
そう言いながらクラウンはベルの頭を押さえる。その目的はベルから送られるキラキラとした視線を防ぐため。何がどうなったのかはわからないが、ベルがやたらと熱量を帯びた目でこちらを見てくる。ベルの意見を同意したしたりした時は特に。それに反応してジジイがうぜぇ行動ばかりしてくるので、イライラが募ってくる。
しかし、クラウンはベルの頭を若干頭を鷲掴み気味に触れているのにも関わらず、ベルは嬉しそうにふわふわな尻尾をふわりふわりと大きく振る。
そんなベルの様子を見て「一体何がそんなに嬉しいのか」と頭を悩ませる。リリスとロキもこちらを見て微笑ましそうな表情をしているし......ああ、めんどくせぇ。俺がそんなことを気にする必要はねぇ。
そう思うとクラウンは無言で歩き出す。その後ろについていく3人と一匹。そして、石碑近くの入り口を通るとそこは他の2つの試練とは違い空間は広がっていなくただの道。言うなれば、こまれまで歩んできた道と変わらない。
ただ違う点があるとすれば.......
「ねぇ、こころなしか装備重くない?」
「そうじゃの......確かに剣が重いわい」
リリスは履いている脚甲の足を軽く上げながら、兵長は剣を軽く振りながら感じたことを述べていく。それはリリスと兵長に限ったことではなく全員同じであった。
クラウンは自身の手を開いたり握ったりして確かめるとふとステータスを見た。するとクラウンの目の前に透明な文字盤のようなものが浮かび上がる。そして、それを見た瞬間、思わず目を見開いた。なんとそこに書かれていた数値はこの地に召喚された時と同じステータスであったからだ。
「......なるほど」
それから同時に納得もした。「生き延びろ」とはそういう事かと。今の状態はなんらかの影響で強制的にレベル1にさせられている。そして、予想が正しければ、この場所でレベリングしながら最下層に進んでいくという事だ。
クラウンは刀を抜くと軽く振った。やはり刀を重くなるのはこのせいのようだ。そして、魔力も少ないため多大な魔力を使う<超回復>は使えない。それから<天翔>を含めた他の魔法も。
もとの体に慣れてそっちの方が強い俺達にとってはなかなかに厄介だな。だが、培われた剣筋や技術は変わらないか。まあ、最初は自分の思考と体の動きが間に合わず食い違いそうだがな。
すると何かわかったような顔をしているクラウンにリリスが尋ねる。そして、クラウンは自分が考えたことを伝えると全員から同意が得られた。その時、前方からゴブリンの群れがやってくる。そのゴブリン達にクラウンは突っ込んだ。
「......チッ」
その速さは慣れている速度よりも数十倍遅かった。そして、ゴブリンの振りまわした剣を避けて一気に切りかかるがその速さも遅く、また力も弱いためカバーに入ったゴブリンに受け止められた。その事実にわかっていながらも思わず舌打ちが漏れる。そして、一体のゴブリンの顔面を鷲掴みにすると確実に喉元へ突き刺した。
「クラウン、上に行くわ!」
リリスの声が聞こえた瞬間、クラウンはしゃがみ込み別の一体のゴブリンに足払いをして体勢を崩す。そして、そのゴブリンの顎にリリスの蹴りが入った。本来ならそこで終わりだが、顎を弾いただけ。なので、クラウンはそのゴブリンの首をそこから立ち上がるように切り上げて飛ばす。
「儂らも行くぞ」
「はい」
「ウォン」
兵長は動き出すと一体のゴブリンに切りかかる。その攻撃に対して剣を横にして防御態勢に入った。だが、その剣は叩き折られそのまま切られる。
するともう一体のゴブリンが兵長に向かって切りかかった。その瞬間、<隠形>で隠れていたベルがそのゴブリンの背後から現れ、一気に切りつけた。しかし、その攻撃は致命傷には至らない。そこにロキが現れゴブリンを切り裂いた。
「......そうか」
「また何かわかったの?」
兵長達の戦闘を見ていたクラウンはそっとそう呟いた。それを聞いたリリスは思わず尋ねた。
「これは能力の弱体でそれも一番最初の状態に戻される。いわば、基本ステータスと言うべきか。今の戦闘でレベルは上がったが」
「ってことはさっきの私たち、レベル1の状態ってこと?だとしたら勇者って初期状態で結構強いのね。ロキちゃんはあの森の出身だから最初から強いのはなんとなくわかるけど」
「それだけじゃない。ロキはまだいいとして、あのジジイに限っては酷く癪だがこの試練が終わるまで頼らざるを得ない。今の俺達では役に立たないらしいからな」
クラウンはその言葉通りの睨むような目で兵長を見る。だが、見れれている兵長はクラウンと同じ思考に達したのかどこか誇らしげな表情をする。それを見てクラウンはさらに憎々しげに顔を歪める。一方、リリスはそんな二人のやり取りを見て羨ましそうにも見える顔を浮かべた。
「キャンキャン!」
するとクラウン達の方へ一匹の犬の魔物がやってきた。大きさとしては子犬だ。その子犬はクラウンとリリスに興味があるのか全力で駆けてくる。そんな子犬に対してリリスは可愛さに心臓が打ち抜かれた。そして、思わず迎えるように両手を広げた。
「失せろ」
「......」
その瞬間、クラウンが目の前で切り殺した。そのことにリリスは笑顔のまま固まった。何が起こったか理解できなかった。いや、理解したくなかった。目の前で可愛さ溢れる子犬が殺されるなど。そして、次第に怒りで眉間にしわが寄ってくる。クラウンの行動はわかってた......わかってたからこそ、その行動を止められなかった自分に腹が立つ。
「「「「「!!!」」」」」」
するとクラウン達の足元に魔法陣が浮かび上がった。そして、クラウン達を包み込むように光を放つとその光が消えた時にはなぜかゴブリンの死体が遠くにあった。そのことに全員が思わず目を見開く。
「もう一度やる。お前たちは見てろ」
クラウンは再びゴブリン達に向かうと先ほど子犬はやってきた。この場に先ほどの子犬の死体はない。となるとあの森の神殿にいたリザードマンと同じようなものだろう。
それからその子犬が向かって来るともう一度殺した。すると再び魔法陣が足元に現れる。咄嗟に動いてみるが、その魔法陣も動いて逃れることは不可能。そして、また消えて、気づけば近くにリリス達がいる。そのことでリリスはあの石碑の言葉を理解した。
「なるほど、あの石碑の『先に進めない』って意味はこういう事だったのね。要するに私たちは弱いまま、あの子犬を護りながら最下層へと向かわなければならないってことね」
「チッ、めんどせぇ」
クラウンはリリスの言葉に納得しながらも思わず感じた愚痴を吐いた。そんな感情のクラウンにリリスとベルは同感の目を向ける。
現在、この三人は自分達のことでも精一杯なのだ。それに加え護らなければならないことが増えるなど考えてもいなかった。兵長とロキにカバーに入ってもらうとしても限界はある。しかも.......
クラウン達は歩いていくと再び子犬にあった。そして、気にせず歩いていくと子犬も襲ってくることもなくついてくる。するとしばらくしたところで目の前に再び魔物が現れた。
「キャン!」
「おい、何をする気だ」
その瞬間、子犬がクラウン達を護ろうと目の前に立ち魔物に突っ込んでいく。そして......一撃で殺された。クラウンが止めに行く間もなく、まさに一瞬の出来事であった。その光景に他の3人も呆けた顔をする。それからそんな顔をしたままスタートラインに戻された。
「あのクソ犬があああああ!」
クラウンは思わず叫んだ。その気持ちは全員がわかった。なんせそこそこ歩いた距離を全部チャラにさせられたのだから。とはいえ、あの子犬に八つ当たりをしていれば先に進むことは出来ない。そのためクラウンのストレスが高まっていく。
「ロキ、ゴーよ!」
「ウォン」
「おい、なにしやが......る」
リリスはクラウンに向かってロキを向かわせた。その指示に従ったロキはクラウンにモフモフアタックを仕掛ける。その攻撃にクラウンは避けることが出来ずに沈黙した。そして、やがてロキを撫で始める。そのことにリリスは一先ず安堵の表情を浮かべた。
やはり、今のクラウンに有効なのはまだロキだけらしい。まあ、これは仕方がない。信用は一朝一夕では作れないもの。だから、別に悔しくなんてない。どうせ時間の問題だし、サキュバスに落とせない男なんていないし。だから、ベル?あんたも自分の尻尾を見ながら悲しそうな顔をしないの。ロキちゃんは同じモフモフでは強敵だけど、ベルの尻尾も負けてないわ。
「とりあえず行くぞ。何があってもあのクソ犬を最優先だ。もう戻るわけにはいかない」
そう言ってクラウン達は歩き出した。それからの探索は実に酷いものであった。クラウン達はやっとのことで下に向かう階層を見つけるとそこで奇襲にあった。そこで子犬がクラウン達を庇おうと前に出て死亡。スタートからやり直し。
そして、その階層で2回やり直すと次の階層で落とし穴に子犬だけ嵌り、やり直し。そこはトラップ階層のようで10回は子犬だけが死んでやり直した。
その次の階層は魔物増殖階層。早く通らなければその階層が魔物で溢れかえるというものであった。そこで子犬が無駄に(戦おうと)頑張りを見せて死にまくりスタートに戻される。その間に何度クラウンが発狂して、ロキのモフモフアタックが出動したことか。だが、それでも足りない時にはベルの尻尾が役に立った。ベル本人はそのことには大満足であったらしい。
それからというのもその子犬のトリッキーな動きで死にまくり&やり直しまくりのクラウンのストレス爆発しまくりでそれはそれは大変であった。クラウンの気持ちがわかるのか全員が否定できないところがなんとも言えないところであった。
そして、どれだけ下りたかもわからない階層に来ると不意に力が湧き上がってくるのを感じた。そして、ふと後ろを振り返ると子犬が階段から降りようとせず、上から見下ろすようにこちらを見ている。すると声が響いた。
『試練成功。能力を解除します』
「やっと終わったか......」
「もうやだぁ.......」
「疲れたです......」
「さすがに体に響くの......」
「クウン(お腹空いた)......」
全員が全員、疲れた顔をしながらその場で立ち止まった。もう何が何だか覚えていない。覚えだす気もないが。そして、そこで充分に休憩すると再び歩き出す。
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