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第2章道化師は進む

第33話 突入

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修行が終わってから数日後、クラウン達は再び王の間へと呼び出されていた。その目的は決まっている、神殿のことだ。クラウン達が向かうとなれば、当然神殿に住む巨獣は反応する。それを踏まえて獣王国がわかっている情報を全て提示するためだ。

「いいか?神殿の前には1体の獣の像がある。それが生贄を食う巨獣の正体だ。だが、それはその巨獣の。あくまで魔力を媒体として分身のように繋がっているだけで、こちらからアクションをかけなければ反応することはない。そのアクションをしなければ、その獣の像にだって触れる」

「なら、なぜそんな説明をする必要がある?」

 クラウンの疑問は最もだった。その獣の像が分身であって、近づいても、触っても反応しないならその像を無視して神殿に侵入すればいいだけだ。分身と無駄に戦って魔力を消費することもない。本体を倒してしまえば、分身は消えるのだから。

 するとリリスがその言葉に付け足すようにクラウンに説明し始める。

「多分覚えてないでしょうけど、神殿には全て結界が張られているの。そして、それを解除しなければ、神殿に入ることは出来ない。この獣王の説明は酷く回りくどいけど、察するに獣王が言っていた『アクション』っていうのはおそらく結界の解除のことで結局は戦わなければならないというわけよ」

「なるほど、そういう事か」

 クラウンはリリスのわかりやすい説明ですぐに理解することが出来た。いわば、得意ジャンルであることを。一方、獣王はナチュラルにディスられて若干落ち込んでいるが、一回咳ばらいをして気を取り直すと姿勢を正した。

「一度でも結界を解除して戦闘行為をしてしまったならそれで最後だ。この国はその巨獣と完全に敵対したことになる。だが、そんなものは今更だ。とっくの昔から敵同士で、生贄を捧げるようになったのは成り行きでしかない。だから、今一度言おうこの国の運命を託した」

 そう言うと獣王を筆頭にこの場にいる全員が頭を下げた。言葉通りの姿勢だ。それを見てクラウンは答えることはなかった。ただ「なぜこいつらはこう簡単に人を信じられて、命を他人に預けられるのか」とは思ったが。

 すると兵長がどこか考えているような目をしてるクラウンに告げた。

「獣王様達はなにも考えなしにこの国を託したわけでないことはわかっておるな?獣王様達にとって、いやこの国にとって力の強さは信用にあたる。それを託せるぐらいの肉体と精神の強さがあるということじゃからの。この国を託したクラウン君はそれほど力がある信用できるという事じゃ」

「相手が悪人であってもか?」

「それぐらいの倫理観は獣王様達ももっているじゃろう。そして、託されたという事はクラウン君の内面も信用に値すると判断したのじゃ」

「どうかしてるな」

 クラウンはそう言うと獣王達に頭がおかしい人を見るような目で見た。そんなクラウンを横目にリリスはため息を吐く。自覚があるならもう少し愛想よくして欲しいものだ。......ちょっとベル、どうしたの?「カッコいい」とかじゃないから、そのキラキラした目を向けるのはよしなさい。

―――――――神殿の祭壇前

 クラウン達は神殿の入り口付近へとやって来た。その目の前に広がる光景は森で見た神殿とは若干違うデザインをしながらもきれいに整った形をしており、そしてその神殿の入り口のすぐ横にはまさに石の像といった獣がおり、座った姿勢のままピクリとも動かない。それから入り口の前には階段状になって周囲よりも高くなっている祭壇があった。

「ジジイもついてくる気か?」

「そりゃあの、孫娘を放っておくわけにはいかんし。安心せい、邪魔はせんから」

「当たり前だ。そんなことをしてみろ、すぐに殺すぞ」

「物騒じゃの」

 そう言いながらも兵長は快活そうに笑った。言っていることは脅迫そのものなのに一体どこに笑う要素があるというのか。あの真実を聞いてから、なぜかこんな調子だ。そして、やたらとベルとことを済まさせようとしてくる。正直言って、腹立たしくて仕方がない。さっさとくたばれ、クソジジイ。

 クラウンは睨みつけるように兵長を一瞥すると今度はリリスに話しかけた。

「ベルはなぜ巫女の衣装を着ている?」

「あれがこの結界を解除する時の正装らしいわよ。それから生贄の時のね。それとは別にベルも個人的にあの赤と白だけで表された清廉な衣装が好きらしいのよ。その昔、この国には戦う巫女がいたっていう伝承があったらしいのよ。でも、その巫女専用の戦う技術が失われて今は戦えなくなってしまったらしいわ」

「そんなことをなぜ知っている?」

「母さんから教えてもらったことよ」

 「また母親か......」と頭を悩ませるクラウン。一体何者なのか。生きているのか死んでいるのか。魔族なのかそうでないのか。クソッ、どんどん気になってきやがる。もし会った時「これがサキュバスのやり方」とかほざきやがったら、青あざが出来るほど殴ってやる。

 するとベルが一人階段を上って祭壇に立つ。そして、そこで裾から扇子のようなものを取り出すと神楽舞いのような踊りを始めた。

「~~~~♪」

 ベルはなにかを歌いながらゆったりと動いていく。言っている言葉はまるで日本語の古文のように古い言葉が使われているのか時折言っている言葉がわからない。だが、その言葉に反応するように神殿前の空間が揺らいでいき、獣の像に亀裂が入っていく。それからその舞いが続いていくたびに揺れは大きくなり、亀裂は大きくなっていく。

 そして―――――――――

「ウォ――――――――――」

 空間がガラスを割ったような音を響かせたと同時に一匹の獣が高らかに吠えた。大きさにして10メートルぐらいか。その巨獣は獅子のような姿をしており、祭壇にいるベルへと近づいていく。そして、ベルを食わんと大きな口を開けた瞬間、ベルはサッと腕を振って袖から取り出した短剣をその口に投擲した。

「ウガァ!」

 その短剣は喉へと突き刺さり、巨獣は思わずうめき声を上げ後ずさる。その隙を逃さないベルではない。ベルは感情のない瞳をその巨獣へと向けると祭壇から跳び出して、さらに袖から取り出した短剣を両手で掴み巨獣の頭へと突き刺す。

 巨獣はその痛みに頭振りながらベルを振り落とそうとする。そして、ベルが自身の頭から離れて空中にいるのを確かめると爪を薙ぎ払った。だが、それはベルが空中を蹴ることで避けられた。

「どこ見ている雑魚が」

「ガアアア!」

 クラウンはその巨獣にできた隙に潜り込むと地面につけている前足を切り落とした。その攻撃によって巨獣はバランスを崩し、地面に倒れようとする。そこにクラウンは頭を蹴飛ばすことで、巨獣の体を空中へと跳ね上げた。

「可愛くないわね。ロキちゃんの方が愛想があるわ」

「ウガァ!」

 するとクラウンの後方からリリスが走ってきてその巨獣に向かって跳んだ。そして、その巨獣の腹部に向かって何十発もの蹴りをぶち込む。それから、風魔法で自身を巨獣の上へと上げると<嵐旋>で蹴り落として地面へと頭から叩きつける。

「儂も少しは活躍しようかの......光槍」

「ウオオオオォォォォ!」

 兵長は右手を頭上へと上げると複数本の光でできた槍を地面に伏している巨獣に向かって突き刺していく。その光は巨獣の肉を焼いていき、巨獣は苦痛の声を上げた。

「ウォン」

「ウオガァ―――――――――――!」

 そして、ロキがトドメの一発とばかりにその巨獣に<雷咆>を放った。するとその巨獣は断末魔のような声を上げながら、動かなくなった。その光景を見ていた獣王と兵士達は口をあんぐりとさせる。自分達が倒すことも出来ずにいた巨獣がこれほどまでに簡単に倒されるとは思ってもいなかった。

 だが、これで神殿の内部へと侵入するために犠牲になった兵士達も報われるし、より信用することが出来た。これはいけるかもしれない。

 クラウンはそんな獣王を一瞥すると「行くぞ」と声をかけ、神殿へと入っていった。

――――――――神殿内部

 クラウン達は入るとすぐに魔物の群れに襲われたが、さもありなんといった感じですぐに切り伏せていく。「この程度か」というクラウンの言葉もいつも通りだ。そして、それに対してリリスがため息を吐くのもいつも通りだ。

「ジジイ、このの内部の最短ルートはないんだよな?」

「すまんの、あっても5階層ぐらいしかない。今倒した魔物であっても苦戦をしいられたようだしの。あ、言うておくが、その兵士達が弱いんじゃないからなクラウン君たちがおかしいだけだからな」

 兵長はクラウン言いそうなことを想定して言葉を続けた。それは図星だったのかクラウンは睨むように一瞥するだけで「さっさと下りるぞ」と言って歩みを進めていく。

 それから5階層を突破して、途中亀裂の入った床を破壊して20階層までショートカットした。

「そのな、儂は人間であっても今はこの国の民の一人じゃ。じゃから、そう神殿を無下にされると.....」

「神殿の保全と巨獣を殺すことどっちが大事だ。お前らはずっと苦しめられてきたからこの機会に俺に頼んできたんだろうが。優先順位を間違えるな」

「まあまあ、クラウンも落ち着きなさい。そうではあるけど、それぐらいできないあんたでもないでしょ?なら、やってあげてもいいんじゃないの?」

「......はあ、仕方ない」

 リリスはクラウンをフォローしながらも的確に誘導した。そして、クラウンのストレス値を下げるようにロキのモフモフ毛並みアタック。そのリリスの言葉とロキの行動にクラウンはため息を吐きながらも同意する。どうやらリリスもクラウンの扱いが上手くなってきたようだ。まあ、たとえまだ数ヶ月しか経ってなかろうとあそこまで濃い体験をしたならば、クラウン猛獣の扱いも上手くなろう。

 すると目の前に大きな空間と入り口とそのすぐ横に言葉が書かれた石碑があった。そして、それに書かれていたことは......

『順に倒せ。さもなくば無数の敵が主らを襲う』

 であった。この文にリリスは思わず疑問の声を上げる。

「順に倒せ?何がよ?」

「それが分かっては意味がないだろう。ここはあの森と同じ神殿ならば試練の意味を成しているのだからな。行けば、わかる」

 クラウンはそう言って歩き出す。その頼もしさを全員が感じながら後に続いた。
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