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第2章道化師は進む
第31話 過去の記憶(ベル)
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「主様、お疲れです」
「お前もしつこいな」
数日間の修行を経て、ついに感情のコントロールを習得して休憩のため座っているクラウンはタオルと水を持ってきたベルに声をかける。ベルはクラウンの修行終わりに毎回タオルを持ってきていたのだが、クラウンはその全てを拒絶した。
そして、完全に修行が終わった今、改めてベルのその行動に対して苦言を呈した。だが、言われたベルはさもありなんといった顔でクラウンに言い返す。
「これも駒の仕事の一つです。主様は命令しなくても動ける駒を所望していたです。ですから、これは私なりに考えた結果です。主様もそっちの方が楽でいいと思うです」
「......そのしつこさは余計だと思うがな」
そう言いつつもクラウンは初めてベルからタオルと水を受け取った。そして、水を頭に思いっきりかけるとタオルで顔を拭く。ベルはそんなクラウンの仕草を見て頬をほんのり染めながら魅入った。
リリスも見たことがない前髪が上がった顔に鋭い目つき、水も滴るいい男状態となっているクラウンに加え、位置的に座っているクラウンの胸元から見えるたくましい胸板とエロティックな鎖骨、それから男の強さを示すような太い首、それからそれから服越しにもわかる隆起した肩甲骨、さらに.......。
ベルの視線は段々と獲物を狙うかのような目になっていった。それは仕方ない、だってこの筋肉がとても魅了的なのだから。なので、もう感情が隠しきれてないほど尻尾が大きく揺れてしまっているがそれも仕方ないことだ。
「拗らせんな、エロ狐」
「はっ!......これは主様に調教されたです。主様が私をこんな風に染め上げたです。主様の筋肉が魅了的すぎるのがイケないです」
「ふざけんな。俺がいつお前をそんな風に仕立て上げた。あれはお前が勝手に扉を開いただけだろうが。俺のせいにするんじゃねぇ。というか、見んじゃねぇ」
「その筋肉を示してくれたのは主様と出会ったからです。それに、見ます!」
「堂々と宣言すんじゃねぇ......はあ.......」
クラウンは思わず疲れたため息を吐いた。一体どこをどう間違えたら俺が拾ってきた獣人が筋肉フェチになるのか。いや、一応原因はわかっている。わかっているが......あれはさすがに俺のせいじゃないだろう。俺がベルの接近を許したのもあるが、まさかああなるとは思うまい。
クソ、めんどくせぇ。魔力も戦闘能力も魔法も申し分ない、なのになぜそこで変に癖が強くなるのか。リリスだってそうだ。あいつも戦闘中に興奮してくると女王様モードに入る。まあ、実質的な被害はないのでまだいいが、あれも考えようだろう。
はあ......なぜだ、なぜ俺の近くには変態が集まる。......そうだな、次良い駒を見つけたら絶対まともで従順な奴にしよう。それがドMであることはあって欲しくない。
「で、用はそれだけか?」
「さすが主様わかっているです。実は私の過去について軽くお話したいと思っていたです。興味はないと思うですが、聞いてくださいです」
クラウンは言おうとしていた言葉をベルに先に言われて思わず押し黙る。しかし、なぜそれほどまでに過去を俺に話したがるのか。それは本来どんな程度であっても自分から話そうとは普通思わないはずだ。それにベルの過去はあのジジイの話を聞く限り重い話である可能性が高い。
「なぜそんな話をしようと思った?俺を信用しているとでもいうのか?」
「その通りです。私は主様を信用しているからこそ聞いて欲しいです」
「......」
クラウンにはわからなかった。なぜそんな簡単に人を信用できるのか。クラウンは自身で自覚している自分は信用できるような人間ではないと。邪魔をすれば容赦なく殺し、使えそうと思ったら容赦なく利用し、目的のためなら手段を選ばない。この人物を目の前にして一体誰が信用しようか。いや、目の前にいるのはわかっている。なら、こいつは「普通」ではないのだろう。そうとしか考えられない。
「まあいい、聞いてやる。話せ」
「はい、わかったです」
そうしてベルはクラウンの横に座るとゆっくり話始めた。
ベルは物心がつくとすぐに城の離れへと隔離された。もちろん、その当時のベルはそのことに納得することはなかった。見たい、聞きたい、知りたいことだってあったし、仲良くなった友達とも遊びたかった。けど、それは理不尽かつ残酷な理由で拒絶された。
『あなたは15歳になったら、この国ために死ぬのよ。もう死ぬと分かっている子に与えるものなんて何もないわ』
それが隔離された時にベルのお世話係が一番最初に言った言葉で、一番最後に話した会話。若干4歳にして訪れた虚無に等しい時間。聞こえてくることもなければ、新たに知りえることもない。隔離の部屋にはベット以外何もなく自ら何かを始めることも出来ないし、勉強を強要されることもない。
当然、友達との交流も減り、駄々をこねる相手もいなければ、世話係は話しかけても一切なにも答えない。ただ、毎日決まった時間に食事を運んで、決まった時間に入浴し、決まった時間に寝て、また次の虚無を迎える。
退屈と呼ぶにはあまりにも相応しくない何もない時間を少女を襲った。普通なら子供ながらに発狂しても構わないものであろう。だが、それはベルのもともとの特性故か、それとも先祖返りの血が影響しているのか、はたまた別の何かか。それはわからないが、そんな中で唯一の楽しみは一つあった。それは窓から街の風景を眺めること。
街の風景は全く変わり映えのない、これからもないであろうこの部屋と比べれば何倍も嬉しかった。なんせ一秒一秒人が、木が、生き物が動いているからだ。それだけが止まっている自信の時間を動かしているような気がした。これだけが自分が人形でないと信じられるものであった。だから、晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、風が強い日でもベルは変わらず見続けた。
そして、そのまま数年の時が過ぎた。先祖返りの影響か身長は10歳ぐらいから伸びなくなった。だが、不便なことは何もなかった。そもそも不便になるようなものがないから。そんなある日、ベルに大きな転機が訪れる。
それはいつも通り窓から街の風景を眺めているとふと城の内部が騒がしいことに気づいた。「随分と珍しいことがあったな」と思ったがそこまで気にすることもなく、窓へと目線を戻すと目の前に人の逆さになった顔があった。
だが、あまりに何もなさ過ぎて感情というものもほとんど育たなかったためかリアクションもなく、ただ疲れているのかとベットに戻った。すると窓の外側に張り付いていた人物は窓から侵入してベルへと話しかけた。
『おいおい、リアクションなしかい!?』
『ん?ああ、誰です?』
『適当だな......まあいいっか。なあ、オレを匿ってくれねぇか?』
そうして話していくとどうやらこのボーイッシュな女性はこの城にお宝を求めて入り込んだ盗人らしい。だが、そんなことはベルには関係なかった。数年ぶりの会話、ただそれだけが楽しかった。だから、この女性を隔離することにした。女性も逃げるのと隠れるのは得意らしく。お世話係にもバレることはなかった。それからその女性はベルにたびたび会いに来てくれるようになった。それも本を持って。
ベルは楽しい日々を過ごした。今までの不幸が全て幸福となって巡って来たみたいに。ベルはその女性とたくさん話し、いなくなれば女性が持ってきた本を読んだ。ベルはその日起きたこと全てを大事に心にしまうように記憶していった。
だが、無情にも時は満ちた。それはベルが15歳になったということ。そして、15歳になると同時にベルの生贄日時が決まった。ベルはそのことをその女性に話した。この関係を終わらせ、感謝の言葉を伝えるために。するとその女性はベルににこやかな笑みを見せ、そっと頬に触れた。
『オレに全て任せとけ』
そう言うとベルは何かを嗅がせられそのまま気絶した。そして翌日、目覚めた時にはベルはなぜか大きくなっていた。それも見覚えのある姿に。そして、鏡を見るとベルはその女性そのものになっていた。しかも、声も同じに。
ベルはなぜこうなったか全ての記憶を探った。そして、昨日の言葉と過去に女性が話した自身の覚醒魔法【嘘か真か】のことを思い出した。その魔法は手で触れた相手と任意で体の姿を変えることが出来、それは大きさによらない。また、相手の姿を変えることも出来る。
その瞬間、ベルは嫌な予感が過って神殿に向かって走り出した。これが初めての脱走であった。ベルは迷いながらもこの国の地図を思い出して兵士に追われながらもとにかく走った。そして、辿り着いた時にはもう生贄の祭壇にベルの姿をした女性が体が動かないように縛られていた。
ベルは兵士に体を取り押さえられようとも必死にその女性に向かって叫んだ。だが、その女性はなにも答えることもなくただ満足そうな笑みを浮かべて後方にいるベルを見る。目の前にはまさに化け物と言ってもいい巨獣がいるのにもかかわらず。そして、その女性はベルに向かって言う。
『好きに生きろよ』
その瞬間、ベルの目の前で女性は食われた。ベルは放心状態になりながら兵士達に運ばれる。そして、ある程度運ばれたところでその女性の命が完全に尽きたことを示すように魔法が解除され元の姿に戻った。だが、未だに放心状態には変わりない。
『ルミエ、気づいているか?』
その言葉に反応したベルは気づくと森の中にいた。そして、ベルを運んだ兵士二人は1,2度会ったことのある伯父と叔母であった。
「......それからはじいじが話してくれた通りです」
「お前はあのジジイのこと気づいてたのか?」
「はい。ですが、すぐに口止めさせられたですが......」
まあ、それはベルとあのジジイの関係を他にバレないようにするためだったのだろう。だが、それがバレた今、ベルは俺に話したのか。しかし、そんなことはどうでもいい。俺が聞きたいことは一つだけ。
「お前はその神殿に住むという化け物に復讐したいか?殺したいか?」
「はい、殺したいです」
ベルはクラウンの言葉に迷いなく言った。そのことにクラウンはニヤついた笑みを浮かべ、瞳をギラギラとさせるとベルの目に合わせるように姿勢を屈めた。その目にベルは思わず見惚れる。
「お前の覚悟は伝わった。俺に任せろ。俺がお前の復讐を叶えてやる」
「......はい!」
「......!」
ベルは嬉しさの衝動を抑えきれず思わず抱きついた。そして、とめどなく涙が溢れてくる。その優しさが、温かさが、心強さが心に染みて仕方がない。ベルはそのまま初めての涙を止めることもなく泣きじゃくった。クラウンは戸惑った表情をしながらもその行為をただ何もせず黙って受け入れた。
「お前もしつこいな」
数日間の修行を経て、ついに感情のコントロールを習得して休憩のため座っているクラウンはタオルと水を持ってきたベルに声をかける。ベルはクラウンの修行終わりに毎回タオルを持ってきていたのだが、クラウンはその全てを拒絶した。
そして、完全に修行が終わった今、改めてベルのその行動に対して苦言を呈した。だが、言われたベルはさもありなんといった顔でクラウンに言い返す。
「これも駒の仕事の一つです。主様は命令しなくても動ける駒を所望していたです。ですから、これは私なりに考えた結果です。主様もそっちの方が楽でいいと思うです」
「......そのしつこさは余計だと思うがな」
そう言いつつもクラウンは初めてベルからタオルと水を受け取った。そして、水を頭に思いっきりかけるとタオルで顔を拭く。ベルはそんなクラウンの仕草を見て頬をほんのり染めながら魅入った。
リリスも見たことがない前髪が上がった顔に鋭い目つき、水も滴るいい男状態となっているクラウンに加え、位置的に座っているクラウンの胸元から見えるたくましい胸板とエロティックな鎖骨、それから男の強さを示すような太い首、それからそれから服越しにもわかる隆起した肩甲骨、さらに.......。
ベルの視線は段々と獲物を狙うかのような目になっていった。それは仕方ない、だってこの筋肉がとても魅了的なのだから。なので、もう感情が隠しきれてないほど尻尾が大きく揺れてしまっているがそれも仕方ないことだ。
「拗らせんな、エロ狐」
「はっ!......これは主様に調教されたです。主様が私をこんな風に染め上げたです。主様の筋肉が魅了的すぎるのがイケないです」
「ふざけんな。俺がいつお前をそんな風に仕立て上げた。あれはお前が勝手に扉を開いただけだろうが。俺のせいにするんじゃねぇ。というか、見んじゃねぇ」
「その筋肉を示してくれたのは主様と出会ったからです。それに、見ます!」
「堂々と宣言すんじゃねぇ......はあ.......」
クラウンは思わず疲れたため息を吐いた。一体どこをどう間違えたら俺が拾ってきた獣人が筋肉フェチになるのか。いや、一応原因はわかっている。わかっているが......あれはさすがに俺のせいじゃないだろう。俺がベルの接近を許したのもあるが、まさかああなるとは思うまい。
クソ、めんどくせぇ。魔力も戦闘能力も魔法も申し分ない、なのになぜそこで変に癖が強くなるのか。リリスだってそうだ。あいつも戦闘中に興奮してくると女王様モードに入る。まあ、実質的な被害はないのでまだいいが、あれも考えようだろう。
はあ......なぜだ、なぜ俺の近くには変態が集まる。......そうだな、次良い駒を見つけたら絶対まともで従順な奴にしよう。それがドMであることはあって欲しくない。
「で、用はそれだけか?」
「さすが主様わかっているです。実は私の過去について軽くお話したいと思っていたです。興味はないと思うですが、聞いてくださいです」
クラウンは言おうとしていた言葉をベルに先に言われて思わず押し黙る。しかし、なぜそれほどまでに過去を俺に話したがるのか。それは本来どんな程度であっても自分から話そうとは普通思わないはずだ。それにベルの過去はあのジジイの話を聞く限り重い話である可能性が高い。
「なぜそんな話をしようと思った?俺を信用しているとでもいうのか?」
「その通りです。私は主様を信用しているからこそ聞いて欲しいです」
「......」
クラウンにはわからなかった。なぜそんな簡単に人を信用できるのか。クラウンは自身で自覚している自分は信用できるような人間ではないと。邪魔をすれば容赦なく殺し、使えそうと思ったら容赦なく利用し、目的のためなら手段を選ばない。この人物を目の前にして一体誰が信用しようか。いや、目の前にいるのはわかっている。なら、こいつは「普通」ではないのだろう。そうとしか考えられない。
「まあいい、聞いてやる。話せ」
「はい、わかったです」
そうしてベルはクラウンの横に座るとゆっくり話始めた。
ベルは物心がつくとすぐに城の離れへと隔離された。もちろん、その当時のベルはそのことに納得することはなかった。見たい、聞きたい、知りたいことだってあったし、仲良くなった友達とも遊びたかった。けど、それは理不尽かつ残酷な理由で拒絶された。
『あなたは15歳になったら、この国ために死ぬのよ。もう死ぬと分かっている子に与えるものなんて何もないわ』
それが隔離された時にベルのお世話係が一番最初に言った言葉で、一番最後に話した会話。若干4歳にして訪れた虚無に等しい時間。聞こえてくることもなければ、新たに知りえることもない。隔離の部屋にはベット以外何もなく自ら何かを始めることも出来ないし、勉強を強要されることもない。
当然、友達との交流も減り、駄々をこねる相手もいなければ、世話係は話しかけても一切なにも答えない。ただ、毎日決まった時間に食事を運んで、決まった時間に入浴し、決まった時間に寝て、また次の虚無を迎える。
退屈と呼ぶにはあまりにも相応しくない何もない時間を少女を襲った。普通なら子供ながらに発狂しても構わないものであろう。だが、それはベルのもともとの特性故か、それとも先祖返りの血が影響しているのか、はたまた別の何かか。それはわからないが、そんな中で唯一の楽しみは一つあった。それは窓から街の風景を眺めること。
街の風景は全く変わり映えのない、これからもないであろうこの部屋と比べれば何倍も嬉しかった。なんせ一秒一秒人が、木が、生き物が動いているからだ。それだけが止まっている自信の時間を動かしているような気がした。これだけが自分が人形でないと信じられるものであった。だから、晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、風が強い日でもベルは変わらず見続けた。
そして、そのまま数年の時が過ぎた。先祖返りの影響か身長は10歳ぐらいから伸びなくなった。だが、不便なことは何もなかった。そもそも不便になるようなものがないから。そんなある日、ベルに大きな転機が訪れる。
それはいつも通り窓から街の風景を眺めているとふと城の内部が騒がしいことに気づいた。「随分と珍しいことがあったな」と思ったがそこまで気にすることもなく、窓へと目線を戻すと目の前に人の逆さになった顔があった。
だが、あまりに何もなさ過ぎて感情というものもほとんど育たなかったためかリアクションもなく、ただ疲れているのかとベットに戻った。すると窓の外側に張り付いていた人物は窓から侵入してベルへと話しかけた。
『おいおい、リアクションなしかい!?』
『ん?ああ、誰です?』
『適当だな......まあいいっか。なあ、オレを匿ってくれねぇか?』
そうして話していくとどうやらこのボーイッシュな女性はこの城にお宝を求めて入り込んだ盗人らしい。だが、そんなことはベルには関係なかった。数年ぶりの会話、ただそれだけが楽しかった。だから、この女性を隔離することにした。女性も逃げるのと隠れるのは得意らしく。お世話係にもバレることはなかった。それからその女性はベルにたびたび会いに来てくれるようになった。それも本を持って。
ベルは楽しい日々を過ごした。今までの不幸が全て幸福となって巡って来たみたいに。ベルはその女性とたくさん話し、いなくなれば女性が持ってきた本を読んだ。ベルはその日起きたこと全てを大事に心にしまうように記憶していった。
だが、無情にも時は満ちた。それはベルが15歳になったということ。そして、15歳になると同時にベルの生贄日時が決まった。ベルはそのことをその女性に話した。この関係を終わらせ、感謝の言葉を伝えるために。するとその女性はベルににこやかな笑みを見せ、そっと頬に触れた。
『オレに全て任せとけ』
そう言うとベルは何かを嗅がせられそのまま気絶した。そして翌日、目覚めた時にはベルはなぜか大きくなっていた。それも見覚えのある姿に。そして、鏡を見るとベルはその女性そのものになっていた。しかも、声も同じに。
ベルはなぜこうなったか全ての記憶を探った。そして、昨日の言葉と過去に女性が話した自身の覚醒魔法【嘘か真か】のことを思い出した。その魔法は手で触れた相手と任意で体の姿を変えることが出来、それは大きさによらない。また、相手の姿を変えることも出来る。
その瞬間、ベルは嫌な予感が過って神殿に向かって走り出した。これが初めての脱走であった。ベルは迷いながらもこの国の地図を思い出して兵士に追われながらもとにかく走った。そして、辿り着いた時にはもう生贄の祭壇にベルの姿をした女性が体が動かないように縛られていた。
ベルは兵士に体を取り押さえられようとも必死にその女性に向かって叫んだ。だが、その女性はなにも答えることもなくただ満足そうな笑みを浮かべて後方にいるベルを見る。目の前にはまさに化け物と言ってもいい巨獣がいるのにもかかわらず。そして、その女性はベルに向かって言う。
『好きに生きろよ』
その瞬間、ベルの目の前で女性は食われた。ベルは放心状態になりながら兵士達に運ばれる。そして、ある程度運ばれたところでその女性の命が完全に尽きたことを示すように魔法が解除され元の姿に戻った。だが、未だに放心状態には変わりない。
『ルミエ、気づいているか?』
その言葉に反応したベルは気づくと森の中にいた。そして、ベルを運んだ兵士二人は1,2度会ったことのある伯父と叔母であった。
「......それからはじいじが話してくれた通りです」
「お前はあのジジイのこと気づいてたのか?」
「はい。ですが、すぐに口止めさせられたですが......」
まあ、それはベルとあのジジイの関係を他にバレないようにするためだったのだろう。だが、それがバレた今、ベルは俺に話したのか。しかし、そんなことはどうでもいい。俺が聞きたいことは一つだけ。
「お前はその神殿に住むという化け物に復讐したいか?殺したいか?」
「はい、殺したいです」
ベルはクラウンの言葉に迷いなく言った。そのことにクラウンはニヤついた笑みを浮かべ、瞳をギラギラとさせるとベルの目に合わせるように姿勢を屈めた。その目にベルは思わず見惚れる。
「お前の覚悟は伝わった。俺に任せろ。俺がお前の復讐を叶えてやる」
「......はい!」
「......!」
ベルは嬉しさの衝動を抑えきれず思わず抱きついた。そして、とめどなく涙が溢れてくる。その優しさが、温かさが、心強さが心に染みて仕方がない。ベルはそのまま初めての涙を止めることもなく泣きじゃくった。クラウンは戸惑った表情をしながらもその行為をただ何もせず黙って受け入れた。
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