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第2章道化師は進む
第26話 強制強化#2
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「さて、1週間経ったがだいぶ目つきが良くなったな」
クラウンは1週間ぶりに見たベルを見て思わず目を細める。そういうベルの目はどこか野生じみた目つきになっていて、1週間前には見れなかった殺気のようなものが籠っていた。
「それじゃあ、次のステージだ。俺に刀を引き抜かせてみろ」
「はい......わかったです!」
ベルは返事した瞬間、クラウンに襲いかかった。そして、左手に持っていた魔物の牙をクラウンの顔面目掛けて投げた。だが、そんな攻撃がクラウンに当たるはずもなく頭を傾げるだけで避ける。しかし、ベルはそんなことはわかっていた。だから、魔物からコピーした<隠形>と<瞬脚>を使って背後に回り込むと逆手に持っていた短剣を振るった。
「あめぇ」
「かっ!」
クラウンはわかっていたようにその場で逆立ちになるとその時の足を上げる動作で迫ってきたベルの顎を打ち上げた。そして、すぐに体勢をもとの形に戻すとベルの腹部に蹴りを入れて吹き飛ばした。吹き飛ばされたベルは木に叩きつけられ肺の空気が強制的に吐き出された。
「その攻撃は悪いとは言わない。だが、それはあくまで魔物との戦いだ。対人戦では有効打になり得ない。常に相手の攻撃し得る手を読んでおけ」
「はい......」
ベルはゆらゆらと立ち上がると再びクラウンに向かった。それに対しクラウンは腕を組みながら仁王立ちで迎え撃つ。
「白峰」
「!......それは悪くない」
「くはっ!」
ベルはクラウンに接近すると連続攻撃を続けた。だが、まだ動きが荒いのと身長差で簡単に避けられていく。しかし、ベルには近づくことが狙いだったのか、短剣の先をクラウンに向け開いている左手のひらで柄の頭を押さえると魔力を解き放った。すると剣先から一直線に鋭い斬撃が伸びていく。
クラウンは驚きながらも膝を曲げて地面スレスレまで上体を逸らすことでその攻撃を避け、さらにその状態から両手を地面につけ、また逆立ちへと移行する。そして同時に両足でベルの頭を挟み込むと勢いよく足を戻して投げ飛ばした。ベルは地面に叩きつけられ、引きずられながらうめき声を上げる。
「早く体勢を立て直さなければ、お前は殺されるぞ」
「くっ!ああ!」
クラウンは体勢を立て直すとベルのもとへ直行した。そして、大きく拳を振り上げ、振るった。ベルは両腕を前に出して防御したが、その腕は攻撃によって曲がりそのまま吹き飛ばされる。
「俺からコピーした<超回復>があるだろ?早く治せ」
「は、はい.....」
ベルはクラウンに言われた通り<超回復>で腕を元通りに修復していく。だが、これには多大な魔力を使う。そして、ベルはこの1週間ほとんど休みなく戦っていたのであまり魔力が残っていなかった。故にベルは倦怠感で辛そうな顔をしている。それを見たクラウンはため息を吐いた。
「一度寝ろ。その状態でやっても俺とお前では体の出来が違う、非効率なだけだ」
「わかった......です」
クラウンはそう言うと木を背もたれにして座り込んだ。ベルはその場で屈みながら呼吸を整えていく。ベルの顔色はあまり良くなく<超回復>の効果で無理やり持たせているというぐらいだ。そんな様子のベルにクラウンが話しかける。
「これが生きるということだ。生きるためには、自由を得るためには、そして仲間を護るためには力が必要不可欠だ。お前が生き延びるために犠牲になった伯父と叔母も力があれば、犠牲になることもなくお前もこんなことを経験せずに済んだ。だが、そんな仮定の話をしたところで何の意味もない。お前が生きたいなら、家族を望むなら早く力をつけろ。それをお前が望む限り俺は手伝うことを拒みはしない。俺も使えない駒
弱者
はいらないからな」
「......それは自分が弱かったからです?」
ベルは思わず聞いてしまった。どこか触れてはいけない琴線に触れたような気がしたが、クラウンはイラ立ちも見せずに淡々と返答した。
「ああ、そうだ。俺は知識も魔法も純粋な力も何もかもが足りなかった。いや、あの時は恐怖もあったが、それとは別にまだ信じようとする気持ちがあったから体が動かなかったかもしれないがな」
「私達が信じられなくなった原因はそこにあるです?」
「ある。今思い出しただけでも虫唾が走る。俺を貶めておいてなんの感情もない瞳が!俺の不幸を笑う顔が!......あいつらはもとの世界からの馴染みだった。だが、まさかあいつらが俺をあんな風に思っていたなんてな。特に雪姫だけは俺を見捨てないでくれると思っていた。しかし、違った。だがら、俺から見限ったのだ。人を信じるとバカを見るのはこっちだ」
「リリス様とも同盟関係であるのはそれが理由で?」
「そうだ。つまらんことを話したな」
そう言うとクラウンはその話題について一切触れることはなかった。一方、ベルにはクラウンの悲しみが混じった声色に胸が痛んだ。自分の今までの人生は私の立場的な問題もあったけど、それでも信じてくれる人がいて、助けてくれる人がいてくれたから今もこうして生きていられる。
しかし、主様には自分の力で生きていかなければならなかった。信じていた人に裏切られ、見捨てられ誰も助けてくれない。そして、絶望した。私とは真逆だ。だからこそ、信じなくなった......いや、信じられるのが自分しかいなくなってしまった。主様の一番の古株であるロキ様もおそらく心の底からは信じられていない。
信じたいのに信じられない。その気持ちはとても辛い。常にまた裏切られ、見捨てられることを懸念して疑い続けなければならないから。そんなことをすれば精神を摩耗し、やがて人ではなくなって互いを利用し合う魔物になってしまう。
今はロキ様が魔物になりかけている主様を抑えているという状態だ。しかし、まだ希望はある。自分の心に触れて欲しくない主様がその中身を吐露したのだ。それだけで主様の中にはまだ人に戻れる可能性を秘めている。そのためには時間をかけてでも一緒にいることが重要だ。なら、私が奴隷であることは打ってつけだ。それに、私はどうやらただの奴隷ではないようだし......
「主様、一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「主様はどうして私に隷紋をしないです?」
「めんどくさいからだ。......それに俺は束縛されることが嫌いだ。自由を奪われることが嫌いだ。その気持ちは何より分かっているつもりだ。それにそんなことをしても面白くもないし、俺はお前をただの駒にするつもりはない。意思のある駒の方がいちいち命令しなくて何かと楽だからな」
ベルはその言葉を聞いて思わず微笑む。自然と尻尾も揺れる。......これが私がただの奴隷ではない理由だ。本来なら奴隷に意思など必要ない。それは命令するたびにその意思によって支障を起こすことがあるからだ。
奴隷は道具。理不尽な使用に道具が抵抗しないように、奴隷にも拒否する権利などありはなしない。そして、主の命令に全てを忠実にこなしていく。生き地獄だとは思っても死にたいと思っても体は生きたがっている。そうして繰り返していく絶望のサイクル。
しかし、私の主様は違う。私に意思を与えてくれるのだ。それがどんな理由であろうとも主様にとって些細な選択が私にとっては大きな喜びに繋がっているのだ。私は自分の自由のもとに意思のある主張が出来る。もちろん、主様からの命令は出来る限りこなしていくつもりだ。
そしてこれからわかることは、主様は本当は優しいのだ。絶望を知って心が変わってしまったとしても本質はそうそう変わることはない。主様が冷たい態度を取るのは単に人が信じられない故だけ。だから、主様を本来の心に戻すには少しぐらい強引の方が良いかもしれない。
すると座っているクラウンにベルが近づいてきた。クラウンは思わず警戒する。
「何の用だ?」
「主様のそばで寝たいです」
「......は?」
ベルの言葉を聞いてクラウンは呆けているうちにベルはサササッとクラウンの横に座る。クラウンは咄嗟に遠ざけようとするがベルが服を掴んで離さない。
「おい、離れろ」
「嫌です。私は主様の温もりを感じて寝たいです。これは主様が認めてくれた私の意思です」
「くっ......この野郎」
クラウンの抵抗も虚しく、ベルはクラウンにピッタリと寄り添うように体を近づけると微笑んで尻尾をふわりふわりと揺らす。長らく感じたことのなかった温もりだ。それに思った通り主様はやっぱり優しい。私の行動に命令して止めることも出来たはずなのに、それをしなかった。ため息を吐きながらも私の耳が気になっているのかそれを触っているぐらいだ。
私は幸運だったかもしれない、主様に拾ってまらえたことが。たとえその人がどんな狂気に飲まれていようともまだ希望がある限りこの拾ってもらった幸運を返していかなければと思う。
「主様、ゴツゴツしてるです」
「それは俺の筋肉のせいだ。嫌だったらさっさと離れろ」
「そんなことないです」
しかし、気になりはするのかベルはクラウンの腹筋に触れた。そして、なにかに感動したようにその触り心地を確かめるように擦っていく。
「おい、なにしてる」
「直で触ってみたくなったです」
するとベルはクラウンの服に片手を突っ込み言葉通り直で触り始めた。しかも少しずつ鼻息を荒くして。そしてついにはクラウンの足に馬乗りになり、もう片方の手も突っ込んで先ほどよりもやらしい手つきで触り始めた。
「こ、これが主様の筋肉......」
「おい、いい加減にしやがれ!」
「嫌です!主様の筋肉が触りたいのです!......あ、足の方もいいです」
「この......変態がああああ!」
いら立ちが限界に達したクラウンはついにベルの胸ぐらを掴むと自分から話すようにぶん投げた。ベルは上手く着地するとどこか血走った目でクラウンを見ながら虎視眈々と隙を狙っている。
「あれが筋肉......すばらしいです」
「おい、クソ狐!急になにに目覚めてんだ!」
「この筋肉という世界を教えてくれたのは主様です。どうかもっと教えるです」
「ざけんな!勝手に人を巻き込むんじゃねぇ、変態クソ狐がぁ!てめぇに睡眠なんてやらねぇ、その世界を俺がぶち壊してやる!」
「そうはさせないです!」
そうして始まる第2ラウンド。クラウンはベルがその抵抗の意思がなくなるまでぶちのめしにかかった。
クラウンは1週間ぶりに見たベルを見て思わず目を細める。そういうベルの目はどこか野生じみた目つきになっていて、1週間前には見れなかった殺気のようなものが籠っていた。
「それじゃあ、次のステージだ。俺に刀を引き抜かせてみろ」
「はい......わかったです!」
ベルは返事した瞬間、クラウンに襲いかかった。そして、左手に持っていた魔物の牙をクラウンの顔面目掛けて投げた。だが、そんな攻撃がクラウンに当たるはずもなく頭を傾げるだけで避ける。しかし、ベルはそんなことはわかっていた。だから、魔物からコピーした<隠形>と<瞬脚>を使って背後に回り込むと逆手に持っていた短剣を振るった。
「あめぇ」
「かっ!」
クラウンはわかっていたようにその場で逆立ちになるとその時の足を上げる動作で迫ってきたベルの顎を打ち上げた。そして、すぐに体勢をもとの形に戻すとベルの腹部に蹴りを入れて吹き飛ばした。吹き飛ばされたベルは木に叩きつけられ肺の空気が強制的に吐き出された。
「その攻撃は悪いとは言わない。だが、それはあくまで魔物との戦いだ。対人戦では有効打になり得ない。常に相手の攻撃し得る手を読んでおけ」
「はい......」
ベルはゆらゆらと立ち上がると再びクラウンに向かった。それに対しクラウンは腕を組みながら仁王立ちで迎え撃つ。
「白峰」
「!......それは悪くない」
「くはっ!」
ベルはクラウンに接近すると連続攻撃を続けた。だが、まだ動きが荒いのと身長差で簡単に避けられていく。しかし、ベルには近づくことが狙いだったのか、短剣の先をクラウンに向け開いている左手のひらで柄の頭を押さえると魔力を解き放った。すると剣先から一直線に鋭い斬撃が伸びていく。
クラウンは驚きながらも膝を曲げて地面スレスレまで上体を逸らすことでその攻撃を避け、さらにその状態から両手を地面につけ、また逆立ちへと移行する。そして同時に両足でベルの頭を挟み込むと勢いよく足を戻して投げ飛ばした。ベルは地面に叩きつけられ、引きずられながらうめき声を上げる。
「早く体勢を立て直さなければ、お前は殺されるぞ」
「くっ!ああ!」
クラウンは体勢を立て直すとベルのもとへ直行した。そして、大きく拳を振り上げ、振るった。ベルは両腕を前に出して防御したが、その腕は攻撃によって曲がりそのまま吹き飛ばされる。
「俺からコピーした<超回復>があるだろ?早く治せ」
「は、はい.....」
ベルはクラウンに言われた通り<超回復>で腕を元通りに修復していく。だが、これには多大な魔力を使う。そして、ベルはこの1週間ほとんど休みなく戦っていたのであまり魔力が残っていなかった。故にベルは倦怠感で辛そうな顔をしている。それを見たクラウンはため息を吐いた。
「一度寝ろ。その状態でやっても俺とお前では体の出来が違う、非効率なだけだ」
「わかった......です」
クラウンはそう言うと木を背もたれにして座り込んだ。ベルはその場で屈みながら呼吸を整えていく。ベルの顔色はあまり良くなく<超回復>の効果で無理やり持たせているというぐらいだ。そんな様子のベルにクラウンが話しかける。
「これが生きるということだ。生きるためには、自由を得るためには、そして仲間を護るためには力が必要不可欠だ。お前が生き延びるために犠牲になった伯父と叔母も力があれば、犠牲になることもなくお前もこんなことを経験せずに済んだ。だが、そんな仮定の話をしたところで何の意味もない。お前が生きたいなら、家族を望むなら早く力をつけろ。それをお前が望む限り俺は手伝うことを拒みはしない。俺も使えない駒
弱者
はいらないからな」
「......それは自分が弱かったからです?」
ベルは思わず聞いてしまった。どこか触れてはいけない琴線に触れたような気がしたが、クラウンはイラ立ちも見せずに淡々と返答した。
「ああ、そうだ。俺は知識も魔法も純粋な力も何もかもが足りなかった。いや、あの時は恐怖もあったが、それとは別にまだ信じようとする気持ちがあったから体が動かなかったかもしれないがな」
「私達が信じられなくなった原因はそこにあるです?」
「ある。今思い出しただけでも虫唾が走る。俺を貶めておいてなんの感情もない瞳が!俺の不幸を笑う顔が!......あいつらはもとの世界からの馴染みだった。だが、まさかあいつらが俺をあんな風に思っていたなんてな。特に雪姫だけは俺を見捨てないでくれると思っていた。しかし、違った。だがら、俺から見限ったのだ。人を信じるとバカを見るのはこっちだ」
「リリス様とも同盟関係であるのはそれが理由で?」
「そうだ。つまらんことを話したな」
そう言うとクラウンはその話題について一切触れることはなかった。一方、ベルにはクラウンの悲しみが混じった声色に胸が痛んだ。自分の今までの人生は私の立場的な問題もあったけど、それでも信じてくれる人がいて、助けてくれる人がいてくれたから今もこうして生きていられる。
しかし、主様には自分の力で生きていかなければならなかった。信じていた人に裏切られ、見捨てられ誰も助けてくれない。そして、絶望した。私とは真逆だ。だからこそ、信じなくなった......いや、信じられるのが自分しかいなくなってしまった。主様の一番の古株であるロキ様もおそらく心の底からは信じられていない。
信じたいのに信じられない。その気持ちはとても辛い。常にまた裏切られ、見捨てられることを懸念して疑い続けなければならないから。そんなことをすれば精神を摩耗し、やがて人ではなくなって互いを利用し合う魔物になってしまう。
今はロキ様が魔物になりかけている主様を抑えているという状態だ。しかし、まだ希望はある。自分の心に触れて欲しくない主様がその中身を吐露したのだ。それだけで主様の中にはまだ人に戻れる可能性を秘めている。そのためには時間をかけてでも一緒にいることが重要だ。なら、私が奴隷であることは打ってつけだ。それに、私はどうやらただの奴隷ではないようだし......
「主様、一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「主様はどうして私に隷紋をしないです?」
「めんどくさいからだ。......それに俺は束縛されることが嫌いだ。自由を奪われることが嫌いだ。その気持ちは何より分かっているつもりだ。それにそんなことをしても面白くもないし、俺はお前をただの駒にするつもりはない。意思のある駒の方がいちいち命令しなくて何かと楽だからな」
ベルはその言葉を聞いて思わず微笑む。自然と尻尾も揺れる。......これが私がただの奴隷ではない理由だ。本来なら奴隷に意思など必要ない。それは命令するたびにその意思によって支障を起こすことがあるからだ。
奴隷は道具。理不尽な使用に道具が抵抗しないように、奴隷にも拒否する権利などありはなしない。そして、主の命令に全てを忠実にこなしていく。生き地獄だとは思っても死にたいと思っても体は生きたがっている。そうして繰り返していく絶望のサイクル。
しかし、私の主様は違う。私に意思を与えてくれるのだ。それがどんな理由であろうとも主様にとって些細な選択が私にとっては大きな喜びに繋がっているのだ。私は自分の自由のもとに意思のある主張が出来る。もちろん、主様からの命令は出来る限りこなしていくつもりだ。
そしてこれからわかることは、主様は本当は優しいのだ。絶望を知って心が変わってしまったとしても本質はそうそう変わることはない。主様が冷たい態度を取るのは単に人が信じられない故だけ。だから、主様を本来の心に戻すには少しぐらい強引の方が良いかもしれない。
すると座っているクラウンにベルが近づいてきた。クラウンは思わず警戒する。
「何の用だ?」
「主様のそばで寝たいです」
「......は?」
ベルの言葉を聞いてクラウンは呆けているうちにベルはサササッとクラウンの横に座る。クラウンは咄嗟に遠ざけようとするがベルが服を掴んで離さない。
「おい、離れろ」
「嫌です。私は主様の温もりを感じて寝たいです。これは主様が認めてくれた私の意思です」
「くっ......この野郎」
クラウンの抵抗も虚しく、ベルはクラウンにピッタリと寄り添うように体を近づけると微笑んで尻尾をふわりふわりと揺らす。長らく感じたことのなかった温もりだ。それに思った通り主様はやっぱり優しい。私の行動に命令して止めることも出来たはずなのに、それをしなかった。ため息を吐きながらも私の耳が気になっているのかそれを触っているぐらいだ。
私は幸運だったかもしれない、主様に拾ってまらえたことが。たとえその人がどんな狂気に飲まれていようともまだ希望がある限りこの拾ってもらった幸運を返していかなければと思う。
「主様、ゴツゴツしてるです」
「それは俺の筋肉のせいだ。嫌だったらさっさと離れろ」
「そんなことないです」
しかし、気になりはするのかベルはクラウンの腹筋に触れた。そして、なにかに感動したようにその触り心地を確かめるように擦っていく。
「おい、なにしてる」
「直で触ってみたくなったです」
するとベルはクラウンの服に片手を突っ込み言葉通り直で触り始めた。しかも少しずつ鼻息を荒くして。そしてついにはクラウンの足に馬乗りになり、もう片方の手も突っ込んで先ほどよりもやらしい手つきで触り始めた。
「こ、これが主様の筋肉......」
「おい、いい加減にしやがれ!」
「嫌です!主様の筋肉が触りたいのです!......あ、足の方もいいです」
「この......変態がああああ!」
いら立ちが限界に達したクラウンはついにベルの胸ぐらを掴むと自分から話すようにぶん投げた。ベルは上手く着地するとどこか血走った目でクラウンを見ながら虎視眈々と隙を狙っている。
「あれが筋肉......すばらしいです」
「おい、クソ狐!急になにに目覚めてんだ!」
「この筋肉という世界を教えてくれたのは主様です。どうかもっと教えるです」
「ざけんな!勝手に人を巻き込むんじゃねぇ、変態クソ狐がぁ!てめぇに睡眠なんてやらねぇ、その世界を俺がぶち壊してやる!」
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