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第2章道化師は進む
第30話 乙女の会話
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「まだじゃの、まだ殺気が漏れ出ておる。その感情の高ぶりは持ったままでいい。それを外に出さないように抑え込むのじゃ」
「わっかってんだよ、クソジジイがぁ!」
クラウンは半ギレになりながら、兵長に突っ込んでいくが模擬戦の時より簡単に攻撃が躱されていく。おそらくそれが殺気が漏れ出ている証拠なのだろう。思考ではわかっている。だが、体がその意思に反して衝動的に動いていく。それがどうしようもなく腹立たしかった。
これをクリアできれば少しだけ強くなれる。その少しが重要なのだ。あの人形モドキと戦っている時もその少しでもう少し余裕をもって戦えていたかもしれない。
そんなクラウンの修行光景を見ていた二人と一匹はクラウンのことについて話始める。
「主様、頑張っているです」
「そうね。あの感情の素直さをもう少し私達にも向けてくれるとこっちとしてもありがたいのだけどね」
「それは仕方ないです。それだけ主様の憎しみが強いですから。私達が少しずつその心に寄り添っていくほかないです。今の主様にはそれを感じ取れるだけの余裕がないです。だから、案外もう少し強引でもいいかもしれないです」
「ウォン」
ベルの言葉にロキが元気よく同意するように一つ吠えた。そんなロキの反応が嬉しかったのかベルはロキのモフモフの毛並みに顔をうずめた。一方、リリスはあまり浮かない顔をしている。それはベルの言葉にある。
確かにベルの言っていることは最もだし、出来ればそう行きたいと自分自身も思っている。だが、「出来れば」と思ったのはそれはあくまでクラウンの地雷を踏まないことだ。私とベルはそれぞれ一度、クラウンの地雷を踏んでこの関係が崩れかけたことがある。そして、幸いにも今のような関係に戻ったが、二度目はさすがにわからない。
クラウンはまだロキちゃん以外の私達を信用していない。それは人だからというのもあるが、きっとクラウン自身でも信じていいのか迷っているのだ。だから、クラウンはあの獣王様の行動に戸惑いを見せた。
大方信用したいが、信用できないといったところか。だから、私達への態度も出会った当初の方が自分にとっても楽だから変えないのだろう。まあ、急にデレられても戸惑うのはこっちだが。
「それにしても信用ってどうしてこうも時間がかかるのかしらね。こうどこかに信用スイッチとかあれば楽なのに」
「確かにあれば楽ですが、そんな信用はリリス様が信じられるです?私はそんな紛いもののような信用はこっちが信用できないです。それがたとえ相手が本気だったとしてもです」
「そうね、私が悪かったわ。信用って普通は相手の性格、思考、言動、感情とかそんなものを時間をかけて見定めていくものよね。私が言ったそれはただの動くものでしかないわ。私が命令して実行してくるだけの存在のもの。それは信用というより洗脳ね」
「はい、ですから主様は私に隷紋を施さなかったんだと思うです。主様は面倒と言っておらたですが、同時に『意思のある駒の方がいちいち命令しなくて何かと楽だからな』と言ってたです。これは私を信用したいという心の部分の表れだと思うです」
「今のクラウンはそんな葛藤が常に繰り広げられているという事ね。全くクラウンじゃなきゃ持たなそうなことね。私だったらすぐに精神がやられてしまうわ」
まあ、きっとその信用という葛藤の中に悪意という一番禍々しいものも含んでいるのだろうけど。正直、それだけは今の私達に止める手段はない。信用してくれているならやりようもあるけど、その信用が確立していない今は黙って暴走を見届けるか、その行動に同調してあげるほかない。今は私はクラウンと似たような目的があるからそういう行動ができるんだけど、ベルの方はそうはいかないだろう。
ベルはあくまでもクラウンの駒として今ここにいるだけで、クラウンに強制特訓させられたそうだがそれだけで強くなれたとはさすがに考えにくい。もともと外に出ることすら強制されていたベルが戦い方なんて分かるはずないし。
だが、クラウンから聞いた情報によると短剣一本で1週間の魔物の森から生き残ったらしい。一体クラウンは女の子になんてことをさせているのかはさておき、どうやって生き残ったのかは知りたいところだ。
「ねぇ、ベル。話は変わるけど、クラウンがさせたサバイバルをどうやって生き残ったの?」
「私はもともと読書家だったです。なんせあまりにも何もなくて時間だけが有り余ってたですから、そこでありとあらゆる書物を読んでその中でそういう戦い方の基本が書かれた書物の内容を思い出しただけです」
「思い出したって......私の予想だけどそれって思い出せるぐらいの本の数を読んだわけじゃないわよね?もっと多いでしょ?」
「そうです.......確か、この国にある国立図書館の本の3分の1は読んだと思うです」
ベルの言っていることが正くて、私が知っている国立図書館イメージならそれは思い出せるなんてレベルじゃない凄まじい数だ。それを任意で思い出せる記憶力とクラウンが見たという凄まじいほどの魔力。
なるほど、この子も私と同じできっとあるべくしてクラウンと出会う運命になったようだ。そして、この先もきっとどこかで同じような運命を辿って出会うような人が多い気がする。それからなぜか総じて個性的な面々が揃うような気がするのは気のせいであろうか。......うん、気のせいよね。
「それに私が生きれたのは主様のおかげでもあると思うです」
「クラウンの?あいつが手助けなんてするようには見えないけど。むしろどんどん苦しめていくような要素を増やしていくように思うんだけど」
「確かに、主様からの直接的な手助けはないです。ですが、姿は見てないですけど、ずっと見守ってくれてたです」
「へえー」
リリスにとってはそれは驚きであった。クラウンのことだからベルをサバイバルさせて放置なんてするかと思っていたけど、どうやらそこまで外道には落ちていないようで少し安心した。さすがにそこまでやったらそれをやらせたクラウンの精神事情が心配になるところであった。
まあ、おそらくは「こんな良い駒をこんな所で無駄にするのは惜しい」とか気持ちがあったんだろうけど。それでもその行動をしただけで随分とマシだ。......これだけで評価されるクラウンはそれはそれでいかがなものだろうか。いや、元が酷過ぎたからこう感じてしまうのか。
「今思ったですけど。リリス様と主様の出会いはどうだったです?」
「普通......じゃないわね。私がたまたま結界を解除している時にそこにいるロキちゃんに背後から気絶させられたのよね。そんでもってその間にクラウンのもとへ連れてかれて出会った。うん、今考えても普通じゃないわね」
「ウォン!」
「なーにが『良いことした』よ。あの時の私が抱いた死の恐怖、私は忘れたことはないわよ」
「どうしてロキ様の言葉がわかるです?」
リリスがロキと平然と会話していることに怪訝な顔を浮かべるベル。これは仕方ない、リリスだって最近なんとなく言葉が読み取れるようになっただけだから。さすがにクラウンとロキの会話にはついていけない。
以前、クラウンになぜロキの言っていることがわかるのか聞いてみたことがあったが、逆になぜわからないんだと聞き返された。それに対して「普通わかるかっつーの」というのがリリスの意見だ。
だが、クラウンは「そんな風に捉えているからわからないんだ」と言って、リリスはなぜか正論っぽい言葉で言いくるめられた。あの時の妙な悔しさがわざわいしてロキとの会話を積極的にしてみると現在の形に至った。
そんな経緯を話すとベルは目を輝かせて「私もやってみるです」とか言い始めた。それがなんだか微笑ましく感じるリリス。ロキに引き続き、ベルという癒し要素が増えた感じだ。......はいはい、ロキちゃん「私もいるよ」ってアピールしなくていいから。わかってるから、ちょっとそのモフモフをを私に当てないで抱きつきたくなっちゃうから。
そんなこんなをしているとクラウンが休憩に入り戻ってきた。いや、正確には休憩させられているのだが。ベルと会話しながら見ていたが、クラウンは実にイライラした感じであった。自分の思い通りに体がか無くて、「相手を殺す」という意志のまま動いていたような感じが。それはあの森で生きてきたから仕方ない面は正直あると思う。
だが、クラウンは強くなるためにはそれではいけないと考えているのだろう。どこまでも貪欲なことだ。けど、それがクラウンという魅力の一つかもしれない。願わくばもう少し丸くなってくれることだ。
リリスはベルにロキを任せるとクラウンのもとへ歩いていく。ああいういら立った状態のクラウンに近づくのは危険だが、そんなもの今更だ。気弱な精神じゃまずクラウンとやっていけない。そう考えるとベルはその条件を満たしているみたいだ。
「なんだ?」
「はいこれ、水。これで体と頭を冷やしたらもう少し思った通りの動きが出来るんじゃない?」
「気づいてたのか?」
「あんた、私がどれだけあんたのそばにいたと思ってんの?少なくともそれぐらいわかるぐらいはいたつもりだわ。まあ、こっちが好きでいたってのもあるけどね」
「同盟関係だしな」
「そういう理由じゃないんだけど......」
リリスはクラウンの返答に思わずため息が漏れる。どうやらクラウンは私がそばにいるのは同盟関係だけだと思っているらしい。まあ、それも理由の一つではあるが、私がクラウンの助けになりたくて好きでいることには気づいていないらしい。いや、まだ今のクラウンに気づけというのも無理な話か。
「どう頭冷えたかしら?」
「ああ、少し熱が収まった。......助かった」
「あら、あんたが感謝の言葉を言うなんて初めてじゃないかしら。なら、その言葉は大事に心にしまっておいてあげるわ」
「いちいち小馬鹿にしやがって。まあいい、俺にとってはそうであることには変わりない。こうしてここにいるのもお前のおかげだ」
リリスは思わず怪訝な表情を浮かべる。なんせいつもよりクラウンの様子がおかしいからだ。こんな態度はさすがに対応しきれない。というかどう対応すればいいかクラウンの取説にもないし。
するとクラウンが言葉を続ける。
「俺はお前がわからない。俺達は同盟関係ではないのか?なのになぜここまで世話を焼くようなことをするんだ?」
「ああ、なるほどね」
リリスはクラウンの言いたいことがわかった。そして、少しだけ嬉しくなった。クラウンが私の気持ちになにかを感じ取ってくれてことが。けど、ここで行き過ぎた発言は良くない。どうせだったらこのままはぐらかしてもう少し私について悩んでもらおうか。男を操るサキュバスらしくね。
「嫌いじゃないからよ、あんたのことが。初めの頃はあまりそうは思わなかったけど、あんたを知るたびに少しずつあんたの弱さを知ることが出来たから。まあ、それについて答えを言わせたいなら私を魅了してみなさい。サキュバスに勝てる男なんていないけど」
「......いいだろう、絶対に吐かせてやる」
リリスはあえてクラウンの闘争心に火をつけるような言い方をして、クラウンのそれに見事火をつけることに成功した。そのことにリリスはこっそりガッツポーズする。
「さあ、頑張りなさい」
「ふん、わかっている」
そう言って再び修行に向かったクラウンを見送りながらリリスはその姿を見送った。
「ウォン」
「確かに良い光景です。......あ、今ロキ様の言葉がわかりました」
それからそんな二人をベルとロキは微笑ましく見つめていた。
「わっかってんだよ、クソジジイがぁ!」
クラウンは半ギレになりながら、兵長に突っ込んでいくが模擬戦の時より簡単に攻撃が躱されていく。おそらくそれが殺気が漏れ出ている証拠なのだろう。思考ではわかっている。だが、体がその意思に反して衝動的に動いていく。それがどうしようもなく腹立たしかった。
これをクリアできれば少しだけ強くなれる。その少しが重要なのだ。あの人形モドキと戦っている時もその少しでもう少し余裕をもって戦えていたかもしれない。
そんなクラウンの修行光景を見ていた二人と一匹はクラウンのことについて話始める。
「主様、頑張っているです」
「そうね。あの感情の素直さをもう少し私達にも向けてくれるとこっちとしてもありがたいのだけどね」
「それは仕方ないです。それだけ主様の憎しみが強いですから。私達が少しずつその心に寄り添っていくほかないです。今の主様にはそれを感じ取れるだけの余裕がないです。だから、案外もう少し強引でもいいかもしれないです」
「ウォン」
ベルの言葉にロキが元気よく同意するように一つ吠えた。そんなロキの反応が嬉しかったのかベルはロキのモフモフの毛並みに顔をうずめた。一方、リリスはあまり浮かない顔をしている。それはベルの言葉にある。
確かにベルの言っていることは最もだし、出来ればそう行きたいと自分自身も思っている。だが、「出来れば」と思ったのはそれはあくまでクラウンの地雷を踏まないことだ。私とベルはそれぞれ一度、クラウンの地雷を踏んでこの関係が崩れかけたことがある。そして、幸いにも今のような関係に戻ったが、二度目はさすがにわからない。
クラウンはまだロキちゃん以外の私達を信用していない。それは人だからというのもあるが、きっとクラウン自身でも信じていいのか迷っているのだ。だから、クラウンはあの獣王様の行動に戸惑いを見せた。
大方信用したいが、信用できないといったところか。だから、私達への態度も出会った当初の方が自分にとっても楽だから変えないのだろう。まあ、急にデレられても戸惑うのはこっちだが。
「それにしても信用ってどうしてこうも時間がかかるのかしらね。こうどこかに信用スイッチとかあれば楽なのに」
「確かにあれば楽ですが、そんな信用はリリス様が信じられるです?私はそんな紛いもののような信用はこっちが信用できないです。それがたとえ相手が本気だったとしてもです」
「そうね、私が悪かったわ。信用って普通は相手の性格、思考、言動、感情とかそんなものを時間をかけて見定めていくものよね。私が言ったそれはただの動くものでしかないわ。私が命令して実行してくるだけの存在のもの。それは信用というより洗脳ね」
「はい、ですから主様は私に隷紋を施さなかったんだと思うです。主様は面倒と言っておらたですが、同時に『意思のある駒の方がいちいち命令しなくて何かと楽だからな』と言ってたです。これは私を信用したいという心の部分の表れだと思うです」
「今のクラウンはそんな葛藤が常に繰り広げられているという事ね。全くクラウンじゃなきゃ持たなそうなことね。私だったらすぐに精神がやられてしまうわ」
まあ、きっとその信用という葛藤の中に悪意という一番禍々しいものも含んでいるのだろうけど。正直、それだけは今の私達に止める手段はない。信用してくれているならやりようもあるけど、その信用が確立していない今は黙って暴走を見届けるか、その行動に同調してあげるほかない。今は私はクラウンと似たような目的があるからそういう行動ができるんだけど、ベルの方はそうはいかないだろう。
ベルはあくまでもクラウンの駒として今ここにいるだけで、クラウンに強制特訓させられたそうだがそれだけで強くなれたとはさすがに考えにくい。もともと外に出ることすら強制されていたベルが戦い方なんて分かるはずないし。
だが、クラウンから聞いた情報によると短剣一本で1週間の魔物の森から生き残ったらしい。一体クラウンは女の子になんてことをさせているのかはさておき、どうやって生き残ったのかは知りたいところだ。
「ねぇ、ベル。話は変わるけど、クラウンがさせたサバイバルをどうやって生き残ったの?」
「私はもともと読書家だったです。なんせあまりにも何もなくて時間だけが有り余ってたですから、そこでありとあらゆる書物を読んでその中でそういう戦い方の基本が書かれた書物の内容を思い出しただけです」
「思い出したって......私の予想だけどそれって思い出せるぐらいの本の数を読んだわけじゃないわよね?もっと多いでしょ?」
「そうです.......確か、この国にある国立図書館の本の3分の1は読んだと思うです」
ベルの言っていることが正くて、私が知っている国立図書館イメージならそれは思い出せるなんてレベルじゃない凄まじい数だ。それを任意で思い出せる記憶力とクラウンが見たという凄まじいほどの魔力。
なるほど、この子も私と同じできっとあるべくしてクラウンと出会う運命になったようだ。そして、この先もきっとどこかで同じような運命を辿って出会うような人が多い気がする。それからなぜか総じて個性的な面々が揃うような気がするのは気のせいであろうか。......うん、気のせいよね。
「それに私が生きれたのは主様のおかげでもあると思うです」
「クラウンの?あいつが手助けなんてするようには見えないけど。むしろどんどん苦しめていくような要素を増やしていくように思うんだけど」
「確かに、主様からの直接的な手助けはないです。ですが、姿は見てないですけど、ずっと見守ってくれてたです」
「へえー」
リリスにとってはそれは驚きであった。クラウンのことだからベルをサバイバルさせて放置なんてするかと思っていたけど、どうやらそこまで外道には落ちていないようで少し安心した。さすがにそこまでやったらそれをやらせたクラウンの精神事情が心配になるところであった。
まあ、おそらくは「こんな良い駒をこんな所で無駄にするのは惜しい」とか気持ちがあったんだろうけど。それでもその行動をしただけで随分とマシだ。......これだけで評価されるクラウンはそれはそれでいかがなものだろうか。いや、元が酷過ぎたからこう感じてしまうのか。
「今思ったですけど。リリス様と主様の出会いはどうだったです?」
「普通......じゃないわね。私がたまたま結界を解除している時にそこにいるロキちゃんに背後から気絶させられたのよね。そんでもってその間にクラウンのもとへ連れてかれて出会った。うん、今考えても普通じゃないわね」
「ウォン!」
「なーにが『良いことした』よ。あの時の私が抱いた死の恐怖、私は忘れたことはないわよ」
「どうしてロキ様の言葉がわかるです?」
リリスがロキと平然と会話していることに怪訝な顔を浮かべるベル。これは仕方ない、リリスだって最近なんとなく言葉が読み取れるようになっただけだから。さすがにクラウンとロキの会話にはついていけない。
以前、クラウンになぜロキの言っていることがわかるのか聞いてみたことがあったが、逆になぜわからないんだと聞き返された。それに対して「普通わかるかっつーの」というのがリリスの意見だ。
だが、クラウンは「そんな風に捉えているからわからないんだ」と言って、リリスはなぜか正論っぽい言葉で言いくるめられた。あの時の妙な悔しさがわざわいしてロキとの会話を積極的にしてみると現在の形に至った。
そんな経緯を話すとベルは目を輝かせて「私もやってみるです」とか言い始めた。それがなんだか微笑ましく感じるリリス。ロキに引き続き、ベルという癒し要素が増えた感じだ。......はいはい、ロキちゃん「私もいるよ」ってアピールしなくていいから。わかってるから、ちょっとそのモフモフをを私に当てないで抱きつきたくなっちゃうから。
そんなこんなをしているとクラウンが休憩に入り戻ってきた。いや、正確には休憩させられているのだが。ベルと会話しながら見ていたが、クラウンは実にイライラした感じであった。自分の思い通りに体がか無くて、「相手を殺す」という意志のまま動いていたような感じが。それはあの森で生きてきたから仕方ない面は正直あると思う。
だが、クラウンは強くなるためにはそれではいけないと考えているのだろう。どこまでも貪欲なことだ。けど、それがクラウンという魅力の一つかもしれない。願わくばもう少し丸くなってくれることだ。
リリスはベルにロキを任せるとクラウンのもとへ歩いていく。ああいういら立った状態のクラウンに近づくのは危険だが、そんなもの今更だ。気弱な精神じゃまずクラウンとやっていけない。そう考えるとベルはその条件を満たしているみたいだ。
「なんだ?」
「はいこれ、水。これで体と頭を冷やしたらもう少し思った通りの動きが出来るんじゃない?」
「気づいてたのか?」
「あんた、私がどれだけあんたのそばにいたと思ってんの?少なくともそれぐらいわかるぐらいはいたつもりだわ。まあ、こっちが好きでいたってのもあるけどね」
「同盟関係だしな」
「そういう理由じゃないんだけど......」
リリスはクラウンの返答に思わずため息が漏れる。どうやらクラウンは私がそばにいるのは同盟関係だけだと思っているらしい。まあ、それも理由の一つではあるが、私がクラウンの助けになりたくて好きでいることには気づいていないらしい。いや、まだ今のクラウンに気づけというのも無理な話か。
「どう頭冷えたかしら?」
「ああ、少し熱が収まった。......助かった」
「あら、あんたが感謝の言葉を言うなんて初めてじゃないかしら。なら、その言葉は大事に心にしまっておいてあげるわ」
「いちいち小馬鹿にしやがって。まあいい、俺にとってはそうであることには変わりない。こうしてここにいるのもお前のおかげだ」
リリスは思わず怪訝な表情を浮かべる。なんせいつもよりクラウンの様子がおかしいからだ。こんな態度はさすがに対応しきれない。というかどう対応すればいいかクラウンの取説にもないし。
するとクラウンが言葉を続ける。
「俺はお前がわからない。俺達は同盟関係ではないのか?なのになぜここまで世話を焼くようなことをするんだ?」
「ああ、なるほどね」
リリスはクラウンの言いたいことがわかった。そして、少しだけ嬉しくなった。クラウンが私の気持ちになにかを感じ取ってくれてことが。けど、ここで行き過ぎた発言は良くない。どうせだったらこのままはぐらかしてもう少し私について悩んでもらおうか。男を操るサキュバスらしくね。
「嫌いじゃないからよ、あんたのことが。初めの頃はあまりそうは思わなかったけど、あんたを知るたびに少しずつあんたの弱さを知ることが出来たから。まあ、それについて答えを言わせたいなら私を魅了してみなさい。サキュバスに勝てる男なんていないけど」
「......いいだろう、絶対に吐かせてやる」
リリスはあえてクラウンの闘争心に火をつけるような言い方をして、クラウンのそれに見事火をつけることに成功した。そのことにリリスはこっそりガッツポーズする。
「さあ、頑張りなさい」
「ふん、わかっている」
そう言って再び修行に向かったクラウンを見送りながらリリスはその姿を見送った。
「ウォン」
「確かに良い光景です。......あ、今ロキ様の言葉がわかりました」
それからそんな二人をベルとロキは微笑ましく見つめていた。
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