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第2章道化師は進む
第25話 強制強化#1
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『よう、オレよ。久しぶりだな』
「......お前は俺か?」
黒い背景に白い地面、どこにもありはしないような世界に二人......いや、一人と異形の存在が向かい合っていた。その一人はクラウンこと【海堂 仁】ともう一体は仁の目の前にいる黒い靄に覆われた人型のなにかだ。だが、仁はその存在なにかわかっていた。だからこそ聞いた。するとソレは肯定的な言葉で返した。
『ああ、そうだ。お前は相変わらずのようだがな?』
「......!」
仁は自分の体を見て思わず驚いた。なぜならそれは森で目覚めた時と同じ格好、体躯、力であったからだ。そして、ここでは魔法は使えない。そんな仁を見てソレは嘲笑いながら告げる。
『なにをそんな驚いている?......ああ、てっきり覚醒後の姿だと思ったのか?そんなわけねぇだろバーカ。その姿はオレのものだ。オレだけのものだ。お前がその姿を得るには何もかもが足りない。怒りも憎しみも悪意も殺意も全てが!』
「そんなはずはない!僕はあの時誓ったはずだ!」
『なら、なぜ一人称がそれなんだ?』
「!」
仁は不意に自分の口から出た言葉に驚ろいた。なぜならそれは弱い時の自分と同じ一人称であったからだ。自分の言葉に対して仁は頭を振った。「これは自分ではない」と言い聞かせるように。
そんな仁を見てソレは今度は呆れたため息を吐く。
『お前はオレだ。だからこそわかる。なにをそんなに後ろ髪を引かれているんだ?もしかしてまた仲間が得られると思っているのか?だとしたら大間違いだバカが。お前はあの時のあいつらの顔を忘れたのか?あの人を人とも思わない嘲笑い、地面に這いつくばってでも生きようとしている人間に向ける感情のない目!......あれでどれだけ絶望に突き落とされたのかわからないお前じゃあるまい?」
「......けど、あいつらはもしかしたら――――――」
『あいつら?ああ、意味わかんなく懐いてきた犬っころに魔族と獣人か。それがなんだ?まさか信じられるとでも思ってんのか?勘違いも甚だしいわバカが。あの犬は所詮ただの獣だ。獣はただ生き延びるためになんでも利用するだけだ。まだまともじゃないお前に擦り寄ることでお前を利用しているに過ぎない』
「違う、ロキは大切な相棒だ!」
「はっ、笑わんな。犬ごときに情をかけ過ぎだ」
ソレは仁の言葉を鼻で笑った。そして、言葉を続けていく。
『魔族と獣人は人間だ。それだけで信用に値しない。同じオレだから言う。あいつらは止めておけ、また後悔することになるぞ。あの時、お前が心から信じていた奴に攻撃されたようになぁ』
「そんなことまだわからないじゃないか!リリスは僕の心に寄り添ってきてくれて、ベルは僕の過去に同情してくれている!」
『それはお前を騙すために決まってるじゃねぇか。なぜそれに気づかない?あの魔族はお前を復讐のために、あの獣人は自分の自由のためにお前を利用しようとしているだけだ。だから、オレが逆に利用しようってんだ。そういう訳でお前は今も生きられる。むしろ感謝して欲しいぐらいだがなぁ?」
「この.....!」
仁はソレに対して怒りの表情を浮かべる。あの時のことだってまだ何かの間違いだって信じている。だが、ソレはその全てを否定し、踏み潰していく。
『起こるなって。全てお前のためだぞ?利用されるとわかっていながら、利用されるバカはいない。いるとしたらそいつは生きる価値もない存在だ。オレは神殺しという明確な目的があり、そのために行動している。どうせ利用されるならこっちから利用しようじゃないか、なあ?オレよ?』
「......」
『オレの言葉を信じるつもりがないなら好きにしろ。だが、お前の前からまた大切な存在が消えていくぞ?後悔したくないなら情なんて捨てることだな』
「変な奴が介入し始めた」と言うとソレはゆらゆらと揺れだしてやがてその体を霧散させた。そして、同時に仁の視界も霞んでいった。
「あら、起きたかしら」
「なにしている?」
「あんたが初めて寝ているところを見かけたから近づいていったら、あんたが悪夢でも見ていたのかうなされていたのよ。だから、母さん直伝の膝枕であんたを悪夢から解き放とうとしていたのよ。それで気分は?」
「......悪くない」
「......!」
リリスはクラウンの表情を見て驚いた。今はもう違うがその言葉を言ったときほんの一瞬だけ優しい笑みをしたような気がしたのだ。勘違いと言えばそれで済んでしまうが、あれはクラウンのまだ微かな良心が現れたのではないかと思う。そう思いたいというのもあるのだが。
クラウンは上体を起こすと自分の手の動きを確かめた。短い時間だったが、何か月ぶりに寝たのだろうか。だが、そのせいで変な夢を見た。アレはおそらくあの森のあの洞窟で話しかけてきた俺だ。
俺はオレで、オレが俺で.......だが、オレは俺の体を「オレの姿」と言っていた。なら、俺の体は俺のものではないのか?わからない。だが、どうにも嘘をついているようにも見えないのが癇に障る。
「それにしてもあんたが寝るなんてあるのね。槍の雨でも降るんじゃないかしら」
「正直、俺も驚いている。なぜ寝てしまったのか。だが、もう寝るのはごめんだ」
「悪夢がそんな辛かったの?」
「辛かったわけではないが......とにかく目覚め心地は最悪だ」
クラウンは立ち上がると辺りを探り始めた。そして、ベルを見つけるとそちらに向かう前に......
「リリス、先に言っておく。これから俺がすることには口出しはするな」
「......あんた、また良からぬことを企んでないでしょうね?」
リリスがクラウンにジトっとした目を送るがクラウンはどこ吹く風だ。そして、リリスがため息混じりな声で了承すると改めてベルのもとへ向かった。
「ベル、今からお前を使えるぐらいに強化する。拒否権はない」
「奴隷はもとより主様に仕える存在、主様の命令が絶対です。それに私も主様の役に立ちたいと思っていたですので問題ないです」
「そうか。なら、話が早い」
そう言ってクラウンがベルを連れて行ったのは森の奥深く。そして、ベルに向かい合うように言うとクラウンは告げた。
「ベル、お前は戦えないらしいが魔力はある。なら魔法は使えるだろう?その全ての魔法を俺に教えろ」
「私の魔法は一つしかないです」
「一つか......それはなんだ?」
仁はその言葉に若干の残念さを感じたが、魔力があるなら使いようはあると考え直した。そして、クラウンの問いに対してベルが答えたのは、クラウンを驚かせるものであった。
「私の魔法は先祖返り故の覚醒魔力で【私も知りたい】です。能力としては任意で最大5つまでの魔法をその魔法が何であれ同時使用することができ、魔法のコピーは相手の魔法を視認した時点でコピーすることができるです。また、コピーした魔法は私の任意で保持したり変えたりすることができるです」
「.....なるほど」
クラウンはベルの発言で全てを理解した。端的に言ってしまえばベルの覚醒魔力はクラウンの覚醒魔力の下位互換に当たる。だが、視認しただけでというのは意外と魅力的だ。なぜならたとえ自身が使える魔法がバレたとしても使いどころによれば不意をつけることができるからだ。
加えて、一番魅力的なのは同時使用できるという点にある。基本的にこの世界では一つの魔法を使用した後でないと次の魔法は使えない。あくまでできるのは連続で使っているように見せかけることだけだ。同時使用したいなら魔法を融合させる他ない。だが、そんなことをしなくても別々の魔法が全く同じタイミングで使えることができる。これは相手の防御を切り崩すにはもってこいだ。
クラウンは不気味に笑った。これは使える......だが、そのためにはまずはベルの身体能力を高め、戦闘本能を引き出す必要がある。なら、まずは手始めに......
「ベル、お前にはまずこの森の中で1週間サバイバルをしてもらう。お前を食らいに多くの魔物が襲ってくるだろうが、それら全てを殺して何としてでも生き延びろ。そして、その中で効率的な戦い方を身につけろ」
「わかったです」
ベルはクラウンの言葉に迷いなく返答した。そのベルの意思にクラウンは愉悦のような目をした。そして、ベルに「俺を見ろ」というと腰にある剥ぎ取り用の短剣を引き抜いた。
「お前の魔力は使えるのだな?」
「はい、使えるです」
「なら、俺がお前に二つの能力を教える」
そう言うとクラウンはベルの目の前から消え、背後へと現れた。
「これが<瞬脚>だ。そして、これが――――――」
ベルがクラウンの方を見たのを確認するとクラウンは短剣を自身の左手に切りつけた。そして、その左手をベルに見せつけるように掲げると瞬時に治した。
「<超回復>だ。この二つで生き延びろ」
「わかったです」
「なら、始めよう......精々生き延びてみせろ!」
クラウンが言った瞬間、ベルの目の前から消えた。そして、ベルはイラッとさせられるような感覚に襲われた。するとクラウンはどうやら魔法の一つを使ったらしくベルの魔力が解析すると<挑発>であった。なんとも使えそうもない魔法だ。どうしてこんな魔法を使ったのだろうか。そう思っているとそれを使った理由がすぐに分かった。
「!」
ベルの耳がピコっと動く。自分目掛けて全方向から大勢の足音が聞こえるからだ。そして、微かに臭い始めた獣臭。これは魔物だ。
「「「「「ギャアアア!!!」」」」」
やがて姿は見え魔物達が一斉に襲いかかってきた。正直、とても怖い。こんな経験は初めてだ。だが、私はクラウンの家族と言った。どうしてか一人にしてはいけないと感じた。もしかしたらこれまでの自分の過去と重なる部分があったかもしれない。
なら、あんな寂しい思いはしたくないし、させたくもない。きっと主様だったら「一人でも大丈夫」と言うだろ。でも、その無理は必ず身を亡ぼす。なぜなら知っているから、その無理で身を滅ぼした大切な存在を。だから、戦う。そして、何としてでも役に立つ。
ベルは短剣をまるで戦い慣れているかのように自然と逆手に持ち替えると最初の魔物に切りかかった。
「......お前は俺か?」
黒い背景に白い地面、どこにもありはしないような世界に二人......いや、一人と異形の存在が向かい合っていた。その一人はクラウンこと【海堂 仁】ともう一体は仁の目の前にいる黒い靄に覆われた人型のなにかだ。だが、仁はその存在なにかわかっていた。だからこそ聞いた。するとソレは肯定的な言葉で返した。
『ああ、そうだ。お前は相変わらずのようだがな?』
「......!」
仁は自分の体を見て思わず驚いた。なぜならそれは森で目覚めた時と同じ格好、体躯、力であったからだ。そして、ここでは魔法は使えない。そんな仁を見てソレは嘲笑いながら告げる。
『なにをそんな驚いている?......ああ、てっきり覚醒後の姿だと思ったのか?そんなわけねぇだろバーカ。その姿はオレのものだ。オレだけのものだ。お前がその姿を得るには何もかもが足りない。怒りも憎しみも悪意も殺意も全てが!』
「そんなはずはない!僕はあの時誓ったはずだ!」
『なら、なぜ一人称がそれなんだ?』
「!」
仁は不意に自分の口から出た言葉に驚ろいた。なぜならそれは弱い時の自分と同じ一人称であったからだ。自分の言葉に対して仁は頭を振った。「これは自分ではない」と言い聞かせるように。
そんな仁を見てソレは今度は呆れたため息を吐く。
『お前はオレだ。だからこそわかる。なにをそんなに後ろ髪を引かれているんだ?もしかしてまた仲間が得られると思っているのか?だとしたら大間違いだバカが。お前はあの時のあいつらの顔を忘れたのか?あの人を人とも思わない嘲笑い、地面に這いつくばってでも生きようとしている人間に向ける感情のない目!......あれでどれだけ絶望に突き落とされたのかわからないお前じゃあるまい?」
「......けど、あいつらはもしかしたら――――――」
『あいつら?ああ、意味わかんなく懐いてきた犬っころに魔族と獣人か。それがなんだ?まさか信じられるとでも思ってんのか?勘違いも甚だしいわバカが。あの犬は所詮ただの獣だ。獣はただ生き延びるためになんでも利用するだけだ。まだまともじゃないお前に擦り寄ることでお前を利用しているに過ぎない』
「違う、ロキは大切な相棒だ!」
「はっ、笑わんな。犬ごときに情をかけ過ぎだ」
ソレは仁の言葉を鼻で笑った。そして、言葉を続けていく。
『魔族と獣人は人間だ。それだけで信用に値しない。同じオレだから言う。あいつらは止めておけ、また後悔することになるぞ。あの時、お前が心から信じていた奴に攻撃されたようになぁ』
「そんなことまだわからないじゃないか!リリスは僕の心に寄り添ってきてくれて、ベルは僕の過去に同情してくれている!」
『それはお前を騙すために決まってるじゃねぇか。なぜそれに気づかない?あの魔族はお前を復讐のために、あの獣人は自分の自由のためにお前を利用しようとしているだけだ。だから、オレが逆に利用しようってんだ。そういう訳でお前は今も生きられる。むしろ感謝して欲しいぐらいだがなぁ?」
「この.....!」
仁はソレに対して怒りの表情を浮かべる。あの時のことだってまだ何かの間違いだって信じている。だが、ソレはその全てを否定し、踏み潰していく。
『起こるなって。全てお前のためだぞ?利用されるとわかっていながら、利用されるバカはいない。いるとしたらそいつは生きる価値もない存在だ。オレは神殺しという明確な目的があり、そのために行動している。どうせ利用されるならこっちから利用しようじゃないか、なあ?オレよ?』
「......」
『オレの言葉を信じるつもりがないなら好きにしろ。だが、お前の前からまた大切な存在が消えていくぞ?後悔したくないなら情なんて捨てることだな』
「変な奴が介入し始めた」と言うとソレはゆらゆらと揺れだしてやがてその体を霧散させた。そして、同時に仁の視界も霞んでいった。
「あら、起きたかしら」
「なにしている?」
「あんたが初めて寝ているところを見かけたから近づいていったら、あんたが悪夢でも見ていたのかうなされていたのよ。だから、母さん直伝の膝枕であんたを悪夢から解き放とうとしていたのよ。それで気分は?」
「......悪くない」
「......!」
リリスはクラウンの表情を見て驚いた。今はもう違うがその言葉を言ったときほんの一瞬だけ優しい笑みをしたような気がしたのだ。勘違いと言えばそれで済んでしまうが、あれはクラウンのまだ微かな良心が現れたのではないかと思う。そう思いたいというのもあるのだが。
クラウンは上体を起こすと自分の手の動きを確かめた。短い時間だったが、何か月ぶりに寝たのだろうか。だが、そのせいで変な夢を見た。アレはおそらくあの森のあの洞窟で話しかけてきた俺だ。
俺はオレで、オレが俺で.......だが、オレは俺の体を「オレの姿」と言っていた。なら、俺の体は俺のものではないのか?わからない。だが、どうにも嘘をついているようにも見えないのが癇に障る。
「それにしてもあんたが寝るなんてあるのね。槍の雨でも降るんじゃないかしら」
「正直、俺も驚いている。なぜ寝てしまったのか。だが、もう寝るのはごめんだ」
「悪夢がそんな辛かったの?」
「辛かったわけではないが......とにかく目覚め心地は最悪だ」
クラウンは立ち上がると辺りを探り始めた。そして、ベルを見つけるとそちらに向かう前に......
「リリス、先に言っておく。これから俺がすることには口出しはするな」
「......あんた、また良からぬことを企んでないでしょうね?」
リリスがクラウンにジトっとした目を送るがクラウンはどこ吹く風だ。そして、リリスがため息混じりな声で了承すると改めてベルのもとへ向かった。
「ベル、今からお前を使えるぐらいに強化する。拒否権はない」
「奴隷はもとより主様に仕える存在、主様の命令が絶対です。それに私も主様の役に立ちたいと思っていたですので問題ないです」
「そうか。なら、話が早い」
そう言ってクラウンがベルを連れて行ったのは森の奥深く。そして、ベルに向かい合うように言うとクラウンは告げた。
「ベル、お前は戦えないらしいが魔力はある。なら魔法は使えるだろう?その全ての魔法を俺に教えろ」
「私の魔法は一つしかないです」
「一つか......それはなんだ?」
仁はその言葉に若干の残念さを感じたが、魔力があるなら使いようはあると考え直した。そして、クラウンの問いに対してベルが答えたのは、クラウンを驚かせるものであった。
「私の魔法は先祖返り故の覚醒魔力で【私も知りたい】です。能力としては任意で最大5つまでの魔法をその魔法が何であれ同時使用することができ、魔法のコピーは相手の魔法を視認した時点でコピーすることができるです。また、コピーした魔法は私の任意で保持したり変えたりすることができるです」
「.....なるほど」
クラウンはベルの発言で全てを理解した。端的に言ってしまえばベルの覚醒魔力はクラウンの覚醒魔力の下位互換に当たる。だが、視認しただけでというのは意外と魅力的だ。なぜならたとえ自身が使える魔法がバレたとしても使いどころによれば不意をつけることができるからだ。
加えて、一番魅力的なのは同時使用できるという点にある。基本的にこの世界では一つの魔法を使用した後でないと次の魔法は使えない。あくまでできるのは連続で使っているように見せかけることだけだ。同時使用したいなら魔法を融合させる他ない。だが、そんなことをしなくても別々の魔法が全く同じタイミングで使えることができる。これは相手の防御を切り崩すにはもってこいだ。
クラウンは不気味に笑った。これは使える......だが、そのためにはまずはベルの身体能力を高め、戦闘本能を引き出す必要がある。なら、まずは手始めに......
「ベル、お前にはまずこの森の中で1週間サバイバルをしてもらう。お前を食らいに多くの魔物が襲ってくるだろうが、それら全てを殺して何としてでも生き延びろ。そして、その中で効率的な戦い方を身につけろ」
「わかったです」
ベルはクラウンの言葉に迷いなく返答した。そのベルの意思にクラウンは愉悦のような目をした。そして、ベルに「俺を見ろ」というと腰にある剥ぎ取り用の短剣を引き抜いた。
「お前の魔力は使えるのだな?」
「はい、使えるです」
「なら、俺がお前に二つの能力を教える」
そう言うとクラウンはベルの目の前から消え、背後へと現れた。
「これが<瞬脚>だ。そして、これが――――――」
ベルがクラウンの方を見たのを確認するとクラウンは短剣を自身の左手に切りつけた。そして、その左手をベルに見せつけるように掲げると瞬時に治した。
「<超回復>だ。この二つで生き延びろ」
「わかったです」
「なら、始めよう......精々生き延びてみせろ!」
クラウンが言った瞬間、ベルの目の前から消えた。そして、ベルはイラッとさせられるような感覚に襲われた。するとクラウンはどうやら魔法の一つを使ったらしくベルの魔力が解析すると<挑発>であった。なんとも使えそうもない魔法だ。どうしてこんな魔法を使ったのだろうか。そう思っているとそれを使った理由がすぐに分かった。
「!」
ベルの耳がピコっと動く。自分目掛けて全方向から大勢の足音が聞こえるからだ。そして、微かに臭い始めた獣臭。これは魔物だ。
「「「「「ギャアアア!!!」」」」」
やがて姿は見え魔物達が一斉に襲いかかってきた。正直、とても怖い。こんな経験は初めてだ。だが、私はクラウンの家族と言った。どうしてか一人にしてはいけないと感じた。もしかしたらこれまでの自分の過去と重なる部分があったかもしれない。
なら、あんな寂しい思いはしたくないし、させたくもない。きっと主様だったら「一人でも大丈夫」と言うだろ。でも、その無理は必ず身を亡ぼす。なぜなら知っているから、その無理で身を滅ぼした大切な存在を。だから、戦う。そして、何としてでも役に立つ。
ベルは短剣をまるで戦い慣れているかのように自然と逆手に持ち替えると最初の魔物に切りかかった。
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